有職転生〜異世界行ったら…え?三歳で剣を振るんですか?〜   作:KEN・JACK

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師弟対決

 

翌朝、俺はもう一度捜索団の元を訪れていた。規模が大きい故に、今からミリスを離れようとしても間に合わないだろうし…何よりパウロの精神状態を考えればそのまま戦争しかねない

 

「北帝…か…そりゃまた大物を連れてきたもんだな」

 

パウロと二人にしてもらい、酒場の2階で全てを話す。混乱を避ける為だ

 

「奴隷の解放という事実がある以上、権力を用いて止めることは出来ません。教皇でも無理だと言っていました」

 

俺は孔雀剣の由来を知っている。その多彩さと、手段を選ばない非情さ…見た目からは想像もできないほどに地味で姑息な技をも使う…それが集団戦ともなれば勝ち目は皆無だ

 

「だろうな…所で、この捜索団は俺が一番強いんだけどよ。どうだ剣皇…俺は北帝に勝てそうか?」

 

答えは分かりきっているという風にパウロは俺に尋ねる。ゆっくりと首を横に降れば、彼は天井を仰ぎ見た

 

「俺は…どうすれば良かったんだろうな。息子ならもっと上手くやったんだろうが…ここが俺の限界か」

 

そんな優秀な子供がここまで音沙汰が無いというのが不思議なもんだが、案外俺のように魔大陸に飛ばされているのかもしれん…そうなれば中々に苦労するはずだ

 

「伝えてくれて助かった。どうにかなるとは思えないが…最後まで足掻いてみるよ」

 

「俺がオーベールさんを止めます」

 

諦観を全身から立ち登らせながら席を離れようとした時、そう声をかける。パウロは理解できないと言った顔でこちらを見れば

 

「…いや、今の俺たちに君を雇う余裕は無いんだ。捜索に全部注ぎ込んでるからな」

 

と言った、まぁ確かに今の流れだと俺を雇えって言うように聞こえなくもないか…たがそれは関係無い。これは俺の我儘だ

 

「そういう事じゃありません、俺がオーベールさんを止めるべきだと思ったからやるだけです」

 

そう言っても、パウロは依然理解出来ないという表情を崩さない。気持ちは分かる…自分でも首を突っ込む必要はあるのかと思う

 

けれど、本気で何かに打ち込んできて思った。この力は何のためにあるのか

 

アレックスのように英雄になるだとか、勇者だとかになるつもりもなれるとも思わない。けどこの目が届く範囲は、理不尽を許したくは無い

 

「君がそこまでする必要は無いだろう?そんな命懸けの事をしなくたって良い。まだまだこれからなんだから」

 

俺と息子の姿を重ねているのだろうか…そうやって俺を慮る言葉はどこかティモシーを思い出した。元気にしてるかね

 

「パウロさんには…家族を見つけるという役目があるはずです。それにオーベールさんとは知り合いですから、殺される事はありませんよ」

 

それは分からないが、少なくとも襲撃を遅らせることは出来るだろう。もしかしたら命だけはアレックスが助けてくれる可能性もある…パウロがぶつかるよりは生還率は高い

 

「本当か…?」

 

「それに1人で戦う訳じゃありません。魔大陸から来た強力な助っ人も居ますから…パウロさんは万が一の為に団を移動出来るよう準備をしておいて下さい」

 

そこまで言ってようやく納得したのか、パウロはゆっくりと頷く。相変わらずくたびれているが、前を向く事は出来ているだろう

 

「危なくなったら逃げてくれ、誰も君を責めはしない。いつか恩も返さなくちゃならないんだ…俺も出来る限りの事はやる」

 

「分かってます。捨てるつもりは無いですよ」

 

それだけの言葉を最後に、俺はパウロ達のいる酒場を後にした

 

確かな決意を胸に、勝負の時はやってきた

 

〜〜〜

 

その日の晩、再び俺はオーベールのいる宿に向かっていた。

 

サラはアレックスに任せておいた。連れてきて人質にでもされたら俺が死ぬか誰かを殺すことになるだろうとの判断だ

 

勿論戦いに行くことも伝えていない。これで帰らなければ恐らく恨まれるだろうが、サラの無事に替えれば安いものだ

 

「覚悟は決まったか?」

 

だが宿に到着する事は無かった。道の途中でオーベールが佇んでいたからだ…表情は珍しく真剣だ、当たり前か…今から子弟で命の取り合いになるのだから

 

「はい…決まりました。俺はオーベールさんを殺したく無いです」

 

俺がそう伝えると、オーベールは目を伏せる。落胆なのか何かを決めているのか分からないが…好意的では無いだろう

 

「お前が共に魔大陸から来た男…確かシャンドル・フォン・グランドールと言ったか?大層な名前だ、隠居した英雄とは思えんな」

 

「気付いていたんですね」

 

オーベールとアレックスは師弟の関係だ。しかも北帝と呼ばれるに至るまでの深い関係…偽名や棒を使った程度ではさすがに誤魔化せないか

 

「確かにあの人ならば殺さない道を肯定もするだろう。されどジノ…お前は1つ思い違いをしている」

 

目を開き、北帝はゆっくりと俺に向き直る。未だ戦意は無いが、強い目線には何か強固な意志を感じる

 

「師匠は英雄だ、だが人族では無い。そして常識も価値観も、真の意味で分かりあえる事も無いのだ」

 

「でも、先生の父は人間でした。不殺を誓ったかの北神は、今なお語り継がれている英雄です」

 

「違うな、初代北神は殺さなかったのだ。殺せなかったのでは無い」

 

俺の言葉に被せるように、食い気味にオーベールは語った。対話の余地はなく、絶対的な間違いがこちらにあるとでも言うように

 

「ジノ…お前は剣を振るべくして生まれた人間だ、だがその精神は剣を振るべきでは無い。何がお前をそうさせたのか…検討も付かん」

 

「お前が殺さなかった何者かが、お前の大切な者を殺したらどうする?殺さずに諭すのか?殺すのはダメだと説くのか?それでは全てを失うぞ」

 

オーベールの言う事は尤もだ。それを否定するつもりは無い…この世界で剣に生きるというのはそういった危険が常にある、自分だけではない危険だ

 

けれど、一度殺せば…きっとなし崩しに何度も手にかけていくだろう。そしていつか…殺しが簡単に取れる手段の1つとなる

 

この身体と才能はそれが可能なのだ。甘い考えかもしれない、覚悟が足りないかもしれない。けれどその甘さすらもねじ伏せて強くなる…その覚悟はある

 

「失わない強さを、今からオーベールさんに示します」

 

「…良かろう。ならば存分に見せてみよ」

 

そう言うと互いに腰の剣を抜き、構える。かの北神二世に認められた奇抜は最強の剣士に相応しい殺気と圧が全身を叩く…初めて会った時には分からなかった高みが、今では見える

 

「北神四剣士が1人、北帝【孔雀剣】のオーベール」

 

「北神四剣士が1人、【剣皇】ジノ・ブリッツ」

 

戦いの火蓋が、切って落とされた

 

〜〜〜

 

先手必勝、俺は光の太刀の構えを取る、水神流とは違って北神流には光の太刀を流せるカウンター技は無い。特に奇抜派ともなれば何かをする前に倒すのが鉄則故だ

 

「北神流、赤墨」

 

対するオーベールは足元に赤い絨毯の様なものを広げる。この技は確か薬剤師の北聖が編み出した技だ…ここで踏み抜けば接着剤が破裂して勢いを殺される

 

「ぬぅっ!?」

 

この人の技は知っている。敷かれた絨毯を踏むのを回避する為に、俺は空気を蹴った。地面を踏んだ時程の威力は出ないが、光の太刀と呼んで遜色ない威力の抜刀がオーベールを襲う

 

しかし一筋縄では行かない。北帝は二対の剣を構えながら真横に飛んで光の太刀が受け流される…だが体勢は崩した

 

追撃しようとした次の瞬間、黒い煙が現れて片目を閉じる。オーベールが煙幕のような物を炸裂させたのだ…ただでさえ視界の悪い夜の闇が濃くなって姿を見失う

 

それと同時に断界を広げる。この技があれば視界に頼らなくても戦えるが、オーベールの意図が見えない…逃げる気か?

 

「っ!?」

 

と思ったのも束の間、どうやってか正確に二つの苦無がこちらに飛んでくる。当然オートでそれを迎撃するが…どうやってこちらの位置を把握しているんだろうか

 

「隙あり!」

 

思考がそちらに割かれていたのを見計らったように、オーベールが剣を振るう…まさかの上から。何とか防御に成功した時…玉響の一部が淡く光っているのが見えた

 

恐らく初撃の光の太刀を防御した剣には何か塗料の様な物を塗ってあったのだろう。煙幕に反応して光を放つ何かが

 

「北神流奥義」

 

上からの攻撃の割りには重みが無い。次にそう感じた時には…オーベールの手から剣は離れ,腰にあるもう二対の剣へと手が伸びていた

 

「朧十文字!」

 

防がれた瞬間に剣を捨て、別の剣で防御の隙間を狙う奇抜派の奥義が俺の首を正確に捉えるが…腰の短剣を抜き、その一撃を受け流す。流しきれずに肩口が切られるが、問題は無い

 

渾身の一撃を防がれたオーベールは一度距離を取ろうとするが、みすみすと逃がすつもりは無い。そのまま小細工の入る余地が無い程に畳み掛ける!

 

「ぐぉぉ!」

 

純粋な剣技ならば俺が上、玉響と短剣の二刀の猛攻がオーベールを襲う。オーベールはじわじわと受けられなくなって後退していく、優勢は揺るがない

 

「北神流、黄光」

 

だが次の瞬間、オーベールが剣から出した玉から強烈な光が炸裂する。

薄暗い中で戦っている状況では、数秒視界が奪われる程の光だ

 

 

既に断界は解いている。オーベール目線で見れば、もういちかバチかで剣を振るうしか無いように見えているだろう…だが違う、俺はまだ片目を開けていなかった

 

「光の太刀!」

 

「な…にぃ…!?」

 

短剣を納刀し、両手持ちの玉響から放たれた光の太刀は…勝利を確信したオーベールの剣を砕き、勢いを殺し切れずにその肉体に傷を付けた

 

「…よもやここまでとはな、殺すつもりであればもっと早くに方が付いたであろうに」

 

「師匠を殺す事なんて、出来る訳ないじゃないですか」

 

膝を付き、武器を失ったオーベールを見下ろしながらそう返す。初めて会った時とは真逆の構図だが…感じるのは達成感では無かった

 

「ならばどうする?殺さなければ某は止まらんぞ…捜索団は皆殺しだ」

 

「そこまでにしておきなさい、オーベール」

 

背後から聞きなれた声がかかる。そこにはサラを連れたアレックスが立っていた…思った通りサラはすこぶる機嫌が悪そうだ…

 

「師匠、お久しぶりです。よもや某が間違っていると言いに来た訳では無いでしょうな?」

 

「そんな偉そうな事を言うつもりはありません。何が正しくて何が間違いなのかなど…私ごときが判断出来る物では無い」

 

オーベールの緊張している声とは裏腹に、アレックスはいつも通りの落ち着いた声音で話す。この2人が師弟とは…分かってはいても違和感があるな

 

「では何を?」

 

「貴方は昔から素直ですからね。ジノのやり方が理解できないというのもよく分かります、けれど…もう少し弟子を信じてあげても良いのでは無いですか?」

 

それを聞くとオーベールは何とも複雑そうな顔をする。過去に色々あった事を精算しているかのような表情だ

 

「…しかしあまりにも無責任でしょう、こやつが全てを失ってからでは遅いのですよ」

 

「強さを示したのなら、後は師として送り出しても良いではないですか。困難だと分かっていても、ジノ自身が決めた道です」

 

それを聞くと、オーベールは大きな溜息を吐いた。アレックスが出てきたのならば何を言っても無駄だと観念したかのように

 

「ジノよ、ただ強いだけでは何も守れることは無い。努その事を忘れるな」

 

「…はい」

 

こちらを見て、最後にオーベールはそう伝えた。2人の師が伝えてくれたことはどちらも正しいとは思う。

 

現実を見据えて正そうとしてくれるオーベールに、理想を肯定して背中を押してくれたアレックス…どちらが困難かは言うまでもないが、後は俺が決める事だ

 

「それで師匠、それとは別に依頼を止めるのですから…補填はあるのでしょうな?」

 

「…冒険者ギルドに貴方名義で振り込んでおきますよ」

 

そんなこんなでオーベールの傷を治した俺達は、無事に捜索団への大規模な攻撃を阻止する事が出来たのであった

 

やはりサラにはめちゃくちゃ怒られて数日口を利いてくれなくなってご機嫌取りに時間を要したのだが…それはまた別のお話

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