有職転生〜異世界行ったら…え?三歳で剣を振るんですか?〜 作:KEN・JACK
「グレイラット…」
サラがぽつりとその名を呼ぶ。彼女の故郷が無くなったのは騎士団を派遣しなかった領主の責任だ…その名に思う所があるのは当然だろう。
「サラ」
「うん、分かってる。大丈夫」
だがノルンに罪は無い。そしてこの子はただのグレイラットと名乗った…なので領主とは何ら関係無い子という意味だ
しかしサラは顔色を変えることはなかった、魔大陸での旅が彼女を強くしたのだろう。人の成長を見れるのは嬉しいもんだね
「ノルンちゃん、この人達に見覚えはある?」
「わかんない、けど…お父さんが貴族には気をつけろって…」
死なないように男に止血を施しながら尋ねれば、少女は未だ震える声でサラにしがみつき、そう答えてくれる。
気絶する男の懐を漁ってみれば、何やら高貴そうな紋章の印が入っていた。詳しくは分からないが、ミリスの貴族の私兵か?
「お父さんは貴族と仲が悪いの?」
「転移した人を中々渡してくれないって…」
転移…そして誘拐犯が言った捜索団という言葉。憶測だがノルンの父親はアスラの貴族で、転移した人を探しているという訳だ
そしてそれに反発するのはミリスの貴族。転移事件で得たアスラの人間を手離したくないからぶつかり、疎ましく思った彼らは私兵を使ってアキレス腱であるノルンに目をつけたのだ
「なるほどね」
「分かったの?」
サラはいまいち要領を得ていないようだった。追いかけるのに夢中で誘拐犯の言葉など何一つ聞いていなかったのだろう…まぁこの辺は俺が理解してれば良い
「うん。取り敢えずノルンちゃんをお父さんの所へ連れていこう…冒険者区を歩けばその店も見つかるだろうし」
それに貴族の私兵の増援が来ても面倒だ。退けることはどうってこと無いだろうが、問題を増やしても良いことは無い
「お姉ちゃん達、お名前はなんて言うの?」
「私はサラ、こっちの強くてかっこいいお兄ちゃんはジノだよ」
その説明は惚気けてるカップルみたいだからやめて欲しかったが、今は良いだろう。ていうか俺も10歳だから別にお兄ちゃんって程でも無い気はするが
「ジノお兄ちゃんもありがとう」
「どういたしまして」
でも小学校に入った時は6年生が大人に見えるものだ、ノルンからすれば俺も頼りになるように見えるかもしれない。中身は成人男性なんですけどね
取り敢えず屋台に戻って俺の分のフレンチトーストはノルンにあげた、ハムスターのように小さい口でパンを頬張るノルンに少しだけ愛着が沸いた
〜〜〜
「ここかな」
道行く人に尋ねながら、俺達はノルンが言っていた門の夜明け亭に辿り着いた。ノルンが店名を分かっていたのは僥倖だったね
サラとノルンは仲良さげに手を繋いでいる。捜索団というくらいだし同じ位の歳の女の子は居ないのだろう、サラによく懐いていた
扉を開ければ、中では捜索団と思わしき人達が慌ただしく動いていた。恐らくノルンが誘拐された事による騒動であろう
「ノルンちゃん、お父さんは居る?」
「えーっと…あ、おとうさん!」
ノルンは店を軽く見渡すと、顔色を明るくしてサラの手から離れて駆け出す。その先には今にも暴れ回りそうな程に怒りを顕にした男が居た
「ノルン!?無事だったのか!?どうやって…」
「えっとね、いきなり怖い人に捕まったんだけど、ジノお兄ちゃんとサラお姉ちゃんが助けてくれたんだよ!二人ともとっても強くて、凄かった!」
感動の再会を果たした2人は熱い抱擁を交わして、ノルンは父親に俺達二人の事を説明する。捜索団の目線が一気に注がれるが、それはほぼ全てが驚愕に染まっていた
「…本当にあの二人が助けてくれたのか?」
「?本当だよ、サラお姉ちゃんは大きな人達を何人も倒してたし、ジノお兄ちゃんは壁を走ってた!」
まぁ、そりゃ信じられんわな。俺もサラもまだ15にすらなってない…そんな子供二人が貴族の私兵を薙ぎ倒したなど普通に考えて有り得ない
「そ、そうか…二人とも、娘を助けてくれてありがとう。何とお礼を言っていいか…人族、で良いんだよな?」
二度の確認でようやく飲み込めたのか、父親はノルンを抱いたままこちらに歩み寄ってくる。どうやら俺らの事を小人族かと思っているらしい
「今年で10歳になります。お礼は大丈夫ですよ、子供が攫われてるのを見過ごす何て寝覚めの悪い事は出来ませんから」
俺がそういうと、ノルンの父親は一瞬何かを懐かしむような顔をした。しかし直ぐにそれは苦笑に変わる
「…10歳にはとても思えないな、君を見ていると息子を思い出すよ。丁度君の1つ上かな、俺とは違って優秀な子なんだ」
ほう、俺を見て思い出すほど優秀な子供がいるのか。その子はきっと俺みたいなズルじゃなくて本当の天才なのだろう、どこの世界にもいるもんだな
「…せめて自分の大切な物くらい、きちんと守りなさいよ」
「あ、ああ…君の言う通りだな、すまなかった」
サラは父親と目を合わすことはしなかった。ただ一言そう告げた…父親はバツが悪そうに頭を下げたが、サラがそちらを見ることは無い
「…では、我々は失礼します」
サラの行動が失礼である事は分かる。だが目の前の男は間違いなくアスラ貴族の関係者、直接的な関わりはなくとも…サラの故郷を助けなかった者と同じなのだ
サラの心境を思えば、この場で注意することは出来ない
「待ってくれ!せめて何か奢らせてくれないか?恩人をこのまま帰したくない」
頭を下げて踵を返した俺達を、父親は呼び止めた。申し出はありがたいが、俺はともかく。サラは長居したくは無いだろう
「…私は良い、先に帰ってる」
「分かった、宿の場所は覚えてる?」
サラは俺の言葉に頷くと、そのままこちらを振り向くこと無く酒場の出口へと向かう。それを見たノルンが父親の腕から降りてサラに追い付けば
「ありがとうサラお姉ちゃん!」
もう一度明るい笑顔を浮かべて、礼を言った。サラはそんなノルンの様子に表情を和らげると、目線の高さを合わせて頭を撫でた
「何があっても、家族を大事にしないとダメよ。約束出来る?」
「うん!」
元気の良い返事に満足したのか、サラはそのまま酒場を後にした。
〜〜〜
自己紹介を済まし、俺は父親とノルンと席に着いていた。周りも殆ど捜索団のメンツだからアウェー感が凄いね
「先程はすみませんでした。彼女は…騎士団の派遣が無かったせいで故郷を無くしているんです」
「あの子は間違った事は言ってないさ。それに、大体そんな事だろうと思っていた…俺はもう家は捨てたが、貴族のそういった部分は知ってるからな」
父親は、パウロ・グレイラットと名乗った。何の因果か生まれはミルボッツ領主のノトス家…現領主の兄だという。ノトスの名前は捨てたらしいが、まぁ詳しくは言わないでおこう
やはり俺の予想通り、パウロは転移事件の被害者を助ける団体の団長をしているらしい。あの事件でフィットア領は文字通り壊滅…何も無い更地へと変化しているようだ
それにしても、落ち着いて見たら随分と疲労困憊と言った様子だ。そんなに被害者の救出が難航しているのだろうか
「それにしても…何でアスラの剣皇がミリスに?確かあのおっかな…じゃない、水神レイダの所に居ると聞いていたが」
今おっかないって言おうとしたな、レイダの弟子か何かなのかもしれない。しかし情報は動いてないのか…まぁ魔大陸での武功など早々広まるもんでもないだろうし当然か
「サラ…さっきの子を助けてフィットア領に連れて行って居たんです。そしたら転移事件に巻き込まれて魔大陸に飛ばされました」
ここまで一年の月日が流れた。不死魔王と戦い、迷宮に潜り、海の怪物を倒し、獣族と仲良くなった…思い返せばあっという間だ
「魔大陸!?他に、転移した奴らの情報は無かったか!?何でもいい、些細な事でも良いんだ!」
俺が魔大陸と言った瞬間、パウロの目の色が変わった。身を乗り出して何かないかと尋ねてくる
「いえ…基本的には真っ直ぐミリスを目指したので情報は何も。残酷な事を言うようですが、僕でも1人で魔大陸を生き抜くのは難しい程です
運良く協力者が居たので何とかなりましたが…魔大陸に転移した人の生存は絶望的でしょう」
「そうか…剣皇でもそう言う程なのか…」
パウロは恐らく魔大陸には行ったことが無いのだろう、その話を聞いて明らかな絶望がその顔に浮かぶ。それは捜索団としての落胆とは思えない程だ
「…御家族が見つかってないんですか?」
「あぁ、妻二人と娘が1人…後はさっき言った息子がまだ見つかってない」
子供二人だけでなく奥さんも2人見つかってないのか…ん?何かおかしくないか?いや文法とかじゃなくて
「…奥さん、2人いるんですか?」
「ああ…ミリス教徒だったか?だとしたら気を悪くさせたな、すまない」
いや…別にミリス教徒やあらへんけど、そんなんありなん?まぁ常識は今までに積み重ねた先入観だからね、そこは切り替えていこう
「いえ、実際に聞いたのが初めてだったので少し驚いただけです」
「アスラじゃ良くある話だと思うが…」
そうなのか…剣の修行に夢中だったから気づかんかったな。まぁそれは良いだろう
「パウロさんの家族、どんな人達何ですか?ここに留まる事は出来ないですけど、巻き込まれたっていう人が居れば助けますし、連絡するくらいなら出来ます」
「本当か?恩に着るよ」
とは言ったものの、パウロは俺がアスラに帰るまでの道のりで見つかるとは思っていないのだろう。目に光が戻ることは無かった
それでも一縷の望みを掛けて、俺に家族の事を話してくれた。1人目の妻のゼニス。金色の髪の美人で明るくておっぱいが大きいらしい。ミリスの貴族だから雰囲気もどこか高貴だという。
2人目の妻のリーリャ、おしとやかで綺麗でおっぱいが大きいらしい。
多分メイド服を着ている(着せてる訳では無いらしい)ので赤い髪と相まって目立つかもしれない
2人目の娘のアイシャ、リーリャと同じ赤い髪で歳はノルンと同じ、おっぱいは言うまでもないだろうこちらもメイド服を着ている(こちらはリーリャが着せてるらしい)ので親子のメイドは要注意だね
そして息子のルーデウス、俺の一つ上で紛うことなき天才。5歳で水聖級魔術師となり、7歳で領主の娘の家庭教師となった。容姿はパウロによく似ていて、言動や思考が子供のそれでは無く…口論では決して勝てないという
何よりこの世界では扱える者さえ少ない無詠唱の魔術を扱う。本来長い詠唱を伴うこの世界の魔術をノータイムで使えるアドバンテージは凄まじい
「息子さん…凄いですね、正直信じ難いです」
魔術師の才能は剣とは違う…明確な知識と深い理解が必要だ。それを5歳という物心付いたくらいで詠唱破棄さえも得ている
「それを言うなら君も信じ難いけどな…俺も一応は三代流派は全て上級だが、どれか1つに絞っても王級に届く気はしない」
俺は前世の記憶がある。勿論肉体の才能も凄まじかった…強くなるにはどうすれば良いか分かるし、剣の理論も感覚で理解出来る
仮にこれが俺以上の剣の才能を持つ息子だったら俺も少しやさぐれていただろうか…いや、その程度では腐るまい。この世界ではせめて剣だけは本気でやり通すと決めたんだ
その後はノルンを交えながら他愛もない話をして過ごした。パウロからはノルンがここまで懐くのは珍しいと少し複雑な表情をしていたが、前世から子供には好かれやすいのだ
「ご馳走様でした」
帰り際、酒場の入口で見送りのふたりに頭を下げる。お礼とはいえご馳走になったのだ…礼は尽くさないと行けない
「このくらいしか出来なくてすまないな、余裕が出来たら改めて礼をさせてくれ」
パウロも、結果はどうであれいつかはアスラに帰るのだろう。その時には今日説明してもらった家族と会える筈だと…今はそう信じておこう
「ジノお兄ちゃん、またお話ししようね」
「うん、次はお母さん達も一緒にね」
そう言ってノルンと指切りをかわす。この世界に指切りの概念があるか分からないが、俺が小指を差し出すとノルンも同じようにしてくれた
「それでは失礼します。パウロさん、家族の無事を祈っています」
「…ああ」
最後に短い言葉をかわして、俺は酒場を後にした
〜〜〜
「ただいま戻りました」
宿に戻ると、サラだけでなく既にアレックスも戻ってきていた。
アレックスはいつも通りに見えるが、サラの顔はどことなく憂いの表情を浮かべていた。俺が帰ってきたと見るや否やちらりとアレックスの方を見る
「…捜索団と接触したようですね」
「はい、たまたま子供が連れ去られている所を見たので」
サラが話したのだろうか、アレックスも既に俺達が今日何をしたのか知っていた。怒られたのか?まさか、子供を連れ去るなんて許される事では無い
「関わりを持ってしまったのなら、伝えない訳には行きませんね」
どこか含みのある言い方だ、揺れているという表現が正しいだろう…嫌な予感はするが…聞かない訳には行かない
「奴隷の解放を疎ましく思った貴族達が、極秘裏に討伐隊を結成したようです…責任者はアスラより招かれた剣士」
「北帝オーベールです」
それは、4人いる俺の師の1人だった