足元には道があった。
木々の影が左右をぬりつぶし、まっすぐ前へとみちびく。
そしてその先の広場には月。
大きく、丸く、他を黙らせるほどの存在感を持つ月が君臨していた。
月には魔力がある。その引力で人の中の海を引きよせ、人を惹きつける。
満月の日に生まれたという小波もまた、口を開けて月を見ていた。
「・・・・・・」
小波は空間にわずかな空気の動きを見つけて、視線を下ろす。
銀色の光をまとった少女が、そこにいた。
「こんばんは、今日はずいぶん早いね」
練習してないため気づくのが早かっただけなのだが、たしかにいつもよりは少し早いようだ。
「えっ、・・・な、何?」
しかも彼女は小波の腕を引き、どこかへ連れて行こうとしているらしい。
めずらしく積極的な彼女にとまどいながらも、小波はついて行く。
コートを出て林を通り並木道へと抜けると、彼女が見せたかったものが目に飛び込んできた。
「うわぁ・・・」
木の上に霞がかかっているのかと思った。
月とわずかな街灯に照らされ、桜の花弁は本来の色を忘れたように、白く静かに灯っていた。
「俺、こっち通らないから気づかなかったよ。もう咲いてたんだ」
彼女も嬉しそうに笑う。
月の光が降りかかる。まるで光をたたえているかのように、彼女だけ光って見えた。
ひらり、と花びらが目の前に降りる。
二人の間をゆっくりと舞い、そっと差し出した彼女の手のひらへ、まるで、そこを目指していたかのように花びらは手の中に収まる。
(・・・キレイだ)
白い霞の中で、銀色に光る彼女。それは現実とは思えない風景だった。
桜の花粉には幻覚作用があると言う。小波も酔っていた、その情景に、彼女に。
「・・・・・・」
息をすることすらも忘れてしまったように、じっと見つめる。
手の中の白を見せて、彼女は微笑む。
触れたら消えてしまいそうで、けれど確かめずにはいられなくて、ゆっくりとその花びらに手をのばす・・・
・・・グウウウーー
音のない世界に突然、場違いな音が響いた。
「・・・ぷっ」
その出所に気づいて、彼女はふき出す。あわてて腹を押さえるが、腹が鳴った事実は変えようがない。
「い・・・いつも来る前に軽く食べてくるんだけど、今日は何もなくて、そのっ・・・」
必死になって弁解するが、彼女は肩をゆらして笑っている。
あんまり笑うものだから小波も機嫌を損ねる。むすっとした小波を見て、まだ肩をゆらしながらも彼女は手を合わせてあやまった。
「・・・まあいいけどさ。それじゃ、ハンバーガーでも食べに行かない?」
(え?)
「あっ・・・」
ふいに出た言葉だった。
言った方も、言われた方も驚いている。
「・・・あ、えっと、・・・この近くに店があるんだけど・・・もし、よかったら」
笑う姿が身近に感じられて、つい口に出てしまった。この公園から出るはずがない、そんなふうに思っていたはずなのに。
「・・・・・・・」
しばらく迷っていた彼女だったが、ゆっくりとうなずく。
「・・・・へ?」
「あ、そこ足元気をつけて」
小波は茂みを体で押さえてまねく。
彼女はスカートのすそを持ち上げると、壊れた柵をくぐった。
小波はその一挙一動を見守る。
そして、彼女が公園の外に降り立ったのを見て、ほっと息をつく。彼女が、消えてしまいそうな気がしたから。
(・・・ジバク霊じゃあるまいし)
自分の考えに苦笑して首をふる。
「?」
彼女は柵の前にへばりついたままの小波を不思議そうに見ていた。
「あっと、じゃ行こうか・・・・うわっ」
あわてて体を離すと、枝が勢いをつけて戻る。それに顔を打たれ体勢をくずし、とっさに彼女の肩につかまった。
「と、ゴメン」
手を離すと、彼女はカァッと赤くなって体を引き、顔をそむけた。
その背中を見て小波はため息をつく。
初めの頃は体に触れられるのをひどく嫌がっていたが、少しずつ慣れて多少のことなら平気になってきていたはずだった。それなのに、またこの態度。
落ちこむ気持ちをおさえつけて、小波は笑顔を作った。
「・・・じゃ、行こうか」
アスファルトには濃い影がふたつ。いつもの道なのに景色が違って見えるのは、自転車と徒歩の違いだけではないだろう。
毎日通っている道を彼女と肩をならべて歩いている、それはひどく不思議な感覚だった。
ゆっくりと歩いても目的のハンバーガーショップにはほどなく着く。もう日付も変わりそうな時間ではあったが、店内にはちらほらと客の姿があった。
「なにがいい?」
と、聞かれても・・・。彼女には判断がつかない。
どんなものかは写真と名前でだいたい分かるが、彼女には食の指向というものがあまりなかった。
彼女にとっての食事とは出されたものを平らげる、それだけの物だった。せいぜい選ぶといえば肉や魚、焼き方を指示するぐらいの事だ。
(・・・・・・・)
たかだか10種類程度のものを選ぶことができないのは、自分でも不思議だった。
別に判断力がないわけではない。普段の彼女(もしくは彼)なら食事を選ぶという概念がなかったとしても、このぐらいすぐ決められたはずだ。なのに、今の彼女にはそれができない。
「・・・俺が適当にたのむから、その辺に座ってて」
見かねた小波の提案にホッとして席に着き、店内をぐるりと見わたす。
(・・・・・ここが、ハンバーガーショップ・・・)
簡素な作りのソファとテーブル。彼女にとってはひどく手狭だったが、今はそんなことも気にならず、はずむ胸を押さえるのに精一杯だった。
(まさか来られるなんて・・・)
普通の女の子のように、友達とこんな店で食事をする。そんな当たり前のことが彼女にはあこがれだった。
その夢が、いま現実のものになろうとしている。
「いよっ、こんばんは」
(・・・・・・・・・誰?)
目の前に見知らぬ男たちが現れた。
「ひとり? ココいいかな」
「うっわ、ガイジンだぜガイジン!」
返事も待たずにふたりの男が目の前に座る。もっとも、今の彼女に返事はできない。
原色のシャツにガクラン、サングラス、リーゼントまでしていて、今どき天然記念物に指定されそうな不良ふたり組だった。
「ハイ、ナンシー。あいむナオミー」
「ダレがナオミだ。アホか」
ガハハ、と男たちは笑う。
(??)
彼女は疑問符をたくさん出して前のふたりを眺める。こういう店では同席が当たり前なのだろうか、でも他に席はたくさん空いているのに・・・などと思案をめぐらせていると小波がやってきた。
「お待たせ・・・・・ん?」
予想外のふたりを見つけると、不思議そうに男たちと彼女を交互に見る。
「知り合い・・・じゃないよね?」
こくんとうなずく。
「ジャマしちゃ悪いから、向こう行こうか」
腕を引こうとすると、男は小波と彼女の間に割って入る。
「おっと、ジャマなのは兄ちゃんの方だろ」
「そーそー、オレたちとお話してるんだよねー」
(え? え?)
自分が原因となっていることも気づかずに、彼女は視線を泳がせる。
男たちの顔は笑っていたが、一触即発の空気だ。
小波は視線を外すと、彼女の腕を引く。
「失礼します」
男は小波の腕をぐっとつかむ。
「ちょっと待てよ!」
「!!」
ケンカになる、と思った瞬間、
「キャータスケテー」
棒読みの、場違いな声が店内にひびいた。
その声の主は小波。
不良はあっけに取られている。
店内はにわかに騒ぎ出し、さっきからチラチラと見ていた周りの客も注目し始めた。店員も何事かと集まり出す。
「・・・くっ」
「行こうぜ」
男たちは店から去って行った。
「スイマセン、お騒がせしましたー」
小波は頭を下げると、息を吐いて席につく。
「・・・ごめん、カッコ悪くて」
頭をかきながら笑う。
「暴力沙汰にでもなって学校と部活に迷惑かけるワケにもいかないだろ。俺なんかたまに試合に出してもらえる程度だし。・・・それに、どーせケンカしても勝てないだろうから」
わはは、と笑い飛ばす。
それを見て、ちっともカッコ悪くないと思った。
周りのために争いをさけたのをわざとおどけて言う姿に、彼女の胸は暖かくなった。
(・・・・・? 何かしら、これ?)
テーブルに目を落とすと、彼の持って来たものは番号のついた札がひとつだけのようだ。
手に取ってみるが、やはり何の変哲もないプラスチックのプレートだ。
「お客様、お待たせいたしました」
店員がトレイを持って来た。そこにはハンバーガーが山盛りで乗っている。
(コレ、全部食べるの?)
驚きの目で見つめていると、小波と店員が困った顔で笑う。
「・・・あのさ、ソレ、店員さんに渡してくれるかな」
(はっ!)
あわててにぎりしめていた番号札を渡す。恥ずかしくて顔がほてった。
「で、どれ食べる?」
小波はハンバーガーが乗ったトレイを彼女の方へ押した。
「これがスタンダードで、こっちがチキンでちょっと辛いやつ、こっちはライスバーガーで・・・」
ひとつひとつ説明するが、やはり決めかねる。
「ちなみに、俺はこれがオススメかな」
そのうちのひとつを差し出す。彼女はちょっと考えた後にそれを受け取ると、いったんテーブルに置いてお茶に手をのばした。
お茶を飲みながら小波を盗み見ると、すでに食べ出している。
(・・・ああやって食べるのね)
小波がしているように、包みを開けかぶりつく・・・のはとてもじゃないが恥ずかしくてできないので、手でちぎる。が、やっとちぎれたかと思うとレタスがズルズルと出てきた。必死で切ろうとするが上手くいかない。
ちらっと小波を見ると、こちらなど気にせずにむさぼり喰っている。すでに2個目だ。
彼女はこっそりとハンバーガーに顔を近づけ、レタスを噛み切って食べた。
(・・・あ、意外に美味しい)
味については期待してなかった。
たしかに高級な素材を使っているわけでもなかったが、全体的に調和していて、それなりに美味しかった。
「けっこうウマイだろ」
いつの間にかこっちを見ていた小波がうれしそうに笑う。
「ファストフードの中でもここが好きなんだ。・・・安い方じゃないから、たまにしか来ないけど」
話している間にもどんどん目の前の包みは消えていく。対照的に彼女の方はちっとも食が進まなかった。見られていてはかぶりつくのはもとより、咀嚼するのすらむずかしいことのように思えた。
いつもなら横に座っているはずの顔が真正面にある。必要以上に恥ずかしくなって、彼女はうつむく。
お茶を飲むこともできなくなって視線を横に向けると、そこにいた客と目が合う。相手はあわてて目をそらした。
「?」
視線を動かすと、また別の客と目が合う。
先ほどのもめごとの後、店内の視線は彼女に注がれていた。
(・・・何? 私の格好がおかしいの?)
彼女は突然、自分の状況を思い出す。
(浮かれて付いて来てしまったけど、軽率だったわよね。誰か知り合いに見られでもしたら・・・それに何だか注目されているみたいだけど、やっぱり私の姿が変なのかしら)
女性の格好をした彼女本来の姿は、使用人の前以外で見せることはない。彼の前でも正面から、しかもこんな明るい光の下で見られたことはなく、彼女は再び困った顔でうつむいた。
小波はその姿を見つめる。
明るい店内では、銀髪は明るい金髪に色を変え、金の瞳は琥珀になっていた。
(不思議だ・・・)
小波は、まだ月の魔力と桜の幻覚に酔っているようだった。
***
店を出ると辺りは暗くなっていた。月は雲の後に姿を隠し、同じ道を戻るだけでも注意が必要なほど様子を変えていた。
公園の小波専用入口は街灯からも遠く、おたがいの輪郭しか見えないぐらいに暗い。しかし小波は慣れたもので、歩く速度も落とさずに柵の前まで行くと、茂みに背中を押しつけて手をさしのべる。
「・・・・・あ、ごめん」
小波は出した手を引っ込めた。
いまの彼女には身体に触れるのさえ拒否されているのに、手を取るなんてできるはずもない。
行き場をなくした手を少し泳がせると、仕方なく茂みにそえた。
「暗いから気をつけて」
笑顔を作るが、暗くてその表情は見えない。しかしそれでよかった。ひきつった笑いだったから。
彼女が近づいてきたので、さらに身体を茂みに押す。
しかしその先へ行こうとはせず、目の前で止まっていた。
「・・・・・・?」
どうしたものか、声をかけようかと迷っていると、彼女は一歩こちらへ近づく。
小波の服のスソをぎゅっとつかんだ。
そして、それを支えにして柵の入口へと踏み出した。
たったそれだけのことなのに、どうしようもなく嬉しい。
(・・・暗くてよかった)
熱くなる顔をそむけながらそう思ったのは、どちらの方だったろうか。
ふたりともぎこちない動作で柵を抜ける。
・・・それを遠くから見つめる目があることを、ふたりは気づくはずもなかった。
「よっしゃメシも食べたし、そろそろやるかー」
大きく伸びをすると、背後から土を踏みしめる音が聞こえた。
「おーっと、まさかこんな所でアイビキしてるとはねえ」
「いいなあ、オレらもまぜてよ」
その声に振り返ると、薄笑いの男ふたりが立っていた。店でからんできた不良だ・・・多分。と自信をなくしたのは、サングラスを外していて印象がだいぶ違っていたから。
一人は眉がなく、もう一人は目を閉じているのかと思うほど細い目だった。
「・・・なんのご用ですか」
「だから、まぜろって言ってんじゃん」
「なんか楽しそうじゃないか、なあ?」
一人がベンチへと踏み出したので、それをはばむようにして小波は間に立つ。男はないはずの眉を片方上げた。
「カノジョにいい所見せようってのか。それとも、また助けでも呼ぶか?」
「どーぞ、呼べるもんなら、な」
細目はまわりを見回す。もちろん、他に人などいない。
眉ナシは笑いながら小波のえりもとをつかむ。小波はそれを手で払った。
ガツン、と衝撃が来る。
なぐられた、と気づいた時には次の攻撃が来る。なんとか腕でガードすると、もう一人の蹴りが横から来るのが見えて、とっさにしゃがむ。
「やるねえ、兄ちゃん」
けけっと笑うと、逃げ場のない体勢にケンカキック。
つづく攻撃は転がってかわす。細目は自爆した。
「くそっ!」
そこにもう一人の追撃がくる。ビュッ、と音をさせて拳が目の前を通った。
始めのうちこそ2、3発もらっていたが、なんとか浅い打撃か皮一枚でやりすごすことができた。不思議と攻撃はよく見える。
(これなら雪沢さんの方がすごいな)
バスケ部の先輩の容赦ないスキンシップを思い出し、ちょっと笑う。
「何がおかしいんだよ!」
右ストレートをスウェーでかわし、回し蹴りをガードする。
月が隠れた薄明かりの下、目より気配に集中する。
二対一などバスケでは日常茶飯事だ。もっとも、相手の目標はボールではなく小波自身のために勝手は違う。
防御に徹するとそう難しいことでもないが、ダメージをあまり受けてないとはいえ体力は削られるばかりだった。このままでは負けることはなくても勝つこともできない。
「このっ」
蹴りをかわしたところでその脚をつかみ、タックルして転がす。
距離をとって、上がってきた息を整えた。
(あれ?)
もう一人がいない、と気づいた時だった。
「キャア!」
少し離れたところで悲鳴が上がる。
眉ナシが彼女の腕をつかんでいた。
「がっっ」
後頭部に衝撃があった。
「おっと、よそ見はいけないな」
指を組んで細目はニヤリと笑った。
小波はヒザを落とす。そこに再び手が振り下ろされる。
「!!」
彼女はつかまれた腕をひねりながら振り上げると、いましめはスルリと外れた。
「あ、あれ??」
眉ナシが首をひねっているうちに、立ち上がろうとする小波の前に立ちふさがる。
彼女は両腕を大きく開き、男たちをにらんだ。
「・・・・ぷっ」
「あっはっは、コリャいいや。女に守ってもらうってか」
男たちは小波をあざ笑う。
「それでも男かよ」
彼女はゆっくりと息を整える。目の前のふたりを迎え撃つために。
護身術を身につけたその腕には、大振りで息のそろわない二人組などたいした相手とは思えない。
一歩、踏み出そうとした彼女の肩に手が置かれる。
「・・・・大丈夫」
小波は笑う。
「俺なら大丈夫だから、下がってて」
「大丈夫だから、ねえ」
くくく、とせせら笑う。
「そっちの娘に守ってもらった方がいいんじゃねーのか?」
「そーそー、カノジョの方が強そうだぜ」
小波のなかに怒りはなかった。ただ、彼女を守らなければという意志だけがそこにある。
そして、腹がすわった。
さっきまでは、まだ「傷害事件」という文字が頭にあった。しかしここなら他人の目もない。相手が小波の身元を割り出し、乗り込んでくるようなマネでもしないかぎり問題はないだろう。
拳を作り、男ふたりを見すえる。
「下がって」
「・・・・・」
「・・・下がって」
小波の、静かながらも強い気迫に押され、彼女は後退った。
男たちもその空気にたえられなくなり、向かってくる。
「このっ」
細目の攻撃をさけると、左から眉ナシのストレートが顔にヒットする。すかさず右からの蹴りが飛んできた。
「っっ」
わき腹に入ったが、体を折り曲げながらも次の攻撃をかわす。そしてタックルで眉ナシを転がした。
もう一人を振り返ると、胸ぐらをつかまれる。
顔に二発。
目をくらましながらも、小波は頭突きで応える。
そのまま細目のエリをつかんで引き倒し、マウント体勢で首をしめる。
「このっ」
体当たりされて、横倒しになった。
上からの突きをかわしながら、身体を起こす。
「ゲホゲホッ」
「・・・はあ、・・・はあ」
三人とも距離を取って、息を整える。
口の中に血の味が広がった。いつの間にか切ったらしい。
あちこちがにぶく痛む。右肩が重く、しびれたように感覚がない。
細目が突っ込んできたのでよける。拳を振り下ろす。
眉ナシが殴りかかってきたので腕をつかみ、ひねって倒す。
しだいに何も考えられなくなってきた。
来る攻撃をよけ、拳を振り下ろす。それだけだった。
「・・・やっ・・・・・」
彼女は涙をためて首を振る。
「やめ・・・」
「うおおおおおおお!!」
その声をかき消すように小波は叫び、まわりの男をなぎ倒した。
なんのために戦っていたかを思い出し、彼女を振り返る。
「大丈夫。・・・大丈夫だから」
彼女を見て、ニッコリと笑った。
「がっ」
背中を蹴られ、前のめりに倒れる。
しかし小波はすぐ起き上がった。そこにもう一度蹴りが飛んでくる。かわすと軸足を払って倒す。
もう一人の攻撃が来るのが分かったが、足が思うように動かない。わき腹にまともに入る。小波は再びヒザをつく、そこに追撃。
小波は地面に倒れ伏した。
起き上がろうと感覚のマヒした腕をつくが、すぐにくずれる。
なおも攻撃の手は止まらない。
熱い。
打たれた所がひどく熱い。
ぼろぼろと涙を流している彼女と目が合い、笑う。
「だい・・・じょう・・・ぶ・・・」
消え入りそうな笑顔だった。
しだいに感覚も意識も薄れていく。小波にできるのはただ、笑うだけだった。
「・・・・・・・!!」
わずかな意識の中で、彼女が何かを叫んでいるのを聞いた。
大きな影が現れ、男たちは倒れる。かすかにそんな光景が見えたような気がした。
そしてまもなく、意識は深く暗いところへ落ちていった。