有職転生〜異世界行ったら…え?三歳で剣を振るんですか?〜 作:KEN・JACK
多少の事は勘弁してください
シーローン王国に到着した。
ここは今までの二国とは違い、王竜王国の属国では無いし小さいにも関わらず200年程の歴史のある国だ。
かつての大戦でアスラとミリス以外が滅びた事を考えても紛争地帯に近い小国がここまで存続するのは正直異常だと言っていい。
とはいえ王竜王国と早い段階で同盟を結んだと言うだけで、実際はほぼ属国みたいな扱いになっているそうだ…どこの世界でも国同士のやっかみってのは面倒だねえ
そういう背景もあってか植民地感は薄く、街道を走っていると統一感の無い田畑や放し飼いにされた家畜、休耕中なのかクローバーのような牧草が植えられた区間があって非常に長閑な印象を受けた
老後はこういう所で過ごすのも悪くないと思いながら、首都ラタキアに到着する。相も変わらず町を囲む城壁は巨大だが、大国と比べるとやっぱり見劣りするね
馬車…というか蜥蜴車をいつものように無理言って預けて宿を取る。メルエムもいつものように堂々と預けられていた…あんまり馬をビビらせるなよ
この周辺には迷宮が多くあるとの事で冒険者が多いらしく、宿も中々の値段がした。金も多少は考えながら使わないと行けんな
「この国に来ると迷宮に行きたくなりますね」
「流石に迷宮に潜るレベルの寄り道はダメですからね」
金を稼がないと行けないとはいえ、迷宮探索など時間が掛かるものは却下だ。そろそろ帰ってイゾルテ達に無事を報告したい
「シーローンでは何かするの?」
「いや、特に用事は無いし軽く補充だけにするよ。アスラまでもうちょっとだからね」
もうちょっととは言うが地図で見ればこれまた果てしない距離であることは間違いない。自動車や新幹線が整備されていれば1日2日の距離だと思うんだけどなぁ
サラの疑問に答えると、今日も今日とて長旅の疲れを癒すべくやる事を済ませ、一日を終えた
〜〜〜
「やぁ、久しぶりだね勇者君」
…なんですか?また人助けの機会でも与えに来たんですか?
目を覚ました…と思いきやまた俺は真っ白い空間に前世の姿で立っていた。目の前にはどこか不愉快な喋り方をするマネキンが笑顔…っぽい何かを浮かべながらこちらを見ている
「そんな面倒くさがらないでくれよぉ。君だって転移事件には想像以上に被害者が居ることを知れたし、可愛い女の子を助けれて感謝されて気持ちよかっただろ?」
(そのせいでオーベールと戦う事にもなったわけだ。最終的に自分の判断とはいえ師と剣を交えるのは気持ちのいいものでは無い)
「良いじゃん別に、誰も死ななかった。不殺主義のキミには願ってもない展開だと思わないかい?」
だから心読まないでくださいよ…その通りですけど、結局何がしたかったんですか?
「人助けをして欲しかったんだって!というかどう?ノルンは可愛かったでしょ?」
(ヒトガミは言いながらコソコソ話をするかのように手の甲を頬に添えながら近付いてくる。お節介焼きの親戚のようでかなり不快だ)
俺の将来でも心配してくれてるんですか?
「うんまぁ、くっついてくれたらラッキーくらいには思ってるよ」
(つまり本来の目的はまた別にあるってことか…俺とノルンの子供が世界を救うことに関係あるのか?)
「そう難しく考えないでよぉ、大丈夫大丈夫!悪いようにはしないからさ」
(1度距離をとると、揉み手をしながらそう言ってくる。全てが胡散臭いんだよなマジで)
全く信用なりませんね、相応の態度を取ってくれないと
(言う通り悪い方向には進んでいないのは事実…だがヒトガミの話を真に受け続けると…何かしら大事なモノを見落としながら進んでいるという嫌な予感が一向に消えないのだ)
「何度も言うけど、君は対龍神の切り札みたいなものだ。危害を加える訳ないじゃん」
はいはい、もう分かったので今日は何を言いに来たんですか?要件聞かないと終わらないんでしょ?これ
「ある程度話が早くて助かるよ〜、目の敵にされる事もあるからさぁ」
(こいつを目の敵にしてる人とは非常に仲良くやれそうな予感がするが、そこは置いておこう。夢に白い神が出てきませんか?とか聞いたら完全に新興宗教の勧誘だ)
「今回はね、シーローン王国を救って欲しいんだよ」
救うって…剣しか振れない俺にどうやって救国するって言うんですか?魔王でも倒すとか?
「いやいや、そんな分かりやすい危険が迫ってる訳じゃないんだけどね…この国は龍神と戦う上で非常に重要な立ち位置なんだ。でもある男によって将来的に滅びる運命にある」
…なるほど、じゃあその男を何とかしろって言うのが今回のお告げな訳ですね
(結局誰かを何とかする系のクエストな訳だ…けど俺は殺す事は出来ない。罪は死によってのみ償われるとは思いたくは無い)
「それは分かってるよ、だからまぁ国から追放するくらいで良い。そうすれば滅亡は回避出来るだろうからね」
それで、誰なんです?その男って言うのは
(予想では利益しか考えてないクソ大臣系か、野心に塗れた将軍系だと思う…どちらにせよ国を滅ぼすような奴はろくでもない事は確かだ)
「それは…まぁ明日になってからのお楽しみということにしとこうかな」
…今回のお告げは聞く必要は無さそうですね
(非常にイラッとしたので無理やり意識をこの空間から解き放てる事が出来ないか模索する。こいつの為に色々動いてやってるのに何でこんな色々隠されなきゃならんのだ)
「良いのかな〜?君が探すのを手伝ってるリーリャとアイシャを助ける事も出来るのに〜?」
(あぁそうだ、こいつはある程度聞く気を無くしてからこっちが動かざるを得ない方向に持っていくのだ。本当に腹が立つ)
「全部分かったら面白くないだろ?折角の異世界ライフだ、ワクワク感は大事だと思ってね」
貴方が来なきゃ自分でワクワクを探してましたよ
(俺がさも鬱陶しそうに悪態を吐けば、ヒトガミは満足そうに居住まいを正し、いつものように締めのセリフに入る)
「こほん、ではジノよ。朝が来れば1人で奴隷市場に行ってグレイラット姓の家族を探していると聞き込みをしなさい…けれど自分の名前を名乗っては行けません。そうすればリーリャとアイシャを見つけ出し、シーローン王国を救えるでしょう」
それを聞いた瞬間瞼が急激に重くなる。そして薄れゆく意識の中、ヒトガミのでしょうが頭の中で何度も流れ、視界は暗転した
〜〜〜
翌朝、結局俺はヒトガミに言われた通りに1人で奴隷市場に赴いていた。俺を見て鴨が葱を背負って来ていると思ってそうな奴らが居たが、手出しはしてこなかった…危機管理能力はあるらしい
「紛争地帯で暴れてた傭兵だ!飯さえ与えれば誰でも殺して腕も立つ!金貨4枚から!」
奴隷市場は名前の通り奴隷の売買が行われている場所。かなり奥の方にあるのはあまり快くは思われていないからなのだろう
お立ち台のような場所に上裸の男女が並べられており、商人らしき男が声高に魅力を伝えている光景は、日本人としては忌避感を覚えなくは無い…しかしこの世界では合法。解放した所でフィッシャータイガーのように英雄にはなれない
あまり長居したくもないので早速聞き込みを開始する。しかし名乗らないという縛りのせいで尋ねても禄に相手にされない
「…こんなんで助けられるのか?」
小一時間程聞き込みをして成果なし…精神的な疲れが身体にのしかかり始めたので、置いてあった木箱に腰掛ける
このままでは情報を得るどころか、無駄な時間を過ごしているだけだ。もしかしてヒトガミが的はずれな事を言って遊んでるだけなんじゃ…と怒りが湧きそうになったその時だった
「お前か?グレイラット家を探してるガキは」
突然3人の男が目の前に現れた…相変わらず人相の悪い大人に絡まれる人生だが、ゲームで言う所のイベント進行という奴だろうか。しかしヒトガミからはこの先どういう動きをすれば良いのか聞かされていない
「魔術師じゃないのか?」
「10歳くらいでグレイラットを探してる、そして明らかに年齢に不相応な喋り方。貴族のボンボンでもねえと出来ねえだろ?大方変装して解決の糸口を探ってるってことか…この距離なら何も出来ねえよ」
男たちは奴隷市場に良く似合う格好だった。とてもじゃないけどお城の兵士さんには見えない…実力的には甘めに見積もって上級くらいかな?
そして話してる内容もイマイチピンと来ない。確かにその特徴なら俺に当てはまりまくっているが
「お前、ルーデウス・グレイラットだろ」
なるほど、話は見えた。恐らくこいつらは黒幕の手先で捜索団から身代金をせびる為にパウロの家族を集めているんだな…だとすれば名乗るなと言った理由も頷ける
「…そうだとしたら、何かあるんですか?」
「俺らが迷子を探してるように見えるか?お前を連れて来いって言う人が居るんだよ」
言い終わる前に男達は剣を抜き終わっていた。危機管理能力が無い訳では無いと思うが、多分魔術師由来の物だと勘違いしてるから距離を詰めて余裕ぶっこいてるんだろう
「怪我させるなとは言われてない。大人しくした方が良いのは分かるだろ」
「すみませんが、付いていくことは出来ません」
剣が動く。鞘から抜き放たれていた剣は最速で俺の機動力を奪おうとするかのように足へと向く…しかしそれよりも早く俺の剣が走った。
座った状態とはいえ男達よりも遥かに練度を高めた動き。戦いに身を置かぬ者なら身体がブレたようにしか見えない程に疾い一撃は、3人をほぼ同時に吹き飛ばす
「…これって反撃して良かったのか?」
つい反撃してしまったが、このまま連れていかれればリーリャとアイシャの二人の所に行けたのかもしれない。まぁ捕まってるのが本当にその2人なのか俺には見ても分からないんだけどさ
「というか明らかに問題起こしちゃったな…これからの事は後で考えよう」
峰打ちとはいえやった事は喧嘩だ。騒ぎが大きくなる前に俺はそそくさと奴隷市場を後にした
〜〜~
「結局何も進展しなかったな」
宿に戻り、ベッドに腰掛けて今日のことを振り返る。今までならば分かりやすく話が進展していた分…今回は何か間違った判断をしたのだろうか
「どうしたの?難しい顔して」
少し心配そうにサラが覗き込んでくる。一日出発を送らせて欲しいという俺のお願いのせいでアレックスと依頼をこなしていた筈だが、疲れた様子は無い。サラも強くなったなあ
「用事が上手くいかなくてね」
「珍しいね、ジノがそんな事を言うなんて」
違和感の無い動きでピッタリと横に座ってくるサラに違和感が無くなってきたな…と思いつつ嬉しそうに今日の事を話す彼女の話に耳を傾けていると、宿のドアが開かれる
「あ、先生おかえりなさい」
そちらを見れば、いつも通りの先生と…隣には騎士の格好をした女性が立っていた。ナンパでもしてきたのか?
「ジノ、彼女が話したいことがあるそうですよ」
と思ったらお目当ては俺か、見たところ記憶には無いが…
「お初にお目にかかります、剣皇ジノ・ブリッツ殿。自分はシーローン第七王子親衛隊に所属しているジンジャー・ヨークと申します」
女性は紹介にあずかったとでも言うように俺の前に来て騎士風の礼をする。シーローン王国の紋章があるからこの国の騎士なのだろうか
「ジノ・ブリッツです。王子の親衛隊の方がどういったご要件ですか?」
こちらも剣神流の礼をして挨拶を返す。今朝の件で逮捕しに来たという感じでは無い…本当に何の用なのだろう
「朝の奴隷市場での剣技、影ながら拝見させて頂きました。それと同時にグレイラット家のお2人を探している事もお聞きしています」
おお…つまり俺がしてたことは全部把握されている訳か。という事はこの人に戦闘力を見せることが今回の件の鍵?
「そうですが…それとジンジャーさんが来た事に何か関係があるんですか?」
「人探しの件、私共が力になれるかと思いまして馳せ参じた次第です」
やっぱりそうだ、彼女はリーリャとアイシャに関して何かしらの情報を持っている。そして同時に俺の武力も必要としている
「2人の居場所を知っているんですね?」
「はい、しかし2人は城内に軟禁されており…私共だけでは現状解決策が無い状況です」
うん、そんな事だろうと思った。だが大丈夫、今代の剣皇は貴族との戦いには多少の心得があるよ、任せて
「軟禁しているのは誰なんですか?」
そう聞くと、ジンジャーはその凛々しい顔立ちに少しの嫌悪感を混じらせて…忌々しそうにその名前を口にした
「シーローン王国第七王子…パックス・シーローン殿下です」
うーん…王族は流石に戦った事ないかぁ…