有職転生〜異世界行ったら…え?三歳で剣を振るんですか?〜 作:KEN・JACK
更に月日は流れ、俺は遂に二足歩行の会得に成功した。
ハイハイの時は最初の方は感動こそすれすぐに飽きた、剣の聖地というだけあって剣に関する事が多い。よって危ないからという点で俺の手の届く所から消えていった
その時に比べると二足歩行の何と素晴らしい事か、段差だってお手の物だし移動速度も格段に上昇した…人類が二足歩行へと進化したのも頷ける便利さだ
そして喋れるようになったので喋ってみた。ゼタとティモシーの驚きように早すぎたことを悟ったので多少は自重しているが…それによってある利点が生まれた
「ママ!本読んで!」
椅子に腰掛けて剣の手入れをしているゼタに対して、目をキラキラさせながら本を突き出す。見よこの完璧な演技を!恥をかなぐり捨てて渾身の幼児の振り! 誰も中身が成人男性とは思うまい!
「また?ジノは変わってるわね…ほらおいで」
当然ゼタが断ることは無い。何故なら家事とかが一段落ついたタイミングを見計らっているからだ…いつものようにゼタの膝よじ登ってちょこんと座れば、それはまぁ微笑ましい親子の読み聞かせタイムである
活版印刷術が無い分本が希少なのか剣の聖地に需要ないのか分からないが、我が家には3冊しか本がない。世界を歩こうみたいな内容の地理本に、三剣士と迷宮という冒険譚…そしてこの世界の剣の歴史が書かれた歴史書の3冊だ
日本人としては驚くべき事だが、何と剣の聖地では文字を理解出来る人間が少数だった。
ゼタは昔剣の聖地の外で暮らしていた事があるようでその内の1人だったが、ガルもティモシーも読み書きは出来ないらしい…まさかホイ卒ですらないとは…
別に教科書という訳でなくとも、3冊あれば大体の文字は理解出来る。 日本語みたいに漢字平仮名カタカナが無いだけまだマシだ。
生まれ変わって初めて勉強の大切さを思い知る愚か者は私でございます
本で知識を入れることで、少しずつだがこの世界の事が分かってきた。 ゼタのせいで剣に知識が偏ってる感は否めないのだが
若さ特有の吸収力でこの世界の地理や特色はだいたい理解出来たと言っていい。歴史系のタブーを踏みそうな事は少し怖いが、そこまで空気の読めない人間では無い
それ以上に頭に入り込んだのは剣術の流派だった。理由は明白、ゼタがよく話すから。剣の聖地にいる以上は必須なのかもしれないが…折角異世界に来たのだから俺もホグワーツとかに通いたかったんだけどな
話はそれたがこの世界には三大流派というものが存在するらしい。
一撃必殺の攻撃型剣術、剣神流。カウンターや受けを主体とした防御特化の水神流。基礎を元に自分に合った剣術を模索していく万能型の北神流と、長い歴史の中で研究されてこの3つが残ったという話だ
本当か分からないがこの中でも剣神流が最強と言われているらしく、何でも世界中の才能ある剣士達がここ剣の聖地に集められているとか
「ジノも初代様のような立派な剣士になれるように頑張らないとね」
「…なれるかなぁ」
そして3冊目である冒険譚を読み終わる度に、ゼタは俺にそう言うのだった。いくらこの身体が才能に溢れているからと言っておとぎ話の英雄みたいになれると思うほど自惚れてはいない
「なれるわよきっと、ジノが一生懸命やればね」
いやいや、物語の初代剣神何て岩を切って剣閃飛ばすし、剣速は比喩無しで光の速度に達してたんですよね?型月の世界にもそんな剣士いませんよ…
〜ゼタ視点〜
「ガキってのは手のかかるもんだ、女のニナでそうだったんだからそいつは覚悟しといた方が良いぜ」
ジノが生まれた時、兄がそう言ってたことを思い出す。
勿論そんな事は分かっているつもりだし、覚悟もしていた。私は先代剣神である父より剣聖の認可を貰った時と同じだけの気持ちでジノを産んだ…けれど
「ママ!本読んで!」
何故か少し照れくさそうにしながら読み聞かせをせがむ我が子を見て、手がかかったのはいつだろうと思い返してみる。
育児での悩みは最初おっぱいを飲んでくれなかったことくらいで、それ以外は本当に手のかからない子供だった。
最初の悩みも、ジノは私が悲しんでいるのを察したかのようにすぐに飲み始めたのでそれほど記憶には残っていない。それ以外で困った事を探そうとしても恐ろしいことに全く出てこないのだ
ジノが泣くのはおしめを替えて欲しい時くらいで、それも私が来たら直ぐに泣き止む。
夜泣きはしないし…赤ちゃんは何も無くても泣くとまで聞いていたのに拍子抜けとも思えてしまう。
だがこの子の異常性…我が子を異常というのは忍びないけれど、それが垣間見えたのは初めて喋った時の事だ
「おはようママ、パパ」
私とティモシーが朝食を取っていた時…ジノがいきなり挨拶をしたのだ。聞いていた話…というかニナの時も最初は単語からだった筈なのに、ジノは明確に意味を理解して単語を繋げて話し始めた。
挙句の果てに驚いて声が出ない私達に対して「あ、やべ…」みたいな表情までする始末…まだ3歳にもなっていない子供がだ。
流石におかしいと思い、剣の聖地の代表とも言える兄に相談しても
「いい事じゃねえか、物覚えがいいってのは剣術にでも何にでも役立てれる事だ。そんな言葉がどうかなんてことより俺様が気になってるのはだ…あいつ、稽古を見て理解してやがるぜ」
まるで優秀な証だとでも言うようにそんな言葉しか帰ってこない。いくらジノが天才かもしれないと言ってもそれは流石に無いと否定しておいた。
でも、所詮は剣聖止まりだった私と神の域に至った兄とで視点が違う事は事実。それに、今でさえ異常な頭の良さを見せるジノが剣を握った時…一体どんな剣士になるのか楽しみな事は否定出来ない。
「まぁお前がどう思うかなんて知ったことじゃねえけどよ、あいつももうすぐ3歳だ…初めて剣を握らせる時は絶対呼べよ?」
兄とジノの話をしたのはこれが最後だった。兄のジノに対する興味はとことん剣の才能に向いている…剣神としてはそちらの方がいいのかもしれないけれど
「ママ?どうしたの?」
そこまで考えた所で、急に現実へと引き戻される。思考に引っ張られ過ぎて読むのが止まってしまっていたらしい
「ごめんなさい、少し考え事をしていて。どこまで読んだかしら」
元気に育ってくれている、今はそれで十分だと最近は思うことにした。成長は異様に早いけど言ったことはきちんと聞くし、手のかからない良い子で…なにより私の愛する息子である事に変わりは無いのだから
〜〜〜
今日は俺の3歳の誕生日という事らしい。
1年の感覚が日本と同じなのかどうかはイマイチよく分かっていないが、どうやら聖地において3歳というのは色々な意味で節目の年であるらしい。
いつも通り早朝に起き、ティモシーの朝の素振りでも見て1日を始めようとしていたのだが…どうやら今日はそんな呑気な事をしている場合では無いようで
「ジノ、支度が出来たらゼタと一緒に本道場に来なさい」
朝食を食べ終わるとティモシーはそれだけ伝えて家を出ていった。家の父親はあまり口数が多い方では無いが、今日は急だ…にしても本道場って大丈夫なのか?
「…本道場って、僕入っていいの?」
そう、近くの道場とは違って本道場には剣聖以上の認可を受けたものしか入れない。剣聖はおろかまだ初級にすらなってない俺が入るなど本来は言語道断の筈なのだが…
「本当はダメなんだけど…兄さんが今回は特別だって。剣神が言ってるんだから誰も文句は言えないわ」
何となく嫌な予感がするが、ティモシーに指示され、あのガル・ファリオンが1枚噛んでいるのだ…行かないという選択肢はないだろう
「一足先にはなっちゃうけど…はいこれ、ジノ…3歳の誕生日おめでとう」
そして死地に向かうべく身支度をしていると、ゼタから急に木箱を手渡される。言葉的に誕生日プレゼントだと思うが…中を開けるとそこには
「これ…剣神流の…」
恐らく俺の体躯に合わせた特注品だろう。ぴかぴかの道着が入っていた
「そう、今日は兄さんから剣神流剣士としての認可を受ける事になるからね。と言ってもそんなに気負わなくても大丈夫、兄さんだって3歳に無茶をさせることは無いから」
…そうかな、あの人強くなるには千尋の谷だ。生きて帰れたら剣聖の称号を与えるとかしそうだけどね…それどこのDの一族だよ
「ありがとうママ、これで僕…強くなるよ」
「どういたしまして、私はパパと違って剣聖より上に行けなかったけど…ジノならきっとどこまででも強くなれるって、本気でそう思うの。 きっとこれから色々辛くて苦しい事もあるけど…生きてママに、強くなった姿を見せてくれたら嬉しいな」
強制的に子供を剣士にするなんて間違っていると、日本人の魂は叫ぶが…聖地に産まれた以上はそんな事言っても仕方がないだろう
それに前世では禄に孝行する前に死んでしまった分、今世では親孝行にも全力を注ぐと決めている。
ゼタとティモシーが俺に強くあれと望むなら…俺は本気でそれに応えたい
意思の籠った目をゼタに向けてゆっくりと頷けば、母は目線を俺と同じ高さに落として優しく俺を包み込む。
さて、今日は剣士としての第一歩だ、ブリッツ家として恥じない動きをしなければな
……いやマジで谷は無いよね?流石に死んじゃうよ3歳の体じゃ…