魔法少女まどか☆マギカ 実績『朝焼けのエンドロール』獲得   作:くろしゅー

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(推理モノみたいになったので)初投稿です。



DAY.??~DAY.82 掴めなかった手、伝えたかった想い

 

 

 

 

「はあっ、はあっ、はあっ」

 

 

 大丈夫、まだ間に合う……!

 

 

 

「お願い、無事でいて……!」

 

 

 

 きっと大丈夫。

 

 今度こそ救うんだ。もう、メルみたいなことは……!

 

 

 

 

 っ!

 

 皆の魔力!

 

 

 

「あっちか!」

 

 

 この方角。多分、あの橋の下にいる。

 

 あそこなら人目に付かないし、皆が彼女を追い込むならあそこしかない!

 

 

 

(あとちょっと……! 大丈夫、誰も死なせない……! それができるはず……!)

 

 

 

 

 でなきゃ、私は……。

 

 

 

 

 

 

 

「更紗さん!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 DAY.82 Side RY

 

 

 

「以前、神浜で昏倒事件を起こした、『混沌』更紗帆奈さん。その彼女とかつて一緒に活動していた魔法少女。それがみことちゃんだよね?」

 

 私の問いに、みことちゃんは笑顔で応じる。

 

「ピンポーン! せいかーい。よく思い出せたね、凜ちゃん」

「……むしろ申し訳ないなくらいだよ。あの事件のこと、すぐに思い出せなかったなんて」

「私が言えたことじゃないけど、仕方ないよ。あの日、私たちは出会ってないんだもん」

 

 みことちゃんは可笑しそうに笑う。

 

 

 

 あの日。

 みことちゃんの言う『あの日』とは、間違いなく神浜の魔法少女昏倒事件が、そして『混沌』が引き起こした全てのカオスにケリがついた、あの日のことだろう。

 

 そして、私自身が真の無能であることが証明された日。

 

 

(まばゆたちと出会って忘れていた……。本当に私は……)

 

 

 

 

 どこまでいっても、救えないヤツだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 DAY.?? Side RY

 

 

 

「鶴乃先輩、今日って昏倒事件の話をするんですよね?」

「そうだよー。いやー、やっとだね。やちよに頼まれたときは驚いたけど、ここまで調べてきた甲斐があったね」

 

 あの日、私は鶴乃先輩とともに、静海このはさんという魔法少女たちが使っている隠れ家に向かっていた。

 理由は、最近神浜を騒がせている昏倒事件について、それぞれが集めた情報を纏め、交換するため。

 

 

 

 この少し前から、私と鶴乃先輩はやちよ先輩に頼まれて、数日前に発生した昏倒事件について調査をしていた。

 

 

 

 魔法少女昏倒事件。魔法少女が何者かに襲われ、突然の昏倒をする事件。

 その第一容疑者となったのが、今向かっている隠れ家にいる静海このはさんの仲間、遊佐葉月さん。

 もちろん彼女たちはそれを否定したし、私も彼女たちが犯人だとは思っていない。

 彼女たちは、以前似たような事件が起きたときに疑われているのだ。そんな状況で再び事件を起こすとは考えにくい。ここで彼女が犯人となるのは、あまりに話が出来すぎている。それこそ、誰かの考えた筋書きみたいに。

 

 

 やちよ先輩も同じ考えらしく、少しでも人手が欲しいと調査協力を求められた。

 

 そして、私は鶴乃先輩と一緒にこの事件を調べ始め、その結果を今日、この事件を追っている他の人とも共有するつもりだった。

 

 集まるのは、静海このはさんたちのチームに加え、常磐ななかさんたちのチーム、それに大東団地の子たちもそうだと聞いていた。

 

 

 

 

 けど。

 

 

「凜はしばらく外で待機してもらってていい?」

「え……? 待機、ですか?」

 

 鶴乃先輩からの突然の待機命令に、私は思わず聞き返す。

 

「うん。ちょっと考えたんだけど、ここに事件の関係者が全員集まるって、なんか危なくない?」

「あっ……」

「さすが凜。察しがいいね。この事件に黒幕がいたら、このタイミングを狙われてもおかしくない。だから、凜はもしもに備えて外で待機してて」

「分かりました」

 

 たしかに。

 この事件の黒幕が私なら、ここで一網打尽にするのが手っ取り早いと考える。

 

「それに、今回は多分腹の探り合いみたいな話し合いになるだろうし、凜は落ち着いた頃合いに紹介したほうがいい気がして」

 

 鶴乃先輩はそう付け足して、隠れ家へと向かった。

 

 

 

 

 

 それからしばらく、私は隠れ家の近くで息を潜めて待機していた。

 いつ、黒幕がやって来ても対応できるように。

 

 

 これで相手の意表をつければ、と思っていた。

 しかし、先を読む力は相手のほうが一枚上手だった。

 

 

 突如、隠れ家の入り口のドアが乱暴に開かれた。

 私が目をやれば、紫色の髪に赤い帽子を被った魔法少女が飛び出してきたところだった。

 

 まるで、誰かから逃げるように。

 

(なに……? もしかして、彼女……!)

 

 私はいつ、あの隠れ家を襲撃しに来るか見張っていた。

 けど、そもそも前提が間違っていた。

 

 

 

 黒幕はすでに隠れ家に潜伏していたのだ。

 

 

 直後、鶴乃先輩からテレパシーが届く。

 

『凜! 聞こえる!?』

『鶴乃先輩!?』

『今飛び出してったのが黒幕! すぐに追いかけて!』

『鶴乃先輩たちは!? 無事なんですか!?』

『ごめん! まんまとやられた! 相手の魔法は『暗示』! それで私たち、100秒足が動かない暗示をかけられちゃって……。ごめん、今は追えないんだ!』

『分かりました。とりあえず無事ならいいです! 追いかけます!』

『おねがい!』

 

 

 そうして、私は逃げた魔法少女を追ったのだった。

 

 

 

 

 

 DAY.?? Side TY

 

 

「にしても鶴乃。凜は連れてこなかったんじゃないの?」

「ふっふっふ。ししょーも甘いな~。敵を騙すにはまず味方から。伏兵として潜ませたんだよー。こういうときのためにね」

 

「すみません。その、凜さんという方は……? それに一人で追わせて大丈夫なのでしょうか? 危険では?」

「常磐さん、ごめん。皆にも後で紹介するよ。そして、安心して! 凜は私の一番弟子! だからきっと、大丈夫!」

 

 

 

 

 

 DAY.?? Side RY

 

 

 

 

 

 私は巻き戻しの魔法を駆使して、逃げた魔法少女を追った。

 

 

 

 私が今まで調べてきたこと。みたまさんから得た情報。そして、それらから導き出された推理が正しければ。

 

(きっと彼女は……)

 

 

 

 

 

 ついに廃ビルの一部屋まで辿り着き、私は息を整えて部屋に突入した。

 

「っ!?」

 

 そこにいたのは、ずっと追っていた少女。

 

「やっと会えた……」

 

 少女は警戒心剥き出しの顔を私に向けてくる。

 

 それでも、私は武器を構えずに彼女に一歩近づく。

 

「初めまして、だね……。更紗、帆奈さん」

 

 

 

 

 

 

「おっとっと……、こいつは想定外」

 

 少女、更紗帆奈さんは驚いた顔を見せるも、それも一瞬のこと。

 すぐに不敵な笑みを浮かべ、私に質問してくる。

 

「だれだれ~? あたしを追ってきたってことは、あいつらの仲間だよね? なんか見覚えあるかも」

「そうだよ。私は夕凪凜」

「自己紹介どうも。んじゃあ、そこですとっp」

「私!! あなたと話をしたかったの! ずっと!」 

 

 更紗さんの言葉を大声で遮る。

 更紗さんは意表を突かれたような顔をして、口を閉じる。

 

(やっぱり……。『暗示』の魔法の発動条件は声と言葉)

 

 鶴乃先輩に彼女の魔法が『暗示』だと聞かされてから、私は彼女を追う間に、その魔法について考えていた。

 策もなく接触すれば、鶴乃先輩たちのように魔法で動きを止められかねない。下手したら、そのまま殺されてしまう可能性もあったから。

 私が殺されることは良いとしても、犬死にだけは避けたかった。

 

 

 魔法の発動にには必ず条件が存在する。強力な魔法であればあるほど、その傾向は強い。

 これまでの事件の状況と彼女の行動から、『暗示』に条件があるのは分かっていた。そして、つい先ほどの鶴乃先輩たちの状況でそれがはっきりした。

 

(暗示という精神干渉系統の魔法でたくさんの人数に同時発動するってことは、考えられる手段は音。彼女が言おうとした言葉から考えても、彼女の言った言葉が暗示として発動する、って感じかな)

 

 だから先手を打った。

 大声を張り上げて、相手の意表を突く言葉で、彼女の言葉を封じた。

 もちろん、これ以外の暗示の手段もあるかもしれないが、今は使ってくる気配がない。

 

 とりあえず、これで第一段階はクリア。

 問題はここからだ。

 

 

 

 更紗さんは少しの間目を丸くしてたけど、すぐに胡散臭そうな顔をする。

 

「……ハァ~? あたしと話したかった? なに? もしかしてあたしのファン?」

 

 更紗さんは、あっ、と手を叩く。

 

「それとも、あたしに説教垂れたいタイプ? なんでこんなことしたの~、とか」

「半分正解かな。たしかに、ここまでの事件を起こした理由は知りたいかも。けど、説教をしたいわけじゃないよ。そもそも、私だってそんなことできるような人間でもないし」

「じゃあ何さ。鬼ごっこの追加参加者?」

 

 私は首を振って言った。

 

「私、更紗さんと友達になりたいの」

 

 

 

 私の言葉に、更紗さんは更に胡乱げな目を向けてくる。

 

「は? いやちょっと意味分かんないんだけど。 あんた視点で友達になりたい要素あった? ぐっちゃぐちゃになるのはいいけど、こういうのは求めてないんだよな~。というか、あんたのこと思い出した。七海やちよの取り巻きの一人だったやつ。 なら、あたしたち敵同士だと思うんだけど?」

 

 更紗さんはヘラヘラと笑いながら、呆れたように言う。

 

「そうだね。更紗さんからしたら訳わかんないと思う。でもね、私だって色々調べてたんだよ? あなたのこと」

「みたいだね。まあ、あたしに辿り着くのにちょーっと時間掛かりすぎだっだけど……」

「違うよ。私は彼女たちとは別に、一人であなたを追っていた。より正確に言えば、知らず知らずにあなたの痕跡を追いかけてた、だけど」

 

 そう。私は昏倒事件が起きる前から、彼女を追っていた。追っていた人物が彼女だと判明したのはつい最近だけど。

 

 

 

 私は少し前から、少しでも鶴乃先輩みたいになりたくて、困っている人を助けるために神浜各地を奔走していた。

 誰かを助けられる自分になりたくて。もう二度と、誰かを救えないことがないように。

 

 その中で、不可解なイタズラの話を聞くこと、不可解な動きをする魔女と戦うことが何度かあった。

 魔女はまるで誰かに操られているような、そんな感覚がした。

 

 それらに何かの作為を感じた私は、密かに調査を始めることにした。

 

 鶴乃先輩には相談しなかった。

 ただでさえ負担をかけている先輩に、もしかしたら、で、これ以上負担をかけたくなった。

 

 

 事件の状況、どこで起きたか。これらの事件に、どんな意図が込められてるのか。

 それらの情報を繋げれば、私の感じた違和感の答えに、ひいてはこの事件の犯人に繋がっていると思った。

 

 そして、私が集めた情報を纏めて推理していたときに、魔法少女の昏倒事件が起きた。

 

 私の直感が告げていた。

 この事件もまた、私が追っていた事件と繋がっていると。

 

 だから、鶴乃先輩には申し訳なかったけど、先輩と調査する裏で独自に調査と推理を続けた。

 みたまさんに秘密裏に協力を取り付けて、私の推理を裏付ける情報を集め続けた。

 

 

 

 そしてついに、私は犯人であろう人物にたどり着けた。

 同時に、この事件の大まかな真相が見えて……。

 

 

 私は口を噤むことにした。

 

(ごめんなさい、先輩。本当は私、もう犯人の名前知ってたんです)

 

 心の中で先輩に謝る。

 

 本当は皆に情報を共有するべきだったのだろう。

 彼女の名前、私の推理を。そうすれば、もっと犯人にたどり着くのも早かったはずだ。

 

 でも……。

 

(でも、どうしてもこの状況に持ち込みたかったんです)

 

 

 

「じゃあ、あんたは犯人があたしだってとっくに気づいてたわけか」

 

 更紗さんの言葉を、私は頷いて肯定する。

 

「元々推理に必要な情報が手元に集まっていたからね。それに、あなたがヒントを多く残してくれたおかげで、割と早めにあなたへとたどり着けたよ。運が良かったのもあるけど」

「ふーん……。の割には、情報共有しなかったんだ。あいつら、あたしの名前を聞くのも今日が初めてっぽかったけど?」

「そうだよ。だって、わざと黙ってたもん」

「なんでさ。あんたが黙ってるメリット、なんかあったわけ?」

 

 メリット、か。

 確かに、私がこんなことをするメリットはない。

 

 けど、理由はある。

 

「それこそさっき言った理由だよ。私はあなたと友達になりたい」

「……ダメだ。何度聞いても、その結論に至る理由が分からん」

 

 お手上げ、とでも言いたげに、更紗さんは手を上にあげてヒラヒラと振る。

 

「私、色々と調べたって言ったでしょ。昏倒事件の起きた場所はバラバラなようで、比較的水名区からアクセスしやすい場所だった。皆、静海さんたちに気を取られていたようだったけど、残された状況証拠を調べれば、割と学校を割り出すのは簡単だったよ」

 

「それで水名女学園に、登校してないのに不自然に気にされていない学生がいることを知った。まるで、気に留めないよう『暗示』を受けているみたいな、ね」

 

 それを聞いた更紗さんは、少し驚いたような顔をする。

 

「マジ? しくったな~。静海このはや常磐ななかたちばっか気にしてて、そっちは疎かだったわ」

「実際、常磐さんたちを隠れ蓑にさせてもらったよ。他にも動いてる人たちがいるのは聞いてたから。事件に関係ないところから、ゆっくりアプローチさせてもらったんだよ」

 

 私の解説を黙って聞く更紗さん。

 しかし、その表情は帽子のつばに阻まれて見えなかった。

 

「そこで学校に忍び込んで、あなたの生徒名簿を調べたよ。あなたの住む家の住所でも分かればって」

「へー、そこまで調べたんだ。でも、残念だったね~。あたしの住所は……」

「……うん。そこの住所、孤児院だった」

 

 あッは!と更紗さんは声のトーンを上げて笑う。

 

「ねえ、どんな気持ち? 相手の弱みとか、家族人質に取れると思った? でも残念。あたし、あそこには何の情もないわけ。あそこ人質に取られようが知ったことじゃ……」

 

「自分を蔑ろにするのはもう止めて!!」

 

 

 自分でも驚くくらい、大きな声が出た。

 

 私は怒っているのだろうか。それとも、悲しんでいる?

 

 なんだか、自分の感情が迷子になってしまったみたいだ。

 

「……調べたって言ったでしょ。あなたがどうしてその施設にいたのか、色々手を尽くして調べさせてもらった」

 

 事件に直接関係ないとは分かってた。

 けど、私は調べないと気が済まなかったんだ。

 

 

 その真実から、目を背けてはいけない気がして。

 

「虐待、だったんでしょ?」

「……」

「そのご両親が死んで、引き取る親族もいなかった。だから施設に引き取られた」

「……あんたさ、そうやってズカズカ人の過去に踏み入ると嫌われるよ?」

「それは……、本当にごめん。でも私、調べて良かったと思ってる」

「良かった?」

「うん。あなたのこと、何も知らずに倒す道を選んでたら、私はきっと後悔した。絶対自分を許せなかった」

 

 私はきっと薄々感じてたんだ。彼女の足取りから。

 

 

「だって、私もそうだったから」

 

 私と同じ、虐待を受けた子どもだったんだって。

 

 

「それだけじゃない。あなたの相棒だった子、瀬奈みことさん。彼女もそうだったんでしょ?」

「……マジでよく調べたね。あんた、ストーカーの素質あるよ」

 

 更紗さんが初めて不機嫌そうな顔をする。

 

 まあ当然だろうな、とは思った。

 この過去を掘り返されるのは、あまり気持ちの良いものじゃない。

 

 けれど、この事実を伝えないと、私の言葉は届かない気がした。

 

 

 

「『帆奈と瀬奈』」

「っ!」

「あなたが大東学院で起こした落書き事件。当時は悪質なイタズラとして処理されてたけど、その当時のことを覚えてた学生は結構いたよ」

 

 更紗さんの顔に、初めて動揺が走る。

 それを見て、私は彼女がただの愉快犯じゃないことを確信する。

 

「あなたの名前を調べる最初の手がかりになったのは、それだった。調整屋さんから今回の事件に瀬奈みことが関わっているかもって聞いた時点で、私は確信したよ。あなたが今回の事件の真犯人だって」

「……すげー執念。なんでそこまで……」

 

 すると、不意に更紗さんが声を上げた。

 

「あー、そういうこと? あたしらが虐待されてた事実を知って、自分と同類だと思ったから友達になりたいってこと?」

「そうだよ。私もそうだったから、何か力になりたいの」

「なるほどね」

 

 ふんふん、と更紗さんは何回か頷いた後、私に向かって舌を出す。

 

「なら、余計お断りだよー。べー」

 

 更紗さんは杖を回しながら言う。

 

「あたしらはさ、そういう安っぽい同情が欲しくてこんなことしてるんじゃないの。勝手に同類判定されても困るんだわ」

 

 更紗さんはわざとらしくポーズを取りながら続ける。

 

「あたしはさしずめ、この世界を混迷に陥れる『混沌のヴィラン』。そんな同情、これっぽっちも求めてないんだわ。それに、友達になったからってなんなの? どうせ安全圏から、改心しろ、とか、正しい道に戻してあげる、とか安っぽいことを言うだけでしょ? そんなの無駄無駄。だってあたし、改心する気ないもーん。あっは!」

「……だから、そんなことしないって」

「うん?」

 

 私は口を開く。

 

「更紗さんは、どうして私が一人でここに来たと思うの? あなたを捕まえるだけなら、先輩たちが合流してから一緒に突入すればいいだけ」

 

 身体が震える。

 頭の中で何度も反芻した言葉を飲み込みそうになる。

 

 これを言ってしまえば、もう後戻りはできない。

 

 

 

 けれど。

 

(もう、いいんだ。どうせ私は、生きてたって迷惑をかけ続けるんだから。それなら、いっそ……)

 

 

 私は覚悟を決めて、言葉を紡ぐ。

 

「私はね、更紗さんの味方になりに来たんだよ。あなたを庇いにきたの」

「……あんた、自分が何言ってるか分かってる?」

「うん。これは先輩たちへの裏切りだって、重々承知。それでも、私はあなたの味方になりたい」

「それも同情心から?」

「多分。あなたのこと、私は他人事に思えない。何かが違えば、きっと私もあなたと同じ状況だった。そんな私は、皆を犠牲にしてここまで生きてきてしまった。きっとそれは、あなたを助けるためだったんだって、あなたを知って思ったの」

 

 私には、私の命の価値が分からなかった。

 大好きな人を苦しめるばかりで助けることができない、私という存在が嫌いだった。

 

 

 けれど、更紗さんのことを知って、私はここが、私という存在の使い所だと思った。

 私の命が苦しみと悲しみに喘ぐ誰かを救える奇跡を起こせるなら、こんな命など迷いなく捧げられる。

 

「けど、更紗さんの凶行を見てられないのも当たり」

 

 私は更紗さんに手を伸ばす。

 

「だから自首しよう。もちろん、更紗さん一人に責任は負わせない。私も一緒に罪を被るし、罰も受ける。更紗さんが辛かったら、ずっと支える。寂しかったら抱きしめる。全て捨てても、私は更紗さんの側に居続ける」

 

 私に残された命、全部更紗さんに使う。

 それはもう決めたことだ。

 

 きっと、皆からは嫌われるだろう。

 でも、理解なんていらない。私が苦しい思いをするなんていつものことなんだから。その苦しみが、私と同じ悲しみを抱えた子の幸せに繋がるのなら、私はそれで満足だ。

 

 

 

 それが、今の私に許された、たった1つの幸せなのだから。

 

 

「今だったら、きっと皆も重い罪は要求しない。だから更紗さん、もう止めよう? ここまでだよ。これ以上は、本当に取り返しがつかなくなる」

 

 私は別に、更紗さんが更生するとかに興味はない。

 でも、更紗さんが望んで破滅の道を進むことだけは、止めたかった。

 

 これ以上事を進めれば、常磐さんたちも止まれなくなるだろう。間違いなく殺し合いになる。

 そうなれば、私たちはやちよ先輩を筆頭に、最低でも10人以上の魔法少女を敵に回す。勝てる訳がない。

 

 

 

 でも、更紗さんも死なせたくない。

 

 だから。

 

(お願い……! ここで止まって、更紗さん……!)

 

 

 

 

 すると、黙って私の言葉を聞いていた更紗さんが、ふっと微笑む。

 

「凜」

 

 更紗さんは私の名前を呼ぶ。

 

「あんたって、ほんっっっとーに、バカだね」

「……へ?」

 

 更紗さんの言葉に、私は動きを止める。

 

「ふつー、会って数分の相手にこんなこと言う? あんたの命と人生はどうすんのさ」

「そんなものいらない」

「即答かよ……。いらないって」

「そもそも、私は生きてちゃいけない人間なの。お父さんとお母さんを苦しめて、虐待という犯罪者にして。私と仲良くしてくれたメルはみすみす死なせて。みふゆ先輩の支えになれず、やちよ先輩に嫌われて。それでも私を見捨てずにいた鶴乃先輩に、あまつさえ寄りかかって、重荷になって。生きてるだけでこんな罪を重ねるくらいなら、こんな命いらない!」

 

 ああ、言ってしまった。

 

 ずっと黙っているはずだったのに、更紗さんの前だと思わず言ってしまう。

 きっと私が、彼女ならこの思いを理解してくれるって期待をしているから。

 

 これだからダメなんだ、私は。

 

「けど、この罪のおかげで私は今生きている。なら、誰かのために使わないと。そうじゃないと、私は私を許せない。何より、皆が許さない。だから、更紗さんに使うの。あなたのためなら、私は全部を捧げられる。あなたを救えれば、きっと私が生まれた意味になる。ここまで烏滸がましく生きてきた価値は見いだせる。だから……」

 

 あ、マズい。

 馴染みのある違和感を目元に感じた時にはもう遅く、私の目からは涙が零れる。

 

「だから、死なないで……! もう、誰かが死ぬのはイヤなの……! 死ぬのは私が引き受けるから……! もう私のせいで死なないで……」

 

 

 なにやってるんだ、私。

 

 助けるっていったくせに。みっともなく泣いて、言うことがこれか。

 

 どうして私は最後まで気丈に振る舞えないんだ。鶴乃先輩は涙なんか一回も見せなかった。

 それに、これじゃあ更紗さんに縋ってるだけじゃないか。

 

「この事件起こしたことだって、私は責めないよ……! きっと仕方なかったんでしょ……? 更紗さんがイジメに遭ってたことも知ってる。誰にも頼れなかったんだよね。誰も手を伸ばしてくれなかったんだよね。分かるよ、私」

 

 私が一歩一歩近づくのを、更紗さんは止めなかった。

 

「私は運が良かっただけ……。それなのに、そのチャンスすら無駄にしたから。せめて、私と同じ境遇の人を救うためにこの命を使いたいの」

 

「だから、だから……! 更紗さん、私の手を取って……! 大丈夫、あなたは絶対に守るから……! この命に代えても、絶対に!」

 

 ようやく彼女に手が届く距離まで近づいた。

 

 私は彼女の手を取ろうと、更紗さんに手を伸ばす。

 

 

 

 すると、更紗さんも私に向かって手を伸ばす。

 

 私は彼女の手を掴むために手を開き……。

 

 

 

 

 

 

 私の手のひらは空を切った。

 

「えっ……」

 

 更紗さんが、私の手を避けたのだ。

 

 

 虚空を掴んだ私の手に更紗さんは手を伸ばし、私の手の甲を掴んだ。

 

「ありがと。正直言って、あんたのこと舐めてた。口先だけかと思ってたけど、そんな感じじゃなさそうだね。さっき言ったこと、全部本気なんでしょ?」

「もちろんだよ! だから……」

「それなら、凜の手は取れない」

「どうして!?」

 

 更紗さんは困ったように笑い、私の手の甲を優しく撫でる。

 

「凜は希望なんだよ」

「き、ぼう……?」

「うん。あたしはさ、この世界が嫌いだった。世界はいつだってあたしたちに冷たくて、私から瀬奈を奪った。あの子の希望も未来も、奪ったんだ。だから、ぐっちゃぐちゃにするって決めたんだ」

 

 彼女が語るのは、これまでの事件を起こした動機。それを語る更紗さんは遠い目をしていた。

 

「けど、本当の理由はもっと単純でさ。世界に訴えたかったんだ、あたしたちの声を。あたしたちはここにいるんだって」

 

 彼女は笑う。その顔は今までのものよりずっと穏やかで、寂寥の色を纏っていた。

 

「主張するだけで良かったんだ。どうせ、あたしたちのことなんて誰も気にしない。知ろうとしない。だから、最期に一暴れしてやろうとしたんだ」

 

 でも、と更紗さんは私を見る。

 

「こうやって、凜は私たちのことを知って、ここまで来てくれた。助けるって言って、手を伸ばしてくれた。正直、嬉しいよ。あんた、まるでヒーローだ。こうやって、あたしみたいな血に汚れた悪にすら手を伸ばすんだから」

 

 そこで更紗さんは言葉を区切る。彼女の目には影が差した。

 

「けど、ダメなんだ。あたしはもう、世界から討たれる敵になっちゃった……」

「そんなことない! 大丈夫、あなたが許されるまで私が一緒にいる! 命が必要なら、私が差し出す! だから……」

「だから、それじゃダメなんだって。あんたはもっと多くの人を救える。あたしにはできなかったこと、あんたになら託せる」

「遅くない! 更紗さんだって、まだ未来が……」

 

 私は彼女の腕を掴もうとして手を伸ばす。

 

 しかし、更紗さんはそれをするりと避けて、こう言った。

 

「『そこで1時間くらいじっとしてな』」

 

 そう言われた瞬間、足が動かなくなる。

 

「えっ!?」

 

(これ、暗示の魔法!?)

 

 私が動けなくなったのを確認した更紗さんは、出口へと足を向ける。

 

「待って……。待ってよ!!」

 

 私の叫びに更紗さんは足を止め、申し訳なさそうに笑う。

 

「凜。友だちになろうって言ってくれて、ありがとね。あたしにそう言ってくれたのは、瀬奈とあんただけだった。嬉しかったよ」

 

 更紗さんは私に近寄ると、私の目元の涙を拭う。

 

「あのさ。あたしを友だちって思ってくれるなら、1つだけお願いしていい?」

 

 更紗さんは私の目を真っ直ぐ見る。

 

「この世界に希望はあるって、証明してほしいんだ。憎しみと絶望なんかに負けない希望があるって。この世界にも価値はあるって」

「なんで私なの!? その夢は更紗さんが……」

「あんたに叶えてほしいの。凜なら、やってくれそうだから」

 

 そう言うと、更紗さんは今度こそビルの出口へと向かう。

 

「ダメ、行かないで……」

 

 

 私の声に、更紗さんは振り返ることなく答える。

 

「あっは! じゃあねー、お人好しヒーロー」

 

 

 彼女は手をフラフラと振り、そのまま振り返ることなく走り去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私の手は届かなかった。

 

 その後、更紗さんの暗示通り1時間で動けるようになった私は、急いで更紗さんを追った。

 

 

 どこにいるかも分からない更紗さんをひたすらに。

 

(彼女は鬼ごっこって言ってた。ってことは、自分を追えるように何らかの痕跡は残してるはず……! それを辿れれば……!)

 

 

 私は走った。

 がむしゃらに走った。

 

 

「はあっ、はあっ、はあっ」

 

 

 大丈夫、まだ間に合う……!

 

 

 

「お願い、無事でいて……!」

 

 

 お腹の奥が冷たくなるような感覚をかき消すように、私は自分に言い聞かせるように繰り返し呟く。

 

 もしかしたら、私はこの時点で悟っていたのかもしれない。

 

 この鬼ごっこの結末を。

 

 

(きっと大丈夫。今度こそ救うんだ。もう、メルみたいなことは……!)

 

 

 

 魔力探知をして、私は知っている魔力を見つける。

 

 

(っ! 皆の魔力!)

 

 

 

「あっちか!」

 

 

 この方角。多分、あの橋の下にいる。

 

 あそこなら人目に付かないし、皆が追い込むならあそこしかない!

 

 

 

(あとちょっと……! 大丈夫、誰も死なせない……! 私にだって、それができるはず……!)

 

 

 

 

 でなきゃ、私は……。

 

 

 

 

 

 

 

「更紗さん!!」

 

 

 

 

 

 私が辿り着いたとき、そこには二人の魔法少女がいた。

 

 

 一人は常磐さん。

 手に持った刀の先を降ろし、そこに佇んでいた。

 

 

「えっ……」

 

 

 

 そしてもう一人は、地面に斃れていた。

 

 

「あ……」

 

 

 そこにいたのは、更紗さんだった。 

 その体に、生の熱は感じない。傍らには砕けたソウルジェムが散らばっていた。

 

 

「……ああ」

 

 

 

 

 ほら。

 

 

 

 

 

 やっぱりダメだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局、私には彼女を救えなかった。

 

 

 

 

 彼女がこの結末を望んでいるんじゃないかって、私は薄々感じていた。

 彼女の犯行を調べたときに、彼女からは生き急いでいる感じがした。

 

 

 それはきっと、私も同じだったから。

 その命を削ってまで、証明したいことがあったんだ。

 

 

 でも、私には更紗さんのしたかったことが分からなかった。

 

 1つだけ言えるとすれば、更紗さんは誰かのために命を使い切ったってこと。

 

 

 

 

 ――この世界に希望はあるって、証明してほしいんだ。憎しみと絶望なんかに負けない希望があるって。

 

 

 

 彼女の言葉。

 これは絶対、自分のためだけの願いじゃない。

 

 その世界を見せたい人がいたんだ。

 そのために足掻いて、そして私に託した。

 

 

 今思えば、彼女は悪役を演じていただけなのかもしれない。

 

 本当に全てどうでもいいのなら、あんなお願いするわけがない。

 

 

 更紗さんは自分を絶対悪にして、自分を殺させたかったんだ。

 自分という悪意に負けない強さが、この世界にあると証明するために。

 

 

 

 彼女は彼女なりのやり方で、この世界の希望を証明しようとしたんだ。

 

 

 

(でも、なんで私なの……)

 

 

 

 私は更紗さんほど強い人間じゃない。

 私がこの命を削るのは、結局自分のためだ。

 

 誰かに愛されたいから。誰かに私を一番に見てほしいから。愛されていることを証明したいから、誰かのために命を張ってるだけだ。

 

 更紗さんのように世界を敵に回すことも、誰かに嫌われることすら、私に覚悟できていなかったのだろう。

 

 だから、私の手は更紗さんに届かなかった。

 

 

(そんな私にできることなんて、あるのかな……?)

 

 

 

 考えて、考えて、考えて。

 

 

 

 

 

 

 

 その末に出した結論は、自分の心を殺すことだった。

 

 私の自己保身が誰かを殺し続けるのなら、私は私なんていらない。

 

 

 そうすれば、せめて私が死なせてしまった、傷つけてしまった人たちに少しだけ、顔向けできると思ったから。

 

 

 誰も救えないバカな私に思いついたのは、所詮この程度の答えだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 DAY.82 Side RY

 

 

 

 

「……うん、覚えてる。みことちゃんのことも思い出したよ」

 

 

 そうだ。

 みことちゃんの名前、あの事件の時に知ったんだ。

 

 

 

 そして、思い出す過程で分かった。

 更紗さんが希望を証明したかった人こそ、みことちゃんなんだ。

 

 あの時、更紗さんはまるで自分以外にもいるような言い回しがあった。

 もしあの時の更紗さんが、今の私と同じ状況なら。きっとあの場にはみことちゃんもいたんだ。

 

 だからこそ、更紗さんは私に……。

 

 

「うん。ほぼ正解だよ」

 

 私の思考を読んだのか、みことちゃんはそう答える。

 

「あの時、私は帆奈ちゃんと一緒にいた。ううん、あの時だけじゃない。私が魔女になった時から、私たちはずっと一緒だった」

 

 みことちゃんは目を閉じながら、静かに呟く。

 

 そして目を開くと、みことちゃんは私を指差した。

 

「私が凜ちゃんを探してた理由も大体分かったかな?」

「更紗さんの言葉があった、から?」

「うん。あの時、なんで帆奈ちゃんはあなたに希望を託したのか、ずっと知りたかった」

 

 その言葉は、ある意味予想通りで、今の私にはとても重いものだった。

 

「私は帆奈ちゃんさえいてくれれば良かった。二人で楽しいことして、笑って。そんなキラキラした日常があれば、他には何もいらなかった。でも、帆奈ちゃんは殺された。常磐ななかに。そして、この世界に」

 

 そう言うみことちゃんの視線は、暗に私にも死なせた責任はあると言っているような、そんな目だった。

 

「帆奈ちゃんはこの世界に希望はあるって言ってたけど、私にはよく分からなかった。帆奈ちゃんが死んだ後、私は色んな人の中に入って、色んな視点で世界を見てきた。けど、帆奈ちゃんが言っていたような希望なんてどこにもなかった。当然だよね? だって、私の希望は帆奈ちゃんなんだから」

 

 でも、とみことちゃんは続ける。

 

「帆奈ちゃんが私に証明しようとしたくれた希望を、諦めたくもなかった。そんな時にね、凜ちゃんを見つけたの。運命だと思ったよ。凜ちゃんなら、私の希望を見つけてくれるんじゃないかって」

「それ、は……」

 

 言葉が出てこない。

 

 

 だって、私はみことちゃんの希望を見つけられていない。

 彼女にとって何が救いになるのか、私には分からない。

 

 いや、それどころか……。

 

 

 私の心を知ってか知らずか、みことちゃんは私に顔を寄せる。

 

「でも、凜ちゃんだっていきなり言われても分からないよね。私に希望を見せろ、だなんて」

 

 だから、とみことちゃんは耳元で囁く。

 

「私に協力してよ。私の希望なら、私が一番よく分かってる」

「みことちゃんの、希望……?」

 

 私は横を向く。

 みことちゃんが実体なら肌が触れてしまいそうな距離に、彼女の顔があった。

 

「凜ちゃん。私をもう一度、帆奈ちゃんに会わせて。私の希望は、帆奈ちゃんだけだから」

 

 

 私を見つめる彼女の瞳はガラス玉のように透明で、気が狂いそうになるような輝きを秘めていた。

 

「叶えて、くれるよね?」

 

 

 コテンと首を傾げ、上目遣いで私へとお願いするみことちゃんは、窓から入った月明かりを受けて、凄艶な雰囲気を纏っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 DAY.82 Side YN

 

 

 

 

 

 

 鏡の魔女の結界。通称、果てなしのミラーズ。

 この結界がそう呼ばれる所以は、いくつもの層と分岐点で構成される、まるで鏡でできた迷路のような結界だからである。

 

 他の魔女以上に複雑なこの結界は、侵入者を惑わせ、脱出不可能の罠と化す。

 

 

 それでも今日に至るまで、数多の魔法少女の協力と多くの調査で、少しづつ階層の構造も分かってきていた。

 

 

 

 

 はずだったのだが……。

 

 

 

 

 

「鶴乃! 次来るわよ!」

「あいあいさー!!」

 

 飛びかかってくる使い魔たちを蹴散らし、私は鶴乃に声を飛ばす。

 

 

 鶴乃のほうも、やって来る魔法少女のコピー体を次々と倒しながら返事をする。

 

 

 横目で軽く確認したが、十七夜もみたまも、まだ余力は残っていそうだった。

 

 

 

 しかし……。

 

「これは、想定以上だな……!」

 

 十七夜のぼやきに、私も頷く。

 

「ええ……! 使い魔の動きが活発とは聞いてたけど、結界内がここまでとはね!」

 

 突っ込んできたコピーを串刺しにしつつ、私は結界内を見回す。

 

 まだ第4層までしか来ていないが、すでに使い魔たちの迎撃は苛烈だ。

 

「八雲、どうだ!」

 

 十七夜はみたまに呼びかける。

 戦えない彼女を連れてきたのは、この結界を熟知している彼女に異変を調べてもらうため。

 

 そして、先ほどから結界内を観察をしていたみたまだったが、十七夜の呼びかけに芳しくない表情で答える。

 

「やっぱり……! 前回の調査時と結界の構造が少しだけ変化しているわ!」

 

 私はその言葉に驚くとともに、少し納得もしていた。

 ここまで鏡の魔女から変化の兆しが見えたのだ。ただでさえ変わりやすい結界の構造が、変化していないなんてことはあり得ないとは思っていた。

 

 できれば、その原因までも掴みたいところだが……。

 

「これ以上進むのは、中々キツそうね……!」

「うむ。こちらとて体力も魔力も無限ではない。撤退のことも視野に入れると、ここらが潮時だろう」

 

 十七夜も私の意見に賛同なようで、声こそ平坦だったが、頬には汗が垂れていた。

 

 

 私が鶴乃にも撤退を伝えようとしたところで、その鶴乃が大声を上げる。

 

「ししょー! 十七夜ー! みたまー! こっち来て! なんかすごいことになってる!!」

 

 鶴乃の要領を得ない言葉に一瞬首をかしげるが、すぐに鶴乃のほうへと足を向ける。

 

 普段の言動からは見えないが、鶴乃は常に学年主席の頭脳の持ち主なのだ。彼女が言葉に出来ないということは、それだけすごい光景があるということ。

 

 

 私は使い魔とコピーたちを捌きつつ、鶴乃に合流する。

 

「鶴乃、どうしたの!? 何が……!」

「これ! これ見て!」

 

 鶴乃が指したのは、一枚の鏡。

 

 そこに映る景色は、結界の別の階層。恐らくこの鏡から、他の階層に移動できるのだろう。

 

 しかし、そんな考えが一瞬で消えるほどの光景が、その鏡には映っていた。

 

「なに、これ……」

 

 

 その階層には、鏡の魔女とは別の魔女がいた。

 しかし、驚くべきはその数。

 

「一体、何体いるのよ……!」

 

 肉を焼いているような魔女、鳥かごに籠もっているような魔女、頭がレンコンの断面になっているような魔女、さびついた銀で身体を構成した魔女、などなど。

 

 明らかに別個体であろう魔女が、列を成して鏡の魔女の結界内を歩いていた。

 さながら魔女の大名行列とでも言えそうなその光景は、異質な魔女結界においても一際異彩を放っていた。

 

「どうした七海!? 一体何が……、っ!?」

「これ……!」

 

 後から来た十七夜とみたまも言葉を失っていた。

 それもそうだろう。魔女が群れるということ自体、普通であればあり得ないことなのに、それに加えこの数だ。

 

「ししょー……。なんなの、これ」

 

 さすがの鶴乃も衝撃が大きいのか、先ほどと同じようなことを繰り返し呟くだけである。

 かくいう私も、どうすればいいか分からない。こんな事態は始めてだ。

 

 

 

 ふと、後ろに気配を感じ、私は振り返る。

 

 すると、私たちの後方には数人のコピーたちがいた。

 

 そのうちの何人かは私たちに襲いかかってくる。

 

「くっ! もう追いついてきたか!」

「とにかく迎撃よ!」

 

 苦々しそうに呟く十七夜に、私はそう言って武器を構える。

 

 襲ってきたコピーたちを相手にしていると、先ほどの一団から私たちを襲いに来なかったコピーたちも、こちらへと追いついてきた。

 

(マズい……! ここで増援なんて……!)

 

 多少無茶してでも皆の血路を開くべきか、と私が考え始めたときだった。

 

 

 

 そのコピーたちは、私たちをスルーしたのだ。

 

 いや、そもそも私たちなんて目に入っていない。そのコピーたちの視線は、自分たちが歩いてきた後ろに向けられていた。

 

 私は自分に飛びかかってきたコピーを倒し、彼女らが見つめる先へと目線を向け……。

 

 

 

 

 私は目を疑った。

 

 そこいたのは、魔女だった。

 羊のような姿の魔女に、シンバルを持ったゼンマイ人形のような魔女。

 二体の魔女が、コピーを追うようにこちらへと歩いてきていたのだ。

 

 

 その魔女たちは、まるで先生に付き従う子どものようにコピーたちの誘導に従いながら、鏡の奥へと入っていく。 

 そうして列の最後尾へと並び、魔女の行列の一部となった。

 

 

(どういうこと? この結界内に魔女が集められている? もしかして、使い魔の活動が活発になっていたのは魔女を探すため?)

 

 私は今見た景色に圧倒されないよう、必死に頭を動かす。

 

(株分けの魔女が姿を現したのは、本体に集めるための入り口の役割を果たすため? 株分け個体と本体の結界は繋がっている。ということは、各地の株分け個体の結界を入り口に、果てなしのミラーズをターミナルにしてる?)

 

 各地から魔女が集っているとしたら、あの数も納得だが……。

 

(一体何のために……)

 

 

「七海! 上だ!!」

 

 十七夜の声が響くと同時、私は殺気を感じて横へと転がる。

 

 直後、私のいた地面が爆発する。

 

 

「十七夜、助かったわ!」

「構わん。それより……」

 

 巻き起こった粉塵から姿を現したのは、一人の魔法少女。

 

 いや、この場所にいるということは、正確に表現するなら魔法少女のコピー体だろう。

 

 

 ただ、そのコピーは他のコピーとは何かが違った。

 

 明らかに他とは放つオーラや威圧感が違った。

 

「十七夜、やちよさん、鶴乃ちゃん、気をつけて。あのコピー、何かが違うわよ」

「ああ、自分も感じている。八雲、後ろに下がっていろ」

 

 私たち三人は、警戒心を一気に引き上げながら構える。

 

 

 西洋の甲冑のような服と剣。そして欧州系の顔立ちからして、海外の魔法少女だろうか。

 

 そんな遠くまで株分けが渡っていたのか、と考えたときだ。

 

 

 コピーが剣を振り上げる。

 すると、その剣は光り輝き、凄まじい魔力を宿す。

 

「っ!? 皆、避けて!!」

 

 私の声に、三人全員がバラバラになって避ける。

 

 

 

 次の瞬間、剣から放たれた光波は地面を抉り取りながら私たちのいた場所を通過。結界の壁にいくつもの大穴を空ける。

 

「ウソでしょ……!?」

「なんという威力……!」

 

 強い。

 間違いなく、今まで会ってきたどのコピーより。

 

 

 戦っても犠牲が出るのは間違いないと、私は本能的に理解する。

 

「全員撤退するわよ! 殿は私が務める!!」

 

 その言葉に反対する者はなく、全員揃って結界の出口を目指して走り出す。

 

 

 その行動を見ていたコピーは、逃がさないと言わんばかりに、地面を蹴って私たちに迫ってくる。

 

 

 

「来たわね……! 私が相手よ!」

 

 コピーは真正面から突っ込んできて、剣を振り下ろしてくる。

 それを私は槍で受け流す。

 

 先ほどの一撃で、まともに受ければ武器ごと切断されてしまうのは理解できた。

 そのため、正面から受けずに、受け流すことに専念したのだが。

 

(受け流してこの衝撃!? たった一撃で手が痺れる……!)

 

 すぐさま来る次の攻撃を避け、私も反撃に出る。

 しかし、コピーは力任せの凄まじい速度で、私の攻撃を回避する。

 

 どんな魔法少女をコピーしたのか知らないが、元の魔法少女もここまで強かったのだろうか。

 

(だとしたら、相当才能のある子ね。歴史に名を残せるクラスで)

 

 お互いがお互いの攻撃を避け続け、状況は膠着状態になる。

 

 

 

 

 そうなれば、不利になるのは当然私たちだ。

 

 先を進む鶴乃たちを、使い魔たちが妨害している。

 

 早く援護にまわりたいが、このコピーの相手を投げ出すわけにもいかない。

 

 

(マズい、このままじゃコピーと一緒に皆と合流してしまう……! とはいえ、撤退戦でようやく互角の相手に勝負を仕掛けても……)

 

 

 

 

 袋のネズミと化した私たち。

 

 ついに私たちが鶴乃たちに追いついてしまう。

 

 その時だ。

 

 

 

 

 

 

「皆さん、こちらへ!」

 

 聞こえないはずの声が聞こえ、そちらを向けば、そこにいたのは意外な人物だった。

 

「常磐さん!? あなた、どうして……」

「説明は後です! 出口までの使い魔は全て倒してきましたから、早く!」

「助かったよー! ありがとう!」

 

 鶴乃が感謝を伝える中、常磐さんは後ろから来た志伸あきらさんと合流する。

 

「ななか!」

「あきらさん、あとはあのコピーだけです」

 

 二人は手を合わせてコネクトすると、常磐さんは刀を鞘に収め、居合いの構えをする。

 

 

「はあっ!!」

 

 常磐さんが狙うは、コピーの足下の地面。

 

 魔力を纏った一撃は地面を砕き、コピーはバランスを崩す。

 

 

 その隙に私たちは全力疾走し、ようやく結界を飛び出したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあっ、はあっ、なん、なのぉ~、あれぇ……!」

 

 

 結界から転がり出た私たちは、そのまま地面に寝転ぶ。

 

 息を上げて呟く鶴乃の言葉は、その場にいた全員の意見を代弁していた。

 

 

 

 私は息を整え、常磐さんたちにお礼を言う。

 

「ありがとう、常磐さん。さっきは助かったわ」

「いえ。あなたたちがここにいると聞き、結界に来てみたら苦戦されているようでしたので。かつて一緒に戦った仲、見捨てるのも後味が悪いですし」

 

 常磐さんはそう言う。

 鶴乃は常磐さんの言葉に引っかかったのか、首を傾げる。

 

「ん? 私たちがいることを聞いたってことは、私たちに何か用事?」

 

 鶴乃の問いに、常磐さんは頷く。

 

「話が早くて助かります。少々皆さんへお聞きしたいことがありまして……」

「私たちに? 助けてくれたお礼もあるし、答えられることなら何でも答えるけど……」

 

 私の返答に、常磐さんは、では、と口を開く。

 

「ひとつはこの鏡の魔女について。そしてもう一つ、瀬奈みこと、という魔法少女についてです」

 

 

 そうして常磐さんの口から出た名前は、かつて大東で行方不明となった魔法少女の名だった。

 

 

 

 

 

 

 

 




凜の推理は、一部独自設定を元にしてます。

元としたイベントの『散花愁章』や『サヨナラストレージ』の情報だけだと、推理のしようがなかったので……。

推理モノ書いたことなかったので、過去一の難産でした。

ちなみに、みことちゃんは「帆奈ちゃんは常磐ななかに殺された」と言ってますが、彼女の死因は原作通り自殺です。
そこまで追い詰めたななかさんに腹を立てたみことちゃんが、「殺された」と表現しているだけです。
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