魔法少女まどか☆マギカ 実績『朝焼けのエンドロール』獲得 作:くろしゅー
DAY.?? Side 縺ゅ¥縺セ縺輔∪
広い広い宇宙の彼方。
時間も空間も超越したところに、一人の少女がいました。
耳にトカゲの飾りをつけた少女は、一人でお茶会をしながら、とある音楽を聴いていました。
少女の傍らに置かれた蓄音機から奏でられるのは、とある少女たちの物語。
それは本来、存在するはずのない物語。
トカゲの少女は椅子から立ち上がり、蓄音機を止めます。
蓄音機から取り出されたのは1枚のレコード。
トカゲの少女はそれを愛おしそうに撫でると、レコードを棚へと仕舞いました。
似たレコードが2枚ある、その棚へ。
そのレコードは、本来存在するはずのないレコードでした。
女神様が集めていたレコード。
少女たちの物語が刻まれたそのレコードの中に、トカゲの少女は懐かしい少女を見つけました。
それはトカゲの少女がトカゲの少女となる前、どこかの時間で出会った映画好きの少女。少女は、友達のほとんどいなかったトカゲの少女の側にいてくれた、かけがえのない友だちでした。
けれど、その少女はトカゲの少女に何も告げず、側からいなくなってしまいました。
しかも自分のことを思い出さないような魔法を、トカゲの少女にかけて。
トカゲの少女も、女神様の力を奪い取ってレコードを確認するまで、少女のことを忘れていました。
トカゲの少女は悲しみました。
皆を救うため、何よりトカゲの少女を救うため、誰の記憶からも忘れられるその在り方は、トカゲの少女が守りたくても守れなかった少女とそっくりで。
そんな悲しみから女神様を救うために、トカゲの少女は悪魔になったのに。
けれど、悪魔となってしまった自分では、彼女を救うことはできない。
今の彼女には、女神様の力を抑えること以外に回せる余力がなかったからです。
だから、トカゲの少女は自分の使いを送ることにしました。
トカゲの少女は様々なレコードを探り、映画好きの友だちを託せる子を探しました。
探して、探して、探して。
ある時、ついにトカゲの少女は見つけたのです。
その子は、神浜という街に生まれたごく平凡な少女。
これといった特徴はないけれど、とても優しくて、誰かのために一生懸命になれる、そんな子でした。
普通に生きていれば、齢14で虐待による衰弱死をしてしまう。そんなありふれた悲劇を抱えた子でした。
その境遇に、トカゲの少女が同情したかは分かりません。
けれど、トカゲの少女は彼女に全てを託すことに決めました。
その少女に、自分の友だちを救うことを。あんな悲しい結末で終わらないように、友だちが泣かなくていいような結末になるように。
トカゲの少女はとあるレコードを複製しました。
それは、彼女の友だちが彼女の前から消えてしまう物語のレコードでした。
複製したレコードに、トカゲの少女は溝を書き加えます。
自分の見出した子が、友だちの元にたどり着けるように。
トカゲの少女は、使いの子にいくつか贈り物をしました。
まずは、魔法少女の才能。
因果を操り、彼女が魔法少女になれるような才能をプレゼントしました。
次にお洋服。
魔法少女ですから、可愛いお洋服は大切です。
トカゲの少女は、とあるレコードの少女に目を付けました。その少女は、女神様に頼ることなく、魔法少女を救った、とても立派な少女でした。
トカゲの少女はその少女を大層気に入り、その少女のお洋服を模したものを、使いの子に贈ることにしました。
最後に魔法。
これもお洋服の少女と同じものを、使いの子にプレゼントしました。
トカゲの少女にとって、それはある意味、願掛けでした。
彼女のように、誰かを救えるような少女になってほしいとの、おまじないのようなものでした。
準備の整ったレコードは、ついに回り始めます。
しかし、ここで1つ、トカゲの少女の想定にないことが起こりました。
使いの子は、トカゲの少女の友だちだけでなく、そのレコードのトカゲの少女も、救おうと動き出したのです。
蓄音機から流れる物語は、悲しみで溢れていました。
疑念、別れ、すれ違い……。
トカゲの少女も経験してきたことが、再びレコードから流れてきたのです。
それでも使いの子は、諦めずに進み続けました。
すべては皆を救うため。映画好きの少女も、トカゲの少女も、トカゲの少女が救いたかった子も、トカゲの少女が救うことを諦めてしまった子も、皆です。
どれだけ傷つけられようと、どれだけ悲しみで心を壊されても。
使いの子は、誰かが悲しむ結末を良しとしませんでした。
トカゲの少女は見くびっていました。
使いの子もまた、誰かが泣いていることを見過ごせない子だったのです。
それでも、新しいレコードに移る度、使いの子の傷は増えていきました。
ボロボロになって、心をすり潰されて。
それでも、誰かのためにしか在れない彼女。
そんな彼女を救ったのは、トカゲの少女の友だちでした。
彼女の心の傷に寄り添い、自分を大事にできるよう、繋ぎ止めたのです。
それから使いの子は、助けることを止めました。
彼女たちと共に進むことを決めたのです。
そして、その戦いの果てに奇跡を起こし、ついに夜明けへと辿り着いたのです。
トカゲの少女が一番最初に救いたかった全てを救って。
その結末を見届けたトカゲの少女は、最後に彼女の親友に会いに行きました。
悪魔となってしまった自分を、友だちはきっと許さないでしょう。絶対に自分と一緒にはいられない。
だからトカゲの少女は最後に会うことにしたのです。自分の中でケジメをつけるため、ちゃんとお別れしたかったから。
トカゲの少女は、レコードを仕舞った棚に強力なカギを掛けます。
女神様に叛き、悪魔となった自分は、きっと遠くない内にいなくなるでしょう。
今あるこの箱庭が崩れる日は近いことを、トカゲの少女はボンヤリとですが感じていました。
それでもこのレコードだけは。
どれだけ歪で捻じ曲がった奇跡だとしても、彼女たちの生きた記録を消させたくはなかったのです。
それがトカゲの少女にできる、友だちへの最期の手向けでした。
「幸せにね、まばゆ」
DAY.65 Side MA
「いらっしゃいませー。って、ほむらさんじゃないですか」
「お疲れさま、まばゆ」
今日も今日とてレコンパンスのお手伝いとして、レジに立っている私。
そんなお店に、今日はほむらさんが来ました。
「ご注文は何にしますか?」
「そうね……。このモンブランをもらえるかしら? あと、カフェラテも。もちろんラテアート付きで、ね」
「はいはい。かしこまりました」
ほむらさんの注文を取った私は、ショーケースからモンブランを取り出し、カフェラテの準備に取りかかります。
ラテアートの絵柄は言っていませんでしたが、ほむらさんのことですからきっと猫ちゃんでしょう。
カフェラテが冷めないうちにササッと描き上げ、ほむらさんの待つテーブルへと運びます。
「お待たせしました。モンブランとカフェラテです」
「ありがとう。あら、絵柄は猫なのね」
「特に指定も無かったので……。イヤでした?」
「いえ、嬉しいわ。ありがとう」
お盆を裏へ戻した後、私はエプロンを外してほむらさんのテーブルに戻り、向かいの席に座ります。
「まばゆ? お店の手伝いはいいの?」
「ええ。この時間帯、あまりお客さんは来ないからお友達と話してきなさいって、咲笑さんが」
「そう」
ほむらさんは、モンブランを一口食べると、私を見ながら言いました。
「そう言えばこの前の定期試験、久しぶりに全教科赤点免れたそうじゃない」
「なんでそのことを……。ええ、凜さんに勉強を教えてもらったおかげで、なんとかなりました」
最後のほうなんか、付きっきりで教えてもらっちゃいました。
それでも凜さん自身はほぼ90点超えなのですから、さすが最強魔法少女の弟子なだけあります。
ちなみに、鶴乃さんはほぼ毎回100点ばかりだそうです。
……あの人、化け物すぎません? もはやスゴいを通り越して怖いんですけど……。
そういえば、鶴乃さんといえば……。
「そうだ。鶴乃さん、またみかづき荘に通うようになったそうですよ。七海さんとのわだかまりも解消されたようで」
「それは私もさなから聞いたわ。みかづき荘がもっと明るくなったって」
ほら、とほむらさんはスマホの画面を私に見せます。
そこに写っていたのは、みかづき荘の皆さん。
恐らく、二葉さんが自撮りで取ったものなのでしょう。手前の二葉さんに、七海さん、鶴乃さん、フェリシアさんが笑顔で写っていました。テーブルに置かれているのは、お鍋でしょうか。
「さなもみかづき荘に慣れてきたみたいで、彼女たちと色々遊びに行ってるみたいよ。かくいう私も、この前遊びに誘われたけど」
「へぇ-」
そこで、私の目にほむらさんのスマホに付いてるストラップが目に留まりました。
「あれ? ほむらさん、そんなストラップしてましたっけ?」
「ああ、これ? さっき言ったさなと遊びに行ったときに、ガチャガチャの景品で当てたのよ」
「それ、確か『こねこのゴロゴロ』ですよね」
「ええ。さなが好きなのよ。私も小さい頃よく見てたから話が合ってね」
「ほむらさんもそういうの、見るんですね」
「入院中は娯楽が少ないのよ」
「……ごめんなさい」
「別に気にしてないわ」
すると、ほむらさんはバックの中から何か取り出します。
「ほら、あなたにもあげるわ」
それはほむらさんが引いたガチャガチャと同じものであろう、『こねこのゴロゴロ』のストラップでした。
「い、いいんですか?」
「そう言ってるじゃない。目当てのものを引くまでやったから、余ってるのよ。凜には昨日あげたし、あなたにも」
「ありがとうございます。大切にしますね」
「いいわよ、そんな。高いモノじゃないし」
ほむらさんは照れ隠しのようにカフェラテを啜ります。
「そういえば深月フェリシア。彼女、万々歳で働くようになったそうじゃない」
ほむらさんは露骨に話題を変えます。
まあ、それもほむらさんらしいですけど。
「ええ。まあ、ここで働いてたときから、接客業上手そうだなと思ってましたけど。ああでも、ここのアルバイト候補が一人消えてしまいました……」
「どうせ仕事押しつけようと考えていたんでしょう?」
「バレましたか」
「それくらい、一人で頑張りなさい」
「うう、ほむらさんの鬼! 悪魔!」
「ファイト」
他人事のように優雅にカフェラテを飲むほむらさん。
精一杯睨みますが、ほむらさんは涼しい顔。
「七海さんを見習いなさい」
「あの人は規格外すぎますって。大学行って、モデルの仕事もやって、その上魔法少女も掛け持ちですよ? 私なら3日も保ちません」
「それには同意だわ。一昨日も、凜が買ってた雑誌に載ってたし」
「あ、見ましたそれ。いいなー、あんなに美人でスタイルも良くて」
「……別に、あなたもそんな卑下するほどじゃないでしょう」
「え?」
「なんでもないわ」
しまった、ほむらさんの言葉を聞き逃しました。
しかし、ほむらさんは怒った様子はなく、別のことを思い出しているようでした。
「巴マミも、時々連絡を取っているようね。彼女もいい相談相手を見つけられたようで良かったわ」
「そうですね。マミさんは強いけど真面目ですからね。彼女より魔法少女歴が長い先輩なんてほとんどいなかったでしょうし。凜さんもですけど、マミさんも抱え込みやすいですから、相談できる人ができてよかったです」
と、マミさんの話をしていて思い出しました。
「そういえばマミさん、時女さんたちとも時々連絡取っているみたいですよ」
「時女さんと?」
「ええ。時女さんたちはあの後、ワルプルギスの夜との戦いを一族の皆さんと共有したみたいで。時女さんは、今度ワルプルギスの夜みたいな災厄が襲ってきても、日の本を守れる盾となれるよう、色々考えているみたいです」
時女さんたちの助力は大きかったですが、時女一族の皆さんだけでワルプルギスの夜を倒せたかと言えば、恐らく厳しかったでしょう。
それに時女さんは力不足を感じたようで、一族をあるべき姿に、この国に襲いかかる災厄級の魔女に対抗できるような集まりにしたいようでした。
「マミさんからの又聞きですが、時女さん、ほむらさんの件が相当悔しかったそうですよ」
「私?」
首を傾げるほむらさんの発言を、私は肯定します。
「はい。私たちが本来の在り方を維持できていれば、不必要にほむらさんが傷つかなくて済んだはずなのにって」
「……お人好しね」
「ええ。とっても、強い人ですよ」
「……それで、巴マミとはどう関わりが?」
「ああ、そうでした。時女一族の皆さんは、外にも協力者を募っていくみたいで、その第一号をマミさんにお願いしたみたいです。ほら、マミさんって今までも、魔法を人助けのために使ってきてたじゃないですか。その在り方が時女一族に近いってことで、お互い協力していこうってことを話してるみたいですよ」
「そう……。時女さんたちなら、まあ心配はないかしらね。なんだかんだ、巴マミにも居場所はできたのね」
と、ここでほむらさんは何かを思い出したようで、私に尋ねます。
「居場所といえば、彼女は大丈夫なのかしら?」
「彼女?」
「私たちを調整してくれた八雲みたまよ。彼女、私たちを助けるために、色々調整屋のタブーを犯したらしいじゃない。その落とし前をつけることになった、みたいなこと聞いたんだけど」
「ああ……。あの人たちは……」
DAY.65 Side MY
「みたまー? そっち終わったら、ちょい肩揉んでくれへん?」
「はーい、ただいま!」
私は片付けを手早く終わらすと、先生の元へと行き、その肩を揉む。
「うんうん。最初より上手くなったなぁ」
「そ、それはどうも」
ここ1ヶ月、私は先生の元で再指導を受けている。
理由はもちろん、調整屋の掟を私が破ったからだ。
「少しよろしいでしょうか。あそこの隅、まだ埃が残っていました。やり直してください」
「はい、すみません……」
「ふむむ? ふむふむ!」
「そのクッキー食ったらあかんで、月出里。みたまの料理食っていいんは、死にたいヤツだけや」
「あ~ん、ヒドいです先生! ももこぉ~、あなたも何か言ってよ~!」
私は横のソファに座っている、最高のボディーガードに助けを求める。
しかし、当の本人は苦笑い。
「いやー、さすがにこれは擁護できないな。そもそも、この程度で済ましてくれたんだから、感謝しかないだろ」
「それはぁ、そうだけど……」
たしかに、先生には感謝している。
正直、命を差し出す覚悟はできていた。それが自分なりのケジメだと思ったから。
それを自分たちの手伝いと、再指導で済ましてくれたのだから感謝するべきだろう。
とはいえ……。
「ああそれと、先ほどからやかんからお湯が吹きこぼれそうです」
「ふむむ!? ふむーむ!!」
「はいはい、ただいまー! って、見てたんだったら止めてよー!」
DAY.65 Side MA
「ってな感じで、調整の先生の手伝いをしているみたいですよ」
「そう。彼女に害が及んでいないのならいいわ。元々巻き込んでしまったのは私だし」
ほむらさんは安心したように、少しだけ表情を柔らかくします。
「あとは……、彼女も元気にやってるみたいですよ」
「彼女?」
「あの天才アーティストさんですよ」
DAY.65 Side AG
「先輩! 今日こそ私の描いた漫画、読んでほしいの!」
数日ぶりに顔を出した部室である美術室で、フールガールに開口一番そう言われる。
「ハァ?」
「だって先輩、ここのところずっと絵を描いてて忙しいって、私の漫画読んでくれなかったの! だから、今日こそ感想を聞かせてほしいの!」
フールガールはずいっ、と漫画の原稿をアリナに押しつけてくる。
「先輩が来ない間も頑張って描いて、細かいところも色々直したの。だから……」
「ハァ……」
フールガールが言い終わる前に、その原稿をひったくるように受け取ると、近くの椅子に座ってその漫画を読み進める。
それから少しして。
漫画を読み終えたアリナは、顔を上げフールガールに原稿を返す。
「ど、どうだったの?」
恐る恐る聞いてくるフールガールに、アリナは答える。
「絵は相変わらず下手。書き込みは甘いくせに、変なところは書き込んでるから絵が見づらい。ストーリーは唐突な展開が多いから、気持ちがついていかないヨネ」
「うう……」
「けど、人物の描き方は上手くなったヨネ。ここの構図とか、誰かモデルにした?」
アリナが気になったところを聞くと、彼女は目を輝かせて答える。
「そうなの! しばらく前、私が漫画の構図が思いつかなかったときに協力してくれた人がいたの! 長い時間、ポージングとかにも付き合ってくれた、すごい優しい人だったの。だから、今回の主人公はその人の許可をもらって、その人に似せて描いたの!」
「ふーん……」
アリナは改めて漫画の主人公を見る。
それはどことなく、時間の迷路から親友たちを引きずり出した、彼女のように見えた。
「……フッ」
「ア、アリナ先輩……?」
アリナは机に置いていたイチゴ牛乳をフールガールに差し出す。
「え」
「まあ、アリナの知ってる御園かりんにしてはよくやったと思うワケ」
「ア、アリナ先輩……!」
「ヴァアアアアア!! 引っ付いてくるな!」
DAY.65 Side MA
「アリナさん、この前も賞取ったらしいですよ。ほら、これ」
「……最優秀賞は栄総合学園2年、アリナ・グレイさんの『夜と生に抗う者たち』。……これ、ワルプルギスの夜と私たちよね?」
「有言実行ってところですかね」
まさか本当にアートにするとは。
彼女が天才と言われる所以は分かったような気がします。
(できれば、もう関わりたくないですけど……)
さすがに一度殺されかけた上、なんで気に入られたのかも理解できなかった以上、彼女の活躍は遠目から見守りたいですね。
……見守るといえば。
「そういえばこの前、お店に凜さんの保護者である叔母さん夫婦が来たんです」
「そうだったの?」
「はい。凜さんの看病のお礼をって。凜さんが大怪我したとき、表向きは高熱で倒れたってことにしてて、その看病を私がしたことにしたので」
私自身、あの場で考えた適当なウソだったので、彼らに説明されるまで少しの間忘れていたのは内緒です。
「凜さん、少しずつあの二人とも一緒にいる時間を増やしているみたいですよ」
凜さんの叔母さんにはこう言われました。
――あの子、前より顔が優しくなったわ。まばゆちゃんのおかげかしらね。
(いいえ。私は側にいただけ。どれだけ傷ついても進んだのは、凜さん自身の力です。でも……)
そのために、私が側にいる必要があるのなら……。
(私は、いつでも側にいますよ)
「ところで、その凜だけど。今日は見かけないわね」
「ほむらさん、今日は約束の日ですよ」
「約束……? ああ、そう言えば今日だったわね」
私の言葉でほむらさんは思い出したように頷く。
「ええ。ですから今頃、凜さんは宝崎市にいると思いますよ」
DAY.65 Side RY
「ヤバいヤバい! 約束の時間に間に合わないー! 魔女に苦戦してる子助けられたのは良かったけど、初っぱなから遅刻は悪印象だってー!」
私は氷室さんから届いた住所を、スマホの地図を頼りに目指す。
そうして走ること5分。
額に汗を滲ませながら、目的地に到着した。
「ふぅ……。 時間まであと3分。ギリギリセーフ……」
私は手鏡で軽く髪を整えて、深呼吸をする。
(よし……! 最初の挨拶が肝心だからね。ここはビシッと……)
そうして、目の前のインターホンを鳴らそうとしたところで。
「あの……」
「ひゃい!」
横から話しかけられた私は、すぐさま横を向いてお辞儀をする。
「私、お約束してた夕凪凜です! よろしくお願いします!」
私は深々と頭を下げる。
が、中々返事は返ってこないので頭を上げてみると……。
「あ、えっと、ご丁寧な挨拶、ありがとうですの……」
私の前にいたのは、灰色の髪をした少女だった。
(ひ、人違いだったー! ヤバい、話しかけられたからてっきり……)
顔から火が出そうになるのを抑えていると、目の前の少女が尋ねてくる。
「それで、あなたはウチに何か用ですの? 何やら息を整えていたようでしたが……」
「あ、ああ、そうなんです。今日約束があって……。え、ウチ?」
私が聞き返すと、目の前の少女はハッとする。
「あ、そういえば自己紹介がまだだったんですの」
少女は礼儀正しいお辞儀で挨拶をする。
「初めまして。私は里見那由多。この家の一人娘ですの。約束というのは、もしかしてパパの……」
那由多さんが何か問おうとすると、それを遮るように後ろから声がした。
「那由多様? そんな家の前でどうされました?」
「あ、ラビさん。どうやらお客様のようですの」
「お客様? ああ、夕凪さん。いらっしゃい。遠いところ、わざわざありがとう」
「え、ラビさん、お知り合いですの?」
那由多さんの問いにラビさんは頷く。
「はい。少し前、知り合ったのです」
すると、話の流れを遮るように新しい声が増える。
「なーゆーたーん! ラービーたーん! 遊びに来たよー!」
道路の向こう側から走ってくる小さな影が1つ。
ツインテールに纏めた銀髪を揺らしながら走ってきた、小学生くらいの女の子。
(あれ、この子どっかで……)
なんとなく見覚えがあって、私が思い出そうとしていると、向こうも私に気づいたようで、あーっと声を上げた。
「お姉さん! ミィのお財布を探してくれたお姉さんじゃん! 久しぶりー! ミィのこと、覚えてる?」
「財布? あっ」
その単語で思い出した。
しばらく前に、電車に財布を置き忘れてしまった子だ。確か、一緒に探して、なんとか見つけ出した記憶がある。
「思い出したよ。あれから財布無くしてない?」
「うん!」
少女、ミィちゃんは元気に返事をする。
「ミィ、ずっとお姉さんを探してたんだよ?」
「え? どうして?」
「お礼がしたかったからだよ! あのお財布、ミィの大切なものだったから見つけてくれてすごい嬉しかったんだ。でもお姉さん、名前も言わずにどっか行っちゃうし。もう会えないかと思ったよー!」
ああ、そういえば名前教えてなかったっけ。
あの時は私も余裕がなかったし、早くお財布見つけなきゃと思って焦ってたからなぁ。
「ごめんねー。じゃあ改めて自己紹介だね。私は夕凪凜。あなたの名前も教えてくれる?」
「うん、ミィは八雲みかげ! よろしくね、凜お姉さん!」
「みかげちゃんか。良い名前だね。……うん? 八雲? ねえもしかして……」
私の脳裏をよぎった、ある可能性を確認しようと質問しかけたところで、目の前の家の玄関が開いた。
「那由多? どうしたんだ、玄関の前で」
「あ、パパ」
私が那由多さんと同じ方向を見ると、玄関から男の人が出てきていた。
ボサボサの髪とあんまり整えられてない髭。丸い眼鏡をかけた彼が、那由多さんのお父さんなのだろう。
そして恐らく……。
「教授。この子が、私がお伝えした子です」
ラビさんがそう言って、私に手を向けます。
だから、私も先ほどは不発に終わった自己紹介を再度やる。
「初めまして! 夕凪凜です。よろしくお願いします!」
すると、彼は優しく笑って言う。
「はは、そんなに緊張しなくていいよ。キミのことはラビから聞いてる。初めまして、夕凪くん。私は里見太助。そこの那由多の父で、キミが買った『魔法少女 その希望と絶望』の作者だ」
太助さんは続けて言う。
「ラビからある程度聞いているけど、改めて聞くよ? 私たちの活動に協力したいっていうのは本当かい?」
太助さんのその問いに、私は真っ直ぐ答える。
「はい。私にできることが何かは、まだ分からないけど……。でも、少しでも生きて、幸せになってほしい人たちに、私は囲まれているんです。だから、皆のために少しでも何かをしたいんです。それで世界が、彼女たちに少しでも優しくなるなら」
私の言葉を聞いた太助さんは、なるほど、と頷いてラビさんを見る。
「聞いていた通りだ。ラビ、よく見つけてきてくれた」
「ありがとうございます。教授も気に入ると思っていました」
ラビさんもフッと微笑む。
「ちょ、ちょっと待ってほしいですの!」
そんな中、声を上げた人が一人。
さっきからポカンとしていた、那由多ちゃんだった。
「え、この子はラビさんのお客様ですの? まだ状況が把握できていないんですの……」
「まあ、概ねそんなところですね。そして、これから私たちの仲間になる人です」
混乱する那由多ちゃんに、ラビさんは簡潔に答える。
「立ち話もなんだろう。那由多への説明も兼ねて、家の中でゆっくり話そうじゃないか。さあ、入って入って」
太助さんのその言葉に、真っ先に返事したのはみかげちゃん。
「ありがとう! お菓子もある?」
「ああ、もちろん」
「わーい! お邪魔しまーす」
「みかげさん、先に手洗いを済ませてくださいね」
彼女に続くように、ラビさんと太助さんも中に入る。
残された那由多ちゃんはため息をつくと、切り替えるように首を振る。
「仕方ないですの。パパは昔から大事なことの報連相をしない人だから……」
那由多ちゃんは私を見ると、手を出してくる。
「それにあなたが悪い人じゃないのは、今のやり取りでなんとなく分かりましたの。改めて、これからよろしくですの、凜さん」
「うん、よろしくね、那由多ちゃん!」
彼女の差し出してくれた手を、私は握る。
「なーゆーたーん! 凜おねーさん! はーやーくー! お菓子、先に食べちゃうよー!」
家の中からみかげちゃんの声がする。
「今行きますのー! というか、どうして凜さんだけお姉さん呼びですの!? 私だって……」
「まーまー。早く入ろ、なーゆたん」
「あなたまで……!」
那由多ちゃんの反応が面白くて、ついからかってしまう。
まあでも、那由多ちゃんも本気で嫌がっている感じはしないし、あの愛称も案外気に入っているのかもしれない。
そうして私たちは、みかげちゃんに急かされるように家の中へと入っていった。
魔法少女を救うための手立てを探る、私のその活動の第一歩は、駄菓子でのお茶会から始まった。
ここまで読んでくださった読者の皆様。
本当にありがとうございました。
これにて本作は完結とさせていただきます。
物語を書き始めたのが去年の3月頃と考えると、実に一年以上連載していたことになりますね。
こんなに長くなるとは、作者自身全く考えていませんでした。
それでも、多くの人に読んでいただいて感謝の念に堪えません。
これを書いている時点で、お気に入り登録数は600件超えと、予想以上の反響でした。
感想も沢山いただけて、執筆の大きな励みとなっておりました。
この小説の裏設定などは活動報告に載せておきますので、ご興味のある方はそちらもどうぞ。
さて、ほむら、まばゆ、凜の物語はここで一旦区切りとなりますが、現在アナザーストーリーでも書こうかな、と考えております。
マギレコではお馴染みのアナザーストーリー。完全な蛇足にはなってしまいますが、もし望む声が多ければ、短いながら書かせていただこうかなと思います。
それでは改めまして、ここまで読んでいただきありがとうございました。
もしまたご縁がございましたら、その時はよろしくお願いいたします。
本当にありがとうございました。