有職転生〜異世界行ったら…え?三歳で剣を振るんですか?〜 作:KEN・JACK
翌朝、俺達は迷宮で得た物を換金して移動用のトカゲを買いに来ていた。緑の体皮に6本の足の大きなトカゲだった…創作物の知識を漁っても直ぐに名称が出てこない感じだ
「1番元気な個体を貰いましょうか」
金に余裕がある俺達は1番値段の張るトカゲを買った。凛々しい表情にムキムキの身体、鮮やかな翠色をした美しい体皮…1番良い奴なのは間違いないだろう
「よし…お前の名前は今日からメルエムだ。分かったな?」
「アギャッス」
力量差を悟っているのかメルエムはとても従順だった。アレックスには勿論、俺の命令にも即座に従う。だがサラに対しては少し違った
反抗するという訳では無いのだが、どこか庇うような動きをする時があった。サラが群れの紅一点という事を理解しているのだろう…行動もイケメンとは恐れ入った
「ジノ、名前を付けるのは構いませんが…ミリス大陸に渡る時には連れて行かないのであまり情を移さない方が良いですよ」
だが、告げられた事実はあまりにも残酷であった。メルエムの背に揺られて荒野を駆けている時に、アレックスがふと思い出したかのようにそう話したのだ
というかこの世界には余程のことがないと動物に名前を付けるという文化があまりないらしい。アレックスどころか、サラでさえも名前を付けていることに疑問を感じていた
「だ、大丈夫だよジノ。私はずっと居るから」
俺はそれを聞いて余程落胆した顔をしていたらしい。サラに慰められてしまった…ありがたいけど、別れの悲しみは他では埋め難いものなんだよ…
「メルエム…俺達はズッ友だよな…?」
「ギャオス…」
俺が悲しみに耐えれずにそう尋ねると、メルエムは皆まで言うなという風に悲しげに鳴いた…足取りもどこか重そうだ
「…まぁ税金を払えば運べなくもないです、ウェンポートに着くまでに考えておくことにしましょう」
アレックスに気を使わせてしまったようだ。でもこれは俺悪くないと思うなぁ、魔大陸だけだから割と早く別れるって先に言ってくれよ
「頑張って稼がないとだね」
昨日の一件からサラとの間に感じていた微妙な空気は無くなった。今では全肯定Botのようになって俺の横にぴったりとくっついている
魔物も出たりするが元から俺とアレックスの敵では無いし、サラの成長のおかげかメルエムに危険が及ぶこともなかった
まぁパクスコヨーテくらいならばメルエムの方が強いような気がしなくもないんだけどね
そのまま街を転々としながら南下し、転移事件から10ヶ月程で俺達は魔大陸の港…ウェンポートに到着した
道のりはすこぶる順調だった。
〜〜〜
「凄い…これが海…」
ウェンポートは港町と言うだけあって入口はさほど賑わっていない。しかし海に近付けば近付くほど活気が出ているようだった
坂の多い街並みで、入口から街の全貌が見渡せるのは中々珍しい気もするが、それ以上にサラが目を奪われたのはその奥にある海だろう
前世の知識がある俺からすれば久しぶりに見たなくらいの感覚だが、初めて見たサラからしたらそれはもう感動しているみたいだ
潮騒の音にカモメの鳴き声、そして海上を走る帆船…どこの世界も港は大体同じようだ。
「ジノは驚かないのですね,見たことがあったのですか?」
アレックスは当然見たことがあるのだろう、サラと違って平然と海を眺めている俺に対してそんな事を聞いてきた。
「何度か見たことがありますよ、魔大陸から見るのは初めてですけどね」
というかこの世界で海を見るのは初めてだ、海が赤かったり船が物凄い形をしていれば反応も出来たかも知れないが…今更感動という程では無い
「泳げるかな?そんな時間無い?」
サラは興味津々と言った様子で俺の方を見た、別に多少なら遊んでも構わないと思うけど…
「魔物がいるので遊ぶのには適してないでしょうね。水中戦の訓練になるかもしれませんが」
許可を出そうとした俺を諌めるように事実が告げられる。まぁ港町だしその辺が整備されている訳は無いか…どこか泳げる場所があれば是非行ってみたいもんだな
「浜で遊ぶくらいなら良いですよね?」
「その程度なら気を付ければ大丈夫でしょう」
とはいえたまには息抜きも必要だ、落胆するサラに助け舟を出せばアレックスもそれを察したのか特に止める様子は無かった
「やった!行こうジノ!」
それを聞くとサラは目を輝かせながら俺の手を掴む。気持ちは分かるが先に色々とやる事がある…メルエムを預けたり渡航の準備をしたり宿を探したりしなくてはならない
「ダメだよサラ、先に色々と済ませないと…」
「構いませんよ。夜まで時間はあるし、私一人でも問題はありません。そうですね…日が沈む前にギルド前で待ち合わせましょう」
アレックスはサラに息抜きをさせてあげたい俺の気持ちを察したのか、気を利かせて雑務を請け負ってくれた。師匠にそこまでしてもらうのは申し訳ないが、サラを1人にする訳にも行かん
「分かりました、ありがとうございます」
「ありがとうございます!ほらジノ急いで!」
2人して頭を下げれば、サラに手を引かれて港町の坂を降りて浜辺へと向かった。
〜〜〜
「冷たい!ジノもおいでよ!凄いよ!」
最近は修行に迷宮攻略と張り詰めていたから思わなかったが、こうして海ではしゃぐサラを見ていると…まだ小さな女の子なんだなと実感する
「あんまり奥へ行ったらダメだよ」
裸足になって浜で海の感触を楽しんでいるサラにそう注意をして、俺も再度海を眺める。異世界に来た時から常識なんてもんは通じない事は分かっていたが…まさか世界の反対側にワープするとはね
向こうの世界なら飛行機で直ぐに帰れたのだろうが…いざ自分の足で帰ろうとなれば、世界というのがいかに広いか分かろうと言うものだ
「わぶっ!」
柄にもなく物思いに耽っていると、急に顔面を冷たい衝撃が叩く。それと同時に強い塩味を感じる…そういえば海ってこんな感じだったな
「あはは!油断した!凄いでしょ?しょっぱいんだよ!」
自身も既に味見をしたのか、海のしょっぱさを感じて欲しかったらしい。年相応にイタズラが成功したのを喜ぶかのようにサラはこちらを見て笑っていた
「…やったな!」
「きゃっ!」
お返しとばかりにこちらも靴を脱いで海へ入り、海水をかけてやる。可愛い悲鳴を上げたはいい物の…気の強いサラがこの程度で怯むはずは無い
普通の人がやれば可愛い水遊びだが…俺とサラは北神流の剣士。ただの水の掛け合いがどんどん高度な動きへと変わって行く
そのまま2人で時間を忘れて水の掛け合いという勝負に没頭していたのだが。慣れない砂浜に足を取られてサラが先にダウンする
「はぁ…はぁ…もう、びしょびしょになったじゃん」
浜に座り込み、俺に抗議するようにサラは唇を尖らせる。とはいえ本気で嫌がっている訳では無いだろう、どこか満足気だ
「お互い様だよ、宿に行ったら洗濯しないとね」
俺の方が優勢だったとはいえ、無傷とは行かない。所々不快な濡れ方をしてしまった…アレックスにはしゃぎすぎだと怒られるかもしれない
「お腹すいちゃった、ご飯食べに行こ」
「そうだね…あ」
はしゃげば腹が空くのは自然の摂理だ。俺も港町のグルメを堪能したいという欲望が鎌首をもたげていたので肯定したが…サラの方を見てある事に気付く
透けているのだ、動きやすいように軽装にしているサラの服は…水分を含んでぴったりと肌に張り付いている。下着を付けているから重要項目は隠れているが…運動後の上気した頬と相まってやたら扇情的に見える
機能性重視の下着にまだ少女な分色気は無い…のだが、俺自身肉体が幼いせいなのか、10歳になりかけで性欲が出てきたせいなのか…中々に眼福だ
「ジノ…えっちな目してる」
「えっ!?」
しまった、女の子というのは視線に敏感なのだった。サラは胸を手で庇うようにすれば、ジト目で咎められてしまう…馬鹿な、俺は決してロリコンでは無い…はず…
「…ジノになら見せても良いけど、もうちょっと大きくなってからね」
「す…すみませんでした。でも自分を安売りするのは良くないよ」
「安売りするのはジノだけだもん」
割と爆弾発言だったような気もするが、今は俺への恩義とかで判断が鈍っているだけだろう。まぁ、サラが成長してそれでも尚というのなら…その時は有難く頂くとしよう
将来はきっと美人になるだろうから…俺だって男だからね、美人は抱きたいもんなのさ
〜〜〜
濡れた服を着替えて腹ごしらえを済ませた俺達は、街の中を散策する事にした。
ウェンポートは港町というだけあって魚介を使った料理が発展しており、串焼きのような料理は魔大陸で食った物の中でも一線を画する美味さだった
サラも美味しいとは言うものの、俺程感動していた様子は無い。まぁ日本の味を知っている俺が肥えてるだけで、割りと普通だったのかもしれない
「あの船ってどうやって進んでるんだろうね、前から風が吹いたら進まないハズなのに」
見晴らしの良い場所に腰かけて海を眺めていると、サラがそんな疑問を口にする。なんでどうしての知的好奇心は大事だね
「風に対する帆の角度を調整して進んでるんだよ、揚力って言うんだけど…」
サラに帆船の仕組みを説明しようとしたが、途中で思い留まる。この世界の事だから魔術師とかマジックアイテムで風を起こして進んでそうだ…帆は追い風の時専用とかな気がする
「…魔法じゃないかな?」
「あそっか、風なら起こせるもんね」
説明しといて魔法だと言われたらサラが笑われるかもなのでそういう事にしておいた。詳しい訳じゃないが、こういう知識を伝えていけばこの世界でも科学が発展したりするのだろうか
「ジノが行った海は泳げたの?」
どうやらサラはまだ海で泳ぐのを諦めれていないらしい。正直海水浴はベタベタするから川で泳ぐ方が良いと思うが…まぁそれは経験が多いからとも言えるだろう
「うん、海の家って言う屋台みたいなのがあったり花火って言う光の玉が上がったりして楽しかったよ」
両方この世界には無いかもしれないが、作れないことはないだろう。露店はあるし、花火も魔法で再現出来るはずだ
「良いなぁ〜、私も行ってみたい…泳げてそんな楽しそうなのもあるんだ…どこでやってるの?」
場所か…この世界には今の所存在しない何て答えは出来ないし…
「小さかったから詳しく覚えてないんだ。また調べておくから、分かったら行こう」
「本当!?約束だよ!」
無難な答えだが満足して頂けたようだ。サラの頭の中でどういうイメージが作られているのか分からないが、もし再現すればきっと楽しんでもらえるだろう。
その後も街を歩いて店を見たり浜辺で修行したりと、あまりデートらしく無いことも挟みつつ時間を潰し…約束の時間にギルドの前に赴く
「2人とも海は楽しめましたか?」
すると既にアレックスはギルドの前で待っており、こちらを見てそんな事を尋ねてくる。メルエムの姿は無い、馬屋に預けられているのだろう
「はい!楽しかったです!」
サラはそれに対して元気よく返事をしていた、アレックスは満足気に頷けば、こちらの方を向く
「こちらは少々困った事になりましてね」
かの北神が困った事とは珍しい。大抵の事は何とかしてしまう英雄からそんな言葉を聞けば否応なしに不安にもなる
「実は…ミリスへの船が出ていないようなのです」
それは…本当に困ったな