魔法少女まどか☆マギカ 実績『朝焼けのエンドロール』獲得 作:くろしゅー
(過労で死にそうなので)初投稿です。
DAY.-4 Side RY
見滝原市へと引っ越してから数日。
この街の魔法少女、巴マミさんと仲良くなった。
少なくとも邪険に扱われなかったから、最初の印象は悪くなかったはずだ。
二人で魔女退治をすることになった。
巴さんはとても強く、魔女退治もやりやすかった。
けど、今日は魔女退治は休み。
なので、私は一人でショッピングモールに来ていた。
目当てはレンタルビデオショップ。
一人になった私の、新しい趣味。
映画を観ている間は、現実を忘れられるから。
今日も、何か新しい映画でも借りようかと思って棚を眺めていると、気になるタイトルが一つ。
確か、タイムリープものの名作だったはず。昔の作品だから置いてないところも多いんだけど。
(これにしよ)
私が棚に手を伸ばしたと同時に、横から同じ作品へと伸ばされた手が重なった。
「あっ」
「あっ」
お互い同じような声を出して、手を引っ込める。
私が横を見れば、私と同い年くらいの女の子がいた。
その子は、私と同じ制服に黄緑のカーディガンを羽織っていた。緑の髪は所々ハネていてくせっ毛っぽい。片方は前髪に隠れていたけど、キレイなアメジストの瞳が私のほうを向いていた。
彼女はオドオドした様子で、口をパクパクさせる。
「あ、す、すみません」
開口一番、謝罪を口にする彼女。
私と視線が合わない辺り、人と話すのは苦手な子みたいだった。
だから、私は極力声を柔らかくする。
「いえ、こっちこそごめんなさい」
そう謝りながら、私はDVDを彼女に差し出す。
私は別に今すぐ見たいわけでもない。この映画が好きなら、この子に譲るべきだろう。鶴乃先輩なら、そうしたはず。
「はい、どうぞ」
彼女は一瞬キョトンとした後、体の前で手をブンブンと振って、DVDを押し返してくる。
「え? いやいやいや、先に手に取ったのはあなたですから、あなたがど、どうぞ」
「で、でも……」
「そ、それに、私はその映画、もう既に見ているので、今すぐ見なくても、だ、大丈夫です、はい」
彼女の言葉に、私は興味を惹かれた。
「へぇ。もしかして、映画好きなんですか?」
「え? ええ、まぁ……。結構好きと言いますか、過去の名作はほぼ全て見てるといいますか……」
ニヤニヤと笑った彼女。
(これが彼女の好きな話題かな?)
映画が好きなら私も話してみたいし、少し迷った結果、私は彼女の手を取ることにした。
「ふぇ!?」
「私もなんです! 映画、いいですよね!」
私は彼女の手を引き、近くのフードコートに向かう。
「そこのフードコートで話しませんか? その制服。どうやら、同じ学校みたいですし」
映画好きの彼女は、愛生まばゆといった。
映画がかなり好きなようで、私が借りた映画の豆知識は聞いていて楽しかった。
「凜さんは、どんな映画が好きとかありますか? ジャンルとか、ストーリーとか」
「う~ん、これといってないかなぁ。映画が好きと言ったけど、恥ずかしながら、ちゃんと映画を見始めたのはここ最近だから。まだそんなに知識がなくて……」
「そうでしたか……」
「でも、強いて言うならハッピーエンドが好きかなぁ。あんまりご都合展開だとあれだけど……、最後の最後に奇跡が起きる、みたいな? そういうのは好きかも。……そうだ! まばゆ、映画に詳しいんだよね。だったら、オススメとか教えてくれない? まばゆの映画話、聞いてみたいな」
「ほ、ホントですか!」
私たちは、つい時間を忘れて会話に花を咲かせた。
久しぶりに何かの重圧も、後悔も感じずに話せる時間で、つい話しすぎてしまった。
「あ……。もうこんな時間。そろそろ帰らないと、お店のお手伝いが……」
まばゆの家はケーキ屋さんのようで、まばゆも手伝いをしているらしい。
名残惜しそうにするまばゆに、私は提案する。
「それならさ。連絡先、交換しようよ。これで、いつでも映画話できるからさ」
「っ! は、はい!」
花が咲くような笑顔を浮かべるまばゆに、私も思わず笑顔になる。
まばゆが帰った後、私はスマホの連絡先に追加されたまばゆの名前を眺める。
「ふふっ」
(まばゆとは、普通に友達になれるかな?)
私は思った。
ここでなら、私は人助けなんてしなくても、誰かの側にいられるんじゃないかって。
そんな自分勝手な期待を、まばゆに向けていた。
でも、運命は私を逃してはくれなかった。
DAY.1 Side RY
この日。
私の家を訪ねてきたのは、まばゆと知らない少女の二人だった。
「すみません、凜さん。こんな時間に」
「いいよいいよ。あがって」
私は二人を家に上げて、話を聞くことにした。
まばゆの隣にいた少女の名は、暁美ほむらといった。
ほむらは、私に衝撃の話を切り出した。
「実は、私たちは時間遡行者なのよ」
普通なら取り合うことすらしない話だが、私はそんな奇跡を可能にする術を知っている。
そして、彼女たちとの会話で、彼女たちが時間遡行者だという確認はできた。
それを私が理解したところで、二人は本題を切り出した。
「凜。あなたの力を貸してほしい。ワルプルギスの夜を越えるため、一緒に戦ってくれないかしら」
「私からもお願いします、凜さん。力を貸してくれませんか」
ほむらとまばゆの言葉に、私は間を置かず頷く。
「うん、いいよ」
「やっぱり無理で……、え?」
まばゆが素っ頓狂な声を上げるが、私は気にせず続ける。
「私を頼ってくれたんだもん。断る理由なんてないよ」
「ありがとう、凜」
ほむらの言葉に、私は手を振る。
「お礼なんていいよ。話を聞く限り、私……、えっと前の時間軸の私ね。が、こうするように言ったんでしょ。ほむらたちを時間遡行させてる時点で前の私のしくじりだし、ここで断ったらバチが当たるよ」
そうだ。
私に協力しないという選択肢は存在しない。
だって、ここで私が手を引いたら、彼女たちは確実に傷つく。
助けを求めた手を振り払われる辛さを、私は知ってる。
だから例え、
それに、例え騙されていたとしても、私だけで被害が済むならそれで構わない。ここで彼女たちから目を離したときのほうが怖い。
そうして私は、ほむらから話を聞きながらこれからの1ヶ月の動きを考える。
「これが、今回私たちが考えた1ヶ月のフローチャートよ」
そう言って、ほむらは一枚の大きな紙をテーブルに広げる。
そこには、先ほど聞いた出来事に対して、どう動くかが事細かに書かれていた。
「ちょっと見てもいい?」
「構わないわ。むしろ、助言がほしいところよ。あなたから見てこのフローチャート、どうかしら?」
私は、ほむらたちから今まで時間軸での出来事を聞きながら、フローチャートに目を通す。
「……これが私たちの経験してきたこと。もちろん、私とまばゆの記憶頼りだから、抜けはあるかもしれないけど」
ほむらたちの話を聞き終わった私は、ほむらに質問する。
「前の私はやちよ先輩に頼ったんだよね」
「ええ。彼女はワルプルギスの夜相手にかなり心強い味方だった。できれば、今回も味方にしたいところなのだけど……」
「なるほどね。あと、前の私が残した言葉。魔法少女について記された本と時女一族。これって、神浜の古本屋で私が見つけたって言ってたよね」
「ええ」
「なるほどねー……」
私はペンを走らせる。
ほむらたちに質問を続けながら、私は頭の中でフローチャートを組み上げて、それを書き出していく。
そして……。
「よし、できた。フローチャートの修正。細かいところはあとで詰めるとして、大枠はこれでいいんじゃない?」
「はやっ!? え? 凜さん、まだ、話聞いて30分も経ってないですよ!?」
「二人の話聞きながらやったからね」
「同時にやってたんですか……?」
「うん。並列で物事を考えられるよう、特訓したからね。でも、そんなに驚くようなことでもないでしょ。まばゆは大げさだなぁ」
こんなこと、褒められたって誰かを救う力になんてならない。これに見合う実力がないと。
数時間後。
私の組んだフローチャートを元に計画を立て、私たちは解散した。
(ワルプルギスの夜かぁ……)
二人が帰った後。
私は二人に出したお茶を片付けながら、先ほどの話を思い出す。
この魔女のことは知ってる。
この世界最強の魔女で、絶えず地球上を廻り続けているとか。
(これは運命かもしれない)
ふと、メルみたいな言葉が浮かぶ。
最強の魔女。
それと戦うということは、犠牲なしで済む確率はかなり低い。
けど、それであの二人を助けて死ねるなら……。
(それって、最高の
元の色より少しくすみ続けるソウルジェムを見ながら、私はボンヤリと思った。
DAY.2 Side RY
「へぇ~。叔母さんのお手伝いなんて偉いじゃん。制服もよく似合ってるよ」
「そ、そうですか?」
「うん、とってもカワイイ」
翌日。
私はまばゆが働いているという、レコンパンスに立ち寄っていた。
店に入ってみれば、この店の制服に身を包んだまばゆが、レジで接客をしていた。
お客さんがお会計を終えたところで声をかければ、まばゆは私が来たことに驚いていた。
いきなり押しかけちゃったのはマズかったかな、と思ったけど、まばゆは邪険にすることなく、私を席に案内してくれた。
そして、注文を聞きにきたところで、冒頭に戻る。
「ケーキはこれくらいで。それで飲み物は……、カフェラテでいいかな」
「分かりました。ラテアートはどうしますか?」
「ラテアート? そんなのもやってるの?」
「ええ。せっかくですし、私がお描きしますよ」
自信満々に言うまばゆに、私は思わず目を輝かせてしまう。
「ホント!? じゃあじゃあ、えっと……。三日月って、描ける?」
「……ええ、描けますよ。なんならもっと難しいものでも……」
「ううん。それがいいの」
「……承知しました。少々、お待ちください」
まばゆは頭を下げて、奥へと戻っていく。
少しして戻ってきたまばゆが持ってきたカフェラテには、綺麗な三日月が描かれていた。
「……すごい」
「そ、そうですか? ま、まあ、練習しましたからね」
「写真、撮っていい?」
「ええ、どうぞ」
その後も、私たちは雑談を続けた。
お店のお手伝いもあったろうに、まばゆは私と話してくれた。
「まばゆってさ、映画だと何が好き?」
「そうですねー……。好きな映画はたくさんありますが、最近オススメなのは……」
「まばゆ、占いについて詳しいんだね」
「ええ。母が占い師だったので……」
「え、そうなの? あ、でも……」
「はい。もう死んじゃってるんですけどね……」
「ごめん……」
「いいですよ。凜さんは知らなかったんですから。それより、凜さんこそ占いの知識が豊富ですよね」
「うん、私の友達に占いやってた子がいてね」
「安名、メルさんですか?」
「え、なんで……。ああ、そうか。時間を巻き戻す前の私が話したんだね」
「はい……。その……、安名さんってどんな方だったんですか?」
「気になる?」
「あ、も、もちろん無理にとは言いませんけど……」
「ううん。そんなことはない。メルの事知りたいって言ってくれて嬉しい。この占いの知識も、メルが色々教えてくれたことだからね。それじゃどこから話そうかな……。うーん、じゃあね……」
私が帰るまでの時間、私たちは何気ない会話を続けた。
(まばゆのラテアート、可愛かったなぁ。あれ、どうやってやるんだろ?)
私は追加で買ったケーキを冷蔵庫に入れながら、そんなことを思う。
ラテアートの作り方なんて、もうすぐ死ぬ私が覚える意味なんてないのに。
それにしても……。
(まばゆ、叔母さんと仲良さそうだったなぁ……)
まばゆも、両親がいなくなって叔母さんに引き取られたらしい。
そんな過去に、私はこっそりシンパシーを感じていたんだけど。
(まばゆは私と違って、あの人を受け入れられたんだ……)
いつまでも、心の扉を開けない私とは違う。
まばゆには帰る場所も、頼れる人もいる。
友達もいて、力になりたい人の側に居場所もある。
(何を期待してたんだろ、私……。まばゆは私とは違うって、分かってたのに)
もしかして私は、まばゆに同じ立場であってほしかったのか。
そんな最低過ぎる考えを持つ私は、殺さなきゃ。
誰かに期待することなんてしない。私は頼られる側で居続けるんだ。
(なんで、まばゆにはあるの? 居場所も、大好きな人の側にいる権利も……)
ああ、また殺さなきゃ。
DAY.8 Side RY
「よし。杏子ちゃんの説得が上手くいって良かった。やっぱりフェリシアちゃんを一緒に行かせて正解だったね」
私は家の玄関を開けながら、独り言を呟く。
今日のレコンパンスでの話し合いで、佐倉杏子ちゃんを仲間に引き込むことに成功した。
それに二葉さなちゃんには、ほむらの武器の調達を手伝ってもらうことになった。
全部、チャート通りだ。
巻き込んだ責任は、私が取れば良い。
私は棚からアルバムを取り出す。
みかづき荘で撮った写真をまとめたアルバムは、最近見ることが無かったからか、少し埃を被っていた。
私は丁寧に埃を拭き取り、最後のページを開く。
そこに、帰り道に印刷してきた写真を入れた。
今日のレコンパンスでこっそり撮った、まばゆとほむらの写真を。
私は写真の裏に書いたメッセージを見る。
『今度こそ、守りきる』
(二人とも、私の大切な友達。もう二度と……)
本当に?
信用しきれてないくせに?
二人に、メルとやちよ先輩の影を重ねてるだけじゃない。
(……やめて)
ほむらには、無理して人を近寄らせないような雰囲気にやちよ先輩を感じてるだけじゃない。
まばゆは、少し占いに関係していることと髪の色が似てるくらいしかメルとの共通点ないのに。
あなたにとってほむらとまばゆは、やちよ先輩とメルの代替品でしかないじゃない。
(やめて)
自分が失ったものを埋めるために、あの二人を利用しているだけじゃない。
二人を信用しきれないから、自分が戦う理由を見失いそうだから、彼女たちに二人を重ねて、信用する理由を作ってるだけじゃない。
そんなんで、どこが友達だよ。
「っ!!」
私は手首に包丁を突き立て、頭の声をかき消す。
「っ! つぅ……! はあ、はあ、……」
私は魔法で、手首にできた傷を治す。
この魔法は本当に便利だ。だって、どれだけ傷ついても跡が残らないんだもん。
(違う……。ほむらもまばゆも、大切な友達。それは変わらない……!)
ほむらのことは助けてあげないと。
まばゆは意外と無茶をしちゃう時があるから、危なくならないようフォローしないと。
ほむらの望みを叶えれば、自然とまばゆの望みも叶うはず。
だから、間違ってない。このままでいい。
二人に、穴埋めの役割なんて求めてない。
(そんなことを求める自分なんて、いてはいけないんだから)
DAY.10 Side RY
「ようこそ見滝原中学校へ! 待ってたよ、ほむら」
この日。
私は学校の屋上で、まばゆとほむらと会っていた。
「大げさね。私にとっては何度も経験してきたことよ」
「それでもだよ。一緒の学校に通えるんだよ? 私は嬉しいけどなぁ」
そう。今日はほむらが私たちの通う見滝原中学校に転校してくる日だった。
今までも毎日のように会ってはいたけど、どうしても朝か放課後のどちらかに限定されてしまうため、こうして時間を考えなくても会えるのは良いだろう。
「休み時間も長くはないわ。手短に済ませましょう」
「連れないなぁ……。まあいいや。えっと、まずは今の戦力の確認だね」
「はい。凜さんの紹介のおかげで、七海さんとフェリシアさん、二葉さんが協力してくれることになりました。あと、佐倉さんの協力も得られたんですよね?」
「ええ。佐倉杏子を仲間に引き込めたのは大きいわ。あとは……」
「今度の休み、時女一族の人たちに会いに行ってくるよ」
私の言葉に、まばゆは心配そうにする。
「それ、本当なんですかね? もしかしたらデタラメって可能性も……」
「その時はその時かな。心配しなくても、ダメだったときのセカンドプランくらい考えてるよ。抜かりはありません」
私はメガネをクイッとあげる振りをして、おどけてみせる。
「……はあ。こんなふざけてて何とかするのが凜だから、世の中理不尽よね」
「全くです」
「ええー! ひどーい!」
「これで、終わり!」
学校が終わった私は、ショッピングモールで魔女を狩っていた。
ほむらからの情報通りの結界があり、その主を私は倒した。
(よし、これでここはオッケー。もう一体の魔女はほむらたちが何とかしてくれるから、今日も問題なく終わった)
頭の中のフローチャートと照らし合わせ、今日の目標を達成したことを確認した私は帰路についた。
その途中で。
「あの、凜さん」
私を呼び止める声がした。
振り返れば、そこにいたのは鹿目まどかちゃん。
ほむらの最愛の人で、私たちが守りきるべき最重要人物だ。
「あ、まどかちゃん。奇遇だね。ショッピングモールでお買い物?」
「は、はい。そしたら凜さんを見かけて」
(私に何か用かな? 同じ学校の後輩とはいえ、まだ私とそんなに話していなかったはずだけど……)
私はそんなことを考えつつも、彼女が話しかけてきた理由を深くは考えていなかった。
「実は、凜さんに相談したいことがあるんです」
「相談したいこと?」
「その、ほむらちゃんのことで……」
どうやらほむらのことらしい。
そういえば、ほむらはまどかちゃんと同じクラスだった。彼女とほむらは、4日くらい前に顔を合わせているけど、ちゃんと会話する時間は取れてなかった。
それで、今日話してみて相談したいことができたって感じかな。
「いいよ、じゃあそこで話そうか」
「ありがとうございます!」
まどかちゃんは花が咲いたような笑顔をする。
これは、ほむらが夢中になるのも理解できる気がする。
「今日、学校でほむらちゃんと話しました」
まどかちゃんはそう切り出した。
「それで、改めてほむらちゃんが戦っている理由も聞きました。ワルプルギスの夜のこととか、この1ヶ月を何度もやり直してること。あと、ほむらちゃんが私のために戦っていることも、二人きりのときに教えてくれました」
「へぇ。そうだったんだ」
ちょっと意外だった。
ほむらは、まどかちゃんを魔法少女と極力関わらせたくないスタンスだったから。
1日目にチャートを組んだときも、まどかちゃんに魔法少女のことを話すのは最後まで渋い顔をしていた。
だから、まどかちゃんに色々聞かれても遠ざけるだけと思ったんだけど……。
ほむらの中で、何かが変わったのかな?
例えば、もう一度まどかちゃんと向き合うことを決めた、とか?
私がそんなことを考えていると、まどかちゃんはこう続ける。
「それを聞いて思ったんです。私のためにこんな多くの人が戦っているのに、私だけ何もしないなんて……。だから、やっぱり私も魔法少女に……」
「それはダメ」
即答だった。
自分でも驚くくらい低い声で、まどかちゃんの提案を否定する。
「な、なんで……」
まどかちゃんは、少し期待を裏切られたような顔をする。
もしかして、私なら魔法少女になってもいいと言ってくれると思っていたのだろうか。
「あのね。ほむらの話を聞いたなら分かると思うけど、ほむらはあなたを死なせないために時間を巻き戻してるの。危険から遠ざようとしてるんだよ?」
「それは、そうですけど……。でも、ほむらちゃんが頑張ってくれてるのに、私だけ何もしないのは……」
なんで?
なんであなたは自分から地獄に行こうとするの。
私はまどかちゃんに考えを改めてほしくて、少し語気を強くする。
「それでまどかちゃんが魔法少女になっちゃったら、それこそほむらの頑張りを無駄にすることになるんだよ」
「そ、それは……」
「ほむらの願いは、あなたが魔法少女にならず、普通の生活を送ること。そのために何度も傷ついて、それでも戦い続けてるんだよ? それなら、あなたはそれに報いてあげるべきなんじゃないの?」
言い方がキツくなっているのが分かる。
こんな、ほむらのやってきたことを恩に着せるような言い方をまどかちゃんに言ったなんて知れたら、ほむらに殴られるだろうな。
そう思うのに、どうしてか私の心のイライラは収まってくれない。
「ご、ごめんなさい……。でも、私にも誰かを救える力があるのに、それを使わないなんてなんだか卑怯な感じがして……」
あなたが卑怯? 何を言ってるの?
あなたは十分やってる。たくさんの人の助けている。
そうでなきゃ、ほむらはあそこまで執着したりしない。
「……どうして」
「え?」
「どうして、まどかちゃんは分からないの? あなたは、魔法少女にならなくていいって言われてるんだよ。それを望まれているのに、どこが卑怯なの?」
「だって、私にその力があるのに……」
「だからって、あなたは選択しなくていい立場にいるじゃない。魔法少女になんかならなくたって、居場所も愛してくれる人もいるのに……!」
「り、凜さん……?」
どうして?
なんで魔法少女になろうとするの? あなたは今のままでも十分幸せじゃない。
温かく迎えてくれる家族と家。一緒に登校して、何気ない話で笑える友達。命の危険なんて考えなくてもいい日常を、あなたは過ごしているじゃない。
(私だって、ほんとうは……)
「もう少しさ、ほむらの気持ちを考えてあげてよ。あなたが余計なことするせいで、ほむらがどれだけ苦労したと思ってるの? あなたのくだらない心情と半端な同情心のせいで、ほむらがどれだけ辛い思いをしてきたと思ってるの?」
何も言えないまどかちゃんに、私はまくし立てる。
「ほむらはあんなにまどかちゃんのために動いてるのに……。もっと、ほむらの気持ちを汲んでやりなよ! ほむらの気持ちに応えてあげなよ! なんでそんな簡単なことが出来ないの!?」
私は机を叩いてしまう。
(ねえどうして? どうしてこの子なの?)
私だって、私だってほむらたちのために頑張ってるよ?
ほむらたちのためにいっぱい頑張ってるよ?
(違う、こんなこと考えてるわけじゃ……)
どうして?
どうして、ほむらはまどかちゃんのことばかり見るの?
どうして、まばゆはほむらのことばかり見るの?
どうして、私を……。
そこまで考えて、私はようやく目の前のまどかちゃんの顔に気づいた。
私に怒鳴られて、怯えるまどかちゃんの顔。
それは、私の過去をフラッシュバックさせるのに十分で……。
「……っ! とにかく、ほむらのためを思うなら、役に立ちたいと思うなら、何もしないで」
吐き捨てるように言うと、私は自分のバックをひったくるようにして、その場から走り去った。
「……ごめんなさい、凜さん」
後ろから聞こえた、まどかちゃんの泣きそうな声が、頭から離れなかった。
「うえええええっ! ハァ、ハァ……」
その夜。
私は胃の中のものを全て吐き出していた。
(何を考えようとした、私……)
ほむらとまばゆに、愛されたい?
そんなこと、望んでいい立場じゃないだろう。
彼女たちに協力すると決めたときから、決めてたはずだ。
彼女たちからの見返りなんて期待しない。愛される存在にはならないって。
あの日、彼女たちと会話していて思った。
あの子たちの間に私が割って入る隙間はない。
同じ時間遡行者として、彼女たちの関係が普通の友達以上に深いことは想像できた。それは、時間という私ではどうしようもないものが隔てているもので。
私の居場所は、どこにもなかった。
でも、それで良かった。
どうせワルプルギスの夜との戦いで死ぬつもりだから。あんまり深い関係になれば、私が死んだときに悲しい思いをさせてしまう。
特にまばゆは、優しいから悲しい思いをさせるだろう。ほむらみたいに、まどかちゃん一筋なら良かったのに。
そう思って、彼女たちと別段仲良くしようとは思っていなかった。もちろん邪険に扱ったら作戦に支障をきたすから、普通の友達くらい仲良くはしていたけど。
(けど、そっか……)
どうやら私は、思っていた以上に愛に飢えていたらしい。
あまつさえ、まどかちゃんとの会話のとき、私は思ってしまった。
(ほむらもまばゆも、私のことを一番に考えてくれないかな、とか……。気持ち悪、私……)
私も相当参っているらしい。
こんな想いが浮かんできてしまうなんて。
(思い出せ、私。私を愛してくれた人たちがどうなったか……)
お父さん、お母さん。
メル。
やちよ先輩。
鶴乃先輩。
みふゆ先輩。
皆に辛い思いをさせて、追い詰めてしまった。
唯一、チーム解散後にあまり関わらなかったももこ先輩が無事なことからも、私が疫病神なことは証明されている。
(だから、この想いは殺さなきゃ。こんな私、いらない)
私はまた一人、私を殺した。
DAY.15 Side RY
どうしてこうなったの?
「正義の味方とか、その手のおちゃらけた冗談を後生大事に守ってきた一族があるなんてな。それを忠実に守ってるアンタらが哀れでしょうがないよ」
「訂正しなさい。私を馬鹿にするならともかく、過去の巫まで侮辱するなら見過ごせないわ。今すぐ謝罪して」
今まで上手くいってたじゃん。
「くそっ! なんだよなんだよなんだよ! 知らなかったの、オレだけかよ! じゃあ、オレがバカみてえじゃん! 凜、お前、オレの復讐のこと聞いた時、どんなこと思ってたんだよ! バカにしてたんだろ!」
「分かるわけねえ! お前、まだ出会って一週間くらいしか経ってねえだろ! そんなんでオレの気持ちが分かるかよ! 信じられるかよ!」
皆、仲良くしてたじゃん。
「ま、待ってください、巴さん。少し落ち着いてからでも……」
「放っておいて! 今は誰とも話したくないの……! こんなこと、こんなのって……!」
ああ……。
私はまた、失敗したんだ……。
DAY.16 Side RY
(大丈夫……。まだ修正は効く。さやかちゃんの説得はできたし、後は……)
私はレコンパンスへの道を早足で歩く。
昨日は皆のすれ違いで、ワルプルギスの夜討伐チームの集会は解散となってしまった。
けど、まだ致命的なところまではいってない。
皆の意見を聞いて、誤解とすれ違いを解決をしていけばきっと大丈夫なはずだから。
(というか、何とかしないと……! じゃないと、私の存在理由が……!)
チャート通り、さやかちゃんの説得はできた。
今日はこの後、まばゆと一緒に巴さんの様子を見に行くことになっている。
(巴さんも昨日の様子からして、相当堪えているだろうし、上手く励ましてあげないと……)
そのときだ。
「っ!?」
殺気だ、とか考える前に、咄嗟に身体が動く。
横に転がった私の耳に届く銃声。それとほぼ同時に、私が先ほどまで立っていた場所を銃弾が抜けていく。
私が銃弾の飛んできた方向へ目線を向けると……。
「……今のを避けるなんて。さすがね、夕凪さん」
「巴さん……!」
そこに立っていたのは、私たちが会いに行こうとしていた巴さん本人だった。
「巴さん、どういうこと?」
「ごめんなさい。悪く思わないで!」
私の問いかけに答えることなく、巴さんはマスケット銃を生みだし、私に向けてくる。
「っ!」
私はすぐさま変身。
飛んできた銃弾を弾く。
「あの後、色々と考えたのよ。夕凪さん、あなたのことを、私は信じられない!」
私は巴さんの言葉に、頭を殴られたような衝撃を受ける。
(信じられないって、どういうこと? 巴さんとは、そこそこ仲良くなれてたハズなのに……)
私への攻撃を繰り返しながら、巴さんは続ける。
「夕凪さん……、あなたが善良なのは認める! あなたが本心から暁美さんと愛生さんのために動いているのも。でも、だからこそ信じられない! あなたの気持ちが分からない! あなたはどこか私たちと壁を作っていて、私たちとは違う場所に立っているみたいだった!」
巴さんの展開した大量のマスケット銃が、一斉に火を吹く。
何とか捌こうとしたけど、何発かは私の身体を貫いていく。
「テリトリーに他の魔法少女を招くことも不安は多かった。けど、夕凪さんの知り合いだから、きっと大丈夫だって言い聞かせていた。自分の居場所を土足で入られている気がしたけど、それを飲み込んだ!」
巴さんに腕を撃ち抜かれる。
すぐに魔法で治すも、巴さんの攻撃の手は止まない。
「でも、昨日のことで思ったの! 夕凪さんも隠し事をしているんだって。私の知らないことを、知っている人が多かった。その一人に夕凪さんもいた! 魔法少女が魔女になる……? そんなこと、本当であるはずがない! 本当であっては、いけないのよ……!」
巴さんの目は、怖かった。
「だから! もうあなたのことは信じられない! この街に入り込んだ魔法少女は全員追い出す……! いや、ソウルジェムが魔女を生むなら、いっそ……!」
(勝てない……! 一旦、態勢を立て直さないと……!)
私は巴さんの一瞬の隙を作り、路地裏の出口へと駆け出す。
その出口を塞いでいるリボンの結界を切り裂こうと、双刃刀を振りかぶったところで。
「……逃がさないって、言ったでしょ!」
巴さんの、その声が聞こえた。
直後、リボンがマスケット銃へと変化し、一斉に私を向く。
「あ……」
私は咄嗟に身をよじるも、既に遅かった。
無数の銃口が火を吹き、銃弾が私の身体を貫く。
私はろくに受け身もとれず、地面を転がる。
私に攻撃が当たったことを確認した巴さんが、こちらに歩いてくる。
(逃げ、ないと……)
私は地面を這いずり、出口を目指す。
しかし、そんな動きを許す巴さんじゃない。
「ぐっ……!?」
リボンが私の身体を拘束する。
「諦めて、夕凪さん。これ以上やっても、苦しむだけよ」
銃を突きつけた巴さんが、私を見下ろす。
「大人しくしてて。そうすれば、一瞬で終わるわ」
そうして、巴さんが引き金に指をかけたところで。
私は変身を解除した。
「っ! 夕凪さん、ソウルジェムを出しなさい」
ソウルジェムは普段、指輪になっている。
だからこうすれば、簡単に破壊することはできないはずだ。少なくとも、巴さんの焦った声からして、彼女にこの状態のソウルジェムを破壊する手段はないのだろう。
そんなことを考えていると、巴さんにお腹を撃ち抜かれる。
「出しなさい」
再び銃口を向ける巴さん。
きっと、私がソウルジェムを差し出すまで続ける、という脅しなのだろう。
けど……。
「や、だ……」
私は否定の言葉を口にしていた。
それから、私は巴さんに撃たれ、蹴られ、それでもソウルジェムは差し出さなかった。
(懐かしいなぁ……。なんか、昔に戻ったみたい……)
私の頭はそんなことを考えていた。
というより、それしかやることがなかった。
私じゃもう、この状況をどうすることもできない。
それなら、耐えるしかないから。
「夕凪さん! いい加減にしてよ! どうしてそこまで耐えようとするの!?」
巴さんは、悲痛な声でそう言う。
「もうあなたが苦しむ必要はないのよ……。私が全部、終わらせてあげる。大丈夫、あなたの罪も私が背負うわ。私が全て終わらせるから、もう苦しまなくていいの」
その瞬間、私は巴さんの顔を見た。
泣きそうな巴さんを。
それでも、責任を果たす覚悟を決めた目を。
それを見たとき、なぜか私は安心した。
(本当に? もう、死んでもいいの? 投げ出していいの?)
そんなわけない。
まだまばゆとほむらとの約束が、彼女たちを助けるっていう目的が……。
(でも、あの二人は
この時、初めて私の心が私の理性を殺した。
私は巴さんにソウルジェムを差し出す。
「そう……、それでいいの」
ソウルジェムに銃を向ける巴さんは、微かに笑った。
「さよなら、夕凪さん」
そうして私は目を閉じて……。
「そうはさせないわ!」
その声に、目を開けた。
(ほむ、ら……?)
ほむらが巴さんと戦い始める。
それから間もなくして、私のリボンがひとりでに切れていく。
これは……。
『大丈夫ですか、凜さん!』
「ま、ばゆ……?」
『助けにきました。もう少し待っててください』
まばゆがテレパシーで伝えてくる。
(なんで、助けるの……。このタイミングで……)
あなたたちに、助けられちゃいけないのに……。
あなたたちにとって、私はどうでもいい存在でいないといけないのに……。
あなたたちが、私を愛してくれることを望みたくないのに……!
私のことを、愛してほしいって思っちゃうのに……!
(私、やっと……)
死ねると思ったのに……。