魔法少女まどか☆マギカ 実績『朝焼けのエンドロール』獲得 作:くろしゅー
(ようやくガールズラブのタグが息しそうなので)初投稿です。
DAY.82 Side RY
「叶えて、くれるよね?」
みことちゃんは上目遣いで聞いてくる。
帆奈ちゃんともう一度会わせてほしい。
それが彼女の願いだった。
たしかに、死人に会わせる、というのは大分難しいお題だろう。普通なら。
けれど、私にはそれを叶える手がかりを知ってる。
(彼女たちの魔法なら……)
それに、私の答えは聞く前から決まっていた。
「もしダメって言うなら……」
「分かった。叶えるよ、みことちゃんの願い」
あ、しまった。みことちゃんがなんか言ってたのに遮っちゃった。
ほら、みことちゃんもポカンとしてる。
「ご、ごめん。何か言ってた? 遮っちゃった……」
「あ、ううん。受けてくれるのなら、別にいいの……」
よかった。どうやら、ダメだったときの代替案の話だったっぽい。
「それにしても、割と即答だったね。私の願いなんて、もっと悩んでよかったんじゃない?」
みことちゃんはそう聞いてくる。
自分のお願いを聞いてほしいと言いつつ、私の心配をしてしまう辺り、本当にみことちゃんは優しい子だ。
でも、これは決めてたことだ。
向き合うと決めた、託された希望だから。
「みことちゃんのお願いだから、だよ」
「私の?」
「うん。みことちゃんも、私と似た境遇だったのは知ってるから。私は知ってる。誰かに手を差し伸べてもらったときの嬉しさを。みことちゃんには、その嬉しさを感じてほしいから」
それに、と私は頬を掻きながら伝える。
「私たち、友達じゃん」
すると、みことちゃんもふわっと笑う。
「……そうだね。じゃあ、お願い凜ちゃん!」
「任せて。ただ、ちょっと時間もらっていいかな」
「うん! なら、それまで一緒にいさせてもらうね」
楽しそうに笑うみことちゃんを見て、私も笑顔になる。
この時の私は想像してなかった。
事態は既に、想定よりずっと深刻なことになっていると。
DAY.85 Side MA
「凜さんの様子が変、ですか?」
私は目の前にいる鹿目さんに聞き返します。
いつも通りレコンパンスでお手伝いしていたら、お店に鹿目さんがやって来ました。
相談したいことがあるとのことで、ケーキを持っていくがてら話を聞いていたのですが……。
「はい……。この前、二木市に行った辺りから、だと思うんですけど。なんだか、ずっと心ここに在らずみたいな感じがするというか……」
「あー……」
そういえば最近、呼びかけても反応が鈍いことが多いような、そうでもないような……。
まあ鹿目さんの言わんとしていることは分かります。
なんだか最近の凜さんは、ボーッとしていることが多くなったような気もします。私が話しかけても反応が一瞬遅かったり、何もないところを見つめていたりと、なんだか一昔前の不思議ちゃんキャラみたいになっています。
私も元々の凜さんのキャラを完全に把握しているわけじゃありませんが、話に聞いたり垣間見た記憶の中では、少なくともそういうキャラではなかったような気がします。
とはいえ……。
「んー、私のほうに思い当たる節はありませんし……。鹿目さんは何かあります? その二木市ってとこに行ったときのこととか」
私が尋ねると、鹿目さんは少し悩む素振りをした後、自信無さそうに言いました。
「もしかしたら、あの取材が原因なのかなって」
「取材?」
「あの日、本当は二木市の魔法少女の人たちに取材をするつもりだったんです。けど、その街の魔法少女は多くが死んでしまっていて……」
「そんな……」
「その街の魔法少女に最初に接触したのも凜さんたちだったし、もしかしたらその時のことがショックだったのかな、って……。私も、あの時はすごいショックだったし……」
うーん、話を聞く限りだとあり得るラインですね。
凜さん、すごい責任感強い人ですし。その街の魔法少女に何かできたら、とかって考えて落ち込んでいるとか容易に想像がつきます。
「分かりました。今度、それとなく凜さんに聞いてみますね」
「ありがとうございます、まばゆさん。凜さん、私が聞いても後輩だからか、どうしても話してくれなくて」
ようやく笑ってくれた鹿目さんに、こちらも笑顔になります。
私も話を聞きだすのが上手いわけではありませんが、凜さんとの仲です。出会ったときと比べれば、多少は信用して話してくれる、はず。
そんなことを考えていたときでした。
脳内にほむらさんのテレパシーが聞こえます。
『まばゆ。聞こえるかしら』
『ほむらさん? どうかしましたか?』
『魔女の結界を見つけたのだけれど、一人じゃ厳しそうなの。手を貸してくれないかしら』
『マミさんと凜さんは……ああ、二人とも今日は街の反対側のパトロールでしたね。分かりました、お店抜けてすぐに行きます』
『悪いわね』
『気にしないでください。とりあえず、マミさんと凜さんにはメッセージと場所だけ送っとます』
私は咲笑さんに許可を取って、お店を飛び出します。
テレパシーが届くだけあって、ほむらさんと魔女の結界はすぐ近くにいました。
「お待たせしました」
「助かったわ」
「いえ。それで、これが結界ですね」
「ええ。人通りの多いところに移動される前に仕留めるわよ」
「了解です!」
私はマミさんと凜さんにメッセージと地図だけ送って、結界内へと入りました。
「うえっ……、なんですかこの結界」
私たちが突入した結界は、四方八方に鏡のある結界でした。
色んなところに自分の姿が映って、なんだか気持ち悪いです。
「見た目に惑わされないで。魔女の結界であることには変わりないわ。さっさと本体を叩くわよ」
ほむらさんはそう言いながら、盾からゴルフクラブを取り出します。
そうそう。
ここ最近、ほむらさんは主にこのゴルフクラブをメインに戦っています。
というのも、ワルプルギスの夜を越えてから、ほむらさんは盾の砂が落ちきってしまったことで、時間停止の魔法が使えなくなってしまいました。
これまでは時間停止で武器を調達してきていたほむらさん。その方法が封じられてしまった以上、自力で手に入れられるものを武器にするしかありません。
それでメイン武器としたのが、魔力を纏わせたゴルフクラブ、というわけです。
まあ、眼鏡時代のときによく使ってましたからね。手に馴染むんでしょう。
もちろん、これだけでは武器が足りないので、あの盾には他にも、包丁やスタンガン、自作爆弾、金属バットなどが入っています。あと、ワルプルギスの夜戦で余った僅かな銃火器と、二葉さんがどこからか調達してきた銃が何種類か。
(二葉さん、あれをどこで手に入れてきたんですかね? 必要だったらまた言ってください、って言ってましたけど……。うう、変なこと教えちゃいましたかねー……)
いたいけな少女を非行の道に走らせてしまった可能性に頭を抱えつつ、私は使い魔をハサミで倒していきます。
とまあ、そんな感じで、今のほむらさんは直接的な戦闘にかなり向いていません。下手したら、私のほうがまだ強いくらいには。
なので、ほむらさんが戦うときは私たちの誰かが必ず組んで戦うようにしています。
最初こそ、そこまで面倒を見させるわけにはいかない、と乗り気ではなかったほむらさんですが、早々に限界を感じたのでしょう。
最近は徐々に頼ってくれるようになって、ちょっと嬉しいです。
(せっかくワルプルギスの夜を越えられたのに、鹿目さんと一緒に過ごせる時間が僅かしかないなんて、悲しすぎますかから)
そんなことを考えていれば、私たちは魔女の結界の最深部にたどり着きました。
私が先頭で最深部に突入しようとした時でした。
「っ!? まばゆ、避けて!!」
「へっ? うわぁっ!!」
ほむらさんの声で、咄嗟に横に転がります。
私の立っていた後ろの壁を見れば、そこにはいくつもの穴が。
避けられていなければ、恐らく私の頭蓋骨は無惨に砕け散っていたでしょう。
「まばゆ、無事!?」
「は、はい!」
ほむらさんが急いで駆け寄ってきます。
私は、混乱する頭で立ち上がりながら返事をします。
すると、その会話を引き裂くように二つの声が聞こえてきました。
「チッ! 外したか。 あ~あ、脳みそが飛び散る様子見たかったぜ」
「お、織莉子ちゃん……。やっぱり止めようよ……! あ、相手、二人もいるんだよ……!?」
「ああ? 今さら日和ってんじゃねーよキリカ。ここで仕留めるっつったろ。それにこっちも二人だバカ」
やって来たのは二人組の魔法少女でした。
白いお嬢様のような魔法少女服と、それに似つかわしくない粗暴な言葉を使う織莉子さん。
黒い服に眼帯、そしてオドオドした様子の魔法少女、キリカさん。
二人は、ゆっくりこちらへと歩いてきていました。
「あなたたち、いきなり攻撃してきてどういうつもり!」
ほむらさんは前方にいる二人組を糾弾します。
「ここは魔女の結界よ! まして、私たちの縄張りの! グリーフシードが欲しいのでしょうけど、少しは弁えなさい!」
すると、織莉子さんは鬱陶しそうに答えます。
「っせーな。そんなんじゃねーって。私らはテメーらをぶち殺してーだけだっつーの」
「は?」
ほむらさんの困惑の声に、織莉子さんはニヤリと口元を歪めます。
「殺しをしたいんだよ、殺しを。命のやり取りってーの? それやってると、生きてるって実感湧くってーか、まあそんな感じなんだわ」
背筋がゾッとしました。
話が出来るのに、会話が成り立たない。
そんな感覚がして、とてもじゃありませんが、話し合いで解決できる雰囲気ではありませんでした。
『ほむらさん、ここは一度引いたほうがいいのでは?』
私はテレパシーでほむらさんに提案します。
凜さんもいないこの状況で、鏡だらけの不可思議な魔女の結界。
お店にもそこそこ近いので倒しに来ましたが、まさか魔法少女と出くわすなんて。
しかも、相手方は最初から私たち狙いの好戦っぷり。
武闘派でない私たちでは分が悪いのは、火を見るより明らかでした。
『そうね。彼女たちが逃がしてくれれば、だけど』
ほむらさんの言葉の直後、織莉子さんが右手を持ち上げます。
「ま、んなわけで殺すわ。死ねぇ!」
織莉子さんがそう言うと、彼女の周りに球体が展開されます。
その球体は彼女の意思で動くのか、彼女が私たちに手を伸ばせば、私たち目掛けて弾丸のように飛んできます。
「くっ!」
「うわぁっ!」
私たちは球体を紙一重で避けます。
後ろに空いた穴を見て、私は最初の奇襲もこれを使ったものだと理解します。
「逃がすなキリカァ!」
「ひゃ、ひゃい!!」
織莉子さんに呼ばれたキリカさんは、上擦った声で返事をすると、そこから飛び上がり、袖から巨大なかぎ爪を出現させます。
眼帯で隠されていない黄色い瞳は、ほむらさんを捉え、そのかぎ爪で襲いかかります。
ほむらさんはかぎ爪の攻撃を回避。ゴルフクラブを仕舞い、代わりに金属バットを取り出します。
「キリカはそのまま黒いのを殺れ! 私はこっちの緑ワカメのほうを殺る!」
(わ、ワカメ……!?)
織莉子さんの蔑称に言いたいことはありましたが、彼女の攻撃の前には言う隙すらありません。
私を追い回していた球体は痺れを切らしたように、球体の中央からレーザーを放ってきます。
「れ、レーザー!? ちょ、それは聞いてないです! は、反則ー!!」
うわあああ、と情けない声を上げながら逃げ回る私。
ほむらさんに援護を求めようと視線を向けますが、向こうも向こうで苦戦中でした。
あのキリカさんという魔法少女、オドオドしている割に攻撃の殺意が正確です。ほむらさんが正面から戦うには、厳しい相手でしょう。
(仕方ありません……! 一か八か……!)
私は、光を屈折させて光学迷彩を作り出し、織莉子さんの視界から消えます。
「なっ!? どこ行きやがった!!」
(今がチャンス!)
私はそのまま、キリカさんに向けて全力疾走。
ほむらさんへ連撃を繰り出そうとする彼女の足に、ハサミを突き立てます。
「いたっ!」
彼女が怯んだ隙に私はほむらさんの手を取ります。
『逃げますよ!』
ほむらさんにテレパシーで伝え、出口に向かって駆け出します。
刹那、織莉子さんの球体が私たちを取り囲み、光を放ちます。
「っ!? まず……」
直後、球体から放たれたレーザーの絨毯爆撃が私たちを襲います。
いくつもの爆発が起こり、私たちは地面へと叩きつけられました。
「ぐっ、うう……」
「まばゆ……! うっ……」
(なんで……? たしかに姿は隠していたのに……!)
頭の中が疑問符でいっぱいの私に、答え合わせをするように織莉子さんが近づいてきます。
「なんで?って顔してるな。分かりやすいんだよ、お前ら。あの時点でお前が取れる選択肢は逃走だけだ。そして、お前は仲間を捨てて逃げるなんてできるようなヤツじゃない。とくりゃあ、あとはキリカが戦っているところを諸共吹きとばしゃあ、全員揃ってあの世逝きにできるってわけだ」
(くっ……! アリナさんといい、私の光学迷彩を易々と突破しないでもらえます!? 一応、私の奥の手の一つなんですけど!? 自信無くして泣きますよ!?)
心中でキレる私をあざ笑うかのように、織莉子さんは鼻を鳴らします。
「ま、ちょっとズレちまって、逝ったのはキリカ一人だけみてーだけど。良かったな、辞世の句が詠めるぜ」
味方を巻き込んだことを何とも思っていないような顔で呟いた織莉子さんは、私たちに球体を向けます。
「じゃあな、哀れな魔法少z……」
その瞬間、織莉子さんの首が宙を舞います。
彼女の首を飛ばし、私たちを庇うように目の前に現れたのは……。
「凜さん!!」
私が叫ぶとほぼ同時、瞬きする間に凜さんは織莉子さんの身体を細切れにします。
「うええっ!? り、凜さん、さすがにやり過ぎでは……!」
いくら向こうから殺す気で仕掛けてきたとはいえ、細切れまでするのはやり過ぎではないでしょうか……。
と、私が引いていると、凜さんは、あー、と頭をかきながら説明します。
「コイツら、多分だけどミラーズのコピーだから。手加減する必要はないんだ」
「ミラーズ? コピー?」
私は知らない単語に、頭の上にハテナを浮かべます。
すると、凜さんは私の質問に答えました。
「ミラーズっていうのは、この鏡の魔女の結界の通称。この魔女は、結界に侵入した魔法少女の魔力から型を取って、その魔法少女のコピーを作るんだ。ようは魔法少女の姿をした使い魔、みたいな感じ?」
「じゃ、じゃあ、彼女たちも……?」
「多分、いつか、どこかの魔法少女のコピーじゃないかな」
凜さんは私たち二人に近寄って、魔法を使います。
「とりあえず間に合って良かったよ。すぐ治すからちょっと待ってて」
凜さんが私たちに魔法を使っていると、奥からもう一つ声が。
「夕凪さーん! やっと追いついた……! 私を置いて、一人で駆け出していっちゃうんだから」
こちらへ駆け寄ってきたのはマミさんでした。
「ごめん、巴さん。ちょっと嫌な予感がして。でも、おかげで二人とも助けられたんだ」
どうやら、凜さんはマミさんに説明する前に先行して来たようでした。
ふぅ、とマミさんを息を吐くと、切り替えるように言います。
「……そうね。結果オーライということにしておきましょう。二人とも、ひとまず無事で良かったわ」
その後、治療が終わったほむらさんが凜さんに質問します。
「あなた、随分この魔女に詳しいようだけど、どこかで遭ったことあるの?」
「……この魔女、元は神浜の南凪区の鏡屋敷ってところにいる魔女なんだ」
「神浜!?」
私は思わず聞き返してしまいます。
「じゃあこの魔女、神浜からここまで移動してきたってことですか!?」
「いや、そうじゃないと思う。多分コイツは、使い魔から成長した株分け個体だよ」
とはいえ、と凜さんは続ける。
「株分け個体がここまで進出していること自体、異常ではあるんだけど」
すると、凜さんは、そうか、と何かに納得したように呟きます。
「この前ほむらと杏子ちゃんと戦った魔女。海岸の街からやって来たにしては随分弱いなとは思ってたんだけど……。この魔女の結界を通ったと考えれば、あの弱さにも納得がいく」
「どういうことかしら」
ほむらさんが疑問符を浮かべたのに、凜さんは武器で地面に簡単な図を書きます。
「この魔女の結界、大元の魔女や他の株分け個体と結界同士が繋がっているんだ。だから、Aという街にある株分け個体の結界から入って、結界があるBという街に出ることも可能ってわけ。ワープとか、ゲームのファストトラベルみたいなイメージって言えば分かるかな」
その言葉に全員が言葉を失います。
そんな魔女の結界、前代未聞です。
「つ、つまり、この結界から神浜に行くことも……」
「神浜に続いている鏡を見つければ、理論上は可能だよ」
「うそでしょ……」
マミさんが信じられないと言った顔で呟きます。
マミさんの言葉に、私も同感でした。
「とにかく、まずはこの株分けの魔女を倒そう。気になることはたくさんあるけど、どのみち放置していい相手じゃない」
「……そうね。暁美さんとまばゆさんはここで待っていてちょうだい。魔女は私たちで倒してくるわ」
凜さんの言葉に頷いたマミさんは、私たちの周りにリボンで結界を作ります。
「いや、その必要はないみたいだよ」
「え?」
凜さんの言葉にマミさんが振り向くと、最深部から巨大な影が出てきます。
使い魔とは明らかに違う容姿と体躯、そして魔力。
(これが、鏡の魔女……)
切り絵で出来た羊の角、もしくは巻き貝の集合体とでも言うべきその姿は、美しさと不気味さを感じる異質なものでした。
「いくよ、巴さん!」
「ええ!」
現れた鏡の魔女に怯むことなく、二人は鏡の魔女に向かっていきます。
マミさんはお得意のマスケット銃をいくつも生みだし、魔女に向かって斉射します。
すると、鏡の魔女も切り絵のような手下を召喚し、それらにマスケット銃を撃たせ、マミさんの銃撃を全て相殺します。
「なっ!?」
「まだまだ! 私がいるのを忘れないでよ、ね!」
驚くマミさんを鼓舞するように、凜さんは声を張り、魔女に一撃入れます。
「もっかい……、うわっ!」
追撃をしようとした凜さんへ、魔女は生みだした使い魔の銃撃でそれを阻止します。
「ああもう! 銃撃が鬱陶しいな……!」
「夕凪さん! 周りは私が抑えるわ! その間に本体を!」
「りょうかい!」
すぐさま連携を変え、二人は動き出します。
マミさんは常時弾幕を張り、使い魔たちの銃撃を牽制し続けます。
凜さんは銃撃が飛び交う中をスルスルと進んでいき、すぐさま魔女の元へと到達します。
「炎雷、斬舞!」
魔女は使い魔たちを盾に攻撃を防ごうとしますが、その使い魔ごと凜さんの攻撃で吹き飛ばされる魔女。
使い魔たちも散っていき、魔女の動きも鈍くなります。
「よし、あと一撃!」
「任せてちょうだい!」
凜さんと入れ替わるように、マミさんがリボンで作った大砲を構えます。
「ティロ・フィナーレ!!」
放たれた砲弾は魔女へと直撃をしました。
「やったかしら……?」
マミさんは警戒を解かずに呟きます。
「……いや、結界が崩れない。まだ生きてる」
凜さんはそう言うのとほぼ同時。
爆煙の中から、ほうほうの体で魔女が飛び出てきます。
「しぶといわね……。今度こそトドメを……!」
「待って巴さん!」
追撃に行こうとするマミさんを、凜さんが止めます。
「夕凪さん? どうしたの?」
「あれ、なに?」
凜さんは指を指したのは、鏡の魔女の向かう先。
そこには、使い魔たちが二枚の鏡を持ってきていました。
魔女はその内の一枚を使い魔たちから受け取ると、もう一枚の鏡へと入っていきます。
外の景色が見て取れる、その鏡に。
「アイツ、まさか外に!」
「そんな!? 魔女が結界から出るなんて……!」
全員が驚きますが、それも一瞬。
「追おう!!」
凜さんの言葉を合図に、全員が弾かれたように走り出します。
凜さん、マミさん、ほむらさん、最後に私が、外へ通ずる鏡に飛び込みました。
鏡に飛び込む際、使い魔たちが何一つ邪魔してこなかったのを不気味に思いつつ。
そして、私が外に飛び出した直後でした。
私は突然、凜さんに抱き上げられます。
なにを、と問いかける前に、目の前に眩しい光がありました。
(なんですか、この光……! 魔女の持ってる鏡から、放たれてる? それに、この魔力……!)
鏡から溢れ出す桃色の光。同時に感じる巨大な魔力。
これで、鈍い私でも何かヤバいことが起ころうとしていること。そして、それを察した凜さんが私を抱えて逃げていることを理解しました。
反対側を見れば、ほむらさんとマミさんも既に逃げ始めています。
(よかった……)
そう思った直後、鏡から溢れていた桃色の光が、極大のエネルギーと共に爆ぜました。
「うっ……」
鈍い痛みで目を覚ました私。
最初に視界に入ってきたのは、私と同じように倒れている凜さんの顔。
「っ! 凜さん!」
私は痛む身体を無理やり起こし、凜さんを揺さぶります。
「ぅぅ……」
「よかった、生きてる……」
呻く凜さんに、私は胸を撫で下ろします。
所々に火傷はありますが、凜さんの魔法ならすぐに治せるでしょう。
(火傷……。そうだ、爆発! あの後どうなって……!)
直前の記憶を思い出した私は、凜さんの後ろに目をやり……。
「え……」
絶句しました。
だってそうでしょう?
そこには、まるで巨大なスプーンでそこを掬ったかのように、地形を根こそぎ抉り取ったクレーターが横たわっていたのですから。
DAY.85 Side RH
コンコン、と私は教授のいる部屋のドアをノックする。
昨夜から何かを調べている教授のためにお茶を持ってきたのだが、部屋の中から返事はない。
これは研究に没頭しすぎて、周りの音が聞こえていないパターンだ。
私はため息をついて、そのままドアを開ける。
使用人としては完全にマナー違反だが、こうなった教授は基本気づいてくれない。
ならば、扉の前で不毛な呼びかけなど必要ないだろう。
「教授」
扉の開いた音、そして私の呼びかけで、ようやく机に向かっていた教授は振り向く。
「ん? ああ、ラビ。どうしたんだい?」
「お茶をお持ちしたのですが、返事がなかったので。勝手に失礼します」
「そうだったのか。それは済まなかったね。ありがとう」
私からお茶を受け取った教授は、かけていた眼鏡を外し、眉間の辺りを揉む。
「いやあ、さすがに私も年かな。長時間文献を読んでいると目が疲れてしまってね。ちょうどリフレッシュでもしようかと思っていたんだ」
ハハハ、とおどけるように教授は笑う。
「そんなに真剣になって……。一体、何の資料を読まれていたんです?」
私は教授の机に山積みになっている資料をザッと見る。
「地震に、台風……。それに世界を廻る災厄の伝説……? これ、ワルプルギスの夜の資料ですか?」
文献のタイトルから連想した私は、教授に問いかける。
すると、私の質問に教授は、ああ、と首を縦に振る。
「古い書物から最近の著書まで。私がこれまで集めたワルプルギスの夜に関係すると思われる資料だよ」
「なるほど……。しかし、一体なぜ今になって? たしかにワルプルギスの夜は魔法少女を語る上で必須の魔女ですが……。ワルプルギスの夜は私たちで倒しました。そこまで躍起になって調べる必要が今あるのでしょうか?」
私が口にした疑問に、教授は声のトーンを落とす。
「……これはまだ、那由多にも言っていない仮説なんだ。ちゃんとした仮説になるまではキミたちには黙っていようと思ったんだが……」
そう前置きをして、教授は語り出す。
「魔法少女の希望と絶望を調べる中で、私は当然ワルプルギスの夜にも着目した。果たして、かの存在意義はなんなのだろうか、と。なぜ数百年、数千年、世界を廻り続けてきたのだろう、と」
教授は一つの文献を手に取る。
「ワルプルギスの夜がいくつもの魔女の集合体であるということは、これまでの調べで分かったことだ。長い時間をかけて共食いをしたのか、はたまた別の方法を取ったのか。それは定かではない。けれど、間違いないのは、ワルプルギスの夜は元の魔女から成長し、最強最悪の魔女として世界に君臨していたということだ」
教授はお茶を一口飲むと、一層真剣味の増した目で語りだす。
「ではなぜ、ワルプルギスの夜は最強最悪の魔女として存在し続けたか。私の持論としては、世界のバランサー的役割だったのではないか、と考えているんだ」
「バランサー、ですか……?」
教授は静かに頷く。
「ああ。魔法少女の存在は、常に希望と絶望の天秤で成り立っている。魔法少女が希望を願う分だけ、その対価として絶望が魔法少女を襲う。希望と絶望は常に差し引きゼロの関係、と言ってもいいかもしれない」
「だが、全ての魔法少女が絶望で終わったのか、と問われれば、私は否と答える。人類史だって、これだけの長い年月の積み重ねがある。中には、魔女になる前に死んでしまった子、最後まで希望に殉じ、絶望に負けなかった子だっていただろう。そうなれば、少女たちが願った希望の分は、世界にとってのロスにしかならない」
「前にラビたちに語った仮説。魔法少女は宇宙を維持するために、宇宙の意思によって魔女化を望まれているというものだね。あれを最も体現した存在こそ、ワルプルギスの夜だと私は考えている」
教授が目を向ける文献。ワルプルギスの夜がもたらしたであろう災害の数々が、そこには記されていた。
「魔法少女が生み出さなかった絶望のロス。その絶望を振りまくことこそ、ワルプルギスの夜が絶望の象徴として世界を廻り、数多の魔法少女を絶望へと引きずり込んだ理由ではないか。私はそう考えている。もちろん、ワルプルギスの夜自体にそのような目的意識はなかっただろうがね」
私は教授の目を向ける文献を手に取る。
ここに記された破壊と絶望が、教授の言う宇宙の自浄作用の一環として行われたと聞くと、私は嫌な鳥肌が止まらなかった。
けれど。
「私たちはワルプルギスの夜を打ち倒しました。教授の言う仮説が正しかったとしても、それは私たちが宇宙の意思に打ち勝った証明になるはず。そう悲観することでもないのでは?」
私は自身の心を蝕みそうになる諦念をグッと抑え込みながら、教授に伝える。
しかし、教授の顔は晴れなかった。
「そうだね。私も昨日までそう考えていた。いや、より正確に言えば、私が考えた『とある可能性』は起こりえないのでは?と思おうとしていたんだ。昨日、みかげ君の話を聞くまでは」
「みかげさんの話……?」
たしかに昨日、いつも通りみかげさんが遊びにやってきていた。
そこで話していたことといえば……。
「鏡の魔女、ですか?」
「ああ。彼女がお姉さんから聞いた、鏡の魔女の活動活発化、そして魔女を結界内に集めていた、という話。あれを聞いたとき、私の脳裏をある可能性がよぎったんだ」
「どのような……?」
私の質問に、教授は少し躊躇うような顔をする。
「……この仮説はまだ調査段階だ。それに君たちにとっては、辛いものでしかない。だから、那由多にもずっと伏せていたんだ。君たちに一度諦念を植え付けてしまった者としては、ここから先に伝えることは、言うのも憚られる内容だからね。それでも聞きたいかい?」
教授の声は優しくも、ここで引き下がれと暗に言うような声だった。
とはいえ、ここまで聞いて引き下がるという選択肢はない。
「話してください。私も魔法少女を救うための活動をしている身。例えどんなに辛い真実だとしても、もう諦めることも目を背けることも、したくありません」
私の言葉に、教授は静かに、分かった、と呟いた。
「私の仮説はこうだ。ワルプルギスの夜という、絶望を回収するための最終舞台装置を失った宇宙は、第二のワルプルギスの夜を生み出すのではないか? 人体が死んだ細胞を新たな細胞に置き換えていくように。あの終焉をもたらす魔女も、再び代わりが現れるのではないか、とね」
教授の仮説に、私は床が傾くような錯覚を受ける。
「それが、鏡の魔女だと……?」
眩暈にも似た感覚を振り払いながら私が確認すると、教授はゆっくりと頷く。
「鏡の魔女自体、1年以上神浜市に留まり続けている特異な魔女だ。しかも、その結界は神浜の魔法少女たちでも手がつけられないほど複雑かつ広大化している。そこまで成長した魔女が、ワルプルギスの夜が打ち倒された後、入れ替わるように活動を活発化。そして、結界内にたくさんの魔女を集めている」
あ、と私は思わず声を漏らす。
今までの教授の話が一つの線で繋がる。
「鏡の魔女が魔女を集めている理由は、その魔女たちを喰い、自身をより強化するため……?」
「確証はないけどね。ただ、今の鏡の魔女は、ワルプルギスの夜が誕生した状況によく似ている」
(あの災害級の魔女が、もう一度生まれる?)
ワルプルギスの夜と直接戦ったからこそ分かる。
あの戦いは、いくつもの奇跡の上にようやく掴めた勝利だった。
奇跡は何回も起こらないからこそ、奇跡たり得る。
つまり、あれともう一度戦った場合、勝算はこちらに存在しない。
足の震えが止まらない。
もし、鏡の魔女がワルプルギスの夜のようになったら、その時は……。
(せっかく、諦めなくていいと思えたのに……。また、全てを無に還されるの……?)
私の胸に浮かんだ絶望の可能性こそ、教授が口を噤みたかった理由だろう。
現に私は、あの絶望を思いだし、足が震えてしまっている。
足が震えているのが伝わってしまったのだろう。
教授が私の手を握る。
「怖がらせてしまって済まないね。さっきも言ったけど、この仮説はまだ検証段階だ。根拠もまだ乏しい。だから絶対とは言えないものだ。この件に関しては、私が引き続き調べる。君は気にしないよう……、とは無理かもしれないが、あまり思い詰めなくていい」
私を落ち着かせるように、そう言いながら腕をさする。
「……申し訳ありません。少し、取り乱しました」
「構わないさ。私も、こんな話をして悪かったね」
私は手に持ったお盆をキュッと抱えると、教授の部屋のドアを開ける。
「それでは、私はこれから買い物があるので」
「分かった。よろしく頼むよ」
「では」
一礼をし、私は教授の部屋を後にする。
もし、ワルプルギスの夜がまた生まれるのであれば。
もう開かないと決めていた、世界の終末を示す懐中時計の蓋を開く。
(この針を、また進めなくてはいけない)
いや、違う。
進ませないための存在が、私にはいる。
諦念に身を任せず、最期まで抗うと決めた、
それと、もう一人。
私たちに希望を見せ、諦めなくていいと証明してくれた少女。
(彼女がいれば、いかなる絶望だって……)
私がスマホを確認すれば、ちょうど今朝、彼女から送られてきたメールが目に入る。
私はメールの内容に目を通し、深く息を吐く。
(動かなければ、何も変えられない……。それなら)
抗おう、最期まで。
私はフォークロアのグループチャットを開き、あるメッセージを送った。
DAY.85 Side RY
私は玄関のドアを開けると、部屋の明かりも点けず、ベッドへと倒れ込む。
鏡の魔女との戦い。
その結末は、魔女の起こした謎の爆発によって決着となった。
私たちはギリギリ爆発から逃れ、幸いにも全員軽傷で済んだ。
しかし、爆発の規模は大きく、半径数十メートルが消し飛ぶ事態となった。
近くにあったのが廃ビルばかりだったのが幸いし、死者を出すことはなかった。けれど、近くに人口密集地があったのも事実。あそこで起きていたらと思うとゾッとする。実際、今回の爆発で死者こそ出なかったが、ケガ人は複数人出ている。
「ねえ、みことちゃん」
ベッドに寝転がったまま、みことちゃんに呼びかける。
「……なぁに、凜ちゃん」
静かな声で答えるみことちゃん。
「二つ、どうしても聞きたいことがあるんだ」
それは、今後みことちゃんと動く上で、どうしても聞いておきたいこと。
みことちゃんの無言を肯定と受け取り、私は人差し指を立てる。
「一つ。鏡の魔女は、みことちゃんのソウルジェムから生まれた魔女?」
私の問いに、みことちゃんは特に迷うことなく頷く。
「そうだよ。よく分かったね」
「これの推理したのはみたまさんだよ。みたまさん、前にあなたのこと調べてたみたいで。私はその時のことと、そこから考えられる推理を聞いただけ」
「ふーん。じゃあ、私の家庭事情を知ってたのも、そういうこと?」
「概ねそう。みたまさんがあなたの家にあった大学ノートを読んでてね。内容をざっくり聞かせてもらったの」
みことちゃんは無感情に、なるほどねぇ、と頷く。
とにかく、これで一つ確定できた。
やはり、鏡の魔女はみことちゃんが魔女になった姿だ。
「それじゃあ二つ目の質問。みことちゃんはどうして人格を保てているの? 魔女とみことちゃんの人格は繋がってる?」
一番重要なのはここだ。
なんでみことちゃんの人格が幽霊のようになっているのか。
本当はもっとゆっくり聞いていくつもりだったけど、今日のことがあってはそうも言ってられなくなった。
対してみことちゃんは静かな声で答える。
「私の意識がまだ生きてるのは、私が魔女化する際に他人に意識を移植する魔法が使えるようになったから。けど、あくまでこの意識はコピーみたいなもの。瀬奈みこと本体の魂は魔女側だよ。だから、私に魔女は動かせない。できるとしたら、結界内を覗くくらいかな」
それを聞いて、私は胸を撫で下ろす。
もし、これで魔女を操っているのがみことちゃんの人格だとしたら、それはみことちゃんが私たちを殺そうとしている証明になってしまう。
すると、みことちゃんから質問が返ってくる。
「けどさぁ。もしこれで、私が魔女を操れるって答えたらどうするつもりだったの? やっぱり、私を殺そうとする?」
「それはない」
即答する。
けど、それだけ当たり前だし、そんなことはしないという宣誓でもあった。
「操れるって言われたら、どうして私たちを殺そうとしたか聞くつもりだった。何が不満なのか、何かしてほしいことがあるのか、とか」
「……私を追い出す選択肢はないの?」
「当然だよ。みことちゃんを一人になんかさせない。この手は絶対離さないって、決めたから」
たとえ、たとえ……。
「……ふーん。ありがとう。私も、凜ちゃんのこと信じるね」
みことちゃんはそう言って、私の視界から消えてしまった。
「……うん、任せて。最期まで、絶対に側にいるから」
私はポツリと呟いた。
(きっと、みことちゃんにはもう時間が……)
本当はもう一つ質問したいことはあった。
けど、怖くて聞けなかった。
相変わらず臆病な私は、彼女の言動から察しているくせに、その事実を聞きたくなかった。
(彼女がいなくなったら、私は……)
私はぶんぶんと頭を振る。
(弱気になるな……! 私が不安な顔してたら、みことちゃんも不安になる。大丈夫、彼女に伝えるんだ。あなたのことを好きな人はこの世界にいるって)
みことちゃんに最低限確認したいことは確認できた。もう迷いはない。
あとは、進むだけだ。
たとえ、全てが敵に回ったとしても。
私は彼女の手を取ろう。
それが、更紗さんに彼女を託された私の責任だから。
そして、私の本当の気持ちだから。
DAY.85 Side MS
「当然だよ。みことちゃんを一人になんかさせない。この手は絶対離さないって、決めたから」
どうして?
どうして、そんなこと言えるの?
私、あなたが思っているような良い子じゃないよ。
もしダメって言うなら。
あの言葉の続き。あなたは代替案の話だと思ってたみたいだけど、そんなんじゃないよ。
私、あなたを脅そうとしてたんだよ?
あなたが言うことを聞くように、ヒドいことするつもりだったんだよ?
それなのに、凜ちゃんは力を貸してくれるの?
あなたには大事に思ってくれる人も、居場所もたくさんあるじゃない。
なのに、どうして私といる時に、そんな楽しそうな顔をするの?
ねえ、凜ちゃん。
あなたの本当の望みは、なに?
私が凜ちゃんと再会したのは、本当に偶然だった。
帆奈ちゃんが死んだ後、私は色々な人の身体に自分の意識を移植して、神浜各地を転々としていた。
誰にも知覚されず、まるで幽霊みたいな日々だった。
誰とも話せない、見つけてくれないその日々は拷問そのもので、自分で自分の形が分からなくなりそうだった。
移植を使えば使うほど、私の魔力は減っていき、その度に私を形づくる輪郭はぼやけていった。
もう魔法少女でない私に、魔力を回復する手段はない。
自我が削られる毎に、魔女の悪意と憎悪が私を蝕み、思考も悪い方向へと引っ張られる。
私は私でなくなっていく。
緩やかに死へと向かう日々に、頭がおかしくなりそうだった。
そして、そんな日々がどれだけ続いたろう。
私がアリナちゃんの中にいた、ある日のことだった。
アリナちゃんが興味を持った魔法少女の中に、凜ちゃんはいた。
彼女を見たとき、私は久しぶりに自我が明瞭になった。
私が凜ちゃんに会ったのは、凜ちゃんが帆奈ちゃんを止めに来たときの一度だけ。私は帆奈ちゃんの横から見ていただけだったけど、見間違えるはずなかった。
(帆奈ちゃんが希望だって言ってた子だ……!)
帆奈ちゃんが未来を託した子。
彼女と会えれば、この状況も変えられるかもしれない。
そう思った私は、なんとか彼女と接触する機会を窺った。
アリナちゃんを通して聞いた情報を整理すると、凜ちゃんはどうやら、ワルプルギスの夜という最強最悪の魔女と戦うつもりのようだった。
友だちの暁美ほむらちゃん、愛生まばゆちゃんのために、凜ちゃんは仲間を集め、作戦を練り、その破滅に抗おうとしていた。
その過程でどれだけ傷つこうと、凜ちゃんは止まらなかった。
私は、凜ちゃんがワルプルギスの夜に勝てるのか見たくなった。
それが、帆奈ちゃんの言った、絶望にも負けない希望の証明になると思ったから。
幸いにも、アリナちゃんはその戦いを見物するつもりのようだったし、私は彼女たちの戦いを見届けることになった。
ワルプルギスの夜との戦いは熾烈を極めた。
何度も負けそうになり、手札も魔力も気力も無くなっても、彼女たちは抗った。
その末に、彼女たちはワルプルギスの夜に勝った。
晴れ渡る空の下、笑い合う凜ちゃん、まばゆちゃん、ほむらちゃんは、すごく眩しかった。
私はといえば、この時アリナちゃんから凜ちゃんへと意識を移植していた。
全員の魔力を同調させる『コネクト』という技術は、私にとっても都合が良かった。
全員の魔力を同調させた瞬間に、私は凜ちゃんへと移動した。
その際、私の意識も再びハッキリとした。
移植を使う度に削られていた私を形作る魔力が、コネクトの魔力で補充されたからだと思う。
そうしてひっそりと凜ちゃんの意識に潜んだ私は、彼女の記憶を覗き見ることにした。
どうして凜ちゃんは私たちに手を差し伸べたのか。どうして帆奈ちゃんは、この子に希望を託したのか。
その答えが見つかると思って。
結果として、私は彼女の記憶を見たことを少し後悔した。
彼女が希望の存在の証明だという私の身勝手な想像は、所詮幻想だと知ってしまったから。
凜ちゃんの記憶は、本当に悲惨だった。
私は、人の不幸に上も下もないと思ってる。
どれだけ些細なことでも、本人が辛いと思えば辛いことだし、どれだけ不幸に見えても、その人が幸せならそれは幸せだ。
ただ、この理論で言えば、凜ちゃんはかなり不幸な子だろう。
凜ちゃんの歩んできた人生は、致命的に凜ちゃんの性格と噛み合っていなかった。
まるで世界が、彼女は生きることが間違っている、とでも言うように。
凜ちゃんが虐待なんかされなければ、凜ちゃんはきっと魔法少女になんかならなかったのに。
凜ちゃんが七海さんたちに出会わなければ、メルちゃんを失う悲しみを知らずに済んだのに。
凜ちゃんが極度の自罰思考でなければ、メルちゃんが死んだこと、梓さんが行方不明になったこと、七海さんに突き放されたこと、鶴乃さんの疲れた様子を見たこと、そして帆奈ちゃんを死なせたことに、ここまで責任を感じなかったのに。
凜ちゃんが自分を愛することを理解できていれば、皆に愛されることに不安を感じることもなかったのに。
凜ちゃんがもっと利己的に生きられれば、ほむらちゃんを救うなんて苦行、しなくても良かったのに。
凜ちゃんの心がもっと弱ければ、こんなに長く苦しむこともなかったのに。
たくさんの悲しみが、凜ちゃんを容赦なく虐めた。
それでも、凜ちゃんは誰かのために動き続け、笑い続けた。
凜ちゃんは、自分の抱えている辛さを誰にも話そうとしなかった。
そして誰も、凜ちゃんの本当の気持ちを理解しなかった。
唯一まばゆちゃんだけは、私と同じく凜ちゃんの記憶に踏み込んだようだったけど。
彼女が見たのは、あくまで記憶のダイジェスト。
彼女の気持ちの奥底までは、きっと理解できていない。
誰かを救うことで満たされる、仮初めの自尊心なんて。
それは魔法少女時代の私とよく似ていた。
誰かを助ける良い子を演じることで、心のどこかが少しだけ満たされる。
まるでおとぎ話の魔法のように、時間制限つきの夢幻のドレス。
そのドレスを着て、誰かのためにあるときだけは、自分が満たされるから。
きっと誰も知らないのだろう。
凜ちゃんがどれだけ愛に飢えているか。
それなのに、それを望むことを諦めて、否定し続けているか。
凜ちゃんが誰かを助ける度に浮かぶ、これでこの人は私を見てくれないかな、なんて期待を常に殺し続けていること。
きっと誰も知らないのだろう。
ほむらちゃんを助けると決めたとき、ほむらちゃんが鹿目まどかちゃんに向ける愛情が全部自分に向いてくれないかな、と思ったこと。
まばゆちゃんを助けると決めたとき、ほむらちゃんより自分を一番に見てくれないかな、と思ったこと。
その想いを、彼女たちの迷惑になるから、と心の奥底に封じ込めたこと。
私は凜ちゃんとコミュニケーションを取りたくなった。
だから、彼女の夢を少しいじって、私が凜ちゃんの夢へと入り込んだ。
夢の中の凜ちゃんは、私にとても優しかった。
かつて通った学校での夢でも、存外悪くなかった。
彼女の夢に入り込んで分かったことがある。
それは、凜ちゃんは愛への飢餓は限界に近いことだった。
夢の中で、凜ちゃんの好意は全て私に向いていた。
別に私がそう仕向けたわけじゃない。私がやったのは、あくまで凜ちゃんの夢に私が入り込む余地を作っただけ。夢の内容も私とどうやり取りするかも、全部凜ちゃんに任せたから。
そして出来上がった夢は、ただ私と何気ないことで話して、ずっと一緒にいる夢。
夢の中には、現実の知り合いは一人として出てこなかった。
まるで凜ちゃん自身が避けているように。
凜ちゃんは私との日々を夢だとうっすら認識していたのか、好意を向けることに躊躇いがなかった。
夢の中の凜ちゃんは、私を際限なく愛した。暇つぶしの遊びとか、利用してやろうとか、そんな下心のない、ただただ純粋の好意。
夢の中だけなら、誰かを好きになってもいいと、凜ちゃんは本気で思っていた。
そして、その好意を向ける相手は、現実の登場人物ではない私。
それほど、凜ちゃんは現実の人たちに好意と愛情を向けることを拒絶していた。
その理由を、私はなんとなく分かっていた。
(その好意を向けたら、その人を独占してしまいたくなるから、だよね? 分かるよ。だって、私も帆奈ちゃんの一番でありたかったから)
けど私と違うのは、凜ちゃんはその愛情が、その人の迷惑になるとしか思っていない点かな。
相手のことを考えすぎる凜ちゃんは、相手の想いを自分に向けさせることすら嫌がった。まるで自分がその人の想いを奪ったみたいな感覚がするから、と。
誰かに一番に愛されたいのに、その願いを自分自身が一番許せない。
誰かを愛したいのに、その愛を誰かに向けるのが怖い。
そして何より、自分の愛が誰にも届かないかもしれないという、現実が怖い。
皆に希望を見せても、自分自身の望みは決して求められない。
そんな可哀想な子が、夕凪凜ちゃんという少女だった。
世界に希望を見せるなんて、到底できるような子じゃない。
自分自身すら救えない子に、世界に希望を見せることなんて、できるわけがない。
それでも、周りは彼女に期待する。
都合の良い協力者としか思わないほむらちゃん。突き放したくせに先輩ヅラし続けるみかづき荘の先輩たち。彼女の傷を知りながら、彼女が一番ツラいときに手を差し伸べなかった調整屋さん。そして、中途半端に凜ちゃんの心に触って、希望だけ抱かせたまばゆちゃん。
良い顔して、勝手に縋り付いて。
(ふざけないで。凜ちゃんはあなたたちの都合の良い存在じゃない……!)
これだけ多くの人を救ってきた凜ちゃんは、一番に愛して欲しいという望みすら叶えてもらえないのに。
私には許せないことがある。
ワルプルギスの夜を倒した後のある日のこと。
ほむらちゃんと一緒にいた凜ちゃん。
そこへまどかちゃんが来て、こう言ったのだ。
「ほむらちゃんと凜さん、とっても仲良しだね」
それに対し、ほむらちゃんはこう言ったのだ。
「バ、バカなこと言わないで。凜はあくまで協力者よ。私にとって一番大切なのはまどかだけよ」
きっと照れ隠しも混ざっていたのだろう。
でも、その言葉で凜ちゃんがどれだけ傷ついたか分かる?
何もせずに守られるばかりのまどかちゃん。
凜ちゃんはあれだけほむらちゃんに尽くしてあげたのに、ほむらちゃんはまどかちゃんばっかり。
それがどれだけ凜ちゃんに悲しいことか、きっとほむらちゃんは考えてすらいないのだろう。
私の分け身である鏡の魔女を通して私が見てきた人類の歴史。それを見て私が至った仮説は、凜ちゃんの記憶と感情で立証された。
(帆奈ちゃん。やっぱり、人は絶望で終わるように出来ているんだよ……。じゃなきゃ、凜ちゃんだって救われて、幸せな人生を歩めているはずでしょ?)
きっとこのままなら、凜ちゃんは自分の内にある誰かを愛したいという気持ちに絶望し、その身を滅ぼすことになる。
私たちを見つけてくれた凜ちゃんは、結局世界に見捨てられるのだ。
(だったらそんな世界、いらないじゃない)
帆奈ちゃんを奪って、凜ちゃんを苦しめ続ける世界に、もう存在する価値なんてない。
(まずは私たちの、そして凜ちゃんの悲劇の始まりを生んだ神浜から。東西対立なんてくだらないことを数百年続けてきた土地を、この世から消し去る)
あんなものがあるから、凜ちゃんは苦しみから解放されないんだ。
全部、全部、壊して、潰して、ぐちゃぐちゃにして。
(嫌なことも、悲しいことも、全部なかったって思えるくらい壊せば、私たちを閉じ込める絶望にも少しは抗えると思うんだ)
私は鏡の魔女の結界を覗く。
そこには、様々な地域から集めた、たくさんの魔女がひしめいていた。
(ごめんね、凜ちゃん。信じてくれたのに、嘘ついちゃって)
私が手を動かせば、結界内の構造が変化する。
そう。私はある程度だけど、魔女の行動に干渉できる。
今日の株分け個体は想定外だったけど、大筋は計画通りだ。
(でも、これも凜ちゃんのためなの)
鏡の魔女は既に準備を始めている。
魔女の意識を通じて、私も認知できている。
(本当に偶然だったけど、『向こう側』と繋がれたことで、神浜を滅ぼせる算段もついた。あとは……)
全ての準備が整うのを待つだけだ。
(この世界を終わらせるための、ね)
この世に神様がいるのなら聞いてみたい。
どうして私と凜ちゃんを引き合わせたのか、と。
私が凜ちゃんを理解したって、私は彼女を救ってあげられない。
彼女が望む愛を、私は与えてあげられない。
(だって、私のその愛は、帆奈ちゃんだけのものだもん。いくら凜ちゃんでも、それだけは譲れないよ……)
その気持ちだけは、どれだけ絶望に身を堕とそうとも譲りたくなかった。
それを分かって、私と凜ちゃんを引き合わせたのなら。
(なんて、イジワルな神様……)
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……これマジ?
……マジかぁ。
まのさばの動画見てたら全然進みませんでした。後悔はありません(カス)
ちなみにさなちゃんが持ってきた銃は、神浜の怖い人たちから盗んできたものです。
修羅の街、神浜だからこそ、調達も簡単そうですね。(白目)