魔法少女まどか☆マギカ 実績『朝焼けのエンドロール』獲得   作:くろしゅー

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(アリナ先輩が大人気なので)初投稿です。



Record3 DAY.32 Fantastic Artist

 

 

 

 

 DAY.32 Side MA

 

 

 

 

「あなた……、誰!?」

 

 

 

 突然の乱入者に、暁美さんの困惑の声が響きます。

 

 それは他の人も例外ではなく……。

 

 

「えっ、誰?」

 

「だ、誰です?」

 

「誰だよ」

 

 

 全員が、その人の登場に混乱を隠せていませんでした。

 

 

「アリナって……。もしかしてあなた、アリナ・グレイ?」

 

 

 七海さんだけは、彼女の姿と名前を聞いて少し思い当たる節はあったようです。

 

 

「知ってるんですか、やちよ先輩」

「ええ。前に雑誌の特集で見たことがあって……。神浜の若き天才芸術家よ。高校生にして既に個展が開かれるくらいのね。まさか魔法少女だったとは思わなかったし、なんで彼女が見滝原に……?」

 

 

 彼女を少し知っている七海さんですら、困惑の色を浮かべます。

 

 

 この予想外すぎる人物の登場は、全員を混乱させました。

 

 

 

 

 

 ただ一人を除いて。

 

 

 

「ハロー、まばゆ。約束通り、来てやったんですケド」

「あ、あー、お、お久しぶり、です……」

 

 

 彼女の挨拶に、私はぎこちなく返答します。

 

 

 その返答に、暁美さんは目を丸くして、私に問いかけます。

 

「ちょっと待って、まばゆ。この人、あなたの知り合いなの!?」

「あ、えっとー、知り合いというか、勝手に割ってはいってきたというか……」

 

 

 すると、アリナさんは面倒くさそうに言う。

 

「そんな難しい話じゃないワケ。アリナはまばゆにワルプルギスの夜の話を聞いてやって来た。それだけだヨネ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 DAY.5 Side AG

 

 

 

 

「それ、本当なワケ?」

「もちろんさ。今から約1ヶ月後、ワルプルギスの夜は見滝原に現れる」

 

 アリナがあの白ダヌキからワルプルギスの夜を聞いたのは、約一ヶ月前のことだった。

 

「なんだったら、当事者の魔法少女に聞いてみるといい。ちょうど彼女たちは、昨日から神浜にいる。彼女たちに聞けば詳しい話も聞けるだろう」

 

 

 そうしてアイツから伝えられたのは、暁美ほむら、愛生まばゆ、夕凪凜の名前だった。

 

 

 キュゥべえの案内で3人を見つけたアリナは、遠くから尾行することにした。

 

 

 

 何かしら聞き出したいと思い尾行を続けると、3人は別々に行動を始めた。

 

 

 少し迷ったが、アリナは愛生まばゆの後をつけることにした。

 

(アイツなら鈍くさそうだし、付け入る隙はありそうだヨネ)

 

 

 魔力を確認し、残り2人が完全に離れたことを確かめると、すぐさま路地裏に入り、魔法少女に変身。

 同時にキューブを取り出し、中にいる魔女を解き放つ。

 

(キュゥべえが言うような、フレンドのためにワルプルギスの夜と戦うようなヤツなら……)

 

 愛生まばゆは魔女の魔力を感知したのだろう。彼女はキョロキョロと辺りを確認している。

 

 

 そしてアリナの予想通り、愛生まばゆは魔女を倒すための行動を開始する。

 

 反対側の歩道にいる彼女は周りを見回した後、路地裏に隠れた。恐らく変身するためなのだろう。

 

 

 

 身を潜めて結界の入り口を見守っていると、こちらの路地裏に突如、愛生まばゆが現れた。

 

(ワッツ? 全然気づかなかったんですケド……。目は離してなかったのに急に現れたってことは……)

 

 アリナが思考を続けていると、愛生まばゆは結界の入り口に立って、その中に入ろうとする。

 

 さすがに中に入られると面倒だ。

 そう思い、魔女の結界をキューブへと仕舞う。

 

「ふえっ?」

 

 愛生まばゆは素っ頓狂な声を上げた。

 それはそうだろう。入ろうと思った結界が消えたのだから。

 

 驚いている今がチャンスだ。

 

 

 アリナは身を隠していた影から姿を現し、愛生まばゆに声をかける。

 

「アナタが愛生まばゆ、だヨネ?」

「っ!? あ、あなたは……」

「アリナ・グレイ。早速だけど聞きたいことがあるんだヨネ」

「わ、私に、ですか?」

 

 警戒心全開だが、逃げないあたり話を聞く気はあるのだろう。

 なんたるお人好し。まあ、アリナにとっては好都合だけど。

 

「そう。ワルプルギスの夜、知ってるヨネ?」

「……! どうしてそれを……」

「じゃあやっぱり、ワルプルギスの夜が見滝原に来るってのは本当なワケ?」

「あっ……」

 

 自分で認めてしまったことに気づいたのだろう。

 

 この鈍くささ。どことなく、自分に付きまとってくるフールガールを思い出す。

 

 これなら、案外楽勝かもしれない。

 

「アリナも興味あるんだヨネ。そのワルプルギスの夜」

「あ、もしかして、私たちに協力してくれるんですか? ちょうど良かった。私たち、ワルプルギスの夜に一緒に戦ってくれる人を探していて……」

「ウェイト」

 

 なんたるお気楽思考。アリナは食い気味に愛生まばゆの声を遮る。

 対する彼女のほうは、何故遮られたのか理解できていなかったようだ。

 

「勘違いしてるようだけど、アリナはワルプルギスの夜の討伐とか興味ないカラ。むしろ逆。ワルプルギスの夜という最高のアートを、この目で間近に見たいんだヨネ。だから、ワルプルギスの夜がいつ、見滝原のどこに現れるか教えてほしいんだヨネ」

「アート? 間近に見たい? な、何言ってるんですか……?」

 

 愛生まばゆの瞳に、混乱と恐怖の色が混じる。

 

「なにって、言葉通りなんですケド。アリナが追い求める美は、生と死。それを体現するのが魔女という存在。魔女はアリナの筆であり、絵の具であり、アリナのアートなワケ」

 

 自分の芸術を語っていると、徐々に気分が高揚してくる。

 

「魔女が魅せる世界は、まさにアリナが求めていたものなんだヨネ。そんな存在の中で、最強最悪と言われてる魔女なんて……。ハァ、考えただけでゾクゾクする……!」

 

 きっと、今自分の顔を鏡で見たら恍惚とした表情を浮かべているだろう。

 ワルプルギスの夜を生で見ることを想像しただけで、興奮してくる。インスピレーションが湧いてくる。その魔女はアリナに何を見せてくれるのか、楽しみで仕方ない。

 

「そういうワケだから、さっさと教えてほしいんだヨネ。ワルプルギスの夜はいつ、どこに現れるワケ?」

 

 アリナがまばゆに顔を向ければ、彼女は理解出来ないとでも言いたげな目線をアリナに向けていた。

 

 時折、アリナの絵を見たヤツらがするのとそっくりな表情。

 この前の個展で『死者蘇生シリーズ』を見たヤツらの一部も同じ顔をしてた。

 

 

 どうやら、交渉は決裂のようだ。

 

「い、言ってる意味が分かりません! 魔女がアート……!? あなたは知ってるんですか!? 魔女は、魔女は魔法少女の……」

「成れの果てって話?」

「っ!? 知ってるなら、どうして……!」

「どうしてもなにも、それがアリナの求める美だカラ。少女たちが絶望に染まり、最後に咲かす生の花。それが魔女という存在なワケ。それこそ、生を渇望し、世界を呪い、死にゆく絶望を形にしたアート。1つとして同じ存在がない。だから、アリナは魔女に惹かれる。あれこそ、アリナに刺激を与えてくれる最高のアートなワケ。アンダースタン?」

 

 対話を諦めたのだろう。

 まばゆは、先ほどのように姿を消す。

 

 間隔の狭い靴音が聞こえる。走って逃げ出したのだろう。

 

「ちょっと。話はまだ終わってないんですケド」

 

 

 手のひらからキューブを取り出し、魔法を発動。この路地裏一帯に結界を張る。

 

 

 そうして姿が見えるようになったまばゆの肩に、キューブを弾丸のように撃ち込む。

 

「あうっ!」

 

 肩を撃ち抜かれたまばゆは、足をもつれさせ、地面に転がる。

 

 

 立ち上がられる前に追いつき、まばゆを踏みつけて地面に固定する。

 

 

「ど、どうして……。姿は消してたはずなのに……!」

「簡単な理由だヨネ。アナタが姿を消すカラクリは、光を曲げることで姿を隠す光学迷彩のような魔法。さっき路地裏に入って光量が減ったときに姿が少し見えたのがその証拠。それが分かれば、あとはアリナの張った結界で光の進入角を弄ってやれば、屈折率が変わってアナタの姿も見えるようになるワケ」

 

 悔しそうに歯を食いしばるまばゆ。

 

 だが、正直そっちの事情は興味ない。アリナが求めているのはただ1つ。

 

「で? さっさと話してほしいんですケド。ワルプルギスの夜はいつ、どこに現れてアナタたちはどう戦うワケ?」

「それを知って……、どうするつもりですか……!」

「もちろん、その滅びを見るに決まってるんですケド。ワルプルギスの夜が起こすカタストロフィ。ああ、考えれば考えるほど、どんなエモーショナルな感情が得られるか、楽しみだヨネ……!」

「私たちがワルプルギスの夜を倒すと言ったら……!?」

「……そんなの、させるわけないヨネ。アナタたちが戦うのは勝手だけど、壊すことまで許可してないんですケド。作品をブレイクしていいのは、アーティストだけ。単純なことだヨネ?」

 

 それを聞いたまばゆは、キッと睨んでくる。

 

「それなら、なおさら言うわけないでしょう!!」

「ふーん、言わないのはいいケド……。アナタ、状況分かってるワケ?」

 

 ブーツのヒールで、押さえつけてるまばゆの腰に力を込める。

 

「ぅあっ……!?」

「今、この場でアナタのソウルジェムを砕くこともできるワケ。あとは……、そうだ。アナタを画材にアートを作ってもいいケド」

 

 苦しそうに呻くまばゆ。

 

 ここまで言えば、大抵のヤツは口を割る。特にこんなオドオドしたヤツ、すぐにゲロるだろう。

 

 

 そう思い、まばゆの次の言葉を待っていると、まばゆが発したのは予想外の言葉だった。

 

「……ぜ、絶対に、言いません!」

「……ハァ?」

「たとえどれだけ脅されても、彼女たちの邪魔はさせません……!」

 

 アリナの圧に一歩も引くことなく、まばゆはそう言い返してきた。

 

「アナタ、自分が死ぬのが怖くないワケ?」

「怖いに決まっているでしょう!?」

 

 まただ。また、予想を裏切られた。

 死ぬことを恐れていないバカか、理解出来ていないアホか。そのどちらかと思っていたけど、そういうわけでもないらしい。

 

 彼女の瞳はしっかり死への恐怖で揺れている。

 

 なのに……。

 

「なのに、話さないワケ? アナタのフレンドを守れるなら、それでいいってコト?」

「ええ……!」

「どうして、そこまでするワケ? アナタたち、そんな特別な関係なワケ?」

 

 ただの友達にここまでするヤツはいない。

 となれば、お互いが特別に思い合っているとか、だろうか。

 

 まばゆはどんな答えを言うのだろう?

 アリナがまばゆの答えを待っていると、まばゆは少し悩んだ後、躊躇いがちに口を開いた。

 

「……そんな存在に、なれるわけないじゃないですか」

「……」

「私なんかが、暁美さんの特別になれませんよ。凜さんにも心を開いてもらえるか分からない。けど……」

「けど?」

「私がそうしたいんです。彼女たちは私の憧れた人たちで、私が助けたいと思った人たちだから」

「見返りとかいらないワケ?」

「私にとって、それは彼女たちといられることです。私はそれで、十分です。そうすれば、私は未来を進めますから」

「たとえ命がなくなっても?」

「ええ、私の行動が未来を繋げられるなら。けど、死ぬ気はありませんよ。それが、暁美さんの望みですから!」

 

 そう言い切ると同時に、彼女は手にハサミを生成し、アリナの足に振り下ろす。

 

「チッ!」

 

 足をどけ、ギリギリでハサミを回避する。

 

 

 その隙にまばゆは走りだし、路地裏から出ようとする。

 

 

 

 

 しかし……。

 

「えっ!? で、出られない!?」

「当たり前だヨネ。ここはアリナの結界の中なんだから。出口を閉じるのも、アリナの自由なんですケド」

 

 

 アリナはまばゆに詰め寄っていく。

 

「それで? 言う気になった?」

「なりません! こ、殺すなら、ど、どうぞ! でも、絶対にあの人たちの邪魔はさせません! 私は最期まで、抗わせてもらいますよ!」

 

 

 まばゆは恐怖に震えながらも、目から抵抗の色は消えない。

 

 

(この状況でも、まだ諦めないなんて……)

 

 

 ああ、だから面白い。

 

 アナタは何度もアリナの予想を裏切ってくる。

 

 

「アハハ……! ほんっとアナタってファンタスティックだヨネ……」

「は……? な、なにを」

「ちょっと耳貸して」

 

 まばゆの肩を掴み、無理やりアリナの口元までまばゆの耳を持ってくる。

 

「ちょ、離し……!」

「ここならキュゥべえも聞いてない。一度しか言わないから聞き逃さないでヨネ」

 

 まばゆが驚きの目をアリナに向ける中、アリナは気にせず続ける。

 

「まばゆ。アナタはここを出たら、アリナに会ったことは誰にも言わないコト。もし何か聞かれたら、魔女に遭遇したとか言えばいいカラ」

「はっ!? な、なにを言って……!」

「アリナもアナタたちに協力するって話。アリナはキュゥべえと一緒に動きつつアイツの目を欺いて、アナタたちを妨害する準備のフリをするカラ。アナタたちへの接触も極力減らさせる。あとは、当日までのアナタたちの頑張り次第だケド」

「な、なんでいきなり……!」

 

 本気で理解出来ない目で問いかけてくる。

 

 とはいえ、なんでと問われても……。

 

「それが、アリナの美に近づけると思っただけだヨネ。ワルプルギスの夜が起こす滅びより、アナタたちの命がバーンナップするほうが見たくなったワケ」

 

 

 アナタたちの運命に抗い、命を削るその戦いは、この世のどんな事象より……。

 

「きっと、ビューティフルだヨネ……!」

 

 

 

 

 

 

 DAY.18 Side AG

 

 

「……というわけで、彼女たちはあの状況からも持ち直したよ」

「ふーん」

「驚かないんだね」

 

 キュゥべえの質問にため息をつく。

 どうやら、見滝原のほうでまばゆたちのチームが空中分解しかけたようだが、持ち直したらしい。

 が、正直言って、それに感想なんてない。

 

「ワルプルギスの夜に戦おうと思ってるヤツらがその程度なら、アリナの求める美を見られないヨネ」

「でも、キミにとってもワルプルギスの夜を消されるのは困るんだろう?」

「だからこそ、彼女たちには戦ってほしいんですケド。そこで見られる絶望こそ、アリナの見たいアートだカラ」

 

 これはウソ。

 別に、戦いの結果なんてどうでもいい。アリナが見たいのは、その絶望にまばゆたちがどう抗うか。

 

 その結果、ワルプルギスの夜に打ち勝とうが、届かずに負けようが関係ない。

 

 命が全力で運命に抗おうとする、その過程が見たいんだ。

 

 

(上手くやってるみたいでよかったヨネ。こっちもキュゥべえに余計なことさせないようにしてるんだから、期待を裏切らないでヨネ)

 

 

 

 

 

 

 

 DAY.31 Side AG

 

 

 

 

 ワルプルギスの夜との決戦前日。

 

 アリナは部室で真っ白なキャンバスに向き合いながら、横で漫画を描いている後輩に声をかける。

 

「ねえ、フールガール」

「うわわっ……。え、アリナ先輩? どうしたの?」

 

 フールガールはアリナに声をかけられたことに驚いたようだった。横で縛っている2つの髪が揺れる。

 まあいつもは、描いているときに話しかけてくるなとか言ってきたから、キャンバスに向き合っていた状態から話しかけられるとは思ってなかったのだろう。

 

 とはいえ、アリナの次の言葉を待っているらしいので、構わず続ける。

 

「たとえばの話だけど、アナタのベストフレンドを助けるためにアナタ自身を犠牲にするって、美しいと思う?」

 

 ワルプルギスの夜との戦いを前にして、昨日思ったのだ。

 

 まばゆの言動のどこにアリナは惹かれたのだろうか、と。

 

 その自己犠牲心に惹かれたわけではない。そんなのに感情を動かされていたら、今頃このアートの数々は生み出せていない。

 しかし、じゃあ理由はなんだ、と問われれば、彼女の献身性しか思いつかなかったのだ。

 

 

 だから、フールガールに聞いてみたかった。

 フールガールはこういうのが好きそうだし、漫画もそういう友情だの、絆だの、チープなものを題材にしてるし、アリナにない視点の意見をくれるかもしれない。

 

「それって自己犠牲ってことなの?」

「まあ、そんなとこだヨネ」

「ついに、ついにアリナ先輩も、心を入れ替えて人助けを……!」

「ウェイト! どうしてそうなるワケ!? これだから、フールガールは……!」

「いひゃい! ほっぺ引っ張らないでほしいの!」

 

 はあ、と何度目かのため息をついて、フールガールの頬から手を離す。

 

「それで? 質問の答えは?」

 

 うう、と涙目になりながらフールガールは答える。

 

「誰かのために何かするって、素晴らしいことだと思うの。私も困ってる人がいたら極力助けたいの。きりんちゃんだって困ってる人は見捨てないの」

 

 きりんちゃん。

 たしか、フールガールの好きな漫画の主人公だっけ。

 

 やっぱり、フールガールのことだから賛成の立場になるのは知ってた。

 これ以上面白い意見は出てこないか、と話を切り上げようとしたとき、フールガールが口を開いた。

 

「でも、自己犠牲はあんまり好きじゃないの……」

「ワッツ? アナタ、さっき素晴らしいって言ってたヨネ?」

「そうだけど……。でも、誰かが犠牲になるのは良い気分がしないの」

 

 フールガールはバッグから一冊の漫画を取り出す。

 

「この『マジカルきりん』の巻。この巻にちょうどそんな話があるの。誰かが犠牲にならなきゃ助からないって状況に陥った三人組が、誰が犠牲になるかって言い合いになっちゃうの。三人とも良い子だから、皆自分が犠牲になること以外許せなくてケンカになっちゃうの」

 

 フールガールは該当のページを開いて、そこまでの経緯を解説する。

 そのページのコマには、自分が犠牲になると3人全員が言い争っているやり取りが描かれていた。

 

「でも、そこできりちゃんが颯爽と助けにきて、三人全員を助けるの! もちろん、全員を助けるのはとても大変だったし、きりちゃん自身すごい危ない目にも遭うの。それでも、きりちゃんが全員助けるって決めたときの台詞がカッコよかったの!」

「……どんな台詞だったワケ?」

「きりちゃんは『誰かを助けたいなら、自分が死ぬことは一番考えちゃダメ』って言ったの。私、すごい感動したの! 自分を犠牲にしたら、助けた人たちの心を苦しめてしまうんだって」

 

 フールガールはキラキラした目で語る。

 

「漫画でも、よく自分を犠牲にしてってシチュエーションあるの。けど、私はあんまり好きじゃなくて。やっぱり皆助かるハッピーエンドがいいの。美しいって話なら、誰かのために死ぬことを覚悟する人より、誰かのために生きようとする人のほうが、私はずっと美しいと思うの」

 

 誰かのために死ぬことより、誰かのために生きるほうが美しい、か。

 

 

 

「……アハッ」

 

 生きる。

 

 そうだ。それが理由だ。

 

 

 

 飼い犬が死んだときも。あの犬は、最後の最後まで生きようとしてた。例え長くない命でも、最後の1秒まで生きようとしてた。

 犬だけじゃない。猫だって、ネズミだって、アリだってそう。

 生き物はどんな状況でも、最後の最後まで生きようとする。目の前の死を避けるため、最後まで抗う。

 

 

 だから命は美しいし、アリナは生と死に惹かれるのだろう。

 きっと魔女だってそうだ。絶望に染まっても、無念と後悔を抱えて生きている。その後悔を抱えたまま、その無念を晴らす可能性を夢見ながら生きているから、惹かれるのかもしれない。

 

 

 

 きっと、アリナはその命の可能性に惹かれてる。

 

 だから、諦めようとしないまばゆに惹かれた。アイツに、潔く諦めるなんて感情は見えなかったから。

 

 

 

(フールガールには感謝だヨネ)

 

 この生意気な後輩は、時折アリナの想像を超えた言葉を紡ぐ。

 それは、アリナに新しい刺激となり、芸術の新たな扉を開いてくれる。

 

 そう思い、たまには感謝を伝えようとしたところで……。

 

「え、アリナ先輩、一人でいきなり笑い出して気持ち悪いの……」

 

 

 

 

 

 ……。

 

 

 

 

「チューズゾゾ」

「あーん! 私のイチゴ牛乳、飲まないでほしいの~!」

 

 

 

 

 

 

 

 DAY.32 Side AG

 

 

 

「それで? アナタたちはもうギブアップするワケ? アナタたちにはまだレジストする体は残ってるヨネ? それでも、諦めるワケ?」

 

 アリナは自分に抱えられている少女、暁美ほむらに問いかける。

 

「そんなわけないでしょう!! でも、もう手立てが……!」

 

 ハァ、とため息をついて、ほむらに言う。

 

「それを諦めてるって言ってるワケ。アナタ、まだ生きてるんだヨネ? なら、どんなに惨めでも汚くなっても、抗うべきだと思うんですケド。ネズミだって、生きている限り最後の1秒まで諦めないんだカラ」

「これでも、抗えば運命は変えられると言うの……?」

「そんなのアリナに聞かれても困るんですケド。でも、今まで生き残ってきた生き物は、皆諦めなかった生き物だとは思うヨネ。それで、どうするの? いい加減アナタを抱えてるのも疲れてきたし、諦めるならここから放り投げるケド」

 

 そう言えば、彼女のアメジストの瞳に光が灯る。

 

「……いいえ。諦めなんてしないわ。こんなところで立ち止まってなんかいられない!」

「アハッ。そうそう、それだヨネ。アリナはそれが見たくてここまで来たワケ。仕方ないから、アリナもちょっとだけ手伝ってあげる」

 

 アリナはキューブからグリーフシードをいくつか取り出すと、ほむらと近くにいた魔法少女に投げ渡す。

 

「グリーフシード? しかも、こんなたくさん……。いいの?」

「話聞いてた? いいって言ってるんですケド。それに、これはアリナの作品たちをブレイクしてまで用意したもの。もしこれでつまんないもの見せたら、アナタのボディで弁償してもらうカラ」

 

 自分の手にあるグリーフシードを、ぐいっとほむらに押しつける。

 

 それを見て、ほむらの顔には希望と闘志が戻る。

 

 

 

(そうそう、その顔が見たかったんだヨネ。命をバーンナップする、その顔を)

 

 

 

 

「待ってくれ、アリナ!」

「ああ?」

 

 横から声をかけられたと思えば、そこにいたのはキュゥべえ。

 

「なに? 何か用があるワケ?」

「用もなにも……。キミはそれでいいのかい!? あんなに魔女を、ワルプルギスの夜をテーマにアートを作りたいと言ってたじゃないか! このままだと、ワルプルギスの夜は打倒されてしまうかもしれないんだよ!?」

「うるさい」

 

 キュゥべえの言葉を、その一言で一蹴する。

 

「ああ、キュゥべえに言ってなかったけど、描くテーマを変えたんだヨネ。だから、もうワルプルギスの夜そのものにそこまで執着はないワケ。むしろ、ほむらたちがこのまま絶望に抗う、その様をテーマにしたいんだヨネ」

「だが……!」

「そもそも、この前アリナが調整屋で普通に調整できてる時点に気づかなかったワケ?」

「……!」

 

 一週間ほど前、アリナはキュゥべえの提案で調整を受けていた。

 ワルプルギスの夜との戦闘になった時、自分も戦えるようになっているのは賛成だったから、アリナは大人しくキュゥべえに従った。

 キュゥべえとしては、ここでアリナたちが潰し合うための強化だと考えていたみたいだけど。

 

「調整屋は夕凪凜と親しかったんだヨネ? もしアリナがそれを邪魔しようと思ってるなら、何もせずに調整して終わりとかおかしいヨネ」

「なぜだ……!? キミはあんなにも、魔女が求めていた芸術だと……」

 

 キュゥべえは本気で混乱しているように問いかけてくる。

 

 全く、これだから感情を理解できないヤツは……。

 

「それこそ、アナタには一生理解できないものが根底にあるからだヨネ。芸術は、感情こそが作り出すもの。人の感情の写しであり、熱いパッション! そのエモーショナルな感情こそ、アリナの求める美! それに従って、アリナはほむらたちの味方をするだけだカラ」

 

 

 キュゥべえはアリナの言葉を聞き、呆然と言った。

 

 

「ワケが分からないよ」

 

 

 

 

「だと思ったワケ」

 

 キュゥべえの顔を踏んづけて、アリナは言い放つ。

 

「あんまり人類をナメるなよ、インキュベーター」

 

 その言葉と同時に、アリナはキュゥべえの頭蓋を踏み砕いた。

 

 

 

 

 

 

「ふぅ。これで無粋なヤツも消えたことだし……」

 

 

 アリナはワルプルギスの夜を見据え、両手を広げ、高らかに叫んだ。

 

 

 

「さ、レッツパーティー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 DAY.32

 

 

 

 

 ワケが分からないよ!!!

 

 

 アリナパイセン、どうしてここにいるんですか!!(クソデカ声)

 

 

 本当になぜ……?

 

 

 しかも、なんか味方になってくれるっぽいし……。どういうことだってばよ。

 

 

 

 ま、まあ、とにかくこれで一応状況は少し改善しましたね。このままだと負け確でしたが、グリーフシードも何個か貰えましたし、これで少しの間は保つでしょう。

 

 

 けど、倒せないことに変わりはないし、どうすればいいんですか?(諦念)

 

 

 

 うーん、最悪ユリちゃんには自爆してもらうしかないですね、クォレハァ……。

 それをするにしても体力をもっと削らないと倒せませんが……。

 

 

 

 あとは、先ほどのやちよさんの一撃をもう一回ブッパするかですね。現状出せる火力は、あれが最高なので。

 けど、もう一回撃つまでの時間が稼げないんだよなぁ。

 

 第一形態まではユリちゃん一人でなんとかなるんですけど、第二形態に移行しちゃうと『限界突破』使っても、大ダウンを取れないんですよね。

 

 え? プレイスキルをもっと磨け?

 

 

 

 ……うるさいんじゃい!(逆ギレ)

 

 

 

 というか、ちょっと待って。

 

 ワルプルギスの夜の体力、さっきの一撃当てても4割くらい残ってるやん!

 これ、残り体力6割で必殺技撃って、それで今4割ってことは……。つまり、あの攻撃もう一度当ててもまだ倒しきれないってことやん! どうしてくれんの、これ?

 

 

 はぁーーー……。 

 

 あ ほ く さ。

 

 

 

 これは負けましたね。風呂入ってきます。(開き直り)

 

 

 

 しゃーなし。ほむらちゃんたちが盛り上がっているところ悪いですが、勝ちの目が全く見えないのでもう1周確定ですね。

 あーめんどくせ……。

 

 

 

 

 

 

 ん? またロード?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 DAY.32 Side MA

 

 

 

 

 アリナさんの参戦と補給によって、なんとか持ち直した私たち。

 

 

 

 しかし、状況は相変わらず劣勢……、というより防戦一方でした。

 

 

 理由は至極単純。

 ワルプルギスの夜が怒り狂っていたからです。

 

 恐らくワルプルギスの夜にとっても、これほど生存を脅かされたのは初めてなのでしょう。

 私たちを排除するべき敵として、 明確に狙ってきました。

 

 

 今まで私たちが優位に立てていたのは、ワルプルギスの夜が本気で攻撃してきていなかっただけだと、改めて思い知らされました。

 

 

 

 

「うわぁっ!」

「凜さん!!」

 

 私の横に、前線を張っていた凜さんが飛ばされてきます。

 

「凜さん! 大丈夫ですか!? しっかり!」

「イテテ……。な、なんとか大丈夫……」

 

 私の声にフラフラと手を振りながら答える凜さん。

 

「はぁー、よかった……」

「状況は大分ヤバいけどね……」

 

 ゆっくりと立ち上がりながら、凜さんはワルプルギスの夜を見つめます。

 

 

 

 今も、七海さんと時女さんが先頭に立ってワルプルギスの夜と戦っています。

 しかし、あの二人が揃っても膠着状態にするのがやっと。全員の総力を動員しても、この拮抗状態は薄氷の上に成り立っていました。

 

 そのせいで、私たちは決定打どころかダメージを与えることすらままならなくなっていました。

 

(このままじゃ、先にこっちの魔力が尽きちゃう……! さっきの一撃をもう一回放てればまだあるかもだけど……)

 

 この状況で七海さんが前線を離れれば、戦線はすぐに瓦解するでしょう。

 とはいえ、あれだけの火力を出せるのも七海さんだけ。

 

 

 

 私は必死に新しい作戦を考えますが、頭は取り留めない思考が高速回転するだけ。焦れば焦るほど思考力が鈍っていき、先に進みません。

 

 

「仕方ない……」

 

 私が頭を抱えていると、凜さんはそう言って立ち上がりました。

 

「凜さん……?」

「もう一度私がワルプルギスの夜の注意を引く。その隙にやちよ先輩にもう一発撃ってもらおう」

 

 凜さんはソウルジェムを構えながらそう言いました。

 

 

 

 魔力を集め、あの戦闘特化形態になろうとしたところで……、私は彼女の腕を掴んで止めました。

 

「待ってください! さすがの凜さんでも、それは危険すぎます!」

「でも、現状じゃやちよ先輩の一撃しか可能性がない。それを撃つには、誰か注意を引かないと!」

「無理ですよ! さっきの戦闘でワルプルギスの夜も学習したでしょう! 今度は本気で潰しにきますよ!」

「っ……!」

 

 凜さんは苦虫を潰したような顔をしたまま、黙ってしまいました。

 

 それでも、即座に自分が犠牲になれば大丈夫とか切り返されなかっただけマシかもしれませんが。

 

 

 

「おーーい! 大丈夫かー!!」

「りーーーん!!」

 

 そうこうしていると、私たちに駆け寄る影が2つ。

 

 駆け寄ってきたのは、十咎ももこさんと鶴乃さんでした。

 

「あ、ももこ先輩! 鶴乃先輩!」

「凜、無事だった!?」

「ええ、なんとか」

「そっか。派手に飛ばされてたから心配したぞ」

「えへへ、すみません」

「まあ無事ならヨシ! それと、まばゆちゃんだっけ? キミも無事で良かったよ」

「あ、えと、あ、ありがとうございます……」

 

 十咎さんに話しかけられるものの、相変わらずのコミュ障を発揮しながら、私はそう返します。

 幸い十咎さんは気にしていないようで、すぐに話を切り替えました。

 

「2人とも動けるなら、ちょっと相談だ。ワルプルギスのヤツ、本気を出したみたいで動きが明らかに変わった。やちよさんたちが耐えてるけど、正直いつまで持つか分からない。なんとか、もう一撃与えたいんだけど……」

「私も同じこと考えてました。ワルプルギスの夜も追い詰められているはず。そうじゃなきゃ、あんなに抵抗しません」

「だよな。となると、あとはあの一撃を生み出す隙をどうやって作り出すか、か……」

 

 私を含め、全員が唸る。

 あの一撃を撃つには、人手も時間も足りません。

 

「あの技、予備とかあったならよかったんだけどな……」

 

 十咎さんがポツリと呟きました。

 

 すると、その言葉を聞いた鶴乃さんが手をポンと叩きました。

 

「ほっ……! そっか……。さっきの一撃を再現すればいいんだ……」

「え? どういうことです? 鶴乃先輩」

「つまり、凜の魔法であれをもう一度形にするってことだよ!」

 

 鶴乃さんの言葉に、凜さんはハッとします。

 

「そっか! 私の魔法はソウルジェムに干渉して魔力の回復も行える。ということは、やちよ先輩のソウルジェムの魔力を巻き戻せば、あの一撃の再現だって……!」

 

 すると、十咎さんは心配そうに尋ねます。

 

「たしかに良い案だけど……。それ、凜の負担は大丈夫か? あれだけの魔力の再現なんて、尋常じゃない力を使うはずじゃ……」

「ええ、その通りです。今までの私なら絶対に無理でした。けど、今はこれがある!」

 

 そう言って、凜さんは先ほどワルプルギスの夜を食い止めた、あの姿へと変身します。

 

「これなら、今まで以上に魔法の効力が及びます。だから、あれの再現だって出来ますよ」

「あ、でも、制限時間は……」

 

 私の心配に、凜さんは軽く答えます。

 

「大丈夫! あれはあくまで戦闘で使用する場合の時間。動かずに魔力の巻き戻しをするなら、もっと長い時間なっていられるはず。ただ、その分魔力は使うけど……」

 

 そこで凜さんは思い出したように、少し俯きました。

 

「それと、この作戦は私とやちよ先輩が戦線から完全に抜けることになる。だから、ワルプルギスの夜を食い止めるのがかなり厳しくなると思うけど……」

 

 凜さんがそこまで言ったところで、十咎さんが彼女の背中を軽く叩きました。

 

「そこは心配しなくていいよ。アタシたちで絶対に持ちこたえてみせるから!」

「ももこ先輩……」

 

 そうだよ!と、鶴乃さんも続きます。

 

「私たちもいい加減やちよに甘えてるばっかりじゃないとこ見せないとね。それに、凜の先輩として少しくらいカッコいいとこ見せたいし!」

 

 自信満々に笑う2人を見て、私も勇気を振り絞って言います。

 

「そ、そうです! お二人には近づけさせません!」

 

 私たちの言葉を聞き、凜さんは静かに頷きます。

 

「……うん。じゃあ、お願い!」

 

 

 

 

 

 

「話は纏まったワケ?」

 

 すると、唐突に頭上から声がする。

 

「うわぁっ、アリナさん!」

 

 上から降ってきたアリナさんは、私たちの前に軽やかに着地すると、手のひらに1つのキューブを生み出す。

 

「それなら、これ使ってヨネ」

 

 手のひらに生み出されたキューブは空へと昇っていき、そのキューブを中心に、半径3メートルくらいに結界が生み出される。

 

「この結界なら多少の攻撃は防げるだろうから……、ま、多少の時間稼ぎにはなるヨネ」

「アリナさん……! ありがとう!」

 

 凜さんは嬉しそうにアリナさんの手を握る。

 

 それに対し、アリナさんのほうは別になんとも思っていないようで平然と言葉を返した。

 

「別に感謝とかいらないんですケド。これを使ってアナタが、あの絶望にどう抗うか見せてくれればそれでいいカラ」

 

 それじゃ、と言って、アリナさんは再びワルプルギスの夜へと向かっていく。

 

 

 凜さんはアリナさんと繋いだ手を軽く握ると、覚悟を決めたように言いました。

 

 

「よし……! それじゃあ、やろう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 DAY.32

 

 

 

 

 

 はえー……、すっごい……。

 

 

 

 こんなイベントが発生するんすね……。知らなかったゾ。

 

 いわゆる救済イベントってヤツですかね。

 なにはともあれ、とりあえず首の皮一枚繋がったゾ。奇跡は諦めない人のところにやってくるって、それ一番言われてるから。(手のひら返し)

 

 

 

 さて、ユリちゃんの魔法でやちよさんの究極必殺技は再現することになりました。

 やちよさんと合流中なので、合流したら再現開始ですね。

 

 いやー、限界突破のスキル取ってて良かったゾ。これ無かったら再現も出来なかったですもん。

 ま、ここまで見越してたんですけどね。(震え声)

 

 

 

 

 ここからはユリちゃんがやちよさんの究極必殺技を再現するまでの耐久となりますが……。

 

 皆さん、覚えているでしょうか。ユリちゃんの魔法の制約を。

 

 

 

 そう。ユリちゃんの巻き戻し魔法は全て確定成功ではありません。

 まばゆちゃんの記憶を戻した時が良い例で、難しいものを再現しようとするとプレイヤーの腕が試されます。

 

 

 勘の良い視聴者兄貴たちならもう気づいたでしょう。

 

 ここからは……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リズムゲーの時間じゃーーーー!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 DAY.32 Side RY

 

 

 

 

「待たせたわね、凜」

「やちよ先輩!」

 

 

 アリナさんの張ってくれた結界で待っていると、瓦礫を足場にしてやちよ先輩が風のようにやって来る。

 

「前線は?」

「ももこに代わってもらったわ。あの子の魔法のおかげで、他の皆も頑張れてる」

「よかった……!」

「それと、余裕ある子からグリーフシードを譲ってもらったわ。3つしかないけど、足りるかしら?」

「何とかしますよ!」

 

 私はやちよ先輩を安心させるために力強く頷く。

 

 実際足りるかは分からない。

 あれほどの魔力を巻き戻しで再現できるかは試したことがないからだ。

 

 それに魔力の巻き戻しは、かなり魔力を消費する。この形態でどれだけ魔力を使うかは全くの未知数だった。

 

 

 

 それでもやるしかない。

 

 皆、信じて託してくれたのだから。

 

 

「あ、あの! お二人のことは、ぜ、絶対守りますから!」

 

 私が覚悟を改めて決めていると、横からさなちゃんに声をかけられる。

 

 さなちゃんには、私たちの護衛を任せている。魔力の巻き戻しにはかなり集中力を使う。そこを狙われたら回避なんて当然無理だ。アリナさんの結界があるとはいえ、ワルプルギスの夜の力は強大だ。

 そこで、さなちゃんが護衛を買って出てくれたのだ。

 

「ありがとう、さなちゃん。怪我のほうは大丈夫?」

「はい……! すなおさんが治してくれましたから、もう大丈夫です……!」

「じゃあ頼むわよ、二葉さん」

「はい……!」

 

 さなちゃんは私たちを背にして、大盾を構える。

 

「それじゃあ凜、頼むわよ!」

「任せてください!」

 

 

 差し出されたやちよ先輩のソウルジェムに手をかざし、私は巻き戻しの魔法を使用した。

 

 

 

 

 

 

 DAY.32

 

 

 

 というわけで、始まりました地獄のリズムゲー!

 

 

 前回同様に流れてくる音楽に合わせてボタンを押していき、巻き戻しを完成させていくものになります。

 

 ただ前回と違うのは、究極必殺技を再現する際は失敗しても初めからにはなりません。必要ポイントに届くまで何曲でもやります。つまり、1曲で目標ポイントを達成しなくてもいいということです。

 

 あれ?前回より簡単じゃね?と思った兄貴たち。そんな甘いわけありません。

 最初からやり直しが利かないということは、どれだけ失敗しても続けていくしかありません。

 

 それに制限時間も存在します。ももこちゃんが言っていたように、現在ワルプルギスの夜を他の魔法少女が全力で食い止めている状況です。そのため、食い止めていた魔法少女が全員ダウンすると、そこでタイムアップ。それまでに完成していなければゲームオーバー、つまり時間遡行が起こってしまいます。

 

 つまり、この特殊イベントに突入した時点で、泣いても笑ってもこれがラストチャンスです。

 

 

 ……ふざけんなよ、お前よぉ!

 責任重大スギィ!

 

 

 ちなみに音ゲーとしての難易度も超激ムズとなっております。限界突破と魔法の使用速度カンスト補正を加えても、某ドラッグなドラグーンの新宿阿波踊りみたいな難易度しています。

 指と集中力壊れる^~。

 こんなんじゃ商品になんないよ。クリアさせる気あるんか……?(疑念の目)

 

 

 しかも、これ100%で当てられたとしても、まだ相手の体力1割くらい残りそうってマジ? 超えなきゃいけない関門が多すぎるでしょ……。

 このゲーム頭おかしい……。(直球)

 

 まあ残り体力は、最悪ユリちゃんを自爆させて削ればいいか……。(外道)

 

 

 

 

 ということで、今回のイベント戦の説明文も消えたので、さっそく始めていきましょう。

 

 今回の音楽は最終決戦ということで、まどか☆マギカを彩った沢山の楽曲たちのメドレーとなります。これを目標ポイントに到達するまで永遠と繰り返すわけですね。

 私は何度でも繰り返す……。(ファサァ……)

 

 

 

 それでは、スタート!

 

 

 

 

 

 

 

 DAY.32 Side MA

 

 

 

 風と炎が吹き荒れる中、私たちは瓦礫の街を駆けます。

 

 

 何としても、凜さんたちが一撃を完成させる時間を稼ぐために。

 

 

 

「うおおおおおお!!!」

「ちゃらああああああ!!!」

 

 

 フェリシアさんと鶴乃さんが同時に攻撃を仕掛けます。

 

 しかしそれを、ワルプルギスの夜はあの巨体からは考えられない高速移動で回避。

 2人の後ろに回り込み、炎を吐きました。

 

 

「「させない!!」」

 

 それを防いだのは、暁美さんと時女さん。

 

 その隙を狙って、佐倉さんと十咎さんが挟み込んで攻撃をしました。

 

「くっ……!」

「硬った……!?」

 

 しかし、その刃もワルプルギスの夜には深く刺さりません。

 自身の結界をバリアのように纏ったワルプルギスの夜には、こちらのダメージが通りづらくなっていました。

 

 お返しとばかりに風を起こし、2人を吹き飛ばすワルプルギスの夜。

 

 

 巴さんと旭さんが弾幕を張るも、吹き荒れる暴風によってその弾道は逸らされていました。

 

 同じくその風によって、ワルプルギスの夜を拘束しようとした広江さんの十手も、目標に届く前に明後日の方向へと飛ばされてしまいます。

 

 

 ワルプルギスの夜はその風を使って、瓦礫を浮かび上がらせます。

 瓦礫たちはワルプルギスの夜の周りを輪のようにして漂うと、ミキサーよろしく高速回転を始め、その輪を私たちの方へと広げてきました。

 

「マズい! 皆、回避して!!」

 

 時女さんの叫びで、全員が回避行動に移ります。

 

 

 しかし、逃がさないとばかりに瓦礫たちの輪は上下に分かれ、上へ逃げた者と下へ逃げた者をそれぞれ追撃してきます。

 

 

「うわっ! ちょ、ま、や、ヤバい!」

 

 私はハサミで飛んでくる瓦礫を砕き、逸らして、なんとか対処します。

 しかし数が多いうえに、1つ1つが砲弾のように飛んでくる瓦礫に、私の防御は追いつかなくなっていきます。

 

 

「ひぃぃぃぃ!! し、死ぬ! 死ぬ死ぬ死ぬ!!」

 

 私は防御を諦め、逃げに徹することにしました。

 意志を持ったかのように追ってくる瓦礫を避け、足が回る限界の速度で走ります。

 

 

 そんな状況を破ったのは、アリナさんの攻撃だった。

 

「チッ! 手間のかかる……!」

 

 アリナさんのそう言いつつ、手からいくつものキューブを発射。

 

 結界の壁を瓦礫の進む先にいくつも設置。

 瓦礫たちはそれにぶつかり、地面へと落ちていく。

 

 アリナさんの設置した罠で瓦礫たちは全て撃墜された。

 

「た、助かりまし…、アイタッ!?」

 

 感謝を言おうとした瞬間、アリナさんに頭をチョップされます。

 

「アナタ、意気込んで前線張るのは勝手だけど、その調子じゃすぐ犬死にするだけなんですケド。命を散らす場面を見たいとは言ったけど、そんな呆気なく死なれたら芸術にもならないワケ。せめて、もうちょっとエモーショナルな感じで死んでくれない? アナタだって、アリナの大切な芸術の一部なんだカラ」

「は、はい、すみません……?」

 

 心配されてるんだか、道具として見られてるんだかよく分からない説教をされます。

 

「アナタは大人しく夕凪凜の護衛に回ったほうがいいと思うんですケド。使い魔追い払うくらいはできるヨネ?」

「すみません……。お願いします……」

 

 悔しいですが、今の私ではアリナさんの言うとおり犬死にするだけでしょう。

 

 それなら、凜さんの近くで彼女を守り、少しでも作戦の成功確率を上げるしかありません。

 

 私は踵を返し、凜さんたちの元へと走りました。

 

 

 

 

 

 

「ハァ、ハァ、ハァ……!」

 

 

 凜さんたちの元へと戻ると、使い魔たちが結界を破壊しようと攻撃を仕掛けていました。

 それを止めようとする二葉さん。

 

 私は後ろから攻撃し、近くにいた使い魔たちを片付けます。

 

「あっ、まばゆさん……!」

「二葉さん! 凜さんたちは!?」 

「だ、大丈夫です……! 邪魔はさせてません……! でも……」

 

 二葉さんは言い淀んで、結界の中の凜さんたちを見る。

 それに倣って私も彼女たちを見れば、凜さんが七海さんのソウルジェムに手をかざし、今まさに魔力を巻き戻しているところでした。

 

 

 しかし……。

 

「ハァ、ハァ……。くそっ……!」

 

 凜さんの顔は厳しく、それに合わせたように彼女の手をかざした先、ソウルジェムから生み出されている魔力の塊のようなものは不安定にフヨフヨと漂っていました。

 

「凜さん……」

 

 彼女の邪魔をしないようにそっと声をかけると、凜さんは目線だけこっちに向けます。

 

「まばゆ……。前線は大丈夫?」

「ええ。私は戦力外ってことで、こっちを守ることになって……。凜さんのほうは?」

「ちょっと予想よりヤバいかも。ただでさえ膨大な魔力量なのに、色んな人の魔力の波長があるから、巻き戻しが全然進まない……!」

「そ、そんな……!」

 

 その言葉を裏付けるように、巻き戻しを行っていると思われる魔力の塊は、先ほどから姿を変えず不定形のままでした。

 

「私も全員の魔力パターンは把握してない。再現するための形が分からないから、思ったように進まないの……! せめて核となるやちよ先輩分の魔力だけでも再現したかったんだけど、それにもかなえ先輩、メル、みふゆ先輩の魔力を使ってたから、上手く再現できなくて……!」

 

 凜さんの頬を汗が伝う。その目は真剣を通り越して、瞳孔が良くない開き方をしているように見えて……。

 

「あんなに一緒にいたのに……! メルの分すら上手く出来ない……! なんで、なんで、なんで……!」

「凜さん、落ち着いて!」

「凜、焦っちゃダメ! ゆっくりでいいから」

 

 呼吸が荒くなる凜さん。私と七海さんの声も聞こえていないかもしれません。

 凜さんは想像してしまったのでしょう。私たちの足止めに間に合わせられないことを。それまでに完成しなかった結果が、どうなるかも。

 

「大丈夫です、私たちがいます! 凜さんたちには指一本も……」

「まばゆさん!」

 

 私が励まそうとしたところで、二葉さんの声がそれを遮ります。

 

 私が周りに目を向ければ、再び使い魔たちが結界に迫っていました。

 

 

 しかも、先ほどより数を増やし、結界をグルリと取り囲むように。

 

 

「くっ……! 近づかせないって、言ったでしょう!」

 

 私はハサミを手に、結界を飛び出す。

 

 

 そして、飛びかかってくる使い魔たちを次々と切り裂きます。

 

 

 二葉さんと背中合わせで、お互いに死角を突かれないようにしながら、結界を壊そうとする使い魔たちを片付けていきます。

 

 それでも私たちの攻撃をすり抜けて、結界へ攻撃する使い魔たちを出てきてしまい、ついには結界にヒビが入ります。

 

「させるかぁ!」

 

 私は結界を攻撃している使い魔たちをハサミで貫いていきます。

 

 

 

 

 すると、使い魔の中でも一際大きい、ゾウのような使い魔が咆哮を上げながら、こちらへ突進してきました。

 

 避けるだけなら簡単。ですが、私の後ろには凜さんたちがいます。

 

 

 

 私は覚悟を決めて武器を構えた時、二葉さんが私の前に出て、私に手を伸ばしました。

 

「まばゆさん……! コネクトを……!」

「っ! はい!」

 

 私は二葉さんの手を掴み、魔力を同調させます。

 発動したコネクトで、二葉さんは巨大な盾を生成し、ゾウの使い魔の突進を真正面から受け止めます。

 

「くぅぅ!!」

 

 それでも勢いは殺しきれず、二葉さんは後ろへとはね飛ばされてしまいました。

 

「二葉さん!!」

 

 突進を止められたゾウの使い魔は、再度突進を開始。

 

 私は生み出した複数のハサミを投げつけますが、使い魔は止まりません。

 

 

(マズい、あの突進を食らったら今度こそ結界が割れる! そうなったら……!)

 

 

 

 しかし、私にあの使い魔を止めるだけの攻撃はできません。

 

 

 

 

 

 

 そして、使い魔の突進が結界に当たりそうになった瞬間……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どこからか飛んできたブーメランが、使い魔の首をはね飛ばしました。

 

 

 

「えっ……」

 

 

 

 使い魔の首を刎ねたブーメランはきれいなU字を描いて、戻っていきます。

 

 

 その軌跡を目で追うと、ブーメランを投げた人物と目が合いました。

 

 

 

 彼女は空中でブーメランを回収すると、そのまま私たちの前に着地。

 

 赤い髪を三つ編みに編んだ、どこかの民族衣装のような服装を纏ったその少女は、その姿と魔力の反応から一目で魔法少女だと分かりました。

 

 

 

 その少女に続くように、2人の魔法少女も彼女の後ろに着地します。

 

 ハープを持った金髪の少女と、ヨーヨーを持った青髪の少女。

 

「あ、あなたたちは……」

 

 自然と零れた私の問いに、赤髪の少女は3人を代表するように答えました。

 

 

 

 

 

「私たちは午前0時のフォークロア。友達と、魔法少女の希望を守るため、あなたたちを助けに来た」

 

 

 

 

 

 

 




アリナ先輩は倫理観がぶっ飛んでるだけで、かりんちゃんへの対応とか割と善性は強い方だと思ってます。
あと、勉強はしないけど、芸術に必要だからと色んな知識は持ってそう。(妄想)


次回、最終回です。

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