有職転生〜異世界行ったら…え?三歳で剣を振るんですか?〜   作:KEN・JACK

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三章が始まる前のお通しです


『間話』恋する水王、焦がれる剣聖

 

〜イゾルテ視点〜

 

自分には才能があると思っていた。

 

水神である祖母には、順当に行けば自分が次代の水神候補筆頭だと言われ、親代わりの兄には幾度となく褒められてきたし

 

同年代には自分と肩を並べる剣士は居なかった。水王や水帝を見ても…実力こそあるがその年でまだそこなのか。と失礼な事を思うくらいには増長していたと思う

 

彼が来るまでは

 

『あ、これはどうもご丁寧に…剣王ジノ・ブリッツです』

 

顔は悪くないが、剣神流の剣士特有の血に飢えたような荒々しさがない子だなと言うのが初対面の印象だった。それどころか聖級の自分にへりくだる始末

 

正直、大した事ないな…と思った。祖母はとんでもない子が来たと言っていたが…これが剣王ならば水神流の方が格上だと確信し、勝負を挑んだ

 

結果は言わずもがな惨敗。私は彼がいつ剣を振ったのかすら見えず、首元に木剣を突き付けられた…剣王を打ち負かす所を見せようと集めた観衆の前でだ

 

年下に完全な敗北を喫する…当時は涙が出るほど悔しかったが、今思えばあの一件で自分の中にあった驕りが消えた気がする

 

彼はすぐにみんなと打ち解けた、祖母も兄も…道場で剣を教える水王や水帝も、彼の誰にでも同じように接する態度と剣の才能に惹かれたのだと思う

 

勿論自分もその1人で、剣神流だけでなく…水神流は勿論。北神流すらも容易く扱う彼に、悔しさから子供じみたように冷たくあしらう自分にも普通に接してくれる大人びた彼に…皆とは違う意味で惹かれていった

 

意識し始めたのは買い出しを手伝ってもらった時だ。暴走する馬から子供を庇おうと帯剣せずに飛び出した私を守ってくれた時だ

 

白馬という訳では無かったが、馬に乗ってこちらの心配をしてくれる姿はほぼほぼ私が理想とする王子様の姿そのもので…胸が高なったのを覚えている

 

極めつけは貴族とのいざこざだ。権力を駆使して外堀を埋めてきた貴族に対して、何故か貴族とのコネクションを作り…北王を倒して解決してしまった

 

家のため水神流の為と強がったものの、恐怖に勝てない私が弱音を吐いた時も…その優しさと力強い手で包み込んでくれた

 

その後もデートでスマートに支払いを済ませたり、何も言ってないのにプレゼントをしたりと…そんな事をされたら好きになるに決まっている

 

剣が私より強く。顔も良く、性格にも問題は無い…そう、顔が良いのだ。まさに王子様で…思い返せばあの時の暴れ馬も白馬だったように思える

 

「はぁ…」

 

最近の私の脳内は剣と彼が半分ずつを占めている。二週間程前に祖母の依頼で旅立ったが…既にかなり寂しい。溜息の回数も増えた気がする

 

家にいて毎日顔を合わせられたり、修行をしたり出来るのがどれだけ幸せだったのか思い知らされている毎日だ

 

「水王様元気ない?大丈夫?」

 

「え?あぁ、すみません…少し考え事をしていました」

 

水王になり、初級の子達に教えている最中でさえこれだ…しっかりしなくては示しがつかない。やれますね?イゾルテ…貴女は強いですから

 

「水王様、やっぱり剣皇様が居なくて寂しいの?」

 

「えっ!?ど、どうしてそう思うのですか??」

 

別の子にそう尋ねられ、慌ててそう聞き返してしまう。その時点でそうだと言っているようなものだと気付いたのは、口にしてからだった

 

「だって水王様、剣皇様と話す時凄く楽しそうだもん!」

 

と、無邪気に言う女の子や

 

「笑顔がかわいいよな、俺らに向ける笑顔とはなんか違う」

 

「そうそう、剣を握ってる時は凛としててかっこいいのに、剣皇様と話す時は女の子っていうか」

 

男の子達は口を揃えてそんな事を言う。さ、最近の若い子はそんな所まで見ているんですか…?恐ろしいですね…

 

「む、無駄話はここまでにします!さぁ修行を続けますよ!」

 

赤くなる顔を誤魔化すようにそう言えば、初級の子たちは慌てたように整列した…素直で良い子達ですけど。下手な事は出来ませんね…

 

〜〜〜

 

その日の夜、私は自室で横になっていた

 

お祖母様が言うには後二週間もすれば帰ってくるとは言っていたが…それが遥か先の事のように感じられる

 

窓から空を見上げれば、美しい星空が広がっている…ジノもこの星をミルボッツ領から見ているのでしょうか

 

『イゾルテ、見て…星が綺麗だよ』

 

そんな事を考えていると、脳内で何故かジノと共に星を見ている情景が再生される。

 

『そうですね…ジノと見る景色は何でも綺麗に写ります』

 

我ながら良くこんな浮ついたセリフが出てくるものだと思う。しかし嘘偽りの無い言葉だ、彼が来てから…私の世界の色彩はその数を増した

 

『でも不思議だね、こんなに綺麗なのに…君しか見えないよ』

 

流石にこんな事は…いや彼なら言いかねない。でもこんなに真面目な顔はしてないだろう、きっと私の反応を楽しむかのように意地悪な笑顔をしている筈だ

 

『もう…そんな事言っても何も出ませんよ?』

 

実際の私はこんな事を言う余裕は無いと思う。顔を真っ赤にして俯く事しか出来ないだろうな…と冷静な自分もいるが、妄想は止まらない

 

『充分だよ、君がいればそれで』

 

そう言ってジノはゆっくりと顔をこちらに近付けて…

 

「…行けませんジノ、まだ早いですよ…え?少しだけ?仕方ないですね…」

 

いつの間にか妄想が口から漏れている事にも気付かずに、掛け布団を抱き締めてベッドの上をゴロゴロと転がる…誰かに見られたら切腹物の醜態だが、彼が居ない寂しさを埋めるにはこれしかない

 

「はぁ…」

 

一通り都合の良い妄想を終えれば、本日何度目かの溜め息が漏れる。

結局の所その場しのぎでしかないコレは…終わった後の虚しさもひとしおだ

 

「ジノ…」

 

ベッドの傍に置いてある耳飾りを見つめ、彼の名前を呼ぶ。こちらがどれだけ彼を想おうとも、返ってこなければ意味は無い

 

早く顔を見たい、名前を呼んで欲しい、遊びに行きたい…また手を握って欲しい。欲望はとめどなく溢れるけれど、後二週間は決して満たされない欲望だ

 

ならばどうするか、この気持ちを全て修行に向ける…生半可な称号では彼に釣り合っていると言われないのは明白

 

今でさえ剣皇と呼ばれているのだから…そのうち全ての流派を神級にしてもおかしくは無い

 

そんな偉人の隣に立てる女になるには、水神の称号位は持ってなくてはならないはずだ

 

ジノが帰ってくるまでに水帝になる、それくらいの心持ちで修行に励むことを決めた後、そのまま眠りについた

 

その日は、とても幸せな夢が見れた

 

〜ニナ視点〜

 

剣を振る。

 

剣の聖地では皆が当たり前のようにやっている事だ。町娘も、子供も、縁側でお茶を飲んでいるような老人も…それが生活に必要な動作だとでも言うように

 

けれど、その大半は自分が今居る剣聖という場所にすら行き着く事は無い。

 

そしてその大半は剣聖がどれほどの高みかを理解し、行けずとも仕方ないと…いつしか上を見ることを止めるが、自分はそれでは行けない

 

剣を振る。

 

1度振る度に、彼にほんの少し近付ける気がするから。

 

剣を振る。

 

1度振る度に、彼がどれほどの高みかを理解し…自分の現状がいかに彼から遠いか確認出来るから

 

ジノが旅立って2年になる。風の噂では水王と北王の称号も得て…剣皇と言うほぼ伝説でしか無かった剣士になったらしい

 

父は【ババアに捕まったか、余計なことせずに鍛え続けてたら今頃剣神だったかもしれねぇのに】と少し不満そうだった

 

その場にいた直弟子の剣帝2人と私は同じことを思ったが、口には出さなかった

 

あぁ…水神にジノを取られた気がして嫌なんだな…と

 

「ニナ…まだ修行してるの?たまには皆で遊びに行こうよ」

 

道場の外で無心で素振りをしていると、同世代の子達が話しかけにくる。昔はジノが居ない時につるんでいたが…二年前からはてんで疎遠になっている

 

それでもたまにはこうして誘ってくれるのは嬉しく思う…けれど、そんな余裕は無いのだ

 

「ごめん、時間の限りは修行したいの…私の事は気にしないで良いから。誘ってくれてありがとう」

 

今の私にはジノの背中を守れるくらいに強くなるのと、ジノが帰ってきた時に可愛いと言ってもらう為の自分磨きしか見えていない

 

「そっか…ジノ君の為だもんね。頑張って」

 

彼女達も勿論ジノの事は知っていた。というか剣の聖地で知らない人は居ないと思う。けれど本気でジノに追い付こうなどと考えているのは私だけだ

 

彼女達だって、応援するとはいいつつも、そんな事は不可能だと内心では思っている筈…そんな事はどうでも良いけれど

 

私は二年間、ガル・ファリオンの提唱する合理的な訓練を続けている。

 

合理的な訓練、合理的な食事、それによる合理的な毎日を送るというものだ。たまに男という非合理的な要素が頭を占めて怒られる時もあるが…そこは置いておこう

 

「でも…それだけじゃダメよね」

 

疲れてきたので、木刀を置いて座って考える…ジノも似たような修行はしていたのだと思うけど、それにしたって強すぎだ

 

父がよく言う龍神オルステッドのように、彼もまた合理の外にいる存在なのだろう

 

自分がやってなくて彼がやっていたこと…北帝との訓練だろうか?それは無理だ。出来ないことをやろうとしてもしょうがない

 

なら他の要素だ、そう言えばジノは米が好きだった。お米が剣を冴えさせるのかもしれない…いやでも父は別にお米好きじゃないし、そんな効果があるならもっと聖地で流行ってるはずだ

 

それに勉強熱心だった。よく本を読んでいたし、何の役に立つのか聞いたら凄く詳しく話してくれた

 

見習って人間語は読めるようになったが、それで強くなった気はしなかったのでそれも違うだろう

 

後は…凄くかっこよかった。いつでも私を守ってくれたし、レディーファスト?とかよく分からない理由で優しくしてくれてたし。本を読んでる時の真剣な顔とか見てたらもうきゅんきゅんしちゃってどうにかなっちゃいそうで

 

「…1人で何ニヤニヤしてんだ?」

 

「はっ!師匠!?これは違うんです!ジノの行動から強さの秘訣を考えてただけなんです!」

 

「まだ何も言ってねぇよ」

 

気付けば呆れ顔で立っていた父を見て慌てて片膝を付く。父親に想い人のことを考えて破顔している所を見られた…まぁ今更隠したって仕方ないのだけれど

 

「あいつにヒントなんて求めても無駄だぜ?ジノを人間って考えることが間違いなくらいなんだからな…龍族かなんかだと思え」

 

剣神にそこまで言わせるとは末恐ろしいが、それを大袈裟とも言えないのもまた事実…私はそんな人の背中を守ろうとしているのだ

 

「けどまぁ、焦りを感じてるのも分かる。あいつは剣皇になったのに…まだ剣王にすらなれてねぇんだからな」

 

父に言われて、拳に力が入る。そうだ、自分はまだ剣王にすらなれていない。ジノが7歳の時に通った道を、13にもなって通れていないのだ

 

「…申し訳ありません」

 

「そこに関して謝ることはねぇ。何度も言うがおかしいのはあいつだ…ニナ、その歳で剣聖のおめぇも十分怪物だぜ」

 

父の言葉が贔屓でない事は分かるが、まだまだなのもまた事実…私の焦りが消えることは無い

 

「ですが…ジノに到底追い付けては居ません」

 

「そう言うだろうと思ってな。ゼタからこいつを貰ってきた」

 

父はそう言うと私に一振の木刀を差し出す。使い込まれているが良く手入れが行き届いている…ゼタさんが使っていた木刀だろうか?

 

「これは…?」

 

「ジノが使ってた木刀だ。気休めかもしれねぇが、あいつを追っかけてるお前には丁度良いだろ」

 

ジ…ジノが使っていた木刀…私は思わず生唾を飲み飲んだ。別に変な事を考えた訳では無い…ちょっとだけ変な事も考えたけど…

 

「よ、よろしいのですか?」

 

「眠らせとくのもあれだからってゼタは快く出してくれたぜ」

 

父は強くなるのに欲望も必要だと言っていた…ならば私は全てを利用して強くなる。そして一刻も早く彼を追いかけるのだ

 

「有難く頂戴します」

 

私はその木刀を受け取れば、強く握る。私の使っている物と差は無い筈なのだが、不思議と力強さと安心感を得る事が出来た

 

これがあれば、ジノが居ない寂しさも少しはマシになるはずだ。そして何より、2人で強くなろうとしていたあの時の気持ちが蘇ってくる

 

「ま、死なない程度に気張れ。あいつもまだ暫くは帰って来ないだろうからな」

 

それだけ言うと、父は私の元から去っていった。

 

私は父が見えなくなった後、ジノの木刀で素振りを再開した

 

数日後、飛躍的に強くなったと剣帝達から褒められたが…理由は伏せておいた。

 

ティモシーさんの手前、あなたの息子さんの木刀を使っているからです!とは…死んでも言えない

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