有職転生〜異世界行ったら…え?三歳で剣を振るんですか?〜 作:KEN・JACK
目が覚めると、青髪の美しい女性がこちらを覗き込んでいた。
おかしいな…あの勢いで突っ込まれて生きていたのか?というかえらい若くて綺麗な女医さんだ。あまり病院に行かないからあれだけど、中々珍しいんじゃなかろうか
次いで視界に入ったのはこれまた厳格そうな印象を抱かせる男だ。年齢は先程の女医…というか看護師さんか?とあまり変わらなさそうだが…
「ーーー・ーー」
そんな考察に脳みそを使っていると、看護師さんが何かを話している。 それは明らかに日本語では無い言語で…英語でも無いな、大学の時齧ったフランス語でも無さそうだ
「ーーーーーー」
次いで厳格な医者も何かを俺に伝えるように似たような言葉を話す。現状を話してくれているのかも知らんが、全くわからん。猫ミームのヤギと猫も多分こんな感じだろう
俺が必死に言葉を拾おうと耳を傾けていると、勢いよく何かが開く音がする。そちらを見れば、凄まじい威圧感を放つ青髪の男が部屋に入ってきていた。
厳格などという言葉では到底収まらない、まるで野獣のような獰猛な笑みを浮かべながら男はこちらに歩み寄る。すると医者が急に恭しく頭を下げる…
この圧に医者が頭を下げているという事実、ここから導き出される結論は…この人は恐らくここの院長だ!
「うあ、あー」
…なんだ今のは、取り敢えず万国共通の英語で挨拶しようとしたはずの俺の声が…呻き声のようなものにしかならない。まさか事故のショックで脳がやられたのか?でも思考は纏まっているのに…
というか身体を起こすことも出来ない。痛みを感じたり感覚が麻痺している時の違和感も無いのにも関わらずだ。
まるで身体が俺の意思に付いてこられないとでも言うのだろうか、僅かに手足を動かすことしか出来ない
更に驚くべき事に、次の瞬間看護師さんが俺の身体を持ち上げた…いやさすがにおかしい。別に太っては無いが一応成人男性だぞ?そう易々と抱っこできる訳がな…え?
そこで俺の思考は完全に停止した、抱き抱えられて院長の全身がきちんと見えるようになった事でその格好のおかしさに気付いたからだ。
無骨な皮のコートを羽織り…腰には大振りの刃が携えられている。そんな馬鹿な、医療従事者どころか死神だよ!命を刈り取る気マンマンじゃん!もしかしてどこかしら切り落とされてるのか!?
全身の血の気が引く感覚というのを初めて味わった俺は、何とかしようともがくが…精々看護師さんを困らせるくらいにしかならない。遂に全てを諦めて大人しくなった俺の頭に、死神の手が重ねられ…
「ーーーー・ーーーーー!」
無遠慮に頭をガシガシと撫でられ、大声で何かを伝えられた。どうやら殺されることは無かったようだが、何を言ってたのか全くわからん…
看護師さんが何やら抗議の声らしき物を上げているがそれを全く意に返さずに、死神は部屋から出て行った。
何か嵐のような人だったな…頭上からもため息が聞こえるし、いつもあんな感じで困っているのかもしれん。
少し気の毒そうな表情を浮かべて見上げてみれば、綺麗な看護師さんと目が合う。そういえばどことなく死神の面影があるなこの人
何て失礼なことを考えていれば、彼女はにこやかにこちらに微笑みかけ…そのまま額に口付けが落とされる。変わった看護だな、患者はまるで我が子のように接しましょうって?
…いや、そろそろ現実を見よう。そんな訳ないと頭の中で否定し続けていたが、流石にここまで来れば信じざるを得ない。
俺はどうやら、死んで転生してしまったらしい
〜〜〜
転生から1ヶ月が経過した。
大人の精神を持ったままに赤子として生きるのはまぁ退屈で…母親とスキンシップを取ったり、帰ってきた父親に語りかけられて丁度いいタイミングで頷いて驚かせてみたりと、必死に暇つぶしを続ける日々だった
大変な事は暇以外にもいくつかある。まず1人では用も足せないという事だ…あまり迷惑をかけたくないから極力泣かないようにしているが、気持ち悪いので出たその時は泣かせて頂いている
後は授乳だ、流石に精神年齢20歳以上の俺が人の妻から母乳を授かる訳には行かん。拒否していればそのうち哺乳瓶的な物になるだろうと抵抗していたのだが…母親があまりにも悲しそうな顔をするので仕方なく飲み始めた。ごめん父親
世界観についてもわかった事がある。まずここは地球では無い、理由としては文明レベルがあまりにも低い事と…何故か剣が大流行している事が分かったからだ。
初日に来ていた死神は勿論、父親や家に来る人達みーんな腰に真剣か木刀携えてるし…なんなら母親も俺の傍で剣の手入れしてる時あるし…なんでだよこえーよ
現代社会、というか地球ならば有り得ない光景だ。何故なら銃という殺しの道具が生まれてから剣何て見世物としてしかほぼ残っていない。
剣道とかなら話は別だけど…それでも普通は戦うのは銃だし
何か世界から隔離された小さな島国の原住民とかかな〜と考えたりもしたけど、それにしては文明的だ。家だって木造だけどちゃんとしてるし、ロウソクやカンテラとかも使ってるし
なんにせよ母親が居ないと移動も出来ない現時点では確実な事は何も分からん事だけが分かっていた
〜〜〜
半年にもなると流石に言葉も把握出来始めた、父親の名前はティモシー、母親はゼタというらしい。そして肝心の俺の名前なのだが
「おはようジノ、本当にあなたは大人しい子ね…誰に似たのかしら」
そう…ジノ・ブリッツというのが新しい俺の名前だった。あの死神はガル・ファリオン…ゼタの兄らしく、俺の伯父にあたる人のようだ…伯父さん怖…前の世界の親戚とか酒飲んでる気のいいおっさんだったのに…
とはいえガルはそんなに家には来ない。よく来るのは父の同僚っぽい人と、ニナという可愛らしい従姉妹くらいのもんだった。向こうからしたら俺が可愛いんだろうけど…
何て前世の親戚関係に思いを馳せていると、横で寝ていたゼタに抱き抱えられる。母親の愛に溢れる抱擁で俺の一日は始まるのだ
最近は良くゼタが俺を散歩に連れて行くので、外の景色を知れるようになった。俺が生まれた所は剣の聖地と呼ばれているらしく、村と呼んでも差し支えない程に小規模なものだった。
気候は年中雪に覆われている極寒で、町人の殆どが剣神流?かなんかの剣士らしかった…自分で言ってて現実の話とは思えなくなってくる
いつも通りもふもふの服に身を包んで外に出れば、向かう先は決まっている…そう、剣神流の道場である
そこでは毎日のように剣の稽古が行われており、年端も行かない少年少女達は勿論、結構いい歳した大人までひたすらに剣を振るっていた…凄いとこに生まれたな…
「あ、見てジノ。ニナよ、まだ4歳なのにずっと年上にも勝っちゃうらしいわよ?流石兄さんの娘ね」
従姉…つまりガルの娘であるニナもこの道場で日中は剣の腕を磨く。
ガルはこの剣の聖地の頂点に君臨する剣神の称号を持つ剣士であり、その娘であるニナにも当然のように重い期待が乗っている事だろう
ニナは5つ以上離れているであろう男に果敢に剣を振るい、見事に1本を勝ち取っていた…剣の世界も才能ありきという事なのだろうか。
前世の俺ならあんな輝きに満ち溢れた才能を目の当たりにすれば不貞腐れていただろう…だが
(大振りに見せ掛けてのフェイント、下段から切り上げて崩した所に本命の一撃…俺なら初手で距離を詰めて崩した後に2本は入れれる…と思う)
毎日のように稽古を見ていると、不思議と剣神流という物が理解出来た。今はまだ無理だとしても、自分が動けるようになればニナ以上に理合を突きつめて動けるという自信があった
ニナの才能も相当だと思うが…この身体の才能はそれ以上かもしれない
「ジノも負けてられないわね、どっちが先に剣聖になるか勝負とかしても面白いかもしれないし」
薄々勘づいてはいたけど…やっぱ俺の進路って剣士固定なんだよな…