有職転生〜異世界行ったら…え?三歳で剣を振るんですか?〜   作:KEN・JACK

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北神流奥義

 

「突然変異…ですか?」

 

詳しい話は飯を食いながら話そうという事で、俺たち三人は近くの酒場に入った

 

港町の酒場は活気に溢れており、魚介をふんだんに使った料理やつまみは…思わず酒を欲さずには居られない魅力を放っていた

 

流石に造りや刺身は無いのが残念ではあるが、世界のどこかを探せば生で食うことが出来る場所もあるかもしれない

 

「1ヶ月程前に急に現れた魔物らしいのですが…グレートテンタクルやフォールドラゴンをも喰らうほどに強く、海運ギルドお抱えのSランクパーティでも歯が立たなかったそうです」

 

話の内容は無論ミリスへの船が出ていない事だ。その魔物はミリス近郊の海に出没し、ここ1ヶ月暴虐の限りを尽くしているらしい

 

「海上での戦いの専門とも呼べるパーティが敗れたとあれば、報酬を釣り上げても冒険者は寄り付かず…今はミリスが動くのを待っている状況と言うわけですね」

 

そんなに凶暴な魔物が急に現れるものなのだろうか…話を聞くに竜をも食らっているのなら並の強さでは無いはずだ、そうなるとやはり要因は…

 

「もしかして、転移事件の影響ですか?」

 

俺の考えを見越したように、サラがアレックスにそう尋ねる。しかし北神は首を横に振れば

 

「今はまだ何とも言えませんね。何せ私が生きていた中では初めての災害ですから…ただ無関係とも言えないでしょう」

 

正確な事は分からないが、恐らくそうだという風に締めくくった。それと同時に木製のジョッキに注がれた酒を飲み干す…羨ましい、せめて12になるまではと我慢している俺の身にもなって欲しい

 

「それで…僕らで討伐すると言ってきたのですか?」

 

話の流れ的にそういう事だろう。北神が居て魔物に勝てないなんて事は無いはずだ…もし勝てなければ何を連れてくれば良いんだ

 

「…いえ、そんな話はしていませんね」

 

俺がそう尋ねると、アレックスはバツが悪そうに目を逸らす。やっぱそうなるか…とでも言いたげなリアクションだ、何かあるのか?

 

「北神の名前を出したら船くらい貸してくれると思いますけど…」

 

「引退した身であんまり名前を使いたくは無いんですよね…なのでジノの名前を使わせてもらおうと思ったんです」

 

普段アレックスはシャンドルと名乗ってる。それは引退したから目立たないようにというあれなので、俺の名前を使って事を進めるべく戻ってきたという訳か

 

「それは良いですけど…僕の名前で船を出してくれますかね?」

 

「迷宮の踏破もジノの名前を出しておきましたから、そこは大丈夫だと思いますよ。そうと決まれば明日また海運ギルドに行きましょうか」

 

魔大陸に来てから戦ってばかりだな…とは思ったが、アスラにいたままでは出来なかった修行であることは間違いない。

 

楽しそうに酒を飲むアレックスと、珍しい魚介に興味津々なサラと共に、この日は久しぶりに夜遅くまで楽しんだ

 

〜〜〜

 

「すごーい!ホントに私海の上を走ってる!」

 

翌朝、海運ギルドに話を付けに行った俺達は凄まじい歓迎と今出せる一番いい船を貸してもらった。

 

ギルド長には船はどれだけボロボロにしても構わん、だから頼むと熱く背中を押されてしまった。アレックスが居るので負けるとは思わないが、張り切ってしまうね

 

「ジノ!今魚が跳ねたよ!見た?!」

 

サラはというと初めての船で大はしゃぎだ。少しだけ船酔いの心配もしていたが、それは杞憂に終わったようで…あらゆる場所から海を眺めたり船の装備を確認したりしていた

 

ミリスまでは約5日間の航海だ、なので例の魔物が出てくるまでは4日ほどの猶予があるらしい。それまでは取り敢えずこの船旅を楽しむとしよう

 

「こんな贅沢な船の使い方をしたのも久しぶりですね」

 

アレックスはと言えば船を少し懐かしむような事を言っていた、まぁ討伐が目的で乗組員と俺達以外は乗っていない。大きな帆船にも関わらずだ

 

それに討伐が終了すればタダでミリスまで行ってくれるサービス付き…確かにこれを贅沢と言わずに何と言おうかという感じではある

 

お金が浮いたのできちんとメルエムもミリスに運ぶことが出来た。手続きがあるから一緒の船には乗れなかったが、後から回収する手筈になっている

 

「取り敢えずは時間を潰しましょう。軽く訓練でもしましょうか」

 

船旅と言っても催し物がある訳では無い。修行して他愛も無いことを話す…景色が海へと変わっただけだ

 

たまに水色のデカい蛸が出たが、サラが触手に捕まって卑猥な事になる訳でもなく…アレックスの棒で叩かれて一撃で逃げていった

 

「暇だね…」

 

旅と違うのは圧倒的な暇さだ。最初こそはしゃいでたサラも3日目ともなると海に対する興味を無くしたようで、修行が終われば特にする事も無い船旅に辟易としている

 

「また昼寝でもする?」

 

「もう眠くないよ…ジノが読んでる本も読めないし…」

 

見張り台に横になって本を読んでいる俺にぴったりとくっついて寝そべりながら、サラは文句を言う。

 

昨日までは一緒に寝ようと言って頭を撫でてやればすぐに可愛い寝顔を披露してたんだが…流石に限界か。俺の読んでる本もウェンポートで買った魔神語だし

 

「分かった。じゃあこれは作り話なんだけど」

 

この世界にも御伽噺の類はあるが…それは大体過去の偉人とかの実話っぽい感じで語られている。

 

というかフィクションという概念があまり発達していないのだ。まぁ地球で言うところのフィクションがこの世界の現実だから当たり前何だけど…

 

かと言って馬より早く走る鉄の塊や、大量の人を乗せて空を飛ぶ巨大な鳥の話をしても意味がわからないだろうし…俺は元の世界の童話をサラに語る事にした

 

本を閉じて語るのはアンデルセン大先生の人魚姫。俺の脳内では青髪のショタが悪態を吐いていたが、実際のアンデルセンは異世界にまで話が広まって喜んでいるに違いない

 

うろ覚えの部分もあるので正確に伝えられたかどうか分からないが、暇を持て余したサラは興味津々といった様子で俺の話を聞いていた

 

「…それ、ジノが考えたの?」

 

「いや、流石に違うよ。俺もお母さんから聞いただけで、誰が作ったか分からないんだ」

 

元の世界での有名な童話はこの世界の人間にも中々刺さるようだ。ミュージカル形式でライオンキングとかしたら大儲け出来るかもしれないな

 

「自分の全部を捨ててでも、幸せを願える人かぁ…切ないけど綺麗な話だね」

 

サラももうすぐ13歳になる。この世界の成長の速さは自分含めてどうも慣れないので面白いと思うか不安だったが…楽しんでもらえたようで何より

 

「それだけ好きになれる人が居るっていうのは幸せかもね。例え結ばれなかったとしても」

 

俺は前世ではそこまで本気で誰かを好きになった事は無かった気がする。いつか聞いた自分を愛せない奴は人を愛せないという言葉…まさにその通りだと思う

 

「…ジノはどんな人を好きになるの?」

 

随分難しい事を聞いてくるもんだ、確かにジノ・ブリッツとしては本気で生きているから前世よりは自分を愛せているかもしれないが…正直それは分からない

 

「うーん…何があっても俺の事を好きでいてくれるなって思わせてくれる人、とか?」

 

答えになっていない気がするが、可愛い人とかおっぱいがデカい人とか答えるよりはマシだろう…好きになった人が好きなタイプになるんだと結婚した奴も言ってたし

 

「私は何があってもジノの事、嫌いにならないよ?」

 

「ありがとう、サラと居ると自信が付くよ」

 

サラはそうじゃないのに…というような顔をしながらどういたしまして、と少し素っ気なく返事をした

 

いつかサラの気持ちにも答えを出さないと行けないが…それはアスラに帰ってからだ

 

俺の脳裏にはニナとイゾルテの二人の顔が浮かんだ…イゾルテはともかく。ニナは俺の事はもう忘れてるかもしれないな

 

…剣だけに生きる事がないようにと動いていたが…少しフラグを建て過ぎたかもしれない…

 

〜〜〜

 

「さて…そろそろミリスが近いです。今日は警戒態勢で行きましょう」

 

5日目の朝、いつもなら件の魔物が現れるであろう海域に入った。

 

甲板に集まった俺達3人は、装備を整えて奴が現れるのを待つ…辺りには昨日までとはどこか違う緊張感…いや違うな、不気味な静けさが漂っていた

 

まるで生き物が食いつくされてれてしまったかのようだ。跳ねる魚はおろか、今まで飛んでいた海鳥すらも姿を消している

 

「…見られていますね、正確には狙われているというべきでしょうか」

 

「はい、魔物が出せる気配とは思えませんね」

 

アレックスが言った事は俺にもよく理解出来た。この落ち着かない感じ…何者かが害意を持ってこちらを捕捉している時だ

 

「来た!」

 

いち早く察したのはサラだった。彼女の狩人の勘というべき危機管理能力は、不死魔族であるアレックスを凌駕する

 

現れたのは無数の触手…というよりは触腕だろうか、赤黒く巨大なそれは先端に三本の鋭い牙を備え、船に絡み付く

 

「ジノ!」

 

アレックスの声と同時に、俺は抜剣する。連続で光の太刀を放ち、近くの触腕から順に切り飛ばす。強度は中々の物だが、玉響と光の太刀が合わさって切れない物など無い

 

触腕は黒い血を撒き散らしながら海へと帰っていく…魔物の正体はこの触手なのか?

 

そんな俺を嘲笑うかのように、次の瞬間海面から本体が現れる…それは鯨のような神秘的な鳴き声を辺りに響かせながら浮上してきた

 

マッコウクジラのようなそれは、額の部分に大量のレンズのような物を備えていた。開かれた口には無数の牙が並んでおり、鯨の温厚というイメージとはかけ離れたものだった

 

何より、その巨体は立ち泳ぎのような状態でこちらを見下ろしている。周囲には先程切り落とした触腕が蠢いており、少しづつ再生しているように見えた

 

「むんっ!」

 

本体が見えた次の瞬間、アレックスが跳躍して棒を振るう。

 

凄まじい轟音と共に魔物が吹き飛び、水飛沫と共に姿が消える

 

「…硬いですね、カジャクトがあれば今のでケリが付いていたんですが…私もまだまだのようです」

 

アレックスは着地しながら残念そうにそう告げる。今ので終わっていないのか…末恐ろしいな

 

「ジノ、丁度いい相手です。硬いし的もデカい…君ほどの才能があればそろそろ破断を使えるようになっても良い頃合です」

 

破断か…ずっと練習はしてきたが、俺は未だに掴みきれていなかった。光の太刀を習得しているからなのか分からないが…どうしてもそこの差別化が出来ない…というか、アトーフェやアレックスのような威力が出ないのだ

 

「というか今ので分かりました。ヤツの硬さと再生力を上回るには、魔剣クラスの破断でもなければ不可能です…私とサラで隙を作るので、ぶち込んでやりなさい」

 

「成功した試しはありません、先生が玉響を使った方が確実です!」

 

今は未曾有の魔物が相手だ、海上という要素もある…ここで博打をするのは危険だ、どう考えても得策では無い。そう伝えるが、アレックスは意見を変えることは無かった

 

「私はそうは思いませんね。ジノの中にはもう、剣がある筈です…サラ、君の剣では奴にダメージを与える事は難しいでしょう。弓で目を狙ってください…奴の攻撃は私が何とかします」

 

「はい!」

 

サラも、俺が攻撃を任されることに何の疑問も抱いていないようだった。アレックスの指示に従って剣を納め、弓を装備する

 

次の瞬間、先程とは反対側に魔物は現れた。触腕は再生が終わっており、北神の一撃によって凹んだ部分も元通りになっていた

 

凄まじい猛攻だった…触腕だけではなく、本体は魔術をも使ってきた。氷の槍のような物が降り注ぎ、触腕の牙は鞭のようにしなって襲い掛かる

 

その全てを、アレックスは1人でいなしていた。魔術は叩き落とし、触腕は文字通り弾き飛ばす…サラは正確に奴の目を射抜いていたが、再生の方が早い

 

恐らく、アレックスの棒術もサラの弓も大したダメージにはなっていないのだろう。ならばいずれはこちらが負ける…俺が奴を一撃で仕留めるしかないのだ

 

どうする…どうすれば良い、俺は何故あそこまでの威力が出ないんだ…

何が足りないんだ…?

 

俺は目を閉じて、破断の口上を今一度思い返す

 

「両の腕で齎さん、有りと有る命を失わせ、一意の死を齎さん」

 

死…死か、思えば俺はこの世界に来てから…誰かを殺したことは無かった。前の世界とは違い、死がすぐそこにある世界で…剣の皇の称号を得ながら

 

ただこの身体の才能のままに剣を振っていた。ガルに発破をかけられて人を斬れるようになれど、命を奪うことの重みを理解せずに…魔物は斬るものだからと盲目的にだ

 

そこに乗っているのは技術だけ…アレックスが言う全てを、乗せられている訳では無かったのかも知れない

 

初代北神は、何故この技を編み出したのだろうか…どうしても殺したい相手がいた?違う。自らの剣の極致が、望みを叶える事だと、災いを断つ事になると…信じていたからの筈だ

 

俺はこの日、初めて命を絶つ自覚を持ち…剣を振るった。

 

「右手に剣を」

 

甲板を蹴って駆け出す。そのまま攻撃を防ぎ続けるアレックスの横を通り過ぎて跳躍する

 

「左手に剣を」

 

右手だけではなく、左手でも柄を握り締めて…上段に構える。乗せるのは闘気のみならず…文字通り俺の全てだ。全てを、剣に乗せる

 

「両の腕で齎さん、有りと有る命を失わせ、一意の死を齎さん」

 

光の太刀を初めて使った時のように、視界が白く染まる。周りの動きがスローに変わり、魔物が口を開いたが…もう遅い

 

「北神流奥義…破断!!」

 

次の瞬間、北神流最高の奥義が放たれ…魔物の赤黒い巨体は真っ二つに切り裂かれた

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