有職転生〜異世界行ったら…え?三歳で剣を振るんですか?〜   作:KEN・JACK

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大英雄

 

轟音。空気が震撼するほどのエネルギーを辺りに撒き散らしながら、俺はアトーフェと剣を交える…その細腕からは考えられない程の凄まじい膂力を、こちらも闘気をフルで使って何とか抑える

 

「はっはぁ!やるじゃないか!流石勇者だ!」

 

そのまま一度弾いて距離を取れば、アトーフェは新しい玩具で遊ぶ子供のような表情で言う…こっちは必死だってのに呑気なもんだ

 

俺はそのまま静かに居合の構えをとる。不死魔族の再生能力は折り紙付きだ…本来であればオーバーキルな光の太刀でも問題は無いはず

 

「剣神流か…言っておくが光の太刀はオレには通用せんぞ」

 

「…!」

 

構えだけで必殺技が割れたのは流石というべきだが…何とも嬉しくない情報も付いてきた。

 

しかも恐ろしい事に北神流のハッタリでもなんでもない。本気で通用しないと思っているのだ…いや、実際しないのだろう

 

アトーフェは余裕綽々というように肩に剣を置いて待っている…即断即決の剣王としてここに撃ち込まないのは恥だが…今の俺は試合をしている訳では無いし、剣王ではなく剣皇なのだ

 

持てるものを全て使い、この怪物に勝つ!

 

「…光の太刀」

 

「見切ったァ!」

 

だが俺の光の太刀は口だけだった。思った通りアトーフェは俺の居合を光の太刀だと誤認し、完璧なタイミングでカウンターを合わせて来た

 

「剥奪剣」

 

「水神流!?」

 

抜刀の勢いをそのままに、アトーフェのカウンターを剥奪剣で受け流す、さしもの魔王もカウンターをカウンターで流されるとは思っていなかったらしく、体勢を崩す

 

「朧十文字!」

 

「ぬがぁ!」

 

そのまま腰の短剣を抜き放ち、玉響と交差させるようにして十字の斬撃を放つ…オーベールの四本使う朧十文字とは違うが、水神流のカウンターを合わせたオリジナルバージョンだ

 

アトーフェは苦悶の声を上げながら柱まで吹き飛ぶ。手応えはあったが、この程度ではダメージにもならないだろう

 

「見事だ!光の太刀を囮に使うとは…剣皇の名は伊達では無いらしい!」

 

起き上がったアトーフェの鎧は砕け、大きな乳房と鍛え上げられた腹筋が顕になっていた。肌に十字の大きな傷が出来ていたが…それも直ぐに煙と共に再生する

 

「一本取ったから私の勝ちにはなりませんか?」

 

「バカを言え…勝負はここからだろう?」

 

そう言うと、彼女の闘気が更に膨れ上がる…要塞全体が揺れているのかと思う程の凄まじい闘気だ…本当に小手調べだったのかよ…!

 

「…右手に剣を」

 

アトーフェがゆっくりと歩み寄り、剣を握る右手に力が入っているのが分かる…それと同時に感じた、やばいのが来ると

 

「左手に剣を」

 

左の腕も剣へと添えられる…比例するように闘気が剣へと集まって行く。細いはずのアトーフェの腕が極太の柱のように錯覚してしまうほどの圧力

 

回避が真っ先に浮かんだが、足が動かなかった…完全に間合いなのだ。不死魔王の必殺の間合いに入り込んでしまっていた…下手な回避はそれこそ死を意味する

 

「両の腕で齎さん、有りと有る命を失わせ、一意の死を齎さん」

 

俺は玉響を構える…取るのは勿論水神流の構えだ。今はレイダを信じるしかない…!

 

「北神流奥義!破断!」

 

放たれたのは、大上段からの振り下ろし…技術何て欠片も感じない、されど凄まじい威力を持ったその一撃が…水神流の奥義たる剥奪剣をいとも容易く打ち破り、俺の身体を紙切れの如く壁まで吹き飛ばした

 

「ジノ!!!」

 

広間に少女の悲痛な声が響き渡る。兵士達は当然だと言うように直立の姿勢を崩さない…誰もが魔王の勝利を疑っていないからだ

 

「…素晴らしい!お前は今までに無い逸材だ!真の勇者の素質がある!傷を負ったのは何時振りだ?ムーア」

 

「100年程前かと」

 

アトーフェは興奮した様子で剣を下ろす。対照的に側近たる初老の兵士は淡々と述べる。この展開も彼にとっては見えていたものだったのかもしれない

 

…骨は逝ってないな。一瞬意識が飛んでたから追撃が無くて助かった…それだけ自信があるんだろうな、今の一撃に

 

「…まだ立てるか!ジノ・ブリッツ!」

 

俺がゆっくりと立ち上がると、アトーフェは再び血に飢えた獣のような獰猛な笑みを浮かべて剣をこちらに向ける…名前を覚えて貰えたとは光栄だ

 

全身が痛い…動かせるというだけで今すぐにでも横になりたい気分だよ全く

 

にしても…やっぱり勝てないな、馬鹿みたいな強さだ。光の太刀も、剥奪剣も、朧十文字も…俺が今まで積み上げてきた剣の奥義が、この怪物には通用しない

 

教えられた事だけじゃダメだ、全部の流派を王級にした…俺だからこそ出来る何かがいるんだ

 

「その身体じゃあもう無理だろう…終わらせてやる、目が覚めたら吐くまで扱いてやるからな!」

 

物騒な事を言いながら、力強い踏み込みと共にアトーフェが迫ってくる。先程の奥義では無いが…並の剣士では一生振れないであろう剣が視界に入る

 

朦朧とする意識の中、凄いスピードで記憶が整理されて行く…そして俺の中で、断界と光の太刀が混ざりあった

 

「っ!?」

 

アトーフェは俺の円に入った瞬間異変に気付き、光の太刀を防ぐべく剣を動かすが…それよりも早く反射で放たれた光の太刀が、アトーフェの手首を切り落とした

 

「光の太刀かぁ!?通じないって言ってんだろ!」

 

だが不死魔族のアトーフェがそれで止まるはずもなく…切り落とされた手首を左手で掴み、即座に再生する

 

「ガアアアアアア!!!」

 

光の太刀を放てる断界にも臆する事無く彼女は突っ込んでくる。一撃に割く力が少なくなってるとはいえ、何故か渡り合ってくるのだ

 

それもそのはず、魔王は多少の傷はダメージにすらならない…最初はこちらが一方的に斬っていたが、じわじわと押されていく

 

「ここっ…だぁっ!!」

 

明確な隙を突かれ、アトーフェの拳が俺の顔面を捕える…くそ…土壇場で覚醒したら…勝てるんじゃないのかよ…

 

そんなメタな悪態を付きながら、俺は意識を手放した

 

「…見事だジノ・ブリッツ。その若さでここまでの域に達するとはな!鍛え甲斐がある!ムーア!契約の準備をしろ!」

 

全身の切り傷から大量の再生の煙を撒き散らしながら、魔王は配下にそう命じる。老兵士は待ってましたと言わんばかりに契約の書を取り出し…

 

「その契約、ちょっと待ってもらおうかな」

 

契約に移ろうとした瞬間、それに異を唱える男が居た…配下では無い、配下に魔王のやる事に意見出来るものは居ない

 

その男は黒い鎧ではなく、黄土色の鎧を身にまとっていた…ネクロス要塞に似つかわしくない装備だが…不思議と浮いては居ない。場違いな装備に違和感を覚えさせない程のカリスマが…その男にはある

 

「誰かと思えば…元気そうだなアール!心配してなかったが!」

 

「母さんこそ…元気そうでなによりだよ。心配はしてなかったけどね」

 

そう…二代目北神にして不死魔王アトーフェラトーフェの息子…アレックス・カールマン・ライバックである

 

〜〜〜

 

「お久しぶりですアレックス様…本日はどのようなご用件で?」

 

ムーアは頭を下げながら問いかけるが…その目は警戒に染まっていた。それもそのはず、君主の狙い通りに剣皇を配下にと思っていた所に…この状況を覆せる人物が現れたのだから

 

「久しぶり、ムーア。帰るつもりは無かったんだけどね…7歳で剣王になった男が現れたって噂になってたからアスラを探してたんだけど、気付いたらこの近くにいたんだよ…まさかここで会えるとは思わなかったけどね」

 

こんな事は初めてだというように北神は肩をすくめる。老兵士は情報があるからか、特段驚いた様子を見せることも無かった

 

「それで?オレは何を待てば良いんだ?一騎打ちに勝って契約する…どこに待つ所がある」

 

「うん、簡単に言うとね…この子を私に譲って欲しいんだ」

 

煩わしそうに尋ねる魔王に簡潔に用件を伝えながら、男は倒れ伏す剣皇に歩み寄る。それを聞いた魔王は煩わしそうな表情を苛立ちに変える

 

「何でだ!こいつはオレが倒したんだぞ!オレの元で鍛えればいつかホンモノの勇者になれる筈だ!」

 

「確かに母さんに鍛えられても強くなると思うけど、彼ほどの才能を魔大陸に閉じ込めておくのは勿体無いだろう?」

 

ただの親子の言い合いの筈なのに、この二人がやれば緊張感が段違いだ。片や魔大陸最強の魔王、片や北神流最高の剣士なのだから

 

「心配するな!きちんと休暇は与えてるからな!」

 

「10年で2年のかい?私達と人族は時間の感覚が違うんだよ。それじゃ才能の半分も活かすことが出来ない。それはこの世界に対する損失だ」

 

北神の言葉に、周りの兵士の何人かはうんうんと頷いてる…彼らもまたアトーフェに敗れ隷属させられている者達だ

 

「…だから何だ!世界がどうかとかオレには関係ねぇ!いつからそんな訳の分からない事を言うようになったんだアール!」

 

しかし話の通じない魔王を説得というのは至難の業だ。実の息子に対しても苛立ちを隠そうとせずに剣を地面に突き刺して抗議する…今にも襲いかかりそうな程だ

 

対する息子はやれやれと言った様子で溜息をつく…この程度は日常茶飯事と言った様子だ

 

「…本当に分からないの?この子が本物の勇者になって母さんを倒すとしてだ…魔王は自分を殺す勇者を鍛えたりはしないよ」

 

「……………そ、そうなのか?本当か?ムーア」

 

「聞いたことはありませんな」

 

きょとんとして数秒フリーズした魔王は、側近に対して答えを求める。対する老兵士は淡々と事実を述べる…更にダメ押しとでも言うように北神が尋ねる

 

「一度魔王に敗れた勇者が過去の英雄に鍛えられて再戦に臨む…こんなにも母さんが好みそうな状況が作れる機会を逃すのかい?」

 

そう言われた途端、アトーフェは合点がいったというようにニヤリと笑みを浮かべ、地面に突き刺さった剣を納刀する

 

「そういうことか!流石はアールだ!よし、こいつを連れていけ!そしてオレに勝てる勇者に仕上げてこい!」

 

周りの若い兵士は驚いていた、まさか自分の主が意見を曲げてしまうとは思わなかったのだ…これが生ける伝説かと、目線が畏敬へと変わる

 

「あの…私は…」

 

ドレスを着せられた少女がおずおずと手を上げる。ジノが気絶してから完全に空気になっていたが、ここで存在を示さなければ置いていかれる…そんな予感がしたのだ

 

「勝手にしろ!勇者が居ないのに姫だけ居ても仕方ないからな!」

 

「心配しなくても、きちんと送り届けますよ」

 

魔王から帰還の許可が出て、北神が帰してくれると言ってくれた…ジノがやられた時はどうなる事かと思ったが…一先ずはほっと胸を撫で下ろす

 

「あ、でも剣皇が来る時はまた一緒に来いよ、姫は必要だ」

 

その一言で、撫で下ろした胸にもう一度重い重い何かがのしかかったような気がしたサラであった

 

〜〜〜

 

「知らない天井だ…」

 

目を覚ますと、俺はベッドの上に寝かされていた。この世界に来てから2回目のセリフだが…今回は本当に知らない

 

横を見れば、サラがベッドに突っ伏すようにして寝息を立てていた。

俺が心配で傍に居てくれたのだろうか

 

それにしてもどこだここは…ネクロス要塞の作りとは違うな、部屋の作りとかを見ても宿屋って感じだ

 

傷も治癒されているようで痛みは無い。だがアトーフェのあの怪物じみた戦闘力はしばらく頭から離れそうに無い…本当に強かったな

 

「目覚めたようですね」

 

扉が開いてそちらを見れば、アトーフェでもムーアでも無い…黄土色の鎧を身に付けた男が入ってきた。この世界では珍しく黒髪で…歳は50歳くらいだろうか?

 

「貴方は…?」

 

「私はアレックス・カールマン・ライバック…北神です。二世ですけどね」

 

その名前を聞いて俺は驚きを隠せなかった。神級となら今までにも二人会ってきた…いやそれどころか弟子にもなったのだ

 

にも関わらず驚いたのは…彼が物語の英雄だからだ。幼い頃に見た本にもある王竜王カジャクトとの戦いに、べガリット大陸でのベヒーモスとの戦い…

 

神級の剣士というだけでは無い…この世界の芸能人のようなものだ

 

最初は無論名を騙るおっさんかとも思ったが、あの状況から俺を連れ出せるとなると…北神クラスでないと有り得ない

 

「お会いできて光栄です…私は剣皇ジノ・ブリッツと申します。助けて頂けた…という事でよろしいのでしょうか」

 

「母さんの親衛隊にならずに済んだ事を助けたとするなら、そうなりますね」

 

母さんか…そういや初代北神とアトーフェの子供なんだったな。あの人の子供はさぞ大変だろうが、この人ともなれば上手くやれるのだろう

 

「ありがとうございます…まさか魔大陸にいらっしゃったとは驚きました」

 

「いえ、たまたま転移に巻き込まれたのです。君と同じですよ」

 

アレックスは椅子に座りながらそう説明してくれる…と言う事はフィットア領に居たのか。英雄でも逃げれないんだな、あれ

 

「それで…どうして助けてくれたんですか?魔王様を説得するのも楽じゃなかったでしょう?」

 

「いえ、慣れていますから。あれくらいなら大したことはありませんよ…助けた事は気にしなくても良いです。私も君を探していましたので」

 

探していた…レイダといいアレックスといい、剣士として名を馳せたら神級から探されるってのがこの世界の常識なのか?

 

「因みに何故探していたのかお聞きしてもよろしいですか?」

 

「それは勿論、若き才能に北神流を伝える為です。元々息子に北神の座を渡して鍛え直す為に旅をしながら弟子を取っていたので」

 

なるほど、子供が成長したから引退して後進の育成に励もうって魂胆だった訳だ

 

「そんな中稀代の天才の噂を聞きつけ、しかもその剣士は剣神と水神から剣を教わっているのに、北神流だけは北帝から教わっていると…そんな状況が揃えば、私が動かない訳にも行かないでしょう?」

 

要するにこの世界の最強剣士三人衆は、俺がどこまで強くなるか気になって仕方ないという訳だ…改めて剣皇の重みを感じるな

 

「話は分かりましたが、何故貴方ほどの剣士が鍛え直しを?そんな事しなくても貴方を倒せる人なんているのか疑問ですけど」

 

「そういう話ではありません。ただ…私が本当に強いのか分からなくなりましてね」

 

要約すれば、昔アレックスが持っていた最強の剣…王竜剣カジャクトの強さが事の発端らしい

 

初めてその剣を握った剣聖が、当時の剣帝を倒してしまったのを見たアレックスは…自分は本当に強いのか疑問に思った。

 

今までの自分の全てはこの剣のおかげだったのではないかと…ふと思い立った

 

そしてそれを確かめる為に息子にその剣を託し、自分の強さを探すべく弟子を取りながら鍛えていた…という事だ

 

「その歳で母さんと剣を交えて互角に戦うことが出来る…はっきり言って君は異常だ。だからこそ、君の剣の果てを見てみたい」

 

「そうすれば、私も真の強さとは何なのか…それが分かる気がするんだ」

 

彼ほどの大英雄が求めているような答えを、俺が鍛えたくらいで出せるとは到底思えない…けれど、彼が居ればサラを連れてアスラに戻る事もぐっと簡単になるはずだ

 

ヒトガミはサラを置いていってもアレックスが来て助かるからアトーフェと戦うなんて危ない橋は渡るな。という意味で逃げろと言ったんだろうが…もっと詳しく言わないと分からんだろ普通

 

「分かりました…けれど僕と彼女はアスラに帰らないと行けないんです。それを手伝って貰えますか?」

 

「勿論だ、ここから中央大陸までに行く間に…北神流の全てをジノ、君に伝えよう」

 

そう言って俺とアレックスは固い握手を交わした

 

こうして俺は三大流派全てのトップの弟子という肩書きも手に入れてしまったのだった

 

…この世界、俺を強くした過ぎじゃないか…?

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