有職転生〜異世界行ったら…え?三歳で剣を振るんですか?〜 作:KEN・JACK
ティモシーに言われた通り、次の日から剣神の直弟子としての修行の日々が始まった。
朝起きれば父との鍛錬だ、走り込みに体作りの筋トレ、木剣を使った打ち合い稽古に勤しむ…因みに朝は前世であれば労基に駆け込むくらいには早い。
「頭で考えて剣を振るうな!剣神流の理合を考えずに体で繰り出せるようになるのだ!」
「はい!」
剣聖に対しては上手く立ち回れても、やはり剣帝であるティモシーには遠く及ばない。指導の立ち会いでは勿論、本気での試合はもはや勝負にすらなっていない
「…今日はここまでだ、朝飯にしよう」
「はぁ…はぁ…ありがとうございました…」
倒れ伏す俺を見下ろし、ティモシーはそう告げる。雪がひんやりと冷たいが…それを上回る熱が俺の体から出ているのだろう、程よい気持ちよさだ
朝食が終われば本稽古の時間だ、普通なら俺は近くの道場に向かうはずなのだが…剣神の直弟子になった俺はティモシーと共に本道場へと赴く
「良いか?お前を吹っ飛ばした技は光の太刀ってんだ、ティモシーから聞いてるかもしれねぇが…闘気を全て刀身に乗せて放つ剣神流の奥義ってとこだな」
ガルは見た目に似合わず指導者としては合理的であり、剣神流としての理合をこと細かく説明してくれていた。なるほど、そんなマニュアル最強技みたいなのが光の太刀ってやつなのか…にしても
「あの…すみません師匠、闘気ってなんですか?」
「何ですかってお前…剣聖と立ち会ってた時使ってたじゃねぇか」
使ってた?あの時は必死に剣を振ってただけなんだけどな…あ、今までの見てきたのを全部乗せるって思った時に変に湧いてきた力の事か?あれゾーンじゃなかったのか
「もしかしてこれですか?」
何にせよ答え合わせをしなくてはならない、目を閉じて精神を研ぎ済ませれば…あの時のように体の周りを何かに覆われているような感覚が起こる
「おう、そうだけどよ…もしかして何となくで使ってたのか?」
「いや…まぁ…はい」
何か良い具合に言い訳でも述べようかと思ったが、何も思いつかなかったのでそのまま素直に頷く。ガルはそれに対して何とも複雑そうな表情をしたあと
「…それ、剣聖のヤツらに言ってやるなよ」
そう釘を刺された。この人が他人を慮るなど見た事がない…それほどこの闘気を纏うという事は中々高等技術なのだろう…謙虚に生きないとな…
基本的にガルとの修行は地味なものだった。
光の太刀の理合を説明された後は、ひたすら無音の太刀を放ってそれを光の太刀へと近づけて行く…言うなれば作業に近い
流石のこの身体でも闘気を全て纏めて放つというのは中々に上手く出来ないようで…剣速は上がれど、どうしても光の太刀と呼べる物には仕上がらない
「違う、今のはただめちゃくちゃはええ無音の太刀だ。良いか?闘気を全てだ、コントロールは出来てんだから後は集中の問題なんだよ」
そして時折ガルからのアドバイスが飛んでくる。合理的に教えてくれるガルだが、常にそうという訳では無い…恐らく自分で掴む事が大事だという事もあるのだろう
「お前は賢いからな、どうしても二振り目を考えちまってんだよ…そんなもん考えるのは光の太刀が出来るようになってからだ」
とは言っても、渾身の一撃を放ってるつもりなんだけどな…俺と剣聖の太刀の違いは何なのだろうか、正直現状は全く理解できないでいる
「師匠は、二振り目を考えながら光の太刀を放てるのですか?」
「?何言ってんだお前、二振り目なんて無いから剣神なんだよ俺様は」
実に剣神流らしい言葉だった
〜〜〜
そして稽古を付けられるようになって変わったことがある…それは
「ジノ!」
この剣神から産まれたとは思えない可愛らしい女の子が、しょっちゅう俺に絡んでくるようになった事である
「あ、ニナちゃんお疲れ様」
ガルとの稽古も一息付いて道場の外で小休止していると、木剣を持ったニナがとてとてとこちらに向かってくる。言うことは大体分かっている
「お父さんとの稽古は終わった?じゃあ次は私と修行しよ!」
ニナは7歳という若さで中級の認可を得て、道場内の同世代では負け無しの快進撃であるらしい。俺も同世代の子達と切磋琢磨したかったもんだ…ガルが変なこと言うから…
「良いよ、じゃあいつも通り打ち合いから初めよっか」
基本的に俺にこんな事を言うのはニナしかいなかった。剣聖以下の子達には恐れられて若干避けられてるし、剣聖達からは直弟子という立場に対する嫉妬からかこちらも頻繁には絡んでこないからだ
「せやぁーーー!!」
そんな俺にも果敢に挑んでくるあたり、強さへの貪欲さというか…ガルの娘なのだなと思う
打ち合いは基本的にはこちらがセーブする形なのだが…これまた力加減が難しい。抜き過ぎるとニナが拗ねるし…言い難いが本気を出せば勝負にならないからだ
「いいね、昨日より早くなってるよニナちゃん」
「いつまでもそんな余裕でいれると思わないでよっ!」
ニナの連撃を軽くいなしていると、上段に振りかぶった剣を急に横に持ち替えるフェイントを披露してきた…昨日までのニナには無かった動きだ
「おっと」
「!隙あり!」
防御がほんの少し遅れて後退した俺に、ニナはチャンスとばかりに追撃をかける…が、格上の隙に飛び込むのは得策では無いよニナ
「甘い!」
無音の太刀の構えを取りやすいように防御していた俺の一閃が、彼女の木剣を真上に弾き飛ばす。あっという声を上げたニナの首元に木剣をぴたりと当てればフィニッシュだ
「…ジノの方が昨日より早くなってるじゃん…」
「そうかな?でもお互い成長出来てるってことだよ」
多少むくれることはあるが、正々堂々と勝負した結果であればニナは不貞腐れる事は無い。3歳である俺に何度も負けているのにだ…きっとニナは強くなるだろうな
「どうしてジノはそんなに強いの?私なんて3歳の頃は素振りするのがやっとだったのに」
落ちた木剣を拾い上げながら、ニナがそんな事を聞いてくる。正直に言えば前世の記憶と肉体の才能が合わさったハイブリット剣士だからだよ…となるが、そんな事を言う訳にはいかない
「どうしてか…そう言われると難しいけど、強いて言うなら誰かの為の剣だから…かな?」
何か凄いクサイ台詞を吐いてる気がするが、そこはゴリ押そう。
「…どういう意味?」
まぁ思った通りニナは可愛らしく小首を傾げている、そもそも理解するつもりはあまり無いのだろう。このくらいの歳の子は直ぐにパワーアップ出来るアイテムとか修行法とかを欲しがってるだけだ
「お母さんとお父さんに感謝して、良く寝て良く食べるのが大事ってこと」
「嘘だー!そんなの私だってやってるもん!意地悪しないで教えてよー!」
そんなこんなで厳しくも充実した毎日を送り、気付けば4歳の誕生日を迎えていた。
〜〜〜
「兄さん、入るわよ」
「おう」
剣士達の声や剣が打ち合う音が聞こえなくなった夜、ゼタはガルの元へと訪れていた。
ガルからジノの事で話があると呼びだされていたのだ。横にはティモシーも付き添っており、ジノが生まれて久しい3人での会合であった
「失礼します」
ティモシーが頭を下げて剣神の部屋に入り、ゼタは何も言わず座布団に腰を下ろす…いつもの癖なのかティモシーはゼタの横で立ったままガルを見る
「それで師匠、ジノの事とは一体なんでしょうか」
いつもの剣神スタイルではなく楽な格好で横になってきたガルは、ティモシーの問いかけにゆっくりと上体を起こして口を開いた
「…お前ら、ジノの違和感に気付いてるか?」
ゼタとティモシーは、2人とも剣の成長速度や大人びた精神の話かと思い咄嗟に頷く事は出来なかった。ジノが産まれて4年の月日が流れ、今更そんな事を違和感と呼ぶのかと疑問に思ったが故に
「ちげぇよ、バカみてえな才能とか大人ぶった物腰とか今更そんな事言っても仕方ねぇだろ…あいつの剣に対する姿勢の話だ」
「姿勢って…ジノは毎日きちんと鍛錬してるじゃない。あの歳で剣聖も間近なのに、驕ってもサボってもないわ」
ゼタの言葉にティモシーも頷く。当初強すぎるが故に不真面目になるかと危惧していた事もあるが、そんな素振りは一切見せずにジノは毎日欠かさず修練を行う
そんな息子が剣に対する姿勢に問題を抱えているとは思えなかった
「気づいてねぇんだな…あいつ、人を斬れねぇぞ」
だが、ガルの一言に…ゼタとティモシーは目を丸くする。それは剣の聖地に生まれた以上、通常であれば問題になるはずも無い事柄だったからだ
「…それは、本当ですか?」
「あぁ、間違いねぇ。最近ジノに何かが足らねえとずっと考えてたんだ。あいつくらいの才能ならもう光の太刀くらい打ててもおかしくねえのに何で打てないのかも含めてな」
2人は、ガルの言葉を聞くまでそんな事には全く気付いて居なかった。
自分達も含め、人を斬ってはいけない等と思った事は無い…そもそもの話剣とは何かを傷付ける事だ
傷付けてはいけないと思いながら剣を振るうなど、言うまでもない矛盾なのだから
「俺様は勿論そんな事言った覚えはねぇし、お前らが言ったとも思えねぇ…だからアイツがどっかで拾ってきた価値観なんだろうよ」
ガルはギレーヌの事を思い出していた、餓えた虎だった彼女の教育を間違えて子猫のようになった反省を活かし…ジノの牙は抜くまいと思っていたのだが
そもそもの話、強大な力を持った虎…いや、もはや龍と言っていいジノには牙が無かったのだ
「それを矯正しない事には、アイツは一生剣聖になれねえ。実力は付くだろうが、剣が何なのかを理解しないうちは光の太刀は打てねえ」
ゼタとティモシーは言葉を発せなかった。二人とも物心付いた時から剣を振るい…誰かに勝つ為に、強くなる為に、つまり人を斬るための技術を磨いてきたのだから
それがジノの根底に無いことなど、想像もしていなかった
「まぁ、そう悲観する事でもねぇよ。幸いあいつはまだ4歳だし…いくらでもやりようはあるさ」
見かねたようにガルは言葉を続ける。剣神としてのその言葉は信用に足るが…同時に親として、2人に一抹の不安を抱かせるものでもあった
「ちょっと荒療治になるけど、良いよな?」
その笑顔が、あまりにも獰猛だったからだ