有職転生〜異世界行ったら…え?三歳で剣を振るんですか?〜   作:KEN・JACK

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第三章です


【第三章】魔大陸編
不死魔王


 

ヒトガミ…?

 

彼はそう名乗った。覚えがある…龍神オルステッドと会った時、彼はその名を知っているかと尋ねたはずだ。その時は知らなかったが、まさか知る事になるとは

 

「そうそう、聞いたことあるでしょ?君はわるーい龍神にボクの仲間だって疑われてたみたいだしね」

 

悪い龍神か…確かにエリナリーゼや商隊の人間の怯え方は異常だった。そう考えたら悪いやつなのかもしれないが、俺は不思議と彼を悪い神だとは思えない

 

「ええ?見るからに悪そうじゃない?人相悪いでしょ」

 

人相悪い人より人相無い人の方が怪しくないですか?

 

「おっと、こりゃ一本取られたね…でも説明も何も無かったんじゃないの?聞きたいことだけ聞いてはいサヨナラじゃなかった?」

 

話し辛さは確かに感じたが…それは悪い奴の判断基準では無い。口下手な人は居るものだ。目の前のヒトガミは怪しい臭いがするし、話を聞いたり周りの反応を見る限りでは龍神はかなり危険なやつっぽいし

 

正直五分五分と言った所ですけどね、2人を比べるなら

 

「手厳しいなぁ…まぁ今はそれでいいよ。これから僕が懇切丁寧に色々教えてあげよう」

 

自分は龍神とは違うってアピールでもしてるんだろうか…何でそこまで龍神に張り合うのか分かんないけど…

 

「それはね、龍神が世界を滅ぼそうとしてるからさ」

 

確かにめちゃくちゃ強そうでしたけど、そんな事出来るんですか?というかそれをして何の利益が?

 

「まぁ世界を滅ぼすってのは結果だね、龍神が狙うのは僕の命。そして僕はこの世界の言わば核みたいなもんだから…結果的に世界は終わる」

 

…世界が終われば龍神も死ぬんじゃ?

 

「そうなんだよ、短絡的だろ?世界の為なら多少の怒りは抑えるのが大人ってもんなのにねぇ」

 

まぁ、多少じゃ無かったんじゃないですか?

 

別におかしな事を言ってるとは思わない。元の世界の姿である俺…つまり魂と喋る事が出来るってのは中々特別だろうし。何でこんなに違うのかも聞かないし

 

けどなぁ…どーも胡散臭いんだよなぁ、何だか電話で詐欺にあっている気分になる。ばあちゃん家にかかってきた詐欺業者もこんな感じだった

 

「そこで君の出番だ、ジノ君…龍神は見る者全てを恐怖させ、力を出なくする呪いがあるんだ。そして六面世界の外から来た君にはその呪いが効かない」

 

「つまり君は…龍神を倒すために異世界から来た勇者なんだよ!」

 

…はぁ

 

「あれれ?何か乗り気じゃないね…こういうの好きじゃないの?男の子って」

 

いや、にしては神からの啓示が遅いなと思いましてね…普通すぐ来ません?それなら何でもっと早く来なかったんですか?

 

「この世界に人間が何人居ると思ってるのさ、自動で見付けられる訳じゃないんだよ?」

 

神様なのに?

 

「全能なら自分で龍神をなんとかしてるよ」

 

ごもっとも

 

ならエリナリーゼ達の異常な緊張度合いも理解出来るし…タイミングがよく分からないけど接触してきたのも分かる

 

とはいえ話が見えないな、俺はどうなったんだ?夢を見てる感じだから死んだ訳じゃない…と思いたいが

 

「君は大規模な魔力災害に巻き込まれて転移したんだよ、爆発とかじゃなくて良かったね」

 

それはそうですね。あの魔力が爆発だったら死んでましたし…ってことは死んでないのか。それで、ヒトガミさんは何を伝えに来たんですか?

 

「勇者に死なれると困るからね、助言をしに来たのさ」

 

そんな命の危機なんですか?俺は一体どこに転移したんですか?

 

話は進むが、見えはしない。転移した先はわざわざ神が助言しに来なくてはならないほどなのだろうか

 

「魔大陸だよ…しかもよりによって一番危ない奴の所に転移してしまったんだ」

 

魔大陸か…この世界で最も危険で不毛と呼ばれている土地とは運が無い。しかもその中で一番危険って…サラは無事なんだろうか

 

「サラも一緒だよ、まぁこれに関しては違う方が良かったかもしれないけどね」

 

確かにそうかもしれない。魔大陸ともなれば俺も彼女を守りながら帰るのは難しいだろうし…

 

「そこでボクの助言さ、ボクの助言に従えば…確実とは言わないけどかなりの確率で2人とも無事に帰れると思うよ」

 

…まぁ、従うかどうかは置いといて聞いておきます。どうすれば良いですか?

 

正直もう電話しないでくださいと言いたかったが、本当に魔大陸に転移したのであれば帰るのは非常に困難だ…聞かないと言ってもどうせ話してくるだろうし

 

「あはは、鋭いね…ではジノよ、よくお聞きなさい。魔王の言葉に決して耳を傾けては行けません…一刻も早くその場を立ち去りなさい」

 

ヒトガミは、それだけ言うとエコーを残しながら消えていった

 

〜〜〜

 

目が覚めると、俺はどこかに寝かされていた。拘束されている様子は無いが、背中が痛い…硬い地面に寝かされていたからだろうか

 

そこは簡素な部屋だった。というか牢獄だった…目の前には頑丈そうな鉄格子が設置されており、背後にはトイレのような物と換気用の小さな窓…そこにもきちんと格子がされていた

 

だが荷物は愚か、玉響と短剣も没収はされていない、閉じ込められているにも関わらずだ。子供だから大した事ないと思われたんだろうか…それは何でも良いが、サラが居ない。

 

ヒトガミが言うには一緒という事らしかったが、捕まった時点で引き離されたのだろうか…何にせよ居るなら助けに行かなくてはならない

 

「お目覚めになりましたかな?」

 

思考を巡らせていると、流暢な人間語と共に初老の兵士が現れる。柔らかそうな物腰だが白髪に険しい顔、装備は黒い鎧だからかなり厳ついけど

 

「あの…僕は何故捕まっているのでしょうか?」

 

「申し訳ありません。決して逃がすなというのがアトーフェ様の命令だったもので」

 

だからって牢屋に入れるだろうか…しかも武器ごと入れるというのがかなりガバガバだ、魔大陸ではデフォなんだろうか…というかほんとに魔大陸なのか?ここ

 

「ここはどこなのでしょうか?後僕と一緒に女の子が居たと思うのですが」

 

「ここは魔大陸、ガスロー地方のネクロス要塞でございます。お連れの方もこちらで保護しております」

 

魔大陸、ネクロス要塞、魔王アトーフェ…なるほど、御伽噺そのものだ。ヒトガミも嘘は付いて居なかったらしい。そしてそれが事実なら一刻も早く逃げるべきだろう…伝承の通りなら魔王の用など絶対ろくでもない

 

「どういう経緯でそうなったかお聞きしても?」

 

「数刻前の事です。急に空からお2人が降ってこられたのですが…それをたまたまアトーフェ様が発見され、天より遣わされし勇者だと大層興奮なされまして、命令が下ったという訳です」

 

「はぁ…」

 

勇者か、そうなってくるとヒトガミの話と辻褄は合うな。という事はアトーフェに聞けば何かわかるのか?災害とか言ってたし認識がズレてるかもだけど

 

「勇者だから捕まえとくみたいな感じですか?」

 

「アトーフェ様はお父上のような偉大な魔王に憧れておいでです。その理想像が人族にとって圧倒的な脅威となり、捕えた姫を助けに来た勇者と戦う事なのです」

 

…結構適当な感じなんだな。となるとヒトガミの話は関係ないのか?奴は魔王からは逃げろみたいな事言ってたし…

 

とはいえサラ姫が捕まっている以上逃げる選択肢は無いから…俺がサラを助けるためにアトーフェと戦わなくちゃ行けないんだな…

 

最悪だ…不死魔王アトーフェラトーフェと言えばかつての魔族と人族との大戦争、ラプラス戦役で猛威を振るった暴虐の魔王…初代北神カールマン・ライバックより直々に北神流を教わった正真正銘の怪物だ

 

「因みにサラはどこに?」

 

「正装に着替えられ、謁見の間にてアトーフェ様と共にいらっしゃいます。大変申し上げにくいのですが…助けたいならば共に来て頂くのが早いかと」

 

俺がげんなりした様子で尋ねると、その兵士は非常に気の毒そうにそう告げた…薄々そんな気はしてたよ…ていうか正装て。意外と形から入るタイプなんだな魔王様は

 

「分かりました…魔王様の所へ案内してください」

 

「助かります。申し遅れましたな、私はアトーフェ親衛隊長のムーアと申します…突然の事態で戸惑いも多いかと思いますが、お付き合いください」

 

何だろう…ムーアからは苦労人の臭いがする。権力を持っているが無能の経営者に仕える敏腕管理職と言った感じが凄い

 

「剣皇ジノ・ブリッツです」

 

久しぶりに社会人っぽい人に会って親近感が湧いたのか、ムーアとは非常に話しやすかった

 

牢屋から出してもらいアトーフェの所に案内してもらうまでに色々聞いてみたが、どうやら俺たち以外にも転移してきた人間が居ると報告は来ているらしい

 

だが戦闘力を持たない人族は魔大陸での生存は絶望的だとも言っていた…そう考えたら保護して貰えた分はラッキーだったのかもしれない

 

「…どうかお気をつけて」

 

謁見の間に入る直前、ムーアはそんな事を言った

 

 

そこには、天井が無かった。

屋外だ。

悪魔のような彫刻が施された太い柱に挟まれた長い階段。

それを上った先に、大きな広間がある。

広間は紫色の炎をもつ燭台に囲まれ、さらに燭台の前には、黒い鎧を身にまとった兵士が一人ずつ、直立不動で立っていた。

広間は開けていて、壁も手すりもない。縁に近づけば、ネクロス要塞の城下町を見下ろすことができるだろう。

 

その奥に、禍々しい装飾をされた玉座があった。

 

そこには1人の女性が座っていた。周囲と同じく黒い鎧を身にまとっており、背は恐らく女性にしてはかなり高い事が伺える

 

異質なのはその風貌。青色の肌。白い髪。赤い目。コウモリのような翼。そして額から突き出る、一本の太い角

 

腰にはその細腕で振れるのかと思うほど大振りの剣が携えられており…恐らく玉響と同等の剣だという事が伺えた

 

その女性はムーアが玉座の前に来るのを待てば、バッと立ち上がってさぞ嬉しそうな顔で言い放った

 

「よく来たな!天より遣わされし勇者よ!」

 

「オレが不死魔王!アトーフェラトーフェ・ライバックだ!」

 

良く響く大きな魔神語に比例するような、凄まじい闘気を放ちながら

 

〜〜〜

 

「お初にお目にかかります。アトーフェラトーフェ・ライバック陛下…

私は剣皇ジノ・ブリッツ。まずは意識の無い私めを保護して頂くという寛大な処置に感謝申し上げます」

 

片膝を付きながら必死に記憶の引き出しを開けて魔神語で挨拶する。英検の実技試験を思い出すが、おかしくは無いはずだ…だが立ち上がったアトーフェはさぞ不満そうな顔をして

 

「ちっがーーーーーーう!!!!!!!!」

 

またもや凄まじい声量で謎の否定の意を示した…何が違うんだろうか。というか何て殺気だ…本気のガルを前にしてるみたいじゃないか…!

 

「違う違う違うっ!魔王に傅く勇者がどこにいるんだ!やり直しだやり直し!ムーア!もう一回入る所からやり直せ!」

 

「これでお分かりになったでしょう!彼は勇者などではありませぬ!予期せぬ出来事により転移した武人です!」

 

「予期せぬ出来事ってなんだ!難しい事言うんじゃねえ!姫と一緒に降ってきたんだからこいつは勇者だ!そうだろ!?」

 

アトーフェは凄い勢いで振り返り、背後のサラに問いかける。サラは怯えた表情でぶんぶんと首を縦に振る…正装と言われていた通り純白のドレスを着せられていた…あまりにも可哀想だ

 

「ほら見ろ!こいつは勇者だと言っているぞ!」

 

「人族の少女が貴女様に詰められて否定出来ましょうか!もう少し広い視野を持って行動なされよといつも申し上げー」

 

「うるっせぇ!」

 

ムーアは主の勘違いを解くべく必死に言葉を紡いでいたが…痺れを切らしたアトーフェが剣を振るう。咄嗟にガードしようとしたムーアだったが、間に合わずに凄まじい威力の剣が彼の兜を弾き飛ばす

 

「勇者の前でギャーギャー喚くな!こんな最高の状況に水を差せば死んだ親父が嘆くわ!」

 

周りで立っていた兵士は慌ててムーアに駆け寄るが、その兜は真っ二つに割れていた…え?あれ死んだんじゃないのか?

 

「分かりました。しかし粗相の無いように」

 

と思ったのも束の間。ムーアは何事も無かったかのように起き上がった。頭からは血が流れ出ているが、煙と共に凄まじいスピードで治ってしまった…あれが不死魔族か

 

そして同時に分かった事がある。アトーフェは相当話が通じないタイプらしい…サラを助け出す為には、彼女が理想とする状況をロールプレイングしなければいけない

 

「よし!勇者!大体分かっただろ!やり直せ!」

 

「…分かりました。一先ずは勇者という事で良いです…しかし陛下、私は貴女と敵対する気は一切ございません」

 

「そうか!いい心がけだな!心配するな!オレに負けても更なる力を授けてやる!」

 

ヒトガミの助言もよくわかる。これは一刻も早く逃げないといけない相手だ…けどサラが居る以上は絶対逃げる訳には行かない

 

とりあえずは命をとる事は無い…であろう約束を取り付けて、一旦謁見の間から出る…というかアトーフェの視界から外れてもう一回元の場所に戻ってくる

 

するとアトーフェは律儀に玉座に座り直し、周りの兵士達も元の位置に着いていた。ホントに形から入るタイプなんだな…

 

「よく来たな!天より遣わされし勇者よ!」

 

「オレが不死魔王!アトーフェラトーフェ・ライバックだ!」

 

先程と寸分違わぬ動きで立ち上がり、名乗りを上げる…練習とかしてるんだろうか

 

「…我が名は勇者ジノ・ブリッツ!魔王アトーフェよ!暴虐の限りを尽くし!あまつさえ姫の身柄を拘束した罪!その身で償ってもらうぞ!」

 

恥をかき捨て、玉響を抜き放てば…適当に考えた口上を述べる。顔が熱くなる俺とは対照的に、アトーフェはさも嬉しそうな顔で

 

「フハハハハ!いい度胸だ勇者!よかろう!オレを殺せば貴様は真の勇者となるだろう!負ければ俺の下で一生その武を鍛える権利をやろう!」

 

…ん?今なんか変な事聞こえた気がするけど気のせいだよな?

 

玉座から降りて、ゆっくりと俺の前に来る。背は俺より高いが、それ以上に凄まじい威圧感だ…まるで巨人を前にしているかに思える

 

「北神流開祖。カールマン・ライバックが妻…不死魔王アトーフェラトーフェ・ライバック。お前に本当の北神流を見せてやろう」

 

アトーフェは改めて名前を名乗る…先程は魔王として、今は剣士としてという事なのだろう。勝てるビジョンは浮かばない…いや勝つのだ、勝って帰るんだ

 

「剣皇…ジノ・ブリッツ」

 

そう名乗りを上げた瞬間、俺の剣とアトーフェの剣が凄まじい音を立てながらぶつかり合った

 

伝説との戦いが…始まったのだ

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