魔法少女まどか☆マギカ 実績『朝焼けのエンドロール』獲得 作:くろしゅー
(最終回なので)初投稿です。
DAY.32 Side MA
「私たちは午前0時のフォークロア。友達と、魔法少女の希望を守るために、あなたたちを助けに来た」
ワルプルギスの夜に苦戦する私たちの前に現れた少女たちは、そう名乗りました。
「私は氷室ラビ。午前0字のフォークロアのリーダーをやっている」
続けて、赤毛の少女は自身の名を名乗りました。
氷室さんに続くように、ハープを持った少女と青髪のヨーヨーを持った少女も名乗ります。
「私は栗栖アレクサンドラです。気軽にサーシャって呼んでくださいね。うふふ♪」
「ウチは
おっとりとした雰囲気の栗栖さんと、元気なイメージの有愛さん。静かな雰囲気の氷室さんも合わせて、全然性格の違いそうな人たちでしたが、3人の仲は良さそうでした。
悪い人たちにも見えません。
とはいえ……。
「えっと、フォークロア?の皆さんはどうしてここに……?」
「さっき言った通り。友達と魔法少女の希望のために」
「ええ……?」
氷室さんは先ほどの言葉を繰り返します。
どうやら氷室さんは口数が少ない方なようで、コミュ障の私では言いたいことの要領を掴めませんでした。
「もう、ラビちゃん。それじゃ伝わりませんよ。ごめんなさい、友達というのは……」
栗栖さんがそこまで言ったとき、後ろでザッと瓦礫と砂利を踏む音がしました。
「ラビ……?」
私が振り返れば、そこにいたのは旭さん。
「あっ! 旭さん、久しぶりなんよ!」
その旭さんを見て、嬉しそうに手を振る有愛さん。
「え、え? ど、どういうこと?」
いきなり現れた魔法少女の集団と親しそうな間柄の旭さん。
いよいよ私の頭はついていけなくなり、私は思考を放棄しました。
「ラビ、なぜここに……」
ただ1つ分かったのは、氷室さんたちがここにいることは旭さんにとっても想定外であろうこと。彼女の氷室さんたちを見たときの顔は、全く想定していなかった事態を目にした顔でした。
旭さんの問いに、氷室さんは静かに答えます。
「単純な理由。私たちも、まだ希望を諦めたくなくなった」
「ラビ……」
「教授にも許可はもらった。『キミたちのしたいようにするといい』だって」
「ラビちゃんも素直じゃないんですから。旭ちゃんをチームから外してから、ずっとソワソワしてて……」
「ホントなんよ。あんなこと言っておいて、ラビさんが一番心配してたのん」
「別に、ソワソワはしてない……」
「……ありがとうであります、皆。今回ばかりは、来てくれるとは思っていなかったでありますよ。我は思っていた以上に良い仲間に恵まれていたでありますな」
私たちに見せるものとはまた違う笑顔を見せる旭さんに、私は彼女たちの言っていたことは本当なんだと実感できました。
皆さんにからかわれる氷室さんは、逃げるように話題を変えました。
「……それで、私たちは何をすればいい? あなたたちの動きからして、策はあるんでしょう?」
「あ、ああ、はい……。けど……」
私はチラリと凜さんを見ます。
凜さんは私たちの会話を聞きながらも、今も魔力の再現をしようとしていました。
私が言い淀んだのを見て、氷室さんは声を少し柔らかくして言いました。
「大丈夫。足りないところは私たちが埋める。そのために来たから」
氷室さんの静かで、安心できる声に私は考えている作戦を伝えることにしました。
作戦を聞き終えた氷室さんは頷くと、少し安心したように言いました。
「よかった。その作戦なら、私たちはきっと力になれる」
「え?」
「サーシャ。まずは夕凪さんを落ち着かせてあげて」
「はい、お任せください」
氷室さんの言葉に返事をした栗栖さんは、持っていたハープを奏でます。
(この音……。なんだろう、すごい落ち着く……)
栗栖さんの奏でる音は、私の胸に巣くっていた焦燥の炎を鎮めるような優しい音色でした。
その音を聞いた凜さんの表情からも、焦りや不安といったものが薄れていきます。
「……ご静聴、ありがとうございます。落ち着きましたか?」
「うん、ありがとう。栗栖さん」
「サーシャ、でいいですよ」
「ありがとう、サーシャさん」
「はい♪」
冷静さを取り戻した凜さんは、そうお礼を言います。
凜さんが落ち着いたことを確認した氷室さんは、凜さんに近づきます。
「落ち着いたなら、聞いてほしい。あなたたちの作戦、私たちにも協力させてほしい。私の魔法なら、きっと役に立つ」
「ラビさんの魔法は?」
「『概念強化』。それが私の魔法。この魔法なら、魔法少女の固有魔法の概念を強化して、より強力な魔法にすることができる」
氷室さんの語る彼女の魔法は、まさに今の私たちに必要な魔法でした。
(その魔法で凜さんの魔法を強化できれば、魔力の再現も絶対できる!)
そう思い、私は口を開きました。
「それなら、その魔法で凜さんの魔法を強化して……!」
「待って」
「えっ」
私の発言を遮ったのは、他ならぬ凜さん自身でした。
「その魔法って、複数人にかけられる?」
「いや、基本的に1人が限界」
「それなら、その魔法を使うのは私じゃなくて、巴さんにしてほしい」
「と、巴さんに?」
私は凜さんの意図が掴めず、思わず聞き返してしまいます。
そんな私の問いに、凜さんは答えます。
「うん。巴さんの魔法はリボンで繋ぐ魔法。これを強化できれば、もう一度できるはず」
「なにを、ですか?」
「コネクトだよ」
凜さんは自信ありげに答えます。
「巴さんの魔法の本質は繋ぐ力。命を繋ぎ止めた願いからしても間違いないと思う。そして、コネクトも魔法少女同士が魔力を合わせて身体の一部分を繋げて起こす技。今まではリボンじゃ魔力を譲渡できなかったけど、強化した魔法ならきっと魔法少女同士を繋ぐハブの役割を果たせるはず」
凜さんの説明で合点がいったのか、氷室さんは大きく頷く。
「なるほど。たしかにそれなら、ここに全員集まらなくても、リボンで繋がった状態を維持できればコネクトできる。リボンの長さに限界は?」
「多分無いに等しい。一回すごい範囲にリボンで罠を張ってたから」
「分かった。それなら悪くない案だと思う」
「ホント? それならこれでいこう。私はコネクトで繋いだ魔力を乗せる核を作るよ。やちよ先輩の作り出した魔力だけは、私じゃないと用意できないから」
作戦がおおよそ決まり、全員が動きだします。
「それじゃあ、ウチらは皆に呼びかけてくるんよ! まばゆさん、一緒に来てほしいんよ!」
「え、わ、私?」
まさかの私の指名に驚きますが、有愛さんは当然のように言います。
「いきなり来たウチらじゃ信用してもらえないのん」
「……たしかに」
うん、もっともな理由ですね。
「夕凪さんたちは私が守りますね。これでも結構戦えるんですよ、うふふ♪」
「それなら、我もここに少し残るであります」
旭さんの言葉に、凜さんは首をかしげます。
「旭さん? どうして……」
「夕凪殿の手伝いであります。我の魔法で七海殿たちの仲間を呼ぶでありますよ。そうすれば、少しは魔力の波長も思い出すはずであります。もちろん、夕凪殿が良ければ。でありますが……」
「いいんですか?」
「ええ。今は、全員でワルプルギスの夜を越えることが最重要であります。それに、仲間が我のために立ち上がってくれたのでありますから。それには応えたいのであります」
旭さんの覚悟が伝わったのでしょう。
「分かった。ありがとう」
凜さんは一言、そう呟きました。
DAY.32 Side RY
「それじゃあ、私たちはこのことを全員に伝えてきます!」
「まばゆ、気をつけてね」
「はい!」
私の言葉に笑顔で頷いたまばゆは、うららちゃんと駆けていく。
「じゃあ旭さん、お願い」
「了解であります」
旭さんは頷くと、ソウルジェムを掲げる。
すると、ソウルジェムから光が溢れ、辺り一帯を包んだ。
「……っ」
眩しさに、目を細める。
そうして光が収まり、目を開ければ、そこには懐かしい顔があった。
「メ、ル……」
「久しぶりです、凜」
久しぶりに聞くその声は、記憶の中と変わらない、聞きたくないほど私の焦がれた声だった。
「メル、だよね……!」
「そうですよ。忘れちゃったですか?」
「そんなわけない! 会いたかった……! ずっと、会いたかったよ……!」
私の言葉に、メルは少し哀しそうにする。
「それは、本当にゴメンです……。凜ならボクの死も乗り越えてくれると思ったんですが……。ちょっとボクへの想いを軽く考えすぎましたかね」
「本当だよ……! 私、あなたがいなくなって、どれだけ……! ずっと、ずっと寂しかった……! 心に空いた穴がずっと埋まらなくて、虚しかった!」
あの時、どれだけ悲しかったか伝わるだろうか。
メルがいなくなった日常は、どうしても満たされなかった。ずっと寂しくて、虚しかった。
すると、メルは少しだけ怒ったように言った。
「でも、ボクだって凜の行動に言いたいことはあるですよ。あんな無茶ばかりして、痛々しくて見てられなかったです!」
「うっ……! それだって、メルのせいじゃん……」
「そ、それを言われちゃうと……」
お互いに黙ってしまい、自然と同時に吹き出す。
「もう、怒ってたんじゃないんですか?」
「そっちこそ。怒ったと思ったら、レスバに一瞬で負けるから……」
笑いながら、メルは安心したような顔をします。
「でも、よかった。凜にも、たくさんの友達ができたみたいで」
「うん。メルが占ってくれた未来のおかげでね」
「へへっ……。それなら、占い師冥利に尽きるです」
すると、メルは私の手に自分の手を重ねる。
もちろん触れることはないけれど、温もりはたしかにそこにあった。
「それじゃあ、ボクが呼ばれた役目を果たすとするですよ」
メルが私に寄り添うと、今まで不安定だった魔力の塊が少しずつ安定してきた。
「七海先輩に託した魔力の再現、ボクも手伝うですよ」
すると、メルの手の上に別の手が二つ重なる。
その手の人物に、やちよ先輩が先に反応した。
「みふゆ、かなえ……」
「はい。お久しぶりですね、やっちゃん」
「うん、久しぶり。やちよ」
私が横を見れば、そこにはみふゆ先輩と、金髪で目つきの鋭い少女が立っていた。
きっと、この人が……。
「かなえ、先輩……?」
「ん、初めまして、だね。そう、私が雪野かなえ」
やちよ先輩から話だけは聞いていた、最初のみかづき荘の仲間だった人。
「やちよが色々迷惑かけた。同じチームメンバーだった者として、謝らせてほしい」
「……いいんです。こうやって、また一緒に戦えたから。それより、私はあなたに会えて嬉しいですよ」
「嬉しい……?」
「はい。やちよ先輩から話を聞いた時から、どんな素敵な人なんだろうと思ってました。そしたら、やっぱり素敵な人だったから……」
「……そう」
かなえ先輩は、少し不機嫌そうな顔をする。怒らせてしまっただろうか。
すると、みふゆ先輩が口を開く。
「安心していいですよ。かなえさん、褒められ慣れてないから、どう反応していいか分からないだけです」
「ちょ、みふゆ……」
「そうね。かなえはそういうところあったわね」
「やちよまで……」
「でも、嬉しいんでしょう?」
やちよ先輩の言葉に、かなえ先輩は小さく頷く。
「かなえさんも照れ屋さんですね」
みふゆ先輩はかなえ先輩の様子に微笑んだ後、私の方を向く。
「それと、凜さん。今までお礼を言えていませんでしたね。ずっと私に寄り添ってくれていたのに……」
「……そんなこと、ありません。私はあなたの苦しみを分かってあげられず……」
「そんなことありません。あれは、私が拒絶したんです。魔女になること、後輩が死んだこと、その子と親友だった子に気を遣わせてしまっていること。そんな現実と向き合いたくなくて、私は目を逸らし続けたんです。そして、これ以上迷惑をかけたくないと言い訳をして、私は皆さんから逃げたんです」
「みふゆ……」
「ごめんなさい、やっちゃん。いきなりいなくなった上、『後始末』までさせてしまって……」
「本当よ……。本当に、探したんだから……!」
やちよ先輩の声は震えていた。
けど、顔はどこか嬉しそうで。
「でも、どうしてかしらね。あんなに言いたかった文句も、今は言葉にならないのよ……」
「やっちゃん……」
「もう一度、あなたと話せてよかった……。あんな最期、私、嫌だったから……」
やちよ先輩は寂しそうで、それでも前を向いた瞳で笑っていた。
(ああ、やっぱり強い人だな……)
私は改めて思う。この人は、本当に強い人だと。
どれだけ手放したくなくても、前を向いていける人だと。
その寂しさを、また誰かへの優しさに向けられる人だと。
きっと色んな人と環境に恵まれて、ここまで来たんだ。
どんな時でも踏ん張れるから、皆が集まる。どんな時でも進んでいくから、皆も付いていく。
その優しさがあるから、皆が力になろうとする。
(かくいう私だって、その一人ですから……)
きっと物語の主人公というのは、ああいう人を言うのだろう。
きっとこの人なら、運命を変えられる。
すると、顔が戻ったかなえ先輩が口を開く。
「……そろそろいい? あまり私たちにも時間がない」
「そうでしたね。それじゃあ、かなえさん、メルさん。凜さんに、私たちの最後の希望を託しましょう」
「うん」
「はい!」
みふゆ先輩は、私に手を重ねながら言います。
「やっちゃんを通じて、私たちの魔力パターンを伝えます。それを使って魔力の再現をしてください」
「はい!」
私はやちよ先輩の魔力に集中する。
やちよ先輩の魔力を探れば、その中にとても小さいけれど、たしかに別の魔力パターンがあった。
(これだ!)
その魔力パターンを逆算し、私は魔力を練り上げていく。
そうすれば、安定していた魔力の塊が徐々に形へとなっていく。
「おお……!」
「うん、上手くいきはじめましたね」
「よし……」
やっとだ。
これでようやく一段階目。まだ形は作られ始めたばかり。ほむらたちだって、そう長くは時間を稼げないはず。
私は魔力を安定させつつ、魔法を使い続ける。
(残りのグリーフシードは2つ。大丈夫、間に合う……!)
このまま完成させれば、あとは皆のコネクトをすれば……。
そこまで考えて、私はふと思ったことを口にした。
「ねえ、メル」
「はい?」
「この戦いが終わっても、またメルに会える?」
私の問いに、メルは言い淀む。
その仕草で、メルの言いたいことは何となく分かった。けれど、私は直接聞くまで信じたくなくて、彼女に続きを促す。
メルも決心したように、静かに口を開いた。
「……その、ボクはもう、凜とは会えないです。ボクの魂は魔女になっちゃったから。本来なら幽霊としても現れることはできないんです。今回は、たまたま七海先輩のソウルジェムにボクの魔力の残滓が残っていたから、それを依り代に姿を現せました。けど、この技に魔力を使えばもう……」
ああ、世界はどこまでも残酷だな。
私はこの手で、その引き金を引かなきゃならないんだ。
でも、私には引くしかない。だって、守りたい友達の命と願いが、この手にかかっているんだから。
「凜……」
「……うん、分かってるよ。ちゃんと、最後までやり遂げるよ。やり遂げるから……!」
「会えなくても、ボクは凜の思い出の中にちゃんといますよ」
「うん……。うん……!」
「……ありがとう、凜。こんなに想ってくれる友達を持てて、ボクは幸せ者です」
「……っ。うぅっ……。ぁああ……!」
滲む視界で、私は魔力を再現するために手を伸ばし続ける。
拭う指のない雫が、地面を濡らした。
DAY.32 Side MA
私たちは立てた作戦を全員に伝えるために、戦場を駆けていました。
テレパシーを飛ばし、なんとか全員に伝えた辺りで、氷室さんと巴さんが合流。
「愛生さん。言われた通り合流したけど、その……」
巴さんは少し言いづらそうにします。
恐らく、氷室さんを信じ切れないのでしょう。
当然といえば当然です。いきなり現れた人たちに作戦の要を任せるのですから。
氷室さんもそれは分かったようで、静かに言いました。
「信じられないのは当然。私も、すぐに信じてもらえるとは思ってもない。けれど、今は共に絶望に抗う魔法少女の仲間として、託してほしい。諦めなくていいんだと、私たちに思わせてほしい。ダメ、だろうか?」
氷室さんの質問に、少しの間目を閉じて思案していた巴さんでしたが、やがて目を開いて答えました。
「……いいえ。そんなことないわ。こちらこそ、協力してくれてありがとう。一緒に戦いましょう」
「うん……!」
感情の起伏があまり無さそうな氷室さんでしたが、その時ははっきりと嬉しそうな顔で頷きました。
すると、テレパシーで時女さんの声が聞こえてきます。
『皆、聞こえるかしら? 作戦のことは聞いたわね』
各々が返事をしたことを確認した時女さんは、言葉を続けます。
『全体の指揮は私が執るわ。十咎さんは私の補佐をお願い。由比さんは全体のサポートを』
代理で指揮を任された時女さんは、とても代理とは思えないほど即断で指示を飛ばしていきます。
『ちゃる、佐倉さん、それと有愛うららさん?はワルプルギスの夜の拘束をお願い。今回は時間稼ぎが目的だから、どれだけ拘束できるかにかかっているわ。あの速度を封じるためにも、頼んだわよ!』
『それ以外の人たちは、3人の援護。なんとしても、ワルプルギスの夜に拘束できる隙を作って!』
『巴さんは、その間に皆と七海さんをリボンで結んで!』
指示を飛ばし終わった時女さんは、一息つくと、皆を安心させるような力強い声で言いました。
『皆、苦しいと思うけど、もう一辛抱よ! 絶対に夕凪さんと七海さんを守りきるわよ!』
時女さんの檄に、皆が頷きます。
『よし……! それじゃ、いくわよ!!』
時女さんのその言葉を合図に、全員が再びワルプルギスの夜へと飛びかかりました。
前線を張るのは、時女さん、十咎さん、鶴乃さん、氷室さん。
あれだけ暴れ回るワルプルギスの夜に一歩も引かずに、攻撃を仕掛けていきます。
彼女たちの援護に攻撃を差し込むのは、フェリシアさんと暁美さん。
生まれる僅かな隙を潰していきます。
それを後ろから援護するのは、土岐さんとアリナさん。遠距離武器での攻撃で、ワルプルギスの夜を攪乱します。
私だって……。
「う、うおりゃあああー!」
透明化で近づき、ワルプルギスの夜へと一撃入れます。
当然ほとんど効いてはいませんが、不可視の一撃にワルプルギスの夜は混乱しているようです。
そこへ、氷室さんのブーメランが直撃。
「今!」
氷室さんの声に合わせるように、佐倉さん、広江さん、有愛さんの3人が各々の武器でワルプルギスの夜を拘束します。
「さあ、神妙にお縄につけーーーー!!」
広江さんの叫びと同時に、ワルプルギスの夜は雁字搦めに拘束されます。
しかし、動きが止まったと思ったのもつかの間。
ワルプルギスの夜は拘束を解こうと、すぐに暴れ出します。
当然、それを許す時女さんではなく……。
「時女一心流、経絡三打乱れ打ち!」
放たれる突きの三撃が、ワルプルギスの夜に突き刺さります。
「三尺蹴詰ノ首落し!」
更に、円を描くような鋭い一太刀。
「懐隠しの四肢落とし!」
流れるように居合い技へと移行し、ワルプルギスの夜を攻め立てる時女さん。
「奥義、旋風鎌鼬!!」
炎を纏った刀身を振るい、連撃を与える時女さん。その様は、まるで舞いのようであり、洗練された太刀筋でした。
そして、時女さんはそこで止めず、刀身に魔力を集めます。
「秘技……! 巫流、祈祷通天ノ光!!」
刀身から放たれる炎の奔流が、ワルプルギスの夜を焼いていきます。
そして、ワルプルギスの夜は地面へと落ちます。
「ハァ、ハァ、ハァ……!」
肩で息をしながら、ワルプルギスの夜を見据える時女さん。
少しでも時間を稼ぐために、ワルプルギスの夜へ反撃の隙を与えずに技を繰り出し続けていたのですから、当然です。
時女さんの攻撃が止まった隙を、今度は鶴乃さんと佐倉さん、フェリシアさんが埋めます。
「おりゃああー!!」
フェリシアさんの攻撃がワルプルギスの夜に命中します。
すると、ワルプルギスの夜は混乱したように動きを止めます。
「へへっ。どーだ! 記憶が飛んだろ!」
どうやら『忘却』の魔法を使って、ワルプルギスの夜の記憶を一時的に忘れさせたようです。
「ナイス、フェリシア!」
そこへ鶴乃さんが扇子による乱舞を、佐倉さんが多節棍による乱打を繰り出します。
さらに息を整えた時女さんも攻撃に加わり、ワルプルギスの夜を集中攻撃します。
私たちの立てた時間稼ぎの作戦は至ってシンプル。
ワルプルギスの夜に、反撃の隙を与えないように攻撃し続ける。それだけです。
「ちゃああああああ!!」
「りゃああああああ!」
連撃のラストに、鶴乃さんと佐倉さんが大技を繰り出し、ワルプルギスの夜へとぶつけます。
そして2人が下がれば、今度は十咎さん、氷室さん、広江さん、土岐さんが攻撃を始めます。
拘束されて攻撃をくらい続けるワルプルギスの夜は、自力での突破が困難と悟ったのか、使い魔たちを使って彼女たちを引き剥がそうとします。
(ですが!)
「させませんよ!」
「いくわよ、まばゆ!」
ワルプルギスの夜を攻撃する彼女たちに迫る使い魔を、私と暁美さんで蹴散らします。
暁美さんは盾に残った残りの銃火器を総動員して、私も体を限界まで動かして使い魔の大群を捌いていきます。
「くぅぅっ! この、程度……!」
使い魔にハサミを突き立て、ひざ蹴りでその刃を奥へとめり込ませます。
私がその一匹を倒した直後、後ろからも使い魔がやってきます。
が、私は回避しません。
「まばゆ、伏せなさい!」
だって、暁美さんがいますから。
「むぎゅっ!?」
私の頭を押さえつけながら私を飛び越え、暁美さんはその手に握られたマグナムで使い魔に風穴を空けます。
「ナ、ナイスです、暁美さん」
「まだまだよ」
そうして私たちは、ワルプルギスの夜を攻撃し続けていました。
攻撃を続ける中、巴さんからテレパシーが送られてきます。
『聞こえる? 全員にリボンは結べたわ! 後はこのリボンと七海さんを繋げばコネクトは可能なはずよ!』
その言葉は、作戦の第1段階成功の合図でした。
あとはリボンを繋げ、凜さんたちが魔力の核を完成させれば、コネクトするだけ。
無限のような時間稼ぎに、ようやく終わりが見えたのです。
しかし、私たちの希望を塗りつぶすが如く、優勢の状態は長く続きませんでした。
「っ!?」
ゴオッ、と一際強い風が吹いたと思うと、ワルプルギスの夜を中心に巨大な竜巻が発生します。
「くっ! 皆、一旦下がっ……」
時女さんの指示が飛ぶ寸前。
空が目を焼くような光を放ったかと思うと、凄まじい衝撃が体を駆け抜けました。
「が、あ……!」
何が起ったか分からないまま、私は地面へと叩きつけられます。
状況を把握しようと立ち上がろうとして、身体が言うことを聞かないことに気づきます。
(こ、れ……! 身体、痺れて……!)
どうやら、先ほどの閃光は雷の光だったようです。
巻き起こした風で摩擦を起こし、ワルプルギスの夜と戦うために高いところにいた私たちへ雷を落としたのでしょう。
恐らく雷を落とされたのは、私たち全員。
(早く動かないと、拘束を解かれる……!)
すると、ワルプルギスの夜は自身の周りに起こした竜巻に向かって火を吐き、自身を包む巨大な炎の竜巻を作り出します。
自身を傷つけることを厭わず、瓦礫を混ぜたその竜巻で巻き付いている鎖や十手、紐を焼き切ります。
そして、その熱波の暴風を自身の周りに向けて放ちました。
(……んぅ。あ、れ……)
私が目を開けると、視界は上下逆さまでした。
どうやら、頭を下にした状態で壁にもたれ掛かっているようです。
(……っ! ワルプルギスの夜!)
私はすぐさま頭を起こし、周りを見回しました。
(いた……、っ!?)
そんな私の視界に入ってきたのは、拘束を振りほどき、凜さんたちが魔力を溜めている場所へと進撃するワルプルギスの夜でした。
気を失っていたのが一瞬だったのは不幸中の幸いでしたが、状況は最悪に向かってます。
『皆、聞こえる!?』
テレパシーで聞こえてきたのは、時女さんの声。
どうやら時女さんも無事なようでした。
『アタシは、まだ大丈夫だ!』
『私もー! 最強はこれしき何てことなーい!』
十咎さんと鶴乃さんからはすぐに返答がありました。疲労の色は見えますが、それでも比較的元気なほうでしょう。
『私も無事よ……! まばゆは……!?』
暁美さんの声も聞こえます。
真っ先に私の心配をしてくれたことに少しの嬉しさを感じつつ、私も返事をします。
『わ、私も無事です!』
私に続くように、氷室さんと巴さんの声も聞こえました。
『私も、まだ動ける』
『私も大丈夫よ! もちろんリボンも』
その言葉に、私は胸を撫で下ろします。
今の攻撃でリボンで切れていたら、私たちはかなりヤバかったでしょう。巴さんのリボンの強度に感謝です。
しかし、安心ばかりもしていられません。
それは時女さんたちも同じだったようで、すぐに時女さんから指示が飛んできます。
『それなら、すぐに動くわよ! 動ける私たちだけでもワルプルギスの夜を食い止める!』
他の人たちは返事をする余裕がないのか、それとも気を失っているのか。
しかし、今は考えている時間はありません。時女さんは一刻も早く急がなければいけないと示すように言いました。
『今は二葉さんが1人でワルプルギスの夜の攻撃を防いでくれてるわ!』
その言葉に私は驚き、凜さんたちの居場所を望遠魔法で拡大すれば、ワルプルギスの夜の炎を盾で受ける二葉さんの姿がありました。
『さな!! なんて無茶を……!』
暁美さんも気づいたのでしょう。
彼女は二葉さんの名前を呼ぶと、すぐさま走り出しました。
暁美さんを追うように私たちも走ります。
時女さんと鶴乃さん、十咎さん、氷室さんは途中から瓦礫を飛び移り、ワルプルギスの夜へと向かっていきました。
私と暁美さん、巴さんは凜さんの元へと向かいます。
「愛生さん、暁美さん! 私に掴まってちょうだい!」
道中、巴さんはそう言って、私たちに手を差し出してきます。
私はその手を迷わず掴みました。
暁美さんは少し迷ったようですが、私の行動を見て、手を取りました。
「ありがとう。それじゃあ、飛ばすわよ!」
巴さんはそう言い、掴んだ私たちを身体から伸ばしたリボンで固定します。
そして、更に手から伸ばしたリボンをワイヤーのように使い、一気に長距離を移動していきます。
「わわっ! す、すごいです、マミさん! 私たち2人を抱えて、こんな……!」
「そ、そうかしら?」
「ええ! 映画のワイヤーアクションみたいですよ! 一回体験してみたかったんです、こういうの!」
「……ありがとう、まばゆさん」
「へっ?」
巴さんにいきなり名前で呼ばれ、私は素っ頓狂な声を上げます。
すると、巴さんは恥ずかしそうに言いました。
「その、やっと名前で呼んでくれたし、私もいいかしら?」
「あ……」
名前で呼んでいたことに気づきませんでした。
記憶を消してからは、意図的にずっと名字で呼んでいたんですけど、習慣というのは慣れませんね。
「……ええ、良いですよ。私たち、友達ですから」
けど、いい機会です。
あの日、マミさんとずっと友達だと誓い、今は私も前へ進んでいくと決めたのですから。
マミさんとも、また友達になりましょう。
大丈夫。もうマミさんには、私以外にもたくさんの頼れる友達がいますから。
私も、その末席に加わってもバチは当たらないハズです。
「そ、そうよね! 私たち、友達だもんね!」
「はい!」
すると、暁美さんは若干不機嫌そうに言いました。
「……喋ってないで、急ぎなさい巴マミ」
「あ、ああ! ごめんなさい、暁美さん」
「ん~? あ、もしかして暁美さん、嫉妬でs、すみませんでした」
「あら、察しがいいじゃない」
(そりゃ暁美さんの沸点くらい、分かりますよ)
何周一緒にいたと思ってるんですか。
とにかく、マミさんのショートカット技のおかげで、すぐに凜さんたちの元へとたどり着きました。
「凜!」
「凜さん!」
私たちの声に気づき、凜さんはこちらを向きます。
「あ、まばゆ、ほむら! 無事だった!?」
彼女の目元には涙の跡がありました。それについても聞きたいですが、後回しです。
「私はさなの様子を見てくるわ!」
「お願いします! 凜さん、魔力のほうは?」
「あとちょっとだよ!」
「了解です! こっちはマミさんが全員にリボンを繋いでくれました」
マミさんはそのリボンを七海さんに差し出します。
「これです。これを握っていれば、コネクト出来るはずです」
「ありがとう。よく頑張ってくれたわ」
あとは、と私は魔力の塊と凜さんを見て、そこで気づきました。
凜さんの後ろに立っている少女たちのことに。
特に2人は、私も顔だけは知っています。
(あの人たちが……)
すると、私が見ていることに気づいたのか、緑髪の少女が顔を上げます。
「あっ! あなたですね! ボクの占いに出てきた人!」
「メルさん、ですか……?」
私の問いに、彼女は嬉しそうに笑いました。
「ボクのこと知ってるですか!? いやー、照れるですねー」
メルさんは頭を掻く素振りをして、話を続ける。
「でも、ボクも知ってるですよ。あなた、Akiさんの娘さんですよね?」
凜さんの記憶を見たから知っている。
彼女は私のお母さんを尊敬していた。
それを嬉しく感じつつも、そんな彼女の目に私はどう映っているのか、不安もあった。
しかし、そんな私の不安を吹き飛ばすように、彼女は元気よく言いました。
「凜と出会ってくれてありがとうです! Akiさんの心に光を灯せたあなたなら、やってくれると思ってましたよ。ボクの占った未来を実現したのがあなたなら、納得です。やっぱり運命は、ボクたちを見捨ててなかったんです!」
「私で、良かったと思いますか……?」
「……? 当然です。だって、凜から怯えを取り除いてくれたじゃないですか。今の凜は、みかづき荘に来た頃の、周りに怯えていた凜の顔じゃないです」
そういうの分かるんです、とメルさんは優しく笑った。
「ボクも、関わる人全員が嫌になった時期もありましたから。それを救ってくれたのが、七海先輩だった。だから、ボクも凜の救いになってあげたかったんです」
そして、メルさんは私に真剣な目を向けました。
「でも、ボクはここまでだから。まばゆさん、ボクの親友を任せていいですか? ボクの代わりになる必要はないです。まばゆさんは、まばゆさんの気持ちのまま、凜と向き合ってください」
そこまで言ったところで、メルさんの体の色が薄くなり、透けていきます。
「……ああ、もう時間みたいです」
メルさんは残念そうに苦笑いしました。
「メル!!」
その時、今まで黙っていた凜さんが叫びました。
その声に、私とメルさんは凜さんを見ます。
「凜……」
凜さんは大粒の涙を流していました。
「メル……! わた、私は……っ。やだ、やだよぅ……。あなたと会えなくなるなんて……、そんなの……!」
凜さんが零すのは、駄々をこねるような、それでいて悲痛な声。
でも、私は凜さんのその反応を、何となく察していました。
(そうですよ。大切な人の死なんて、簡単に乗り越えられるものじゃありません)
私が旭さんの魔法でお母さんと会ったとき。どうして凜さんは、あれだけ会いたがっていたメルさんと会わなかったのか。
それはきっと、会ったら別れに耐えられないと思っていたからでしょう。
凜さんは、大事な人の死を悼む時間も、悲しむ時間も、全てを犠牲にして前へ進んできました。
だから、お別れの心の整理なんて、まだ出来ていなかったんです。
「凜さん……」
私がどう声をかけていいか迷っていると、メルさんが口を開きました。
「凜」
「メル、メル……!」
「そんなに泣かないでください。凜はもう、ボクの占いがなくても、前へ進んでいけますよ」
「無理……! 無理だよ……! 私、きっと迷っちゃう……! メルが残してくれたものが無いと、私は進めない……!」
「それは絶対にないです。占わなくたって分かります」
「どうして!?」
「それだけ、凜は色んな人の希望と救いになったからです。だから、周りの人を、まばゆさんを信じてあげてほしいです」
「…………」
「まばゆさんは、凜を1人になんかしないですよ」
その言葉に、私は強く頷きます。
「凜さん。大丈夫ですよ。凜さんが進めなくなったら、進めるまでずっと側にいますから」
「まばゆ……」
メルさんの体がほとんど透け、輪郭が空気に溶ける中、メルさんは笑って言いました。
「大丈夫です! 明けない夜はありません! あなたたちの運命が、光と共にありますように!」
その言葉を最期に、メルさんは消えてしまいました。
俯いていた凜さんですが、涙を拭いながら顔を上げます。
「……そうだね。俯いてなんかいられない」
「凜さん……」
「でも……。1つだけお願いがあるんだ、まばゆ」
「なんですか?」
「この戦いが終わるまでは、この痛みも無視して進むから……。全部終わったら、あなたの隣で泣かせてくれない?」
「……ええ。それくらい、全然いいですよ」
「ありがとう……」
そう静かに言った凜さんは、一度深呼吸をすると、目を開けました。
その目は、悲しみも抱きかかえた、とても強いものだった。
その時、ズドン、という音が近くでしました。
「っ!?」
私たちがそちらを見ると、飛ばされてきていたのは時女さんと氷室さん。
「時女さん! 氷室さん!」
「だ、大丈夫よ……! これしきのことで……!」
私が急いで駆け寄ると、時女さんはそう言いながら刀を杖に立ち上がります。
しかし、すでに限界なのは私から見ても明らかでした。
ずっと前線で戦っていたのです。むしろここまで、よく体力が保ったと褒めるべきでしょう。
私と同じことを考えたのでしょう。
氷室さんは立ち上がると、時女さんに声をかけます。
「あなたはここにいて。その体力じゃもう無理」
「でも……!」
反論しようとする時女さんをたしなめたのはマミさんでした。
「心配しないで。今度は私が行くわ。時女さんは少し休憩していて」
悔しそうにする時女さんですが、自分の限界も分かってはいるのでしょう。
口を噤み、その場に座り込みました。
すると、氷室さんは私と暁美さんにこうお願いしてきました。
「あなたたち2人はここにいて。あとどれだけ時間を稼げるか分からないから、サーシャと一緒に夕凪さんたちの最終防衛線として残ってほしい」
氷室さんたちだけで行かせるのは心苦しいです。
ですが、私はそもそもワルプルギスの夜と渡り合える実力は無いですし、暁美さんも盾に仕舞った武装が底を尽きかけている。この状況で前線に出ても足を引っ張ることになるのは、火を見るより明らかでした。
なので、私は頭を下げてお願いします。
「すみません……。お願いします……!」
「うん。任せて」
ラビさんがそう返事した直後でした。
上から吹き下ろすような突風が吹いたかたと思うと、巨大な影が私たちを覆いました。
「っ!?」
「ワルプルギスの夜……!」
先ほどまで鶴乃さんたちと戦っていたワルプルギスの夜が、眼前にいたのです。
(そんな……! 鶴乃さんたちは……!?)
私がワルプルギスの夜の後ろを見れば、彼女たちはこっちに来ている最中でした。
どうやらワルプルギスの夜は、私たちの時間稼ぎに乗らず、凜さんたちを潰すことを最優先としたようです。
「させないわ! 行きましょう、氷室さん!」
「ええ。彼女たちに手は出させない!」
マミさんと氷室さんがワルプルギスの夜へと飛び出していきます。
「凜殿はもう大丈夫でありますな。我も行くであります! ここは任せたでありますよ!」
2人に続くように、降霊術の魔法を使い終わった旭さんもワルプルギスの夜へと向かっていきます。
合流した鶴乃さんたちも加わり、なんとかワルプルギスの夜の注意を引こうとします。
けれど、ワルプルギスの夜も理解しているのでしょう。
次に七海さんに技を撃たせたら終わりだ、と。
ある意味、ワルプルギスの夜を追い詰めている証拠ですが、今はその状況が悪い方向に働いていました。
ワルプルギスの夜は攻撃してくる魔法少女を倒すのではなく、遠ざける行動へとシフトし、風や炎で鶴乃さんたちが近寄れないようにします。
その隙に、遠距離で攻撃できるマミさんたちへ瓦礫の砲弾を飛ばします。
それを避けた旭さんを狙い、ワルプルギスの夜は木を根元から引き抜くような風を放ちます。
「っ!? うわっ!」
旭さんはその風に飛ばされ、ビルへと叩きつけられます。
さらにマミさんへは、宙に浮いていた全てのビルを集中して落とします。
いくらマミさんでも、それら全てを迎撃することはできず、マミさんはビルがまき散らす粉塵の中へと消えていきます。
「これ以上は……!」
「させるかーー!!」
「っ!」
鶴乃さん、十咎さん、氷室さんの3人がワルプルギスの夜を取り囲むように攻撃を仕掛けます。
しかし、ワルプルギスの夜はもはや衝撃波のような風を周囲に放ち、3人を同時に吹き飛ばしました。
「そんな……」
ワルプルギスの夜が殺すことに注力していなかったおかげか、皆さんの魔力はまだ感じられます。
けれど、同時に今の攻撃が決め手になってしまったのでしょう。これまで疲労と傷を抱えた状態を気力で保たせていた皆さんも、ついに動けなくなってしまいます。
邪魔者がいなくなったワルプルギスの夜は私たちのほうを向きます。
そうして炎を吐こうとして……。
「出来た!!!」
凜さんの声が響きました。
私が後ろを振り向けば、凜さんの再生させていた魔力の塊は、先ほど放ったような槍の形へと姿を変えていました。
『皆、コネクトを……!』
凜さんはテレパシーを送ります。
が、それに答える声はありません。
「えっ……」
そう。先ほどまでの攻防でほとんどの人が気を失ってしまったのでしょう。
皆さんの意識が戻らなければ、コネクトはできません。
「そ、そんな……」
凜さんが、いや私を含めた全員が愕然とする中、ワルプルギスの夜は嘲笑うように炎を放ちました。
「まだよ!!」
その声と共に、ワルプルギスの夜は私たちの前で透明な壁にでも阻まれるように、横へと逸れていきます。
声の主は、『阻止』の魔法で炎を防ぐ時女さんでした。
「まだ終わってない! 皆が起きるまで耐えれば、私たちの勝ちよ!」
「でも、そんなの今からじゃ……!」
私がそう言ったときでした。
『あー、聞こえてる? 今寝てるヤツ起こす必要があるんだヨネ? それなら、アリナの結界を使えばいいワケ』
「あ、アリナさん!?」
突如聞こえてきたアリナさんの声に混乱しますが、アリナさんは構わず続けます。
『そっちに音出せるヤツいたヨネ? ソイツの音をアリナの結界で反響させて辺りに響かせれば、他のヤツらの目覚ましになると思うんですケド』
その言葉に、後ろにいた栗栖さんが自分を指さします。
「私、ですか……?」
『早くしてヨネ。アリナだって今、寝てるヤツ片っ端から叩き起こしてるんだカラ』
そう言ってテレパシーが途切れると同時に、辺り一帯を包むように結界が張られます。
「……お願いできるかしら?」
暁美さんが問うと、栗栖さんは笑って答えます。
「これほど広範囲に音を届けるのは初めてですが……。やるしかないですもんね……! やらせてください」
栗栖さんはハープを構えます。
もちろんそれを見逃すワルプルギスの夜ではありませんが……。
「させないんよ!」
無数の糸がワルプルギスの夜に絡みつきます。
「うららちゃん!」
栗栖さんが声を上げます。
ワルプルギスの夜を拘束したのは、有愛さんでした。
「緑髪の人に蹴り起こされたんよ! サーシャさん、今のうちに!」
「はい!」
栗栖さんがハープの音を奏でます。
先ほどの、気持ちを落ち着けるような優しい音ではなく、激しい音を奏でて。
栗栖さんの演奏が始まったことに気づいたワルプルギスの夜は、さらに抵抗を始めます。
糸が自身に食い込むことも気にせず暴れ回り、ついに糸を握っていた有愛さんを投げ飛ばします。
「うわああああああ!?」
地面に叩きつけられそうになる彼女を、私は走って受け止めます。
「ぐえっ!?」
「イテテ……。ありがとうなんよ……」
有愛さんの頭が腹に突き刺さり変な声が出ますが、なんとかキャッチ。
凜さんのように上手くはいきませんでしたが、とりあえず有愛さんは無事そうです。
その間に、ワルプルギスの夜は放つ炎の威力を上げ、ついに時女さんの『阻止』のバリアを突き破ります。
炎は凜さんたちへと突き進み……。
「そうは……!」
「させません!」
その進行を食い止めたのは、暁美さんと二葉さんでした。
「さな!」
「はい……!」
「「コネクト!!」」
2人は手を繋ぎ、コネクトを発動。2人の魔力が共鳴し、巨大な魔法陣の盾が生まれます。
「くぅぅぅ……!」
「踏ん張って、ほむらさん……!」
盾を構えた2人はワルプルギスの夜の攻撃を必死に受け止めます。
その時です。
『あれ、アタシどうして……』
『皆さん、無事ですか?』
テレパシーで、佐倉さんと土岐さんの声が聞こえます。
2人を皮切りに、皆さんの声がテレパシーを通じて聞こえてきました。
私は、テレパシーで伝わる限りの精一杯で、声を張り上げます。
『皆さん!! こちらは準備できました! コネクトを、お願いします!!』
すると、ワンテンポ遅れて皆さんの声が聞こえました。
『『『『うん!!!』』』』
すると、瓦礫の街の至る所で、輝く光が見えました。
星のようなその光は、マミさんが繋げたリボンを通じて、1つへと重なっていきます。
そして、その導線の先に待つ私たちの元へとやって来ます。
この場にいる私も、暁美さんも、全員がコネクトを発動させます。
「「「「「コネクト!!!」」」」」
全員の希望が1つに重なります。
見滝原だけじゃない。神浜も、時女も、フォークロアも。彼女たちの奇跡と希望が重なったんです。
そして、私たちの希望全てを束ねた魔力は、七海さんへと到達しました。
「うっ!」
「きゃっ!」
ついにワルプルギスの夜は、暁美さんと二葉さんの盾をも突破します。
炎は七海さんと凜さんを飲み込むために、2人へと突っ込み……。
「リベリオーネ…、デスティ―ノ!!」
凜さんの一太刀が、それを真っ二つに切り裂きました。
「やちよ先輩!! お願いします!」
「ええ……! 任されたわ!!」
爆煙を吹き飛ばすような衝撃と共に、七海さんの手から激しい光が溢れます。
その手に握られた槍は、虹色に光っていました。
槍が纏う幾星霜の星の輝きのようなその光は、私たちの魔力。
ビリビリと空気を震わせる魔力を纏った槍を、七海さんは構えます。
すると、幾筋の虹色の光が、円を描くように七海さんの周りを飛び回ります。
「今度こそ……」
ワルプルギスの夜も本能で気づいたのでしょう。
ワルプルギスの夜は炎を吐いて、それが放たれるのを阻止しようとします。
ですが……。
「終わりよ!!!」
その言葉と共に、七海さんは槍をワルプルギスの夜へと投げます。
魔力の粒子がぶつかり、スパークを繰り返しながら、槍はワルプルギスの夜へと一直線に進みます。
炎も、風も、ワルプルギスの夜の防御結界すら突き破り、槍はワルプルギスの夜へと到達。
そして……。
その歯車を大きく抉り取り、天蓋の雲に巨大な風穴を空けました。
DAY.32
やっっっっったぁーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!
勝ったーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!
Foo^~、気持ちぃ~~~~!!!
ワルプルギスの夜の体力を一気にゼロに出来ました!
ああ、たまらねえぜ。
お、そして……。
ワルプルギスの夜の体力を削り切ったことで、撃破ムービーに突入。と同時に、実績『朝焼けのエンドロール』獲得です!
な、長かった……。
割と色々削りましたが、それでも長かった……。
消滅していくワルプルギスの夜。
画面でもユリちゃんたちが歓喜に沸いています。
見てください、ほむらちゃんの顔!
クーほむになってからじゃほとんど見られない、満面の笑み!
可愛い。(小並感)
あ、ワルプルギスの夜戦を全員生存で突破したから、実績『皆と一緒なら』もゲットしました。
プラスで原作組も全員生存なので、実績『辿り着いた奇跡』もゲットです。
やったぜ。
ということで、これにてクリアとなります!
チカレタ……。
ほむらちゃん、まばゆちゃん、ユリちゃんの3人が笑い合う場面で、文字通りエンドロール突入です。
さて、完走した感想ですが……。
無事に走りきれて良かったです!!!(クソデカ声)
途中ヒヤヒヤした場面はありましたし、オリチャーで死にかけたこともありましたが、皆に助けられてここまで来れました。
やっぱり原作1週間前から始めたのが良かったですね。
RTAの先駆者兄貴たちは2年とか3年前から始めてる方も多かったのですが、そうすると盤面構築に自由が出る一方で、好感度がガバりやすいんですよね。
そのため、今回は関わるキャラを最低限に絞り、最低限で最高火力を出す攻略にしました。
あとはやっぱり、まばゆちゃんの存在が大きかったですね。
今回攻略してみて、改めてまばゆちゃんの優秀さが分かりました。
魔法も優秀ですし、性格も温厚で優しい。直接戦闘は苦手ですが、大体の攻略で戦闘はプレイヤーが担うので、殆どデメリットでも無いですしね。
何より好感度上げまくっても、変なフラグに繋がらないのがメリットとしてデカすぎます!
こういうオープンワールドゲー攻略をする数多の先駆者兄貴たちを苦しめてきた、好感度上げすぎるとキャラが暴走する事故を起こさないだけで、お釣りが来るぐらい優秀です。これって、勲章ですよ……?
やっぱまばゆちゃんは最高って、はっきり分かんだね。
まばゆちゃんを使えば、RTAも新たなチャートを構築できそうです。
誰かやって♡(他人任せ)
あとはアリナ先輩にも助けられました……、と言いたかったのですが、私、気づきました。
プレイしているときは気づかなかったのですが、アリナ先輩様子を見てたって言ってたんです。
つまり、ワルプル戦が始まった時点で、参加人数が15人超えてたんです。
ももこちゃんはフラグが立ってから良いとして、どう考えたってアリナ先輩いなかったら人数ぴったりで、最初の一撃でワルプルギスの夜倒せてたんですよね。
……はー、つっかえ。
フォークロアの面々が助けにきてくれたから良かったけど、あれ無かったらアリナ先輩、完全な戦犯でしたよ。
頼れる増援面してたけど、(延長戦の原因は)お前じゃい!
というか、フォークロアのほうもフラグ折れてたハズなんですけどね……。なんで来たんでしょう?
ま、過ぎたことはええか。
攻略は無事完遂したんですから。
終わりよければ全てヨシ!
というわけで、長い間ご視聴ありがとうございました。
これにて、「魔法少女まどか☆マギカ -Ultimate Record-」実績『朝焼けのエンドロール』獲得攻略、終わりとさせていただきます。
最後にエンドロール後のムービーがあるので、それを流しながらお別れです。
ここまで見てくださった方、本当にありがとうございました。
またどこかでお見かけしたら、よろしくお願いします。
それでは皆さん、お元気で。
DAY.32 Side LM
「あー終わった終わった。ほな帰るで、ヨズル、月出里」
「はい、先生」
「ふむ!」
後ろにいる弟子2人に声をかけ、私、リヴィア・メディロスはキュアトレーラーのエンジンをかける。
全く、ひどい雨でこっちまで濡れてしまった。
雲1つない空と、瓦礫ばかりの街がなんともアンバランスだ。
「先生、1つよろしいでしょうか?」
「なんや? ヨヅル」
出発の準備をしてると、後ろからヨヅルに声をかけられる。
「なぜ、八雲みたまの言うとおりに動いたのですか? 私が先生に教えられた教えと、八雲みたまの行動は明らかに反するものでしたが……」
(ま、当然の質問やな……)
DAY.28 Side LM
「……久しぶりに連絡してきた思たら。みたま、あんた自分が何言うとんのか分かってるんか?」
『はい……。このお願いが調整屋として間違っていることは重々承知しています。ですが、今頼れるのは先生しかいないんです!』
久しぶりに連絡のあったかつての弟子、八雲みたま。
そんな彼女が私たちに頼んできたのは、ある街に行って、そこの魔法少女を調整してほしいとのことだった。
ここまでなら、客の紹介ということで目くじらを立てることもなかったのだが、問題はその理由だった。
「自分が気にしてる子が死にそうやからって、他の子の記憶を見て、それを利用するなんて。許されることではないで」
『分かっています。私のことはどう処罰してもらっても構いません。ですから、どうか今だけは力を貸してください……!』
「嫌や」
みたまの言葉を、私はバッサリ切り捨てる。
「第一、私らに何のメリットもない。教えたよな、調整屋は信用が大切って。そんなことすれば、私らだって信用を失いかねへん。その責任も、あんたは取れるんか?」
そう言えば、みたまは口を閉じる。
正直、このまま電話を切っても良かったが、私はどうしても気になることがあった。
「なあ、みたま。なんでその子をそんな気にするんや? あんた、誰のことも好きで嫌いや言うてたやんか」
すると、みたまはすぐに答えた。
『あの子は……。凜ちゃんは、私に希望を見せてくれたんです。西も東も憎み合う呪縛から、神浜を解き放てる可能性のある子だった。何より、あの子の過去は私にも他人事じゃなかったんです。でも、あの子が辛いときに私は、何もしてあげられなかった。今だって、表だって動くのが怖いんです』
みたまの声は震えていた。
出る杭は打たれる、という経験を体験してきた彼女にとって、悪目立ちする行動は怖いものがあるのだろう。
それでも、彼女は動くと決めたのだ。
『けれど、それじゃあ今までと何も変わらない。だから、覚悟を決めました。望むのなら、命だって差し出します。ですから、どうか凜ちゃんを助けてください……!』
はあ、と私はため息をつく。
「みたま。女に二言はないな?」
『……! じゃあ……!』
「その代わり! ケジメはつけてもらうからな。覚悟せえよ、みたま」
DAY.32 Side ML
「それで湯国市の魔法少女を調整し、発破をかけて見滝原の援護に行かせた、と。やはり分かりません。なぜ、先生は八雲みたまの言うことを飲んだのでしょう?」
ヨヅルは頭を捻る。
「……そうやなぁ。その理由、あんたなりに考え。これ、ヨヅルへの宿題な」
「……? はい」
ヨヅルはキョトンとした顔で頷いた。
「ふむむ、ふっむふむむふむむ、ふむっむむ!」
「……何言うとるか分からん。ヨヅル」
月出里にも話しかけられるが、やっぱりこの子の言っていることは、まだ分からない。結局、ヨヅルに翻訳を頼む。
「はい。でも、発破かけてる先生、格好よかったよ、と申しております」
「アホぬかせ。あんなクサイ台詞、思いだしただけでも鳥肌立つわ」
――辛いからってなぁ! 諦めたら全部仕舞いなんじゃ、ボケェ!! その手ェから零したくないモン、ホンマに無いんか!?
――アンタら全員、自分の胸に手当てて思い返せ! 隣にいるヤツが諦念の中で死んでも、ホンマに何とも思わんのか!?
――嫌ならそんな簡単に手ェ離すなや、どアホ! まだ間に合う! 行って、今度こそ掴んで離すな!! ええな!!
「あー、月出里のせいで思い出してしもた。恥ずかしいわー……」
私が恥ずかしさに顔を覆うと、月出里は楽しそうに笑う。
「なんや、月出里。人が悶えとるとこ見て笑うなんて、ええ趣味しとるなぁ?」
その言葉に、月出里はブンブンと両手を振って否定する。
「ふむ!? ふむむ、ふむむーむ、ふむむんむ!」
「違うよ。ただ、先生の楽しそうな姿見たから嬉しくて、と申しております」
「楽しい?」
私はどこかで楽しんでいたのだろうか。
誰かのために動けることを。
「……アホらし。そんなの、私が一番嫌いなことやわ。そんなことより、さっさと準備し。これから神浜行かなあかんのやから」
「八雲みたまのところですか?」
「せや。落とし前はキッチリつけてもらわんとな」
「承知しました」
私はヨヅルと月出里が準備したのを確認し、キュアトレーラーを発進させる。
(全く……。凜ちゃんもやってくれたわ。みたまをあんな問題児にしてまうんやから)
みたまが誰かのために自分の立場を捨てるなんて、弟子だったころは考えつかなかった。
そのみたまに、家族以外で守りたいと思わせたのだから、その子は人誑しの才能があるかもしれない。
そんな、顔も知らない少女について、私は思いを巡らせた。道中、口角が上がっていると感じたのはきっと気のせいだろう。
「やはり分かりません……。八雲みたまに頼まれたのは調整だけ。湯国市の魔法少女をキュアトレーラーで見滝原まで送ったのはなぜでしょう? それが優しさ?」
「ヨヅルあんた、分かって言うてるやろ」
「……?」
「マジか、コイツ……」
「ふむふむ、ふむーむ!」
「だー! 笑うな月出里! 次のおやつ、1個減らすで!」
DAY.32 Side MA
「よっこいしょ、と。誰かいますかー?」
私は瓦礫をどけ、声をかける。
それに対する返答はなく、静寂だけが残る。
「よし、ここも大丈夫ですね。あとは……」
魔力の反応を探して、次に行く場所の当たりをつける。
私が何をしているのかって?
それは、皆さんの安否確認です。
死闘の末、ワルプルギスの夜に辛くも勝利した私たち。
私はあの時見た空の青の綺麗さを、一生忘れないでしょう。
それはともかく。
疲労困憊の中、私たちは勝利に喜び、抱き合いました。
凜さんは大泣きだったし、暁美さんだって泣いていました。それに釣られたのか、二葉さんまで。
時女さんは緊張の糸が切れたように、その場で寝始めちゃいますし、それはもう大変でした。
で、ここからが問題で……。
全員生きて勝ったのは良いのですが、戦いの最後で皆さんワルプルギスの夜に飛ばされてしまって、誰がどこにいるのか分からなかったんです。
なので、凜さんの提案で他の皆さんの安否確認をすることにしました。
もしかしたら重傷で動けない人もいるかもしれませんし、私たちは賛成しました。
(てなわけで、魔力を頼りに皆さんを探しているってところですね)
誰宛なのか謎の解説をしながら、私は魔力探知を続けます。
(それにしても……、なんだか実感がありませんね。本当にワルプルギスの夜に勝てるなんて)
頭の中で取り留めのない考えが浮かんでは消えていきます。
最近一人になることが少なかったので、こうして一人で物思いに耽るのは久しぶりな気がします。
(記憶を消す前の私に言っても信じないでしょうねー……)
ホントにあの時は、自分を殺す気持ちで記憶を消したのですが。人生何があるか分からないものです。
(……そういえば、なんで私の記憶は戻ったのでしょう?)
そうだ。
それどころじゃなくてすっかり忘れていましたが、私の記憶が戻った理由は、未だ謎のままです。
(私の視る未来が絶対じゃない可能性もありましたが、ここまできて覆らないとなると、やはり未来を変えることはできないと考えていい)
厳密に言うと、未来を変える方法も無くはありません。
魔法少女の願いなら、因果を超越して未来を変えることもできます。
(けどその場合、未来を変える変数は凜さんしかいません。けど、凜さんが契約したのは1年半も前。私の未来を変えるような願い事はしてないはず)
いや、そもそも凜さんの存在自体、未来が変わった結果の1つでしかないのかもしれません。
(キュゥべえも言ってました。彼女は元々、契約できるほどの素質がある子じゃなかったって。となると、原因は凜さんでなく……)
「まばゆ」
「っ!? って、なんだ。暁美さんですか」
突然声をかけられたことに思わず驚いてしまいます。
振り返れば、そこには暁美さんがいました。
「どこ行くのよ。そっちは戦闘があった方向じゃないでしょう」
「あっ。す、すみません。考え事してて……」
私は恥ずかしさを紛らわすように頬を掻きます。
「暁美さんのほうは? 誰か見つかりました?」
「いえ、私も今のところは」
「そうですか。いやー、某ミステリー映画みたいに、下半身だけ出た状態で突き刺さってるかと思ったんですがね」
「そのネタ、あなたと凜でしか通じないでしょう」
「そうですかね? 意外と有名なネタだと思うんですけど……」
「だから、ショッピングモールですぐに仲良くなれたのかしらね。あんなに映画の話題で盛り上がるなんて……。2時間くらい話してなかった?」
「そ、そこまでは話してませんよ! あの時は1時間半くらい、で、終わらして……」
私はそこで言葉を止める。
「まばゆ?」
暁美さんが話しかけてきますが、私に答える余裕はありませんでした。
私が感じた違和感が、どんどん実体を伴って膨らんでいたからです。
「……暁美さん」
「……? どうしたの、まばゆ。あなたさっきから変よ?」
「そう、ですね……。私、変かもしれません。だって……」
私が感じた違和感は、確信に変わる。
私の思考は、一本の糸で繋がった。
「だって、暁美さんが知らないことを、あなたが喋っているように聞こえたんですから」
私は目の前の暁美さんを、真っ直ぐに見据えます。
「私、暁美さんに凜さんとの出会いを事細かに話した記憶はありません。ただ、暁美さんが転校してくる前に出会って、映画の話題で盛り上がったとしか。それなのに、どうしてショッピングモールで会ったって知ってるんですか?」
「そ、それは……。映画のレンタルといえばあそこだし。あなたもよく借りに……」
「そうですね。でも普通、映画の話題でと言ったら、映画館を先に想像しませんか? どうしてレンタルだって分かったんです?」
私の言葉に、暁美さんは何も答えません。
「そもそもあなた、どうやって私の後ろから声をかけたんです? あの時、私は魔力探知をしてました。しかも小さな反応を見逃がさないように集中して」
そう。
あの時、私が驚いた理由は急に声をかけられたからじゃなかった。
意識外から声をかけられると思っていなかったからだ。
魔法少女なら誰しも魔力を持っている。だから、魔法少女の誰かが近づけば、魔力探知で分かるはずなのだ。
それなのに。
「あなたは魔力探知に引っかかることなく、私に話しかけた。そんな芸当、二葉さん以外じゃできませんよ」
私は意を決して、暁美さん、いや、目の前の彼女に問いました。
「質問です。あなたは誰ですか? 暁美さんの双子、とかじゃないですよね?」
自覚すれば、彼女に感じる違和感の輪郭はよりハッキリとします。
彼女の纏う雰囲気は、暁美さんに似てはいますが別のもの。
目だって、あんなドロッとした瞳を暁美さんはしません。
流れる沈黙。
しばらくの後、暁美さんそっくりの彼女は口を開きました。
「やっぱりダメね。話そうなんて思っちゃ」
「へ?」
「あなたの問いだけれど……。私は暁美ほむらよ。あなたの知らないね」
彼女の言葉は要領を得ません。
私の知らない暁美さん?
どういう……。
「あなたが知る必要のないことよ。さ、皆のところに戻りなさい」
「そういうわけにはいきません。あなたのような人を放って、ここから去るわけには……!」
待て。
(あなたの知らない……? この人は暁美さんが知るはずのない情報を知っていた。そして、私のことも。そして、私の知らない暁美さん……)
契約するはずのない少女。戻るはずのない記憶。
私の知らない、暁美さん……。
(私が知ることのできない、暁美さん……?)
「っ!? まさか、あなた……!」
私が彼女を問い詰めようとすれば、彼女はすでに私の眼前にいて。耳元で囁きました。
「だからダメなのよ。あなたは変なところで察しが良すぎる」
瞳が触れ合いそうになるほどの近距離で、彼女は私を見ていました。
「私のことは忘れなさい。せめてこの世界くらい、幸せに生きて」
次の瞬間、手を叩く音がしました。
それと同時に、彼女は消えていて。
私の足下には黒い羽根が1つ、残されているだけでした。
(彼女は一体どこに……! それに彼女……)
少し、寂しそうな顔をしてた?
私は足下の羽根を拾いながら、直前の彼女の顔を思い出します。
(とにかく、彼女のことを凜さんたちに伝えないと……!)
そう思い、走り出そうとしたところで足を止めました。
(あれ……? 彼女、って誰でしたっけ?)
いやいや、忘れるわけありません。
さっきまで私と話していた……。
(……私、誰と話していたんでしたっけ?)
誰かにそっくりだったような気がしますが、顔が思い出せません。
(というか、誰を思い出そうとしているんでしたっけ。なんで思い出そうとしているんですっけ?)
分かりません。
何かがどんどん薄れていっているハズなのに、それに抗うことすらできません。
大切な人のことだった気がするのに……。
(そもそも、何を思い出そうとしてたんでしたっけ……。何か、忘れているような……)
(ま、気のせいですかね)
「まばゆー!」
遠くから凜さんの声が聞こえます。
「凜さん?」
「こっち来て手伝ってくれるー!? 鶴乃先輩が、有名ミステリー映画の死体みたいに下半身だけ出して突き刺さってるー!」
「あ、はーい!」
凜さんの的確な表現で、状況がすぐに理解できた私は声の方へと向かう。
(あ、羽根……)
手に握ったままの羽根を改めて見ます。
カラスの羽根でしょうか。吸い込まれるような真っ黒の羽根を、なぜか私はギュッと握りしめていました。
「まばゆ? 何してるのよ」
「あっ……」
顔を上げてみれば、暁美さんが怪訝そうな顔をして立っています。
「ほら、凜が呼んでる。さっさと行くわよ」
そう言って、暁美さんは私に手を差し出しました。
「そう、ですね……」
私も暁美さんの手を取ります。
「大丈夫? 転ばないよう、しっかり掴んでなさいよ」
私はその手に少しだけ力を込めて、答えました。
「はい。行きましょう、ほむらさん」
次回が最終回と言ったな。
あ れ は ウ ソ だ ☆
エピローグであと1話だけ続くのじゃ。
近いうちに投稿できると思います。
そちらで今度こそ終わりです。
そして、I-ZAKKU様よりファンアートをいただきました。
まさにエンドカードに相応しいイラストです。
I-ZAKKU様、ありがとうございました。
【挿絵表示】