有職転生〜異世界行ったら…え?三歳で剣を振るんですか?〜   作:KEN・JACK

24 / 47
剣皇

 

アスラにある水神流宗家の道場。その中央にて2人の男女が向かい合っていた

 

周りには一目で手練と分かる剣士達が座してそれを見守る。

アスラでは畏敬の念を集める水王と水帝だ

 

「どちらか、何て言うつもりは無いよ。持てる全てを出し切りな…勝とうが負けようが、相応しいなら水王の称号を授けるさね」

 

この空間で最も強い老婆の声が響く。当代最強の水神流剣士…レイダ・リィアの言葉だ、向かい合う者達が若輩であろうとも、異を唱える物などいるはずもない

 

「…思った通り、並ばれてしまいましたね。ですが、感謝しています。きっとジノが居なければこんなに早く機会は来なかったでしょうから」

 

イゾルテは剣を構えてそんな事を口にする。今から剣を交えるとは思えない感謝の言葉だ…だが不思議と違和感は無い。俺も同じ気持ちだ、彼女がいなければここまで来るのにもっとかかったはずだ

 

「並んでるとは思ってないよ…でも折角の舞台だし。今日は勝たせてもらう」

 

俺は言いながら同じように剣を構える。最近のイゾルテとの勝敗は五分…若干負け越しているというくらいだろうか。とはいえ最初期からのを通算すれば余裕で負けているだろう

 

「はじめ」

 

レイダの厳格な声で試合が始まる。俺とイゾルテは既に断界と剥奪剣を使うことが出来るが…あまりにも若いので試合を重鎮達に見てもらおうと言う事になったのだ

 

いつも通り水神流の試合は静かに始まる。互いに受けとカウンターを狙い、動いた方が不利になるのが目に見えているからだ

 

だがそんな在り来りな試合を見せても仕方がない。俺は断界を展開し…そのまま闘気の円を広げながらゆっくりと近づいて行く

 

「動きながら断界を使えるとは…」

 

水王の一人がそう呟く。それほどまでに高度な技術なのだ、実際今動きながら断界を使えるのは水帝以上の者達だけらしいし

 

イゾルテは一切動じず、剣を中段に構えてそれを迎え撃たんとする。

あらゆるモノから勢い、威力を奪う剥奪剣の構えだ

 

そして俺の円がイゾルテに触れた瞬間、俺の剣が走る。光の太刀とは行かないが、円に入った者を自動で迎撃する断界の応用を使った脊髄反射による高速の連撃である

 

だが相手は実力で言えば水王級…その悉くはイゾルテの剥奪剣により無効化されていく。

 

おおよそ水神流の立ち会いとは思えない程の高速の剣戟の中、僅かな隙を縫ってイゾルテの必殺のカウンターが放たれる…それによって俺の断界は解除されるが、それを更に流で受け流す

 

攻守の交代は行われない。俺が攻撃に全てを振っているとみたイゾルテの渾身のカウンターは意味をなくし、彼女の剣が手から離れる

 

「それまで」

 

北神流ならばまだやりようはあるが、水神流は剣なくして成り立たない。レイダの一声で決着が知らされた

 

「やられましたね…あの状態から打たれるのを待っていたとは思いませんでした」

 

「賭けだったけどね、あのままイゾルテが剥奪剣で俺じゃなくて剣を狙ってたら勝敗は別だったよ」

 

水神流は色々な要素を積み重ねて相手より先に打たせる。北神流の誘剣と合わせればわざと隙を見せる事も可能だ

 

「さて、今のが2人の実力だけど…2人を水王とすることに反対する者は居るかい?」

 

イゾルテと健闘を讃えあっていると、レイダが周りに問い掛けるようにそう言い放つ。重鎮達を見渡すが、反対意見を口にしようとする者はいなかった

 

「決まりだね…イゾルテ・クルーエル、並びにジノ・ブリッツ!両名に水王の称号を与える!」

 

俺はその日、9歳になると同時に水王の称号を得たのだった

 

〜〜〜

 

「2人ともおめでとう。私が言うのも何ですが、君達を誇りに思います」

 

タントリスはまるで自分の事のように喜んでくれた。結局上級以上にはなれなかったが、彼には商売の才能があった。婚姻が無くなったので道場の運営を任されたタントリスは、ノトス家の人間が驚く程に財政の見直しで成果を出した

 

タントリスはこれでお祖母様が少しでも楽になればいいと嬉しそうに話していた。人間には適材適所がある…それを良く思い知らされた出来事だった

 

「ジノ、客人だ」

 

道場で皆からお祝いの言葉を頂いていると、普段稽古を付けてくれている水帝が道場の外から声をかけてくる。そちらを見れば、何やら懐かしい派手な色をした服装とパラボラアンテナが見えた

 

「オーベールさん!」

 

「2年ぶりであるか?また一段と強くなったと見える…北王を倒す程にな」

 

弟子との久しぶりの再会に文句を言いに来たんだろうかこの人は…と思ったが、ナックルガードを叩きのめしたのは事実。一応謝っておこう

 

「すみません、どうしても倒さなきゃならなかったんです」

 

「同門とはいえ道が違えば剣を交えるのが剣士というもの。過度な気遣いは身を滅ぼす…覚えておくと良い」

 

気にするなというのはありがたいが、裏を返せば仕事であれば俺はオーベールとも剣を交える可能性があるという事。今なら良い勝負になると思うが、出来るなら戦いたくないな

 

「その件じゃないのなら、今日は何をしに来たんですか?」

 

「なに、風の噂で水王の称号も得ると聞いたのでな…急ぎお前を北王にしに来た」

 

北王にしに来たって…また鍛えに来たのか?正直北神流は技とかが無いからあんまり覚えることが無いって言ってたけど…新技とか開発したんだろうか

 

「急ぎって…そんな直ぐになれるものなんですか?」

 

「北神流の剣は生き方そのもの。後は実力と基礎さえ伴っていれば称号など飾りに過ぎぬ…ナクルとガドを倒したお前ならば十分に名乗る資格はあるであろう」

 

なるほど…そう言われれば納得出来なくもない。実際侵入の際にはオーベールの小道具が役に立ったし、やろうと思えば搦手も使える…後は闘気の配分とか実際の剣の腕の話だが、王級を倒したならば文句なしって所か

 

「ありがたいですけど、それとオーベールさんが急いでる事に関係あるんですか?」

 

「北神流だけ聖級というのも何か軽んじられているようであるからな、それにお前を北王にして北神四剣士と名乗らせれば門下生が増えるやもれぬ」

 

相変わらず金儲けとか名声とかに拘る人だなぁ…でも強さにはそんな貪欲さが必要だとガルは言っていた。実際オーベールは強いし、間違いでは無いのだろう

 

「何やら派手なのが居ると思ったら、何の用だいオーベール…ウチの弟子にちょっかいでも出しにきたのかえ?」

 

「ご無沙汰しております水神様、お元気そうでなにより。本日は我が弟子ジノに北王の認可を言い渡しに足を運んだまでです」

 

どうやらレイダとオーベールは顔見知りらしい。といってもあんまり仲は良くなさそうである…レイダの方は歓迎ムードと言った表情では無い

 

てか何かお互い弟子弟子言って取り合いみたいでヤダな…私の為に争わないで!って言ってみようか…止めよう、2人の矛先が向きそうだ

 

「北王…それを与える事がどういう意味か分かって言ってんのかい?三大流派を全て王級…ジノを【剣皇】にするってことだよ」

 

「無論理解しております。理解した上で伝えに来たのです…ジノであればその称号を背負うに相応しいと某は考えます…貴女は違うのですか?水神様」

 

何じゃそりゃ、初めて聞いた話だけど…良くよく考えれば確かにこれで三大流派は全て王級だ。特別な称号を与えられてもおかしくは無いのかもしれない

 

「剣皇って何か凄い使命とか与えられたりするんですか?」

 

だとしたらそれはごめんだ、俺は別に世界を救う英雄になりたい訳じゃない。生まれた土地が剣の聖地だから、親孝行とかその繋がりで本気出してるだけだしな

 

「そういう訳じゃない…けど存在し得ないと言われて久しい称号さね。剣神や水神のように一人しかいない分、腕試しや名声欲しさに挑んでくる輩は後が絶たないってことだよ」

 

なるほど…それは困るな、一々決闘していたら身が持たない。強くなりたいとは思うが、戦闘狂じゃないんだし…そんなに血は滾ってない

 

「こやつは間違いなく見た事の無い程の剣士となりましょう。剣皇の称号すらも通過点に過ぎませぬ…某はそう信じております」

 

「あたしとてそこに異論は無いよ、気に食わないのはあんたの態度さね…北神流の名前の為にジノを利用してるだけじゃないか」

 

見た事の無い剣士になる事に異論は無いのか…褒めすぎではなかろうか。とはいえレイダの声音も表情も本気だ、オーベールもレイダも…意図は違えど俺を認めてはくれているようだ…よせやい恥ずかしい

 

「否定はしません…しかしそれこそが北神流の真髄であるゆえ。使えるものは使う、最終的な勝利に繋がれば良いのです」

 

否定せんのかいと思ったが、まぁこの人は前々からそういう人だからな。今更幻滅したりはしない

 

「…だからあんたら奇抜派は嫌いなんだよ。用が済んだら出ていきな、香水の匂いが道場に移るとかなわん」

 

レイダは呆れたようにそういえば、踵を返して奥へと戻って行った。

オーベールは特段気にしていないように頭を下げれば

 

「という訳だ、これからは北神四剣士と喧伝させてもらう。色々と面倒だと思うがこれも修行のうちである」

 

「良いように言いましたね…試験として勝負とかしないで良いんですか?」

 

「某とて剣士のはしくれ、万一にも弟子に負けたという悪名は付けたくないのでな」

 

という事は今の俺はオーベール相手でも勝敗が分からないくらいには成長出来たという事なのだろう。まぁどうせいつか北王も頂こうと思っていたし、早めに対策しておくか

 

「ではな、あまり長居すると水神様に斬られかねぬ…これからも研鑽を続けるのだぞ」

 

「いつか北帝の称号を貰いに行きますね」

 

そう言うとオーベールは目を丸くしたが、薄く笑うと

 

「その時は、真っ向勝負にて」

 

キメ顔をして去っていった。よく言っているんだろうか

 

〜〜〜

 

俺が剣皇と呼ばれるようになって数日後

 

「我が名は北聖セグバ・レイシス!剣皇ジノ・ブリッツ殿はおられるか!」

 

早速厄介なお客さんがいらっしゃった。初級の子達に剣を教えている最中だというのに…まぁ丁度いいや、技を見せることが出来る

 

「入ってください。見物人が居るけど構いませんか?」

 

「望むところ!このセグバが剣皇を打ち負かす証人にしてみせよう!」

 

中々自信満々だな…もしかしてめちゃくちゃ強いけど隠して北聖を名乗っているのだろうか…

 

「じゃあ今教えた事を実践するので見ていてください」

 

数分後、剣を全て流されて道場に倒れ伏す北聖と、質問攻めする初級達というシュールな光景が出来上がったのだった

 

「ジノ、ちょっといいかい?」

 

その日の稽古が終わり道場の片付けをしていると、仕事を終えたのかいつの間にかレイダが帰ってきていた

 

「どうかしましたか?」

 

「少し頼みたいことがあるんだ。既に頼まれて居てもらってる中重ねてお願いするのは不躾だと分かってはいるんだけどね」

 

レイダからのお願いは何度か聞いたことがあるが、そこまで手間がかかることは無かったし、こんなに下手に出てくるのは珍しい…けどレイダには世話になっている。断る理由は無い

 

「やめてください…俺は弟子で、貴女は師匠です。遠慮はいりませんよ」

 

どうだこの社会人生活で培った後輩力!と思って見ると、レイダは孫にプレゼントを貰ったおばあちゃんの顔になっていた。決まったな

 

「ミルボッツ領のある村にあたしの古い友人が居てね…その村の近くで最近異常な量の魔物が発生してるって手紙が来たんだ。騎士団を派遣するように領主には言ってるみたいなんだが…どうも上手くいかず、助けを求められてる。頼まれてくれるかい?」

 

なるほど…その村を助けて欲しいという話だろう。人助けであれば尚更断る理由は無いし、少し遠いが馬を飛ばせばそこまで苦ではない

 

「分かりました、その村に行って魔物退治してくればいいんですね」

 

「悪いね…本来はあたしが行くべきなんだろうけど、どうも外せない式典があってねぇ。金は弾むよ」

 

二つ返事で了承し、ボーナスも確約された…実に素晴らしい。

 

この時の俺は…この一件で人生を大きく変える事件に巻き込まれることになるなどとは1ミリも思っていなかった

 

空には、赤い球体が浮かんでいる

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。