有職転生〜異世界行ったら…え?三歳で剣を振るんですか?〜 作:KEN・JACK
ノルンの転け方ちょっと面白かったですな
聖獣というのは数百年に1度生まれる魔獣の一種ということらしい。
正式名称は無く。世界が危機に瀕した時に生まれ、大人になれば救世主と共に旅立ち、その強大な力で世界を救う…と言い伝えられている
その聖獣のお世話をしているのが獣族。猫耳とか犬耳とか付いている1番ポピュラーな獣人の皆様だという訳だ。
ちなみに2m近いサイズを持ちながら大人になるには後100年程かかるとの事だったので、まぁ俺が言い伝えの救世主では無い事に間違いは無いだろう
ヒトガミの言う勇者と救世主とは別なのか、何かしらを捻じ曲げて伝えているのか…それは分からないが、奴を完全に信用するのはまだ早いだろう
さて、俺が獣族の村…ドルディア族というらしい人達の元でお世話になってから5日程が経過した。そして今は例の聖獣様と親睦を深めている状況だ
「ウォンっ!」
「今日の晩飯はガッツリしたものが食べたい…ですね?」
「全然違います」
怪我はすっかり良くなったので部屋に聖獣様を招き、何とか意思の疎通を図ろうとしているが…やはり獣族で無ければ聖獣様の高貴なお言葉は理解できないようで、全くわからん
通訳のお姉さんはどうやらお世話係という事で聖獣様から離れる事は出来ないらしい。毎回こんな茶番に付き合ってもらって申し訳無いね
「失礼する…聖獣様、今日もこちらに居たのですね」
なんて事をしていると、筋骨隆々の獣人の男が部屋に入ってくる。その男は部屋にいた聖獣を見て頭を下げた
「盟友殿、怪我の調子はどうだ?」
「お陰様でかなり良くなりました」
次に目線を俺の方へとやり、容態の確認をしてくる。うーむ、しかし惚れ惚れする肉体だ、俺もかなりムキムキな自信あるが…10歳だからかカッコ良さが足りん
「申し遅れた。私は戦士長のギュエス・デドルディア、雨季が近い故挨拶が遅れた事を詫びよう」
「とんでもないです、剣皇ジノ・ブリッツと申します。突然の来訪にも関わらず治療頂けた事を感謝致します」
俺は居住まいを正すと、いつも通りの剣神流の礼を行う。聖獣様の盟友とあってか、俺の扱いは悪くない
にしても雨季か…確かミリス大陸の大森林、つまり俺が今いる村のあるデカい森には3ヶ月ほど雨が降り続ける異常気象がある。それの準備ともなると確かに大忙しだろう
「聞けば航路を妨げていた海の化け物を討伐したとか…流石は聖獣様の盟友だ」
「1人の力ではありませんが…お褒めに預かり光栄です」
俺の破断が完成するまで、アレックスとサラにはかなりの負担を強いてしまった。あの二人なくして討伐は不可能だった筈だ
「それで…一体なんの御用件ですか?」
聖獣様の盟友とはいえ戦士長何て偉い人が忙しい時期に挨拶だけしに来るとは思えない。忙しいから出ていけとでも言われるんだろうか…まぁそれも仕方ないか
「先程も言ったが、今村は雨季の準備で忙しくてな…盟友殿の武力をお借りしたいのだ。聖獣様、よろしいですか?」
「わふっ」
「ありがとうございます」
どうやら聖獣様は許可を出したらしい。俺の返答はまだなんですけどね…
とはいえまだ二人は来ないし、治療のお礼もしたいと思っていた所だ…出来ることがあるなら手伝うとしよう
「分かりました。ただ我々も急ぎますので…雨季に巻き込まれない程度にお願い出来ますか?」
「勿論だ、協力感謝する」
こうして俺は獣族の村を助ける事になった。2人も…俺が世話になったからだと言えば納得してもらえるだろう
〜〜〜
獣族の村は、木の上にある。雨が降り続いて地面が大洪水になっても暮らして行けるように考えられてのことだ
木の上に家が建てられている様子は非常に趣深い物があった。向こうの世界にあれば一泊数万の有名観光地に出来そうである
当然それに伴って足場や、木々の間を伝う橋もかけられている。地面に降りなくても問題なく生活できるようになっているんだね
「盟友殿には、魔物の討伐をお願いしたい」
ギュエスから仰せつかった任務は討伐だった。何でも雨季を乗切る為に食料の備蓄を大量に作っておかなくてはならないとか…冬眠みたいなもんかね
とはいえ、ミリスの魔物は魔大陸に比べるとてんで大した事は無い。倒しても分裂しないし酸も出さない。石化させてくるような奴も居なければ池に擬態しているスライムも居ない
森に溶け込めるよう緑っぽい虎とか、水に巣を作るデカい群れの蜥蜴くらいのもんだ、これくらいなら甘く見積もって上級の獣族戦士団でも何ら問題は無いレベルだ
「凄まじいですね…流石は聖獣様のご盟友…」
最初は人族の子供に狩りが務まる物かと言う顔をしていた戦士団の皆様も、1時間もすれば羨望の眼差しを向けてくれるようになった。剣は便利だね、実力さえあれば舐められない
1人増えただけなのに3倍の成果だと戦士団にヨイショされながら村へと戻れば、無事に終わった事の報告をしにギュエスを探していると…見慣れた2人が見えた
「あ…先生!サラ!」
俺が声を上げて手を振れば、サラは途端に泣きそうな顔になって凄い勢いでこちらに突撃してきた。剣皇の意地で何とか後ろに倒れることは無くサラを抱きとめる
「良かった…私、一人になっちゃったんじゃないかって…怖くて…不安で…どうしようもなくて…」
「…ごめん、でも無事で良かったよ。あの時はああしないと皆海に放り出されてたかもしれないから」
胸の中で泣きじゃくるサラの髪を撫でながら、宥めるように背中を叩く。最近は元気だったから忘れていたけれど…サラの家族はもう居ないんだよな
「自己犠牲は感心しませんね…と言いたい所ですが、あの爆発は水神流の奥義でもなければどうしようも無かったので助かりました。本当は私が盾になるべきなのに…不甲斐ない師で申し訳ありません」
アレックスもゆっくりとこちらに近付いて来て頭を下げる。だが言った通りあの爆発をどうにか出来たのは俺だけだった…誰に落ち度があるという訳でも無い
「過ぎたことです、皆無事だったんだから良しとしましょう」
「アギャス」
俺がアレックスに返事をするとほぼ同時に、背後からにゅっと巨大な影が現れる。先程蜥蜴を狩りまくっていたのが申し訳なくなるフォルムをしているそいつは、俺を見て擦り寄ってきた
「メルエムも無事だったか…良かった」
こいつに関しては船に乗るだけだったからそんな心配していた訳では無かったが、我らがペットも無事にミリス大陸へと到着していたらしい。凛々しいお顔は健在のようだ
「ギースさんは…一緒に来なかったんですか?」
「村までは一緒だったんだけど。他の集落に用事があるからって」
改めてお礼を言う機会は無かったか。だが彼は俺に恩を売れたからそれで良いと言ってくれた…何か困ったことがあれば頼ってくるだろう
「それで…出発はいつにしますか?」
「その事についてなんですけど…」
俺は看病してもらったお礼として雨季の準備を手伝う事を伝えた。当然3ヶ月は待てないので雨季に巻き込まれる前には出れるようにしている事も
「ふむ、まぁジノが決めたのであれば異論はありません。私は素質のある人でも探しておくとしましょう」
「…私はジノに付いていくからね」
アレックスは相変わらずだが、サラはもう簡単に離れてくれそうに無い雰囲気だった。まぁあのレベルの出来事は滅多に起こらないと思うけど…
「とりあえず、戦士長に2人を紹介します。付いてきて下さい」
ギュエスは2人を紹介すると、快く滞在を歓迎してくれた。獣族は余所者を嫌うと聞いたが、聖獣様パワーだね
サラは言った通り俺の狩りの手伝いを、アレックスは村の警備を担当する事になった。ギュエスによく似たおじいちゃんである族長に耳打ちして戦士を鍛える許可も得ていた。正体を明かしたな…
こうして、2ヶ月程の大森林滞在が決定したのであった
〜〜〜
「それで…何で俺とサラは2人部屋なの?」
「先生が族長様の家に泊まるからだよ?」
いやまそりゃ分かるけども…ギュエスと族長のギュスターヴは、アレックスの正体を聞かされて目の色を変えていた。今頃酒でも飲みながらさぞ盛り上がっている事だろう
俺が部屋に戻ると、何故かサラも付いてきてここに泊まると言い出したのだ。しかもギュエスに話を通しているという徹底ぶりだ
「それは分かってるけど…男女同室はまずくない?」
俺がベッドに腰かけると、サラも同じように隣に座ってくる
「何で?今までも宿は1部屋しかとってなかったでしょ?」
いや…そりゃ確かにそうなんだけどよ。保護者が居るのと居ないのでは大きく違うでしょうが…まぁ俺も精神的には中学生の年代に手を出す気なんてさらさらないけど。今は肉体の年齢が近しいから妙に魅力的に映るのだ
「しかもベッド1つしかないし」
「一緒に寝たら良いじゃん」
サラは何言ってんだこいつというような目でこちらを見てくる。確かに状況的にはそうするしかないってのは分かる。でも良くないのも分かって欲しい
というかサラにも危機感というものを覚えて貰わないとダメだ。俺が10歳だから油断しているのかもしれないが…
もし万が一俺への恩義が消えて別々の道を歩む事になった時の為に、ここは両親の代わりに俺が男との付き合い方を教えなくてはならない
「サラ…前にも言ったけど、俺はもっと自分を大事にして欲しいんだよ。まだ13歳なんだから、軽々しく男と寝る何て言っちゃダメだ」
「どうして?」
「えっちな事されるから」
サラは俺の事を信頼してくれているのかもしれない。これはその信頼を裏切る発言だ…けれどこれも彼女の為だ。俺といつまでも一緒に居る訳では無い以上は
「…良いよ、それでも」
「え?」
帰ってきた答えは俺の予想を外れていた。ウェンポートでの一件ではまだ見せないと言っていたはずなのに…?
「私…今回の事でジノが居ないと本当に1人になっちゃうって気付いたの。先生も居るけど、先生は英雄だし種族も違うから…きっといつかはお別れしないと行けない」
「だから…その、ジノが我慢出来ないって言うなら…良い。ちょっと怖いけど、嫌じゃないし…それでも私はジノと居たい。もう離れたくないの」
「お願いジノ…私を1人にしないで…傍に居て…?」
サラは目に涙を溜めながら、そう懇願してきた。俺が凄い悪いやつみたいに写っているような気はするが、こんな事を言われたら首を横には振れない
「…分かったよ。さっきのは…まぁちょっとした脅しだから、えっちな事はしない。でも、男が皆俺みたいにサラの事を考えて動く訳じゃないから、もし仮にサラが俺の元から居なくなったとしても…本当に気を許した人にしかそういう事を言っちゃダメだ。良いね?」
「うん…ありがとう」
サラは涙を拭うと、いつものように明るい笑顔を浮かべた。ニナの時もそうだったが、サラも少し俺に依存している節がある…引き剥がすとまでは行かずとも、何かしら考えないとな
「でも、私がジノの所から居なくなるのは、ジノに消えろって言われた時だけだよ?」
「そんな事は言わないよ…」
本当に何かしら考えなくちゃな…
その日、俺は久しぶりに女の子と同じベッドで…サラを抱きしめて眠った
〜〜〜
翌朝から、本格的にドルディア村での生活が始まった。
俺とサラは戦士団と共に狩りに向かい、アレックスは村に残って指導をしたり村の警備をする。
何から守るのかと聞いたところ村に入ってくる狡猾な魔物や、人攫いが聖獣や子供達を誘拐しに来るのを防ぐという事らしかった。
アレックス曰く、獣族というのはアスラの一部貴族に高値で販売されているから狙う輩も多いとの事だった。俺の脳裏にはあの淫乱お姫様や、イゾルテを狙ったクソ貴族が浮かんだ
つまり貴族の中には重度のケモナーが居るという事なのだろう。この世界は性癖も多岐に渡りそうで羨ましい限りだ
「全然だね、魔大陸に比べると」
ほぼ一年アレックスと俺と魔大陸を修行しながら歩いてきたサラからしても、大森林の魔物は相手にならなかった
そして狩猟について獣族の戦士団と意気投合したようで、魔物退治の合間に俺を通訳にして意見交換を行っていた。故郷の村での狩りとはまた違うだろうが、今のサラなら高度な理論も実践できるが故だろう
「今年は助っ人も強力だし人攫いも少ない。こんなに楽出来て良いのかってもんだな」
被害が少ないのは確かに良い事なのかもしれないが…根本的に組織を壊滅させれば良いんじゃないか?とも思ったが、雨季のシーズンにそれは難しいだろうし、それ以外は息を潜めているのだろう
サラは人攫いなど許せない。見付けたらぶっ飛ばすとご立腹であったが…正直悪人とは言え命のやり取りは勘弁願いたい
「そういえばメルエムってどこにいるの?」
「昨日は獣族のお姉さんがお世話するって一緒に連れて行ってたよ」
村に戻り、そういえばという風にサラに尋ねれば…どうやら奴はお世話されているらしい。約10日は会っていなかったのだ、ゆっくり構ってやらねばなるまい
そう判断した俺は、サラを連れてメルエムを探しに行った。だが馬を置いている所にもメルエムは居らず…もしや魔大陸産だからとドナドナされてしまったのか!?
「ワンっ!」
「ギャス」
という不安も束の間、ご飯を運ぶお姉さんに聞いてみれば…どうやら聖獣様と行動を共にしていたらしい
蜥蜴屋さんではトップを張っていたメルエムと言えど、聖獣相手には流石に分が悪い様で…聖獣様の家である聖木の前で頭を垂れて聖獣様からの言葉を聞いていた
「…怒られているんですか?」
「いえ、従者としての心構えを聖獣様が説いていらっしゃいます」
通訳のお姉さんに聞くと、どうやら講習会が開かれているようだった。
聖獣様が従者…?とも思ったが、救世主からしたらお供に当たるからだろうか
そんなこんなで俺達3人は、2ヶ月の獣族ライフを過ごしたのであった