有職転生〜異世界行ったら…え?三歳で剣を振るんですか?〜   作:KEN・JACK

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歩こう。魔大陸

 

「それでは出発…の前に、幾つか注意事項を伝えておきます」

 

翌朝、俺達はアスラに向けての旅を開始していた。

 

あの後起きたサラに抱き着いて泣きながら心配したと言われたり、顔合わせも兼ねて飯を食ったりして取り敢えずは一日宿で過ごした

 

「はい!北神様!」

 

サラは助けてくれたアレックスの事を崇拝しているようで、若干緊張の面持ちをしている。肩書きも英雄だしこれくらいの子はそうなるか

 

「…サラ、昨日も言いましたが私はもう引退した身。北神と呼ぶのは止めてください」

 

それに対してアレックスは困ったように笑う。本来であればカールマンを名乗る事は無いのでこういうのも久しぶりらしい

 

「…では、何とお呼びすれば?」

 

「そうですね…ジノ、貴方は私を何と呼びますか?」

 

ここで俺に振るのかよ…確かにサラに比べたら俺はこの人の事を崇拝とまではしていない。俺が呼ぶ事でサラのハードルも下げさせようと言うのだろう

 

だが実際問題、俺の師匠としては四人目だし呼び方は迷う。剣神である師匠、水神であるお師匠様、北帝であるオーベールさん…ここでアレックスさんと言うのもオーベールと同格感がしてあれだしな。

 

「先生…とか?」

 

「先生…なるほど、悪くないですね。サラ、私の事は先生と呼ぶように」

 

「はい先生!」

 

話し方も丁寧だし、英雄と呼ばれているし…見た目も一番先生っぽいし丁度いいだろう。本人も気に入ったようだ

 

にしてもあの気丈なサラがこんなになるとは…やっぱカールマンって凄いんだな

 

「それでは改めて注意事項ですが…魔大陸と中央大陸の魔物を同列に扱っては行けません。アスラでは危険とされているターミネートボアがここに来れば、10分経たない間に殺されます」

 

人差し指を立てて解説するアレックスは、想像以上に先生っぽかった。この人からすれば危険な魔大陸縦断も遠足感覚なのかもしれない

 

対照的にサラの表情には緊張が張り付いている。自分の村を壊滅させた魔物でさえここでは餌だという事実を突き付けられているのだ…当然だろう

 

「とはいえ私とジノが苦戦するような奴は居ないでしょう。しかしサラ…貴女は別です。今の貴女の弓が通じる魔物はこの大陸には居ません…必ずどちらかと行動を共にして、決してはぐれないように」

 

「…はい!」

 

サラは手に持った弓を握り締めて悔しそうにしたが、それは仕方ない。狩りをするための技術は中央大陸基準だ…ここで通用しないなんて当たり前だ

 

「折角なのでサラにも北神流を教えましょう。大丈夫、北神流は剣の技術だけでありません。弓は取り入れたことが無いですが、きっとサラに合った戦法があるはずです…直ぐに戦力になれますよ」

 

おぉ…大人だな。サラがお荷物だと感じている不安を見越したか…ガルならきっと邪魔しねぇで付いてこい。とか言って終わりだろうに…これが英雄か

 

「ありがとうございます!」

 

サラは深々と頭を下げた。マズイな、アレックスの人間性が出来すぎてて俺の出番が無くなってしまいそうだ

 

〜〜〜

 

その後、俺とサラはアレックスからこの地方の危険な特性と魔物について教えてもらった

 

そもそもの話魔大陸というのはこの世界でも過酷な場所として有名だ

 

植物はほとんど無く、

地面はひび割れ、

巨大な階段のような高低差がいくつもあり、

背丈よりも高い岩が行く手を阻む、天然の迷路のような土地。

 

さらに、魔力濃度が濃く、強い魔物が数多く存在している。

歩いて渡ろうと思えば、中央大陸の3倍は掛かるであろう。

そう言われている。

 

運の悪いことに、ネクロス要塞がある場所はそんな魔大陸でも随一の危険な場所だったらしく…移動用の生き物すら使えないらしかった

 

石化ブレスを吐くバジリスク、大空を飛び回り強靭な顎と毒爪を持つブラックドレイク、池に擬態する巨大なレイクスライム、高い俊敏性と魔術耐性を持つ白牙大蛇等々…確かにターミネートボアでは相手にならない奴らばっかだった

 

そいつらだけならまだいい。俺とアレックスが居れば苦戦らしい苦戦も強いられることなく退けられるからだ…ただそれに加えて毒ガスの発生地帯や深い谷などもあり、それがまた厄介なのだ

 

「ここはガスが出るので迂回しましょうか」

 

とはいえここは彼の故郷…流石と言うべきか危険な場所はすいすいと回避していき、現れた魔物は数分で死骸に代わる…怖いくらいに順調に旅は進んで行った

 

「サラ、大丈夫?しんどかったらおぶるよ?」

 

問題と言えばサラの体力だ。サラも狩人の娘として体力が無いという訳では無いのだが…如何せん魔大陸という緊張状態に、歩き辛い地形…旅慣れているアレックスや俺とは違うのは当然だった

 

「大丈夫…これ以上二人に迷惑かけたくないから…」

 

しかしサラがそう簡単に助けを求める事は無かった。普通の女の子がいきなりこんな場所に来れば頼って当たり前なのにだ…何とかしなくては行けない

 

だが魔大陸にも便利な物はある

 

「今日はこの辺りで野宿しましょうか、比較的安全な場所なので」

 

それは野宿する時の薪集めの時間のことだ。木々も生えないこんな場所でどうやって薪を…と思ったそこの貴方、今から実践致しましょう

 

「ジノ、私はサラに教えているので薪と食糧をお願いします」

 

「分かりました」

 

アレックスは長い旅をしていただけあって野宿の準備が的確で無駄が無い。サラはせめてここでは役に立ちたいと3日前からアレックスに教えを乞うていた

 

俺も出来なくはないが、アレックスの方が遥かに早い。教えるのも上手いしサラの飲み込みも早い…直ぐにサラが担当するようになるだろう

 

さて話を戻そう。こんな土地でどのようにして薪を集めるのかという話だったが…

 

「お、いたいた」

 

そうこいつ、ストーントゥレントだ。普段は岩に擬態している…トゥレントは木の魔物じゃないかって?まぁこいつは種がでかくなって岩に見えているだけだ、だから実際は木なんだよ

 

こいつは便利なもので、殺すと乾いた薪になるのだ。強さも大した事ないから旅の必需品とも言えるな

 

そして食糧は先程言っていたブラックドレイクが主である。ドラゴンを食うのか…と思ったがこれが案外美味い。卵もあればアレックスが卵焼きをしてくれるのでラッキーだ

 

「戻りました」

 

「ジノお帰り、後は私がやるから任せて」

 

「ありがとう」

 

薪とドラゴンの肉をサラに預け、岩に腰掛けて暗くなってきた空をぼんやりと眺める。イゾルテは心配してないだろうか…いやしてるだろうな、大きな街に行くまで手紙も出せないし

 

転移事件に巻き込まれた、というのは分かってくれているかも知らないが…まさか魔大陸にまで飛ばされてるとは思うまい

 

「それでは稽古と行きましょうか」

 

「あれ?準備はもう良いのですか?」

 

物思いに耽っていると、背後から声がかかる。振り返れば武器である長い棒を担いだアレックスが立っていた

 

準備は良いのかと尋ねれば、アレックスはサラの方を指さした

 

「両親から基礎は教えられていたので、あまり伝えることはありませんでした。もう任せても問題はありません」

 

そうか…生きる為の術はきちんと受け継がれていたんだな。親御さんもまさか魔大陸で使う事になるとは思わんかっただろうけど

 

修行は基本的に夜に行うようになった。準備中は俺が、食後にサラがアレックスから北神流を教わる交代制の修行スタイルだ

 

初日に、剣を持っていないアレックスならば倒せるかもしれないと本気での立ち会いを望んだが…負けた。やはり強いやつは何を持たせても強い

 

基本的にアレックスとの修行は立ち会いや動きや考え方についての物が多かった。

 

アレックス曰く、俺は剣王と水王としての技があるから北神流の技は後に教える奥義以外は必要ないとの事だった。

 

後はそれを我流に落とし込み、合わせ、昇華させる繋ぎとしての技術を北神流として固めれば…俺は最高の剣士になれるらしい

 

その説明には合点がいった。アトーフェと戦った時に光の太刀と断界が合わさった時の感じ…あれを意図的に出せれば凄まじい力が出せる筈だ

 

「実際過去に居た剣皇は、凄まじい剣技をいくつも編み出したと言われています。使える者が誰も居なかったので残ってはいませんけどね」

 

教科書が無い勉強ってことか…経験は無いが、アレックスとの戦いは学びが多い。いずれ何かを掴む事は出来るだろう

 

「サラの修行は順調ですか?」

 

「ええ、身体の基礎は十分あるし、視野の広さや危機管理の上手さも申し分ありません。ご両親のおかげですね…きっと強くなります」

 

アレックスには事前にサラの両親の事は伝えておいた。いつか分かる事だろうが、無理に触る必要は無いはずだ

 

それにしても北神のお墨付きとはサラも中々やるじゃないか、アスラまでどのくらいかかるか分からないが…帰る頃には冒険者として申し分無く1人立ち出来る実力は付けているだろう

 

「ですが、気にかかることはあります」

 

「サラが負い目を感じていることですか?」

 

俺がそう言うと、アレックスは頷く。彼は短い間で、俺の肉体と精神のギャップで驚くことは無くなった…長く生きている分色んな人と会ってきたからだろう

 

「事実としてサラは私たちと比べて格段に弱い、だがそれは仕方の無いことです。普通の村に生まれて強くなるはずが無い…そこに負い目を感じて無理を続ければ、取り返しの付かない事態になる可能性もあります」

 

「そうですよね…」

 

不調を隠して進む事や、役に立とうと張り切ってそれが危険を招く事もあるだろう。そうなれば帰るのは更に遅れる筈だ…何よりサラが危ない目に合うのが一番良くない

 

「どうすれば良いと思いますか?私は君たちとは時間の感覚が違うし、アスラに帰る事を急いでもいない。行動の指針はジノ…貴方に任せます」

 

つまり無理に進まずにサラに経験を積ませるか、帰るのを優先するか決めろと言う事だ。確かに一刻も早くこんな土地から帰りたい気持ちはあるが…やはりサラを第一に考えるべきだろう

 

「サラの修行を優先しましょう。せめて今の負い目を感じなくなる程度にはしないと、何かあってからでは遅いですから」

 

「分かりました。後数日もすればガスロー地方を抜けます…ここと比べればまだ魔物はマシなのでそこの街を拠点としましょう」

 

後はサラに何と伝えるかだ。サラが危ないから街で滞在して特訓しますとでも言えば本末転倒だ…サラとは関係ないけど折角だしたくさん鍛えられるね!というシチュエーションが好ましい

 

「サラには金銭の問題ということにしましょう。実際海を渡るには緑鉱銭が何枚か必要になりますしね」

 

…保護者だなぁこの人

 

 

渡航費を稼ぐ為に利率のいいこの地方で稼ぐと伝えれば、サラは分かったと素っ気なく言っていたが、心なしか嬉しそうな顔をしていた。

 

アレックスの言う通りガスロー地方を抜ければ魔物の凶悪さがグッと下がった

 

デカい亀の大王陸亀、群れで行動するパクスコヨーテ、口から酸を吐くアシッドウルフ…バジリスクや白牙大蛇に比べれば小動物みたいなもんだ

 

取り敢えずは実戦慣れという事でサラは手持ちの弓で戦っている。大王陸亀に効果は薄いが、数の多いコヨーテや近付くと危ない狼相手では無類の活躍だった

 

「やっぱ凄いね…サラの弓」

 

「これしか出来ないけどね、強さに頭打ちがあるし」

 

そう…この世界でアーチャーが少ないのは闘気の影響だ。矢に闘気を纏わせられない分どうしても威力が足りない…威力だけ見れば俺やアレックスが投げた方が強かったりもする

 

「でも連射出来てここまで正確なら群れの魔物だと凄く助かるよ」

 

「…そう?ありがと…」

 

サラは一瞬何か言いたげな表情をしたが、俺の目を見て直ぐにお礼の言葉を口にした。俺の真剣さが伝わって何よりだ

 

「確かに見事な腕前です。慣れてくれば剣術と合わせてどんな距離でも対応出来そうですね」

 

そんなこんなで俺達は、ネクロス要塞を出てから初めての街へと到着した

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