有職転生〜異世界行ったら…え?三歳で剣を振るんですか?〜   作:KEN・JACK

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その剣は誰が為に

 

その後の展開は非常にスムーズであった

 

すぐさま国宝をルークの元へ持っていった事も功を奏し、翌朝にはすぐにナルコスが王城に招集された

 

剣王がどうとか水神流がどうとか喚いていたらしいが、捨てられていたと言っていた絵が家から出てきたのだ…言い逃れはできない

 

ルークには変装くらいしていけと言われたが、どうせ玉響は持って行かなくてはならなかったのだ…姿を変えた所でナルコスやナックルガードは分かるだろう

 

「でも…何でそれが分かったのか、とか聞かれなかったんですか?」

 

「足の引っ張り合いはアスラ貴族の十八番だ、確固たる証拠さえあればそこに至るまでの過程などいくらでも作れる」

 

後日聞いたところ得意気にそう言っていた。恐ろしいねぇ…日本の社会もこんな風に競争させたら良い感じに纏まったのではなかろうか。まぁ俺にはもう関係ないけど

 

ナルコスは今回の処罰として処刑されるかという所まで来たらしいが、上級貴族としての貢献を加味して地方の下級貴族へと落とされる程度で済んだ。

 

若干納得いかないが、ルークから言わせてみればこの処罰は実質貴族としての全てを失ったに等しいらしい

 

水神流とノトス家の関係構築も滞りなく進んだ。レッドイーグルが失墜して大騒ぎしていた水神流だったが、俺がルークと共に来て話を付けたら何やら納得したような顔をしていた

 

「ルークさん、色々とお世話になりました…これはお返ししないとですね」

 

援助の話が纏まり、ルークが馬車に乗り込む直前。俺はノトスの印章を差し出す…一度だけ後ろ盾になるという約束だ、これは返さなくてはならない

 

「いや、それは渡しておく。今回の件は水神流の縁に第二王子派の弱体とこちらにメリットも多かった…それにお前との繋がりも無くすには惜しい」

 

第二王子派は最大勢力である第一王子派に集中する為にアリエルを潰して取り込もうと色々と攻撃してきていたらしいが、それもナルコスの失墜とアリエル陣営の強化でかなりマシになる見込みだそうだ。

 

にしても貴族の縁か…貰える物は貰っときたいが、重すぎる荷物も考えものだ。まぁ上手く使っていくとしよう

 

「分かりました…ではまた使わせてもらいますね」

 

「それはこちらのセリフだ…ではな、暫くは大人しくしておくんだぞ」

 

そう言ってルークは少し笑って馬車へと乗り込み、王城へと戻って行く。俺は深々と頭を下げてそれを見送った

 

「助けられちまったねぇ、修行だけじゃなくてノトスとの繋がりまで手に入れてたなんて…ジノ、国家転覆でもするつもりかい?」

 

家に戻るとレイダ、タントリス、イゾルテが3人して待ち構えており…いつかの顔合わせよろしくリビングで事の顛末を全て話させられた。違うのは横にイゾルテが座ってる事かな

 

「私はともかく何としてもイゾルテだけは…と思ってたが、まさか二人共に助けられるとは…何とお礼を言えば良いのか分かりませんね」

 

「気にしないでください、僕がやりたくてやった事ですから…タントリスさんもあの令嬢相手じゃ幸せになれなかったでしょうし」

 

当然タントリスの縁談も無かった事になった。ノトスは別に婚姻までは結ぶつもりは無いと言っていたし…自由恋愛とまでは行かなくとも、互いに尊敬しあえる相手を見つけて欲しい

 

「何にせよ、肩の荷が降りた気分さね…今日は外食にしようか、好きなだけ食べていいよ」

 

ひと仕事終えたあとのすっきりとした気分のまま外食か…良いね、また米を食べさせてもらうとしよう。ナックルガードとオーベールには申し訳ないが…まぁ今度謝ろう

 

「ジノ」

 

各々準備で解散の流れになり、イゾルテと二人リビングへと残った時…急に声をかけられる

 

「どうしました?」

 

「…敬語に戻してしまうんですね、敬語じゃない方が良いです」

 

イゾルテが不満げにそう言うので、記憶を思い返してみれば…そういえばあの日の夜は敬語を止めたんだったな。何かデジャヴだなこれ、ニナの時も敬語嫌って言われたし

 

「いやでもイゾルテも敬語じゃ…」

 

「私はこれが素だから良いんです。ジノは敬語が素では無いのでしょう?なら止めてください、信頼されてないみたいで寂しいです」

 

本当に寂しそうに目を伏せるイゾルテに少し心が痛む。そういうもんか…だが嫌だと言うなら止めよう。俺は可愛い子に意地悪したくなるようなガキでは無いからな

 

「分かったよ。それでどうしたの?敬語の話がしたかった訳じゃないでしょ?」

 

「改めてお礼を言わせてください。助けて欲しかった訳じゃないと…あの時言いましたが、ホントはジノなら何とかしてくれるんじゃないかって…そう思っていました」

 

信頼してくれるのはありがたいが、今回は本当に運が良かっただけだ。

アリエルの護衛をしてノトスと縁が出来なければ…どうすることも出来なかっただろう

 

「本当に何とかしてくれるとは思いませんでしたけど…ジノには敵いませんね。きっと水神流もすぐに抜かされてしまうんでしょう」

 

「あんな顔されちゃったら、男としてはやるしかないよ」

 

「バカにしないで下さいよ…怖かったんですからね」

 

俺がからかうように言うと、イゾルテは頬を染める。怒られるかと思ったが、今日は優しいようだ

 

「ごめんごめん。でもイゾルテが助かったと思ってくれるなら、俺も嬉しいよ」

 

「……感謝してもしきれませんね。本当にありがとうございました」

 

彼女はそう言うと深々と頭を下げた。ノトスが健在なうちは、もうイゾルテがあんな事で涙を流す様なことは無いはずだ

 

「そんな事より今日は楽しまないと!祝勝会なんだから!」

 

「そうですね、今日くらいは手放しで楽しみましょうか」

 

俺が明るくそう言うと、イゾルテは微笑んだ

 

その日の食事は、俺がアスラに来てから最も楽しく、美味しい物になった

 

〜〜〜

 

「ジノ、居ますか?」

 

貴族の騒動が収まって数週間後の休日。出かける準備をしていると、いつものようにイゾルテから声がかかる…買い出しかな?

 

「買い出し?ちょうど出かけようとしてた所だから付き合うよ」

 

扉を開けてそう言うと、いつも通り可愛らしい格好をしたイゾルテと目が合う。だがいつもとは違って、何やら緊張しているようだった

 

「いえ…その、今日は買い出しと言う訳では無いんです。予定があるなら良いんですけど…良かったら遊びに行きませんか?」

 

創作のように鈍感ぶるつもりは無い…正直ここまで分かり安ければ誰だって気付く。多分男として意識されている

 

ニナの時は流石にまだ軽い好きだったかもしれないが、この世界でイゾルテくらいの年になると割と本気にされていてもおかしくは無い。勿論嫌な訳ないけどね

 

「大した事ない用事だから良いよ、どこに遊びに行く?」

 

そう返事すると、イゾルテの顔が明るくなる。最初の方はポーカーフェイスと言った感じだったのに、最近は俺に色々な表情を見せてくれるようになった

 

「行きたい所があるんです…良いですか?」

 

「分かった、じゃあ準備してくる」

 

こうして、イゾルテとのデートが始まった

 

「おぉ…これは凄い」

 

「アスラで最も景色が綺麗だと言う料理店です。ジノが好きなお米のメニューもあるんですよ」

 

まず最初に連れられたのはシルバーパレスと城下町が一望できるレストランだった。テラス席から見える景色は文字通り圧巻で、俺の好きな物が出ることもリサーチ済みらしい

 

「じゃあそれにしようかな、折角調べてくれたみたいだし」

 

「ではそれを2つ頼みましょうか」

 

運ばれてきたのはオムライスのような料理だった、やはり米の問題だろうか…前世で絶賛していたオムライスには叶わないが、十分美味しい。値段の問題もあるんだろう

 

「ちょっとトイレ」

 

そのまま談笑しながらご飯を楽しみ、食後のお茶を飲んでいる時に席を外す。イゾルテは特に怪しんでないな、よしよし

 

「すいません、先にお会計出来ますか?」

 

「出来ることは出来ますが…お金はお持ちですか?」

 

そそくさと女の店員さんの所に伝票を持っていけば、心配そうに聞かれる

イゾルテと一緒に入った時はそんな事言われんかったんだけどな…もうすぐ9歳になるのに…いやまだ9歳なのか

 

「足りますか?」

 

そう言って財布から金貨を差し出すと、店員さんの表情が驚きに変わる

 

「金貨…もしかして幼剣王様ですか?噂に違わず紳士なんですね」

 

お姉さんはそう言ってくすりと笑えば、お釣りを用意してくれた…紳士ってどんな噂が流れてるんだ?もしかしてイゾルテを庇った時の事が広まってるんだろうか

 

「お待たせ、そろそろ行こうか」

 

「はい…ジノ、お会計がまだですよ?」

 

席に戻ってイゾルテと共に店を後にしようとした時、イゾルテが慌てて俺を引き止めに来る。ふふん、社会人を舐めては行けない…デートのマナーくらい心得てるさ

 

「もう払ってるよ」

 

「払って…え?まさかトイレは嘘…?」

 

イゾルテが驚いたように店員さんを見れば、先程のお姉さんはにこやかな笑顔でありがとうございましたと礼をする

 

「…今日はジノにお礼をしようと思っていたんですよ?なのに奢られてしまっては意味無いじゃないですか」

 

店を出た後、イゾルテはそう言って少しご立腹のようだった。とはいえ12歳の女の子に奢ってもらうのは男としてのプライドが許さない…まぁ、イゾルテもそれなりに稼いではいるんだろうけど

 

 

次に来たのはアクセサリーショップだった。ここからは別に予定があった訳では無いけど、イゾルテが寄りたがった為だ

 

「どちらが良いと思いますか?」

 

こちらもまた前世を思い出すなぁ、女の子と遊びに行ったらよくこんな感じのことを聞かれたもんだ

 

比べているのは2つの耳飾り、どちらも青を基調とした色合いでよくイゾルテに似合っている。デザインはアスラでも有名なブランドのマークを模している

 

「こっちの方が良いかな、イゾルテのイメージによく合ってると思う」

 

「私もそう思っていました。客観的に見てもそうなら間違いなさそうですね」

 

ホントにどっちでも似合いそうだったのでイゾルテの好きそうな方を選んだが…正解だったようだ。だが彼女は値段を見て少し固まる…思ったよりお高い感じたったんだろう

 

「すみません、これください」

 

「ジノ!?急にどうしたんですか?そんな気軽に買えるような値段じゃないですよ!」

 

俺が店主に声をかければ、イゾルテは慌てて耳打ちしてくる。俺の好みを聞いて買いたかったが予算オーバーだったで終わるのは可哀想だしね

 

「大丈夫だよ、俺が欲しかっただけ」

 

「欲しかったって…これ女性用ですよ?」

 

「うん、イゾルテが着けてる所を見たいからね。きっと可愛いと思ったんだ」

 

こんなキザなセリフは流石に言ったことないが、この世界は割とこういうのがウケるのだ…その証拠にイゾルテの顔がみるみる赤くなっていく

 

「………ほんと、なんでそんな…ずるいです…」

 

このレベルの美人が俺の一言で一喜一憂するとは前世では考えられないな。ジノ・ブリッツ万歳である

 

「…坊や、あんまりいたいけな少女の恋愛観を壊すもんじゃないよ」

 

貴婦人と言った感じの店主にそんな事を言われたが、俺も嬉しくてイゾルテも嬉しいならハッピーだろう…責任とるのかって?イゾルテが望むならとるつもりだ

 

「…どうですか?」

 

「うん、凄く似合ってる。綺麗だよ」

 

早速イゾルテに付けて貰ったが、俺の見立てに狂いは無かった。目を引くが主張し過ぎず、イゾルテの可憐さを引き立てている…これなら大人になっても問題なく付けれるだろう

 

「…ありがとうございます。でも貰ってばかりも気が引けます…私からも何かジノに贈らせてください」

 

というイゾルテの一言で、次にやってきたのは武器屋だった。欲しい物と言われて咄嗟に思い付かなかったのだ…本はしょっちゅう買うし、他の物に困ってはいない

 

「ここは騎士の方も良く利用するので良い物があるとは思いますが…本当にいいんですか?武器で。剣神様から貰った魔剣もあるでしょう?」

 

「剣神流だけじゃないからね、もう一個くらい何か持ってても良いかなと思ってたんだ」

 

北神流は言わずもがな選択肢が多いし、水神流の受け技は武器さえあれば効果を発揮する…今回のナックルガード戦のように玉響を手放す戦略を取る機会があるかもしれない

 

「なるほど…では短剣はどうですか?邪魔にならないし、応用は効きやすいと思いますよ」

 

短剣か…確かにレイダが持ってるのも短剣だしな、まぁあれは魔剣の類だからまた違うかもだけど

 

「良いね、じゃあ短剣を貰おうかな」

 

そうと決まればと短剣を2人でいくつか探してみたのだが、中々しっくり来るものは無い。普段玉響何ていい武器を使ってるから腕が肥えたのだろうか

 

「そういえば、ジノの誕生日ってもうすぐでしたよね?」

 

「うん、来月で9歳になる」

 

イゾルテが思い出したかのように尋ねてくる。誕生日プレゼントも兼ねてめちゃくちゃ良い奴をくれるとかなんだろうか

 

「では…それまでに私が特注しておきます。お祖母様に言えば腕の良い鍛冶屋の方も紹介してもらえるでしょうし、ジノが使いやすい物にする自信があります」

 

特注の短剣か…正直それはかなり嬉しいな。剣士としては肌身離さず持っておく物だし、イゾルテがどんな風にオーダーしてくれるのか興味もある

 

「じゃあそれでお願いします」

 

自信ありげに言ってくれたイゾルテに対してそう返す。敬語になってしまったが、お願いする時くらいは良いだろう

 

「もうこんな時間か」

 

武器屋を出ると、太陽が沈み始めていた。楽しい時間は過ぎるのが早いとよく言うが…年々それが増している気がする

 

「…帰る前に、一つだけ寄らせて貰って良いですか?楽しい所では無いんですけど」

 

少し含みのある言い方が気になったが、別に断る理由もないので頷く。

楽しい所では無い…道場かなんかだろうか

 

〜〜〜

 

イゾルテに付いてやって来たのは、お墓だった。

 

墓石にはクルーエルの文字が彫られていたので…恐らくタントリスとイゾルテの両親の物なのだろう。

 

作法があっているかどうか分からないが、手を合わせて目を瞑る。

こうしていると前世の両親の顔が目に浮かぶ…親より先に死ぬ不孝を、怒っているだろうか、泣いているだろうか

 

「…思い返せば、ジノが来るまでは頑張る理由を外にしか作れていなかったのかもしれません」

 

目を開け、イゾルテが話し始める。レイダが言っていた天狗になっているという部分と繋がるのだろうか

 

「両親が他界し、お祖母様の所で暮らし、兄上に世話をしてもらって…立派になって安心させたいとか、恩を返さないと行けないとか…そんな風にしか考えずに剣を振っていたんです」

 

「立派な事じゃないの?きっとご両親も今のイゾルテを見たら喜ぶよ」

 

「だと良いんですけど、ジノを見てたら…そう手放しでは喜べませんね。それ自体は悪い事では無いと思いますけど、結局それは何かあった時に理由を作れてしまうじゃないですか」

 

普通の12歳はそんな事考えないけどね…とは思ったが、家柄の事もあるし、境遇の問題もある…イゾルテなりに色々考えがあるのだろう

 

「でもジノ…貴方が来てから、それじゃダメだって思えたんです。いくら才能があると言われても、結局は上がいる事を知りました。どうしようも無いと思える事だって、何とか出来てしまうんだって…教えてもらいました」

 

それはナルコスの件だろうか。俺がした事は北王をぶっ飛ばしただけだが…イゾルテからすれば魔法でも使ったように見えているのかもしれない

 

「それに…私自身、もっと立派にならないと行けないと思う事が出来ました。夢…みたいな物が持てたんだと思います」

 

「へぇ…それは良いね。どんな夢?」

 

恩返しとか、使命感とか…誰かのために成長しようとしていたイゾルテが、自分の為に立派にならないと行けないと思えた。それは素晴らしい事だと思う

 

「そうですね…今はまだジノには教えてあげません。正解したら教えてあげます」

 

そう言ってイゾルテは悪戯っぽく笑う。いつも凛として大人びている彼女の顔が、今だけは年相応に見えた

 

「気になるけど、教えて貰えるまで待つよ。言いたくなった時に聞く方が良い気がするしね」

 

答えを急ぐ事では無い。いつかイゾルテの夢が叶った時に祝ってあげれば良いのだ…きっとこれからも仲良くやって行くだろう

 

「…です」

 

「え?」

 

「なんでもありませんよ。帰りましょうか、今日はありがとうございました。本当に楽しかったです」

 

彼女が最後俺に向かって言った言葉は聞き取れなかったが、その疑問はすぐに霧散した

 

夕日に照らされる彼女の笑顔が、惚れ惚れする程に美しかったからだ。

 

今はあの貴族から彼女の事を守ることが出来た…それだけで十分だ

 

どちらからと言う訳でもなく…あの日の夜のように、手を繋いで帰路に就いた

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