有職転生〜異世界行ったら…え?三歳で剣を振るんですか?〜 作:KEN・JACK
〜ティモシー視点〜
道場内に静寂が訪れる
中央には剣を振り抜いている剣聖と…地に倒れ伏す我が子の姿があった
「ジノ!!」
静寂を切り裂き我が子に駆け寄ったのは我が師の妹であり妻のゼタ…剣帝として、正当な試合の敗者に駆け寄ることなど出来ない。それを歯痒くも思うが、今はゼタに任せよう
「…使ったな、光の太刀を」
次いで口を開いたのは我が師、剣神ガル・ファリオン。目線は鋭く剣聖へと向けられており、剣神流に生きるものならば…いや、剣に生きるものならば誰しもが剣に手をかける程の威圧感だ
「申し訳ありません」
例に漏れず剣聖は片膝を付いて頭を下げる。それは指示に背いた故か…はたまた師に封じられていた技を使わないと勝てなかった事に対する不甲斐なさ故か
「何故使った?俺様は使うなと言ったよな?」
「…使わなければ負けていたからです」
わざわざ聞くまでもなく、分かりきった理由であった。あのまま剣聖が光の太刀を封印していれば、勝っていたのはジノだっただろう…だが自分を含め、剣士として彼を責めようとする者はいない筈だ。
本来であれば必殺を封印されたからと言って…3歳に負けるなど剣聖の称号を背負う者としてあってはならない
「クッ…ハァッハハハーー!!聞いたかお前ら!?末っ子とはいえ剣聖が、3歳相手に光の太刀を使わなきゃ負けていたってよ!」
剣聖はどんな怒号が飛んでくるやも、ともすれば切られるかもしれないという表情をしていたが…師の高笑いを聞いて呆然とする
「それでいい、どんな理由があれど力を出し惜しみして負けを…より実戦的に言や死を選ぶような馬鹿は剣神流にはいらねぇ。逆にあのまま負けてればお前は破門だったぜ、良かったな」
「あ、ありがとうございます…」
剣聖は未だに事態が飲み込めて居ないようだったが、それでいい。剣に生きるとはそういう事だ。突き詰めるべきは強さ…馴れ合いなどは二の次なのだから
「しっかし…思った通りに思った以上だったな。血筋ったって納得行かねえよ普通に。とんだ化け物が生まれちまったもんだ」
我が子ながらゾッとする…3歳で剣聖と互角に戦い、言葉を流暢に話し… あまつさえ剣神流のトップである剣神という化け物に、化け物と言わせてしまうのだから
「おいゼタ、ジノは死んでねえだろうな」
「死んでたら私が兄さんを殺してるわよ」
別に殺してくれても構わねえぜ?と言う師に、ゼタは無言で睨み返して反抗の意を示す…今日は家で私も怒られそうだ…
「死んでねぇなら良い。取り敢えず今日は解散だ…明日からジノの稽古は俺が付ける。起きたらそう伝えといてくれ」
師がそう言い放つと、剣聖達がざわめき出す…それもそのはずだ、我等剣帝2人を除けば、ギレーヌ以来現れていない剣神の直弟子…剣聖などとは比較にならない高弟である証だ…だが、異を唱えられる者は居なかった
ジノの異常とも言える才能を前にして…自分がそうなっていないのは当然だと、理解してしまっていたからだ
〜〜〜
自分に子が産まれると知った時、期待で打ち震えたのを覚えている
男であれ女であれ、培った剣神流の剣を伝えられる子が出来るというのは喜ばしい事だ。
師をもってしても、娘が出来たと分かった時は大層喜んでいた程であったからだ
ニナと切磋琢磨し、いずれは剣王…ひいては剣帝である自らを超えるほどの剣士になって欲しいと。そして剣神流を更に飛躍させる存在になって欲しいと心から願った
その願いが、異様なほど早く叶うかもしれないと知ったのは…ジノが2歳になって少し経った時の事だった
「パパはどうして強くなろうとしてるの?」
ジノが私の素振りを見ていた時、そう問いかけられたことがある。息子の成長は異常だった。
2歳にして言葉を理解し、意味のある言葉を繋げて話す。よくゼタに本を読んで欲しいとねだり、文字さえも理解してる節さえあった
「それが剣士としての本懐だからだ」
「でも…僕から見たら十分強いけど」
そんな息子に語りかければ、不思議と全てを見透かされているかのように感じる。2歳に何を…とも思うかもしれないが、その目には2歳とは思えない知性が宿っている
「…だが最も強くは無い、剣神様を初めとして…私の剣が届かない人間は大勢いる。だから鍛えるのだ」
剣士とはそうあるべきだ、息子に教えるつもりでそう説いたが…ジノはどうやらその答えに納得出来ていないようで小首を傾げると
「じゃあ、パパの剣が全てに届くようになったら…その次は?」
「その時は剣神流を更に広めるさ、もし師を超えて私が剣神となれば…皆が正しい強さと、自らを守る力を得られるような制度を作るつもりだ」
そこまで聞くとようやく納得したようで、年相応の屈託の無い笑顔を浮かべて
「そっか。パパは凄く立派なこと考えてるんだね、僕も頑張らないと」
そう言った。息子が父の姿を見て奮起する…このような優秀な子に目標とされるのだ、これ程嬉しいことは無いと感じた事を覚えている。
「でも…それってーー」
その後に続いた言葉が、我が師と重なった事も鮮明に
〜〜〜
「お前らは強ええんだけど、剣神になるにはって考えるとあと一歩なんだよなぁ」
いつも通り、2人で打ち込んで軽くいなされる。剣神としての格の違いを日夜見せつけられて終了だったはずなのだが…その日は何故か話をされた
「では…我々には何が足りないのでしょうか」
私では無い、共に研鑽を続けたもう1人の剣帝がそう尋ねる。私としても気になるところではあったので黙って耳を傾ける
「バカお前そういうのは自分で気付くから価値があるんだろうがよ…ん〜でもまぁそうだな、お前らこのまま強くなって仮に俺様をぶっ殺した後何したいんだ?」
「更なる研鑽を積み!剣神の名と剣神流を更に世に広めたいです!」
詳しくは覚えていないが、私も似たような事を言った記憶はある。 しかしその答えを聞き、師は心底つまらなさそうな顔をすれば
「はぁ…立派なことだな…じゃあ剣神流の為にまた頑張れよ、俺様は寝る」
そう言って踵を返し、当座の間を後にした。ありがとうございましたと頭を下げる我々に対して、師は一言残していった
「そんなもん、今より強くなくても出来るだろーけどな」
〜〜〜
「…知らない天井だ」
「大丈夫!?ジノ、もしかして記憶喪失!?ティモシー!早くスクロール持ってきて!!」
「ごめんお母さん、冗談だからそんなに慌てないで…」
目を覚まし、起き抜けに小ボケをかましたらゼタが大慌てになってしまったので服を掴んで制止する…凄まじいパワーだ、これが母の愛か…
「痛むところは無いか?ジノ」
こんな時にふざけないでというゼタに謝罪すれば、横に座していたティモシーに話しかけられる。俺のボケにも動じないとは流石剣帝だ…
「大丈夫…でもやっぱり剣聖は凄いね、見るのがやっとだったよ。気絶してるから防げてないけど…」
にしてもあれはなんだ?無音の太刀より遥かに早い一撃だった。恐らくあれが使えるかどうかが剣聖になる為の鍵なのかもしれん 「…見えていたのか?光の太刀が」
「え?うん…あ、負けてごめんなさいお父さん。次は勝ちます」
剣の聖地における剣帝の立ち位置と、ティモシーの厳格さを考えれば…ビンタくらいは有り得るかもしれないと覚悟していたのだが
「いや…お前は十分すぎるほど良くやった。剣神様も褒めておられたぞ」
ティモシーは複雑な表情で俺の頭を撫でた。良かった、3歳であれだけやれるのは凄いことだった…これくらい当然と言われなくて一安心だぜ…いやほんとに…
「それと…明日からは剣神様自ら稽古を付けてくださるそうだ。ここ数年直弟子となった者は居ない程の快挙だが…失礼の無いようにな」
ほう…特別扱いされるかもしれないと思っていたが、まさかそこまで高待遇とは思わなかった。いきなり3歳児に試合させる人の直弟子… 正直嫌すぎる、何されるか分かったもんじゃないだろそれ!
「ボク…オトウサンニオシエテモライタイナァ」
「私としてもその方が安心なんだけど…ああなった兄さんは止められないの、ごめんねジノ」
いやいやもう逃げないとか卑屈にならないとか啖呵切ったけど!あんな狼王に育てられた人みたいな剣術バカの直弟子は嫌だよ!絶対そのうちトカゲは良く食ってたとか言い出すって!!
「心配するな、明日から朝の自主鍛錬は私が担当するように言われている。きちんと教えてやるさ」
ティモシーは笑顔でそう伝えてくれるが…そういう事じゃないんだよなぁ…