魔法少女まどか☆マギカ 実績『朝焼けのエンドロール』獲得   作:くろしゅー

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(いつもより長くなってしまったので)初投稿です。



Record3 DAY.16

 

 

 

 

 

 

 ギリギリで生きていく実況、はーじまーるよー。

 

 

 

 

 前回はせっかく積み上げてきた盤面が崩壊したところまででした。

 

 

 

 今回はその続きから。

 

 

 

 

 

 

 DAY.16

 

 

 

 さて、前回はキュゥべえの姑息な作戦()により、せっかく集ってくれた仲間たちが内輪揉めを起こし、ワルプルギス討伐隊が空中分解を起こしました。

 

 

 

 ですが、これは想定内です。

 というか、これを狙っていたので、むしろ狙い通りです。

 計画通り。(新世界神並感)

 

 

 

 見てください、ユリちゃんのステータス。

 昨日の地獄のような光景により、精神デバフが付与されるようになりました。

 

 二周目ラスト以降、久しぶりの精神デバフ君の登場です。

 

 これにより、一部の選択肢が選べなくなったり、逆に普段は出ないような選択肢が出てきたりします。

 

 戦闘でもステータスにデバフがかかるようになりますが、今回は戦闘するつもりもないので、(関係)ないです。

 

 

 

 

 さて、とりあえず今後について話す前に、今日やることについて簡単に説明しちゃいましょう。

 

 今日はさやかちゃんの契約日です。

 ユリちゃんにはこれを阻止してもらいますが、これに関しては前の周と変わりません。同じように説得すれば上手くいきます。

 

 

 精神デバフの有無の違いはありますが、ここの選択肢で違いが出ないのは既に検証済みです。

 

 なので、さやかちゃん説得までは学校生活も含め、1114514倍速。

 

 

 

 

 

 

 さて、では倍速中に今後のチャートについて説明しましょう。

 

 まずは一番身近の、マミさんからです。

 マミさんは原作を知っていれば分かる通り、魔法少女の真実を知るとほぼ確実に暴走します。

 見滝原魔法少女大虐殺だったり、ヤンデレ彼女みたいにまばゆちゃんに迫ったり、ホーリー化して突然失礼さんになったりなど、形は様々ですが暴走します。

 

 なんだこれは、たまげたなあ……。(震え)

 

 なので、これを防がなければいけません。

 ちなみに昨日マミさんが襲ってこなかったのは、人が多すぎたからですね。特にやちよさんがいると、マミさんが一人殺した辺りで制圧されますからね。

 

 さすがにその実力差が分からないマミさんではありません。

 

 そして、行動に移させないことで、マミさんが一人で考える時間を作ることができます。もちろん、それだけで状況は好転しませんが、時間稼ぎができれば十分。

 これまでにマミさんの好感度は一定以上を維持してきたので、最初の襲撃フラグをへし折っておけば、すぐに仕掛けてくることもありません。

 

 そして再襲撃フラグが立つ前に、マミさんをなだめて落ち着かせます。

 

 そうしたら、時女一族に戻ってきてもらいましょう。

 マミさんの精神を安定させるには、彼女たちの思想と矜持が一番です。

 

 

 大丈夫。魔法少女救済にあっさり引っかかったマミさんなら、確実に乗ってくれます。

 

 

 

 そうしたら、今度は神浜組を説得します。

 といっても、こっちは簡単でフェリシアちゃんに寄り添って話を聞いてあげましょう。そうすると、フェリシアちゃんは勝手に立ち直ってくれます。うおっ、メンタル強っ……。

 さなちゃんに関しては、やちよさんさえいれば自分で立ち直ります。はえー、すっごい……。心が強えヤツなのか……?

 

 あと、やちよさんのほうもここで一気に好感度を上げます。

 これまでのやり取りで、ほむらちゃんとまばゆちゃんのほうでやちよさん関連のイベントは拾ってくれています。なので、後はそれを二人から聞き出し、やちよさんの悩みと苦しみを聞き出しましょう。

 そこで、あとはマギレコ原作よろしく、絶対死なない宣言をすれば、やちよさんはコロッと落ちてくれます。ユリちゃんが元チーム時代に好感度を稼いでおいてくれたので、好感度も十分足りています。

 

 ボクは死にましぇん!!(TKDTTY並感)

 

 

 そして、この辺りでユリちゃんの精神も限界を迎えるはずなので、ここで隙をみせる選択肢を選ぶことで、まばゆちゃん、ほむらちゃん、やちよさんの力で無理やりユリちゃんの魔法少女ストーリーを進めさせます。

 

 

 これにより、ユリちゃんの精神デバフを解除すると同時に、戦力強化とまばゆちゃんたちとの好感度を上限まで引き上げます。

 

 

 あとは、杏子ちゃんを説得すれば終わりです。

 ちなみに杏子ちゃんの説得が一番簡単です。杏子ちゃんが時女一族に反発しているのは、かつて自分が憧れ、諦めてしまった魔法少女のあり方を体現するような人たちだからです。

 杏子ちゃんにとって、時女一族の存在はあまりに眩しい存在なので、拒否反応がでてしまうんです。

 なので、そこを解消してあげれば、また仲間になってくれます。

 

 

 

 

 

 と、ちょうど話が終わったところで、さやかちゃんの説得も終わったようですね。

 

 これでさやかちゃん関連も安心ですね。

 

 

「あの、凜センパイ?」

 

 ん? どうしました?

 

「なんか、疲れてます?」

 

 大丈夫、ヘーキヘーキ、ヘーキだから。

 

「それなら、良いんですけど……。でも、なんかあったらあたしにも相談してくださいよ。魔法少女の問題はどうしようもないけど……、あたしも話を聞くくらいならできますから。恭介のこと、ここまで協力してくれたから、あたしも何かしたいんです」

 

 ありがとナス!

 でも、今は本当に大丈夫だから、さやかちゃんはまどかちゃんに付いててほしいゾ。あの子、すぐに契約しそうで不安だゾ。

 

「任せてくださいって! まどかに近寄るわるーい虫、もといキュゥべえはあたしが追っ払いますから!」

 

 おお、頼もしいゾ。

 

 よろしくナス!

 

 

 

 

 

 というわけで、さやかちゃん説得イベントも終了です。

 

 さて、次はマミさんの説得ですが、今回はまばゆちゃんと一緒に行うことにします。

 なんだかんだ、まばゆちゃんはマミさんとバディを組んでいたので(特大ネタバレ)、このチームの中じゃ一番マミさんに寄り添えるからですね。これで説得の確率も上げられます。

 

 さて、というわけで早速レコンパンスへ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 っ!?

 

 おっぶえ!

 

 

 攻撃!? 一体どこから……!?

 

 

 

 ん?

 

 あそこにいるのは……。

 

「……今のを避けるなんて。さすがね、夕凪さん」

 

 

 アイエエエエ!! 巴=サン! 巴=サンナンデ!?

 

「ごめんなさい。悪く思わないで!」

 

 

 

 うわっ! 襲いかかってきた!

 

 ……よし、変身間に合った!

 

 これで何とか初撃は防げましたが……。

 

「あの後、色々と考えたのよ。夕凪さん、あなたのことを、私は信じられない!」

 

 ファッ!?

 

 なんでだよ! 好感度そこそこあっただろ!

 こんなのボクのデータに無いぞ!(無能データキャラ感)

 

 

「はあっ!」

 

 ヤバい、マミさんガチモードだ! 本気でユリちゃんを殺りにきてますねクォレハァ……。

 

 なぜ……?

 好感度管理は完璧だったはず……。

 ……ともかく、この場を凌がないと完全にリセ案件です。

 

 じゃあオラオラ来いよオラァ!!

 

 

 

 

 

 ということで、突如始まったVSマミさん戦。

 

 

 色々と考えたいことはありますが、それは後で考えるとして、まずは対マミさんの解説をば。

 

 本ゲームにおいてマミさん、対人戦最強と名高いキャラとなっております。

 

 無限とも思えるマスケット銃による引き撃ち。そして、移動にも拘束にも使えるリボン。そして、それらを可能にしている高い実力と豊富なスキル。

 

 これらが組み合わさり、正直NPCとしてはやちよさん以上にプレイヤーをイライラさせる強キャラとなっております。

 

 

 

 対する我らがユリちゃんですが、今は精神デバフがかかっている状態。

 

 ソウルジェムも常に若干濁っているせいで、魔法もあまり使えず、動きも鈍いなど、コンディションは最悪です。

 

 

 となると、この戦闘はほぼ負けイベのようなものです。

 

 

 

 

 

 ……ふっざけんじゃねえよ、お前よぉ!

 

 

 こんなヤツと戦えるか! 俺は帰らせてもらうぜ!(フラグ)

 

 

 

 

 ん?

 

 

 あっ! もう既にリボンの結界が張られてる! 

 このリボンの結界、触れると問答無用で拘束されます。拘束されると、レバガチャで抜けるまで隙を晒してしまうので触れないようにしましょう。

 ああもう逃れられない!!(無情)

 

 仕方ありません。ここはユリちゃんに頑張ってもらって、マミさんを退けましょう。

 

「夕凪さん。大人しく諦めて。あなたを必要以上に傷つけたくない」

 

 馬鹿野郎お前俺は勝つぞお前!!(不撓不屈)

 

「そう……。なら、ごめんなさい。手荒に行かせてもらうわよ!」

 

 早速銃撃!

 

 よし、これを避けて……!

 一気に近づく!

 

「ふっ!」

 

 あ、クソ! 防がれた!

 

 って、ちょいちょいちょいちょい! この狭いところで、その銃の量は反則!

 

 ユリちゃん、防ぎきれーー!!!

 

 

 

 

 オォン! アォン!(被弾)

 

 

 やっぱりダメだー! 手入力であれを防ぐのはさすがに無理がありますね。せめて、あのスキルがあれば……。

 

 とにかく回復を……。

 

「そうはさせないわ!」

 

 痛ってぇ! 腕撃ち抜かれて、武器が……!

 

「まだまだよ!」

 

 やだやめて撃たないで撃たないでよ!(懇願)

 

 

 マズい! 回復が追いついてない! というか、魔力的にもあまり回復は連発できないし……。ここは!

 

 

「っ!?」

 

 よし、スーパーアーマー付きの攻撃でマミさんを怯ませられました!

 

 あとはマギアで強引にリボンの結界を破壊します!

 

 逃げるが勝ち!

 逃げるんだよォ! スモーキー!

 

 

 マギア発動! 食らえ……!

 

「……逃がさないって、言ったでしょ!」

 

 

 

 ファッ!?

 リボンがマスケット銃に変化して……!? マズい、必殺技モーション入っちゃっ……!

 

 

 

 

 

 ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛!!!(目力先輩)

 

 

 

 

 ウーン……。(死にかけ)

 

 

 マスケット銃の攻撃がほぼフルヒットしちゃいましたね。辛うじてソウルジェムへの直撃は避けましたが、ユリちゃんはもう虫の息です。アーイキソ。

 

 両足撃ち抜かれちゃいましたし、これはひょっとして詰みじゃな?

 

 

 

 逃げるんだぁ……、勝てるわけがないYO!(ヘタレイヤ人)

 

 

 ぐえ!?

 

「諦めて、夕凪さん。これ以上やっても、苦しむだけよ」

 

 ヤベ、マミさんのリボンに捕まっちゃいました。

 

 止めて! ヒドいことするんでしょう!? エロ同人みたいに!

 

「大人しくしてて。そうすれば、一瞬で終わるわ」

 

 もうダメだ、おしまいだぁ……!

 

 

 ええい! せめてもの抵抗してやる!

 ここで敢えての変身解除! ソウルジェムを指輪に戻せば……!

 

「っ! 夕凪さん、ソウルジェムを出しなさい」

 

 イヤ!! イヤッ! ヤダーッ!!(TIKW並感)

 とりあえずこれでソウルジェムを撃ち抜かれて即死は避けられます。この間になんとか……。

 

 フゥン!(被弾)

 

「出しなさい」

 

 あ、まずい。マミさんの目がガンギマってる。これは、ソウルジェムを戻すまでマスケット銃による拷問タイムですね……。

 ユリちゃん、耐えてくれよー、頼むよ~!

 

 

 

 

 魔法少女拷問中……

 

 

 

 

 ……。

 

 あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛、も゛う゛や゛だ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!

 

 

 という声が聞こえてきそうな惨状が、現在です。

 

 

 というか、そろそろユリちゃんの体力もマズいですよ!?

 アカンこのままじゃユリちゃんが死ぬぅ!!

 

 ユリちゃんのソウルジェムがどんどん濁ってきてますし、このままじゃ普通に魔女化して終わりです。

 こりゃ、どげんかせんといかん。(宮崎知事並感)

 

「夕凪さん! いい加減にしてよ! どうしてそこまで耐えようとするの!?」

 

(チャートのためだから)当たり前だよなぁ?

 

「もうあなたが苦しむ必要はないのよ……。私が全部、終わらせてあげる。大丈夫、あなたの罪も私が背負うわ。私が全て終わらせるから、もう苦しまなくていいの」

 

 うるさいんじゃい!

 まだ、ほむらちゃんとまばゆちゃんとの約束の途中なんだよなあ。

 

 

 

 

 って、ん?

 

 え、ちょちょちょっと! ユリちゃん、なにソウルジェム差し出そうとしてるんですか!?

 

「そう……、それでいいの」

 

 あ、ヤバいムービー入った! 操作効かなくなってるぅ!

 

 ちょ、ちょ、ちょっと待って下さい! 待って! 助けて! 待って下さい! お願いします!

 

 

「さよなら、夕凪さん」

 

 

 助けてー! ライダー助けてー!

 

 

 

 

 ンアッーーー!!

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうはさせないわ!」

 

 

 ハッ!! こ、この声は!?

 

「っ!? くっ!」

 

 

 ほむらちゃん!!

 

 

「暁美さん……!」

「巴マミ。これ以上やるというなら、私が相手よ」

「邪魔しないで、ちょうだい!!」

 

 うおっ、ほむらちゃんとマミさんが戦い始めた。

 

 

 ん? ユリちゃんを縛っていたリボンが切れていく?

 

『大丈夫ですか、凜さん!』

 

 この声はまばゆちゃん!!

 

 そうか、透明になってユリちゃんのリボンを切ってくれているんですね。これなら、マミさんにも気づかれにくい。

 

『助けにきました。もう少し待っててください』

 

 

 Foo^~! 助かったー!

 

 危うくユリちゃん死んで、この3周目終わるとこでしたよ!

 イカンイカン、危ない危ない危ない……。

 

 

『よし、切れた! 暁美さん!』

『了解』

 

 返事と同時にほむらちゃんが投げたのは、スタングレネード。うおっ、眩し!

 

 それと同時に時間停止。よし、これで逃げれるぞ!

 

 

「まばゆ! 今のうちに!」

「はい!」

 

 きゃっ。お姫様抱っこなんて、まばゆちゃん大胆!

 

 

 

「甘いわね!」

 

 ファッ!? マミさん!?

 

 あ、よく見たらまばゆちゃんの足にリボンが……!

 

「あなたたちの魔法は知ってる! その手は通用するもんですか!」

「その言葉、そっくりお返しするわ」

 

 チャキン。

 

 おお、ほむらちゃんがハサミでリボン切った! ナイスゥ!

 

「助かりました、暁美さん」

「まばゆのおかげよ。事前にあなたからハサミを預かっておいて良かったわ」

 

 二人とも、さすがに同じ手は食いませんね。ええやん!

 

 

 

 

 って、あれあれ。ユリちゃんの視界が徐々にブラックアウト。視界がモノクロになる~。(HTWR並感)

 

 

「凜さん? 凜さん! しっかりして! 暁美さん、グリーフシードは!?」

「これを!」

「凜さん、寝ちゃダメです! もう少し、もう少し耐えて!」

 

 

 ああ^~、命の零れる音ォ~!

 

 

 

 

 

 と、ここでロード挟んでムービーに入りましたね。

 

 

 

 ということは……。

 

 

 お、実績が解放されました。

 

 解放されたのは……、よし! 『本当の自分と向き合えますか?』だ!

 

 これこそ、ユリちゃんの魔法少女ストーリーが始まった合図!

 

 あっぶねー! 一時はチャート崩壊の危機かと思いましたが、何とかなりました。

 こうなれば、後はムービーと会話だけです。

 マミさんの件は、このイベント中にリカバリー案を考えます。

 

 

 

 それじゃあ、あとはよろしく! まばゆちゃん!

 

 

 

 というわけで、今回はここまで。ご視聴ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 DAY.16 Side MA

 

 

 

 

 

(巴さん……。学校来ていませんでしたね……)

 

 

 レコンパンスの制服に着替えながら、私は今日の学校を思い出します。

 

 

 

 些細なすれ違いで解散となってしまった、昨日の魔法少女集会の後。

 私たちは、今後の動きについて簡易的な作戦を立てました。

 

 

 

 

 

「優先順位的には、やっぱり巴さんでしょうか?」

「そうでしょうね。彼女が魔女化の真実を知ったときは、いつも碌でもない結末で終わっている。その点も含め、彼女は警戒するべきでしょう」

「その次は時女一族の皆かな。彼女たちも里を出てそんなに経ってない。そこら辺の違いと、杏子ちゃんのことについて話さないと。幸い、ちはるちゃんの番号はこの前聞いたから連絡はいつでも取れるし」

「神浜の人たちはどうでしょう?」

「ちょっと希望的観測にはなっちゃうけど、やちよ先輩がいるから多分大丈夫だと思う。私たちのときも、やちよ先輩がいてくれたから持ちこたえられたところもあるし」

「杏子については、私がもう一度話をするわ。彼女については、私もそこそこ知っているつもりよ」

「お願い、ほむら。それじゃあ、私は巴さんかな。けど、明日はさやかちゃんの契約を阻止しなきゃだし、その後にはなっちゃうけど。あとは……」

「キュゥべえ、ですかね」

「ええ。アイツのことよ。この状況をまどかに伝えて契約を迫ることくらい、やりかねないわ」

「ああ~、ありそう……。暁美さんの見てないところで、ほむらたちがピンチなんだ! とか平気で吹聴しそうですからね、あの害獣」

「そこに関しては、さやかちゃんにお願いしようかな。前の時間軸の私もそうしたみたいだし。それに私たちが隙を見せなければ、さすがにまどかちゃんも契約には踏み切らないでしょ」

「それが無いとも言い切れないのが、まどかの良いところで悪いところでもあるんだけど……。とりあえず、私は明日までまどかの様子を見ておくわ。少し心配だし。その後は巴マミの監視に移る」

「巴さんの監視、ですか?」

「ええ。明日、彼女が学校に来なかったら、彼女は1日一人で自由に動けてしまう。それがどれだけリスクのあることか、まばゆになら分かるでしょ」

 

 

 

 

 と話し合ったのが昨日。

 

 結局、暁美さんの言うとおり、巴さんは学校に来ませんでした。

 しかし、暁美さんからの定期連絡を聞く限り、部屋に引きこもって寝ているだけのようです。あまり良い状態とは言えませんが、追い詰められて動かれるよりはずっとマシでしょう。

 

 

 

 この後は、凜さんと合流して、私も巴さんの家に行く予定です。

 私たちの中で一番巴さんと関わりがあったのは私です。それに凜さんも加わるのですから、きっと大丈夫だと信じましょう。

 

(咲笑さんにも、随分甘えちゃいましたね)

 

 最近は色々と動くことも多く、レコンパンスを手伝えていませんでした。

 なので、凜さんと美樹さんの用事が終わるまで、こうしてレコンパンスを少しでも手伝うことにしたのです。

 

 あまり深く聞かないでくれる咲笑さんに感謝しつつ、私は凜さんのことを考えます。

 

(凜さん、大丈夫でしょうか。今日会ったときも、やっぱり顔色が優れていなかったような気がしますし……)

 

 けど、凜さんはやっぱり何も言ってくれない。

 まあ、私がそんなに頼りになりそうに見えるかと問われれば、首を横に振るしかないのですが……。

 

(ちょっとくらい、話してくれもいいのに……)

 

 なんて、心の中で凜さんへの不満を呟いてしまいます。

 

 

 

 でも、それも仕方ないのかもしれません。向こうからしたら、私はまだ出会って1ヶ月も経っていない友達でしかありません。

 

 どれだけ彼女が距離を縮めてくれても、私たちの間には埋められない時間の溝ができ始めていました。

 

(私の気持ちも、一方通行のものなのでしょうか)

 

 皮肉なものですね。

 暁美さんのときは、私の存在が暁美さんの心情に何か影響を及ぼしてしまうかも、と心配していたのに。

 今は、私が凜さんに何の影響も与えられなくて悩んでいるのですから。

 

「はあー……」

 

 我慢できず、大きなため息をついてしまいます。

 

(みたまさん。私だけに出来ることって何ですか? 私は本当に、凜さんの力になれるような存在ですか?)

 

 そうして、暗い自問自答を繰り返していたときでした。

 

「何か悩み事? まばゆちゃん」

「あっ、咲笑さん……」

 

 私に声をかけてきたのは咲笑さんでした。

 

「ため息をつくと、幸せが逃げちゃうぞー、なんて」

 

 そう言って私を脅すような動きをする咲笑さんですが、仕草が可愛すぎて全く脅しになていません。

 

 しかし、私がそれに愛想笑いで返したことに、咲笑さんも真面目な雰囲気になり、私に聞いてきます。

 

「まばゆちゃん、何か悩みがあるなら相談して? もちろん、言いにくいこともあるだろうし、言える範囲で構わないから。あんまり抱え込んでほしくないな、って私は思うの」

 

 咲笑さんは優しく、そう言ってくれました。

 

 

 

 ここは少し、相談させてもらいましょうかね。

 ここまで言ってくれる咲笑さんを無視するのは忍びないですし、咲笑さんにはここのところ心配もかけているでしょう。さすがに全部とはいきませんが、相談してみるのはアリかもしれませんね。もしかしたら、何か新しい視点を見つけられるかも。

 

「そう、ですね。それじゃあ、ちょっと相談に乗ってくれますか?」

「ええ、もちろん」

 

 じゃあ、と私は咲笑さんに事情を話すことにしました。

 

「私が悩んでいるのは、凜さんのことについてです」

「凜ちゃんって、この前来てくれたまばゆちゃんのお友達の?」

「そうです。実は彼女、何か思い詰めているようなんですが、誰にも相談してくれないんです。私も、と、友達ですから、何か出来ることはないかと思ったんですが……」

「思いつかなかった、とか?」

「そうですね……。私に何も相談してくれないので。そんな時、ある人に言われたんです。私なら、凜さんの力になれるって。私にしか出来ないことだって」

 

 私にしか出来ないこと。それをずっと考えていました。けど……。

 

「けど、私にそんな力あるのかなって。私は凜さんよりも勉強も運動もできません。凜さんのほうが社交的ですし、人当たりもいい。私が凜さんに頼られる部分なんて、どこにも無い気がして……。私じゃ、どうやっても凜さんの力にはなれないんじゃないかって」

 

 昨日だってそうでした。

 一番に皆さんを元気づけようとしたのは、凜さんでした。あまつさえ、凜さんの力になりたいと言っている私が、逆に元気づけられる始末です。

 

 私は、凜さんの頼れる人に、心を打ち明けられる存在になるなんて、無理なんじゃないでしょうか。

 

 そんな考えが、ずっと離れないんです。

 

 

 すると、静かに私の話を聞いていた咲笑さんが口を開きます。

 

「話してくれてありがとう、まばゆちゃん」

 

 そう言って、咲笑さんは少し困ったように笑います。

 

「うーんと、まず最初に言いたいのは、その悩みに関して、私も正しいことを言える自信は無いわ。ごめんね」

「いえ、そんな……。咲笑さんが謝ることじゃ」

 

 私の言葉に、咲笑さんは、ありがとう、と言います。

 

「その上で、一応まばゆちゃんの人生の先輩として、話をさせてもらうとね……」

 

 咲笑さんは少し遠くを見るような目で、私に語りました。

 

「人に頼られるようになるって、心を開いてもらえるようになるって、とても難しいことなの。私も、いつだってそれが出来るとはいえないわ。私もそのことで、まばゆちゃんを引き取るってなったとき、ちょっと緊張したのよ」

「緊張、ですか?」

「うん。この子は、私に心を開いてくれるかなって。もちろん、開いてくれなかったとしても、私はまばゆちゃんを愛するつもりでいたわ。けど、心を許せる存在がいないって、いつもどこか落ち着けない気持ちになるから。そんな思いをあなたにさせたくないなって、私は思ったの。不安だったけど、私なりに一生懸命まばゆちゃんと向き合おうって思ったわ」

「咲笑さん……」

 

 咲笑さんの口から語られる、私が咲笑さんに引き取られた時の話。

 あの時は、私は自分のことでいっぱいいっぱいだったけど、咲笑さんも不安だったんですね。

 

「けど、上手くいく自信なんてなかった。それが上手くいったのは、まばゆちゃん、あなたのおかげよ」

「え? 私、ですか? いやいや、私は何も……」

「ううん。まばゆちゃんは、私にちゃんと向き合って、信じてくれたわ。自分の殻に閉じこもりたくなるときだってあったろうに、私を信じて、側にいさせてくれた。私も、最初はまばゆちゃんが心を開いてくれるように、なんて考えていたけど、いつの間にか、私のほうがまばゆちゃんに心を開いちゃったもの」

 

 咲笑さんの言葉は意外でした。

 私にそんな自覚はありませんでした。ただ、あの時はただただ必死だったから。

 

「あ、話がちょっと脱線しちゃったわね。ええと、つまり何が言いたいかと言うと、信じてもらうって、結局相手の心次第なのよ。私たちがどれだけ頑張っても、最後に信じる人を決めるのは、相手の心だから」

「……それじゃあ、私には余計無理ですね。お母さんのように、占いもできない。人の話を聞いて、その人の欠けたところを想像してあげることもできない。私に、お母さんみたいなことができれば良かったのに……」

 

 自嘲気味に私は言います。

 あれだけ近くにいたのに、私はお母さんの何一つも受け継げなかった。きっとお母さんなら、凜さんの不安だって理解してあげられたのでしょう。けれど、それは私じゃなくて、お母さんに出来ること。私にだけ出来ることではありません。

 

 みたまさんのあの言葉も、もしかしたらそういう意味だったのでしょうか? 私の出る幕じゃない、大人しくしておけ。そういう忠告だったのかもしれないですね。

 

 

 私がそう考えていると、咲笑さんは私の言葉を否定しました。

 

「それは違うわ、まばゆちゃん。確かに、あなたのお母さんは色んな人から相談を受けていたわ。未来を視るのだって、彼女だけに出来ること。でも、そんな特別なことが出来なくたって、信じてもらうことはできるわ」

「……だったら、私にしか出来ないことって何ですか? 私は特技もありません。映画は好きだけど、それが人助けの役には立ちません。お母さんのように困っている人に言葉をかけてあげることも、咲笑さんみたいに美味しいケーキを作って人を笑顔にすることも、何もできないんですよ」

 

 私はイライラして、つい強い言い方をしてしまいます。

 

 しかし、咲笑さんは気にする様子もなく、優しく諭すように言いました。

 

「そんなことないわ。確かに、私はケーキを作れる。けど、そのケーキを全ての人が美味しいと言ってくれるとは限らないし、美味しいケーキを作れる人なら、私の他にもたくさんいるわ」

「そんなことないです! 咲笑さんのケーキは特別です! すっごい美味しいですよ!」

 

 咲笑さんに自分のケーキに美味しくないと言ってほしくなくて、つい大きな声を出してしまいます。

 すると、咲笑さんはふふっと笑いました。

 

「ありがとう。でも、これで分かったんじゃない? 自分にしか出来ないことって」

「え?」

「ケーキを作れる人はたくさんいる。けど、まばゆちゃんにここまで言わせるケーキを作れる人は私しかいない」

「あっ……」

「このお店だってそう。ケーキを作れる人は世界中にたくさんいるけど、この街の人にケーキを食べさせてあげられるお店はここしかない。自分にしか出来ないことって、こういうことだと私は思うの。世界で出来る人が一人しかいないようなことをする必要はない。例え誰にでも出来ることでも、まばゆちゃんがやることはまばゆちゃんにしか出来ないんだから。それが自分にしか出来ないことなんじゃないかしら」

 

 私に、出来ること……。

 

「まばゆちゃんが話を聞いた人が誰だか、私は知らないけど。まばゆちゃんが出来ることをしてあげればいいんじゃないかしら。例えば、映画の話とか。まばゆちゃんの映画の話は、聞いていてすっごい楽しいわよ」

 

 咲笑さんの話を聞いて、私は少し霧が晴れたような気分でした。

 

(そっか……。私がすることは、私にしか出来ないことなんだ。誰かより劣ってるとか関係ない。私に出来ることは、私以外に換えが利かない。私が決して、鹿目さんの代わりにはなれないように。私だってきっと、誰かが代わることなんてできない存在なんだ)

 

「まばゆちゃんが今できることをして、精一杯向き合ってみるのがいいんじゃないかなって、私は思うわ」

「……ありがとうございます! 咲笑さん!」

「ふふっ。良かった、まばゆちゃんに元気が出て」

「えっ。あ、あ~、心配かけてすみませんでした……」

「いいのよ。子どもは大人に心配をかけるものだから。まあ、あまりかけられると困っちゃうけどね」

「は、はい……。気をつけます……」

 

 そんなやり取りに、私と咲笑さんは笑いました。

 

 ようやく、少し道が見えた気がします。

 私が出来ること。私にしか出来ないこと。私が凜さんに、してあげられること。

 

 

 

(よ~し! この後凜さんに会ったら……)

 

 

 

 私がそこまで考えた時でした。

 

 

 私のスマホが着信を告げました。

 

 私が画面を確認すると、発信者は暁美さん。

 私は画面をスライドし、電話を繋ぎました。

 

「もしもし、暁美さん?」

『凜! 大変よ! 巴マミがいなくなったわ!』

「え? ええっ!? ど、どういうことですか!?」

『やられたわ。いつの間にか、本人と彼女のリボンで作られた分身と入れ替わっていたのよ!』

「そ、そんな……!? じゃ、じゃあ、巴さんは、今どこに……?」

『あなた、今どこにいる!?』

「え? レコンパンスですけど……」

『今までの巴マミは、魔法少女の真実を知ったら、必ず知り合いの魔法少女を殺そうとしてきたわ。けど、人目につくとこで事は構えないはず。だから、私も今はショッピングモールにいるの』

「となると、あと見滝原にいる魔法少女は……」

 

 

 一人で行動している、凜さんだけ。

 

 

「っ!? 凜さん!」

 

 私は暁美さんに断りを入れ電話を切ると、すぐに凜さんに電話をかけます。

 

 

 しかし、いつまで経っても呼び出し音が流れるだけ。

 

 私は再び暁美さんに電話します。

 

「ダメです! 凜さん、電話に出ません!」

『くっ! まばゆ、二人で凜を探すわよ!』

「はい!」

 

 私は電話を切ると、すぐさま更衣室に飛び込……、む前に咲笑さんに、

 

「すみません! 急用が入ったんで先に上がります!」

 

 と言って、更衣室に飛び込んだ。

 

 制服を脱ぎ捨て、私服に着替えると、息つく間もなく外へと飛び出す。

 

「まばゆちゃん!」

 

 と、背後から呼ぶ咲笑さんの声に、「ごめんなさい!」と一言謝り、私は見滝原の街を走り出した。

 

 

 

 

 

 

(凜さん! 凜さん! 凜さん!)

 

 

 私はソウルジェムで魔力を探りながら、見かけた路地裏や廃墟などを覗き、凜さんの姿を探しました。

 

 もし、巴さんが以前のような行動をしているとしたら、1秒でも速く凜さんを見つけないと、凜さんが危険です。

 

 もちろん、凜さんの実力が高いのは承知しています。けど、今の凜さんはどこか余裕のない様子でしたし、巴さんの実力は私もよく知っています。

 

 だからでしょうか。

 

(さっきからずっと嫌な感じがする……。凜さん、どうか無事でいてください!)

 

 

 息はさっきから上がりっぱなしです。

 こんなことなら、もっと運動もしておくべきでしたね。今さら後悔するなんて。

 

 

 けど、恐らく先ほどから時間はあまり経っていないはず。先ほどから、度々時間が止まっています。恐らく、暁美さんも時間をこまめに停止しながら凜さんを探しているのでしょう。

 

(考えろ、考えるんだ私! 凜さんならどこに行く!?)

 

 私は必死に息を吸い込み、脳に酸素を送ります。少しでも凜さんの居場所を絞らないと、間に合わない気がしました。

 

 

(確か凜さんは、まず美樹さんの説得のために病院に行ったはず。説得するなら、近くの座れるお店か公園でするでしょう。そこから、私と合流する予定でした。今の時間、恐らく美樹さんの説得はもう終わっているでしょう。ということは、既にレコンパンスに向かっている途中なはず。病院の辺りからレコンパンスに向かう道は……)

 

 

 私はこれまでのループで何度も通った病院の道を走ります。

 

(この道なら、何度も通りました。凜さんがいそうな場所もある程度は目星だって……!)

 

 

 

 

 そうして、しばらく走っていたときでした。

 

 

「……?」

 

 ふと、遠くで音がしました。

 まるで爆竹でも破裂させたような乾いた音。

 

 それは、私にとってはとても身近な音で。

 

(銃声!)

 

 そちらにソウルジェムを向ければ、かすかに魔力の反応が二つ。

 

 

 

 それを認識した瞬間、私は弾かれたように走り出しました。

 

 

 

 

 

(たしかこの辺りだったはず……)

 

 魔力の反応から逆算し、私は凜さんと巴さんを探します。

 

 

 そして……。

 

 

(っ! いた!)

 

 

 路地裏の奥。

 

 二人の魔法少女の姿を、私は見つけました。

 

 

 

 私は魔法で光学迷彩を纏いながら、様子を窺います。

 

 二人は今まさに戦っている最中でした。

 しかし、戦闘はすでに凜さんの防戦一方となっていました。

 

 巴さんの苛烈かつ隙のない攻撃はもちろん、凜さん自体もなんだか動きが鈍いようで、この拮抗が長く保たないことは、私の目からも明らかでした。

 

 

 そして、私の予見通り、戦場の拮抗はすぐにも崩れ去りました。

 

 凜さんは徐々に被弾が増え、ついに片腕を撃ち抜かれてしまいます。

 

(凜さん!)

 

 私は凜さんを助けるために、二人に近づこうとしますが……。

 

「っ!?」

 

 二人のいる路地裏へと続く道に、リボンで結界が張られていました。

 

 恐らく巴さんが、一般人を巻き込まないため、そして私たちの救援をいち早く察知するために用意したものなのでしょう。

 

(リボンを切るくらいなら簡単ですが……)

 

 それをすれば、間違いなく巴さんに気づかれるでしょう。

 姿を消しての奇襲ならワンチャンあったかもしれませんが、正面から巴さんと戦闘になった場合、私など今の凜さん以上のお荷物となってしまうでしょう。

 

 

 私が考えている間にも、戦況は変化していきます。

 

 撃ち抜かれた腕を魔法で治した凜さんは、再び武器を生成。

 その武器に魔力を纏わせ、凜さんが巴さんに対し大技を放ちます。炎と雷の猛攻を巴さんは捌ききりますが、その時には既に凜さんは、巴さんの前にいませんでした。

 

 巴さんとは逆方向。

 私がいる位置とは反対方向の路地へと出ようと駆け出しており、それを阻むリボンの結界を斬ろうと武器を振りかぶり……。

 

(あっ……!)

 

 その直前、凜さんの斬ろうとしたリボンがマスケット銃へと変化しました。

 

 

「くっ!?」

 

 凜さんは慌てて足でブレーキをかけ、身をよじって避けようとしますが、マスケット銃の発砲の方が一手先。

 

 

 

「あっ……」

 

 次の瞬間、いくつもの弾丸が凜さんの体を貫きました。

 

 

 凜さんは吹き飛ばされ、投げ捨てられた人形のように地面に転がりました。

 

「……っ!!」

 

 私は思わず叫びそうになるのをグッと堪えました。

 ここで私が見つかれば、凜さんを助けることなど不可能です。

 

 ただ、私一人でこの状況を覆すことはできません。

 

 となると、残された手は一つ。

 

 私は携帯を取り出し、暁美さんに連絡を取ります。

 

「もしもし、暁美さん!」

 

 私は巴さんに聞こえないように小声で、しかし強い語気で暁美さんに呼びかけます。

 

「まばゆ? 凜は見つかった?」

「はい! 私たちの懸念通り、巴さんの襲撃を受けてます。けど、私だけじゃ助けに入ったところで……」

「分かったわ。すぐに向かう。場所は?」

「ここは……」

 

 私は暁美さんに今の場所を伝えます。

 暁美さんは「分かった」と一言言うと、電話を切りました。同時に、世界の時間が止まります。

 

 時間が止まったり動いたり。

 時間停止をこまめに使いながら、暁美さんがこちらに向かってきているのが分かります。

 

 けれど、その間にも巴さんは凜さんを追い詰めていきます。

 

 

 這ってでも逃げようとする凜さんをリボンで拘束し、ソウルジェムを狙います。

 すると凜さんは、変身を解除してしまいました。

 

(え、どうして……!?)

 

 私の疑問は、凜さんの次の行動で晴れました。

 

 凜さんはソウルジェムを指輪の状態にしたのです。

 

 

 巴さんは苦しそうに、ソウルジェムを差し出すよう言いました。

 

 けど、凜さんは……。

 

「や、だ……」

 

 その答えの直後、巴さんは凜さんに発砲。

 

 凜さんの脇腹から鮮血が飛び散ります。

 

「出しなさい」

 

 巴さんは苦しそうな、焦るような声色で言います。

 しかし、凜さんは首を横にフルフルと振り、それを拒絶します。

 

「っ!」

 

 巴さんは再び発砲。今度は凜さんの太ももに穴が開きました。

 

 

 その後も、巴さんはソウルジェムを出すよう要求しますが、凜さんは断るばかり。

 

 拷問のような問答が続きます。

 

「お願い、夕凪さん! 出して! これ以上、あなたを傷つけたくない!」

 

 一見、矛盾しているような言動。

 けど、それが巴さんなりの優しさであり、残された最後の矜持であることを私は知っています。

 

 だからこそ、私はその光景を見ていられませんでした。

 助けに入ることは簡単です。でも、そこからあの重傷の凜さんを抱えて逃げるなんて、私にはできません。きっと、私も殺されてしまうでしょう。

 

(止めて……。マミさん、もう、止めてください……)

 

 私は地面にへたり込み、この光景を見ているしか出来ませんでした。

 

 

 

 

 そして数分後。止まった時の中、ビルの上から暁美さんが降ってきました。

 

「待たせたわね。状況は?」

「あ、暁美さん……!」

 

 もはや縋りつくように、私は暁美さんに駆け寄ります。

 

「凜さんが、凜さんが……!」

「落ち着いて、まばゆ。二人はあっちね」

 

 私の指差すほうを見る暁美さん。その光景と私の状態から、おおよその状況は察してくれました。

 

「大体の状況は分かったわ。まばゆ、あなたは時間を止めている間に、このリボンの結界を切りなさい。そしたら、時間停止を解除して私が巴マミを引きつけるわ。その間に、あなたが凜を縛っているリボンを切って。凜の拘束を解いたら、時間停止で逃げるわ」

 

 状況を理解した暁美さんは、私に作戦を伝えます。

 私は涙を拭いながら、暁美さんに質問します。

 

「あの、なんで時間停止を一旦解除するんですか? 凜さんの拘束を解くときも止めたまままでいいんじゃ……」

「あのリボンをよく見なさい。凜を拘束しているリボン、どこから伸びてるかしら?」

「あっ……」

 

 凜さんを拘束しているリボンは、巴さんの腕から伸びていました。

 結界のリボンと違い、あれは直接リボンが巴さんと繋がっている。ということは……。

 

「私が触れると、巴さんも動き出してしまう……」

「そういうことよ。とはいえ、正面から巴マミとやり合うとなると、私も長くは保たないわ。速攻で終わらせるわよ」

「はい!」

 

 私たちは二人のいる方向へと体を向けます。

 

 

「あ、そうだ」

 

 私はあることを思い出し、ハサミをもう一つ生み出して、暁美さんに渡します。

 

「これは?」

「逃げるときに巴さんのリボンを切る用です。巴さんは既に私たちの魔法を知っていますから。恐らく、戦いの中で私か暁美さんのどちらかにリボンを結んでくるはず。それを切る用です」

「ああ、そういえばあったわね、そんなこと。よく気づいたわ、まばゆ。ありがとう」

「いえ、これくらいしか私にはできませんから……」

 

 よし、と私は気合を入れて、リボンの結界をハサミで切っていきます。

 

 そして、全てのリボンを切り終えて、私は暁美さんに視線で合図します。

 

 それを見た暁美さんも頷き……。

 

「それじゃあ……、いくわよ!」

 

 その言葉と同時に、暁美さんは時間停止を解除。

 

 凜さんがソウルジェムを差し出そうとしたところに、割って入りました。

 

「そうはさせないわ!」

「っ!? くっ!」

 

 盾による殴打で、暁美さんは巴さんを、凜さんから引き剥がすことに成功します。

 

「暁美さん……!」

「巴マミ。これ以上やるというなら、私が相手よ」

「邪魔しないで、ちょうだい!!」

 

 暁美さんと巴さんの戦いが始まり、私はその隙に光学迷彩を使って凜さんに近づきました。

 

 凜さんを拘束するリボンを切りながら、私はテレパシーで凜さんに声をかけます。

 

『大丈夫ですか、凜さん!』

「ま、ばゆ……?」

『助けにきました。もう少し待っててください』

 

 私のほうを向く凜さん。姿は見えなくても、魔力の反応とリボンが切られる位置から予想をしたのでしょう。私は凜さんを安心させるように片手を握りながら、もう片方でリボンを次々と切っていきます。

 

 

 時間にして、およそ数十秒。

 全てのリボンを切り終えた私は、暁美さんにテレパシーを送ります。

 

『よし、切れた……! 暁美さん!』

『了解』

 

 返事と同時に暁美さんが投げたのは、スタングレネード。

 私は手で凜さんの目を覆いながら、自分も強く目をつぶります。

 

「まばゆ! 今のうちに!」

 

 暁美さんのその声に、目を開けるより早く行動に出ます。

 

「はい! 凜さん、失礼します!」

 

 停止した時間の中、私は凜さんを抱きかかえ、走り出します。

 

 すると……。

 

「甘いわね!」

 

 後ろから巴さんの声が聞こえました。

 振り返れば、私の足首にリボンが結ばれており、そのリボンは巴さんへと繋がっていました。

 

「あなたたちの魔法は知ってる! その手は通用するもんですか!」

 

 巴さんは素早く銃を生成し、私に向けようとしますが……。

 

(残念ですね。その手にもう一度引っかかるほど、私たちも馬鹿じゃないです!)

 

 私は思い切り足を振り上げ、リボンを空中へと滞空させます。

 

「その言葉、そっくりお返しするわ」

 

 その台詞と共に、巴さんの銃を盾で弾いた暁美さんは、空中へと滞空したリボンをハサミで切断しました。

 

 

 

 巴さんの動きが止まり、今度こそ私たちだけの時間に逃げ切れたことを確認し、私は息をつきます。

 

「助かりました、暁美さん」

「まばゆのおかげよ。事前にあなたからハサミを預かっておいて良かったわ」

 

 あとは凜さんを連れて安全な場所まで移動するだけ……。

 

 そう思い、私が視線を下に向けると、青ざめた顔で荒い息をする凜さんがいました。

 

「凜さん? 凜さん! しっかりして!」

 

 私の呼びかけにもほとんど反応せず、ぐったりとする凜さん。

 私が足下に目を向ければ、凜さんから零れた血が時間停止の影響で空中に溜まり、大きな球体を作っていました。

 おおよそ普通の人間なら失血死で死んでいるような量の血液が、そこに浮いていました。

 

「っ!?」

「凜!」

 

 凜さんのソウルジェムは既に穢れがかなり溜まっている状態。これでは、魔法で傷を治すことも難しいでしょう。

 

「暁美さん、グリーフシードは!?」

「これを!」

 

 暁美さんはすぐさまグリーフシードを凜さんのソウルジェムに押し当て、その穢れを吸い取ります。

 しかし、凜さんの意識はぼんやりとしたまま。

 どころか、段々と瞼がさがってきていました。

 

「凜さん、寝ちゃダメです! もう少し、もう少し耐えて!」

 

 いくら魔法少女がソウルジェムを砕かれなければ死なないとはいえ、大量の血を流せば意識は失います。そうすれば、ソウルジェムは濁る一方。

 それに、このまま血を流し続ければ、巴さんに血痕を追われてしまい、逃げ切ることができません。

 

(けど、私も暁美さんも治癒魔法なんて使えない……!)

 

 なので、凜さんには自分自身に怪我を治してもらうしかないのです。

 

「凜さん! 血! 血を止めてください! じゃないと……!」

 

 

 

 虚ろな目で私を見ていた凜さんでしたが、やがてゆっくりと腕を上げました。

 そして、手のひらを私に差し出してきます。

 

「……クト」

「え?」

「……ば、ゆ。コ、……クト」

 

(コネクト! そうか、あれなら私の魔力の譲渡ができる!)

 

「わ、分かりました!」

 

 私は急いで凜さんの手を繋ぎ、魔力の波長を合わせます。

 凜さんの意識こそ不安定でしたが、それでもコネクトは上手くいき、その魔力を使って凜さんは傷を治していきます。

 

 

 そうして、何とか大きな傷口は粗方塞いで、ようやく凜さんから流れる血は止まりました。

 

 

 私たちは巴さんのいる場所から大分距離を空けたところで、ようやく時間停止を解除しました。

 

 

「はあ~~~……」

 

 緊張の糸が解け、私はビルの壁を背もたれにズルズルと座り込みます。

 

 暁美さんも似たようなもので、私と同じように座りながらソウルジェムの穢れを取っていました。

 

「暁美さん、ありがとうございました。魔力は大丈夫でしたか?」

「ええ。かなり長く時間を止めてたから、かなり魔力は持っていかれたけれど」

「すみません、私がもっと手際よくやれていたら……」

「仕方ないわよ。あなたは十分やったわ。それより、凜のほうはどう?」

「今は眠っています。気を失った、のほうが正確な感じですが……」

「そう……」

 

 

 憔悴しきった顔で眠る凜さんは痛々しくて、私は泣きそうになります。

 

 すると、暁美さんが私にハンカチを差し出してきます。

 

「え? あ、暁美さん……?」

「それで顔でも拭いておきなさい。凜の血であなたの顔、ヒドいことになってるわよ。服のほうは変身を解けばなんとかなるけど、顔はどうにもならないから。拭いておきなさい」

 

 そう言われて自分の手を見れば、凜さんが流した血で手首まで真っ赤でしたし、走っているときにも流れ続けていた血が、私の魔法少女の服を塗らしていました。私の服は白が多いのもあって、凜さんの鮮血が目眩のするほど目立っていました。

 

「ありがとう、ございます……」

 

 血で汚してしまうことを申し訳なく思いつつ、私は暁美さんのハンカチで顔を拭かせてもらいました。

 

 

「さて、これからどうするかだけど……」

 

 暁美さんがそこまで言ったところで、凜さんの顔が微かに動きました。

 

「ぅ……」

 

 小さなうめき声の後、凜さんは薄く目を開けました。

 

「凜さん!!」

「凜!」

 

 私と暁美さんは凜さんの顔を覗き込みます。

 

「ごほっ、ごほっ、と、もえさんは……?」

「大丈夫ですよ。振り切りました」

「追撃してくる様子もないし、とりあえず安心していいわ」

「そっか……」

 

 あまり動かすのは良くないかもしれませんが、いつまでも路地裏にいるわけにはいきません。凜さんだって、私の膝枕より早くベッドに寝させてあげたいですし。

 

「とりあえず、移動しましょう。本当は病院に連れていきたいですけど……」

「さすがに銃創で大量出血じゃ、警察沙汰は避けられないでしょうね」

「ですよね……」

「とりあえず、私の家に運んでちょうだい。大したものはないけど、ベッドくらいは貸せるわ」

 

 分かりました、と頷き、私たちが暁美さんの家に向かおうとしたときでした。

 

「いい……」

 

 凜さんが私の服を弱々しく掴み、そう言ったのでした。

 

「り、凜さん? いいって……」

「構わ、ないで……。私、大丈夫だか、ら……」

「馬鹿言わないで。それのどこが大丈夫なのよ」

 

 暁美さんは少しイラついたように言います。しかし……。

 

「二人に、これ以上、迷惑かけられ、ないよ……」

「迷惑なんて、そんな……!」

 

 私はそう言いますが、凜さんは首を振ります。

 

「巴さん、の、狙いは、私……。なら、私がいるだけで……」

「それであなたを見捨てろと? 冗談はやめて」

 

 暁美さんは怒ったように言います。

 私も、暁美さんに続きます。

 

「そうですよ。凜さんのこと、見捨てるなんてできません。巴さんのことは私たちが何とかしますから……」

 

 私たちの言葉に、凜さんは顔を歪ませ……。

 

「もう、止めてよ……!」

 

 悲痛な声で言いました。

 

「もう、私を助けないでよ……! 私は、これ以上……!」

 

 それ以上は、凜さんがむせてしまって言葉になりませんでした。胃の中に残っていた血を吐く凜さんはとても放っておけない姿でしたが、凜さんは私たちの助けを断ろうとします。

 

「私の、家……。そこに置いていって、くれていいから……。あとは、自分で何とかするから……」

 

 掠れた声でそう言う凜さん。

 私としては承諾しかねる願いでしたが、凜さんは私の服をギュッと掴んで絞り出すように言いました。

 

「お願い……!」

「凜、さん……」

 

 凜さんの腕の力が抜け、凜さんは再び気を失ってしまいました。

 

 

 

 

 私と暁美さんの間に沈黙が流れます。

 

 やがて暁美さんが足を止め、言いました。

 

「まばゆ。凜のことだけど……」

「はい」

「放っておく選択肢は取れないわ」

「もちろんです」

「ただ、凜の家に連れて行く、という選択肢はアリかもしれないわ」

「どういうことですか?」

「私の家は昨日、巴マミに知られてしまっている。それに比べ、凜の家はまだ私とまばゆしか知らない状況よ。それなら、まだ凜の家のほうが安全かもしれないわ」

「そう、ですね」

 

 たしかに凜さんの家のほうが安全かもしれません。私の家は咲笑さんがいますし、自分の家のほうが落ち着くということもあるでしょう。

 そう思うと、凜さんの家に隠れるのは悪くないように思います。

 

 

 話し合って、私たちは凜さんの家に行くことにしました。

 

 

 

 

(どうして……、どうしてこんなことに……)

 

 

 この前まで普通に話して、笑って、青春映画の1シーンみたいな日々を過ごせていたのに……。

 

 皆で服を買いに行こうって、約束したのに……。

 

 

 

 せり上がってくる涙を必死に堪え、私は凜さんの家へと足を動かしました。

 

 

 

 

 

 そんな私たちを、二つの真っ赤な目が見ていることには気づきませんでした。

 

 

 

 

「さて、これでしばらく夕凪凜は行動不能だろう。巴マミが魔法少女の真実を知れば、当然正気でいられなくなることは予想できた。それで他の魔法少女を狙えば、夕凪凜との対立は免れないとは思っていたよ」

 

「まさかマミが凜を直接狙うとは、ボクたちも予想外だったけどね。でもこれで、キミたちの立てた計画も、その立案者も封じることはできた」

 

「もちろん、ワルプルギスの夜との決戦直前にキミたちの内部分裂を狙うこともできた。だけど、それじゃあ絶望を感じる前にワルプルギスの夜に殺されてしまう子も出てしまうだろう。それは避けたいしね。なにより……」

 

「暁美ほむら、愛生まばゆ。凜が手負いとなった今、キミたちは彼女を見捨てることはできないだろう。凜のほうはともかく、キミたち二人は決して少なくない時間を彼女と過ごしたはずだ」

 

「狙い通り、キミたちは凜を助けるためにマミの妨害に入った。そしてこの後も、凜を放っては動けない。そうなれば、自然とキミたちの動きは制限できるってワケさ」

 

 

 

 

 

「これでようやく、鹿目まどかと接触できそうだよ。キミたちはあまり気にしてなかったようだけど、彼女の因果からして、鹿目まどかを魔法少女にできればボクたちのノルマは概ね達成できる。ボクたちの狙いは、最初から鹿目まどかただ一人さ」

 

「あわよくば、キミたちもここで魔女になってほしいところだけどね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 巴さんから逃げ切った後。

 

 私たちは凜さんの家にいました。

 

 

 

 彼女をベッドへと寝かせて、ようやく気持ちが少し落ち着いてきました。

 

 

(そういえば、凜さんの家にこうやって来るのはこの周の初め以来ですね。あとは……)

 

 前の時間軸。

 私の記憶が戻ったときでした。

 

 

(あの時は、私が凜さんに助けてもらいましたね)

 

 

 

 私の経験日数で数えても、まだ1ヶ月くらいしか経ってないはずなんですけどね……。これまでに色々ありすぎて、ずいぶん昔のように感じます。

 

 

 

 そんな現実逃避のような感傷的な気分に私が浸っていると、暁美さんが立ち上がりました。

 

「暁美さん……?」

「まばゆ、凜を頼むわ」

 

 暁美さんの発言の意図が分からず、私は暁美さんに問いかけます。

 

「ま、待ってください! 頼むって……。暁美さん、どこに行くんですか?」

「巴マミのところよ」

「危険です。それに、巴さんが今説得に応じてくれるとは……」

 

 私の言葉に、暁美さんは、もちろん分かっている、という顔をしました。

 

「ええ。だから、巴マミはここで始末する」

「……え?」

 

 

 暁美さんのその言葉に、私は目を丸くしました。

 

「え、始末って、え……?」

「巴マミは魔法少女の真実を受け止められない。それはどの時間軸でも同じだった。このままじゃ、ワルプルギスの夜討伐に力を貸してくれる魔法少女がもっと狙われるかもしれないわ」

「ま、待ってください……! だからって……」

「再び凜が狙われる可能性だって十分ある。誰かが犠牲になってからでは遅いわ。だから、彼女がこれ以上動く前に始末する必要がある」

「そんな! ダメです、暁美さん!」

「あなたの気持ちは分かるわ。けれど、彼女の危険性を考えれば、ここで始末するべきよ」

 

 暁美さんはどこか諦めたような目をしながら、そう言いました。

 

「暁美さん……。でも、でも、今回は全員生きてますし、たくさんの人たちが協力してくれているのに……」

「だからこそよ。こんなチャンス、そうそうあるものじゃないわ。そのチャンスを逃すくらいなら……」

 

 暁美さんは拳をギュッと握り締めながら、そう言いました。

 

 確かに、暁美さんの気持ちも分かります。

 けど、それを認めたくない気持ちが私にはあって。

 

(マミさんを、犠牲に選ぶなんて……。そんな、そんなの……)

 

 

「暁美さん、考え直してください。このループが始まったとき、暁美さん言ってたじゃないですか。もう誰かを諦めたくないって。ダメですよ、諦めちゃ……! 話したじゃないですか……! 別れに鈍感にならないでって……! 巴さんをそんな簡単に諦めるなんて……!」

 

 私がそこまで言ったときでした。

 

 暁美さんは私に近づいてきて、ガッと私の胸ぐらを掴むと、壁に叩きつけてきました。

 

 

「ぁう……!」

「ふざけないで……!」

 

 顔を下に向けたまま、振り絞るような声でそう言う暁美さん。

 

「あ、けみ、さん……!」

「私だって諦めたくないに決まってるじゃない!!」

 

 暁美さんが顔を上げます。カーテンの隙間から入っていた光が当たり、前髪のヴェールで隠されていた暁美さんの表情を照らしました。

 

 

 

 その顔は、泣いていました。

 

 

 

「私だって、誰かを犠牲に選ぶようなことなんてしたくない! けど、凜がここまで頑張ってくれて、ようやくこぎ着けたこの状況! 今までで一番、ワルプルギスの夜を倒せるかもしれないこの状況を、逃すわけにはいかないのよ!」

 

 暁美さんは、ダムが決壊したように、感情を強く吐き出します。

 

「ここで私が失敗すれば、私はまたまどかを死なせることになる! あの子を犠牲にしてしまう! そのことと天秤にかけたら、まどか以外の命を、私は切り捨てるしかないじゃない! だって、それが私の願いなんだもの! 私に残された最後の道しるべなんだもの!! それを見失えば、私は、わたしは……」

 

 段々と声は弱くなっていき、暁美さんは私を手放すと、床にペタンと座り込んでしまいました。

 

「どんなに辛くたって、嫌だと思ったって、私はもう、進むしかない……! どんな罪を背負おうとも、私はまどかをこの運命から救いだしてみせる……! だから……!」

 

 暁美さんは変身をすると、立ち上がって玄関へと向かいます。

 

「あ、けみさん……! 待って……!」

 

 私は手を伸ばしますが、その手は空を切りました。

 

「ダメです……! きっと、きっと何とかなりますから……! 凜さんだってそう言って……」

「その凜が、今この状態なのよ!?」

 

 暁美さんの視線の先には、ベッドで寝ている凜さんがいました。普段からは考えられないほど憔悴して、傷だらけの凜さんが。

 

「今、彼女に頼るなんて出来ないじゃない。私たちで、この状況をどうにかするしかないのよ……!」

 

 そうだ。

 絶望的だった私たちのループに変化をもたらしてくれた彼女は、希望を見せてくれた彼女は、眠っている。

 私たちの希望だった彼女は、動けないんだ。

 

「凜のためでもあるのよ、巴マミを消すのは……」

 

 

 その言葉に、私は思わず暁美さんに言い返します。

 

「違います……」

「え……」

「そんなの、凜さんは望みませんよ……。凜さんならきっと、自分が死ぬことになっても、巴さんの命を選ぶはずです……。絶対」

 

 凜さんならそうするだろうな、って、嫌ですけど分かってしまいました。

 

「凜さんが起きて、巴さんがいなくなっていたら、きっと凜さんは、自分の責任だと自分を責めてしまいます。暁美さんは、これ以上凜さんを追い詰める気ですか……!」

 

 つい、語気が強くなってしまいます。こんな強く言うはずじゃなかったのに……。

 

 暁美さんは私に背を向けて、言いました。

 

「だから、選べないって言ってるじゃない……! たとえ天秤の片方が、凜だったとしても……」

 

 

 

 そう言って、暁美さんは夜の街に消えていきました。

 

 扉の閉まる音が、やけに大きく聞こえました。

 

 

 

 

 私の足は、暁美さんを追ってはくれませんでした。

 暁美さんを追いたい気持ちと、凜さんを置いていけない気持ちで板挟みとなり、動けなかったんです。

 

 あと、もう一つは……。

 

 

「……っ。ぅぅ……」

 

 暁美さんと言い合いになってしまったこと。

 

 

 

「うぅ……。あぁぁ……」

 

 今まで、暁美さんに怒られたことはあっても、言い合いになったのは初めてで……。

 

「ああぁぁぁ……!」

 

 皆がバラバラになって、こんなところで喧嘩している場合じゃないのに……!

 

 

「うああああああ……!」

 

 

 私は、何をして……!

 

 このままじゃ、本当に全員バラバラになってしまいます。私と暁美さんでさえ……。

 

 

 

「どう、すれば……。どうすれば、いいですか……? ねえ、答えてくださいよ……。いつもみたいに笑って教えてくださいよ……。りんさん……!」

 

 私のその言葉に応じる声は、聞こえず。

 

 聞こえるのは、静かな寝息と私の嗚咽だけ。

 

 

 

「うううう……! ああああああああ……!」

 

 

 

 私は膝を抱きかかえ、丸まるようにして泣き続けました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ブーッ! ブーッ! ブーッ!

 

「……?」

 

 どれくらい蹲っていたのでしょう。

 

 涙も乾き、意識がボンヤリとしてきたときのこと。私の携帯が震えました。

 

 

(……誰でしょう? 暁美さん? いや、咲笑さんかな。事情、説明せずに飛び出してきちゃったし)

 

 私の連絡先を知っている人はそう多くはありません。

 暁美さんは、あんなことがあったばかりで電話してくるとは思えませんでしたし。消去法で咲笑さんしか考えられませんでした。

 

 

(出たくないな……)

 

 そう思ったものの、咲笑さんだったら心配をかけるわけにもいきません。

 

 

 

 とりあえず、かけてきた相手を確認するために、私はのっそりとした動きで携帯を手に取りました。

 

 

 画面に目を向けると、そこに映っていた名前は……。

 

 

 

 

 

「鶴乃、さん……?」

 

 

 

 

 




投稿が遅くなり、申し訳ございませんでした。

気合いを入れて書いていたら、いつもより長くなってしまいました。
今回のお話は、かいててくるしかったです。(小並感)
決して、まばゆちゃんもほむらちゃんも曇らせ適性が高すぎて筆が止まらなかったとかではないです。


とりあえず、年内の投稿はこれで最後になると思います。
もうちょい先まで書けるかと思いましたが、スケジュール的にキツかったので……。
なので、区切りの良いここで一旦区切らせていただきます。
次回以降は来年からまた投稿したいと思います。

次回もよろしければ、読んでいってください。
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