有職転生〜異世界行ったら…え?三歳で剣を振るんですか?〜   作:KEN・JACK

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ノルンとルディが本当の兄妹になった瞬間、感動しましたね


【第四章】帰還編
救世主


 

「見事ですジノ、遂に不治瑕北神流を物にしましたね」

 

アレックスはぱちぱちと拍手しながら賞賛の声をくれた。鎧は所々傷が付いていたが、本人は至って元気そうだ…かなりの猛攻を捌いていたにも関わらず、末恐ろしいな

 

「真っ二つ…こんなの人間が食らったらひき肉になっちゃうんじゃないの…?」

 

サラはと言えば2つに別れた魔物の死体を見て軽く引いていた。まぁ俺より威力が出るアトーフェの破断も水神流である程度受けれたし、増長はすまい

 

「正直連発は出来そうに無いですね…流石は初代北神の技です」

 

凄まじい威力を出したという自覚はある。アレックスの攻撃を食らっても凹む程度で済む魔物を切ったにも関わらず、まるで硬いと感じなかったのだ

 

それ故の反動か少し手が震えている。暫くは激しい戦闘は出来そうに無いな、これを連発してくるアトーフェがどれだけ危ないか分かる

 

「死体はこのままでいいんですか?」

 

真っ二つになって動かない魔物を見ながら、サラがそんな疑問を口にする。確かにこんなのがいきなり現れたら腰を抜かす自信がある

 

「何とかしたい所ですが、大きすぎて無理ですね。今はこの辺りの魔物はこいつに全滅させられてるので無理でしょうが…戻ってくれば食ってくれるでしょう」

 

海にも掃除屋みたいなのがいるのか…と何となく口にすると、アレックスが詳しく話してくれた。死体を好んで食う硬い虫のような魔物がいるらしい。多分クソデカグソクムシなんだろうな

 

「取り敢えずはミリスに向かいましょう。船での生活も悪くは無いですが、そろそろ大地を踏みしめたいですからね」

 

アレックスがそう言って船員に声をかけようと踵を返した瞬間、俺の背に粟立つような悪寒が走る。殺気を向けられたのとは少し違う…何かを見落としているようなそんな嫌な予感だ

 

魔物を見ても間違いなく絶命している。海の上にそんな危険な状況を作るような何かがある訳は無い…鯨から人型が出てくるなんて聞いた事ないし…

 

「鯨…」

 

声に出した瞬間、血の気が引くのが分かった。触腕がある事を除けば、こいつは非常に鯨に似ていたのだ…前世で見た動画、鯨の死体は腐敗が進むと破裂する

 

魔物とは通常の生き物が魔力によって変質して生まれるものだ…転移事件の莫大な魔力で変質し、その性質を受け継いで魔物になっているのだとしたら、こいつは…

 

「急いで船を出してください!こいつは爆発するかもしれません!」

 

アレックスは何故?という顔をしている、この世界では鯨の死体が腐敗するまで放置される事は無いのだ…この巨体が魔力を持って爆発するとすれば、その規模は計り知れない

 

俺の最悪の予想は当たり、急激に魔物死体の内側から莫大な魔力が渦巻くのを感じる。船は発進したが…とてもじゃないが間に合わない!

 

「くそっ!」

 

俺は船から跳躍し、玉響を構える。このままでは船ごと吹き飛んで皆お陀仏だ…なら水神流を使える俺がこの魔力を何とかするしかない

 

それと同時に、魔物の死体が爆ぜる。転移事件程では無いが、魔力の奔流が辺りを白く染める。俺は軋む体に鞭を打って、玉響でそれを受ける

 

巨大な鉄球をバットで打ったかのような衝撃が走る。完全に殺し切るのも流すのも不可能だ。これだけ巨大な力…少し、ほんの少しだけずらせれば…船に致命的なダメージが行くのを防げるはず!!

 

「うおおおぉおおああぁああ!!!!!!」

 

破断で掴んだありったけをぶつける感覚で何とか船への直撃は避けたが、肝心の俺への衝撃を流す事を考えておらず…俺は意識を手放した

 

〜〜〜

 

「…い、じょう…か!おい!」

 

声が聞こえる。瞼がやけに重いので、僅かな光しか捉えることが出来ない…しかも全身が痛い、指を動かすのも億劫な程だ

 

「おい!死んじまってるのか!?やべぇな…スクロールの手持ち何てねえぞ!」

 

段々聴覚も戻ってきた、少し軽薄そうな印象を与える男の声が聞こえる…死んでないと伝えたいが、中々声が出ない

 

「いぎでまず…」

 

「うぉっ!大丈夫かお前!なんでそんな傷だらけなんだ!?」

 

何とか声を絞り出して目を開ければ、そこには猿顔の男がこちらを覗き込んでいた…いや、猿顔にも程があるだろ…猿の魔物か?

 

「船の上で…デカい魔物と戦って…」

 

「デカい魔物って…魔大陸に行く船を襲うバケモンか!?その歳で何て無茶しやがる…いや、食われなかっただけマシか…」

 

猿は心底驚いたように目を丸くしたが、すぐに俺が幸運だったかのような事を言い始める、失礼な…きっちりやっつけたんだぞこっちは

 

「倒した後…爆発したんです」

 

「倒したってんな馬鹿な、Sランクパーティーが成果なしで壊滅だぜ?お前みたいな子供が…いや待て、お前まさか剣皇か?」

 

子供の冗談を諌めるような口調だった男は、視線をずらして俺が死んでも離すまいと握り締めていた剣を見ると突然正体を暴いてきた…目は良いのか?

 

「はい…ジノ・ブリッツです…」

 

「こいつは驚いた…てことはホントに化け物退治してくれたのか…英雄を死なす訳には行かねぇ、捕まりな!」

 

男は善は急げというように玉響を拾えば、慣れた手付きで俺をおぶって走り出した。助けてくれるのか…ありがてぇ

 

「すみません…助かります…」

 

「なに、有名な剣皇に恩を売れるんだ、このギースの名前を覚えていてくれりゃそれで良いって」

 

周りを見ると、そこは砂浜だった。どうやら逸らし切れなかった分の爆発に巻き込まれて吹き飛んで…ここに流れ着いたって訳か

 

「ここは、ミリス大陸で良いんですよね?」

 

「そうだ。仲間とかは居なかったのか?」

 

「多分ザントポートに居ると思います。俺が上手く流せていたらの話ですけど」

 

取り敢えず俺はギースに事の顛末を全て話した。倒した後に爆発しそうになったので俺が水神流の奥義で船を守ったこと、結果吹き飛ばされて流れ着いたであろうこと

 

「にしてもザントポートの手前で爆発してここまで流れ着くって…相当吹っ飛んだんだな、化け物の魔力で海の魔物が寄り付かなかった事が幸いだぜ全く」

 

なるほど…俺が食われなかったのはそういうカラクリか。竜をも食うんだもんなあいつ、それが残ってりゃご馳走にもありつかないか…マーキングかもしれないしな

 

話を聞けばここはザントポート…ミリス大陸の港からは結構離れているらしい。そこまで俺を運んでもらうのは些か申し訳ないが…

 

「仲間に無事を伝えたい気持ちも分かるが、一先ず怪我の治療だ。遅れたら取り返しがつかないかもしれねぇしな。ここからなら獣族の村が近い、そこの知り合いに掛け合ってやるよ」

 

顔に出ていたのか、ギースに諭されてしまった…正直早く合流したいところではある。

 

アレックスが居るから大丈夫だとは思うが、最近のサラのベッタリ度を考えると大泣きしてそうで心配だ

 

「心配すんなよ、村で話をつけたら俺がザントポートまで走って仲間を迎えに行ってやるから…どんな奴らなんだ?」

 

「助かります…黄土色の鎧を身に付けて棒を持った強そうなおじさんと、弓と短剣を持った金髪の女の子です」

 

「おぉ…そりゃまた珍しい装備したパーティだな…」

 

まぁ弓何て殆ど使ってる人居ないし、戦士でも棒使ってる何て中々居ない。とはいえこれ以上は伝えようがないから仕方ない

 

「ギースさんはどうやって俺を見つけたんですか?」

 

「転移事件があっただろ?知り合いがそれの捜索団の指揮を取ってんだ。だから大森林の知り合いを回って転移の被害者が居たらそこに連絡してくれってお願いしてんだ、その途中でお前さんを見つけたって訳よ」

 

この人…めちゃくちゃ良い人じゃないか!俺を助けただけでなく、知り合いの為にわざわざ足を運ぶとは…

 

「良い人なんですねギースさん…俺も見習いたいくらいです」

 

「大したことねえよ、俺に出来ることは誰でも出来ることだ。けどなジノ、お前がした化け物退治は誰にでも出来ることじゃねえんだ…そのまま強さを極めてりゃ良い、それが誰かの為になる」

 

出来るという事といざ行動に起こせる事はイコールでは無い。そこには大きな壁がある…それを乗り越えれる人間は強い

 

それが出来る人に褒められるというのは中々気分の良い物だ、今は指一本動かせない程にボロボロなので最高の気分とは行かないが

 

「…すみません、少し眠っても良いでしょうか」

 

自覚すると凄まじく瞼が重くなってくる。身体が休んで早いとこ復活しようとしているのだろうか

 

「おう、構わねえぜ。俺は戦闘はからきしだけどこの辺りの魔物には捕まらねえから安心しな」

 

俺はお言葉に甘えて、ゆっくりと視界を暗転させた

 

〜〜〜

 

何か…身体が重い…傷だらけで動けない感覚とはまた少し違う。

何かに乗られているような感じがする…

 

だが固くは無い。柔らかい何かに乗られているのだ…よく分からないが脳裏には幸せな重みという言葉が浮かぶ。ホントに意味は分からないのだが

 

「え…?」

 

「ウォンっ!」

 

目を開けると、何故かモフモフの白い大型犬が俺にのしかかっていた。そいつは俺が目を覚ますと嬉しそうに鳴き声を上げる…なんじゃこいつ

 

「聖獣様は目を覚まされたことをお喜びになっております」

 

俺の不思議そうな表情を察したように横から流暢な獣神語が聞こえてくる。声の方を見れば獣族のお姉さんが傍らに立っていた…看病してくれていたのだろうか

 

俺は木造の家屋のベッドに寝かされてた。ボロボロだった服は着替えさせられており、傷も完治とは行かないがかなり良くなってる…ギースの言葉を信じるならここは獣族の村か?

 

「傷はお姉さんが治してくれたのですか?」

 

「私ではありません、治癒魔術を使える者が行いました。私は聖獣様の付き添いです」

 

さっきから聖獣聖獣言ってるが…こいつが聖なる獣?人懐こい白い犬にしか見えんけど、実は俺くらいでは手も足も出ない程に強いのだろうか

 

「くぅーん?」

 

俺が顔をじっと見つめたままアクションを起こさないのを不思議に思ったのか、聖獣は可愛らしく泣いた後に俺の顔をベロベロと舐め回す…こいつ、抵抗出来ないのを良いことに…

 

「それで…ここは獣族の村で良いんですよね?何故聖獣様が俺の元に?」

 

「そうです。何故かは分かりませんが…貴方の剣が運ばれているのを見た聖獣様が、持ち主の元へ連れて行けと仰ったので」

 

仰ったって…わんとくんだけでどうやって意図を酌んだんだよ。犬と会話出来るマジックアイテムでもあるのか?

 

「…聖獣様、何かご用ですか?」

 

「わふっ」

 

うん、分からん。どれだけ剣を振るのが早くなっても犬とは会話できない事が分かった。ちらりとお姉さんの方を見れば

 

「盟友の無事を確認したかっただけだと申しております」

 

…ほんとかなぁ、お姉さんが適当言って遊んでるだけじゃないのかこれ。何で初対面の聖獣に盟友扱いされてるんだ俺は

 

「俺、盟友なんですか?」

 

「わふん!」

 

勘違いだったごめん!と言ってる顔には見えない。聖獣様は非常に嬉しそうな笑顔を浮かべて再びベロベロと俺の顔面を舐め回す…なんやねんホンマ…

 

「会えて嬉しいそうです」

 

「今のは何となく分かりましたね」

 

流石は異世界だね、剣しかない場所に生まれたかと思えば、いきなり世界の裏側に飛ぶこともあれば、聖獣とかいうビッグネームに急に盟友扱いされることもあるようだ

 

だが心当たりが無いこともない。ヒトガミが言っていた勇者という単語、それに盟友…つまり俺が聖獣と手を組んで龍神と戦うという展開なのではないだろうか

 

「聖獣様、俺は勇者なんですか?」

 

「わうん?」

 

「違うそうです」

 

違うんかい!ほんのちょっと辻褄が合ってワクワクしてた俺の気持ちを返してくれよ…可愛く首をかしげているが、顔は何言ってんだという感じだ

 

「わうっ!」

 

「ですが…聖獣様はこうも仰っています」

 

お姉さんは落胆する俺に対して淡々と言葉を続ける。

 

「貴方は救世主にとって、とても大切な役割を持つ人間だと」

 

それは、この世界の俺の役割が動き出した瞬間だった

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