魔法少女まどか☆マギカ 実績『朝焼けのエンドロール』獲得   作:くろしゅー

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(廻天がまた延期したので)初投稿です。



DAY.95ー3 掴んだ手、届けた想い

 

 

 

 

 DAY.95 Side NS

 

 

 

 

 見滝原市のショッピングモール。

 

 そこに集った人選は、私から見ても意外な人たちだった。

 

 

「あ、ねえねえ! ミィ、今度あのお店行きたーい! 神浜のショッピングモールには無いんだー!」

 

 先頭を歩くのは、八雲みかげさん。

 

「へえ、そうなの? んじゃあ、行きますか!」

 

 みかげさんの言葉に頷くのは、彼女の横を歩く美樹さやかさん。

 

「あ、みかげちゃん、走ると危ないよ。というか、さやかちゃんまで走らないでよ~」

 

 二人に注意の声を飛ばすのは、私の前にいる鹿目まどかさん。

 

「ごめんなさい、那由多さん。さやかちゃん、そそっかしいところあって……」

「いえ、お気になさらず。元気なのは良いことですわ。みかげさんは……、少々はしゃぎすぎですけど」

 

 そして私、里見那由多だ。

 

 

 

 

 私たちが見滝原にいる、その理由。

 それは2日前、夕凪さんたちから鏡の魔女討伐について相談を受けたときだ。

 

 元々私も夕凪さんの力にはなりたいと、ラビさんたちとは話していた。

 

 

 そこで相談を受けたのが、見滝原を、より正確にいえば鹿目さんを守る人手がほしいとのことだった。

 

 

 現状、見滝原の魔法少女たちは夕凪さんの作戦に協力するため、作戦決行日は全員が見滝原を離れることになる。

 それに対し、暁美ほむらさんが待ったをかけたらしい。

 

 

「ちょっと待って。となると、見滝原に魔法少女がいなくなるわけよね? なら、まどかをあの害獣から守る人がいなくなるんじゃないかしら?」

 

 

 それで、全員で話し合った末、ラビさんが私たちを指名したそう。

 

「ラビさん、なんで私ですの?」

「那由多様、というより、みかげさんのためです。彼女も夕凪さんの力になりたいと息巻いてますが、さすがに直接戦いには巻き込めません。であれば、見滝原のテリトリーを守る、という役割を与えて戦場から離すのがちょうど良いかと思いまして。那由多様はそのオマケです」

「オ、オマケ……」

「夕凪さんたちがいない状態で見滝原に魔女が現れたら、みかげさん一人に戦わせる気ですか?」

「そ、それはそうですが……」

「それに那由多様も鹿目さんと一緒に、何回か取材に行ってるではないですか。全く接点のない人が残るより、暁美さんも安心すると思います」

「その暁美さんは残りませんの?」

「那由多様。暁美さんがその葛藤をしなかったとでも? それでも夕凪さんに協力したこと。それを深掘りするのは無粋ですよ」

 

 

 

 そんなわけで、私たちは見滝原のテリトリー守備と鹿目さん警護のため、皆さんが戻ってくるまで見滝原で過ごす事となりました。

 

 

 

(今のところ、魔女の気配も無し。平和なのは良いことですけど……)

 

 

 この平和が少し不気味だ。

 

 神浜のほうで悪いことでも起きてなければいいが。

 

 

 

 

 そんなことを考えていると、後ろからヤツに声をかけられる。

 

 

「やあ、まどか」

「キュゥべえ……」

 

 

 振り返れば、キュゥべえがトコトコとこちらに歩いてきていた。

 

 私は鹿目さんを守るように前に出て、キュゥべえへと問いかける。

 

「あら、キュゥべえ。ご機嫌よう。こんなところで何をしてるんですの?」

「やあ、那由多。こんなところでって、それはこっちのセリフだよ」

「どういうことですの?」

 

 私の返しに、キュゥべえは鹿目さんを見ながら答える。

 

「今、夕凪凜たちが神浜の魔法少女たちと戦い始めた。凜はこのまま、神浜の魔法少女たちの包囲網を突破し、瀬奈みことの願いを叶えるつもりだ。そして、鏡の魔女の討伐も」

 

 けどね、とキュゥべえは言う。

 

「やはりボクから言わせれば厳しいと言わざるを得ない。瀬奈みことの願いはともかく、鏡の魔女はそんな簡単に倒せる存在じゃない。今観測できたエネルギーだけでも、ワルプルギスの夜に迫る数値だ。このまま成長を続ければ、ワルプルギスの夜すら凌駕する存在になるだろう。とても魔法少女数人で勝てるような相手じゃない」

 

 キュゥべえは「まどかだって分かっているだろう?」と問う。

 

「まどろっこしい。要は鹿目さんに契約してほしいってことですのよね?」

「話が早くて助かるよ、那由多。まどか、キミが魔法少女になれば確実に鏡の魔女は倒せるんだ。キミだって聞いているだろう? 鏡の魔女が進めている計画が成功したら、被害は神浜だけに留まらない。この宇宙そのものが破綻してしまうんだ」

 

 キュゥべえは私たちの間を通り抜けながら語る。

 

「それはボクたちにとっても、非常に困ることだ。キミたちがボクを憎悪しているのは知っているけれどね。今回ばかりは、ボクたちも助けてほしいんだ。そして、それを確実に成せるのは、まどか。キミしかいないんだ」

 

 

(白々しい……)

 

 たしかにキュゥべえたちも困っているのは本当だろうが、それならもっとやり方があるはず。

 わざわざ神浜の魔法少女たちに、夕凪さんの悪い噂を吹聴して疑念を蔓延させた時点で、キュゥべえの狙いは神浜の魔法少女たちと夕凪さんたちの共倒れであることは明白。ひいては、鹿目さん以外に鏡の魔女を倒せる存在を消すため。

 

「鹿目さん。こんなヤツの言うこと、聞く価値ないですの」

「本当にいいのかい? その時が来てからでは遅いかもしれないよ?」

 

 鹿目さんを揺らがせるようなことを、次々言うキュゥべえにさすがに腹が立ち、追い払おうとしたときだった。

 

「キュゥべえ」

 

 今まで黙っていた鹿目さんが口を開いた。

 

「ごめん。やっぱり契約はできない」

「どうしてだい? 夕凪凜はキミの友だちではないのかい? 暁美ほむらも、愛生まばゆも、どうでもいいのかい?」

 

 キュゥべえの言葉に、ううん、と鹿目さんは首を横に振る。

 

「みんな、大切な友達だよ。こんな私にもできた、大切な友達」

「だったら……」

「大切な友達だから。私、皆のこと、信じてあげたいの」

 

 鹿目さんは両手を身体の前で組んで、言葉を探すようにゆっくりと語る。

 

「ほむらちゃんは、こんな私を救うために何度も時間をやり直して、頑張ってた。きっと私、ほむらちゃんの期待を何度も裏切っちゃったと思う。それでも、ほむらちゃんは私のために頑張ってくれてた」

 

 そう語る鹿目さんは申し訳なさそうに、それでも嬉しそうな顔だった。

 

「凜さんに言われて気づいたんだ。私が魔法少女になることで悲しむ人がいること。魔法少女になる必要がないのに義務感で契約して、それがどれだけほむらちゃんを苦しめるか」

 

 少し悔しそうに笑う鹿目さん。

 

「バカだよね。凜さんに怒られて、ようやく気づくなんて。那由多さんたちを手伝う話も、きっと凜さんが、その義務感を和らげるために持ちかけてくれたんだって、今なら分かるよ」

 

 でもね、と鹿目さんは続ける。

 

「ほむらちゃんがそこまで想ってくれるのは嬉しいけど、ちょっと申し訳なかったんだ」

「申し訳ない? なぜだい?」

「ほむらちゃん、私のこと第一って感じで、自分のこととか後回しだから。私がほむらちゃんを縛り付けちゃってるんじゃないかって。そう思うと、申し訳なかったの」

 

 そこで言葉を区切った後、彼女は真剣な目でキュゥべえを見据える。 

 

「けど、今日は。ほむらちゃんは私の側にいることより、凜さんを手伝うことを選んでくれて、嬉しかった。ほむらちゃんが、ほむらちゃんの友だちのために動いてくれたことが。私を信じて、那由多さんたちを信じて、ここを離れてくれたことが」

 

「私、なんにもできないけど。信じてあげることは、できるから。皆が信じてくれた私を、私は裏切りたくない。だから、ごめんねキュゥべえ」

 

 

 その言葉に、キュゥべえは「そうか」とだけ答える。

 

「まどか、キミの気持ちは分かったよ。ボクも契約を強制することはできないからね。でも、契約したくなったらいつでも言ってね」

「うん。その時は、お願い……」

 

 キュゥべえは尾を翻し、人混みへと消えていく。

 

「……鹿目さん。その時って」

「あはは……。あんなこと言ったあとに締まらないんですけど……。多分私、本当に宇宙が滅びるってなったら、黙っていられないと思うんです。例えほむらちゃんのお願いでも、私は魔法少女の契約、しちゃうと思います」

 

 そう語る鹿目さんは、申し訳なさそうで。けれども、後悔も迷いも見えない顔だった。

 

「でも、きっとそんなことにはなりません」

「どうしてそう言い切れるんですの?」

 

 私の質問に、彼女はとびっきりの笑顔で答えた。

 

「だって、私の最高の友達(ほむらちゃんたち)なら奇跡を起こせるって、信じてますから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 DAY.95 Side RY

 

 

 

「ぐぅっ……!」

 

 

 攻撃を受け流され反撃を受けた私は、地面を転がる。

 

 そこへ、ピチャ、ピチャ、と水を踏む音が近づいてくる。

 

「諦めなさい、凜。今のあなたじゃ、どう足掻いても私には勝てないわ」

 

 足音と共に告げられる、冷たい宣告。

 

 顔を上げれば、やちよ先輩が迫ってきていた。

 

 

「っ!!」

 

 私は極力予備動作を隠して、やちよ先輩に飛びかかる。

 

 しかし、意表を突いたはずの攻撃は、当然の如くやちよ先輩に止められ、逆に槍の柄で殴られる。

 

 それだけでも凄まじいダメージで視界が揺れ、私は再度、地面へと転がされる。

 

「ハァ、ハァ……」

 

(クソッ! マジで勝てる未来が見えない。なんなの、この人……)

 

 

 心の中で悪態をつく。

 やちよ先輩の実力は、チームを組んでいたときから知っていた。だが、こうして相対すると、想像以上の壁の高さに眩暈がする。

 

(私も強くなったつもりだったんだけどな……。これでも全然、届かないや)

 

 

「マミ、ちゃんは……」

 

 私が自然と零した言葉に、やちよ先輩は答える。

 

「戦ったわ。けど、本気でやり合ったら時間を取られそうだったからね。適当に相手した後、他の魔法少女たちに任せてきたわ」

 

 さらっと語るやちよ先輩の言葉に、思わず笑ってしまう。

 

 マミちゃん相手に、時間がかかりそうなんて発言。時間があれば勝てること自体は全く疑っていないことに、もう賞賛したくなる。

 

(私だって最近のマミちゃんとの模擬戦の戦績、五分五分くらいなのに……)

 

 もはやこの先輩が、魔法少女としてどれほどの高みにいるのか、私でも分からない。

 マミちゃんならやちよ先輩の足止めできるかと考えていたのだが、現実は甘くないらしい。

 

(任せたって言ってたから、ワンチャン、マミちゃんがその魔法少女たち倒して来てくれるかもだけど……)

 

 その確率はかなり低いだろう。

 

 さて、どうするか。

 

 

 状況打破の作戦を考えようとした瞬間、やちよ先輩が消える。

 

「っ! どこに……」

 

 口に出した瞬間、左からゾクリとする気配。

 

 咄嗟に回避行動に移るも、やちよ先輩のほうが速い。

 

 

「ぁがっ……!」

 

 槍の刃とは反対部分。柄の底が私の鳩尾に深く突き刺さる。

 

 そのまま後ろへ飛ばされ、私は受け身も満足に取れず、地面をバウンドする。

 

 

「かっ、はっ、かひゅ……! あ、ぐっ……!」

 

 

 呼吸ができない。

 辛うじて意識が飛ぶのだけは防いだが、これはヤバい。

 

(これ……!)

 

 やちよ先輩が本気で制圧しにきてるときの技だ。

 

 すぐに回復で呼吸を確保しようするも……。

 

『凜ちゃん! つぎ来てる!!』

 

 みことちゃんの声に反応し、私はほとんど勘で武器を構え、防御の姿勢を取る。

 

「ふっ!」

「うっ!?」

 

 しかし、やちよ先輩は私の武器を簡単に弾き飛ばしてしまう。

 

(このっ……!)

 

 私は魔法を発動させ、やちよ先輩の後ろに飛んだ武器をブーメランのように呼び戻す。

 これでやちよ先輩の意表をつければと思ったが、やちよ先輩は後ろを確認することなく多数の槍を背面に出現させ、その壁で私の双刃刀を防いでしまう。

 

「ちょっ……」

 

 私が驚いている間に、やちよ先輩は既に懐に入り込んでいる。

 

 回避に足を動かす前に、やちよ先輩の蹴りが私の顎を打ち抜く。

 

 

 視界が一瞬ブラックアウトし、次に気づけば空中だ。

 

 そして目の前には、空中にいるはずの私に追いついたやちよ先輩。

 

 

 そのまま槍を叩きつけられ、私は地面へと墜とされる。

 

 

 

 それでも、私は立ち上がって走る。

 せめて、彼女から逃げ切れれば、まだ何とかなると思ったから。

 

 

 

 

 

 けれど、そんな逃亡を先輩が許すはずもなく。

 

 走り出してすぐ、私の右足を衝撃が貫く。

 直後、足の踏ん張りが効かなくなり、私は何度目かも分からない地面へのダイブをする。

 

「うっ、うぅ。ハァ、ハァ……」

 

 力が入らず、全身がガクガクと震える。

 

 やっとの思いで視線を足に向ければ、やちよ先輩の投擲した槍が私のアキレス腱を抉り取っていた。

 

 

『凜ちゃん!!!』

 

 みことちゃんが駆け寄ってくる。

 

 さっきみたいに泣いて、私の側で名前を呼ぶ。

 その顔には先ほどと違い、怯えと焦りしかなかった。

 

 

 私は腕を伸ばし、這いずってでも距離を取ろうとする。

 

 しかし。

 

 

「もう止めなさい、凜。あなたの計画はここまでよ」

 

 私の前に槍が突き刺さる。

 後ろから聞こえる、やちよ先輩の声が近い。

 

『もうやめてっ!!』

 

 みことちゃんが私を庇うように、手を広げてやちよ先輩の前に立つ。

 

『これ以上は凜ちゃんが死んじゃう!!』

 

 みことちゃんが叫ぶも、やちよ先輩は聞こえてないとばかりにスルーする。

 

 いや、実際に聞こえていないのだ。みことちゃんの声は、私しか認識できない。

 だから、やちよ先輩を止めようとするみことちゃんをすり抜けても、何もおかしくないのだ。

 

『やめてよ! 止まって!』

 

 みことちゃんは必死にやちよ先輩の手を、足を、首を掴もうとする。

 

 けれど、みことちゃんの手はすり抜けるばかり。

 

 やちよ先輩は距離をつめてくる。

 

 

 すると、みことちゃんは私の側に駆け寄り、私に覆い被さる。

 

『お願い、します……。 これ以上、私の友だちを傷つけないで……』

 

 声も身体も震わせ、みことちゃんは縋り付くように呟く。

 

 

 一方のやちよ先輩は、偶然かもしれないが、みことちゃんの呟きの後、私の前で立ち止まる。

 

 

 さっきまでは戦うことに夢中でよく見えていなかったやちよ先輩の顔が、そこではよく見えた。

 

 

「観念しなさい、凜」

 

 

 ようやく見えたやちよ先輩の顔は、とても酷い顔をしていた。

 それこそ、普段モデルをやっているとは思えないくらい、憔悴しきった顔。

 

 

 私はその顔を一度だけ、見たことがあった。

 

 みふゆ先輩が失踪した後。誰にも見られないよう、リビングの隅で顔を覆っていた先輩を見つけた。

 私の気配に気づいた先輩が顔を上げた一瞬、私はその顔を見たんだ。

 

 あの数日後だ。やちよ先輩がチームを解散すると言ったのは。

 

 人懐っこくて、一人でいるのが嫌いなくせに、一人が好きだと言わんばかりのクールな雰囲気を作って、可愛いタレ目なのに険しい顔を作り続けて。

 

 あの時の私に分からなかったけど、今なら分かる。

 あれは、チーム解散を決断する直前の顔だ。何かと決別することへの、覚悟を決める寸前の顔だったんだ。

 

 

「凜。最後の警告よ。大人しく捕まりなさい。あなたがこれ以上何もしないなら、事態の終息後、私が皆に説明してあなたの処分は軽くしてもらうわ」

 

 やちよ先輩の威圧的で、けれど縋るような声に、私は自分自身が重なった。

 

 

(あの時の更紗さんも、こんな気持ちだったのかな……)

 

 

 私が自首しようと言ったとき。

 

 私が彼女を必死に止めようとしたとき。

 

 

 

 彼女も、今の私と同じ気持ちだったのだろうか。

 

 

 

「お断り、します……」

「ッ! どうして! どうしてそこまで瀬奈みことの肩を持つの!?」

 

 やちよ先輩が叫ぶ。

 たくさんの人にこの質問はされた。

 

 どうして?と。

 

「理由なんて、友達だからってだけですよ。大切な、大切な、私の友達ですから」

「彼女は更紗帆奈と共に不幸をバラ撒いたのよ? 今回だって、そうかもしれない」

「それでも、私はみことちゃんの味方です。みことちゃんの気持ちを、信じます」

 

 私の答えは一つだ。

 ここで止まることは、みことちゃんへの裏切りだ。

 

 私はみことちゃんを裏切りたくない。彼女にこれ以上、人を憎む理由を作らせたくない。

 

 それに、と私は続ける。

 

「みことちゃんが誰かを不幸にしたことなんて、関係ないです。それが許されないことだとも思いません。誰も許さないって言うなら、私が許します。そうじゃなきゃ、いつまでも憎しみの連鎖が終わらないじゃないですか」

 

 私たちを襲ったななかさんたちは、更紗さんとみことちゃんに大切なものを奪われて、傷つけられた。でも、そのみことちゃんたちがそこまでの事件を起こしたのは、彼女たちがそれほど追い詰められたから。他でもない、彼女たちを取り巻く神浜の環境によって。

 

 恨みと復讐は鎖だ。

 過去から未来へ、永遠に、際限なく伸びていく。

 

「なら、誰かがどこかで止めないと」

 

 連鎖してきた怨嗟で傷つくことになっても、いつか、誰かがその傷を受け入れなければ止まらないのだ。

 

 

 私はその流れから、みことちゃんを解放したかった。

 

 

 だから。

 

 

「だから……。私は、みことちゃんと一緒にいます。彼女の幸せが、今の私には一番です」

「……そう」

 

 

 やちよ先輩はそう呟きを落とすと、槍を振り上げる。

 

 

 狙いはソウルジェム。

 

 対する私は、動けずにそれを見ていた。

 足が動かないし、もう回避するだけの体力がなかったから。

 

 

(ああ、もう……)

 

 

 そんな顔、しないでくださいよ。

 

 

 

 

 槍を振り上げるやちよ先輩の顔は、今にも泣いてしまいそうだった。

 

 

 

 

 

 

「待って!!!」

 

 

 

 

 

 そんな私たちの間に、聞きなじみのある大声が割り込んだ。

 

 

「鶴乃……」

 

 やちよ先輩が手を止め、声のした方向を見る。

 

 

 

 カツカツと歩いてきた鶴乃先輩は、やちよ先輩の横を通り過ぎ、ポツリと言う。

 

「私にやらせて」

 

 武器の扇子を取り出し、鶴乃先輩が私の前に立つ。

 

 

「久しぶりだね、凜。メッセージ何度も無視されて、悲しかったな」

「……ごめんなさい。でも、鶴乃先輩には関わってほしくなかったんです」

「どうして?」

 

 その質問に、私は静かに答える。

 

「これは、私の問題でもありましたから……」

「……それは、師匠の私にも頼れない問題?」

 

 鶴乃先輩は眉を下げ、確認するように問う。

 

 それに私は、首を横に振る。

 

「師匠だから、です」

「だから?」

「私が、私の力で助けたい子だったんです。だから、師匠の力は借りたくなかったんです」

 

 

 それは、ただの意地。

 

 みことちゃんを救うのは、私の力だけで成し遂げたかった。

 これだけ多くの人間を巻き込んでおいて今さら、とは思う。けど、師匠に支えてもらう私は、今回限りは嫌だった。

 

「……そっか」

 

 

 私の言葉を聞いた鶴乃先輩は一言そう言うと……。

 

 

 

 

 

 後ろのやちよ先輩に切りかかった。

 

「なっ!?」

 

「えっ……」

 

 

 驚く私たちなどお構いなしに、鶴乃先輩は叫ぶ。

 

「凜! 走って!!」

 

 

 鶴乃先輩は私を振り返ることなく、それでもやちよ先輩から庇うように立ったままだ。

 

「鶴乃! どういうこと!?」

「どうもこうも! 私は凜の師匠として、責任を果たしに来た! それだけ!」

「責任って、それは……!」

「いっぱい考えて! でもやっぱり、凜のこと信じたいから! 凜が進みたい道を信じてあげたいから! 凜を導いた師匠として、この子の選んだ道は邪魔させないよ!!」

 

「おう! その通りだ!」

 

 鶴乃先輩に続くように、一つの声と二つの足音。

 

 瞬間、私の腕がグイッと引っ張られる。

 

「オレたちがやちよの相手する! いけ、凜!」

「フェリシアちゃん!」

 

 立ち上がった私に、やちよ先輩が槍を投げる。

 しかし、それは透明な壁に阻まれ、地面へと落ちる。

 

「私たちが抑えます! 行ってください、凜さん……!」

「さなちゃん!」

 

 思わぬ援軍に、私は思考が追いつかず、3人を順に見ることしかできない。

 

 

 それはやちよ先輩も同じだったようで、質問を繰り返す。

 

「あなたたち、どういうつもり!?」

 

 それに対し、威勢良く返したのはフェリシアちゃん。

 

「どうもこうも、オレは凜と出会ったとき、連携なんてできなくて魔女退治で怪我させちまった。それでも信じるって言ってくれた凜を信じる! 鏡の魔女だって、ぜってー凜がなんとかするって信じてるからな!」

 

 それに続くのは、さなちゃん。

 

「は、はい……! 私を見つけてくれたのは、凜さんです。凜さんに出会えたから、みかづき荘にも、ほむらさんにも、たくさんの人に会えました。だ、だから、私も凜さんの味方でいたいんです……!」

 

「あなたたち……」

 

「ごめんね、やちよ。でも、これが私たちの決断なんだ。たとえししょー相手でも、これだけは引けないね!!」

 

 

 鶴乃先輩の宣言に、やちよ先輩は小さく俯くと、スッと槍を構える。

 

「そう……。なら、手加減しないわよ」

 

 

 対する3人は、私の盾になるような陣形を組んで叫んだ。

 

 

「「「凜(さん)!!! 先に!!!」」」

 

 

 

「っ……! ごめん、ありがとう!!」

 

 

 私は迷いを振り切るように、動く左足で地面を蹴り、痛覚を麻痺させて走りだす。

 

 

 

 間もなく、後ろで戦闘音が連続で響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 こうして、私は辛くも窮地を脱したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ、ハァ、ハァ……」

 

 降りしきる雨の中、私は歩き続ける。

 とりあえず、やちよ先輩から受けた傷は、動くのに支障無い程度に治した。

 

 みことちゃんを狙う、他の魔法少女たちの制圧報告も続々と入ってきている。

 大東団地の確保も、まばゆたちがやってくれたようだった。

 

 後は大東団地に向かうだけ。

 

 

 

 

 だけ、なんだけど……。

 

『凜ちゃん、ちょっと休もう? 顔色、すごく悪いよ……』

 

 みことちゃんの言葉に、私は首を振って進み続ける。

 

「ダメ。時間が、ないから……」

『私のほうは大丈夫だよ。だから……』

「いや、さっきも暗示の魔法を使ってもらっちゃったし……。鏡の魔女の件といい、多分みことちゃんが思っているより、みことちゃんの人格の維持に多くの魔力を使ってる。正直、今日の夜まで保つかも、不安なの。だから……」

 

 そこまで言って、足が思うように上がらず、その場に転んでしまう。

 

『凜ちゃん!!』

 

 私の身体が地面にぶつかり、バシャリと水の跳ねる音が響く。

 

(ああ、くそ……! こんなとこで、モタついてる場合じゃないってのに……)

 

 立ち上がろうと壁に手をつくも、ズルリと滑る。

 

 身体が言うことを聞かない。

 さすがに連戦に続く連戦は、ちょっと無茶しすぎたかもしれない。

 

『凜ちゃん! しっかりして!』

 

 みことちゃんの声が遠くに聞こえる。

 

 気を失ってたまるか、と腕に力を込めるも立ち上がれず、数センチ持ち上がった身体は地面へと再度着地。

 

 

 自身の吐く荒い息の音がやけに大きく聞こえる。

 

 身体を叩く雨が傷に沁みる。けれど、その痛みさえどこか遠くに感じる。

 

 瞼が重く、徐々に下がっていき……。

 

 

 

 

 

 

 

「夕凪、さん……?」

 

 

 ふと、私を呼ぶ声が聞こえた。

 

 その声に閉じかかった目を開き、首をゆっくりと動かして声のしたほうを見る。

 

 

 そこには、一つの人影があった。

 纏っている衣装からして、恐らく魔法少女だろう。

 

 前の私の魔法少女衣装と似ている黒いフード。手に持っているのはメイス……、じゃなくて新体操のクラブだ。それと、右太股のソウルジェム。

 

(あれ、この子って……)

 

 

 彼女は私の元に駆け寄って、私の顔を見ると驚いたように呟く。

 

「やっぱり……。夕凪さん、だよね? だ、大丈夫……?」

「もしかして、黒江ちゃん……?」

 

 私が彼女の名を呼べば、彼女は驚いて目を見開く。

 

「覚えててくれたんだ……」

「そりゃね……。初めて宝崎に行ったとき、最初に会った魔法少女だし……」

 

 

 彼女に会ったのは、約1ヶ月前。初めて里見教授の家に訪れた日だ。

 あの日、駅の近くで魔女の反応を見つけた私は、手早く片づけようと結界に向かった。そしたら彼女が先に結界にいて苦戦中だったのだ。そこで、二人で協力して魔女を倒したのが事の顛末である。

 魔女退治のせいで、約束の時間にはギリギリになってしまったが、彼女を助けられたのは本当に良かったと思っている。

 

 

 あの後、藍家さんとも会ったことを考えると、宝崎の魔法少女との交流は彼女から始まったと言っても過言じゃない。

 

 

 と、そんな思い出に浸っている場合ではなく。

 

「黒江ちゃん、どうしてここに?」

 

 私を雨の当たらない場所に移動させる彼女に聞くと、屋根のある場所に私を降ろしてから、彼女は自身のスマホを見せる。

 

「これ。藍家さんが宝崎魔法少女のグループチャットで、夕凪さんの作戦に協力してほしいって呼びかけてて……。それ見て、私も力になりたいなって。この前は、魔女倒してくれて、グリーフシードももらっちゃったし……。助けられっぱなしは、嫌だったから」

「……そっか」

 

 どうやらひめなちゃん、神楽さん以外にも声をかけていたみたいだ。

 

 「伝手はある」とは言ってたけど、こういうことだったらしい。

 

 

「黒江さーん! 夕凪さん、見つかりましたかー?」

 

 すると、少し遠くで黒江ちゃんを呼ぶ、私の知らない声がする。

 

 黒江ちゃんはその声に反応し、あんまり出し慣れていなさそうな大声で返事をする。

 

「み、見つけたよ!! こ、こっち!」

 

 黒江ちゃんが答えると、間もなくして一人の魔法少女が走ってくる。

 ピンクのラインが入った白いケープを着ている、目を前髪で隠したショートボブの子だった。

 

 彼女は武器であろう、オモチャのような弓矢を置いて私に駆け寄ってくる。

 

「おお! あなたが夕凪さんですか! 噂は黒江さんからかねがね……。以前、黒江さんを助けてくれたって聞いて、私、あなたにずっと会いたくて! いやーようやく念願叶ったというか……」

「ちょ、ちょっと待って。えっと、あなたは?」

 

 なんだか興奮した様子の彼女を宥めるように私が尋ねると、彼女はハッと口に手を当てる。

 

「すすす、すみません! 自分ばかり喋っちゃって……。うう、私、興奮するとつい自分ばかり喋ってしまって。本当にスミマセン……」

 

 彼女はうなだれた後、取り直すように咳払いをする。

 

「私、以前に黒江さんに助けていただいたことがあって。今は二人で組んで魔女退治をしている者です。名前は、えーっと……。くろ、って呼んでください。よく呼ばれてるあだ名なんですけど……。ちょっと、本名は恥ずかしいので」

「分かった。よろしくね、くろちゃん。知ってると思うけど、私、夕凪凜」

「はい! お話は聞いています! 一騎当千の力で使い魔をバッタバッタと倒し、魔女を手玉に取って圧倒し、その女神のような微笑みで魔法少女をいたわり、誰かを助けたことを誇ることなく去っていくハードボイルドな一面もある、スーパー魔法少女だと!」

 

 黒江ちゃんの中での私のイメージ像どうなってんだ、とツッコミたくなったが、当の黒江ちゃんは「私、そこまで言ってない……」と手をぶんぶん振っていたので、彼女が話をオーバーに語っただけなのだろう。

 

 とにかく、私は一つ確認したくて、二人に問いかける。

 

「助けてくれるのはありがたいけど、今の私と神浜の状況、分かってる? 悪いことは言わないから、帰ったほうがいいよ。じゃないと、神浜の魔法少女に目を付けられるかもだし」

 

 私は忠告として、彼女たちに告げる。

 

 親切心で助けてくれるのは嬉しいけど、生憎そこまでのことを私はしていない。

 

 

 しかし、黒江ちゃんはフードを握って、静かに答える。

 

「分かってる、つもり。神浜の状況は、藍家さんから聞いた。それは承知だけど、やっぱり夕凪さんのことは助けたい。私を助けてくれた人、今度は私が助けたいから」

「……嬉しいけど、私に助けられたことに義務とか恩義を感じる必要は……」

「義務感、とかじゃなくて……! 私自身が、そうしたいの。もう、誰かを見捨てるのは……。見て見ぬ振りする自分には戻りたく、ないから……」

 

 小さな声で呟いたその言葉を、私はとても簡単に受け入れられた。

 その気持ちは、私もよく分かるから。

 

「私は黒江さんの力になりたいからです! それに黒江さんの恩人なら、私も力になりたいです! これじゃ、ダメでしょうか?」

 

 二人の顔を見て、私は手を差し出す。

 

「……じゃあ、ちょっと助けてもらっていいかな? 大東団地に行きたいんだけど、もう身体が言うこと聞かなくてさ」

 

 

 すると、二人は示し合わせたように息ピッタリに頷いた。

 

 

「「任せて(ください)!!」」

 

 

 

 

 

 

 黒江ちゃんが私を背負って、くろちゃんのほうは誰かに電話しているようだった。

 

(ひめなちゃんかな……?)

 

 そう思っていると、電話を終えたくろちゃんが嬉しそうに言う。

 

「連絡つきました! この先のガソリンスタンドで待っててくれるみたいです!」

「そっか、よかった。じゃあ、急ごうか」

 

 黒江ちゃんの言葉に、「はい!」と元気よく返事するくろちゃん。

 

 そんな彼女を見て、私は黒江ちゃんに尋ねる。

 

「彼女とはどこで知り合ったの?」

 

 すると、一瞬ビクリと震えたものの、いつもの平坦な声で答えてくれる。

 

「……魔女の結界。彼女が苦戦してたから、助けなきゃって思って……。魔女は倒せなかったんだけど、私たちは何とか逃げられて」

 

 そこで、少し沈黙した後、ゆっくりと語った。

 

「それだけ。その後、たまたま再会して。そしたら、彼女がどうしても恩返ししたいって言うから。私、そんなに強くないし、一緒に戦ってくれたら嬉しいって返したの。それで、今まで……」

「そうだったんだ。……よかった」

「よかった?」

 

 不思議そうな顔をする彼女に教える。

 

「だって、前に会った黒江ちゃんは、ずっと何かに怯えてる顔をしてたから。一緒にいてくれる人が見つかっててよかったなって」

「……夕凪さんには、いないの?」

 

 黒江ちゃんの問いに、私はどう答えようか迷う。

 

「んー……。一緒にいてほしい人は、いるかな。もう手放したくない幸せな時間をくれる子なんだ。けど、あの子には私よりもっと相応しい人がいるんじゃないかって、ずっと思ってる」

「……なんか、分かるかも」

 

 黒江ちゃんの言葉に、「え?」と声をだすと、黒江ちゃんは慌てて訂正を入れる。

 

「あ、ご、ごめんね。私なんかよりずっっと真剣な悩みだって分かってるんだけど。でも、私もその気持ち、あるし。……私ね、好きな人と付き合いたいって願ったから」

 

 黒江ちゃんが語ったのは、己の運命を捧げた日々のことだった。

 

「でも、付き合ってからこれでいいのかなって。私が彼の想いをねじ曲げてしまったんじゃないかって、思って。彼は私のこと好きでいてくれてたけど、別れちゃった」

「そう、だったんだ……」

「だから、分かる。自分が相手に釣り合う存在か不安になるの」

 

 黒江ちゃんはどこか遠くを見ながら、そう呟く。

 

 たまらず、私は尋ねる。

 

「ねえ。黒江ちゃんは、それ、どうやって乗り越えた?」

 

 すると、黒江ちゃんは苦笑いする。

 

「乗り越えてなんかいないよ。私も、その答えが出せずにいるの。だから今も、こうやって走ってる」

「こうやって?」

「うん。答えは出てないし、過去を無かったことにもできないけど……。私が憧れた正しさに近づければ、少しは自分を好きになれるかなって。そうすれば、答えも出るかなって思ってるんだ」

「憧れた、正しさ……」

「もちろん、私はそんな強い人には成れない。けど、ちょっと近づく位は私にも許されるかなって。きっとそうなれれば、私は誰かの側にいても息苦しくないかなって思ってるんだ」

「自分を許せるような自分になるってこと?」

「そうかも。なんていうか、相手に信頼してもらえるって思える自分になりたい。ただ相手に許されるだけの自分じゃなくて、人と対等だと思えるような自分になりたいんだ」

 

 黒江ちゃんはそこで気づいたように、「自分ばっかり話してゴメンね……」と謝ってくる。

 

「……いいよ。ありがとう」

 

 私が感謝を述べたとき、くろちゃんが声をあげる。

 

「あ、見えました! ガソリンスタンド!! 黒江さん! 夕凪さん! もう少しです、頑張ってください!」

 

 私たちも顔を向ければ、前方にはガソリンスタンドがある。

 それと、そこに停まっている車が一台。

 

 

 私たちがガソリンスタンドに近づくと、ガソリンスタンド前で待機していた二つの人影が動き出す。

 

「ふむ! ふむむーむ!」

「ええ、どうやら来たようです。月出里は先生を起こしてください」

 

 小さい子は車のほうへ。背の高い子は私たちのほうへとやって来る。

 

 それに気づいたくろちゃんが、ブンブンと手を振る。

 

「あ、調整屋さーん! 連れてきましたー! お願いしますー!」

「はい。お待ちしておりました。さあ、どうぞこちらへ。ああ、夕凪様は私が」

 

 そうして彼女に私は抱えられる。

 

 というか……。

 

「ヨヅルさん?」

「はい。お久しぶりですね。私たちが八雲みたまの調整屋にいた時以来ですかね」

 

 すると、停まっていた車、キュアトレーラーの窓が開く。

 

「お、来たな。久しぶりやなぁ、凜ちゃん」

「リヴィアさん!」

 

 

 私たちを出迎えたのは、まさかのピュエラケアの皆だった。

 

 

 

 

 

 

 

「またエラい無茶したなあ、凜ちゃん。魔力をオーバーロード状態にするなんて、少しでも制御ミスったらソウルジェムが砕けてお陀仏やで?」

 

 キュアトレーラーに運び込まれた私は、ソウルジェムを診ていたリヴィアさんに言われる。

 

「みたまもなんちゅう調整するんや。後でキツく言っとかなアカンな」

「ま、待ってください。この調整は、私が頼んだやつなんです。みたまさんは最後まで反対してたんですけど、私が無理言ったから……。だから、みたまさんは悪くありません」

「……分かった。そういうことにしとこか」

 

 会話が途切れたタイミングで、今度は私がリヴィアさんに質問する。

 

「あ、あの、リヴィアさんたちはどうしてここに?」

 

 私の問いに、リヴィアさんは調整を続けながら答える。

 

「元々近くにはいたんや。みたまへの再教育が終わった後、せっかくだから宝崎市に寄ってなあ。そこで少し商売しとったんや」

 

 リヴィアさんの言葉に、くろちゃんが、「はい!」と頷く。

 

「私も何度かお世話になりました! 黒江さんと再会できたのも、調整屋さんに来ていたときで……」

「うん……。私が調整屋さんを訪れたら、そこに彼女がいて、それで……」

 

 「いやー、調整屋さんは運命のキューピットです!」と興奮気味に語るくろちゃん。

 

「ほんでな? そろそろ宝崎も離れようか考えてたとこで、ひめなちゃんから相談があったんや。力を貸してくれへんか、って」

「ひめなちゃんから?」

「そや。もちろん最初は断ったで? 調整屋が誰かに肩入れするんはルール違反やからな。けど、直線手を貸してくれる必要はない。ただ、調整屋さんが必要になる子がたくさん出てくるだろうからって言われたんや。話聞く限り、たしかに鏡の魔女との戦いになったら、怪我人はたくさん出るやろし。それなら、私らとしても介入する理由はあるからな」

 

 「ほんで今日は神浜で待機しとったんや」とリヴィアさんは言う。

 

「まっさか、こんな魔女のパレードが始まるとは思わんかったけどな」

 

 

 よし、とリヴィアさんは言って、ソウルジェムから手を離す。

 

「魔力の流れは安定したな。あとはヨヅルと月出里で調整しといて」

「はい」

「ふむ!」

 

 そう言ってリヴィアさんは運転席へと回る。

 

「で、行き先は大東団地で良かったよな?」

「は、はい」

 

 私の返事にリヴィアさんは頷くと、キュアトレーラーのエンジンをかける。

 

「連れてってくれるんですか……?」

 

 私の問いに、リヴィアさんはシートの影から半分顔を出す。

 

「そら、乗りかかった船や。これで降ろすのも後味悪いやん」

 

 それに、と続ける。

 

「弟子の呪いを引き受けてくれるって言ってくれたんや。これくらいの贔屓、許されてもエエやろ」

 

 リヴィアさんはサイドブレーキを引き、車を発進させる。

 

「私が最初に会ったみたまはな、全てを恨むような目をしとった。ほとんど誰にも心を開かず、自分の生まれ育った土地を憎んで。やから、私はあの子を弟子にしたんやけどな」

 

 でも、とリヴィアさんは、ミラー越しに私を見る。

 

「久しぶりに会ったあの子は変わっとった。少なくとも、凜ちゃんを救うために私に泣きついてくる選択を取れるくらいには、誰かを思いやれる心を取り戻しとった。あの子があそこまで変われたのは、凜ちゃんのおかげや」

「……そんなことないです。きっとももこ先輩や十七夜さんのほうがみたまさんに寄り添ってますし、力になってます。私はなにも……」

 

 すると、リヴィアさんは笑う。

 

「そらそうや。何も凜ちゃん一人が変えたとは思ってへんよ。けど、凜ちゃんの存在がみたまを変えたんも確かや。凜ちゃんは、みたまに誰かのために戦う勇気を思い出させてくれたんや」

 

 調整屋としては失格やけどな、と付け加えるリヴィアさんは、どこか嬉しそうだった。

 

「全てがどうでもいいと思ってたあの子に、家族以外で守りたい存在を感じさせただけで、スゴいと私は思うで」

「……でも、それって私が頼りないって思われてるってことですよね?」

 

 私の拗ねるような声に、リヴィアさんは呆れたように否定する。

 

「ちゃうちゃう。なんや、意外と凜ちゃんも繊細やな」

 

 リヴィアさんは続ける。

 

「強い弱いは関係あらへん。守りたいってのは、相手を愛してなきゃできん発想なんや。誰も愛そうとしなかったみたまが、守りたいと思えるほど信頼した相手が凜ちゃんってことや。せやなかったら、今回だって凜ちゃんのために動かへんよ」

 

 その言葉に、私は先日の電話を思い出す。

 

 みたまさんが私に協力してくれたのは、それほど私を大切に思ってくれてるから?

 

 

「自信もち、凜ちゃん。みたまの心に光を灯したんは、間違いなく凜ちゃんや」

「……ありがとう、ございます」

 

 リヴィアさんの言葉に安心したのか、急激に眠気が襲ってくる。

 

 それに気づいたのか、リヴィアさんが声をかけてくる。

 

「着くまで少し休んどき。休めるときに休んどかんと、身体が持たんで」

「はい、そうします……」

 

 その言葉に、私は瞼を閉じる。

 

「わ、私が側にいるから。安心、はできないかもだけど、ちゃんと守るから」

「私もです!」

 

 黒江ちゃんとくろちゃんはそう言って、私の手を握ってくれる。

 

『私も、ずっと一緒にいるから……。手、離さないでいるから』

 

 そして、もう一人。みことちゃんの手も重なる。

 

 

 三人分の温もりに包まれ、私の意識はすぐに沈んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 DAY.95

 

 

 

 Foo^~!

 

 リヴィアネキ、ありがとナス!

 

 この実況では何気に初登場のピュエラケアの皆さんが助けに来てくれました。

 

 

 ワルプルギスの夜討伐戦のときも、ラビさんたちを調整して送り届けてくれたり、裏で活躍していたみたいですが……。残念ながら本編だと、エピローグでちょろっと出てきただけだったので、ちゃんとストーリーで絡めて嬉しいですね。

 

 

 彼女たちも彼女たちで、また複雑な境遇の魔法少女の集まりなのですが……。

 今は関係ないので解説はしません。知りたい人はwikiで調べてください。

 

 

 とにかく、彼女たちと合流できたのはありがたいです。調整屋は一種の回復ポイントでもあるので、ほぼ死に体のユリちゃんでも、これ以降また戦えます。ああ^~、生き返るわ^~。

 

 また、このキュアトレーラーも調整屋判定なので、ステータスも弄れます。

 とりあえずレベル上げと、ステータス強化して……。

 

 あ、魔力効率のレベルが上がってる。さっき、リヴィアさんが調整してくれたときの副産物ですね。これで、強化状態をより安定して発動できるようになります。

 

 

 後は、黒江ちゃんとくろちゃんの二人も力になってくれるみたいです。こマ?

 

 黒江ちゃんはアニメ版マギアレコードに登場した、いわゆるアニオリキャラです。いろはちゃんが初めて共闘する魔法少女なのですが、1期では1話で出番が終了し、そのまま最終回にちょろっと出てくるまで出番がないとかいう不遇な扱いでした。

 ただ、2期以降は一気に出番が増え、どっちかというとチームみかづき荘と黒江ちゃんの二軸での話の展開みたいになりました。

 とはいえ、結局ラストはいろはちゃんの正しさと優しさに劣等感を抱き、魔法少女を続けることに絶望して、いろはちゃんの前で魔女化してしまいます。カワイソウニ、カワイソウニ……。

 ある意味、いろはちゃんの光に殺されてしまった可哀想な子ですが、ゲーム版では迎える結末が変わっておりまして。いろはちゃんへの劣等感を抱えつつも、憧れという気持ちを上手く昇華させ、マギアレコードの伝道者となり、マギアエクセドラでは……。

 

 と、アニメ版とゲーム版でかなり結末が変わった彼女ですが。本攻略のルートでは、どうやらユリちゃんに助けられて、そのことを恩義に感じているようですね。アニメ版より精神が安定してそうなのは、隣にくろちゃんがいるからですね。

 

 このくろちゃんというのは、同じくアニメ版に登場したアニオリキャラです。本編開始前に黒江ちゃんと出会っており、その弱さゆえに魔女を狩れず、グリーフシードに困っている子でした。魔女に苦戦しているところを黒江ちゃんに助けられ、その際にグリーフシードの余りがあれば分けてほしいと頼みますが、黒江ちゃんも持っておらず、二人はそこで別れてしまいます。

 実はこの時、黒江ちゃんは1つだけグリーフシードを持っていたのですが、黒江ちゃん自身が弱い魔法少女なため、次にいつグリーフシードを入手できるかの不安から嘘をついてしまったんですね。この時の後悔が、後の魔女化に繋がってしまうのですが……。

 しかし、嘘をつかれた当の本人は全く気にしておらず、むしろ今度は黒江ちゃんにグリーフシードを分けてあげられるようになりたいとさえ思っています。それが助けてくれた人へのお礼にもなると信じて。

 

 総じてお互いのお互いへの気持ちが大分剥離している二人ですが、この世界線ではピュエラケアが宝崎を訪れたタイミングがずれたため、ちゃんと再会できたようです。仲も良さそうだし、多分大丈夫なんじゃないでしょうか。

 

 

 そして、ひめなちゃんが宝崎の魔法少女にグループチャットで呼びかけたことで、今回の件を知り、協力しに来てくれたって感じですね。ひめなちゃん、優秀スギィ!

 

 

 

 

 さてさて、皆の協力もあって、ひとまずの危機は脱しました。

 ユリちゃんは連戦に続く連戦の疲労で眠っちゃいましたし、後は目的地までリヴィアさんたちにお任せしましょう。

 

 

「ほな、あんま時間もないみたいやしな。免停覚悟で飛ばすさかい、しっかり掴まっとき!」

 

 ファッ!?

 

「あ、安全運転でお願いします!」

 

 くろちゃんの言う通りだゾ!

 間違っても黒塗りの高級車にはぶつけないでね……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 DAY.95 Side MY

 

 

 

「ハァ、ハァ、このっ……!」

「狙いはいいが……。 脇が甘いな、十咎!」

 

 

 十七夜を足止めする私とももこの二人の戦況は、劣勢と言えた。

 

 

 二人がかりなら、と考えていたものの、さすが東のリーダーというべきだろう。

 十七夜は私たち二人を相手取っても、なお優勢を保っていた。

 

 十七夜の読心魔法と私に直接的な戦闘能力がないことも相まって、彼女には攻撃がほとんど当たらない。

 

(せめて十七夜の足を止められれば良いんだけど……。私が仕掛けた地雷もバレてしまったし、本格的に打つ手がないわね……)

 

 

 私が調整の魔法を応用して、ソウルジェムと身体のリンクを弱める地雷を設置したものの、読心を使われて速攻看破された。

 

 前線を張るももこもあとどれくらい耐えられるか分からない。

 

 

 

(凜ちゃんの作戦が順調に進んでいればいいけど……)

 

 グループチャットに、凜ちゃんからの報告がない。

 

(無事でいてよ、凜ちゃん……!)

 

 

 すると、一際大きな音が響く。

 

 私が目を向ければ、ももこの武器が宙を舞っていた。

 

 

「悪いな、十咎。少し眠ってもらうぞ!」

「くっ……!」

 

 

 丸腰になったももこに鞭を振るう十七夜。

 

 

 

 

 

 それを防いだのは、一本のトライデントだった。

 

「きゃあっ!!」

 

 鞭とトライデントがぶつかり、弾かれたのはトライデントのほう。しかし、それにより鞭はももこに当たらず、トライデントの持ち主は叫んだ。

 

「かえで! 今よ!!」

「うん! 任せて!」

 

 次の瞬間、地面から植物のツタや根が飛び出し、十七夜の手足を捕える。

 

「なにっ!?」

 

 

 現れた二人を見て、ももこは声をあげた。

 

「レナ! かえで! おまえら、どうしてここに……」

 

 ももこが言い終わらないうちに、レナちゃんはももこに近づくと、襟を掴んでグイッと顔を引き寄せる。

 

「ももこ、アンタね! なんでまた、レナたちに何も言わず戦ってんのよ!!」

 

 怒りの感情を隠すこともなく、レナちゃんは怒号を飛ばす。

 

「なんとかの夜って魔女のときもそう! レナたちに内緒で見滝原行って、終わった後に話だけ聞かされて! こっちの身にもなってみなさいよ!」

 

 レナちゃんの剣幕に押されつつ、ももこは反論する。

 

「わ、悪かったって。でも、ワルプルギスの夜のときも、今回も。本当に危険なんだ! 今回はもしかしたら、神浜の魔法少女を敵に回しちまうかもしれないことをアタシたちはやってる……! それにレナたちを巻き込むわけには……」

「はああっ!?」

 

 ももこの言葉に、レナちゃんは更に声を大きくする。

 

「なんでそうなるのよ!」

 

 レナちゃんは掴んだ服をギュッと握る。

 

「レナたち、チームなんでしょ……!? だったら、レナたちも一緒でしょ! 神浜の魔法少女が敵になるから何!? もし敵になるんだったら、レナがぶっ飛ばすわ!」

「いや、そういう問題じゃ……!」

「そういう問題よ! 大体、なんで後輩助けようとして、ももこが神浜の魔法少女に狙われなきゃいけないのよ!? おかしいでしょ! 誰よ、そんなこと言ってるやつ!!」

「れ、レナちゃん落ち着いて……? 本題からどんどんズレてるよ……!」

 

 ヒステリック気味に叫ぶレナちゃんに、かえでちゃんが声をかける。

 

 ゼーゼーと肩で息をするレナちゃんに代わり、今度はかえでちゃんが口を開く。

 

「ももこちゃん。たしかに私たち、あんまり強くはないけど……。でも、同じチームだもん。黙って危ないことされるのは、すごく悲しいかな」

「かえで……」

「た、頼りないかもだけど、私たちだってももこちゃんの力になりたいもん。危なくてもいい。一緒に、隣で戦わせてくれないかな?」

 

 いつもはオドオドしていることが多いかえでちゃんが、ハッキリとそう言った。

 

 そのことに驚いたのか、ももこは少しの間、ポカンとしていた。

 

 やがて、フッと口元を緩める。

 

「な、なに笑ってんのよ!?」

 

 レナちゃんが顔を赤くして怒ると、ももこは「ごめんごめん」と謝る。

 

「いや、レナもかえでも、アタシが思ってたよりずっと成長してたんだなって思ってさ」

「なにそれ? レナたちのこと、舐めてたって言いたいの!?」

「レナちゃん、さすがに落ち着こう? これじゃ、レナちゃんが何にでも吠えかかるワンちゃんみたいだよ……」

「かーえーでー!!!」

「ふゆぅ~! レナちゃん、ほっぺ引っ張らないで~!」

 

 今度はかえでちゃんに怒り始めてしまったレナちゃんに、ももこは慌てて止めに入る。

 

「やめろやめろ! 今はそんな場合じゃないだろ。ってか、なんでアタシが止める側に回ってんだ……」

 

 その言葉に、うっ、と言葉を詰まらせるレナちゃん。

 

「というか、二人はなんでアタシたちの動き知ってたんだ?」

 

 ももこの問いに、かえでちゃんは申し訳なさそうに私を見たあと、正直に話した。

 

「みたまさんに聞いたの。ここ最近のももこちゃん、なんだかソワソワしてて、ワルプルギスの夜の戦いの前にそっくりだったから」

「……フン! 嘘が下手なのよ、ももこ」

 

 そういうことか、と私を見てため息をつくももこ。

 

「ごめんなさい。けど、二人には知る権利があると思ったのよ。同じチーム、なんだしね」

 

 私がそう言うと、ももこはまだ何か言いたげだったが、

 

「もちろん、二人に協力を強制はしてないわ。私はあくまで、私たちのやろうとしていることを伝えただけ。ももこを助けようとしたのは、二人の意志よ」

 

 というと、閉口した。

 

「ごめんね、ももこちゃん。でも、力になりたいのは本当だよ? それにレナちゃんが……」

「レナが、どうしたんだ?」

 

 ももこはレナちゃんに視線を向けるが、レナちゃんはそっぽを向いたままだ。

 

「レナちゃん……」

 

 それを見たかえでちゃんが呆れたように話す。

 

「レナちゃんがね。私も凜ちゃんのこと助けたいって言ってたから……」

「凜を?」

 

 そこまで言われて観念したのか、ももこたちには視線を合わせないまま、レナちゃんは語りだす。

 

「レナ、去年までアイツとは同じクラスだったし……。なのに、凜が悩んでることとか、辛い思いしてるの、全然知らなかった……。話しかけにいく勇気もなくて、そしたらクラス別になっちゃって、引っ越しちゃって。これじゃレナが見捨てたみたいで、気分良くないの……! わ、悪い!?」

 

 すると、レナちゃんに続けるようにかえでちゃんが口を開く。

 

「それにね。1回、ももこちゃんがいない時に私たち、凜ちゃんに助けられてるんだ」

「そうなのか?」

「うん。やちよさんがチーム解散してしばらく経った頃だと思う。ゲームセンターでたまたま会って、一緒に遊んだんだけど……」

 

 かえでちゃんはチラッとレナちゃんを見る。

 

「レナちゃんが全然取れなかったクレーンゲームのぬいぐるみ、凜ちゃんが2~3回で取っちゃって。レナちゃんムキになっちゃうし、そのゲームセンターで魔女の反応を見つけて一緒に戦ったときも、レナちゃんが凜ちゃんの動きを無視して戦って、挙句……」

 

 

 ――うっさいわね! レナのやり方に口出ししないで!

 

「って、言っちゃって。それで別れちゃったから、レナちゃん気まずくなって……。ももこちゃんにも絶対言うなって……」

「うわぁ……」

「~~っ! うっさいわね! レナだって悪かったと思ってるわよ!!」

 

 我慢出来なくなったのか、レナちゃんは涙目で怒鳴る。

 

「レナだってすぐに謝るつもりだったわよ! ただ、どうやって謝ればいいか分からなくて……。そしたら、アイツ引っ越しちゃうし……」

 

 ああもう!とレナちゃんは地面をダンダンと踏む。

 

「レナ、凜にちゃんと謝りたいの! だから、こんなところで死なれたら困るのよ!!」

 

 

 レナちゃんの言葉に、ももこは口角を上げる。

 

「分かったよ。アタシも一緒に謝るからさ。力を貸してくれ、レナ、かえで!」

「うん!」

「当然よ!」

 

 

 3人の話が纏まった辺りで、私は今もツタや根から逃れようともがく十七夜に声をかける。

 

「さて。これで形勢は逆転ね、十七夜。大人しく投降してくれないかしら?」

「……どうやら、その道しかなさそうだな」

 

 

 十七夜はそう呟くと、鞭を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 DAY.95

 

 

 

 

 

 さて、ユリちゃんたちを乗せたキュアトレーラーですが、そろそろ大東団地に到着ですね。

 

「お、そろそろ着きそうやな。黒江ちゃん、凜ちゃん起こしたって」

「あ、は、はい。夕凪さん、起きて。もうすぐ大東団地だって」

「んぅ、分かった……。ぁりがと……」

 

 

 ふにゃふにゃユリちゃん、クッッッソカーワイイーーー!!

 

 

 

 っと、ついに到着しましたね。

 

 

 キュアトレーラーを降りたユリちゃんを待っていたのは、まばゆちゃん、ほむらちゃん、ひめなちゃん、それとフォークロアの皆。

 

 よしよし、ちゃんと作戦に必要な人は全員揃ってますね。

 

 

「凜さん! よかった、大丈夫でしたか!?」

「うん、平気だよ。遅れてごめんね」

 

 また嘘つくー。

 リヴィアさんもこの苦笑い。

 

 とはいえ、今は説明している時間も惜しいのも本当。

 

 さっそく作戦を始めましょう。

 

「分かった。うらら、サーシャ、暁美さん、愛生さんは人払いをお願い」

「了解なんよ!」

「旭、藍家さん。準備は?」

「おけまる!」

「いつでも始められるでありますよ」

「分かった」

 

 ラビちゃん、ありがとナス!

 

 さて、ここからがこの作戦、最大の山場です。

 

 

 まず旭ちゃんの魔法で帆奈ちゃんの魂を現世へと呼び戻し、それをラビちゃんの概念強化の魔法で強化した、ひめなちゃんの合成魔法でユリちゃんのソウルジェムと合成します。それにより、ユリちゃんの中にいるみことちゃんと帆奈ちゃんを引き合わせるのがこの作戦の概略です。

 

 懸念点としては、合成が上手くいくかどうかと、帆奈ちゃんの魂を合成したときにユリちゃんの精神が保つかどうかです。特に後者は、他者の魂を自身の魂に融合させるに近い行為なので、ユリちゃん側のメンタルが負けると廃人になってしまいます。そうなれば、その時点でゲームオーバー。バッドエンド直行です。

 

 まあしかし、ユリちゃんは性格に『気丈』があるため、SAN値はかなり高めに設定されてますし、帆奈ちゃん側もユリちゃんに悪印象は持っていないため、拒絶反応も起きづらい。リスクはかなり減らせた状態ですし、後はみことちゃんが満足する時間、ユリちゃんが耐えられれば作戦成功です。

 

 

 

 

 じゃあ、やろうか……。

 

 

 

「お願い、ラビさん」

「分かった、夕凪さん。じゃあ旭、始めて」

「了解であります」

 

 

 

 

 

 

 

 DAY.95 Side MS

 

 

 

「お願い、ラビさん」

 

 凜ちゃんは深呼吸すると、一言、ラビさんに告げる。

 

「分かった、夕凪さん。じゃあ旭、始めて」

「了解であります」

 

 

 その言葉と共に、旭さんのソウルジェムが輝きだす。

 

 薄い白玉の魂魄が旭さんの周りに浮かび、神秘的なオーラが彼女を包む。

 

 

 

「よし……。藍家殿、いくでありますよ」

「う、うん!」

 

 緊張した面持ちで頷くひめなちゃん。

 彼女たちは手を握り、魔力を同調させる。

 

 

「「コネクト」」

 

 

 戦いのときに使うものとは違う、凪いだ水面を思い起こさせるような静かなコネクト。

 

 心を落ち着かせるようにゆっくりと呼吸していたひめなちゃんが、目を開ける。

 

 

「うん、よし。ゆーりん、いけそう?」

「うん。こっちはいつでも。みことちゃんは?」

『だ、大丈夫……!』

 

 少し声が上擦る。

 これで、久しぶりに帆奈ちゃんに会えると思うと、途端に緊張してきた。

 ないはずの心臓が激しく鼓動するような、そんな感覚に襲われつつ、私は祈る。

 

 

(どうか、どうか、帆奈ちゃんと会わせてください……! そして願わくば、凜ちゃんも無事でありますように……)

 

 

 この前教会で見た杏子ちゃんの真似をする。誰に祈っているのか、私にも分からない。ただ、凜ちゃんのために何かをしていたかった。

 

 

 

 ひめなちゃんが合成の魔法を、凜ちゃんへと使う。

 

「うっ……! く、うううぅぅ……!」

 

 凜ちゃんが苦しそうに顔を歪ませ、胸をキツく掴む。

 

『り、凜ちゃん……!』

「大丈夫……! 信じて……!」

 

 凜ちゃんは小さく、それでも力強い声で呟く。

 

 だから私も、凜ちゃんを信じて祈る。

 

(きっと凜ちゃんが、私たちを会わせてくれるから。お願い、帆奈ちゃん……!)

 

 

 私はギュッと目を瞑り、ただひたすらに祈った。

 

 

 

 

 

 

 どれくらいそうしていただろうか。

 

 いつの間にか、凜ちゃんの苦しそうな声が聞こえなくなっていた。

 

 

(成功、したのかな……)

 

 

 

 私が目を開けて確認しようとしたときだった。

 

 

 

 

 

「瀬奈」

 

 

 

 私を呼ぶ声が聞こえた。

 

 私はすぐに目を開き、声のしたほうを向く。

 

 間違えるはずない。

 その声は、私が焦がれに焦がれ、いくつもの夜、消えそうになる自我のよすがとしてきた、彼女の声だったから。

 

 

 

 凜ちゃんの精神世界。月が照らす草原に、彼女は、帆奈ちゃんは立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 




ワルプルギスの廻天、また延期になりましたねー。

残念な気持ち半分、ワクワクする期間が伸びた嬉しさ半分。
あと、この小説を終わらせるための時間に余裕ができて安心、という気持ちが裏にあります。

ただ、公開日だけはガチでそろそろ教えてクレメンス……。
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