有職転生〜異世界行ったら…え?三歳で剣を振るんですか?〜 作:KEN・JACK
剣に伝わる確かな感触。だがまだだ…相手は北帝、今のである程度の動きの軽減はできこそすれ、戦闘不能には遥かに及んでいないだろう
「はああああっ!!」
もう一度、光の太刀を放つ。振り返りざま、次は剣を上段に構えて闘気を込める。
だがオーベールは、防ぐでも回避しようとするでもなくその場で静止していた
「これでよろしいでしょうか?剣神様」
その言葉と同時に放たれた光の太刀が、突如北帝と俺の間に現れた男によって止められる…先程の一撃よりは軽いはずだが、音に似合わず易々と止められたのだ
「上出来だ北帝、中々に演技派じゃねえか」
現れた男は…剣神ガル・ファリオンだった
「え?師匠?」
突然現れた師の姿に俺は唖然とする。何故ここにガルが居る?ていうか剣神の娘を殺しに来たってのに何でオーベールと若干仲良さげなんだ?
「お…お父さん?」
ニナも戸惑っているようだが、その表情には明らかな安堵が浮かんでいる。まぁここで駆け付ける父親が頼りになるのは間違いないだろう…ましてやニナの知る中では最強だろうし
「にしてもやられたな、4歳の光の太刀が止められなかったのか?」
「お戯れを…彼は聞いていた以上の才覚の持ち主です。二太刀目はともかく、最初の一刀は剣王と言っても遜色ない完成度でした」
にやにやと小馬鹿にしたような笑みを浮かべながら、ガルは剣を納めて北帝に尋ねる。オーベールは対照的に真面目な顔をして俺の光の太刀を評していた
…大体分かってきたぞ、この人俺に発破をかける為に北帝を雇いやがったな…
いやヤバすぎるだろ、本当に死ぬとこだった…ってか死ぬ覚悟したわ!自分の娘まで巻き込んで!
「ジノ…剣が何の為にあるか分かったか?」
文句の1つでも言ってやろうかと思ったが、ガルは振り向いてこちらを見た後に真面目な顔で問いかけてくる…そこまで言われてようやく俺はガルの意図に気付いた
俺は理解していなかったのだ、まるで剣道でも習うかのようにひたすら毎日剣を振って強くなっているつもりだったのが…今なら分かる
恐らくガルはそれを見抜いていたのだろう。そんなスポーツ感覚ではこれ以上成長出来ないことを、半端な気持ちでは命を落とすという事を…
「…はい、師匠にそう問われてやっと分かりました」
「ならいい、お前は今日から剣聖だ…明日からは厳しく行くぜ?」
いやあんた今までもずっと厳しかったよ!という言葉はぐっと飲み込んでおいた…言わなくていい事もあると社会人になって学んだからな…
「その…ありがとうございます、北帝殿。そして申し訳ありません、怪我は大丈夫ですか?」
俺はとりあえずガルの言葉に頷くと、オーベールに向き直って頭を下げる。さっきまで命の取り合いをしていたとはいえ、遠路はるばる俺の為に来てくれたのだ、礼を尽くさねばなるまい
「お気に召さるな、剣聖殿…貴殿のような未来ある剣士の礎となれて某も鼻が高いというもの。怪我はお互い様という事にしておきましょう、修行には付き物であるからな」
格好は意味わからんが、存外良い人なんだなこの人。大事には至らないとは言え肩を切られたのにこの余裕…この世界の人間は頑丈だな、ガルの手前怒れないだけか?
「そういうのは帰ってからにしてくれ、ニナが拗ねちまってかなわん」
言われて振り向けばニナがガルに抱かれたまま、ぽこぽこと素手で遺憾の意を表明していた…どこぞの総理もこれくらい可愛げがあれば良かったのにな
とりあえず今日は剣聖の認可を喜んでおくとしよう
無理やり自分をそう納得させ、ニナをなだめながら俺達は森を後にしたのだった
〜〜〜
家に帰るとゼタにめちゃくちゃ心配されたが、剣聖の認可を得た事を伝えると、ティモシーと共に諸手を挙げて喜んでいた…
心配を吹き飛ばす程嬉しいのか分からないが、その日は今まで見た事のない程豪華な料理が食卓に並んだ。やはり飯は豪華であるほど良い
そして剣聖になったことで、色々と変わった事があった
まず、何故かオーベールが俺に剣を教える時間が出来た
ガルは適当にもてなした後に帰すつもりだったらしいが、オーベール自身が俺に北神流を教えたいと進言しだした。何でも俺の才に魅入られたとの事らしかった
なので朝にティモシーとの稽古、昼にガルとの稽古…そしてそれが終わればオーベールとの稽古というブラック企業も真っ青の稽古漬けの日々へと変わった
剣神流を更に高める修行と北神流を新たに学ぶ修行を両立させるのは流石にしんどかったが、それでも問題なく付いて行けたのはこの身体の才能のおかげだろう
必然的にニナとの修行の時間は無くなってしまったのだが…その代わりニナが修行以外で絡んでくるようになった
「ジノ、お疲れ様。今休憩中?」
「ニナちゃん…そうだけど、どうかしたの?」
…最近ニナがお疲れ様というようになった。俺がずっと言ってたから仕方ないんだけど、人から言われると何か社会人時代を思い出すから嫌なんだよな
「これ…作ってきたんだ。おばさんにジノの好物だって教えて貰ったから…」
「こ…これは…!」
ニナから差し出されたのは、竹皮に包まれたおにぎりであった。
この世界にも米はあるが、シーローンという国の付近でしか頻繁に食べられていない。なのでブリッツ家の食卓にも一度しか並んだ事は無いが…どうやらその時に俺がえらく感動したのをゼタが覚えていたらしい
そしてニナが俺の為にとゼタに聞いたのだろう。手に入りにくい米を仕入れてまで、彼女は俺に喜んで欲しかったのだ
俺は早速皮を剥いて中身を取り出してかぶりつく。黄色い米はどちらかと言うとパエリアで使われているようなパラパラなものだから白米とは違うが…それでも米は米だ、日本人のDNAが歓喜の声を上げる
「どう…かな?」
正直比較対象が強すぎるため手放しに喜ぶことは出来ないが、それを補って余りあるほどの気持ちが込められているのはありありと感じた。
生まれてから剣を握ることに殆どを捧げてきた女の子が、俺の為に作ってくれたものが不味いわけが無い…例え泥にまみれてようと美味かったと言って見せよう。俺の目標とする剣士、海賊狩りのように
「凄く美味しかったよ…ありがとうニナちゃん。また作ってくれると嬉しいな」
「…うん!絶対また作ってあげるね!」
俺が感想を述べると、不安そうな顔がぱあっと一気に明るくなる。
本当に良い子だ、反抗期とか来たら泣いちゃうかもしれない
「それでさ…そのニナちゃんっていうの、止めない?」
俺が感動していると、唐突に呼び方について指摘が入る。今までそんな事は言わなかったのに…どうしたんだ?
「止めるって…何か嫌だった?」
「嫌なわけじゃないけど…何か仲良くない感じするって言うか、子供扱いされてるみたいだから…そりゃあジノからしたら私は頼りないかもしれないけど…」
おおっと?これは早速フラグか?幼なじみだからいつかはそうなるかもと思っていたが、剣才もあるし顔も悪くないこの身体は5歳にならずとも女の子を惑わせてしまうらしい
「そうかな?でもニナが嫌なら止めようか」
「え?あ、うん…ありがとう…」
ふっ…元の世界ではこんなセリフは吐けなかったけど、ジノ・ブリッツとしてなら難なく吐けちゃうぜ…にしても、これは確実にニナの初恋は俺になっちまったな
頬を赤らめて目線を逸らす彼女を見て、そう確信する俺であった
次の日、ガルの稽古がやたらと厳しかった
…人の親だな、剣神も…
〜〜〜
「ふむ…見事だジノ、今日から北聖を名乗りなさい」
俺が5歳の誕生日を迎えて半年程過ぎた後、オーベールから北聖の認可を得た。
剣聖と北聖…名乗る時どちらを使えばいいのかと尋ねたが、そんなもの好きなようにしたら良いとのことだった
にしても意外だな…某の名のために北聖を優先しなさい。その為にお前に剣を教えたのだからなくらいは言いそうだったのに
「さて、某は明日にでも聖地を立つ…何か最後に聞いておきたい事はあるか?」
修行の片付けをしていると、急に北帝がそんなことを言い始める…随分急だな、1年くらい俺に剣を教えてたってのに
「そうですね…じゃあ効率的な稼ぎ方について教えてください」
「…剣の師に最後聞くことがそれとは、何とも可愛げの無い弟子であるな」
まぁ北神流の剣の事は大体聞いたし、オーベール自身の事も1年でまぁまぁ教えてくれた。ならばちょっとティモシーやガルに聞きにくいことを聞いてみようと思ったのだ
急に帰るとか言い出したのも、聖級まで育てれば師を名乗れるからくらいの打算的なもんだろうし
「金など必要なのか?お前はまだ5歳であろう。聖地から出もしないのに金を稼いでどうする」
「いつか出る時の為に色々と学んでおかないとまずいでしょう。学ぶのにも金がいるんですよ」
家にある本だけでは流石に知識が足りない。かと言って買い足そうとしても本は値が張るのだ…修行しているだけの現状では満足に学ぶ事は出来ない
「なるほど…そういう事ならば冒険者ギルドに行くのが最適であろうな。ここにも街まで出ればあった筈だ」
冒険者ギルドね、確か依頼を纏めて実力ごとに割り振ってるんだっけか。
まぁ三大流派の2つを聖級まで収めた今なら実力不足って事は無いだろうし…行ってみるのもありかもしれんな
「最初は地味な仕事を地味な賃金でやる故、行動を起こすなら早めの方が良いとだけ言っておこう」
…なら明日にでも登録しに行こうかな
一応世話になったし、オーベールを見送るついでに