魔法少女まどか☆マギカ 実績『朝焼けのエンドロール』獲得   作:くろしゅー

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(まばゆちゃん2人目の実装にぶったまげたので)初投稿です。



DAY.92 選びたい未来は

 

 

 

 

 

 

 

 DAY.92 Side TY

 

 

 

 

「ええ、ええ。分かったわ。こっちでも準備しておく。それと……」

 

 

 

 やちよは今日も電話してる。電話の相手は、ななかとこのは。

 

 話す内容は、当然凜のことについて。

 

 

 

 ここ数日で、凜はあっという間に神浜中の悪者だ。

 一番の原因は、やっぱりキュゥべえだろう。

 

 アイツが色んな魔法少女に、鏡の魔女と繋がってる可能性がある、鏡の魔女が暴れれば宇宙が滅ぶなんて言いふらしてるから、みんな疑心暗鬼になってる。

 

 それに加え、ななかたちのチームとこのはたちのチームが、凜たちへの警戒を伝え回っているのも原因だろう。

 

 

(そりゃ、あの子たちからしたら瀬奈みことだって仇の一人だろうけど……。でも、だからって凜まで敵に認定しなくても……)

 

 

 

 

 みんなから話を聞いたその日から、私は何度も凜と連絡を取ろうとした。

 

 電話は何回もかけたし、チャットのメッセージも、メールも送った。

 

 

 けど、どれにも返信はなし。

 

 

 唯一、最初に送ったチャットにだけは返信があって、そこには

 

 

『私なら大丈夫です。先輩は気にしないでください』

 

 

 という返答だけだった。

 

 

 

 

 

 

 凜が瀬奈みことと一緒に活動しているのは、紛れもない事実だろう。

 

 十七夜が嘘をつくとも思えない。

 

 

 

 でも、動機だけはどうしても納得できなかった。

 凜が神浜を滅ぼすことを肯定するなんて、思えなかった。

 

 

 

(それとも、私が思いたくないだけなのかな……)

 

 

 正直、その可能性も捨てきれない。

 

 凜と敵対することを決意すれば、最悪の場合、私は凜を殺さなければいけない。

 

 

 ――弟子が間違った道を進むのなら、全力で、それこそ殺してでも止めなさい。

 

 

 やちよの言葉が、頭の中で反芻される。

 

 

 

 

 

 今の私は、きっと正常な判断ができてない。

 

 

 

 

 この前、みかづき荘のリビングでフェリシアとさなが話しているのを聞いたときだった。

 

 

「なあ、さな。やっぱり鶴乃、最近おかしいよな」

「……はい。ずっと、思い詰めてる感じで、元気もないような気がします……」

 

 お風呂を上がった私は、リビングに入る前に二人の会話を聞いた。

 

 

「やっぱ、凜のことかな……」

「そうだと、思います。凜さんが、神浜を滅ぼすなんて……」

「んなの、ななかが勝手に言ってるだけだろ……! やちよも信じやがって」

「私も嘘だと思いたい、です。けど、状況は……」

 

 フェリシアもさなも、凜の状況は聞いている。

 二人も、凜を信じるか戦うかで揺れている様子だった。

 

 

 私はそこに入っていける気がしなくて、ドア越しに二人の会話を立ち聞きしていた。

 

 

「さなまでそんなこと言うのかよ!」

「ち、違います! でも、どっちが正しいか判断できるほど、私たち凜さんのこと、知らないじゃないですか……」

「そ、それは……」

「私だって信じたいです……。凜さんのおかげで、私はみかづき荘に来れました。ほむらさんと友達になれました。だから……」

「こういう時、いつもは鶴乃が決めてくれるんだけど、今は鶴乃も……」

「はい……」

 

 

 二人にも、私が悩んでいるのは伝わってしまっていたようだった。

 そういうのを隠すのは得意だと思っていたのに、それすらできないほど今の私は余裕がないのだと思い知らされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(もう、どうしたらいいか分かんないよ……!)

 

 

 

 誰を信じるべきか、何を信じるべきか。

 

 凜が何を考えているかも、私には分からない。

 

 

 

 

 凜があそこまで周りを拒絶する理由が、分からなかった。

 

 私だって寂しがり屋な自覚はあるが、凜のはそれ以上だ。

 誰かと一緒にいられないことを嫌がる子だと思ってた。

 

 

 それなのに、そんな子が一人になろうとするなんて。例え、周りを巻き込みたくないのだとしても、そこまでするものだろうか?

 

 

 それとも、それくらいしないといけないほどのことをしようとしてる……?

 

 

(凜、大丈夫かな……。自分で自分を追い詰めてないよね……?)

 

 最悪のシナリオが頭に浮かびそうになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夜。

 

 私は自室でビデオ通話をかけていた。

 

 きっと向こうは、時差を考えれば電話に出られる時間のはず。

 

 

 

 5回のコール音の後、画面に映像が映し出される。

 

『もしもし、鶴乃?』

「もしもし、お姉ちゃん? 今、大丈夫?」

『大丈夫よ』

 

 画面に映ったのは、留学中のお姉ちゃん。

 

 昔から、由比家復興のためにって頑張ってきた同士で、お姉ちゃんは海外で、私は日本で頑張るって決めたんだ。

 

 

 彼女が留学に行ってから、時々こうやって連絡を取り合っていた。

 でも最近、電話できていなかったから、こうして話すのは久しぶりだ。

 

「その、さ。ちょっと相談したいことがあって……」

『相談? いつもの由比家復興計画について?』

「ああ、いや……。今日はちょっと、違くて……」

 

 お姉ちゃんは不思議そうな顔をするけど、私が話すまで何も言わずに待ってくれる。

 

「その、ね。私と仲がいい後輩のことなの」

『後輩? うん』

「今ね、その後輩の子が、悪いヤツとつるんでるって、噂があるんだ。状況的に、自発的にじゃないかって」

『……うん。それで?』

「私はそんなことないって、信じたい。けど、危ないことをしてるんだったら止めないとっても思うんだ」

『うん』

「私、何を信じたらいいのか、分かんないの……。あの子の何を信じればいいか分かんない……。ねえ、私、あの子にどう接したらいいと思う?」

 

 お姉ちゃんは少しの沈黙の後に、私に尋ねる。

 

『その子とは、最近ちゃんと話したの?』

「ううん。その子、少し前に引っ越しちゃったから。それでも時々会ってたんだけど……。今は電話にもメッセージにも答えてくれない。メッセージに既読はついてるから、見てはくれていると思うんだけど……」

『警察沙汰とかになってはないのね?』

「うん。今は……」

 

 それを聞くと、お姉ちゃんは顎に手を当てて考える。

 

 

 少しして、お姉ちゃんは口を開いた。

 

『それなら、とりあえず直接会って話すことを目指しなさい。そうして分かることもあるだろうから』

「で、でも、もし間に合わなかったら……! それに、仮に会えたって、どう話したらいいか……。接し方にすら迷ってるんだよ……?」

『心配性ね。けど、そうねぇ……。もし接し方が決められなのなら、こうしなさい。あなたがなにを信じるか信じないかじゃなく、その子がどうしてその行動をするかを想像しなさい』

「動き……?」

『そう。人の行動には理由があるわ。それも複雑になればなるほど、確固たる理由が。鶴乃はその子と一緒にいた時間は長い?』

「う、うん! 半年くらいは一緒にいたよ!」

『それなら、大丈夫。起きている事実は変わらないとしても、その子が抱えた真実は、噂とは違うかもしれないわ。鶴乃が信頼してる子なら、ただ悪いことをしたくて悪い子とつるんでいるのかしら? 誰かを傷つけるためだけに行動する子なのかしら?』

「そんなこと、凜はしないよ!!」

『なら、その子はどうして皆が噂する悪い子とつるんでいるのかしらね?」

 

 それは……。

 

 

(疑う噂のほうが間違っている……?)

 

 凜の話や噂ばかり気にしていたけど、本当に疑うべきは瀬奈みことの噂のほう?

 

 

『それでもし、やっぱり鶴乃が悪いと思うことをしているのなら止めてあげないさい。もちろん、無茶は厳禁だけど。でも、鶴乃が信じられるなら、噂がどうだろうがその子の力になってあげなさい。きっと、その子も喜ぶはずよ』

「そうかな……。喜んでくれるかな……?」

『当然でしょ。優しくされて嬉しくない人間はいないわ。一人で何かを成し遂げるのは難しいことだもの。私だって、鶴乃がいなかったらここまで頑張れていないわ』

「お姉ちゃんも?」

『ええ。鶴乃も頑張っているって思えるから、私も頑張れるのよ。ずっと一人で頑張れる人なんて、世界中のどこにもいないわ』

 

 だから、とお姉ちゃんは笑う。

 

『鶴乃が頼ってくれて嬉しいわ。あなた、昔から何でもできるせいで、人に頼るのが下手だったから。成長しててくれて、嬉しい』

「お姉ちゃん……。えへへ、ありがとう!」

 

 お姉ちゃんの言葉に、私も自然と笑顔になる。

 

「お姉ちゃんのアドバイス、参考になった! 私、もうちょっと頑張ってみるね!」

『そう? それなら、頑張りなさい。それと、鶴乃』

「ほ?」

『辛かったら、また相談してね。私だって相談させてもらうから』

「……うん! お姉ちゃんも、無理しないでね! お悩み相談も、この鶴乃ちゃんにお任せあれ!」

『頼もしいわ』

 

 すると、お姉ちゃんが時計を見るような動作をして、あっと声をあげる。

 

『ごめん、もう時間だ』

「ホント? ありがとう、お姉ちゃん。話を聞いてくれて!」

『お安い御用よ。またね』

 

 

 お姉ちゃんのその言葉とともに、画面が消えて黒くなる。

 

 

 

 

(凜が瀬奈みことと一緒にいるってことを成立させるための理由、か……)

 

 

 私たちは瀬奈みことのことを、更紗帆奈の共犯としか捉えてこなかった。

 

 実際、更紗帆奈がやったことはどれも許されないことばかりだ。そして凜だって、誰かれ構わず助けることはしない。善悪の区別はちゃんとしている。

 けど、凜はそれでも瀬奈みことと一緒にいることを選んだ。

 

 やちよは、凜の倫理観は社会正義を無視するとは言ったけど、それでも理由もなく無視をすることはない。

 

 

(となれば、後は……)

 

 

 凜の許せないことは、目の前の子が泣いていること。

 

 それなら、泣いているのは。苦しんでいるのは。

 

 

 

 私が選ぶべき道は……。

 

 

 

 

「よし!」

 

 

 全部、私の想像で仮定だ。

 

 

 

 けど、凜にも教えた私のやり方。

 

 

「出たとこ勝負上等! 私は最強魔法少女、由比鶴乃だーーー!!!」

 

 

 

 私は気合いを入れるために、大声を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 DAY.92 Side MY

 

 

 

 

 はあ、と何度目かも分からないため息が漏れる。

 

 

 今日に限って、調整屋には人が来ない。

 お客さんが来てくれれば、『調整屋としての八雲みたま』の皮を被れるというのに、運命はそれすら許してくれない。

 

 

 私の気分を重くしているものは、当然凜ちゃんのことだ。

 

 数日前に彼女に瀬奈みことが取り憑いていると知ってから、私はずっと悩んでいた。

 どうすれば凜ちゃんのためになるか。それだけを考えていた。

 

 周りの子たちは一連の鏡の魔女の動きを、瀬奈みことと凜ちゃんの二人が首謀していると断定。次に神浜にやって来たら拘束、最悪の場合は殺そうとしている。それを後押しするかのように、キュゥべえも凜ちゃんたちの危険さを吹聴する始末だ。

 

 今や神浜の魔法少女の間では、凜ちゃんはまるで極悪の指名手配犯のような扱いだ。

 

 

 

 

 凜ちゃんはそんな子じゃない。

 

 そう叫べれば、どれだけ良かったか。その私の叫びに力があれば、どれだけ凜ちゃんを救えたか。夢想しない日はない。

 

 けれど実際は、私はこうして調整屋としての日々を重ねるだけ。

 皆に真っ向から反論する勇気も、力もないのだ。

 

 

(この流れを、私は知ってる)

 

 

 不安と緊張、そこに敵意が混ざれば、それらは偏見へと繋がっていく。

 不安が憶測を呼び、緊張と敵意が人の暴力性を解放し、どんどん正しい判断が出来なくなっていく。

 そうして形作られた空気は、まるでゾンビのように人々の思考を一方向へと狭めていく。

 

 そうなれば、差別への道の完成だ。

 

 皮肉にも、今の神浜は『夕凪凜』という共通敵を得て、纏まろうとしている。

 

 

 

 それは、かつて私が感じた水名女学園の空気と同じ。

 そこから戻った私を迎えた東の空気と同じ。

 

 

 今まさに、私も私の妹も助けてくれた子がその空気に晒されていても、私は怖いのだ。

 

 その悪意が再び私に向けられることを。

 

 

 

 瀬奈みことの言葉が頭を過ぎる。

 

 

 

 ――笑えるね。誰かを呪う願いを叶えたくせに、善人のふり?

 

 

 ――あなたの身勝手な希望と呪いを、凜ちゃんに押しつけてるだけじゃない。

 

 

 ――あなたは自分が可愛いから、凜ちゃんを言い訳に見捨てた。

 

 

 

 あの時、私は瀬奈みことに言い返すことが出来なかった。

 心のどこかで、自覚があったんだと思う。

 

 私はどうしようもなく臆病で、憎しみを消しきれないのだ。

 だから凜ちゃんに全て任せてしまった。彼女なら、私に出来ないことだって出来るかもって。

 

 魔法少女になって、たくさんの出会いがあった。

 ももこみたいに、私の心を救うような出会いになった子もいたけど、それでも私の心に植えつけられた差別の憎しみと恐怖は消えない。

 

 

 瀬奈みことの計画を嫌悪した理由は、その計画の成就を願ってしまっている自分が少なからずいたことも、理由の1つだ。

 そして、それを凜ちゃんなら止めてくれるかもと、また頼ってしまったことも。

 

 

 ――全部、全部、全部、あなたが引き金を引いたんじゃない。

 

 

 瀬奈みことが私に言った、この言葉。

 

 神浜の今の状況全てが私のせいとは思わないが、凜ちゃんの状況に関しては、間違いなく私に原因がある。

 私があの時、願わなければ。凜ちゃんは瀬奈みことに取り憑かれることも、神浜中から恨まれることも、その呪いを我が身を犠牲にして一手に引き受けようとすることもなかったのに。

 

 

(少しくらい私を恨んでよ、凜ちゃん……)

 

 

 凜ちゃんに最後に会った日、彼女は私に言った。

 

 

 

 ――みたまさんの呪いも、私が受け止めます。私が断ち切ります。任せてください!

 

 

 

 凜ちゃんにそんなことをする義務も責任もないのに、凜ちゃんは引き受けた。

 

 理由なんて深く考える理由必要もない。

 ただ、私のためだ。私が過去の呪いと後悔から解放されるためだけだ。

 

 裏なんかなく、ただ私を想って行動する凜ちゃんを見る度、嬉しさより惨めさが勝つ。

 

 

(私がこれだけ恨んだんだから、凜ちゃんも恨んでよ……。お願いだから、私のために命を削らないで……)

 

 

 私だって、誰かに愛されること、何かしてもらうことは嬉しい。

 だけど、凜ちゃんの献身は嬉しさより、心配と後悔が勝つ。

 

 それほど、凜ちゃんの献身は痛々しい。

 愛に飢えて、誰かが与えてくれるまで与えることを繰り返す。それで自分が壊れるなら、それもまた良いといった感じで。

 

 

 

 数ヶ月前、鶴乃ちゃんの裏の顔を知って、自分への恨みと後悔で憔悴しきった凜ちゃんは、どんな目で私を見ていたのだろう。私は何を期待されていたのだろう。

 

 1つだけ分かることは、私は凜ちゃんの求める正解を与えられなかった、ということだけだ。

 

 

 

(もう、私なんて……)

 

 

 可愛い後輩だと思ってた子一人、守れない。救えない。

 それどころか、負担を増やすばかり。

 

 

 それなら……。

 

 

 

 

「……おい!!」

「っ!?」

 

 

 突然の大声に、私は肩を跳ねさせ、息を呑む。

 

 振り返れば、そこにいたのはももこだった。

 

「……あ、あらぁ、ももこ。いらっしゃ~い、どうしたのぉ?」

「別に取り繕わなくていいよ……。あんだけ声かけて返答がない時点で」

「……少しくらい、取り繕わせてよ」

「えっ?」

「なんでもないわ」

 

 私は立ち上がりながら、ももこに問いかける。

 

「それで? 今日は何の用かしら? 調整はこの前したはずだけど……」

「凜のことだ」

 

 ももこの言葉に、私の身体は強張る。

 

「正直、今の状況じゃ相談できる相手が調整屋しかいないんだ」

「……私は中立の調整屋よぉ。話を聞くくらいしかできないけど」

「ああ。それを承知で言わせてもらう」

 

 そう言うももこの目は、今までにないほど真剣な目だった。

 

 

 

「凜を助けたい。そのために、中立を破ってアタシに協力してくれ、調整屋」

 

 

 

 私は片付けていた書類を床に落とす。

 

 

 

「……本気で言ってるの?」

「ああ。正直、アタシだけじゃどうしようもないんだ。凜の排除派には、やちよさんも十七夜さんもいる。アタシも説得したかったけど、向こうも西と東のリーダーとして凜への警戒を解くわけにはいかないの一点張りでな……。このままじゃ、本当に凜が殺されちまう」

 

 だから頼む!とももこは私に頭を下げる。

 

「アタシだけじゃ凜を守り切れない! 調整屋が協力してくれれば……」

「断るわ」

 

 

 私はももこの願いを断った。ほとんど咄嗟だった。

 

「なんで!?」

「私の立場が危うくなるからよ。私に魔女と戦う力がないのは知ってるわよね? ここでの信頼を失ったら、私はどうやってグリーフシードを調達すればいいのよ」

 

 それに、と続ける。

 

「凜ちゃんに味方して、私にも敵意が向いたとして。私だけで済めばいいけど、矛先がミィまで向いたらどうするの?」

「そ、そんなこと……!」

「無いとは言い切れないわよね。人の悪意なんて簡単に膨れ上がるし、対象も広がるわ。今みたいにね」

 

 ミィに手を出されたら。

 それを想像しただけで、悪寒が走る。

 

「だから、悪いけど無理よ」

 

 

 嘘だ。

 本当は力になりたい。

 

 

 けど、それ以上に、私は人の悪意に晒されることを恐れている。自分と、自分の大切な人に向くことに。

 

 

 現状が崩れることを怖がっている。

 

 

「そんな……! 頼む、調整屋!」

 

 

 それでも、ももこは引き下がらなかった。

 

 

「しつこいわね……。どうして、そこまで……」

 

 

 すると、ももこは歯を食いしばった後、ポツリと呟いた。

 

 

「チームが解散したとき、アタシは凜のこと、守ってやれなかった。メルが死んだとき、本当はアタシたちで支えてあげるべきだったんだ。けど、やちよさんにチームを解散するって言われて、アタシはついカッとなって、一番にみかづき荘を出ていっちまった……」

 

 そう言いながら、ももこはグッと拳を握る。

 

「それが気まずくて、凜をレナたちとのチームに誘ったこともあったけど、鶴乃と組んでいるから大丈夫って言われてさ。なんとなく、凜からの拒絶を感じたんだ。それで、アタシは諦めちまった。鶴乃がいてくれるなら大丈夫だって、自分を納得させて。そんなこと、全然無かったのに……!」

 

 

 ももこは、だから、と強く言い放つ。

 

 

「今度こそ、守ってやりたいんだよ! 凜はアタシにとっても、大切な後輩なんだ! ヤバいヤツと一緒にいるのは分かってる。けど、殺すのは間違ってるだろ……!」

 

「その結果、あなたの家族が危ない目に遭うかもしれないわ」

 

 私の脅しめいた言葉にも、ももこは怯まない。

 

「それなら、家族だって守りきる! もちろん、調整屋だって」

「無茶苦茶ね……」

「無茶でもなんでもいいんだよ! もう、守れないのはゴメンだ……! これ以上、足が震えて動けなかったなんて、ウンザリなんだよ……!」

 

 ももこは、もう一度頭を下げる。

 

「頼む、調整屋! 力を貸してくれ……! お前だって、凜と仲良かったじゃんか! この状況、何とも思わないのかよ!?」

「思ってないわけないでしょう!?」

 

 私はももこの言葉に、つい感情的に言い返してしまう。

 

「私だって、助けられるなら助けたいわよ! ただでさえ、凜ちゃんが私の呪いを引き受けてくれるって言ってくれてるのに……!」

「呪い……?」

 

 怪訝そうにするももこに、私は自身の願いと鏡の魔女の関係を教える。

 

 当然、ももこの目は驚愕で見開かれた。

 

「本当は私一人でなんとかしたかった……。けど、鏡の魔女の成長は、私が何とか出来る範囲をとうに超えていたわ。それを凜ちゃんは、その役目を代わりに引き受けるって言ってくれたのよ……」

 

 私は膝から崩れ落ちる。

 

「ももこの言う通りよ……。凜ちゃんは神浜を滅ぼそうとしてない。むしろ救おうとしてる」

「なら……!」

「でも、一緒にいる瀬奈みことが神浜を滅ぼしたがっているのも事実なのよ……!」

 

 あの時会った瀬奈みことの雰囲気。

 

 あれは決して冗談などではなかった。

 

「彼女がいる以上、神浜を滅ぼそうとする意志は必ず……」

「なら、話は簡単だ」

 

 私の言葉を遮って、ももこが言う。

 

「凜を信じて、凜を助けるだけだ」

「だから、瀬奈みことがいる限り……!」

「その瀬奈みことだって、凜が救いたい対象なんじゃないか?」

 

 私はももこの言葉に、顔を上げる。

 

「凜、言ったんだよな。調整屋の呪いも引き受けるって。その呪いが今の瀬奈みことなら、アイツは瀬奈みことだって救おうとしてるんじゃないか?」

 

 ももこは私に手を差し出す。

 

「怖いのは分かるよ。アタシだって、ひよっこの頃はそうだった。魔女との戦いで足が震えて、魔法少女でもない子より動けなかったことだってあった」

 

 よく見れば、ももこの手は微かに震えていた。

 

「けどさ。それで震えたまま終わったら、どこにも手は届かないだろ。アタシはそんなの嫌だね」

「……簡単に言ってくれるわね。私のこと、なんにも知らないくせに……」

「ああ、知らないね。だからこそ言うんだよ。一緒に来てほしいって」

 

 ももこはふっと笑う。

 

「怖いなら、アタシが守る。調整屋の大事なもん、全部守ってやる。だから、調整屋も諦めないでくれ。なんとかしたいって気持ちを、殺さないでやってくれ」

 

 

 

 ももこの笑顔は、まるでお日さまのように明るくて。

 

 

 

 私は自然と彼女の手を取っていた。

 

 

「……それなら、一生、守ってもらおうかしら?」

「おいおい……。まあけど、誘ったのはアタシだしな。いいよ、アタシでよければ」

「ふふっ、嬉しいわぁ。こんな大胆なプロポーズ♡」

「は、はぁっ!? おまっ、人がせっかく真面目に頼んでたのに~!」

「冗談よ、冗談。それじゃ、さっそく誓約書でも書いてもらおうかしら?」

「おーい、アタシへの信頼はどこいったー?」

 

 

 気づけば、二人とも笑顔だった。

 

 

 

 

 一歩を踏み出すのは怖かった。

 

 けど、側にこんなに信頼できる子が支えてくれるなら。

 

 

 きっと、今が踏み出すときなのだろう。

 

 

 

(そういえば、凜ちゃんが変わったのだって、まばゆちゃんが側にいてくれたから、だったわね……)

 

 

 

 今の凜ちゃんは、それらを全て切り捨てて進もうとしている。

 

 

 

 でもきっと、それを繋ぎ止めるのは、私たちの役目じゃない。

 

 

 

 私たちには、私たちにできることをするのだ。

 

 

 

 

(今までごめんなさい、凜ちゃん……。そして今度こそ、あなたの力になるわ)

 

 

 あなたが救ってくれた、私の心の分、ね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 DAY.92 Side RY

 

 

 

 

 この日、私はさやかちゃんの言われた通り、病院に来ていた。

 

 まばゆたちの姿がないか警戒していたけど、特にそんなことはなく。

 

 

 私は待ち合わせ場所の、病院の待合室に向かった。

 

 

「あっ、きたきた。おーい、凜センパーイ!」

「ちょっとさやかちゃん……! ここ病院だよ、声、声……!」

「え、あっ! ご、ごめん、まどか」

 

 私を呼ぶさやかちゃんと、その声を聞いて静かにするよう、口に人差し指を当てるまどかちゃん。

 

「ごめん、待たせちゃったかな」

「いえ、私たちが早く来すぎただけですから」

 

 まどかちゃんが笑いながら答えると、不満そうな顔でさやかちゃんが言ってくる。

 

「にしても、凜センパイも凜センパイですよ。昨日も学校に来てくれないし、チャットに返信もしてくれないし。来るかどうか不安だったんですから」

「そ、それは本当にごめん……」

 

 正直、行くかどうかギリギリまで悩んでおり、彼女からのメッセージに返信していなかった。

 行ったら、まばゆに会ってしまうかもしれないと思っていたから。

 

(本当に……。なにやってんだろ、私)

 

 

 沈む心を無理やり切り替え、私はさやかちゃんに尋ねる。

 

「それで、どうして病院に? 誰か怪我したの?」

 

 二人が私を病院に呼び出す理由。

 前日に呼び出しってことは魔女じゃないだろうし、怪我人を治してほしいくらいの理由しか思い浮かばなかったのだけど。

 

 

「まあ、それは屋上に行ってからのお楽しみってことで。さ、行きましょセンパイ」

 

 と、さやかちゃんは答えをはぐらかし、エレベーターへと向かう。

 

 まどかちゃんもニコニコしているだけだし、本当になんなのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 私たちが病院の屋上に着くと、そこには既に小さな人だかりがあった。

 

 お医者さんに看護師さん、ここの患者さんと思われる人たちが何人も集まっており、何事かとギョッとする。

 

 

 私は人混みの隙間から、彼らの視線の先にあるものを凝視する。

 

 

 そこには……。

 

 

 

「……上条くん?」

 

 私がそう呟くと、横にいたさやかちゃんが答える。

 

「せいかーい! 今から行われるのは、恭介によるバイオリンの演奏会なのでーす!」

 

 さやかちゃんは胸を張って言う。

 

「演奏会?」

「はい! 恭介、退院してからずっと、お世話になったこの病院に何か恩返しがしたいって言ってて。そしたら、バイオリンの演奏をお願いできないかって、依頼があったんです。ほら、病院ってどうしても心が弱っている人が多くて、娯楽も少ないから。慰問の演奏会でもしてくれたら助かるって話になったんです」

「それで……」

「はい。一応、病院内で大きな音は出せないから、開催場所は屋上になっちゃったんですけど」

 

 上条くんはバイオリンの音を確かめるように、何度か細かく音を鳴らしている。

 

 その間にも、上条くんの演奏に聞きに来たであろう、病院の人たちが集まっていた。

 

 

「これ、私も来てよかったの?」

 

 少しばかりの場違い感から、私はさやかちゃんに尋ねる。

 

 すると、さやかちゃんは少し驚いた顔をして言う。

 

「なに言ってるんですか。凜センパイが恭介の腕を治してくれなかったら、この演奏会だって開けなかったんですよ。一番の功労者といっても過言じゃないくらいですよ」

「ずっとお見舞いに通ってたさやかちゃんには負けると思うけどなぁ……」

 

 うっ、とさやかちゃんは呻いた後、「あ、あたしのことはいいじゃないですか!」と顔を赤くして、そっぽを向いてしまう。

 

 その様子を見て、くすり、とまどかちゃんは笑ったあと、私に言う。

 

「でも、私も凜さんには来てほしかったんです。上条くん、ずっとお礼がしたいって言ってたみたいで。凜さんが治してくれた腕で、こういう演奏会を開きたいって、ずっとさやかちゃんと色々話し合ってたんですよ」

「そう、なんだ……」

 

 まどかちゃんが語ってくれた、この演奏会の背景。

 それを聞いて、私はどこか胸が締め付けられるようだった。

 

「恭介のやつ、せっかく腕を動かせるようにしてくれたんだから、凜センパイへの恩返しに演奏したいって言ってて。だからあたし、言ったんです。それなら、凜センパイだけじゃなく、もっと多くの人を元気づけられるような場を設けようって」

 

 いつの間にか、顔の赤さの消えたさやかちゃんも、補足するように付け加える。

 

 

 

 

 すると、時間になったのか、上条くんの隣にいた男の人、恐らく彼のお父さんであろう人が口を開く。

 

「えー、では時間になりましたので、これから息子、恭介のバイオリン演奏会を開催させていただきたいと思います」

 

 観客から拍手が上がる中、お父さんに促され、上条くんが一歩前に出る。

 

 観客の拍手が止んだタイミングで、彼は語り出す。

 

「皆さん、今日は僕の演奏を聴きに集まってくださり、ありがとうございます」

 

 彼は一度お辞儀をした後、話を続ける。

 

「僕はついこの前まで、この病院に入院していました。事故に遭って、足も腕も満足に動かせなくなって……。今こうやってバイオリンを持てているのも、当時からしたら考えられないことでした」

 

「けれど、父や母、病院のお医者さんや看護師の皆さんが熱心に僕を支えてくれました。そして、僕の幼馴染みも。彼女はほとんど毎日のように病院に通ってくれて。僕の好きな音楽のCDを持ってきたりしてくれて、入院中の僕の心をずっと支えてくれました」

 

 上条くんの言葉に、隣のさやかちゃんはまたしても顔を赤くする。

 「余計なこと言わなくていいって!」と小声で呟く彼女に、私とまどかちゃんはついつい微笑んでしまう。

 

「それと、その幼馴染みが紹介してくれた学校の先輩。その人に色々話を聞いてもらったりもして。そのおかげでしょうか、皆の支えで僕の腕は再び動くようになったんです」

 

「またバイオリンを弾けると分かったとき、僕はお世話になった人たちへの恩返しをしたいと思いました。でも、幼馴染みが言ってくれたんです。どうせなら、もっと多くの人に希望を繋げようって」

 

「たくさの人が支えて、僕に希望を与えてくれた分。僕もただ返すだけじゃなく、より多くの人に希望を届けたい。その想いは日に日に強くなり、ついにこの演奏会を開催するに至りました」

 

「今、この中にも悲しみや苦しみを抱えている人もいるでしょう。その気持ちを和らげ、光を見つけられるよう、精一杯演奏させていただきますので、最後までお付き合いください」

 

 上条くんはそう話を締めくくると、バイオリンを構える。

 

 

 少しの静寂の後、彼は弦を弓で擦り、音を奏でだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 上条くんの演奏は、その場にいる全員の心を引き寄せていた。

 

 

 ブレの無い正確な音。それでいて、豊かな音の表現。

 

 月並みな感想だが、彼の演奏は素人の私でもすごいと感じるものだった。

 彼の、誰かに寄り添おうとする気持ちが、私たちにも伝わってきた。

 

 

 演奏する曲数自体は、病院であることを考慮して3曲程度。どれもクラシックだったが、原曲より短めにされていた。

 

 けれど、それでここまで人の心を掴めるのは、さすがとしか言いようがない。

 さやかちゃんがこの音を取り戻したい気持ちが何となく分かった気がした。それこそ、命を捨ててでも。

 

 

 彼が最後に披露した曲は『アメイジング・グレイス』。

 たしか、賛美歌の1つだった気がする。

 それと同時に、過去の後悔とそれを許してくれた神様への感謝の歌だと、いつかの音楽の授業で聞いたことを思い出す。

 

 彼がこの曲を選んだ理由を、私はぼんやりと想像していた。

 

(そういえば上条くん、腕が治らないって言われて、さやかちゃんに八つ当たりしちゃったんだっけ……)

 

 彼女が魔法少女の契約を決心した理由を思い出す。

 

 腕が治ってから、ずっと彼も謝りたかったのだろう。口だけでなく、彼女が信じてくれた自分の演奏で。

 クラシックに詳しい彼女になら、意味が伝わると信じて。

 

 

 

 

 

 

 

 西日が照らす屋上で、私はただそれを聴き入っていた。

 

 私の隣にはいつの間にかみことちゃんもいて。彼女も、ただ上条くんを見つめていた。

 でも、その瞳にはもっと遠くの記憶が映っているようだった。

 

 

 これが許しの曲ならば、それは私たちも包み込んでくれるようで。

 

 

 私たちは寄り合って寂しさを埋めるよう、ただただ演奏に身を委ねた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 演奏会は大成功に終わった。

 

 彼の演奏が終わるやいなや、観客からは喝采の嵐。

 笑顔の人、涙を流す人。観客の反応は様々だったが、上条くんの演奏に感動したのは全員一致だったようだ。

 

 

 演奏会も終わり、屋上にほとんど人がいなくなったタイミングで、上条くんがさやかちゃんと一緒に私に声をかけてきた。

 

 

「夕凪先輩、来てくれたんですね」

「……ああ、うん。さやかちゃんに誘われて」

 

 そう言うと、上条くんは嬉しそうに笑う。

 

「そうか。ありがとう、さやか」

「え、いやいや! まあ、あたしも? 恭介の演奏、凜センパイには一度聞いてほしかったし、ちょうど良い機会だなって」

「そうだね。今回の演奏会、一番は夕凪先輩に恩返ししたかったんです」

 

 上条くんは真っ直ぐに私を見つめる。

 

「さやかから聞きました。僕がさやかに八つ当たりしちゃった後、話を聞いてくれたって。僕たち二人とも、夕凪先輩に救われてるんです。けど、僕はバイオリンくらいしか取り柄がないから。それで、演奏で恩返ししようってさやかに話したとき、それなら、先輩一人により、その気持ちを大勢の人を救うほうに使おうって話になったんです。そっちのほうが喜ぶからって」

 

 上条くんは少し恥ずかしそうにしながらも、私に問いかける。

 

「まだまだ演奏の腕は未熟ですけど、証明できましたかね? 夕凪先輩が繋いでくれた希望が、もっと多くの人の希望になるところ」

 

 

 

 

 

「……うん、できてたよ。上条くんの演奏はたくさんの人の救いになってた。ありがとう、誘ってくれて」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 病院で私とまどかちゃんは、さやかちゃんと上条くんと別れた。

 二人ともまだ話したそうだったので、二人きりにしてあげたかった。

 まどかちゃんも同じ気持ちだったようで、赤くなるさやかちゃんを上条くんの方へと押していた。

 

 

 

 

 そして、彼女たちと別れた私たちはというと、近くのハンバーガーショップに立ち寄っていた。

 

「それでまどかちゃん。私に付いてきた理由は?」

 

 私が尋ねると、まどかちゃんは困ったように笑う。

 

「え、ええっと、凜さんともうちょっとお話してたくて……」

「はぁ……。ほむらから聞いたかな? 私のこと」

「えっと……」

 

 視線が右上を向く。

 

(これは確定か……。本当に分かりやすいな、この子……)

 

「別に隠さなくていいよ。あの子たちが私を気にしてるのは知っているし」

「な、なら……」

「でも、考えを改める気も、これ以上巻き込む人を増やす気もないよ」

 

 私はまどかちゃんの言葉を遮って、そう告げる。

 

「まどかちゃんも、わざわざ私に関わる必要ないよ。これは私が勝手にやってることだから。私なんかより、ほむらの側にいてあげて」

「……なんかじゃ、ないです」

「えっ?」

 

 まどかちゃんはとても真剣な目で、私に言い返す。

 

「凜さんは私の大切な先輩です。お友達です。それはほむらちゃんにとっても、まばゆさんにとっても」

「うん。だから、皆には関わってほしくないの」

「それは、危ないからですか?」

「そうだよ。それ以外にある?」

「なら、なおさらです。凜さんがそう思うように、ほむらちゃんたちだってそう思ってます。凜さんに危険な目に遭ってほしくない。それが避けられないなら、せめて側にいて力になりたいって」

 

 ――私だって、そうですから。

 

 

 そう語るまどかちゃんの目に宿る決意は確固たるもので、言いくるめるのは大変そうだと感じる。

 

「……それが間違ってるんだよ。ほむらたちは私抜きの幸せを考えるべきなんだ。彼女たちには、もう私がいなきゃいけない理由なんてない」

「あります」

 

 まどかちゃんは私の言葉を、正面から否定する。

 

「凜さん抜きの幸せなんて、悲しいこと言わないでください。凜さんがいなくなるのを悲しむ人はたくさんいるんです」

 

 それに、とまどかちゃんが続ける。

 

「間違うことが、正解なときだってあると思うんです」

「……なにそれ。間違ったら、迎えるのは最悪の結末だけだよ。私を気にすることが無駄なことで、間違いなんだって」

「それは、ほむらちゃんたちが決めることです。そして凜さんも、認めてあげてください。自分のこと」

 

 まどかちゃんは悲しそうな顔で続ける。

 

「頑張ったねって、自分を褒めてあげてください。もういいよって、許してあげてください」

 

 

 彼女のその言葉に、私の中の黒い感情が動くのが分かった。

 

「……できるわけないじゃん。私まだ、何も成し遂げてない」

「いいえ。いっぱい頑張ってます。さっきの上条くんの演奏だって、凜さんが助けてくれたから実現できた光景です。さやかちゃんが契約しなくてもいいように頑張ってくれたのも知ってます」

「その油断でまた罪を重ねたら!?」

 

 私は思わず大声を上げてしまう。

 

「私は頑張り続けなきゃいけないの! そうじゃなきゃ、私はきっとまた失う! 私はもう失う側になりたくないの!」

 

 落ち着かなきゃ、と頭では分かっているのに、口が止まらない。

 

「あなたに分かる!? 自分のせいで失った人がいる辛さが! みことちゃんは私の最後の希望なの!! 私に与えられた最後のチャンスなの!」

 

 

 こんな勝手な理由、聞かせたくないのに……。

 

 

「本当は誰も協力を仰ぐつもりはなかった……。けど、それじゃみことちゃんの願いを叶えられないから……。せめて、誰も罪に巻き込みたくない……! 私にはもう、みことちゃんしか……!」

 

 そこで、私はハッと口を手で塞ぐ。

 

(ダメだ、この先を言ったら……)

 

 

 それは、みことちゃんへの呪いになる。

 優しいみことちゃんを苦しませる。私なんかも気にかけてくれて、そして更紗さんが一番であることを譲れないみことちゃんを、傷つけて縛る茨の鎖になる。

 

 

 

 誰も、呪いたくない。縛りたくないのに……。

 

 

「凜さん」

 

 私の怒号にも怯まず、まどかちゃんは私に呼びかけ続ける。

 

「希望を諦める必要なんてありません。それは、凜さんが誰かを頼ったくらいで揺らぐようなものじゃありませんから」

 

 

 うるさい。

 

 どうして、そこまで無邪気に希望を信じられるの?

 

 どうして、ここまで邪険に扱っても私に手を伸ばすの?

 

 

「だから凜さん。皆の声、聞いてくれませんか?」

 

 

 

 

 どうして、あなたみたいになれないの?

 

 

 

 

 どうして……、私はあなたのように一番に愛してくれる人に会えないの?

 

 

 

 

 

 

(そんなの、決まってるじゃん……。私がぶち壊してるからだよ)

 

 

 こんな風に……。

 

 

 

 

 

 

 私は鹿目まどかに手を伸ばす。

 

 

 

 狙うはその細い首元。それだけで彼女は……。

 

 

 

 

 

 

「っ!?」

 

 

 

 私は咄嗟に手を引っ込める。

 

 

(私いま、なに、しようとした……?)

 

 

 まどかちゃんは困惑したような顔で私を見ている。

 

 

 

 けれど、混乱しているのは私も同じで。

 

 

 私は、恐る恐る自分のソウルジェムに視線をやった。

 

 

 

 そして。

 

 目に映った宝石の色を見て、私は血の気が引いた。

 

 

 

 

 

「っ!」

「あっ、凜さん!」

 

 

 まどかちゃんの呼び止める声を振り切り、私は店を飛び出す。

 

 

 

 

 

(なんで、なんで、なんでなんでなんで……!)

 

 

 

 

 がむしゃらに走りながら、私の頭は困惑と恐怖に支配される。

 

 

 

 

(なんで、あんなにソウルジェムが濁ってるの……!!)

 

 

 

 私の魂は、ひどく黒ずんでいて濁っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 DAY.92 Side MS

 

 

『凜ちゃん! ねえ、凜ちゃん!』

 

 

 私は必死に呼びかける。

 

 けれど、私の声は凜ちゃんには聞こえていないようだった。

 

 

 恐らく、ソウルジェムの穢れがひどいことが原因なのだろう。彼女自身の魔力で私を認知できないほど。

 

 

 私は胸の奥が冷たくなっていくのを感じる。

 凜ちゃんの状態を知って、という理由だけじゃない。凜ちゃんの感覚を私も共有できるから分かる。

 これは、凜ちゃんが感じている気持ちだ。

 

 

 そして私は、この感覚を知ってる。

 だって、私が魔女化したときの感覚にそっくりだから。

 

 

『凜ちゃん、落ち着いて! 私の声を聞いて!』

 

 

 私は凜ちゃんの手を握って止めようとする。

 

 けど、当然のように私の手は凜ちゃんの手をすり抜ける。

 そんなのずっと前から認識していたのに、人は咄嗟の動きというのを変えられないらしい。

 

 

 こんなにも近くにいるのに、私は凜ちゃんに触れてあげることすらできない。

 

 まるで仮想現実のように、私と凜ちゃんを分け隔てる壁は透明でも、確かにある。

 

 

 

 私は、ここでも無力だった。

 

 

『凜ちゃん……。やだ、やだぁ……!』

 

 気づけば私は、子どものように泣いていた。

 

 泣くことしか、できなかった。

 

 

 

 

 

 

 凜ちゃんは当てもなく走った。

 

 

 走って、走って、走って。

 

 

 

 最終的に辿り着いたのは、駅のホームだった。

 

 

 

 いつの間にか終電の時間も過ぎていたのだろう。

 駅には人っ子一人いない。

 

 

 疲れ果てたように、凜ちゃんはベンチへと腰を下ろす。

 

 

 

「ごめんね、みことちゃん……」

 

 そして彼女は、唐突に私に謝った。

 

「多分、これ無理だ……」

 

 

 その呟きはほの暗い絶望を纏っていて、私が最も聞きたくない言葉だった。

 

「みことちゃんの願い、叶えるはずだったのになぁ……」

『諦めないで! きっと、きっとなんとかなるから!』

 

 そんなの無理だと、私の中の私が囁く。

 

 

 人間は最後は絶望で終わるって、自分が一番見てきたじゃん。

 

 どんな希望と幸せを得ても、最期は絶望にたどり着いてきたじゃん。

 

 なにより凜ちゃん自身の人生が、それの繰り返しだったんだから。

 

 

 

 自分が辿り着いた答えが、これほど憎かったことはない。

 

 

「ごめん。せめて、自分の命くらいは責任持ちたいから……」

 

 震える声で言いながら、凜ちゃんは武器を生成して、自身のソウルジェムに向ける。

 

『なに、してるの……?』

「みことちゃんは、別の人に移って……。あなたを巻き込みたくは、ないから……」

『む、無理だよ! もう、私には……』

「私の魔力、奪ってっていいからさ……」

 

 私の声が届いているかと錯覚するほど、ピッタリのタイミングで凜ちゃんは私に提案する。

 

 けど、それをしたら……。

 

『凜ちゃん、ホントに死んじゃう! そんなのやだ!」

 

 私が今の凜ちゃんから魔力を奪ったら、それこそソウルジェムが完全に濁りきる。

 今ですら、ギリギリのラインなのに。

 

「取り憑くなら、まばゆがいいよ……。あの子、困ってる人、放っておけないから……」

『それもやだ! 帆奈ちゃん以外で、居心地良かったの凜ちゃんだけだもん!』

 

 

 凜ちゃんは虚ろに空を見つめてる。

 

 

「あーあ……。結局、私が生まれた意味って、なんだったんだろう」

 

 

 

 凜ちゃんの目に涙が浮かぶ。

 

 

 けど、それを拭うことすら、私にはできない。

 

 

 

 そうして、凜ちゃんの目から涙がこぼれ落ちる寸前のタイミングだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「凜さん!!!」

 

 

 

 

 静かなホームに、まばゆちゃんの声が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 




祝!! まどドラでまばゆちゃんのver.違いの実装、決定です!

前回のまばゆちゃん実装時のガチャは大爆死した挙句、未だまばゆちゃんお迎えできていないので、今回こそゲットしたいと思います。

すり抜けは嫌だ、すり抜けは嫌だ、すり抜けは嫌だ……!
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