有職転生〜異世界行ったら…え?三歳で剣を振るんですか?〜   作:KEN・JACK

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涙と決意

 

夜、ベッドに入った俺は中々眠れないでいた

 

今日ナルコスが言ったこと、間違いなく許されるような事では無い。

 

水神流を繋ぎとめておきたいと縁談を持ち込むだけならまだ分かる…しかし妾などという物は、イゾルテの気持ちなど一切考えていない性欲と自分の都合に塗れたものだ

 

とはいえ俺に出来る事など何も無い…前の世界ではしがない社会人。今の世界では1目置かれてはいるがただ強いだけ。闇雲に斬ってもあの貴族の事だ、縁談の気に入らない水神の凶行だと噂が流れる手配はしているだろう

 

そうなれば結局は水神流としては終わりを迎えてしまうだろう。イゾルテやタントリスは望まない婚姻をしなくて済むが…それもバッドエンドだ

 

ノトスの家に協力を求める事は出来るかもしれないが、幾ら四大領主と言えど突然上級貴族に喧嘩をふっかけてどうこうしてくれるとは思えない

 

「どうにもならないのか…?」

 

前の世界だって、権力に対して腕っ節だなんて通用しなかった…或いは俺がガルくらいの肩書きがあれば何とかなったのかもしれないけど。8歳で七大列強は流石に高望みがすぎる

 

「ジノ…起きていますか?」

 

 

そんな事を延々と考えていると、扉の向こうからか細い声が入ってくる。恐らくイゾルテだろう…1年間住んでいるが、こんな夜遅くに訪ねてきたのは初めてだ

 

「起きてますよ…どうぞ」

 

ベッドに座ってから俺がそう返すと、イゾルテが遠慮がちにゆっくりと扉を開ける。別段露出の多いという訳では無いが、薄暗い部屋での寝巻き姿の美少女だ…少し胸が高鳴る

 

「すみません、夜遅くに。ですが、1人で居ると…不安になってしまうのです」

 

昼間はいつものように振舞っていたが、彼女もまだ12歳なのだ…いきなりあんな性悪貴族の妾になれと言われて平気である筈がない。

 

俺でいいのか、とも思ったが…イゾルテの事だ、レイダやタントリスに弱味を見せるのは良くないと思っての事だろう

 

「…分かりました、では…少し話しましょうか」

 

そう返せば、影がかかった彼女の顔がほんの少しだけ明るくなる。解決にはならないが、気が晴れるならいくらでも付き合おう

 

そのままイゾルテはベッドまで来て俺の横に腰掛ける。ふわりと香る柔らかい女の子の香り…シチュエーション的には美味しいが、そんな気分にはならない

 

「ちょっとだけ、弱音を吐いても構いませんか?」

 

ぽつりとそう零すイゾルテに俺はゆっくりと頷く。今はただ、聞いてあげることが最善だと…そう思ったからだ

 

「…お恥ずかしい話ですが、私は絵本に出てくる王子様のような物に憧れていたんです」

 

年齢的には今も憧れてておかしくないかもしれないが、この世界の成長は早い。なので本当に小さい頃の話なのだろう

 

「勿論貴族の方々が創作に出てくるような人達とは違う事は理解していました。家柄ではなく…かっこよくて、私のピンチに颯爽と現れて助けてくれて…そんな方と恋に落ちて、結ばれれば良いなと…思っていたんです」

 

「本気で思ってた訳ではありませんよ?憧れていただけですから…家のこともありますし、立場もあります。お祖母様や兄上を安心させるためなら、多少無理な結婚をする覚悟だってありました」

 

そんな事は分かっている。覚悟が無いとあの場でナルコスの話を受け入れるなどと言えるはずは無い…けど今の話と今回の話は違う。家や立場の為というのはそうだが、結婚ですら無いのだ

 

「けど…まさかこうなるとは思いませんでした。兄上だってあの私達を…剣士を見下しているような人と結婚するのです、私だけ嫌という訳にも、行かないじゃないですか…でも…」

 

「やっぱり…怖いです…」

 

初めてイゾルテが吐いた弱音、だが泣いているところを見たのは2度目だ。彼女は嗚咽こそ漏らさないが、静かに…されど確かに涙を流していた

 

その時俺は、この子にもうこんな顔をして欲しくないと…心の底からそう思った

 

「大丈夫だよイゾルテ…俺が何とかする」

 

敬語も忘れ、俺は泣いている彼女の手を取る。策がある訳じゃない。本当に出来るかどうかも分からない…けれど

 

本気でやるのだ、ニナを助けようとした時もそうだった。もう助けを求めている大切な人を見放して、自分の限界を決めるなんてことは…絶対にしないと、そう決めたじゃないか

 

「…ありがとうございます、けれど…それはダメです」

 

イゾルテは驚いたような表情を浮かべたが、直ぐに笑みを作ってもう片方の手で涙を拭う。そしてダメだと言った…まるで俺を咎めるかのように

 

「あの貴族を斬っても解決はしません。それはジノだって分かるでしょう?それでもしジノが死んでしまったり、国から追われるような事があれば…私は今より深く落ち込みます、もう立ち直れないかも知れません」

 

こんな状況でも、イゾルテは俺の身を案じてくれるのだ。この優しい子にあんな表情をさせたナルコスに、改めて怒りが沸いてくる

 

「紛らわしい事をしましたね、別に助けて欲しいと言いに来た訳では無いんです…弱音を吐いて楽になりたかっただけで。すみません」

 

「分かってる…でも、これは俺がやりたい事なんだ。大丈夫、剣だけでどうにかするつもりは無いよ」

 

そしてこのままイゾルテをあの貴族に渡す気もない。何とかするのだ、絶対に

 

「珍しいですね、ジノがそこまで頑固なのは」

 

「誰にだって譲れない部分はあるよ…そんなもんでしょ?」

 

困ったような顔をするが、イゾルテはそれ以上追及してくる事は無かった。心のどこかでは助けて欲しい気持ちはあるのだろう

 

「もう少し…こうしていても良いですか?」

 

手を握ったまま俺達は長い間話し続け、気付けば2人して眠っていた

 

…別に変なことしてないけど、レイダとタントリスが早くから出ていってて助かった…

 

〜〜〜

 

「すみません、ここがノトス家で宜しかったでしょうか」

 

翌日、俺は印章を握り締めてあの守護騎士の家に行っていた。身分証の玉響も腰に携えているので、無下にはされないと思いたい…

 

「そうだが…何者だ、名を名乗れ」

 

「剣王ジノ・ブリッツです、こちらにこれをくれた方はいらっしゃいますか?」

 

思った通りというか、ノトス家はクソデカかった…レイダの家が豪華な家だとしたら、ここはまた1つレベルが違う。文字通り豪邸だ

 

「剣王…幼剣王殿か、先程の無礼を詫びよう」

 

衛兵はこちらの玉響を見て納得したように頭を下げる。別に衛兵の仕事してるだけなんだからそこまでしなくても良いんだけどな

 

「そちらは…ルーク様の印章か…御足労頂いて申し訳ないが、ルーク様はこの家には居ない。普段はシルバーパレスにてアリエル第二王女の護衛の任に就かれている」

 

あ…あの淫乱お嬢様王族かよ!淫乱お姫様じゃないか!と叫びそうになったが、そうしてはこの印章も効力を無くすのでグッとこらえる

 

「そうですか…ありがとうございます」

 

そう言ってノトス邸を後にするが…どうしよう、これで王城に入れるんだろうか…まぁダメ元で行ってみるか

 

「止まれ、貴様は何者だ」

 

王城に着くと、またもや兵士に止められる。いやもうさっきやったんだけどな…と思いながら先程の流れをやってみる

 

「剣王…そしてノトス家の印章…なるほど、身分は約束されているようだ。して、今回は何故王城に?」

 

おぉ…玉響とこれがあれば随分話が早いな、だがなんて言おうかな

ルーク様に会いたいって言えば入れてくれるか?いや無理か、外で会えってなるもんな

 

「アリエル第二王女の守護騎士、ルーク・ノトス・グレイラット様よりお呼び立て頂いております」

 

ごめんよルーク、勝手に呼んだことにして…でも手段は選ばない事に決めたんだ

 

「…なるほど、ではしばし待たれよ。部下に確認させる」

 

まぁ流石にすぐは通してくれないか、でも門前払いじゃなくて良かった。ルークも話くらいは聞いてくれるだろう

 

そのまましばらく城門の前で待機していると、若い兵士が戻ってきて先程の門番に耳打ちする

 

「お待たせした、確認が取れたので中に案内しよう」

 

良かった、そんなやつ知らんとか言われたら八方塞がりになる所だったぜ

 

そのまま兵士の案内に従って行くと、1つの部屋に案内される。部屋というか部屋の前だな…そこに立っていたのはルークと、先日の魔術師っぽい人だった

 

「…中々無茶苦茶だなお前は、家の者に伝えておけば後日行ったと言うのに」

 

「すみません…ちょっと急ぎでお力添えして頂きたい事がございまして」

 

ルークは呆れたように言うが…こちらにも事情はあるのだ、時間が経てば取り返しのつかない事になりかねない

 

「もしもの時の為に剣王との縁を繋いでおこうと渡したが…本当に後ろ盾になって欲しい時が来るとはな。剣王の割に面倒な生き方をしている」

 

別に権力争いとかに興味は無いんだけどな…でもあれから1ヶ月くらいしか経ってないし、そう思われても仕方ないことだろう

 

「出来れば他の方の目の届かない所で話したいんですけど」

 

「まぁそうだろうな…すまないデリック、少し外させて…」

 

「ならば私の部屋で話せば良いではありませんか」

 

ルークがデリックという術師に頼もうとした瞬間、部屋の中から声が響く。耳触りの良いこの声には聞き覚えがある…とはいえ、それは伏せなくてはならないが

 

「しかしアリエル様…」

 

「ルーク、どのみち貴方の口から私に報告しなくてはならないのです。なら聞いておいた方が早いと思いますし…私も剣王様には興味があります」

 

ノトス家だけでなく、アリエル個人としてもこの話に噛んでおきたいって事か?王族が武力を欲してるとは思えないが、色々あるのかもしれない

 

「…ジノ、そういう事だ。不本意かも知れんが確かに俺にはアリエル様に報告する義務がある故隠し事は出来ん。だが安心しろ、アリエル様もお前には一目置いている…力を貸してくれるやもしれんし、都合の悪い事は忘れてくださるだろう」

 

アリエルがナルコスと懇意である可能性は怖いが…其れを言うならノトスとてそうだ、結束が強ければ俺など弾かれる…なら同じか

 

「分かりました」

 

「デリック、少し任せる」

 

俺が承諾すれば、ルークが再度デリックに頼み…俺は中へと入る。

 

中は見たことのない程に贅を尽くした逸品で揃えられた豪華絢爛な部屋だった…一つ一つの家具や小物で俺の何年分の給金が飛ぶか分からない

 

その中央、ソファに腰掛ける美しい金髪の女性が見える…前に会った時とは姿が違う。それどころか後ろで控えるメイドに見覚えがある。そういう魔導具なのだろう

 

「お初にお目にかかります、アリエル王女殿下」

 

「初めまして、私はアスラ王国第二王女…アリエル・アネモイ・アスラ。お話は聞いていますよ、剣王ジノ・ブリッツ」

 

剣神流の礼をしながら頭を下げれば、アリエルはにこやかに微笑んでそう述べる…前に会った時とカリスマ性が違う…これがフルの王女か

 

「それで…貴方はノトスの家に何を望むのですか?心配はいりません、彼女達はこの世で最も私を裏切る可能性が低い者なので」

 

侍女、というやつだろう。アリエルがそう言うと後ろのメイド達が綺麗な礼をする…世界観が違いすぎて付いて行けん

 

「実は…」

 

そして俺は事の顛末を話した。レッドイーグルの事、水神流の事、イゾルテの事…かつてのプレゼンを思い出したが、まぁその経験も生きて結構上手く説明出来た気がする

 

「…なるほど、レッドイーグルか…」

 

説明が終わると、ルークは険しい顔をしていた。やはり貴族間の繋がりとかがあるんだろうか…?

 

「結論から言うと、力になるのは難しいだろう」

 

「ノトス家はレッドイーグル家と懇意なのですか?」

 

理由としてはそれが一番と思い聞いてみたのだが、ルークは首を横に振る

 

「逆だ、ノトスとレッドイーグルは対立関係にある」

 

取り敢えず第1の関門は突破だろう。だがそうなると力になれない理由を聞き出さなくてはならない

 

「では…力関係の問題ですか?」

 

「半分はそうだ、格式で言えばノトスが上なのは間違いない…しかし好きにどうこう出来るほどの差は無い。故に対立している」

 

レッドイーグルが下…これも良いニュースだ。とはいえ無条件で止めさせるのは無理という事か

 

「もう半分は?」

 

「派閥の問題だ、我々ノトスは第二王女派…当たり前だがアリエル様を筆頭としている。対するレッドイーグルは第二王子派…つまり、今ここでノトスが水神流に援助を出せば…第二王子派から水神流との縁を奪ったと捉えかねられない」

 

「付け加えると、私の派閥は現在最も弱いです。生まれが遅くコネクションも薄いので当然なのですが…その状態でレッドイーグルに攻撃の口実を与えることは出来ません」

 

貴族間の闘争は罪の擦り付け合い、貶め合いが常套手段…故に火種を起こした側が不利になると言うことらしい。そう聞くと確かにここで水神流に手を差し伸べるというのは得策ではないか…

 

「とはいえ、お前の持ってきた話はこちらに利がない訳では無い。水神流との縁は間違いなく力になるし…仮にレッドイーグルを失墜させることが出来れば第二王子派も動きにくくなるはずだ」

 

それがあってもなお動けないのは…やはり動き出しが先になってしまうからか…何か剣神流と水神流みたいだな

 

「簡潔に話しましょう、剣王ジノ…要するに貴方の大事な人を助けるためには、ノトスがレッドイーグルに攻撃する口実を用意すれば良いのです」

 

簡単に言うなこの王女様は…そんな事出来たら俺だってそうしてるって…まぁアリエル的にもレッドイーグルに安全圏から攻撃出来れば都合が良いんだろうけどさ

 

「口実とは言いましても…どうすれば?」

 

「…ナルコスは蒐集家として有名な貴族なのですが、数年前にとある事件に関わった事がありましてね」

 

アリエルが言うには、ミリスとの友好の証として貸与していた国宝である絵画をアスラに運搬している時に起こった事件らしい

 

賊に狙われて中の絵画が盗まれたと聞いたナルコスは我先にと討伐隊を結成し、ものの数日でその盗賊団を壊滅させてこう報告した

 

「価値の分からぬ賊めによって、絵画は既に崖に捨てられていたと…確かにその使節団にはミリスからの返礼の品として金品も含まれていたそうですが…だからと言って捨てるとは到底思えません。しかも対応も限りなく迅速…ナルコスは国宝を隠し持っています」

 

「でも…それが事実なら家を調査したら出てくるのでは?」

 

そこまで疑う余地があるならば王族の権利でも何でも使って家宅捜査すれば直ぐに出そうなものだけど…何故まだ見つからないんだ?

 

「調査は勿論行われましたが、絵画は発見出来なかったのです。ほとぼりが冷めるまでどこかに隠しておくつもりだったのでしょうが…レッドイーグルは上級貴族、そう何度も大掛かりに調査を行うことは出来ません」

 

更にナルコスが盗賊団の頭の首を持ってきていた事や、使節団の生き残りから襲撃が実際に盗賊団の犯行であったことの裏も取れた為…その件はそれで終了したらしい

 

「つまり…その絵画を見つけ出す事が出来れば、ノトスが力を貸してくれるということですか?」

 

「…そこまでの確実な証拠があれば可能だ、レッドイーグルを失墜させ、水神流への援助を約束できる…が」

 

材料は揃ったのに、ルークはどこか浮かない顔をしている。何か引っ掛かりがあるのだろうか

 

「オススメは出来ない。現在レッドイーグルの家を守っているのは北王だ…幾らお前でも準備万端で待ち構えている北王を掻い潜って盗み出すことは不可能だろう」

 

「まるであるのは確実って言ってるみたいですね」

 

ルークは無いかもしれないとは口にしなかった…つまりあるという確信がノトスにはあるのだ。

 

「…ナルコスの家には決して客人を入れないコレクションルームがある。我々としてはそこにあるという確信があるが…やめておけ、その女が殺される訳でも無いのだろう?命を賭す価値があるとは思えない」

 

確かにルークからすればこの世界にはありがちな事に命を賭けて首を突っ込む程では無いと言う風に映るだろう…だがその程度で納得してなるものか、ナルコスが紛うことなき悪人だというのなら…止まる理由は無い

 

「命は賭けても、捨てる気はありませんから…ルークさんは準備をしておいて下さい」

 

「俺が証拠を取って来ます」

 

やる事は、決まった

 

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