有職転生〜異世界行ったら…え?三歳で剣を振るんですか?〜   作:KEN・JACK

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迷宮攻略

 

荒野で2人の子供が向き合っていた。

 

片方は一目で業物と分かる青い刀剣を構えた少年だ。剣に精通した者ならば、彼が歳に似つかわしくない凄まじい技量を持っているのが直ぐに分かるだろう

 

もう一方の少女は両の手に小振りの剣を持ち、少年を見すえる。一見暗殺者のようにも思えるが、背に携えた弓を見ればそうでないことは明白だ

 

意を決したように、少女が地面を蹴って距離を詰める。手数を活かしたスピーディな連撃を繰り出すが、その尽くは防がれる

 

対して少年の剣は的確に少女の隙を突いた。得意である剣神流を使わずとも十分に鋭い横薙の一撃を、少女は二本の剣で何とか受けるが…再び大きく距離が離れる

 

距離が離れたのを好機と見た少女は後ずさりながら剣を納め、背の弓に持ち替える。対して少年は鋭い踏み込みで距離を詰めていく

 

放たれた複数の矢は正確に少年を捉えていたが、問題など何も無いというように弾かれてしまう…しかしそれすらも想定内というように少女は再び抜剣する

 

師の教えだ、二刀流の良さは相手の懐に入り込めること。攻めてきたタイミングに合わせてこちらからも攻めれば、自分より長い得物に対して有利になると

 

師の言葉通り最初こそ有利に剣を交えられてはいたものの、力量の差は歴然。次第に少女の剣が少年の剣をいなせなくなっていき、手から剣が弾かれて決着が付いた

 

「上達しましたねサラ、北王とそこまで戦えるとはお見事です」

 

傍で見ていた2人の師である男がぱちぱちと手を叩きながら賞賛の声を上げる。剣皇ではなく北王と言ったのは、少年が北神流しか使っていなかったからだ

 

「ありがとうございます…ジノ、今の私。どこがダメだった?」

 

最近のサラの成長は目を見張るものがある。狩りと修行しかしていないし、環境的にも北神からの直々の教えがあるし…そして何より強さに対する貪欲さが凄まじい

 

「そうだね…こっちのタイミングをずらして来たのは上手かったけど、もっと距離を詰めても良かったかな。近ければ近いほどこっちは戦いにくいし」

 

戦いの後に毎回俺とアレックスに意見を求めてくるのだ。傍から見て分かる事と、実際に剣を交えて分かることを聞き、それを落とし込んでいる

 

実戦形式でやればやるほど強くなる北神流との相性は抜群だった…魔大陸に来る前と今では別人のような強さになっている

 

「私からはこんな所ですね…サラ、貴女はもう上級を名乗って良いでしょう。闘気も使えるようになっていますしね」

 

アドバイスの後、アレックスがサラに上級の認可を与えていた。異論は無い、ここまでなら冒険者としても引く手数多だろう

 

「先生、北聖になるには後どれくらいかかりますか?」

 

上級剣士というのはそれだけでこの世界においての信用も跳ね上がる。中級で1人前と言われてるから当たり前だが…サラはそれでも満足していないようだった

 

「それはサラ次第ですが…焦って強くなるものでもありませんよ。修行だけでは学べない事もありますから」

 

「…じゃあ、迷宮にはもう入れますか?」

 

ならば実戦だというようにサラはそう尋ねた。確かにこの修行はそういう目的で始めたものだ…そして今のサラならば自分の身は守れる筈だ

 

「上級を与えた以上、危ないからダメだと言うつもりはありません…サラが行きたいというのなら明日から迷宮に行っても良いでしょう」

 

アレックスはそう言われると思っていたのか、迷宮へ行く事を許した。アレックスが良いなら俺も構わないが、俺も初めての迷宮だし…少し不安は残る

 

「行きたいです…迷宮が攻略出来れば、私もきっと邪魔にならない筈ですから」

 

サラは迷いなく迷宮攻略の意を示した、一刻も早く…何なら今からでもと言い出しそうな程だ

 

「分かりました…しかし自分の力と、私とジノを過信しては行けませんよ。迷宮では強いからと言って死なないなんて事はありませんから」

 

その言葉に、サラは強く頷いた。心做しか嬉しそうなのは、この状況から先に進めるからだろうか

 

「ジノもそれで構いませんね?」

 

「先生が良いなら、異論はありません」

 

こうして俺達は迷宮攻略に乗り出すことになった

 

街へ到着してから、3ヶ月後の話だった

 

〜〜〜

 

「これが迷宮…」

 

翌朝、準備を整えて向かった迷宮は…街から少し離れた所にあった

 

地面にぽっかりと空いた大穴は、地下へと続く階段のようになっていた。見た目は自然にできた空洞と言った感じだが、普通では無い何かと、好奇心を刺激されるような何かがあった

 

「危険度は大したこと無いみたいですが、昨日も言った通り常識は通用しない場所です…気を引き締めて行きましょう」

 

アレックスの言葉に2人で頷けば、俺達は迷宮に足を踏み入れた

 

迷宮は基本的に階層に別れており、魔物の数や罠も階層が増える事に激しさを増していくという話だった

 

視界が心配だったが、アレックスがどこからか調達してきた精霊のスクロールによって明るく照らされていた…便利だな

 

第一階層に現れたのは髑髏の顔が付いた百足のような魔物、アレックスはスカルセンティピードと呼んでいた

 

毒はあるみたいだが別にスピードがある訳ではないので、難なく対処可能だった。サラも弓でのサポートがかなり上達していたのでかなり戦いやすかったと言っていいだろう

 

それにこの程度なら近付かれてもサラの腕なら問題なく対処出来る。常に心配する必要が無いのは大きい

 

罠もアレックスが見事に見破った。年の功なのか経験則なのか分からないが、彼の目には何か特別な物が見えているのかもしれない

 

「では、ここにどんな罠が隠れているか分かりますか?」

 

ふと、アレックスが問題を出してくる。凝を怠らずに洞窟を見渡すが…探そうと思って見ると全ての所が怪しく見えてくるから不思議だ

 

「…分かりません」

 

「そこの少し色が変わっている所を踏めば、下から棘が出てくる…と思います」

 

「正解です、流石サラは良い目をしていますね。冒険者としての才能はサラが上かもしれません」

 

狩人の目の良さがここで生きたか…珍しくサラが得意気にしていたが、まぁこれは仕方ない。剣と語学しか勉強してなかったしね

 

二階層に移ると、百足の魔物に加えてボロボロのローブに鎌を持った骸骨が出てきた…アレックスによるとソウルブレイカーと言うらしい

 

こいつが現れた途端、百足達が急に統制の取れた動きをし始めた。しかし驚く事はあるまい…アサルトドッグとてターミネートボアの有無で危険度が変わるのだ

 

攻略法は言わずもがなソウルブレイカーを先に叩く。時にはアレックスに潰され、時には俺の剣で真っ二つにされ…不憫な程にボコボコにされていた

 

「ここで少し休憩にしましょうか」

 

開けた場所に出て罠の確認を終えて、アレックスから休憩の号令がかかる。数時間戦い漬けだったので随分久しぶりに腰を下ろした気がする

 

「サラ、体力は大丈夫?」

 

「全然平気、二人が殆ど片付けてくれてるし。まだまだ行けるよ」

 

武器の手入れをしながらサラに尋ねると、強がりではなく本当に平気そうな顔をしていた。この3ヶ月の修行の成果が出ていると言って良いだろう

 

「楽勝だからと言って緊張感を忘れては行けませんよ」

 

一番緊張感を無くしているのは貴方の化け物じみた強さなんですけどね…とは言わないでおいた。余計な事を考えてドジを踏めば目も当てられない

 

三階層では更に魔法を使う骸骨が敵に加わった、遠距離攻撃ができるようになったとはいえ…残念ながら俺は水神流を使える。魔術を跳ね返してしまえば先程より簡単に突破することが出来た

 

それに加えて分かれ道が極端に増えた。守護者が近付いているという事らしいが…サラとアレックスは何故か正解を引き続けた

 

「地面を見れば魔物がどういう動き方をしてるか分かるじゃない、こっちは全く削れてないから行き止まりか罠、こっちは削れ方が凄いから多分巣があるし、残りは一つだけ」

 

「まぁ勘ですね」

 

サラはともかく、アレックスを常識で考える事を止めようと思った俺であった

 

「行き止まりですか…?」

 

「いえ、これが最奥ですね…この魔法陣の先に守護者がいるのでしょう」

 

その後は特に魔物が増えることも無く、バッタバッタとなぎ倒して進んでいくと、祭壇のような物が現れた

 

壁にはデカい山羊のような魔物に人間が平伏している壁画のようなものが描かれ、中央には赤く光る魔法陣があった

 

「守護者…ってことはここを攻略出来れば…」

 

サラが緊張に喉を鳴らしながら呟く。気持ちは分かる…今までは確かに楽勝だったが、その魔法陣が放つ禍々しさには不思議な緊張感がある

 

「行く前に装備の点検をしましょうか」

 

その言葉に従い、俺達は剣やスクロールのチェックを行う。玉響に刃こぼれなど有り得ないが、ここを怠れば死に直結する

 

「守護者次第ですが…2人だけで戦ってもらおうと思っています」

 

さぁ行くぞと意を決した瞬間、アレックスからそんな言葉が飛出てくる。マジかい

 

「心配しなくとも危なくなれば参戦しますよ。それと敵を見て厳しそうなら最初から戦います」

 

成長度合いを試すという意味ではちょうどいいのかもしれないが…魔大陸の迷宮にそんなフランクで大丈夫なのだろうか

 

「…頑張ろうね、ジノ」

 

サラは思ったよりやる気だ、ここで成長を見せて先へと進みたいのだろう

 

まぁ考えたって仕方ないか、俺が誰に鍛えられてきたと思ってんだ…神扱いされてる剣士を三人も師匠に持ってんだぞ、今更魔物がなんだってんだ、かかってこんかい

 

「うん…行こう」

 

俺はサラに対して力強く頷けば、赤い魔法陣に足を踏み入れた

 

〜〜〜

 

そこは丸い空間だった。

 

抜け道の様なものはなく、壁にはよく分からない文字が書かれていた…闘神語かなにかだろうか?

 

奥にはいかにも財宝ですよ〜とでも言いたげな輝きを放つ物がごろごろと転がっており、冒険の終わりを感じさせるには十分だった

 

しかし、それ以上に目線が行くのは…中央に座している魔物だった

 

その魔物は人間のような身体を持っていた。だが真っ赤な肌の色は人外を思わせる…というか悪魔だし、何よりデカい。立てば3mはありそうだ

 

頭は山羊…だろうか、獰猛なその牙と角で分からないが恐らく山羊だ。あの壁画に書かれていたのと瓜二つの顔をしているが…驚くべきは双頭という所だろうか

 

「…予想以上に強そうですが、まぁ問題ないでしょう。それでは二人とも任せましたよ」

 

アレックスは本当に危なくなるまで手を出すつもりが無いのだろう。そのまま端の方にどかっと腰を下ろした。

 

それを見た山羊は左右に刺さっていた大きな剣を抜き、ゆっくりと立ち上がる…凄い威圧感だ、スノードラゴンより強いなこれは

 

「サラ、大丈夫?」

 

「うん…私だってもう剣士だから、心配しないで」

 

若干気圧されてはいるが、目に宿った闘志が消えてはいない…でもこのレベルは本当に危ない。俺一人でやるくらいの気持ちで行こう

 

「ガアアアアア!!!」

 

山羊とは思えない程の咆哮を放ちながら、魔物が距離を詰めてくる。重さなどまるで感じていないような勢いで振り下ろされた剣を、流で受け流す。

 

だが人外故の凄まじい体幹を崩すには至らない。そのまま凄まじい勢いで力任せの連撃を繰り出してくるが…こんなもの水神流の格好の餌食だ

 

しかしこの魔物は闘気を宿しているようで、幾らカウンターを叩き込んでも表皮の硬さも相まって薄皮を切る程度にしかならない…このままではジリ貧だ

 

「はぁぁぁっ!」

 

俺と山羊が剣を打ち合っている間に背後に回ったサラが体重を乗せた回転斬りを首に向かって振り下ろすが…ガキンと言う音が鳴り、傷を付けるに至らない。

 

だが一瞬ヤツの注意がサラに向いた。ほんの一瞬だが、幾万と繰り出した動きをなぞるには、その一瞬で十分だった

 

「光の太刀」

 

居合ではなく、上段に構えた最も威力の出る一撃が山羊の闘気を引き裂き、右肩から入った刃は袈裟懸けに脇腹へと抜けた

 

俺の全闘気を乗せた太刀が入り、山羊は苦悶の声を上げながら吹き飛んだが…それでも両断には至らなかった。剣王の光の太刀を受けてもだ…硬すぎる

 

膝を付いていたのも一瞬。まるでこの程度傷のウチに入らないとでも言いたげに立ち上がれば、煩わしそうにサラに目線をやる

 

力量差を見て突っ込んでは来ないとでも思っていたのかもしれない…すると奴は手に持った剣を頭上で打ち合わせる。

 

それが何かの合図だったのか、どこからともなく先程まで俺らが薙ぎ倒していた百足が現れた…そんなに俺とタイマンしたいのかよ

 

「ジノ、ムカデは私に任せて」

 

「任せた、気を付けて」

 

短く言葉をかわせば、再び地面を蹴って距離を詰める。お互いの目的は一致している…山羊の邪魔をさせたくない百足と、俺の邪魔をさせたくないサラが戦い始める

 

そして山羊と俺の戦いもまた、熾烈さを増していく。しかし基本は膂力に頼った単調な連撃…水神流でいなすのはそう難しくない。

 

更に先程と違って俺の有利な点は、光の太刀で出来た大きな傷だ。

薄皮を切る程度にしかならないカウンターでも、傷に上乗せしてしまえばそれはいずれ致命傷になる

 

段々と山羊の勢いが弱くなっていくのを感じる。蓄積されたダメージが着実に有効打となっている証拠だ…このまま押し切る!

 

「ガァッ!」

 

と思ったが、急に山羊が狂ったように暴れたので距離をとる。最後の悪あがきか…?

 

すると剣を地面に刺し、大きく息を吸う。山羊の口に魔力が集まっていくのを感じるな…これは恐らくブレスだ

 

サラが巻き込まれる可能性を考慮して直線上に立つ。水神流は魔力でさえも流し、切る…ブレス程度造作もない

 

「ガアアアアァァァオオオオアァァァァ!!!!!」

 

たが放たれたのはブレスでは無かった。圧倒的な魔力と声量…だけだ、実害は一切無い。しかしその速度はブレスの比では無く、俺は流すので精一杯だった

 

まさか今のは、獣族の吠魔術…!?直ぐに後ろを振り向くと、サラが力なく倒れ伏していた。魔力を乗せた咆哮は、まともに喰らえば金縛りにあったかのように動きを止める効果があるのだ…まずい!

 

俺は即座にサラの元へ行き、今にも襲いかかろうとしていた百足達を一瞬で切り刻む。

 

だがそれは山羊に背を向けるということ。奴は剣を一本こちらに投擲していた。咄嗟にそれは弾くことが出来たが、それに合わせて振られた奴のもう片方の剣によって玉響が手から離れる

 

「くそっ…!」

 

絶体絶命のピンチ、俺の手から玉響が無くなって勝利を確信した悪魔が…剣を大きく振り上げる。思考を巡らせる中で、腰に付けていた短剣に手が触れた

 

何かあれば守ってくれるようにと、イゾルテに貰った短剣が

 

「はぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

力任せに振り下ろされた剣を流せば、体勢を崩した所にありったけの力と闘気を込めて短剣を振り抜く。短剣だから光の太刀とは呼べないかもしれないが、その刃は正確に山羊の首へと吸い込まれていき

 

不快な悲鳴を上げながら、魔物の首が胴体から離れた

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