魔法少女まどか☆マギカ 実績『朝焼けのエンドロール』獲得   作:くろしゅー

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(マギレコに感謝の正拳突きをしていたので)初投稿です。



DAY.18 Side MA  それが正しい結末なんて誰が決めたの?

 

 

 

 DAY.18 Side MA

 

 

 

 

「はい、ここが私の家。入って入って」

「お、お邪魔しま~す」

「そんな遠慮しなくていいよ~」

「そうだぞ。そんなデカくねー家だしな」

「フェリシアちゃんはもっと遠慮を覚えようね」

 

 招かれた凜さんの家に、私は凜さんに手を引かれ、背中はフェリシアさんに押される形でお邪魔しました。

 

「もう夕方かぁ。さすがに見滝原と神浜の距離じゃ時間かかっちゃうね。夕飯はすぐに用意するから、フェリシアちゃんと待ってて」

「はい、ありがとうございます」

「おう! じゃあまばゆ、ゲームしようぜ、ゲーム!」

 

 フェリシアさんはそう言って私の手を引っ張ります。

 

「まあここの家、ゲーム機とかねえからボードゲームだけど」

「むしろありがたいです。どうもテレビゲームは昔から苦手で……」

 

 そうしてフェリシアさんが引っ張りだしてきたのはオセロのボード。

 

「んじゃ勝負だ! まばゆ!」

「ええ、望むところです!」

 

(ふっふっふ……。相手を侮りましたね、フェリシアさん。私は影で皆を動かす参謀タイプ。このような頭脳戦は最も得意とするところ。少々大人げないですが、片手でひねってあげましょう!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ぬ~! なかなか強えな、まばゆ」

「そ、そうですね……」

 

(あれ~? おかしいですね、なんでこんな接戦になってるんですか。私の白がフェリシアさんの黒よりわずかに多い程度なのですが)

 

 私の自信はどこへやら。まさかのフェリシアさんと接戦という形に。

 フェリシアさんには申し訳ないですが、彼女はこういうゲームは苦手な類いだと思っていたのですが。

 

 それともあれですか。私がクッソ弱いって言いたいんですか。

 ええ、上等です。本気、見せてやろうじゃないですか!

 

 

 

 

 

 

 

 

「クッソ! 負けたー!」

「さ、三枚差……」

 

 結局、私はフェリシアさんに三枚差という僅差で、何とか勝つことができました。

 

「まばゆ! もう一回だ! 次は勝つ!」

「残念だけどフェリシアちゃん。ご飯できたからゲームはここまで」

 

 やってきたのは凜さん。言われれば、台所から良い匂いがします。カレーでしょうか?

 

「え~。せっかくいいところだったのに」

「じゃあご飯はいらない?」

「いる! すぐ片付ける!」

 

 言うが早いか、フェリシアさんはすぐにオセロのボードを片付けはじめました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……。あ、凜さん。お風呂、ありがとうございました」

 

 湿った髪を拭きながら、私は凜さんに声をかけます。

 

「気にしないで。少しはくつろげた?」

「それはもちろん。いつもは面倒くさくてシャワーで済ませちゃいますからね」

「……前から思ってたけど、まばゆって私生活結構ズボラだよね。もうちょっと自分の体、労ってもいいんじゃない?」

「いや、もう、おっしゃる通りで……」

 

 困りましたね。一切反論できません。

 

 すると、そこへフェリシアさんがやって来ます。

 

「ん? どうしたの、フェリシアちゃん」

「いやさ、今日ってまばゆどこで寝るんだ? 凜のベッドって二人寝るのが限界だろ? 一人余っちまうぞ」

「あ、お構いなく。私はどこでも寝られますし。お二人で使ってください」

 

 私がそう言うと、凜さんはそれを拒否します。

 

「いや、まばゆは招かれた側なんだから遠慮しなくてもいいよ。私がそこのソファで寝るから」

 

 だからベッド使って、と凜さんは笑って言います。

 しかし、それに待ったをかけたのはフェリシアさんでした。

 

「凜、一人で寝るのか?」

「え、そのつもりだけど……」

「じゃあ、オレもソファで寝る」

「ええ? いや、さすがにあのソファで二人はキツいって」

「じゃあ、ベッドで……」

「それじゃ、まばゆがソファになっちゃうでしょ。フェリシアちゃんとまばゆでベッド使いなよ」

「あ、もしかして、私と寝るのがイヤでした……?」

 

 私の質問に、フェリシアさんは首を横に振ります。

 

「いや、まばゆと寝るのはイヤじゃねえけど……。そうじゃなくて……!」

「ん~? どういうこと?」

「あー! だから! 凜は夜一人で大丈夫なのかよ!」

「え?」

 

 私はフェリシアさんの質問の意図が掴めませんでした。

 

 夜は一人で大丈夫?

 

 凜さんだってさすがに小さい子どもじゃありません。ましてや、凜さんは一人暮らしです。一人で寝るのは慣れているはず。

 いくら最近はフェリシアさんと一緒に寝ているとは言っても、その習慣が簡単に抜けるとは思えないのですが。

 

 凜さんも同じことを思ったらしく、フェリシアさんに答えます。

 

「もちろん大丈夫だけど……。というか、今までずっと一人で寝てたし……」

「だってお前……!」

「だって?」

「……やっぱいい。もう知らねえ!」

「あ、ちょっと。フェリシアちゃん!」

 

 フェリシアさんは何かを言いかけて、それを話さないまま、リビングから出ていってしまいました。

 

「行っちゃった……。私、なんかフェリシアちゃんが怒るようなことしちゃったのかな」

 

 凜さんには心当たりがないようでした。

 

「まあフェリシアさんのことですから、嫌がらせをしたくて怒ったわけじゃないと思いますよ。フェリシアさんは他の人、よく見てますから」

「そうなの?」

「ええ。お店でお手伝いしてても、困っているお客さんによく気づくんです。困っている人を助けようとする人は多いですけど、困っている人に気づける人って少ないような気がします。困っている人に気づくって結構難しいですから」

「……そうだね」

 

 まあ、かく言う私もなんでフェリシアさんが怒ったのか想像できませんけど。

 

「まばゆもフェリシアちゃんのこと、よく見てるね」

「そ、そうですかね。でも、お店のお手伝いで一緒の時間が多いですから。少しはフェリシアさんのこと、知ることができてるのかな」

「うん。フェリシアちゃんも、私よりまばゆにずっと懐いてる」

 

 凜さんは少し寂しそうに言います。

 

「そ、それは違いますよ」

 

 だから、私は凜さんの言葉を否定しました。だって、そうでしょう。

 

「フェリシアさん、お手伝い頑張ったら凜さんに褒めてもらえるって、嬉しそうに言ってました。褒められたいって、大好きな人にしか言いませんよ。だから、フェリシアさんは凜さんにすごい懐いてると思いますよ」

 

 あの時のフェリシアさんの顔はいつも以上に眩しかったことを覚えています。褒められたいって、あんな表情で言う相手に懐いていないわけがありません。

 私にも懐いているって言ってくれたのは嬉しかったですけど、自分はダメみたいなことを言ってほしくはありませんでした。

 

「……そっか。まばゆが言うなら、そういうことにしておこう。ありがとう」

 

 

 

 その言葉を最後に、凜さんはこの話題を出さなくなりました。リビングでコメディー番組を見ながら笑っている凜さんは、()()()()()でした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃ、私このソファで寝てるから。なにかあったら遠慮なく起こしてね」

「ありがとうございます、凜さん」

「気にしないでって。じゃあ、おやすみ」

「はい、おやすみなさい」

 

 そう言って、私はベッドのある凜さんの部屋に入りました。

 すでにフェリシアさんは寝ているようで、私に背を向ける形で寝ていました。

 

 私はフェリシアさんを起こさないように、そっと布団をかぶり、枕に頭を預けました。

 

(今日は怒濤の1日でしたね~……)

 

 暁美さんの家に行ったことに始まり、凜さんの家に泊まることになるなんて。朝起きたときは想像もしていませんでした。

 

 

 ……想像していなかったといえば。

 

(記憶も、戻りましたね……)

 

 どうして私の視た未来が外れたかは分かりませんが、私が切り取ったはずの記憶は戻りました。

 

 こうなったら、きっとまた暁美さんと一緒に戦うことになっていくでしょう。

 

 

 

 

 

 でも、いつまで?

 

 

 

 

 そんな考えが頭をよぎりました。

 もちろん暁美さんの力になりたい気持ちは変わりません。けれど、それはいつまで続くのでしょう。

 

 私は一度、自分の終わりを視てしまいました。魔女となり、暁美さんに二度殺される未来を。

 鹿目さんの願いでその未来は変えられたけど、その後に視た未来は、私を含めた全員の記憶から私の存在を消す未来。

 

 

 結局、暁美さんが正しい結末を迎えるためには、私という存在は不要でした。

 そんな私に今さら何が出来るんでしょう。

 

 私は記憶をリセットできません。

 だから、一度魔女になってしまえば、時間を巻き戻す度に蘇って、また魔女化する。そんな負のループが完成してしまいます。私が一度視た未来のように。

 

 そして、そんな未来が再び訪れないとも限りません。事実、記憶が戻った直後の私はそうなりかけました。

 

 

 

 魔女化すれば、私はただの足手まといです。

 戦うことだってあんまり得意じゃありません。

 

 

 そんな私に、ここにいる意味があるんでしょうか?

 

 

 

 暁美さんの隣には凜さんがいてくれます。

 凜さんは記憶を引き継げないようですが、暁美さんがあんなに信頼しているのならきっと大丈夫。

 私が暁美さんと仲良くなるのに何周もかかったのに、凜さんはたった1周で暁美さんに頼られる存在になったのですから。

 

 

(ああ、私はもう……。私の居場所はもう……)

 

 

 

 私はソウルジェムを取り出し、武器であるハサミを生み出します。

 

(これで、迷惑をかけることだけでも避けられれば……)

 

 

 そうして私はハサミの刃をソウルジェムに向け、ハサミを振りかぶり……。

 

 

 

 

 

 

 

 

『だからさ、一人で諦めないでよ。絶望したって、いいことないよ』

 

 

 

 

 凜さんの言葉がよぎりました。

 

 

 

(っ!?)

 

 

 咄嗟に振り下ろしていた手を止めます。

 

 

(一人で絶望しないで、ですか……)

 

 

 少し迷いましたが、私は凜さんのいるリビングに向かうことにしました。

 

 

 

 

 

 

「あれ、灯りがついてる……」

 

 私がリビングに向かうと、閉じられたリビングのドアから光が漏れていました。

 

 私がドアを開けると、照明を少し暗くした状態で凜さんがココアを飲んでいました。

 

「まばゆ? どうしたの? あ、もしかして起こしちゃった?」

「いえ、そういうわけでは……。ただ、どうにも眠れなくて……」

 

 私は極力重い雰囲気にならないよう、苦笑いをしながら言葉を返します。

 すると凜さんも、分かる、といった感じで頷きます。

 

「あー、そういう日あるよねー。特にまばゆは今日色々あったしね」

 

 凜さんはそう言って立ち上がると、台所に向かいます。

 

「まばゆもココア、飲む?」

「……それじゃあ、お願いします」

「ん、りょうかい」

 

 

 

 

 

 

 

「はい、どうぞ。先輩直伝の特別ブレンドココア」

「特別ブレンド、ですか?」

「まあ大したことはしてないけどね。ココアの粉がダマにならないように混ぜ方工夫してるだけだし。それでも美味しいよ。飲んでみて」

「じゃあ、いただきます」

 

 そう言って、私はマグカップに口をつけ、ココアを少しだけ啜ります。熱くてたくさんは飲めませんでしたけど、味はすぐに分かりました。

 

「美味しい……」

「でしょ? やっぱり眠れないときはココアだよねぇ」

 

 凜さんの言うとおりかもしれません。

 味は市販のやつですから、私の記憶にあるココアとそんなに変わりません。けど、こんな夜にはこの味がとても染みて、安心する味でした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 特に会話をすることもなく、二人でココアを飲むだけの時間が続きます。

 

 凜さんは、私が起きてきた理由を聞き出そうとせず、時折マグカップに口をつけてはどこかをボーッと見つめています。

 その顔は昼間の彼女の印象からは離れたもので、以前ショッピングモールで見た雰囲気に似ていました。

 

 

 ただ、このまま黙っているわけにはいきません。きっと凜さんは、私が話せるまで待ってくれているのでしょう。

 相談していいとも言われたのだから、私から言わないと。

 

(凜さんなら、話してもいいのかな)

 

 

 ココアが半分ほどになったところで、私は意を決して口を開きました。

 

「あ、あの」

「ん? どうしたの?」

 

 緊張で声が上擦りましたが、凜さんは気にする様子もなく、私のほうを向きます。

 

「その……、話したい、というか、聞いてほしいことがあって……」

「うん」

 

 静かに凜さんは相づちを打ちます。

 

「その、私が眠れなかったのは、怖くなったからなんです」

「うん」

「目を閉じると、考えちゃうんです。私の存在価値ってあるのかなって。記憶を失う前の私は、暁美さんの力になりたいと思っていました。そのために、暁美さんと協力して色んなことをやってきました。けど、記憶を失う前の時間軸で、視ちゃったんです。私が、自分と暁美さんの記憶から愛生まばゆという存在を消す未来を」

 

 こうやって話していると、先ほど感じていた感情がまた甦ってくるようで、私はマグカップを強く握ります。

 

「その未来が、暁美さんが救われる正しい結末のはずで。その結末にいたるために、私は不要でした。誰の記憶にもいちゃいけない存在だったんです。だから、記憶が戻っても、私に出来ることなんてあるのかなって。むしろ、足手まといなんじゃないかって」

「そんなことないよ」

「本当にそう言い切れますか? ……知ってます? 私が一度でも魔女化したら、ずっと魔女になり続けるんですよ。暁美さんが時間を繰り返す度に、暁美さんのループが始まると同時に。何度も、何度も、何度も何度も何度も何度も何度も何度も。暁美さんのループが続く限り、私は何度だって魔女になります。そうすれば、私は暁美さんの足手まといにしかなりません。そんな未来も、視ちゃいましたから」

 

 

 怖い。

 絶望を何度も繰り返すことになるのが。

 暁美さんの迷惑になってしまうことが。

 誰の役にも立てずに、終わってしまうことが。

 

 

「怖いんです……、どうしても。誰にも愛されずに死んでしまうことが……」

 

 

 

 最後の言葉は震えていました。マグカップを握る手は白くなっていました。

 

 

 でも、これは望みすぎなのかもしれません。愛される、なんて資格、私にはないですから。

 

「仕方ないですよね。私は、誰の役に立ちたいって言ってたくせに、視えてしまった自分の死に苦しんでいるお母さんを見捨てたんです。あの時、お母さんに拒絶されたことが、辛くて、悲しくて。私は自分の心からお母さんを追い出してしまったんです。本当は側にいてあげなきゃだったのに。……その後も、私はマミさんと一緒に色んな子を魔法少女の道に誘ってしまいました。こんなヤツが愛されたいだなんて傲慢もいいところですよね。私だって分かってるんです」

 

 すると、今まで聞くだけだった凜さんが口を開きました。

 

「いいや、まばゆは分かってない」

「え?」

「愛される資格がないわけないじゃない。まばゆは愛される存在だよ」

「でも……」

「まばゆの気持ち、全部じゃないけど分かるよ。優しかった親に自分のことを否定されて、拒絶されるのは辛いよね。冷たい言葉をかけられる度に、お腹の奥の方が締め付けられるように冷えていって、不安と恐怖に押しつぶされそうになる。その感覚を味わって逃げたって、私はその人を責めないよ。あの感覚は、どんな暴力より辛かったから」

「凜さんは……」

「まばゆには言ってなかったっけ? 私ね、両親に虐待されてたんだ。お父さんとお母さんは今も刑務所の中」

「そう、だったんですか……。ごめんなさい、不用意に……」

 

 私は謝りますが、凜さんは笑って私の謝罪を制します。

 

「いいっていいって。謝ってほしくて言ったんじゃないから。ただ親に辛く当たられる経験はしてるから、まばゆの辛さも少しは分かってあげられるって言いたかったんだ」

 

 凜さんは影を見せない笑顔で言います。

 

「でも不思議だよね。そんなにヒドいことされても、子どもって親のこと、嫌いになれないんだよね。まばゆもそうじゃない?」

「そう、ですね……」

 

 

 正直、お母さんへの感情はまだ整理がついていません。でも、はっきりと分かるのは、お母さんへの憎しみの感情なんて微塵も湧いてこないことです。

 

 確かにヒドいことを言われて悲しかったけど、それ以上に優しくしてもらった記憶もあるんです。それに……。

 

「お母さんも辛そうでした。私以上にギリギリだったって、なんとなく分かるんです」

 

 だから、お母さんを恨む気になれません。むしろ……。

 

「分かるよ。だから思っちゃうんだよね。私がなんとかしてあげないとって。私がダメだから、お母さんも苦しむんだって」

 

 私は凜さんの言葉に無言で頷きます。

 

「だよね。だからまばゆ、あえて言わせてもらうね。まばゆが感じてる罪悪感はまばゆのせいじゃないよ。絶対。まばゆだって必死だったんだから。そんなに自分を責めなくてもいいんだよ」

 

 それにね、と凜さんはココアを飲んで続けます。

 

「まばゆは足手まといでも、価値がないなんてこともないよ」

「どうして、言い切れるんですか……?」

「ほむらから大まかな経緯は聞いた。今、まばゆの口からも聞けたしね。だからはっきり言える。まばゆが頑張らなければ、この未来にはたどり着けなかったんだよ。それは忘れちゃダメ」

「で、でも、結局私は存在しなかったほうが良かったって未来が……。初めから愛生まばゆの存在なんていなかったって、何もなかったってするのが正しい結末だって……」

「それが正しい結末なんて誰が決めたの?」

「そ、それは……」

「悪いけど、誰かが涙を流さなきゃいけない未来を、私は正しい結末なんて呼べない。まばゆがそんな苦悩をしなきゃいけない未来なんて否定してみせる」

 

 さっきまでの柔らかい雰囲気は無くなり、とても真剣な、ともすれば少し怒っているような空気が凜さんから出ていました。

 

「まばゆがいなければきっとほむらだって戦い続けられなかった。調整屋で話す雰囲気を見てて分かったよ。まばゆはほむらの中でかなり大きな存在になってる。まばゆがいたから、私もほむらと会うことができたんだよ。それは決して悲観するものじゃない」

 

 凜さんは私の手を握ります。きっとこれが、凜さんが人に寄り添うときにやることなんだと思います。

 

「例え時間が巻き戻って、私からまばゆとの日々の記憶が失われたって、何もかもが無駄になるわけじゃない。また最初に戻ったって、その間に何もなかったなんて、まばゆには絶対言わせないから」

 

 そこで凜さんの雰囲気が柔らかいものに戻ります。

 

「だから、まばゆの存在価値ないなんてことはないんだよ。そう思ってしまうなら、私が言うよ。まばゆがいてくれて良かったって。まばゆが心からそう思えるまで何度も」

 

 ああ、なんで。

 なんで、この人は私のほしい言葉をくれるんでしょう。

 根拠なんて何も無い。それなのに、凜さんの言葉は安心できるもので。

 

「魔女化なら心配ないよ。まばゆが危なくなったら私とほむらが絶対助けるから。気づいてないかもだけど、ほむらだってまばゆのこと、大切な仲間だと思ってるよ」

「暁美さんが……?」

「うん、絶対。調整屋で話してるほむらの顔、すごい安心してたよ。タイムリーパーってやっぱり孤独だと思うから。同じ時間を経験して話せる人がいるだけで、とても心強いと思うの。そんなほむらなら、まばゆが辛そうにしてたら絶対助けようとする。言葉と態度じゃ分かりづらいかもしれないけどね」

「……そうですね。そうかもしれません」

「お、やっと頷いてくれた。そうだよ、まばゆはいてくれないと困る人間なんだよ! まあ、それに……」

「それに?」

「私個人としても、まばゆには笑って生きててほしいかな。見滝原で初めてできた友達、だし……。友達がいなくなるのは、私もう耐えられないかも」

 

 そう言う凜さんの顔は、とても悲しそうで、辛そうでした。

 

(あ、そうか……。占い好きな友達が、って凜さん言ってましたもんね)

 

「何度も言うけど、まばゆが辛いなら誰かを頼ってね。あなたを助けたいと思う人はたくさんいるんだから」

「ええ、分かりましたよ。ここまで言われれば、否定なんてできません。ですから、これからいっぱい頼らせてもらいますよ、凜さん。ニヒヒ」

「任せて! この最強魔法少女の一番弟子、凜ちゃんが全部解決しちゃうからね!」

 

 ふんふん、と胸を張る凜さんは、さっきまでの雰囲気が嘘のようです。この明るさが凜さんらしいといえば、らしいのですが。

 

「あ、そうだ。強さで不安があるなら私が特訓に付き合うよ。私も師匠にたくさん鍛えてもらった、特別メニューがあるからね!」

「と、特訓ですか? ぐ、具体的に何を……」

「んーとね、まずは基礎体力をつけるためのランニング50キロに、連続組手50回、そのあと魔女退治をして……」

「ストップストップストップ! いい、いいです! いいです! せっかくですけど遠慮させていただきます!」

「えー、そう? 残念。まあでも、まばゆの戦い方に関しては見てあげるよ。まばゆだって、少しは戦えるようにはなったほうがいいでしょ?」

「それは、まあ……」

「あ、露骨にイヤそうな顔をした。でも安心して。さすがにさっき言ったみたいなことはやらないから。それにワルプルギスの夜までそんなに時間がないからね。教えるのは、無駄のない体の動かし方くらいだよ」

 

 う~ん、あんまりそういうのはやりたくないんですけど……。でも、戦えるようになれば暁美さんの負担も減りますし、何より暁美さんよりはスパルタじゃなさそうですしね。

 せっかくですし、教えてもらいますか。

 

「それじゃあ……、お願いします」

「よしきた! 任せといて!」

 

 

 

 

 気づけば、マグカップのココアは空になっていました。

 なんだか時間が経つのがあっという間に感じます。

 

「そうだ、凜さん」

「ほ? なに?」

「今日は家に呼んでくれてありがとうございました」

「そんな、お礼を言われるようなことじゃ……」

「私が心配だから、呼んでくれたんですよね。少しでも私が不安を感じないように、少しでも私が一人でいる時間を減らすために」

「……」

「おかげで、寝ようとするまで不安だったこと、忘れてましたよ。それに、今はその不安も小さくなりました」

 

 そう。不安はなくならない。いつ、何が起きるかなんて分からない。けど、凜さんがいてくれれば案外何とかなる気がしてきた。

 

「だから、ありがとうございます。すでに助けられていましたね」

「……まばゆがそう思ったなら、そのお礼は受け取っておこうかな。どういたしまして」

 

 そう言って笑う凜さんは、今までのどの場面より嬉しそうでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 DAY.18 Side……

 

 

 

 

 

 私は自分とまばゆの分のマグカップを片付ける。

 

 先にベッドに戻ったまばゆの顔は、家に来たときよりずっと明るくなった。

 

(本当によかった……。少しでも前を向いてくれれば、魔女化も遠のくはず。さすがにもう一回あれを見るのは耐えられる気がしないよ)

 

 

 

 私はまばゆが使っていたマグカップを洗って、マグカップツリーに引っかける。

 

 

 

 そして、その手が震えていることに気がついた。

 

(結構、背負っちゃったなぁ……)

 

 震える手をもう片方の手で押さえる。

 けど、その押さえるはずの手すら震えていて、手の震えは全く治まりそうにない。

 

(やちよ先輩、フェリシアちゃん、まばゆ……)

 

 私が巻き込んだ人たちの顔が浮かぶ。

 

 本当は巻き込みたくなかった。ワルプルギスの夜なんて危険すぎる相手に、戦ってくれなんて言いたくなかった。私一人でほむらを助けられるなら、自爆でもなんでもした。

 

 けど、ほむらの話じゃ前の私はしくじったみたいだった。

 私一人じゃ到底ワルプルギスの夜には及ばなかった。

 

 

 それなら、後は人数をかき集めるしかない。

 

 たとえ、死ぬかもしれない戦いでも。

 

 

 

「ッ……! ハァ、ハァ……」

 

 先ほどまで飲んでいたココアが胃酸とともにせり上がってくる。

 けど、それをなんとか堪え、無理やり胃に押し戻す。

 

 

(自分から巻き込んでおいて、傷ついてる暇なんてない。私が巻き込んだんだ。その責任は、最後まで負わないと……)

 

 そうだ。こんなところで座り込むことなんて、私には許されていない。

 

 私は……。

 

 

 

 

 

(まばゆには嘘ついちゃったな……)

 

 まばゆのことを助けるとは言ったけど、きっとそれはずっとじゃない。

 

 

 私はソウルジェムを取り出す。

 

 その色はくすんでいて、どこか頼りない色だった。

 

(ソウルジェムの色が戻らなくなった……。ワルプルギスの夜までは持つだろうけど、それ以上は……)

 

 

 

 

 私はソウルジェムをしまって、自分のマグカップもマグカップツリーに引っかける。

 

 

 やちよ先輩に無理言ってみかづき荘から持ってきた、私だけのマグカップ。

 

 

(皆、私頑張るから……。少しでも罪を清算できるよう、命を削るよ)

 

 メビウスの輪のデザインが施されたそのマグカップを撫で、私はリビングの電気を消した。

 

 

 

 

 




マギアレコード、ついにサ終してしまいましたね。

いつものホーム画面が開けないと、終わってしまったんだと実感させられます。
けど、マギレコには長い間楽しませてもらいましたし、ストーリーもあそこまでキレイに締めてくれたので、個人的には大満足です。

次のまどドラはどんなゲームになるか、今から楽しみです。

え? 必要データ容量? やめてくれよ……(絶望)
(スマホが)アーイキソ
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