有職転生〜異世界行ったら…え?三歳で剣を振るんですか?〜 作:KEN・JACK
ルークと話し合った日の夜…俺はこっそりと準備をしていた
夜分に出ると皆に心配をかけるので何も言わない。仮に出ていくのがバレたとしてもナルコスの館に忍び込む何て言うつもりは無いけどね
早すぎるかもと思ったが、俺が城に行ってルークと話したという情報はどこからか漏れるはずだ…それにナルコスが感付けば何かしら対策を打つ可能性もある
持ち物は最小限だ、玉響に…万一の為の治癒魔術スクロール。そしてオーベール直伝の忍者セットだ。貰ったのは良いけどこんなの使わんだろ…とか思っていたが、人生何があるか分からんもんだ
「行ってきます」
小声でそう言って扉を開ける。今日は確実に北王と戦闘になる…あの時のオーベールとは違って、本気でこちらを殺しに来る王級との戦いだ。命を落とす可能性は高い
けど死ぬ訳には行かない。イゾルテは俺が死んだら立ち直れないかもと言っていた…そんなことは無いだろうけど、もう泣いて欲しくないからね
「今日は死ぬにはいい日だ」
昼間の喧騒が嘘のように静まった商店街を歩く。月が綺麗で…今から命の奪い合いをするというのに不思議と気持ちが落ち着いている
ゲ○ルの言葉を借りて、現実離れした気持ちに折り合いを付ける。死ぬにはいい日など死ぬまでないのだ…それは今日じゃない
いつだって今日を生きるしかないというこの言葉は…昔はただかっこいいと思うだけだった。けどこの世界に来てわかった…これを言った米兵達がどんな気持ちで戦場に向かったのか
「ここか…」
そしてナルコスの館に到着する。夜分だからか門番は居ないようだが…それは逆に北王への信頼を意味しているのだ
北帝七つ道具の黒いローブを頭まで被り、闇夜に紛れて門を乗り越える
ここまでは簡単だが、ここからはそうは行かない…まずはどう館に侵入するかだ
ふと2階を見ると、一つだけ開いている窓があった…丁度七つ道具のロープの鉤爪を引っ掛けやすそうな窓だが、そのサイズはめちゃくちゃ小さい。子供じゃないと入れそうにないな…
「俺子供じゃん…」
忘れていたが今の俺は8歳だったのだ、早く成人サイズになりたいと思っていたが…デメリットばかりでは無い
「それっ」
回転させて勢いの付けたロープを投げ、窓へと鉤爪を引っ掛ける…そのまま足に闘気を纏わせれば跳躍と共にロープを引く。多分忍者という存在はこの世界には無いだろうが…流行らせてみるのも悪くない
そんな事を考えながら、2階への侵入が成功する。館は静まり返っており見回りをしているような様子は無い…確かルークの話ではコレクションルームは地下にある筈だ
階段を探して下に降りれば、玄関の正面に一際豪勢な扉を見つける。扉の左右にも階段があり…登れば踊り場のような場所があるが、そこにはシルバーパレスを描いた絵がデカデカと飾られていた。
それにしてもあの扉…あんなもんここに大事なもんがありますって言ってるようなもんだが…蒐集家としては譲れないポイントなんだろうか
そんな事より…やはり居たな、北王ナックルガード…よく目立つ耳をピコピコ動かしながら1人は仁王立ちで、もう1人は横で座ったまま仮眠している
向こうからは死角になっているが…今なら奇襲すれば各個撃破出来るのでは…?そうなればかなり戦況は楽になるはずだ
即断即決が剣神流のモットー…意を決して1歩踏み出した瞬間。仮眠していたもう1人の目が開かれる
「来たよナクル兄ちゃん…久しぶりの侵入者だよ」
「そうだなガド…出てこい侵入者め!そこに居るのは分かってるぞ!」
何て耳の良さだ…今のは足音何て鳴らして無かったはずだ、最近癖になってんだ…って感じだったのに…!
何て悪態を付きながら階段の影から出る。確か彼らはミルテッド族…兎獣人の双子、【双剣】のナックルガードだ…ナクルとガドって…そう呼ばれるために生まれてきたみたいな名前だな
「名を名乗れ侵入者!」
目の前まで行くと、多分兄貴の方がこちらに名乗りを要求してくる…なんだコイツ…侵入者が名前を言うわけないだろ、今日は言うつもりだけどさ
「ナクル兄ちゃん…多分侵入者は名前を名乗らないと思うよ」
「あ、そうか…俺たちいつも侵入者が誰か知らないもんな」
こんなのが北王で並んで3剣士と呼ばれているオーベールが不憫でならない。もしかしたら北王を騙る双子なんじゃないのか?しかし弟の方が頭脳派と見た
「それで確か…この先に国宝があるっていうのもこういう時言っちゃダメなんだよね」
「言ったら目的の物があるって分かっちゃうもんな…流石ガドは賢いな」
「へへ…今日は20分も勉強したからね」
前言撤回、こいつらは2人とも馬鹿である…もっとも今回に限ってはそんな事聞かなくても分かる訳だが
「名乗らないならこちらから名乗らせてもらおう!」
「北神三剣士が1人!北王【双剣】のナックルガード」
2人同時に1人と名乗ることに違和感を覚えないのか…と思ったが先程の会話を見る限り違和感を覚える事なんて無さそうだ…生きるのちょっと楽しそう
「剣王ジノ・ブリッツです、戦う前にお話させて貰えませんか?この指輪が何か分かるでしょう?」
左手を差し出しながらそう言うと、双子はじっと俺の指輪を注視する…そんなもん知らんと言われたらそれまでだ、斬るしかあるまい
「うーん…どっかで見たことあるな、ガド…あれなんだっけ?」
「えーっと…確かオーベールの弟子の証じゃないかな?孔雀の付いてるし」
「そうそうそれだ!でも…それがどうした?」
だから止めようとはならんか…仕事だしな、この世界に知り合いの知り合いだからは無い。分かっていた事だが少し残念だ
「貴方達も聞いていたでしょう?この館の貴族は間違ってます…それは正すべきなんです。後…同門の人と戦いたくはありません」
「そんな事言われてもな…ここで引いたらお金貰えないし…昨日の話は何言ってるか全然分からなかったんだよな、ガドは分かったか?」
「勿論だよ兄ちゃん、こいつはナルコス様とあの女の子の結婚を邪魔する嫌な奴って事さ」
「あぁ!そうだったのか!ガドは賢いな…じゃあきちんとやっつけなくちゃな!」
ダメだ…頭痛くなってきた、大袈裟にリアクションとる兄も胸張って自慢げに言う弟にも腹立つし…仕方ない、オーベールには悪いけどやるしかないか
「すみません、俺が馬鹿でした…理解出来ないなら仕方ありませんね、押し通ります」
そう言って居合の構えを取れば、双子も同時に左右対称の構えを取る…不思議なもんであんなアホだったのに、構えを取れば圧を感じる。
こいつらは王級なのだ
「うわさに聞く『幼剣王』!」
「剣の腕前は無類の天才!その在り方は高潔と聞く!」
「我らか弱きミルデッドの身なれど!」
「相手にとって不足は無し!」
口上は何か頭良さげだな…まぁいいか
「我ら一人は半人前」
「二人で一人の一人前」
「二対一とて」
「卑怯とは言うまい」
「いやそれはひきょー」
俺がツッコミを終える前に、2人が左右から全く同時にこちらに向かってくる。双子ゆえのコンビネーションというやつだろうか
だが向かってくるなら好都合だ、向こうは恐らく剣神流を警戒している。だから突っ込んでくるのだ、光の太刀を打たせないように
「断界」
俺は闘気で真円を作り出して、剣の柄を握る。その構えに2人は驚いたように目を丸くしたが…遅い、この円に入った者を反射で斬る技を避ける術は無い
「うわっ!」
「ぐっ!」
同時に光の太刀…とまでは言わずとも無音の太刀程度なら放てるようにしているのだが、流石は北王。すんでの所で防がれる
しかし別々の方向に弾かれた、体躯に恵まれないミルテッド族。子供とはいえ膂力は剣王の俺の方が上だ…今なら光の太刀で1人落とせる
そう判断して玉響に闘気を込めた時…何か違和感を覚える。俺とて北聖…北神流の考えそうな事は分かるのだ
「罠を仕掛けてるんですね」
「えっ!?何で分かったんだ!?」
「きっとオーベールの弟子だからだよ、手の内はバレバレと思った方が良いよナクル兄ちゃん」
…やっぱりか、ブラフのつもりだったがこんなに引っかかってくれるとは思わなかった。
不思議そうに話す2人に少し安堵しながら闘気を目に集中させると…壁と壁を繋ぐ透明なワイヤーのようなものが見える
恐らく剣に仕掛けがあって弾き飛ばされながら俺との間にワイヤーを引いたのだろう…分断に成功したと判断した俺が光の太刀を放ったらワイヤーで切れるし、光の太刀を止めれるしで一石二鳥って寸法か
「ってことは天井に仕掛けた毒矢も見抜かれてるのかな?」
「きっと見抜かれてるよ、だって北聖だしね」
それは見抜いてなかったけどね、ありがとう教えてくれて
「じゃあ仕方ないか…行くよガド」
「おっけーナクル兄ちゃん」
先程は1本しか抜いて無かった剣を今度は2本抜刀している…2人とも二刀流だったのか。つまりここからは小細工無しの剣技勝負ってわけだ
と思ったが、2人が駆け出す寸前に兄が煙幕弾を地面に叩き付ける…ホント北神流だなこいつら
とはいえ元から断界がある俺は視界を頼りにはしていない…どっから来ようとも必ずこいつらより早く剣を…
「っ!!」
と思ったが、俺の剣が真上に弾いたのは投げられた2本の剣…煙幕は視界を奪うのではなくこれを悟られないようにするためか!
時間差なく2人が同時に円に入り込む…この状況からじゃ片方は防ぐのが手一杯…そうなればこちらが後手に回る事になる。ならこうしよう
「「なぁっ!?」」
俺は玉響を地面に刺して、それを支えに跳躍する。双子の剣は空を斬り、剣を掴んだまま勢いで兄の方を蹴り飛ばす
しかし流石は北王、弟の方は即座に剣を翻して空中の俺を狙う。剣を手放して回避したが…肩口に浅い傷を負う…痛い
「もらった!」
剣を手放した俺は弟には格好の獲物に見えただろう…だが俺は最初の剣を上へと飛ばしておいたのだ
「光の太刀」
「しまっ…!」
落ちてきた剣を掴み、そこに全闘気を込める…こいつら一人一人は北聖クラス。正面から俺の光の太刀を受けることは出来ずに弟は吹き飛ばされて意識を失う
「ガド!!」
兄が俺の背後から剣を振るうが、もう遅い。焦りなどの感情が乗った剣は水神流の大好物だ
「流」
兄の剣は即座に意味の無い動きへと変わり、前のめりに体勢を崩す…そしていつかレイダにやられたように、剣の柄で兄の首筋を思い切りぶちのめした
〜〜〜
「何事だナックルガード!な…き、貴様!何をしている!」
流石に騒ぎを聞きつけたのかナルコスが2階から下りてくる。寝間着まで豪勢なやつだ…こらちと倒れ伏す双子を見て顔を青くするが、俺が誰だか気付くと即座に喚き始める
「昨日の剣王か…!レイダに雇われでもしたか!?馬鹿め!ここまですればどうとでもなるぞ!俺を殺しても水神流はもう終わりだ!俺が死ねば水神流の凶行だと触れ回るように配下の貴族共には命じてあるからな!」
良く喋るヤツだな、しかもこの期に及んで俺が暗殺しに来たとでも思っているらしい…国宝に関しても次の所有者に直ぐに回るように執事辺りにでも命じているのだろう
「お前のせいで水神流はアスラでの立場を無くすんだ!剣を振るしか能の無い愚図が!イゾルテだったか!?あの女も終わりだ、俺が死んで水神流が終われば奴隷にするように言ってあるからな!」
自分の脳の血管が切れる音を初めて聞いた気がする…思えば前の人生でここまで怒った事なんて無かったかもしれない。水聖であるイゾルテをどうこう出来るとは思えないが…まぁ言いたいだけだろう
「殺しはしない、ただ国宝は貰っていく…お前は終わりだ、残りの人生はそうやって踏み潰してきた人達に謝罪して生きろ」
「…お前、どこでその話を聞いた?何故最近アスラに来た剣王風情がそれを言うんだ…?中級どもにはその話が出来る奴など居ない筈だぞ!」
国宝の話をした瞬間、ナルコスの顔色が変わる。死ぬのと貴族として終わるの…どうやらこいつは後者の方が嫌らしい。くだらない見栄とプライドに縛られた結果だな
「まさか…上級か…?ノトスか!ボレアスか!まさかダリウス…?答えろ小僧!」
いい加減こいつの声を聞くのも嫌になってきた、終わりにしよう
「何とか言ったらどうなんだこのかどっ!!!」
言い終わる前に玉響の腹で思い切りナルコスの頭をぶっ叩く。鼻血を吹き出しながら何とも面白い顔で気絶する姿は…とても上級貴族には見えない
「さて…さっさと貰って帰ろう」
双子の兄の懐を漁って扉を開いて階段を下れば、そこには大量の美術品が並べてあった。いくつか持って帰って売ろうかと一瞬悪魔の考えが過ったが何とか振り払い最奥に行く
「これは…凄いな」
絵画がいくつかあれば分からないかもと危惧していたが、ナルコスが派手に飾っていた分直ぐに分かった…いや多分そうでなくても分かった筈だ…オーラが違う
「何か…アリエルに似てるな」
描かれていたのは金髪の美しい女性だった…アスラの国宝と言うくらいだから偉大な女王とか王妃なのだろう。まぁそれは良い
任務完了だ、とりあえずは家に戻るとしよう