魔法少女まどか☆マギカ 実績『朝焼けのエンドロール』獲得 作:くろしゅー
(一話がアホほど長くなってしまったので)初投稿です。
DAY.92 Side RY
「凜さん!!!」
駅のホームに響くまばゆの声。
私はハッと顔を上げる。
視線の先には、肩で息をするまばゆの姿があった。
「まばゆ……、どうしてここに……」
「ハァ、鹿目、さんから、ハァ、連絡、もらって。未来視、で、ハァ、ここを……」
全力疾走してきたのか、息を切らしながら答えるまばゆ。
「凜さん、急いでソウルジェムを……!」
「やめて!!」
近寄ろうとするまばゆを、私は大声を上げて拒絶する。
まばゆの肩が跳ね、困惑した顔になる。
「ど、どうして……。分かってますか!? このままソウルジェムが濁れば……!」
分かってる。
このままいけば、私は魔女になってしまう。
でも。
「もう、意味ないよ。例え浄化しても、どうせすぐに穢れが溜まっちゃう……」
走っている途中で気づいてしまった。
どうしてこんなにすぐ、穢れが溜まったのか。
「私、今さらみんなとの日常が惜しくなっちゃった……」
思えば、兆候は少し前からあったんだ。
数日前、みことちゃんに穢れを指摘された時から、私は穢れを溜め込みやすくなっていた。
それはきっと、私が今ある日常を手放すことの実感が湧いてきてしまっていたから。
「みんな、私に優しくしてくれる……! でも、私にそんなことしてもらう価値、ないのに……」
「そんなことありません! 言ったじゃないですか! 凜さんが辛いなら、ずっと側にいます! だから……!」
「それが、私にとっては辛いの!!」
まばゆが一歩踏み出してくるのに合わせ、私も一歩後ろへと下がる。
「嬉しいよ! みんな、私のこと認めてくれる。赦してくれる。ここなら、私も居たいなって思う!」
でもね。
「もう私、後戻りできないとこまで進んじゃった……。ここで、私がまばゆたちの方へ行けば、みことちゃんはどうなるの? みことちゃんを裏切って、私だけ安寧を得ろってこと? そんなの、できるわけないじゃん……!」
私に突きつけられた究極の二択。
みことちゃんと共に進めば、必ず常磐さんたちと衝突する。魔法少女同士の抗争だ。神浜での居場所も、ここでの日常も、きっと元には戻らない。
でも、まばゆたちと一緒にいる日々を選ぶということは、みことちゃんを切り捨てるしかない。彼女が争いの根本なら、鏡の魔女ごと彼女を消すしかない。そうしなれば、常磐さんたちからの疑いは晴れないし、日常にも戻れない。
「みことちゃんを選んでも、まばゆたちとの日常を選んでも、私は何かを捨てなきゃいけない。でも……、どっちも、切り捨てるには私の中で大きくなりすぎたんだよ……。どっちを選んでも、もう私は日常を歩めない。きっと心に空いた穴に蝕まれて魔女になる……」
私は、それに気づいてしまった。
もうどちらに進んでも、私に未来はないこと。
そして、私の中にある、もっと皆と一緒にいたいという、感情に。
それが、この濁りだ。ソウルジェムを蝕む絶望だ。
「こんな感情、気づかなければよかった! みんなと一緒にいたいなんて思わなければよかった! みんなが受け入れてくれるかもなんて希望、抱かなければよかった!」
もう無理だ。
私の未来は袋小路に入ってしまった。どれだけ手を伸ばしたって、届かない位置に来て初めて気づくなんて、私はとんだバカだ。
「……おねがい、まばゆ。みことちゃんのこと、任せてもいいかな……? 自分勝手なのは分かってる。けど、私の死にこの子を巻き込むわけには……」
次の瞬間、まばゆは地面を蹴っていた。
近づいてくるまばゆに、私は距離を取ろうとして。
それよりも早く腕を掴まれる。
そして。
「あっ……」
力任せに引き寄せられ、思い切り抱きしめられる。
「そんなの、認められるわけないでしょう! 生きるんですよ、凜さんも!」
まばゆの腕の中で私はもがく。
けど、まばゆの力が強くて振り払えない。ソウルジェムが濁って力がいつもより出ないのもあるだろうが、それ以上にまばゆの力は普段からは考えられないくらいだった。
「凜さんは間違ってます!! 全然、分かってません!」
まばゆが叫ぶのを久しぶりに聞いた気がする。
私は呆気に取られ、そんなことしか頭に浮かばなかった。
「どうして! どうして、私たちと一緒に進む選択肢がないんですか!?」
「だって! まばゆたちを巻き込んだら、それこそ取り返しが……!」
「そんなこと! 覚悟してないとでも!?」
まばゆは私の言葉に、毅然と言い返す。
「たしかに今の日常はかけがえのないものです。でも、あなたがいなくなったら、私はそれを日常となんて呼べません! 凜さんがいなくなるなんて、嫌です!」
「でも……!」
「日常が変わるって怖いものです! 凜さんと会う前の私がそうでした! ほむらさんとのループが終わったら、私たちはどうなっちゃうんだろうって、変化が怖かったですよ。でも凜さんがいてくれたから、私もほむらさんも、今一緒にいられます! 皆と一緒にいられます! 私たちを取り巻く状況は変わりました。けど、皆一緒にいられます。これが、日常だって呼ぶものじゃないんですか!?」
「たとえどんな状況になったって、私たちが一緒にいれば、それは日常の続きです! だから……!」
「一緒にいましょうよ、凜さん……!」
まばゆのその言葉は、私の抵抗を止めるには十分だった。
もがいていた腕を降ろし、私は膝から崩れ落ちる。
そんな私をまばゆは優しく支えてくれる。
「どうして……」
「え……?」
「どうして、ここまで私に寄り添ってくれるの……」
それは、自然に出た言葉だった。
答えなんて、とっくの前に知っているはずだったのに。それでも確かめられずにはいられなかった。
私の問いに、まばゆは顔を綻ばせると、優しく言った。
「凜さんと一緒にいたいからです。凜さんが大切だから、寄り添いたいんです」
私の背中を撫でながら、まばゆは語る。
「私も凜さんと同じです。諦めたくないんですよ。もう、大切な人を失うのも、その人を忘れて心の内に封印するのも、こりごりです。だから、ずっと凜さんの側にいます。なにがあっても」
(ダメだよ、まばゆ……。私なんかのために人生を棒に振らないで……!)
そう言いたいのに、声が出ない。まばゆを押し返すこともできない。
私自身が、この温かさにずっと触れていたいって思っちゃってるから。
それでも、諦めずに言葉を紡ぐ。
「で、でも……! 私のすること、きっと間違ってる……! 色んな人を傷つけるかもしれない……!」
「その程度で、私たちが引くとでも?」
私の耳に、まばゆより少し低い声が届く。
「ほむら……」
「久しぶりね、凜」
私たちから少し離れたところ。駅の看板に背中を預け、ほむらが立っていた。
ほむらだけじゃない。彼女の横には、巴さんの姿もあった。
「巴さんも……。どうして……」
「そんなの、夕凪さんが心配だからに決まってるじゃない」
巴さんは苦笑いする。
「ここ数日、ずっと心配してたのよ? 学校にも来ないし、まばゆさんから話を聞いて、ずっと会いたかったんだから」
「まったく……。まどかにあれだけ心配かけさせたんだから。少しは反省してもらうわよ」
巴さんもほむらも、そう言いながら私のほうへと近づいてくる。
「なんで?」
私の零した呟きに、二人は首を傾げる。
「二人にとって、私を助ける理由なんてないじゃん! むしろ止める側じゃないの!?」
私がそう言うと、二人は顔を見合わせる。
そして、ほむらが大きなため息をついた。
「……あのね。何を勘違いしているか分からないけど、私は反対だったわ。あなたを止めたほうがまどかを守るためのリスクは減らせるから」
「だったら!」
「でも、それと同時に嫌だったのよ。あなたを殺せばリスクは減らせるけど、きっとまどかは悲しむわ。それにまばゆだって」
ほむらは淡々と、それでも少し温かみのある声で告げる。
「あなたは私に、周りを頼ることを教えてくれたわ。一人で全て抱えようとしていた私の手を掴んで、無理やり皆の輪に加えた。皆との生きた時間がズレて、心がどんどん離れていく中、あなたはいつだって変わらず接してくれた。同じ時間を共有していないにも拘わらず」
そう語るほむらの顔は嬉しそうで、泣きそうだった。
「あなたがいてくれたから、私は『まどかを守れる私になりたい』という願いを叶えることができたのよ。それなのに、あなたは迷惑がかかるからサヨウナラって、納得できるわけないじゃない!」
ほむらはカツカツと私に近寄ってくると、私の肩を掴む。
「私に独りになるなと言っておきながら、あなたはそうやって独りになろうとするの!? あなたがいなくなって、悲しむ人のことを考えなさい!」
「私に悲しむ価値なんて……!」
「どうしてあなたはそうなの!? あなたがどれだけ否定しても、私は言い続けるわよ! 時間を巻き戻せない以上、あなたが死んだらそこで終わりなの! もう会えないのよ!!」
ほむらは俯き、顔に影ができる。その顔はとても悲しそうで、私の心を揺さぶる。
「ほむらは、まどかちゃんが一番でしょ……。私なんて、どうでもいいじゃん」
私の言葉に、ほむらは唇を強く噛みしめたあと、私に言い返す。
「もう一つ勘違いね。私はそんな強い人間じゃないわ……。そんな非情になれたら、どれだけ楽だったか……。もっと他者を駒のように使えたら、繰り返す時間も少なくて済んだかもしれない。けど、出来なかったから、あなたに助けられたのよ」
ほむらの声が少し柔らかくなる。
「だから、もう失わせないでよ……!」
その言葉の意味を、周りの人がいなくなる恐怖を、私はよく知っている。
時間を何度も繰り返して、その数だけ別れも経験してきたほむらは、私以上にその怖さと喪失感を知っているはずだ。
その恐怖の対象に、ほむらは私を入れてくれるんだ。
そういえば、いつかまばゆから聞いた、昔のほむらの話。
眼鏡をかけていた彼女は、今よりずっと気弱で、臆病で、魔法少女としても未熟だったらしい。
私はその頃のほむらを知らないから忘れそうになるけど、今のほむらはその頃の願いを叶えるために進んできた先の姿なんだ。
だから、根っこの部分はきっと変わっていない。
私に言葉をかけるほむらは、眼鏡をかけているような錯覚を受けた。
「私もよ、夕凪さん。あなたがいなくなったら、とっても悲しいわ」
そこで、巴さんも声をかけてくる。
「巴さん……」
「私、夕凪さんがこの街にやって来るまでね、ずっと一人で戦ってきたの。ずっと寂しかった。でもあなたと会えて、一緒に戦えて。私、一人ぼっちじゃないって思えたの。私のことを受け止めてくれて、嬉しかった。だから夕凪さん、あなたが辛いのなら今度は私が力になるわ。もう一人で抱え込まなくていいのよ」
巴さんは私に優しく語りかけてくれる。
けれど、私はその手を取れなかった。
「違う……」
「えっ……」
「違うよ、巴さん……。私、あなたにそんな優しくしてもらう権利、ない……」
「……それはどうして?」
私の拒絶に怒ることもなく、巴さんは優しく聞き返してくる。
「巴さんは気づいてなかっただろうけど、私、あなたのことが苦手で、意図的に距離作ってた」
それは、これまで語らなかった本心。
ずっと封じていた、私の気持ち。私の罪の1つ。
「あなたの強さが苦手だった。ほとんど独学なのに、魔法少女としては上澄みのレベルで強かったし、それに見合うだけの気高さがあった。寂しいって気持ちを抱えてても、誰かを救う魔法少女のやり方を貫き通していたって知って、嫉妬した」
そんなの見苦しいだけなのに。
誰かに頼り続け、迷惑をかけ続けた私と違って、巴さんは一人で涙を飲んで戦い続けてきた。
本人が不本意だろうと、誰にだって出来ることじゃない。
そんな巴さんの在り方が、苦手だった。
「だから、巴さんに襲われたとき、私、おかしくなっちゃったんだ。巴さんのこと、怖いって思ったし、私を殺してくれそうで安心もした。でも、一番感じたのは、やっと完璧が崩れてくれた、って気持ちだった」
この前、杏子ちゃんとあの時のことを話していて確信した。
巴さんを止めるとき、きっと私はどうかしていた。
巴さんを助けてあげたい気持ちの中に、やっとその魔法少女の在り方にヒビが入ってくれたと思ってしまった。私でも助けられる場所まで堕ちてきてくれたと思ってしまった。
「私、巴さんを助けることで優越感を覚えてた……」
きっと出会ったときから、私は潜在的に巴さんに苦手意識を持っていた。
だって、同級生なのに「さん」付けをして、ずっと距離が近づきすぎないようにしていたもの。まばゆはすぐに呼び捨てで呼べたのに。
きっと彼女の近くにいれば、自分の嫌なところが見えてきてしまうから。
「だから巴さん。こんな最低な私なんて、助けなくていいんだよ。それに、私は神浜の人たちを危険に晒す道を進んでいる。巴さんの信じてきた正義とは相容れないものだし、あなたに手を差し伸べてもらえるような人間じゃ、ない……」
私は巴さんの手を拒絶した。
(でも、これでいい。巴さんは、私に付き合う必要も、助ける価値もないって分かってもらうんだ。そうすれば……)
しかし、巴さんは私の言葉を聞いてなお、優しく微笑む。
「そういうことだったのね……」
「……なんで、笑ってるの? 私が滑稽すぎて?」
巴さんは首を横に振って、私の言葉を否定する。
「違うわ。ようやく理由が知れたって思って」
「理由?」
「ええ。私、夕凪さんに距離を作られているのは薄々気づいていたのよ? けど、それもあなたの距離感なのかもって思って黙ってたわ。それに、夕凪さんを傷つけたのは事実だし……」
少し苦い顔で言った後、巴さんはすぐに笑顔に戻る。
「それにね。私だって、夕凪さんに苦手意識持っていたのよ」
「え?」
私は巴さんの発言に、目を何度も瞬かせる。
「夕凪さんはいつも明るくて愛嬌があって、暁美さん、まばゆさんともすぐに仲良くなって。それに、神浜にもたくさんの仲間がいたから。私の周りには誰もいないのにどうしてって」
巴さんは恥ずかしそうに笑う。
「でもあなたは、そんな気持ちも霞むくらい分け隔てなく接してくれた。距離はあったけど、裏を感じることもなかったしね。なにより、魔女化の真実を知ってヒドいことをしたのに、受け止めるって言ってくれて。あなたがそう言ってくれて、私の側にいてくれることを選んでくれたのね、とっても嬉しかったんだよ?」
だから、と巴さんは、私に手を差し伸べ続ける。
「苦手で避けてたのは、お互いさま。そして私は、あなたともっと仲良くなりたいの。あなたが孤独を埋めてくれたのなら、私だってあなたの孤独を埋めてあげたいの。それじゃダメ、かしら?」
はにかむ巴さんは私に言う。
「それにね。夕凪さんのやっていること、私は手伝いたいって思ってるのよ」
だって、と巴さんは続ける。
「ときには悪役の心も救う。私の憧れた魔法少女はね、そういう正義の魔法少女だったから」
少し恥ずかしそうにしながらも、巴さんの声に迷いはなかった。
「夕凪さんのやろうとしてること、応援したいのよ。一人の魔法少女として、友達として」
「だから、ま、まずは名前で呼んでいいかしら……? り、凜さん」
巴さんがくれる言葉に、私の心はひどく揺れる。
思わず手を取ろうとしてしまうほどに。
(でも、でも……。私には、そんな権利……! そんなの私は許しちゃいけない……!)
本当は。本当なら。
もっと、みんなといたい。みんなと遊びたい。
でも、みことちゃんの、みたまさんの、そして神浜の呪いと恨みを引き受ける以上、私は誰かの隣になんていられない。
私の幸せのために、みことちゃんを見捨てるなんて、言語道断だ。
だから……。
(私は幸せを願っちゃいけない……)
揺らぐ自分の心に必死に言い聞かせる。
私は、幸せを望んでいい人間じゃない。
その気持ちが結局、穢れを溜め込む原因になっているのに。
それでも私は、幸せへと足を進めない。
(もう、進めない……! もう幸せを望みたくない……!)
私はみんなの視線から逃げるように顔を下げる。
きっと、これ以上ここにいると、私は最奥の本心を隠せなくなる。気持ちに歯止めが効かなくなる。
(まばゆ、まばゆ……! ねえどうしよう、まばゆ……!)
私を見つけてくれたあなたに、一番に愛してほしくなる。
何もかも失って見滝原に来た私の心を埋めてくれたあなたに、私を一番に見てほしくなる。
傷ついて失敗しても一緒にいてくれたあなたに、ずっと一緒にいてほしくなる。
あなたの視界に、私が映らなくなるのが怖くて仕方ない。
そんな幸せ、求めちゃいけないのに……。
『凜ちゃん!』
その時だった。
私の頭の中に声が響く。
「みこと、ちゃん……?」
透き通るガラスのような綺麗な声を間違うはずない。みことちゃんの声だ。
私が顔を上げれば、そこにはみことちゃんが私に寄り添うように座っていた。
先ほどまで声も聞こえていなかったのに、今は姿だって見える。
「な、んで……」
私はふと気づき、自身のソウルジェムを見る。
すると、穢れの溜まりが止まっており、少しだが魔力が復活していた。
ソウルジェムの変化に気づいた私を見て、みことちゃんが語る。
『ごめん、凜ちゃん。ホントはね、魔力がギリギリってのは嘘だったの。神浜を滅ぼすときの魔女との融合用に、ずっと予備の魔力を隠し持ってたんだ。それがこの魔力』
みことちゃんの説明に、私は目を見開く。
つまり、私の魔力が回復したのは、みことちゃんがその魔力を私に分け与えたということだ。
けど、それをするということは……。
「みことちゃん、計画はいいの……? 滅ぼしたいほど、神浜を憎んでたんじゃなかったの……?」
みことちゃんは、『心配するとこ、そこ?』と笑う。
『いいの。凜ちゃんの姿を見てたら……。ううん、凜ちゃんとこれまで過ごしてきて、私、凜ちゃんには死んでほしくないって思えたの。魔女にだってなってほしくない。だからこの予備の魔力、全部あげる』
どうして?と私が問う前に、みことちゃんが答える。
『杏子ちゃんに言われた、私が叶えたい感情はなにかって言葉。私なりにずっと考えてたの。私が本当に求めてることって何だろうって。考えて、考えて、考えて。それで、今の凜ちゃんの姿を見てハッキリした』
みことちゃんは私を真正面から見つめる。
『私は、私の大事な人に苦しんでほしくない。神浜の恨みも憎しみも、帆奈ちゃんを失った理由をずっと探していただけだった。でも本当は、私自身が一番許せなかったの。帆奈ちゃんの隣で、何も出来なかった私が。それで今度は、私のために頑張ってくれてる凜ちゃんまで失いそうになって。それなのに、まだ復讐に拘るのかって思ったら、なんだかどうでもよくなっちゃった』
みことちゃんは抱きしめるように私を包む。
『今の私には、凜ちゃんが生きてくれることのほうが大切。帆奈ちゃんには会わせてほしいけど、凜ちゃんにも幸せになってほしい。どっちも叶ってほしい、私の幸せ』
みことちゃんの声はとても温かく、私は自然と涙をこぼしていた。
『凜ちゃんだって、幸せになっていいんだよ。凜ちゃんがこれだけ突き放しても、あなたと一緒にいたいって子がこんなにもいるんだから』
みことちゃんは、まばゆたちを見回すように視線を向ける。
『私の幸せを望んでくれるなら、凜ちゃんも幸せになってほしいな。あなたの幸せなら、私も手放しで喜べると思うから』
そう言って笑うみことちゃんの表情はいつもより柔らかくて、絶望と呪いに囚われる前の、素の彼女に会えた気がした。
それが、限界だった。
「私、幸せを願ってもいいの……?」
「当然です」
まばゆが答える。
「私、迷惑いっぱいかけるよ……?」
「いいじゃない。それが友だちじゃないかしら」
巴さんが答える。
「私、良い子でなんかあり続けられないよ……?」
「それでも、叶えたい希望があるんでしょう。それが間違いだなんて、言わせないわ」
ほむらが答える。
「私、これから間違った道を進むよ……?」
「それが正解なときだってあります」
まばゆが言い返してくる。
「鹿目さんが以前、お母さんから聞いたそうです。正しくない道だって、後から振り返れば正解だったときもあるって。凜さんのしようとしてることはリスクもあります。けど、凜さんの、誰かのためを思っての行動が間違いだなんて、私には思えません」
まばゆはいたずらっぽく笑う。
「赤信号、皆で渡れば怖くない、ですよ。凜さん、私の好きな言葉、覚えてます?」
「えっと……、策略、チート、不戦勝、だっけ……」
ほむらがドン引いた目でまばゆを見るが、まばゆは気にせず続ける。
「そうです。私も未来視の魔法のせいで、正しい結末ばかりに目を取られてました。でも、いつかの凜さんが言ってくれたんです。未来視の結果が後に正しい判断になるとは限らないって。だから私は、未来視に頼りすぎない戦い方を身につけられましたし、今、凜さんの隣にいれます」
だから、とまばゆは私と目線を合わせて、言った。
「正しいかどうかより、凜さんの気持ちを優先してください。私たち皆、あなたのワガママに付き合いたくて集まったんですから」
私は、気づけば、ポツリと呟いていた。
「私、みんなと一緒にいていい……?」
「「「もちろん!」」」
「――っ!」
私はまばゆの背中に手を回し、抱きしめ返す。
私から漏れ出す嗚咽は、人がいない駅のホームによく響いた。
それでも、私を包んでくれる3人にはしっかりと届いた。
DAY.92
あっっっっぶねぇぇぇぇぇ!!!!
危うく本当にユリちゃんが魔女化するとこでしたよ!
前にフラグじみた発言はしたけど、そんな伏線回収しなくていいから。(良心)
ともかく、感動的な雰囲気でなんとかユリちゃんのメンタルも持ちこたえることに成功しました。
まばゆちゃんにグリーフシードも使ってもらって、当面の危機は去りましたね。いかん、危ない危ない危ない……。
にしても、後半は私ほったらかしでイベント進んでさぁ。ユリちゃんもコマンド受けつけないから、ほとんど操作出来なかったんですケド。(ARN並感)
これで魔女化してたら、マジのクソゲーになるとこでした。あ ほ く さ。
まあでも、ユリちゃんたちが幸せならOKです!(手のひらドリル)
それに、このイベントによりユリちゃんのメンタル回復だけでなく、見滝原メンバーが協力してくれるようになり、みことちゃんもグッドエンドルートに入ったのは僥倖ですね。
みことちゃんが鏡の魔女との融合用魔力を手放したことで、みことちゃんが復讐心を手放した判定となりました。これにより、以降は完全な味方になってくれます。鏡の魔女討伐にも情報を提供してくれるようになるので、みことちゃんルートで鏡の魔女を倒す場合、この状態に持っていくのは必須ですからね。
「とりあえず、間に合って良かったわ、凜さん」
「うん、ありがとう。ま、ま、マミ、ちゃん……?」
おっ? ここも名前で呼び合うんか?(気ぶり勢)
「……もう! 名前を呼ぶくらいでそんなに照れないでよ、凜さん! 私までなんか恥ずかしいじゃない……!」
「ご、ごめん……。いや、今まで名字で呼んでたから、なんか慣れなくて。あと、どうしても『さん』付けが似合うというか……」
「ええー!? それ、どういうこと!?」
「わーごめんごめん! マミちゃん、マミちゃんが合ってる!」
「……ふふっ。冗談よ、冗談。名前で呼んでくれて嬉しいわ」
ああ^~、心が浄化されるんじゃ~。
今まで若干距離のあったマミさんとユリちゃんも、無事和解できたようです。お互い名前呼びできるようになったんですねぇ~。
ほら、まばゆちゃんも後ろで腕組んで満足げに眺めてます。誰目線の態度なんですかね、それ。
まあでも、たしかにユリちゃんの言う通りマミさんの「ちゃん」付け呼びの違和感エグいな。おかしい、これが中3の貫禄か……?
さて、紆余曲折ありましたが、これで地盤固めはほぼ終わりました。
あとは、ワルプル戦でもあった作戦会議で作戦を立てて、作戦決行日を向かえるだけです。
というわけで、次は作戦会議じゃい!!
DAY.93
さて、ラビちゃんたちにも声をかけ、当日のユリちゃんたちの動きを詳しく決めていきます。
それに、ひめなちゃんとまばゆちゃんたちはお互いに会ってないから、顔合わせくらいはさせときたいですしね。
ちなみに今回の作戦会議はパソコンでのリモート会議です。さすがに宝崎まで足を伸ばしている時間はありませんので。まどマギ世界が妙にハイテクな世界観で助かりました。
と、その前に、ユリちゃんに電話がかかってきました。
相手はなんと、みたまさん。
何の用じゃろ?
ふむふむ……。
……。
えっ、ユリちゃん側についてくれるの? これマジ?
彼女から情報を引き出す時、かなり無理やり(意味深)迫ったので、絶対協力してくれないと思いました。
どうやら、ももこちゃんと一緒に、ユリちゃんに力を貸してくれるそうです。
でも、急になんで?
「……もう、傍観者ではいたくないのよ」
はぇー。みたまさんのほうでも何か心変わりをしたんですかね。
なんか意図せずマギレコ第一部の、調整屋の中立破棄イベントが発生しました。
二人とも、いざとなれば戦う気満々ですが……。
ぶっちゃけみたまさんは戦力として心許ないというか……。(失礼)
いや、対魔法少女戦ではそこそこ強くはあるんですが、魔女に対してはバット装備一般人に毛が生えた程度というか。
うーん、ももこちゃんの参戦は嬉しいですが、彼女たちはどう扱えば……。
あ、いや待てよ……? そういえば相手に一人、彼女たちに任せたい人がいますね。
彼女を足止めしてくれれば、大分戦況の風向きがこちらに向きますから。
ということで、かくかくしかじか……。
「……」
「マジか……」
これを任せたいんだけど、出来そう?
「……ああ、もちろんだ。凜が頼ってくれて嬉しいよ」
「やりづらい相手ではあるけど、それは向こうも同じでしょうしね。分かったわ、任せてちょうだい」
ありがとナス!
よし、これで警戒すべき人数が一人減った!
では、今度こそ作戦会議。はーいよーいスタート。
DAY.93 Side MA
私たちを加えての作戦会議当日。
凜さんの家に集まった私たちは、彼女のパソコンを覗き込んでいました。
「いま連絡して繋いでるから。ちょっと待ってて」
作戦会議をするなら顔が見えたほうがいい、ということで、宝崎にいる氷室さんたちとリモート形式で会議をすることになりました。
少しして。
ピコン、という電子音と共に通話が繋がります。
「繋がった」
「お、見える見える。ゆーりん!」
画面の先に映ったのは氷室さんともう一人、私の知らない藤色髪の少女。
その少女は、私たちに向かって手を振っていました。
「氷室さん、それにひめなちゃん!」
凜さんはそう言いながら、手を振り返します。
(あの人が、藍家さん……)
彼女の話は今日、凜さんから少し聞かされていましたが、改めて私とは縁遠い人に見えました。
なぜなら……。
(ギャル! 絵に描いたようなギャル!! 凜さんの交友関係の広さには毎度驚かされますが、私はこういうタイプ、ちょっと苦手かも……)
あんなクラスの一軍で輝いていそうな人は、私と生きる世界が違いすぎて、どうも苦手意識があります。
(ここは気配を殺し、静観に徹するのが吉……!)
「あっ! ゆーりんの横にいるのが、よく話してるまばゆん?」
「そうだよー」
(さっそくバレた!? というか、すでにあだ名がつけられてる!?)
私の隠密作戦が開始一秒で水泡に帰した中、藍家さんは構わず続けます。
「初めまして~。私チャン、藍家ひめな! 話は聞いてると思うけど、ゆーりんの友だちだから。とりまヨロ~☆」
(自己紹介のフットワークが軽い! これが陽キャ……!)
「あ、ああ、えっと、あ、愛生、まばゆです! よ、よろしくお願い、します……」
「まばゆん、緊張しすぎだって。ウケる」
(なんかウケた!?)
心のツッコミと彼女のテンションについていくので既に疲れてきた私ですが、藍家さんは特に気にする様子もなく、次に興味が移っているようでした。
「じゃ、そっちの黒髪ロングの子がほむりんで、髪巻いてる子がマミりん?」
「そうそう」
凜さんが頷く横で、ほむらさんは怪訝そうな顔をします。
「……ほむりん?」
「そ、ほむりん! 私チャンが考えたあだ名だけど、カワイイっしょ!」
「……普通に呼んでちょうだい」
「えー! カワイイからいいじゃーん!」
「別に可愛さは求めてないわ」
「えー……。ほむりんカワイイから、あだ名もカワイイほうが良いと思ったんだけどなぁー……」
(あ、ほむらさん照れた)
耳が少し赤くなってるほむらさん。彼女は表情を隠すように顔を逸らします。
「ほむら、気に入ったって」
「マジ? やった!」
「待ちなさい、凜。私は一言も言ってないわよ」
とはいえ、もう呼び名を変えてくれなさそうな雰囲気に、ほむらさんは諦めたようでした。
「そろそろ作戦会議を始めよう」
そこで、氷室さんが少し呆れた感じで言いました。
「えー、もうちょい……」
駄々をこねる藍家さんを視線で黙らせた氷室さん。
藍家さんが静かになったのを確認し、私たちの作戦会議は始まりました。
――
――――
「とりあえず今の調子なら、旭と藍家さんのほうはなんとか形にになりそう」
「そー! チョーキツかったけど!」
「それはほんとごめん……。そしてありがとう」
「いいっていいって! 他でもないゆーりんの頼みだし」
「それで、合流場所だけど……」
「あ、それなら……」
作戦の要の降霊術に関して確認したり……。
「妨害してくる人もいるんでしょ?」
「そう。ひめなちゃんたちにも共有しておくけど、今、神浜の魔法少女の間では、私が指名手配犯みたいな扱いなんだって」
「はぁ? なにそれ、ヒド! ゆーりんは友達のために頑張ってるだけじゃん!」
「仕方ないわ。瀬奈みことは凜だけにしか見えないわけだし、過去を考えれば信用なんてしてもらうのは難しいわ」
「そう。夕凪さんのことを信頼している人ばかりではない。それに、一度生まれた偏見は、そうそう消えない」
「ほむりんもラビりんも冷たーい!!」
「お、落ち着いて藍家さん」
「そうだよ、ひめなちゃん。私は大丈夫だから。それより、私が警戒している人たちのことは皆にも伝えておくね。多分、彼女たちは十中八九、私たちを妨害してくるから。まずは……」
私たちと対立する人たちの情報を共有したり……。
「やっぱり人手が少なくないかしら?」
「やっぱりマミさんもそう思います?」
「とはいえ、私たち見滝原の魔法少女4人と、湯国市の魔法少女4人、十咎ももこと八雲みたま、藍家ひめなを含めれば11人よ。これだけの味方でも十分奇跡だとは思うけど……」
「一応、佐倉さんにも声をかけるし、あとは……」
「佐倉さんが素直に協力してくれますかね……?」
「はいはーい! それなら私チャンに一つ策があるんだよね~」
「そうなの?」
「うん。実はね……」
限られた人数でどう動くか……。
「ヒコ君が皆の魔法知りたいって言ってるんだけど、教えてくれる? 作戦立てるのに知りたいんだって」
「……構わないわ。といっても、私の魔法はもう使えないけど……」
「あ、私は、未来視を使えます……」
「へぇー、まばゆんは未来視、っと。で、なんでほむりんは魔法使えないの?」
「ああ、それは……」
魔法を共有し合い、作戦を固めていきました。
途中には、キュゥべえについても話題が出て……。
「キュゥべえの妨害の可能性は?」
「直接的な干渉はないんじゃないかな?」
「でも、凜さんの印象操作をしているのよね? どうしてキュゥべえはそんなこと……」
「恐らく、狙いはまどかよ」
ほむらさんの言葉に、私は首をかしげます。
「どういうことですか?」
「彼らにとって鏡の魔女が宇宙を滅ぼすことを阻止することが絶対条件。だから、常磐ななかたちを扇動して凜の妨害をしているのよ」
「え? イミフじゃね? ゆーりんの妨害したら、宇宙滅亡の可能性上がるだけじゃん」
意味が分からないといった感じで、藍家さんが言います。私もその意見に賛成だったのですが、ほむらさんはこう続けました。
「いえ、それで凜か常磐ななかが鏡の魔女に勝てばそれはそれで良し。潰し合いでどちらかが魔女化してくれれば僥倖ってくらいよ。恐らくキュゥべえの一番の狙いは、凜と常磐ななかたちが共倒れすることで、鏡の魔女に対抗できる相手がいなくなること」
(共倒れ?)
その言葉に引っかかり、思考を巡らします。そして……。
「まさか……」
「気づいたようね。鏡の魔女が本当にワルプルギスの夜級の強さなら、私たちが倒れた時点で、鏡の魔女に対抗できる魔法少女はいなくなる。まどかを除けばね」
鹿目さんは犠牲になる人たちを見過ごせません。となれば、後は……。
「そうなれば、この宇宙を救うためにあの子は必ず契約する。キュゥべえとしては利用しない手はないチャンスというわけよ」
(クズッ……! ホンッットにあの害獣は……!!)
喉から出かかった声を飲み込みます。ここで憤ったところで、状況が良くなるわけでもありませんし、皆さんを不安がらせるわけにもいきません。
それと同時に、ほむらさんの行動にも納得がいきました。
「だからほむらさん、凜さんに協力することにしたんですね……」
「それだけではないけど……。どのみち倒さなきゃいけない相手なら、知らない相手より友だちに協力したいって、そう思っただけよ」
「もう、暁美さんも素直じゃないわね」
マミさんが苦笑いする横で、神妙な顔で凜さんは呟きました。
「……なら、尚更負けられないね」
それを聞いたほむらさんは口元を緩め……。
「ええ、当然よ」
そう、一言だけ言いました。
それからどれくらい経ったでしょう。
少なくとも2時間以上の話し合いの末、ようやく作戦当日の動きが決まりました。
「よし、こんなもんかな」
凜さんが完成したフローチャートを見て呟きます。
そこで、氷室さんが凜さんに尋ねました。
「合流はどうする? 目的達成には、私たちが揃わないといけない」
それに対し、凜さんは難しい顔で答えます。
「そこなんだよね……。最初は宝崎で合流して、皆で動こうと思ってたんだけど……」
凜さんはメモを取り出して、続けます。
「みたまさんからの情報を聞く限り、こっちの情報も結構向こうに伝わっているし……。あまり長く一緒に動くのは危険かもしれない」
凜さんは神浜の地図を見つつ、よし、と手を打ちました。
「二手に分かれよう」
「賛成よ。けど、具体的にどう動く気?」
ほむらさんの質問に、凜さんは地図の上で指を走らせます。
「見滝原方面の路線は向こうも想定しているだろうし、こっちは使えない」
凜さんは見滝原方面の線路にバツ印をつけます。
「じゃあやっぱ、宝崎方面から?」
藍家さんの質問に、凜さんは頷いた後、ただし、と続けます。
「神浜に入る直前、ここ豊鶴市の日ノ出町で二手に分かれる」
凜さんはもう一枚の地図、豊鶴市の地図を取り出して指さします。
「日ノ出町の隣はもう新西区だから、ここがちょうど良いと思うんだ」
そこで待ったをかけたのは氷室さん。
「ちょっと待って。普通に迂回して東方面から入るのじゃダメなの?」
その質問に、凜さんは首を振る。
「いや、向こうだって大東がみことちゃんの因縁の地だってことは理解している。となれば、絶対に大東の駅のホームは押さえられてる。なら……」
「あえて反対方向から突入し、裏をかく、ということ?」
氷室の確認するような問いかけに、凜さんは頷く。
「そこまで予想できていながら、作戦の決行場所は大東団地に決めたのね」
ほむらさんは確認するように凜さんに問いかけます。
それに対し、凜さんは申し訳なさそうに笑いました。
「ごめん。でも、あそこはみことちゃんにとっての思い出の場所らしいから。できるだけ、叶えてあげたいんだ」
「……そう」
ほむらさんはそう呟くと、口を閉じました。
一瞬の沈黙の後、藍家さんが仕切り直すように口を開きます。
「とにかく! その豊鶴市?ってとこで二手に分かれるのは私チャンも賛成。ヒコ君もそれがいいって。分かれれば、リスクの分散にも繋がるしって。でもでも、どんな感じで別れる?」
藍家さんの質問に、凜さんは少し唸った後、答えました。
「うん、ここはシンプルに行こう。私たち見滝原グループと、氷室さんたちプラスひめなちゃん」
「本当にシンプルですね……」
「まあ、こっちのほうがいざって時の連携は取れやすいだろうし。それに、神浜の皆は私一点狙いでくるはず。それなら私をデコイにすれば、氷室さんたちは消耗なく目的地にたどり着けるはず。今回、旭さんとひめなちゃんには特に負担をかけちゃうし」
「いや待って待って。それだと、ゆーりんの負担がエグくなっちゃうって! 魔法使うのは私チャンたちだけど、それ耐えるのはゆーりんなんだよ?」
しかし、凜さんは笑って答えます。
「大丈夫。そこは極力バレないように進むから。デコイ云々はもし見つかった場合の想定」
「でも……。……え、それでいこうって、ヒコ君まで!」
しかし、凜さんの顔を見て、諦めたように閉口しました。
彼女の顔は、覚悟の決まった顔で、どこか少し怖かったですから。
凜さんはすぐにその表情を崩し、苦笑いで続ける。
「電車に乗っていれば遭遇率はそこまで高くないだろうし、事を構えられることもない。いけると思うんだけど……」
「私も賛成だけど、土地勘は? 夕凪さん、宝崎のほうには何度も来てるけど。豊鶴市は行ったことあるの?」
氷室さんの質問は当然でしょう。
私たちの中に、豊鶴市に詳しい人なんていません。私なんて、豊鶴市自体、今知ったくらいですし。
しかし、凜さんは自信満々に胸を張ります。
「大丈夫。豊鶴市には前に何回か行ったことあるし、あそこの道と路線くらいならまだ覚えてる」
「え? そうなんですか?」
私が聞き返すと、凜さんは頷きました。
「まあ、前にちょっと足を運ぶ機会があってね。その時に」
とにかく、と思い出話を早々に打ち切り、凜さんは続けます。
「解散地点は日ノ出町の時計台にしようか。あそこはあの町でも一番分かりやすい場所だし」
「そう。それなら、私から言うこともない」
氷室さんは納得したように頷きます。
「ありがとう。まばゆたちも、それでいい?」
凜さんの確認に、私を含め、4人全員も頷きます。
「はい。私は、大丈夫だと、思います」
「ええ。構わないわ」
「私もオッケーよ」
「私チャンもおけまる!」
それなら、と凜さんは改めてフローチャートを見て宣言しました。
「みんな、明後日はよろしくね!」
DAY.94 Side MS
明日はいよいよ、作戦決行日。
だというのに、凜ちゃんたちは今日、まばゆちゃんの叔母さんがやっているお店、レコンパンスに来ていた。
まばゆちゃんはもちろん、ほむらちゃん、マミちゃん、それに杏子ちゃんも集まっている。だからてっきり、最後の作戦会議でもやるのかと思ったけど、凜ちゃんには否定された。
「うーん、あんまり隠す意味もないけど、見てからのお楽しみ、かな」
返ってきたのは、そんな曖昧な答え。
凜ちゃんとしては、私が凜ちゃんの思考を読めるからこう言ったんだろうけど……。
実際のところ、私は凜ちゃんの思考が徐々に読めなくなってきていた。
多分、魔女が強くなってきたことで、私の人格を形成する輪郭がぼやけてきているせいだろう。一日にこうして動いていられる時間も、確実に減ってきている。
(前は一日中起きていられたのになぁ……)
でも、あまり悲しいという感じも、怖いという感じもしない。
それはきっと、凜ちゃんが私の分まで悲しんでくれているから。
(別に凜ちゃんのせいじゃないんだけどなー)
たとえ凜ちゃんに魔力をあげなくても、私が私を保てなくなるまでの時間はほとんど変わらなかっただろう。魔女の抱える呪いは、魔力に関係なく私を蝕んでいる。
それでも、私が消えることを悲しんでくれるのは、悪い気はしなかった。そんな自分が少し嫌になるけど。
多分、私が私を保てていられるのは、明日から明後日くらいが限界だろう。
寝ている時間を増やして魔力を節約すれば、もう少し時間は伸ばせるかもしれないが、私は今この瞬間を、凜ちゃんと少しでも過ごしたかった。
それはさておき。
結局のところ、私は皆がどうして集まっているのか分かっていなかった。
というか、凜ちゃん以外も、あまり事情は知らない様子だった。
「ねえ、凜さん。レコンパンスに集合って聞いて来たけど、どうしたの?」
マミちゃんが凜ちゃんに尋ねる。
それに対し、凜ちゃんは。
「急に呼び出しちゃったのはごめん。けど、深刻な話じゃないの。理由は……、見てもらったほうが早いかな」
と、私の時と同じようにはぐらかすだけだった。
(本当になんなんだろう?)
一応、昨日凜ちゃんがまばゆちゃんにケーキを頼んでいるのは見ていたから、多分そのケーキを受け取りに来たんだろうけど。
ケーキのために、全員呼び出すだろうか?
(決起集会でもやるのかな?)
そんなことを思っていると、この店の制服に身を包んだまばゆちゃんが、大きなホールケーキを持ってくる。
「お待たせしました~」
まるで誕生日ケーキのようなケーキが凜ちゃんたちの席に置かれる。
私はそのケーキに乗せられたプレートを見て、目を見開く。
『え、これって……』
プレートには、〈みことちゃんへ〉と書かれていた。
「えへへ、じゃーん……! みことちゃんへのケーキ!」
凜ちゃんは少し恥ずかしそうにしながらも、私にケーキを見せる。
イチゴと生クリームたっぷりの、本当に普通のショートケーキ。
チョコで出来たプレートには私の名前が書かれ、まるで……。
『こ、これ、どうしたの?』
私は思わず凜ちゃんに聞く。
すると、凜ちゃんは寂しそうに答えた。
「だって、明日の作戦が終わったら、みことちゃんとはお別れでしょ? だから、私からみことちゃんへのプレゼント。なにが良いかって考えたんだけど、やっぱりケーキかなって……」
眉を下げて笑う凜ちゃん。
本当は実際に味わってほしかったんだけどね、と付け加える凜ちゃんは、本気で私とケーキを囲みたかったとでも言うような雰囲気だった。
『でも、私、ケーキなんて貰えること、なにも……』
だって、ケーキって特別な日に、良い子しか貰えないもの。
お父さんも、お母さんも、もうずっと私にケーキなんて買ってくれなかった。
だから……。
「違うよ」
私の思考を遮るように、凜ちゃんが口を開く。
「みことちゃん、私を助けてくれたじゃん。それに、鏡の魔女を倒す許可もくれて、協力だってしてくれるもん。これだけでも十分すぎるくらいだよ」
さも当然のように凜ちゃんが告げる。
『そんなこと、ない……。私は……』
凜ちゃんが追い詰められたのは、私に協力したから。鏡の魔女はそもそも私から生まれたもの。私の神浜への恨みと絶望を食って育った魔女。凜ちゃんが倒さなきゃいけなくなる相手じゃなかったし、許可なんて偉そうなこと言えない。
恨みこそすれ、凜ちゃんが私に感謝する必要なんて、ない。
『凜ちゃんが私にあげる理由、ないよ……』
それでも凜ちゃんは、微笑みながら首を振る。
「私があげたいの、みことちゃんに。私の家ではね、頑張ったり、悪いことしてもちゃんと反省できたら、お父さんとお母さんがケーキを買ってくれたの。努力も、反省も、ちゃんとできて偉いって」
凜ちゃんはソウルジェムを取り出して、私に見せる。
「あの時、みことちゃんは復讐より私を優先してくれた。誰かを傷つけることより助けることを選んだんだよ? 他の人がどう言うかは知らないけど、私はすごく嬉しかったし、みことちゃんの心が変わったことの、これ以上ない証明じゃないかな」
(私が、変わった……?)
「だから、頑張ったご褒美。私を助けてくれたこと、そして今日まで、一人になっても諦めずに生きてくれたことに対して、私からのプレゼント。ダメかな?」
私は改めてケーキを見つめる。
シンプルだけど綺麗に飾り付けられたソレは、これを作った人が腕の良いパティシエだと、素人でも理解できた。
そして、それはまるで私を祝うかのように、テーブルの上に座っている。
そういえば……。
(私、最後にケーキ貰えたの、いつだっけ……)
私の脳裏に、ふと、帆奈ちゃんが残したメッセージが過ぎる。
神浜をメチャクチャにする裏で、帆奈ちゃんが沢山の家を巡って暗示の魔法を使い、家々の照明で作り上げた私へのメッセージ。
HAPPY BIRTHDAY
帆奈ちゃんが私に、生まれ変わって新しい人生を歩めって言ってくれてるようだった。
あの時は、そんなこと無理だと思ってた。
今さら、どんな生き方をすればいいの、って。私には、帆奈ちゃんと共に歩んだ道が全てだったのに。
でも、凜ちゃんの言葉でようやく気づいた。
私は、復讐よりも凜ちゃんを優先していた。誰かを救うために、復讐のチャンスを投げ出していた。
(これが、変われたってことなのかな……)
こんな最後の最後で、私は変われたのだろうか。
そんな私の疑問に答えるように、凜ちゃんが優しく告げる。
「みことちゃん、私と出会ってくれて、ありがとう。そんなみことちゃんへの、ある意味私からの誕生日ケーキかな」
その言葉に、私は気づけば、涙を流していた。
(これが、誕生日ケーキ……? 私のための?)
私が頑張った証? 変われた証?
帆奈ちゃんとの約束、守れたご褒美?
そう思うと、涙が止まらなかった。
「そういうこと、だったんですね……」
ふと、今まで静かに凜ちゃんの言葉を聞いていたまばゆちゃんが声を発する。
それに、凜ちゃんは頷く。
「うん。私だけじゃ寂しいかと思って、皆に集まってもらっちゃった。ごめんね」
すると、まばゆちゃんは首を横に振る。
「いえ。謝る必要ありませんよ。それなら、私もお祝いしないと、ですね」
まばゆちゃんに続くよう、マミちゃんも口を開く。
「そうね。こういうのも、大事よね。そんなことなら、美味しい紅茶でも持ってくればよかったわ」
マミちゃんはそう言って、ふわりと笑う。
「……まあ、いいんじゃないかしら」
ほむらちゃんは無愛想だったけど、声はいつもより優しい感じだった。
「アタシとしては、ケーキ食えるなんなら何でもいいけどさ。ま、よかったんじゃないの?」
杏子ちゃんはいつも通りなようで、なんだか声が優しく感じた。
「みことちゃん」
凜ちゃんが私の名前を呼ぶ。
それに続いて、まばゆちゃん、マミちゃん、ほむらちゃん、杏子ちゃん。皆が私の名前を呼んだ。
「せ、いや、みことさん」
「瀬奈さん」
「瀬奈みこと」
「みこと」
そして。
「「「「「おめでとう」」」」」
皆の祝福の言葉が響く。
ああ、なんて温かい。
涙なんて、とっくの前に枯れたと思ったのに。今は嬉しくて止まらない。
『ごめんね……』
気づけば、私はそう呟いていた。
「みことちゃん?」
その呟きに、凜ちゃんは心配そうに私を覗き込む。
『みんなのこと、嫌っててごめんね……! あれは、違うの……。本当は、みんなが羨ましかった……。凜ちゃんの隣にいられて、楽しそうにするみんなが。私は、凜ちゃんの涙一つ拭ってあげられないのに。まばゆちゃんは、みんなは、凜ちゃんをいつでも救ってたから……!』
皆には聞こえるはずない。けど、謝りたかった。
少しでも、凜ちゃん以外死ねばいいと思ったことに。
本当は、私だって誰かを救いたかった。
名も知らない人たちを無償で救うような良い子にはなれないし、やりたくもない。でも、私の好きな人たちを守ることくらいはしたかった。
凜ちゃんにとって私が希望だったように、私にとっても凜ちゃんは希望だったんだ。
この汚いものがたくさんある世界で、キラキラと光る私の愛せる世界だった。
帆奈ちゃんが信じていた、キレイな世界の証明者だった。
手放したくなかったんだと思う。そのキラキラを。
(でも、それももう終わり)
凜ちゃんには帰る場所がある。心配して、愛してくれる人たちがいる。
その場所が凜ちゃんの幸せなら、きっとこんな私でも背中を押して、送り出してあげられる。
みんなになら、私の眩い希望も託せるから。
『みんな、ありがとう……!』
「あの、私たちの声、届きましたかね?」
まばゆちゃんが凜ちゃんに尋ねる。
すると、凜ちゃんは優しく微笑んだまま頷いた。
「うん。しっかり届いたよ。みことちゃん、嬉しそう」
その後、私たちは全員でケーキを囲んで食べた。
皆、私の涙が止まるまでずっと待ってくれたから、食べ始めるまですごく時間がかかってしまったけど。
私は直接食べられなかったけど、それでも良かった。
凜ちゃんを通して味は伝わってきたし、なにより皆と一緒にいられたことが楽しかったから。
ここだけは。今だけは。
私が生きていても息苦しくなかった。
DAY.95
さて、ようやくここまでたどり着けました。
今日ですが、前々からの目的である帆奈ちゃんを降霊させ、みことちゃん関連のイベントを全て終わらせます。
それで明日、鏡の魔女と決着をつける予定です。
さすがに同じ日に両方やると、体力も魔力も持たないからね。しょうがないね。
一応、本日の目的はみことちゃんと帆奈ちゃんを会わせるだけですが、当然そんな平和に終わるわけありません。
凜ちゃんたちは極力戦闘を避ける方針で動いていますが、ななかさんたちとは絶対にエンカする使用となっております。なので、(会わないなんてことは出来)ないです。
ま、とはいえ、こちらも味方はたくさんいますし、私自身もななかさんたちとの戦闘は本編の試走で何度もやってますし、大丈夫でしょう。
安心しろ、ユリちゃん。こっちもチャートはちゃーんと(激サムギャグ)組んであるし、ここから巻き返されることはない。
あとは悪運や変なフラグがウルトラC噛まさなきゃ……。
ん? ロード?
あっ。(察し)
DAY.95 Side RY
ついにこの日がやって来た。
私たちは電車に揺られながら、神浜市を目指す。
私を囲む仲間たちは、まばゆ、ほむら、マミちゃん、そして杏子ちゃん。
マミちゃんの提案で、杏子ちゃんにも鏡の魔女の討伐を手伝ってもらうことになった。
たしかに鏡の魔女の結界にはたくさんの魔女がいたから、人手は多いに越したことはない。
けど、気まぐれな彼女が手を貸してくれるかは不安だった。
でも、杏子ちゃんは二つ返事でオーケー。
理由を聞いたら……。
「だって、魔女をたくさん狩れるんでしょ? 他人の縄張りでグリーフシードをたくさん稼げるなら、アタシだって乗るよ、その話。縄張り荒らした責任はアンタに負ってもらうけど」
という、杏子ちゃんらしい言葉に反して、優しい声の答えが返ってきた。
(たしかに、倒した魔女のグリーフシードは倒した人のものでいいとは言ったけど……)
てっきりリスクを考えて、パス、とでも言われるかと思ったけど。
(マミちゃんの言ってた、佐倉さんも義理堅いって話、本当かも)
なんだかんだ言って、杏子ちゃんも私のことを心配してくれた子の一人だから。
豊鶴市、日ノ出町。
その時計台の元に集合した全員。
「じゃあ、ひめなちゃんたちも気をつけて」
「モチ! ゆーりんたちこそ、無茶しないでね!」
「大東団地で待っているでありますよ」
ひめなちゃんと旭さんの言葉に、私は深く頷く。
二手に分かれるため、ひめなちゃんたちを先に行かせることにしたからだ。
顔の割れている私たちが彼女たちを待つより、彼女たちを先に行かせ、待機してもらったほうがリスクが少ない、とひめなちゃんの彼氏、ヒコ君からの助言もあったから。
それに、旭さんとひめなちゃんは魔力の同調作業もあるし、先に合流ポイントで準備をしていてもらう手筈だ。
「夕凪さん」
静かな声で、ラビさんが私を呼ぶ。
「待っているから。必ず、来て」
私を見つめる目は、色々な感情が混ざっているようだった。
でも、一番大きいのは不安な色だった。
だから、私は精一杯の笑顔で答える。
「はい。絶対、また会いましょう」
「うん」
ラビさんは微笑み、電車へと乗り込んだ。
ひめなちゃんたちが神浜へと向かってから少しして、私たちの乗る電車も来た。
私がふと振り返れば、豊鶴市では有名な海岸線が見えた。
夜明けを過ぎたすみれ色の空は、雲が覆いつつあった。
私たちを乗せた列車は豊鶴市を抜け、新西区へと入る。
それから5分くらい経ったときだった。
私のスマホが震える。
何かと思って画面を見れば、みたまさんから電話がかかってきていた。
電話に出るのは本来ならマナー違反だ。
だけど、このタイミングでかかってきたことに私は嫌な胸騒ぎを覚え、こっそり電話に出ることにした。
「もしもし?」
極力、他の乗客の迷惑にならないよう、声量を抑えて電話に出る。
すると、電話の向こうから聞こえてきたのは、焦ったようなみたまさんの声だった。
『凜ちゃん!? 無事なのね!?』
「えっ? あ、はい。大丈夫、ですけど……」
突然の安否確認に、一瞬脳がフリーズするけど、みたまさんが焦っているという事態を脳が理解し、急速に頭が回転しだす。
「なにかあったんですか?」
低い声で尋ねると、みたまさんはもう一つ確認してくる。
『瀬奈みことは!? 彼女に何か変わった様子は!?』
「みことちゃん? みことちゃんも特には……。みたまさん、神浜で何が…」
その時だった。
「っ!?」
「うわわっ!?」
電車が大きく揺れる。
バランスを崩して倒れそうになるまばゆを咄嗟に抱きかかえ、私は姿勢低くする。
揺れはまだ続いており、大きな地震でも起きているようだった。
「っ! なにがっ……」
私は揺れる車内から外に目を向け。
そして、気づいた。
神浜の街のほうで、黒煙が上がっていることに。
いや、それだけじゃない。
異常な魔力が、神浜のあちらこちらから感じる。
『凜ちゃん? 凜ちゃん!?』
電話からみたまさんの声が聞こえてきて、私は我に返る。
「みたまさん! これ、どういうことですか!? 街から火が……! それに魔力も!」
すると、みたまさんは真剣な声色で言う。
「いい、凜ちゃん。落ち着いて聞いて。実はね、少し前から神浜市の至る地域で、謎の地震が頻発してるのよ。そして、1回目の揺れが収まったと同時に、神浜中に魔女が溢れ出したわ」
「はぁ!?」
みたまさんの言葉に、私は思わず大きな声を上げてしまう。
「原因は鏡の魔女の株分けよ。アイツらが、結界にいた何十体もの魔女を神浜に解き放ったのよ!」
(どういうこと……!? あの魔女たち、鏡の魔女が食って成長する用じゃなかったってこと? というか……)
「鏡の魔女が動き出したってことですか!?」
私はそう言いながら、みことちゃんを横目で見る。
当然ながら、みことちゃんは何も知らないと言わんばかりに、首をブンブンと横に振っている。
『私、知らない……。そんな命令、出してない!!』
みことちゃんは未知の現象に怯えるように、顔を歪ませる。
「……みことちゃんは何も知らないみたいです」
『本当に? 信用していいの?』
「はい。大丈夫です」
みたまさんの疑念に、私は毅然と返す。
みことちゃんは鏡の魔女に指示を出せるみたいだけど、今は上手くいっていなのは動きを見れば明らかだった。
『なんで……!? やめて、命令を聞いて! お願いだから聞いてよ……!』
「みことちゃん、落ち着いて」
涙目になって必死に命令するみことちゃんに、私は声をかける。
「あくまで推測だけど、多分鏡の魔女は、みことちゃんを司令塔として相応しくないって認識したんだと思う。残りの魔力的にも、行動理由的にも」
『それって……』
「ごめん。魔力は私のせいだ。みことちゃんは予備って言ってたけど、多分あれが鏡の魔女をギリギリで制御できてたんだと思う。それを使わせちゃったから……」
『ち、違うよ! 魔力をあげたのは私の意志! 凜ちゃんを見殺しにしたくなくて……、それで!』
「……そうだね。ごめん、ありがとう」
そうだ。
今は後悔に浸っている場合じゃない。
すると、今までの私の言葉である程度察したのだろう。
ほむらが隣に来る。
「それで? この後、どう動くつもり?」
私は全力で頭を回し、チャートを作り替えていく。
「そうだね……。大まかな流れは作戦通りでいこうと思う。ただし、みことちゃんの願いを叶えるのと、鏡の魔女討伐。二日に分けてたこれらは今日、同時に進めることにする」
「っ! ……分かったわ。氷室ラビには私から連絡しておく」
「お願い」
あとは、みたまさん。
「みたまさん。すみません、今の神浜の状況を逐一報告してもらうことってできますか?」
『やれなくはないけど……。本気なのね? 鏡の魔女が動き出したことで、神浜の魔法少女たちはあなたの処遇を、殺害へ切り替えるわよ』
「だとしてもです。もう後には退けません」
『……分かったわ。くれぐれも、気をつけて』
「みたまさんも」
そう伝えて、電話が切れる。
まばゆもマミちゃんも不安そうな顔だ。
杏子ちゃんだって、顔に焦りが滲んでいる。
皆に状況を伝えるために、私は口を開く。
「ごめん、皆。さっそく想定外が発生した。鏡の魔女がもう動き出して、たくさんの魔女を神浜に解き放ったらしい」
「そ、それって……」
「安心して、マミちゃん。みことちゃんが裏切ったわけじゃない。鏡の魔女が力をつけて、みことちゃんのコントロール下を脱したんだ」
多少は嘘だが、詳細を説明している暇はない。
「作戦は、どうするんですか?」
まばゆが質問してくる。
「基本は同じでいく。けど、鏡の魔女も今日で討伐する。だから、マミちゃんと杏子ちゃんには、一つ任せたい仕事があって……」
「なんだい?」
「今の神浜にいる魔女の状況が知りたいんだ。鏡の魔女の株分けが動いているらしいけど、どれだけの数が動いているか、どれだけの魔女が神浜に解き放たれたかも分からない。これだと作戦の立てようもないから、調べてほしくて……。その間に私たちは、みことちゃんのほうの作戦を進めるから」
すると、杏子ちゃんはニッと笑う。
「今度、ラーメン奢ってくれたらな」
「当然」
「よし乗った」
「ありがとう」
そこで電車の車内アナウンスが聞こえる。
『現在、当車輌は安全確認のため一時停止しています。安全が確認されるため、しばらくお待ちください』
杏子ちゃんが舌打ちする。
「チッ。これじゃしばらく電車は動かねえぞ」
「どうします? 凜さん」
まばゆの問いに、私はニヤッと笑う。
その表情に、まばゆは何かを察したのだろう。少し顔が青ざめる。
「ま、まさか、凜さん……」
「うん。こうなったら、もう走るしかないでしょ!」
「ああああああ! やっぱりいいいい!!」
まばゆは頭を抱える。
「仕方ないわ。覚悟を決めなさい、まばゆ」
「ほむらさん! 運動できない仲間として、ほむらさんも凜さんに進言を……」
「ファイト」
「やだあああああ!!」
わめくまばゆを脇に抱え、私たちはこっそりと車外へと出る。
電車の上に登れば、車内からより神浜の様子がよく見えた。
「これは……。八雲さんの言っていたことは本当みたいね」
マミちゃんの呟きに、私も同感だ。
神浜のあちこちで火の手が上がっているし、さっきから細かい感覚で地震が起きている。
魔女の反応もいくつもあるし、なんなら、結界すら持たずに活動している魔女もチラホラと見えた。
そして、空は激しい嵐の前触れかのように、真っ黒だった。
「この感じ……」
「ええ、そっくりね。ワルプルギスの夜に」
ほむらの言葉に、この場の空気に緊張が走る。
「どうやら、鏡の魔女がワルプルギスの夜級に成長しているというのは、比喩や過大評価じゃなかったみたいね」
「同感よ、暁美さん。もし、その魔女が動き出したのなら……」
「この惨状も納得だな」
私は拳を握りしめる。
必死に自分を奮い立たせるが、それでも不安がチラつく。
そんな私の背中を、杏子ちゃんが叩く。
「いたっ! きょ、杏子ちゃん?」
「んなシケた面すんなって。やるって決めたんなら、迷わず貫き通せ。お前が迷ってると、こっちだって動きづらいんだ」
「杏子ちゃん……」
杏子ちゃんの励ましに心が少し軽くなる。
杏子ちゃんに続くように、マミちゃんも私に話しかけてくる。
「そうよ。凜さんは一人じゃないもの。私たち、ピュエラ・マギ・ホーリー・クインテットの仲間がいるじゃない」
それを聞いた途端、杏子ちゃんとほむらがゲンナリとした顔になる。
「なあ、マミ。そのチーム名、もう少しなんとかなんなかったのか……?」
「え? いいでしょ、カッコいいし可愛くて」
「理解に苦しむわ、巴マミ」
二人からは散々な評価である。
「私は良いと思ったけどなぁ……。カワイイじゃん」
「やっぱり! 凜さんなら分かってくれると思ったわ!」
「凜さん、ウソですよね……?」
なにやらまばゆが信じられないといった顔で見てくるが、気にしないでおこう。
「そうだよね……。私たち5人揃えば、きっと奇跡を起こせる!」
皆に、そして自分に言い聞かせるように叫ぶ。
「ええ! その通りよ!」
私のテンションに合わせるように、マミちゃんも高らかに宣言し、胸元にソウルジェムを構える。
「ったく、しゃーねーな。いっちょやりますか」
杏子ちゃんがソウルジェムを構える。
「どのみち、負けられない戦いよ。やれるだけやってやるわ」
ほむらがソウルジェムを構える。
「……ですね。こんなところで終われません!」
そして、まばゆがソウルジェムを構える。
そうだ。私にはこんなにも頼もしい仲間が出来たんだ。
私も指輪から戻したソウルジェムを強く握りしめた後、胸の位置で構える。
すると、みことちゃんが私の隣に寄り添うように並ぶ。
『ごめん。そしてお願い、凜ちゃん。私の呪いを止めて……!』
みことちゃんの縋るような声に、私は笑顔で頷き返す。
そして、真っ直ぐ前を見据え、大きく息を吸って叫んだ。
「いこう!! みんな!!」
その言葉と同時に、全員のソウルジェムが眩い光を放つ。
光は、私たちを魔法少女の服へと着飾り、それぞれにソウルジェムの位置へと、その綺麗な宝石をあてがう。
輝きが収まれば全員、変身完了だ。
「ピュエラ・マギ・ホーリー・クインテット!! 出動よ!!」
マミちゃんの一声を合図に、私たちは曇天が覆う神浜へと飛び込んだ。
まずは皆様。投稿遅くなってしまい、まことに申し訳ありませんでした!!
詰め込みたいシーン全部詰め込んだらすんごい長さになった上、全然書き終わりませんでした。
そして、この流れで言うのも大変心苦しいですが、本年の投稿は恐らく今回が最後になると思います。
理由が私情で申し訳ないのですが、年末にかけて仕事やプライベートが忙しく、小説を書いている余裕が無さそうなためです。
極力書き溜めておき、年始あたりから再開できるように頑張ります。
というか、1月中に書き終わらないと、ワルプルギスの廻天ががが……。
あれれ~、おかしいぞ~? 冗談でワルプルギスの廻天までには終わらすと言っていたのに、もう公開まで時間がないよ~?
とにかく頑張りますので、ゆっくり待っていただければ幸いです。