有職転生〜異世界行ったら…え?三歳で剣を振るんですか?〜   作:KEN・JACK

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剣神流

 

「遅かったじゃねえか、待ちくたびれたぞ」  

 

本道場に足を踏み入れれば、そこにはいつもの道場と比べ物にならないほどに張り詰めた空気で満ち溢れていた  

 

中央を開けるように左右に別れ、綺麗に並んで正座しているのは恐らく剣聖達。3年間見てきたから分かるが…なるほど、これはいつもでかい顔してる上級達とは訳が違う  

 

そして奥にはティモシーと…名前忘れたけどもう1人の剣帝が並び立っており…その2人を従えるかのように、最奥ではガルがいかにも傲岸不遜と言った態度で鎮座していた  

 

「お待たせして申し訳ありません、剣神様」  

 

3歳の振りでわぁ〜すごい!とか言おうと思ったが、厳格な雰囲気と品定めせんとする剣神の目力がそうさせなかった…恭しく片膝を付いて頭を下げる  

 

「はっ!ジノお前本当に3歳か?まさか我が妹に教育の才能があったとは驚きだよ…指南役にでもなるか?ゼタ」  

 

「…別に私が仕込んだわけじゃないわ、知ってるでしょう?」  

 

珍しい生き物を見たように楽しげに笑うガルは、俺の背後に居るゼタに問いかける。いつもの事のようにゼタがそれを軽くいなせば  

 

「あぁ、お前がそんなに器用じゃねぇ事は俺様もよーく知ってるよ。さて、早速本題に入るぜ…頭上げな」  

 

ガルの言葉でゆっくりと頭を上げれば、さっきまでの笑みは消えていた。先程までは愉快な親戚のおじさんだったのに、今ではまさに剣の神に相応しい重厚な雰囲気だった  

 

「俺様は誕生日おめでとうなんて柄じゃねえ、そういうのは家でやってくれ」  

 

そう言うとガルは何か細長いものをこちらに投げてよこす。3歳児に物を投げるなんてけしからんが、もう慣れた…ここの人達皆こんな感じなんだもんなぁ…  

 

「これは…」  

 

「鍛錬用の木剣だ、お前への期待を込めて特注品だから無くすんじゃねえぞ」  

 

どうやら3歳でも振りやすいように長さを調節されているらしい。だが子供用では無い。伝わってくる重みは本当に打ち合うことを想定して作られている事を否応なしに伝えてくる  

 

「有難く頂戴します」  

 

「あぁ今日はもうそれは良い、時間が勿体ねえからな…それで〜1番最近剣聖になったやつ、誰だ?」  

 

再び頭を下げようとした俺をガルが制止する。悪即斬な剣神流剣士としてはこの上なくマッチした性格なんだろうけど…どちらかと言えばのんびりさんな俺はちょっと戸惑うんだよなぁ…  

 

そんな事を呑気に考えていると、ガルは続けて正座している剣聖達を見て問いかける。急にどうした?末っ子を俺の指導で付けよう的な感じ?

 

「私です」  

 

静かに手を上げたのは20前半位の青年だろうか、剣聖の中では若い方だが最年少という訳では無いのが恐ろしい所だ  

 

「お前か…よしお前ジノと打ち合え」  

 

……………聴き間違いだよな?  

 

〜〜〜  

 

「師匠、流石にそれは…」  

 

「何だよティモシー、お前だってジノはすげぇ剣士になるって喜んでたじゃねぇか…それともあれか?俺様の育成方針に文句でもあんのか?」

 

俺が呆気に取られていると、ティモシーが助け舟を出してくれる。しかし剣の事で弟子が師匠に進言出来ることなどたかが知れている  

 

思った通り少し凄まれただけでティモシーは何も言い返せなくなってしまう…大丈夫だよパパ、いつもの関係性見てたら今のだけで愛は伝わったから…  

 

「馬鹿言わないで!今日剣を握らせる子に剣聖と試合させるなんて…正気じゃないわ!」  

 

だが、それ以上に剣神に意見できるものは俺の背後にいる。剣神の実妹であるママだ…でも嫌な予感はしている、結局ここでは剣の事なら剣神は絶対だ  

 

「あん?真剣でやろうってんじゃねえんだし別に良いだろ。俺様としてもこいつがどれだけの才覚を秘めてんのか測りかねてんだよ…あ、光の太刀は使うなよ、こいつまだ知らないだろうしな」

 

「だからって…!」  

 

だが流石に3歳の我が子を見殺しにする事は到底出来ないらしく、ゼタは想像以上に食い下がる。本道場に似つかわしくない兄妹喧嘩の喧騒が少しの間響き渡ったが  

 

「あ〜…分かった分かった、じゃあ本人に決めさせようぜ。どうだジノ、やれるか?」  

 

そして半ば剣神が折れるかのような形で俺に決定権が移る。ガルは心底鬱陶しそうに後頭部をガリガリとかいているので本当に渋々と言った感じだが、一応は本当に俺に決めさせるつもりらしい  

 

どうする…?正直普通に考えて止めるべきだと思う。この体は才能こそあれどよくある明確なチートは無い…3歳という事を考えれば1番油が乗ってる年代の剣聖になぞ勝てるわけがない。  

 

…きっと前世の俺ならやらない理由を探していただろう。昔から今に労力をかけない事に全力を注いできた。

 

疲れないように、失敗しても傷つかないように…省エネだのなんだの言い訳して中途半端に生きてきたんだ…でも  

 

「やらせてください」  

 

そんな俺はもう死んだ。才能とか生まれとか、勝手に限界決めて勝負から逃げて…心のどこかで努力するものを馬鹿とでもいうように楽な場所から嘲笑っていた卑屈な人間は…もういない  

 

「よく言った!ジノ、お前は歴史に名を残す剣士になるぜ…俺様が保証する」  

 

俺の決意の籠った言葉を聞き、ガルは今日1番の笑顔を浮かべて膝を大きく叩く…剣神からのお墨付きを頂けて光栄だ、目頭が熱くなるくらいには…後悔なんかしてないやい  

 

〜〜〜  

 

「ジノ…気を付けてね、本当に危ないと思ったら直ぐに降参するのよ?」

 

そして遂に初試合が始まる。ゼタも剣士として認められた俺の意思は尊重しているのか、もう止めはしなかったが…その表情は心配で埋め尽くされていた  

 

変わらず剣神の前で佇むティモシーからも、この状況を止めれない申し訳なさと心配の視線をひしひしと感じる…場合によって試合に入ってきて剣聖をぶった切りそうだ…ダメだよ貴方剣帝なんだから  

 

「大丈夫、僕だって剣帝と剣聖の息子なんだから…勝てはしないかもだけど、相手の本気くらいは引き出して見せるよ。だから見てて、お母さん」

 

ゼタは急にママ呼びじゃなくなったことに驚いていたが、まぁ剣士として成長したくらいに思ってくれるているだろう…多分ね  

 

じっとゼタの目を見て宣言を終えれば、道場の中央へと行って白い線の前に立つ。前方には同じように向かい側の線の前に立つ剣聖の姿がある その目には戸惑いの色が見えた、そらそうか…3歳の子供に剣を振れって言われてるんだからな  

 

「…君に恨みは無いけど、自分の意思で剣を握って立つ以上、剣聖として手は抜けない。分かるね?」  

 

分かってるよ、ただ1番若輩ってだけでこんな嫌な役を買ってでる君の苦悩は…全く酷い伯父だぜほんとに  

 

「分かっています。手を抜いてくれと言うつもりはありません…その胸、存分にお借りします」  

 

試合前の礼儀としてそう述べて頭を下げれば、剣聖の目に僅かな嫉妬が混じる…自分が十数年掛けて辿り着いた高みの証とも言える道場に、赤子を卒業したばかりの児童が立っているのだから当然か  

 

「うし、それじゃ2人とも準備できたな?光の太刀は禁止。だが手は抜くなよ」  

 

ガルの呼び掛けに促されるように、俺と剣聖は腰の木剣に同時に手をかける。じっと相手の方を見て、今まで見てきた事を頭の中で再生していく  

 

理合を突きつめる剣神流の動きを、剣帝であるティモシーの洗練された剣筋を、いつも聞かせてくれたゼタの知識を、今まで研究してきた俺の全てを…この剣に乗せる  

 

「まさか…闘気を…!?」  

 

ティモシーでは無いもう1人の剣帝が驚嘆の声を上げるが…それはもう俺の耳には届いていなかった  

 

「初め」  

 

ガルの短い一言で、戦いの火蓋が切って落とされる。初撃は剣聖も俺も同じ。上級達が使う無音の太刀…風切り音さえ起こらない高速の居合が交錯する  

 

だが力で俺が劣る事など織り込み済みだ、だからその分に角度を調整して剣聖の木剣に対して下から薙ぐようにミートをずらしてやれば…一撃で決める気満々だった剣聖の剣は大きく弾かれて体勢を崩す  

 

一撃で決める剣神流としては恥ずべき事だが、勝負事において勝利より大事なものは無い。  

 

振り終えた俺は即座に構えを取り、再び無音の太刀を放つべく腰で剣を構える。とはいえ流石は剣聖、完全に意表をついた一撃でも立ち直りは早く、構えがほぼ終わっていた…だが  

 

(ここからなら俺の方が早い!確実に剣聖より早く剣を振り抜ける!)  

 

先程とは違う純粋な無音の太刀、我ながら満点の振り抜きであると自負出来るほどの一撃…そのまま音を置き去りにして剣聖の側頭をぶち抜く…そう確信した瞬間  

 

まさに光と錯覚するような速さの一撃が、俺の体を吹き飛ばした

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