有職転生〜異世界行ったら…え?三歳で剣を振るんですか?〜 作:KEN・JACK
「驚いたね…ほぼ断界が完成してるじゃないか」
水神流の奥義を取得する稽古が始まり、レイダから一通りの説明を受けている時の事だ…それ出来ますと言ったのが例の円だったのだ
「ジノ…どこで覚えたんだい?」
「オーベールさんから闘気の配分を教わった時ですかね…水神流の奥義とは思わなかったですけど」
まぁ円を知ってたから出てきた発想だったんだけど…この世界じゃ確かに教わらないでこれに辿り着くのは異常かもしれないな
「北帝かい…ほんとに5つ全て使えるんじゃないかと思っちまうねぇ…」
「流石に訳が分からないな!」
「今更驚きませんけどね…」
段々俺を見る目が怪物でも見るような物へと変化して来た気がする…
剣の聖地でも剣聖達によくこんな感じで見られてたから少し懐かしい感じもするな
「2つ使えるようになれば自動的に水王になるから…こりゃイゾルテとどちらが早いか分からなくなるかもだよ」
イゾルテは剥奪剣を習得しているらしいが、そういえば俺相手に使っている所は見た事が無い…手を抜かれているのか?
「別に手を抜いているわけではありませんよ、水神流同士なら剥奪剣を使う場面が無いだけです」
何の気なしに尋ねてみると、納得の答えが帰ってくる。カウンター主体の水神流同士が手合わせすれば、基本的には流での受け流し合いになってしまうからな
「そうだ、イゾルテは剥奪剣を、ジノは断界を…互いに教え合うと良い。あたしに全て教わるより習得したのが最近の分コツってやつも掴みやすいだろう?」
レイダの一言で、俺とイゾルテは顔を見合わせて頷く。勉強でも授業だけでなく友達どうしで教え合うと効率が良いしな
「それじゃあ…後は2人で頑張りな、タントリス…行くよ」
「はい、お祖母様」
最近、起こった変化がある。それはタントリスの事だ、今までなら基本的には俺とイゾルテと同じように修行のタイムスケジュールを組んでいたのだが…最近はレイダと別行動が多い
とはいえ人様の家の事情にこちらから首を突っ込むのも行儀が悪いので…取り敢えずは気にしていない振りをして修行に励む事にした
「最近…兄上が道場に居ないことが増えていると思いませんか?」
修行にひと段落ついたところで、イゾルテが話しかけてくる。やはり彼女も気になっている…というか知らなかったのか
「そうですね…てっきりイゾルテは事情を知っているものかと思いました」
「いえ、私は何も知らないです。全てを話して欲しいなとどは言いませんが…少し心配ですね」
とはいえレイダが一緒にいるなら危険と言うことも無いだろうし…外野がとやかく言っても解決はしないだろう
「何か考えあっての事でしょう。時が来たら教えて貰えると思いますよ」
イゾルテは俺の言葉に頷けば、2人で奥義の修行に戻った
〜〜〜
休日、俺は手紙を出しに街へと赴いていた。
相変わらず何でもある所だ、聖地へ帰った時が心配になるくらいにはこの国に溢れている物は便利で多様だった…まぁ地球で言うアメリカだしなぁここ
「お願いします」
郵便局…というのか分からないが、取り敢えずは手紙を依頼する事に成功した。受付のお姉さんに聖地宛と言うともしかして幼剣王様ですか?と言われた、広まりすぎやろ
「さて…これからどうしようか」
用事が済んだとは言え、わざわざ中心部まで出てきたのだ…何かしらしとかないと勿体ない気がするというのが人間というものだろう
「そこの剣士様、少しよろしいですか?」
建物を出てすぐ、1人の女の子…ニナとかと同じくらいだろうか。それくらいの歳の子に話しかけられる
黒い髪を後ろで束ねてメイド服を身に纏っている…メイドにしては随分背丈が小さいような気もするが
「何でしょうか?」
そんな従者っぽい格好の女の子が俺になんの用であろうか。確かにおっちゃんから貰った剣を帯剣してはいるが…わざわざ子供の俺何かに剣士様とは違和感が凄い
「行きたい場所がありまして…そこに連れて行って欲しいのです」
口を開けば、道案内の依頼であった…その声は何とも心地よい美声であり、不思議なカリスマを感じさせる物であった
「構いませんが…何故私に?家の人とかは居ないのですか?」
「家の者に言えば反対されるのは目に見えて居ますから、貴方を選んだ理由はなんとなくです。人を見る目には自信がありますので」
いや家の人に言えば反対されるような所に行く時に人様を使うなよ…と思ったが、この子は良いとこのお嬢様なのかもしれない。
そうなれば普通に行ける所も反対されて行けない可能性はある。優雅に微笑むこの気品にも納得だ
「危ない所では無いんですよね?」
「勿論です、人様を危険に晒す真似は致しません。何なら報酬も弾みますよ?」
最低限の確認をしようとそう尋ねれば、当然だと言うように返事が返ってくる。そして言い終わるや否や彼女は俺の手を取り、何が冷たいものを握らせる
「ん?き…金貨…?」
「少ないですか?であればまだありますが…」
まさか俺の月給をいきなり握らされるとは思わず困惑していると、彼女は手に持っていた袋を裏返して大量の金貨を出す
「ちょっ…!ストップストップ!分かりました!連れて行きますからそれしまって!」
まさかとは思ったが…かなりのお嬢様だぞこの人は…このまま放っておけば絶対変な人に捕まって身代金案件だよ。人前でそんな大金出しちゃ行けません!
「それは何よりです。では行きましょうか、場所は口で言いますので案内をお願いします」
最初から全部決めていたかのように事が進む…なんというか彼女からはカリスマを感じるな、貴族には必要な素質なのだろうか
「お名前とかは聞かない方がいい感じですか?」
「名前ですか…ではエリーアとお呼びください」
ではって言ったな…まぁ本名では無いのだろう。俺も余計な事に首を突っ込みたくは無い、深く詮索はしないでおくか
「貴方のお名前は?」
「ジノ・ブリッツです、変な事に使わないでくださいよ」
名前だけで何が出来るか分からないが、ここは地球では無いし…最近は有名になってきた。悪名が轟いては困る
「まぁ…ジノ・ブリッツと言えば最近噂の剣王の名前では無いですか、とんだ有名人に声をかけてしまいましたね」
エリーアは口を両手で抑えていかにも驚いてますよ、というようなリアクションをとる…貴族令嬢にまで知れ渡っているとはな
「…同姓同名かも知れませんよ」
「剣王の名前を騙る愚か者は居ないでしょうね、ましてや幼剣王ともなれば騙ることも難しいでしょうし」
ここまで来れば…最早知ってて声をかけたとすら思えるな、人の善性に付け込むとはけしからん女だ
「というか…ここで合ってるんですか?随分怪しげな所に来ましたけど」
「ええ、もう少しです」
指定された場所に向かっていると、段々と人気の少ない裏路地に向かっていることに気付く。すれ違う人間もこちらを見ては良からぬ事を企んでいるし…大体殺気飛ばしたら逃げてくけど
「ここですかね…?げぇっ!」
指定された場所に到着すると、そこは何かの店であった…何かの店というかナニの店…つまり大人の玩具屋さんである。紫とピンクで彩られた店舗は、どう見ても白昼から入るところでは無い
「あぁ…ここが夢にまで見た実店舗…ジノ、貴方はここで待機を。私が出るまで誰も入れてはいけませんよ」
何かの間違いかと思いエリーアを見ると、恍惚とした表情を浮かべていた。嘘だろ…こんな歳の貴族令嬢が家の者を掻い潜ってこんな店に来たかったのか…?
挙句俺に人払いの指示までして急ぎ足で中に入っていった。最初何かオカマっぽい店主は彼女を見て冷やかしかと思ったようだが、金貨が入った袋を見て目の色を変えていた
「…カルチャー、いやワールドショックか?」
この世界のように娯楽が無ければ年若くして目覚める物なのだろうか、でもニナやイゾルテはそんな事無かった筈だ…つまり貴族が腐っているのだろう…恐ろしい話だ
「おい、さっきのガキはこの中に居るのか?」
あーあ…やっぱり来たよこういうのが。だからあんな大金見せるもんじゃないのよ
絡んできたのはいかにも暴力で物を言わせてますと言った風体の5人組だ、当然武器も持っている。子供くらいなら殺す事を厭わないって感じだ
「さっきのガキとは?」
「とぼけるんじゃねえよ、見たぜ?ちっさいメイド服の女が大量の金貨を持ってるとこをな…怪我したくないだろ?剣士ごっこも良いが命は大事にしないとな」
そう言うとリーダー格のスキンヘッドの男は剣を抜いて切っ先を俺に向ける…悪いが隙だらけだな、5回は死んでる。っていかんいかん、何か中二病みたいになってきた
「確かに居ますが…何をするつもりですか?」
「話が分からんガキだな…んなもん聞かなくても分かるだろうが、俺はあまり気が長くねぇぞ、どきな」
このぶっきらぼうな感じ…ちょっとガルを思い出すな。だがそう呑気な事は言ってられそうにない
「すみませんが今はお嬢様が買い物中なのです、お引取りを」
血管が切れる音が聞こえた
次の瞬間男は剣を振り上げ、剣を手から落としていた。振り上げるより先に俺の光の太刀が腕の腱を切り裂いたのだ
「があぁぁっ!!!な、なんだ!?何をした!!」
スキンヘッドは血が溢れ出る腕を抑えながら吠える。後ろにいた取り巻きも目を白黒させている、今のが見えた奴は居ないみたいだな
「見えてなかったならそのまま帰った方が良いですよ、あまり人は斬りたくないんです」
「くそガキ…やっちまえ!」
俺の忠告も無視して、後ろの4人が一斉に武器を抜き放つ。暴力で生活しているのに、力量が測れないのは致命的だな
「水神流奥義【断界】」
だが男達は俺の円に触れた瞬間、武器を持っている方の手に斬撃を食らって武器を取り落とす…玉響なら手首が落ちてるな、気を付けよう
「こ…こいつまさか…【幼剣王】か!?」
「魔剣持ってねえじゃねえか…!ずらかるぞ!」
おぉ…こんなコテコテのモブ悪台詞を生きてるうちに生で聞くことになろうとはな…と感動していると、店からエリーアが出てくる
「やはり貴方に護衛を任せて正解でしたね、剣王ジノ」
何も持ってないように見えるが、先程金貨を入れていた袋が少し大きくなっている…恐らくあれに何らかの仕掛けがあるのだろう
「…………目当てのものは買えましたか?」
「ふふ、思った通りの引き方ですね。ですがアスラの貴族はこういった趣味の者は多いのですよ?」
別に趣味嗜好は好きにしてくれて構わんけどよ、年齢が問題なんだよ年齢が…めちゃくちゃツヤツヤした顔しやがってこの淫乱お嬢様がよ
「程々にした方が良いですよ…」
「そうですね、肝に銘じておきます」
エリーアは全くそうは思えない、いい笑顔でそう返事をした
〜〜〜
「どこに行かれていたのですか!?」
その後路地裏を出れば、やたら豪勢な馬車から術師と騎士が降りてきて、エリーアに激詰めしていた。とはいえ詰めているのは術師だけで、騎士の方は何をしてたか知っている様子であった
「幼剣王だな?巻き込んで済まなかった。この事は他言無用で頼む」
俺が呆れ顔でその様子を見ていると、歳若い騎士がこちらに話しかけてくる…おぉ、なんと美形な…俺も中々だと思っていたが、こいつは凄いな
「…知ってて声をかけさせたのですか?」
「それが一番安全だと判断した…何分敵も多いお方だ、剣王が近くにいては手出し出来ないだろうしな」
最初から仕組まれていたような気はしたが…まさか従者がグルとは…
「報酬は受けとったな?とはいえ秘密を守らせるには金銭よりもこちらの方が良いだろう」
そう言って騎士から手渡されたのは、金属製の印章であった
「秘密を守っている限り、一度だけノトス家が後ろ盾になろう。もっとも、出来る範囲で、だがな」
ノトスと言えば…アスラの地方四大領主!?いや、それが騎士となっているのだ…つまりエリーアは…
「今日はご苦労さまでした、剣王ジノ…とても楽しかったですよ?またどこかでお会いしましょう」
それだけ言い残すと、彼女は馬車に乗り込んで去っていった。
術師は本当に頭の痛そうな表情をしていたが、最後にはこちらに礼をしてくれていた
全く…とんでもない人と知り合いになってしまったようだ
その日の晩、たまたまジノを目撃していたイゾルテが少し不機嫌だったのは…また別のお話