有職転生〜異世界行ったら…え?三歳で剣を振るんですか?〜 作:KEN・JACK
「貴女は第七王子に仕えているのでは無いのですか?」
そこでアレックスが話に入ってくる。確かに何らかの理由で第七王子がアイシャとリーリャを捕らえているのであれば、それに仕えるジンジャーは主を裏切るのと同じだ
「話せば少し長くなるのですが…」
そう言ってジンジャーは事の顛末を話し始めた。
発端となったのは元宮廷魔道士であり、第七王子パックスの家庭教師を務めていたロキシー・ミグルディアという女性とのいざこざであるらしい
「ほう、魔大陸以外でミグルド族の名前を聞くとは」
アレックスは珍しそうに話を聞いていたが、苗字で種族が分かるのは魔族特有だな。一旦彼女達の生態については置いておこう
ロキシーは水王級魔術師(水属性の剣王的な感じかな?)として宮廷魔道士へと登用されてパックスに魔術を教えていたが、彼のセクハラに耐えかねてシーローンを出ていった。
彼女にかなりご執心…というか出来が悪いから小馬鹿にされていた事の腹いせなのか怒り狂ったパックスは捜索を親衛隊に命じたのだが…優秀な魔術師である彼女はそう簡単には見つからなかった
そんな折、転移事件でシーローンの近くに転移したリーリャとアイシャがロキシーを頼りに王宮にやってきた…というのもパウロの息子のルーデウスがロキシーの弟子だったらしい。世間は狭いな
ロキシーは既にシーローンには居なかったが、縁ある者を捕らえれば彼女は助けに来るはずだとパックスは画策し…2人を軟禁したという訳だ
「最低、そんなの愛想尽かされて当然だよ」
サラはそのロキシーが可哀想だと少しご立腹だった。女性への性加害はどこの世界でも叩かれるらしい…当たり前だが
「俺を狙ってきたのもパックスの親衛隊ですか?」
「いえ、奴は奴隷市場にツテがありますから…そこの繋がりによって雇った私兵でしょう」
遂に殿下って言わなくなったな…まぁそれは良いとして、つまり王子の親衛隊と奴隷市場を2つ相手にしなきゃ行けない訳か
「でも、何故次はルーデウス君を探しているんですか?話を聞く限りは別に彼は関係ないような…」
「ロキシー殿が現れないから人質を増やそうという魂胆なのです。まぁ、奴は浅慮が過ぎるので捕まえているという情報を流しても居ないので当たり前なのですが」
えぇ…人質取ってるのに隠してるのかよ…何のための人質なんだそれは。
この調子だとルーデウスを捕まえた所でロキシーは現れないんだろうな
「ジンジャーさんはなんでそんな奴の親衛隊になってるんですか?」
「それはシーローンの習わしでしょう。王子が産まれたら親衛隊を与え、良い事をすれば増やし、反対に悪い事をすれば減らす…そうして親衛隊が最も多い者が次代の王になるのです」
サラの疑問にアレックスが答える。なるほど中々面白いシステムだな、一目で勢力が分かるし。現代じゃ絶対無理な話だけど
「…お詳しいですね、剣皇殿…こちらは?」
「しがない傭兵をやっております。シャンドル・フォン・グランドールと申します…各地を練り歩いておりましたら色々と知識が着きましてね」
名乗りを受けてもジンジャーは酷く胡散臭そうなおじさんを見る目をしていた。そりゃそうだ、名前が豪華すぎる…いやまぁアレックス・カールマン・ライバックの方が何倍も豪華なんだけどさ
「我々の保護者みたいなものです…怪しいとは思いますが、信頼に足る人物なので」
俺がそう言うとジンジャーは一応は納得したようだった。サラについては特に聞かれなかった、彼女とでも思われたのか?
「でもいいんですか?親衛隊なのに王子のやってる事に刃向かって」
「私は元々第三王子であるザノバ殿下に仕える身。奴の悪事を白日に晒してザノバ殿下の元へと戻る事が自分の望みです」
なるほど、人質を取って情報を流さないアホに政争で負ける王子が心配で仕方ないのか…大した忠義だな
「何でそんな奴の所に移動したんですか?」
「…ザノバ殿下は大の人形好きでして、奴が買ってきた精巧な人形と交換される形で親衛隊に入りました」
「えぇ…」
サラがドン引きしていた、王族の奴らって変態しかいないのか…?
「どうかお力を貸して頂けませんか?剣皇殿…貴殿もリーリャ殿とアイシャを助けたいのであれば、我々と組めば容易に城内に入る事が出来ます。決して悪い話では無いかと」
ジンジャーは俺に向き直り、真摯な声音で俺に尋ねてくる。アレックスに今の話を王にしてもらうだけで解決しそうではあるが…してくれないだろう
「わかりました、力を合わせて王子の悪行を止めましょう」
こうして俺たちは、リーリャとアイシャ救出&パックス失墜作戦を決行する事になった。
〜〜~
「それでは作戦通りに」
翌日、俺はジンジャーと王宮へと赴いていた。
どうやらジンジャーを含めたパックスに従っている兵士は、奴隷市場の傭兵達に人質を取られているらしく…それの解放を同時に行わなければならないという話になった
そこで俺をルーデウスだと偽ってパックスを懲らしめる俺、ジンジャー隊と、人質を解放するアレックス、サラ隊で別れる事にしたのだった
「…本当にあの二人に任せて大丈夫なのですか?」
「大丈夫です。シャンドルに勝てる人なんて世界でも数えれる程しか居ませんよ」
勝ち目があるのは俺が会ってきた中だとガルにレイダに…アトーフェくらいのものだろう。あぁ、後あの人もか…龍神オルステッド
まぁ大事な人の安否がかかっている分心配なのも分かるが、ホントに俺が行くより安全に事が運ぶだろう…
「お勤めご苦労様です!」
門番はジンジャーの姿を見るとビシッと居住まいを正す、親衛隊にもなるとやっぱり位は上になるんだな
「兵士は正面門を利用できないので、こちらからどうぞ」
通されたのは勝手口、中は兵士の詰所のようになっており。何人かの兵士が席に着いてカードに興じていた…スマホが無いと休憩中の暇つぶしもあるもんだ
「お勤めご苦労様です!」
彼らも同じようにジンジャーを見ると立ち上がって直立不動である。彼女はそれに対して会釈を済ませると、どんどん奥へと進んでいく
「親衛隊はやはり位が高いのですか?」
「親衛隊だからという訳では無いですが…兵士の中では12番目です」
12番目か…軍を会社だとしたら間違いなく課長クラスにはなるだろう。この若さで女性でそれだとかなり凄いのではなかろうか
進んでいくと貴族風の人達も増えてきて、ジンジャーが止まって挨拶する事も増えた。俺も念のため教えられた貴族風の挨拶をする…無視されることもあったが
「荷物をお預かりします」
部屋の前に到着すると、ジンジャーが両手をこちらへ差し出す。
流石に王子の元へ行くのに武装したままでは行けない、俺は彼女に玉響を渡すが…予定通り服の中に隠したイゾルテの短剣は没収はされなかった
「ジンジャーです、ルーデウス殿をお連れしました」
「入れ」
ノックと共に要件を伝えると、中から男の声が帰ってくる。どこか鼻につく声だ…嫌な奴は声でわかるよね
中に入ると、そこには椅子にふんぞり返る小太りの男とメイド2人が居た。
1人はパックスの後ろに綺麗な姿勢で立っている…従者だろうか、もう1人は椅子に縛られている。赤い髪の毛、あれがリーリャか…確かにおっぱい大っきいな
「…?」
リーリャは不思議そうな表情を浮かべていた。そりゃそうだ、ルーデウスと聞いていたら歳の近いだけの男が入って来たんだからな
「ほう…こいつがルーデウスか」
「初めまして、ルーデウス・グレイラットです」
バレてはいないようなので取り敢えず貴族風の挨拶をしておく。次の瞬間、パックスは短い胴体に不釣り合いな大きな顔をにやりと歪ませて指示を出した
「落とせ」
浮遊感が身体を包み込む。聞かされていた通り古典的な落とし穴だ…膝を曲げて衝撃を吸収しながら着地すると、そこは地面で紫の魔法陣が光る地下牢のような部屋だった
聞くところによると魔術を形に出来なくする物らしいが…この世界に来てから剣しか振ってない。その効果があるのかも分からん
手を伸ばしてみると不可視の壁のような物に触れる。軽く叩いてみたがビクともしない…玉響無しで壊せるのか?この結界
「ギャハハハハ!無駄だ!無駄だ!その魔法陣はロキシーを捕まえるために作らせた王級の結界だ!お前ごときではどうしようもないわ!」
すると上からパックスが馬鹿笑いしながら階段を降りてくる。俺が全く魔術を使おうとしていない事にも気付いてないらしい
ヒトガミ曰くこいつが国を滅ぼすとのことだが…どうやったらそうなるんだ?
「貴方は?」
「余はパックス…パックス・シーローンだ!」
凄まじいドヤ顔だ。全て自分を貶める為の罠だと言う事も知らずにそれはもう得意気に。優秀なロキシーの弟子を嵌めれたと思って有頂天って感じだな
「何故こんなことを?」
取り敢えずアレックス達が人質を救出するのを待たなくてはならない。時間を稼ぐ意味も含めてそう尋ねる
「簡単だ、お前はロキシーをおびき出す餌になるのだ!お前の話は良くしていたぞ、無詠唱魔術の天才だったか?こうなってはただのガキだがな!」
的はずれな事を言っているとはいえ流石にここまでドヤられると腹たって来たな…アレックスの事だからそろそろ仕事を終わらせたと思いたいが、合図は無い
「そして次に来た時が奴の女としての最後だ!余の性奴隷にして5人は世継ぎを産ませてやる!」
「そんなにロキシーの事が気に入ったんですか?」
ロキシーは見た事ないのだが、こんな奴がぞっこんになるほど美しいのだろうか…ボンキュッボンのお姉さんとか?そんな家庭教師が居たルーデウスってやつはかなり羨ましいが
「ふん!余は王族だぞ?こんなもの戯れに過ぎん!あの生意気な女の顔を絶望に染めるのが今から楽しみだ!」
そりゃ無茶だろう、まぁ王族としてのプライドとか色々あるのかもしれないが…家庭教師として扱かれた事に対する腹いせって事か。情状酌量の余地は無いな
ちらりとジンジャーの方を見ると、何やら兵士の耳打ちを受けていた。そしてこちらを見るとこくりと頷く…人質の救出が完了したらしい
「すみませんが茶番はここまでです殿下、我儘のツケを払って頂きましょう」
「なんだいきなり…負け犬の遠吠えか?魔術師のお前がその結界の内部で出来ることなど無…なんだ、それは?」
俺が服の中から短剣を取り出したのを見て、パックスが初めて訝しげな顔をする。とはいえ魔術師だって短剣位は持っている事があるのだろう、パックスは直ぐに表情を戻し
「何かと思えば短剣!?ギャハハハハ!剣王にでもなったつもりか?お前のような貧弱な魔術師が何度振るった所で王級の結界が破れるものか!」
剣王にはなってるんだけど…まぁそれは良いや、百聞は一見にしかずってやつだ。世間知らずな王子に出すぎた杭は打たれる事を教えよう
「右手に剣を」
結界内でも体内の魔力は阻害されない…故に闘気は纏うことが出来る。ジノ・ブリッツ史上最大威力の技の準備に入る
「左手に剣を」
「な…なんだそれは…いや無理だから、ロキシーを捕えるために作った王級の結界だぞ!?破れる訳が無い!」
パックスは良くある悪役のようなセリフを吐いている。明らかにビビっているので自分に言い聞かせているのだろう
「両の腕で齎さん、有りと有る命を失わせ、一意の死を齎さん」
文字通り全てを載せた必殺の斬撃。空中じゃないから化け物に打った時より威力が出そうだな…そんな事を考えながら、俺は奥義を放った
「絶対無理だから!剣王でも無い限り無理だk」
「北神流奥義、破断」
パックスが最後の言葉を言い終わる前に凄まじい轟音が響き、自信満々だった王級の結界は砕け散った。
「ぐふぇぇぇぇ!?」
パックスも勢い余って壁に叩きつけられていたが…流石は王級、至近距離で破断の炸裂を受けたのにこの程度で済むとは
「お前…ルーデウスでは無いな…」
「剣皇ジノ・ブリッツと申します。訳あってリーリャさんとアイシャを探していたので」
意識は失っていないようで、パックスはようやく俺が人違いさんだと気付いたようだった。そして這いつくばったままジンジャーの方を睨みつけ
「ジンジャー…!裏切ったな!家族がどうなってもいいのか!?」
「自分の家族は剣皇殿のお仲間が助けて下さいました」
頼みの綱の人質ももう居ない、パックス側のカードは全滅だ。後は王様にでも今回の件を伝えて終了だな
パックスは望みが無い事を悟ったのか、その表情を絶望に染める…それと同時に拳を強く床に叩き付けた
「何故だ!何故余は何も得られない!認められない!?全て間違っているとでも言うのか!?」
俺は最初、こいつがまたよく分からない駄々を捏ねているのかと思った。周りの兵士達の反応も似たようなものだった…しかし
「少し上手く行っても、直ぐに裏目に出る!お前達は剣皇などという大層な人間に助けて貰えるのに、余はどれだけ努力しても!何か出来るようになっても!好いた師にすら認められず!あまつさえこの程度かと蔑まれ!自ら勝ち取った兵にさえ裏切られる!」
それは駄々と言うにはあまりにも悲痛な叫びだった。何も上手くいかず、自分のやる事など全て無駄だと感じでいるような…心の奥底からの
彼には、あったのだ。暴挙に至った理由となる傷が
「余は…お前達のような人間が大嫌いだ…!お前も、ルーデウスとかいう奴も…!生まれた時から才能に恵まれ、努力出来る環境とそれを認める師が居たのだろう!?」
パックスに指さされて少し、前世の事を思い出した。オーベールからニナを助けた時以来だろうか
彼の言っていることは、前世の俺ならば頷いていただろう。仕事にしても、スポーツにしても…最初から明らかに出来の違う奴はいる
周りの人間はその特出した者に集まり、平均的な者は何も日の目を浴びない。何かに成功したというだけで褒めてもらえるのは子供の時だけ
いずれは身の程を知って、分相応に生きる事を選ぶ。そして成功している人間達を見て呟くのだ…才能があったらなと
「…余ごときでは、所詮何も手にする事は出来んということか…」
「それは違います」
自分でも何故否定したのかよく分からなかった。先程までセクハラに人質と、嫌悪感しか無かった筈なのに…国を滅ぼす悪党だと聞かされていた筈なのに。そんな事は求めていないと分かっていたのに
それでも否定せずには居られなかった。自分の中で線引きをして、可もなく不可もなく…そんな生き方をしても、何も良くはならないと知っているからだ
「才能が無いとか、誰も認めてくれないとか…それを諦める理由にしてはダメです。目標にしてはダメなんです」
「お前に何が分かる!その歳で歴史に名を残すような称号を得ているお前が、余に才能など関係ないとでも言うのか!?笑わせるな!」
そうだ、俺だって前世で規格外のプロ野球選手にそんな事言われたって鼻で笑うだろう。それでも伝えなくてはならない…よく分からない使命感に突き動かされるように言葉を紡ぐ
「今の俺に才能が関係無かったとは言いません。周りの人に恵まれたのも事実です。でも仮に才能が無くても、周りの人に認められなくても、俺は悔いの無いように全力で生きたと思います」
「だからなんだ、醜く足掻けと?王族として無様な姿を晒し続けろと?」
パックスは姿勢を治し、壁に背を付けて呆れたように返す。自分でも何を言いたいか分からないが、心からの言葉は心に届くはずだと…そう信じるだけだ
「最初はそれでいいんです。ひたむきな姿はいつか必ず誰か目に留まります、強い意志は誰かの心を動かす筈です」
「少なくとも貴方は、それが届かない悲しみを知っているじゃないですか」
彼は俺の言葉にそれ以上何かを返す事は無かった。少し考え込んだ後に何も言わず立ち上がり、出口の方に向かって歩き始めた
「…王子、どちらへ?」
「父上の所だ、此度の件を報告し…沙汰を受ける」
ジンジャーの問いに、パックスは短くそう返す。彼女は未だに信用ならないのか、王の所まで付き添う腹積もりのようだった
「…剣皇、ジノと言ったか?」
「はい」
扉の前で立ち止まり、第七王子は今一度俺に言葉をかけてくる。
「こんな余に対してそこまでバカ真面目に言葉をかけてきたのはお前が初めてだ。正直才能溢れる貴様の言葉なぞ、今の余には全く響かんが」
「少しだけ無様に足掻いてやっても良い…精々期待せんことだな」
そう言い残して、彼は地下牢から去っていった。
良いこと言おうとしたけど無理でしたね…あんまり深く考えず雰囲気で読んでください…(泣)