魔法少女まどか☆マギカ 実績『朝焼けのエンドロール』獲得 作:くろしゅー
(廻天の予告第3弾が来てたので)初投稿です。
DAY.95 Side YN
道中で出会う魔女を薙ぎ倒しながら、私は中央区の電波塔を目指す。
(魔女たちが一斉に電波塔を目指すなんてあり得ない。 そんな現象が起きるとすれば、誘導されているに他ならない!)
迂闊だった。
魔女の隊列はそのほとんどが中央区を通る。万が一、他の株分けがやられても、中央区に株分けを待機させていれば、神浜に散った魔女たちに着火することができる。
(電波塔の一番上に陣取っていれば、魔力探知の範囲にも入りづらい! やられたわ……!)
既に凜たちが果てなしのミラーズに突入しているはず。
けれど株分けが電波塔に待機しているのなら、本体を倒す前に起爆されてしまう可能性は高い。本体は彼女たちを結界に誘い込み、足止めしていればそれで勝ちなのだから。
それで凜たちを倒せれば儲けもの。倒せなくても、本体さえ生きている限り株分けの魔女は消えない。後は株分けが電波塔に集まった魔女を使ってサルベーション・ブルームを引き起こすだけ。
(マズいわね……!)
いくら魔法少女の身体能力でも、今から電波塔を目指して間に合うのか? 本体を相手している凜たちは無事なのか? そもそも、私の推理は合っているのか?
頭の中でいくつもの事柄がグルグルと回る。
「あら、どこに行くのかしらぁ?」
そんな時だ。
唐突に、横から声をかけられる。
声をかけてきたのは、黄色の着物を着た、金棒を持つ魔法少女だった。
「誰?」
「紅晴結菜よ。夕凪さんたちから聞いてないかしら? 北養区の株分けを対処してた魔法少女よぉ」
彼女の言葉で思い出す。
ヘルカという少女の腕輪から聞こえてきた声に、彼女のものもあった気がする。
北養区の株分けを対処するチームも編成したと言っていたが、彼女たちのことだったのだろう。
「北養区の株分けは倒したし、ヘルカからも新西区の株分けを倒したと報告があったわぁ。だから、まずは近場のあなたたちと合流しようと思ってたのだけど……。何かあったのかしら? 道中で魔女を1体も見なかったことも気になるわぁ」
「……それなんだけど」
私は今考えている想像を彼女に伝える。
彼女たちの身元など、怪しい点はいくつもあるが、今は疑っている時間じゃない。彼女たちが敵の可能性は、この際排するしかないだろう。私たちに、そんな余力などないのだから。
「……なるほどねぇ。十分考えられる話だと思うわぁ。電波塔の一番上に身を隠していれば、魔力探知にはほぼ引っかからないだろうし」
紅晴さんは私の話を聞いて頷く。
と同時に、彼女の口から疑問が零れる。
「とはいえ、今から走って間に合うかしら? 電波塔までたどり着いても、あの高さを登らなきゃいけないのよぉ? しかも、電波塔の麓には魔女がたくさんいるようだし」
「……だとしても、間に合わせるしかないわ。塔のサルベーション・ブルームを阻止できなければ、凜たちの努力も無駄になる」
すると、後ろから足音が聞こえてくる。
「やちよー!」
「結菜さーん!」
私たちを挟み込むように、両側から同時に声が聞こえる。
私の後ろからやって来たのは、私を追ってきた鶴乃たち。紅晴さんのほうからからは、彼女の仲間と思われる子たちが合流する。
「やっと追いついた……。やちよ、いきなり走り出してどうしたのさ。株分けがもう1体いるって、どういうこと?」
「さっき説明したばかりだけど……。ちょうどいいわ。皆にも簡単に伝えるわね」
紅晴さんにした説明を、鶴乃たちにも伝える。
「……だから、なんとか電波塔に行かないといけないんだけど……」
「でも、隣の区とはいえ、電波塔まで結構距離あるよ? そんな距離移動するなんて……」
私と鶴乃が頭を捻る中、いきなりフェリシアが手を挙げる。
「じゃあさ、何かに乗ってビューンって飛んでけばいいんじゃね? デカゴンボールにもいたじゃん。柱投げて、それに乗って移動する殺し屋! あんな感じでさ!」
私は額に手を当て、頭を振る。
「あのねぇ。いくら魔法少女だとしても、そんなことできるわけないでしょ……」
「でもやちよだって、自分の槍を足場にしてるときだってあるじゃん」
「あれは一瞬だからよ。そんな長距離飛ぶのに、あんな細いものに乗ってられないわ」
「なら、さなの盾使えるぞ。な、さな!」
「え……? は、はい。この盾なら、人が乗っても大丈夫、だと思います」
「ほらな!」
「だとしても、こんな重い盾、そんな距離投げられると思う? 精々数メートル先に飛ばすのが限界よ……」
せめて、盾を飛ばす発射装置か、盾自体に推進装置が付いているのなら話は別だが。
「……盾なら、乗って飛べるのね?」
そんな中、紅晴さんが私と盾を見ながらそう呟く。
「え、ええ。もっとも、電波塔までは全く届かないけど……」
「それなら、なんとかなるかもしれないわぁ……」
「えっ……」
私は彼女の言葉に耳を疑う。
そんな私に、彼女は説明をしてくれる。
「私の魔法は『対象変更』。あらゆる事象の向かう対象を任意の物に変更することができるわ。例えば……」
彼女は足下に落ちていた瓦礫の破片を拾うと、近くの建物の窓に近づく。
「この破片を魔法の対象にして……」
彼女はそこまで言うと、持っていた金棒を建物の窓ガラスに振るう。
このままでは鳴るであろうガラスの割れる大きな音に、私はつい身構える。
が……。
「え……」
あれだけの速度で金棒を叩きつけられた窓ガラスにはヒビ1つ入っておらず、代わりに破片が木っ端微塵に砕けていた。
「とまあ、こんな感じよぉ。今のは、窓ガラスに叩きつけられる運動エネルギーの向かう先を、対象変更でこの瓦礫の破片に変えたのよぉ」
紅晴さんは金棒を下ろすと、二葉さんの盾を触る。
「この魔法を使えば、推力が無くなっても私が再び打ち出すことができるわ。大分力押しの作戦にはなるけど、迷ってる時間もないでしょぅ……?」
「……そうね」
私は覚悟を決める。
「二葉さん、私が乗れるサイズの盾、お願いできるかしら?」
「は、はい!」
「やちよ……」
鶴乃が心配そうな顔を私に向ける。
鶴乃を安心させるように、私は理由を語る。
「私が行くわ。この中で一番魔力が残っているのは私よ。それに、いくら推力を得られるといっても、飛ぶのに2人は厳しいでしょう。1人しか行けないのなら、私が行くわ」
「……止めても無駄だよね。分かった、やちよを信じる! 絶対帰ってきてね!」
「当然よ」
鶴乃が私の手を握る。
「幸運の魔法、やちよにかけておいたから! きっと大丈夫だよ! ふんふん!」
「ええ、頼もしいわ」
彼女の頭を撫で、私はフェリシアの方を向く。
「さなの盾を飛ばすのは、フェリシア。あなたに任せるわ」
「え、オレ!?」
「だって作戦の立案者だし、この中だとあなたの武器が一番、物を飛ばすのに向いてる形状なのよ。お願いできないかしら」
「~~っ、ああ! やってやるよ! やちよが星になるまで飛ばしてやるから、任しとけ!!」
「そこまで飛ばされると困るんだけど……」
そうこうしつつ、私は二葉さんの生みだした盾に乗る。
「じゃあ、盾を持ち上げるのはひかるに任せるっす!」
フェリシアが打つために、どうやって盾を浮かそうかと思っていると、紅晴さんの隣にいたポニーテールの子が前に出てくる。
「出てこい、ひかる軍団!」
ひかるさんが剣を振るうと、まるで煤ボコリのような使い魔がポンポンと生まれる。
「さあ、ひかる軍団! この盾を持ち上げるっす!」
ひかる軍団と呼ばれた彼らは、私の乗った盾に集まると、息を合わせて持ち上げる。想像よりずっと力持ちである。
「よし、こっちはいつでもオッケーっす! 結菜さん! 七海さん! 後は頼むっすよ!」
「ええ、任せてちょうだぃ……」
紅晴さんも準備できたのか、私にアイコンタクトを送ってくる。
「私もオッケーよ。フェリシア!」
「おっしゃー!」
フェリシアは肩を何度か回すと、ハンマーを持つ。
「いっくぞー!」
「3でいくわよ! ……1、2の、3!!」
私の掛け声とともに、使い魔たちは私の乗った盾を少しだけ上に投げる。
「ドッカーーーン!!!」
その盾を、フェリシアのフルスイングしたハンマーが捉え、私を乗せたまま勢いよく打ち出される。
「くっ――!」
急激な加速に振り落とされそうになるも、盾の取っ手部分を掴み、必死に耐える。
そのまま盾が数十メートル飛んだところで、ついに加速がなくなり、高度が下がり始める。
直後、盾にどこからともなく衝撃が走り、再び盾が加速する。
どうやら、紅晴さんが上手くやってくれたようだ。
「どうやら上手くいったようねぇ。なら、このままいきましょう。……後は託したわよぉ、七海さん」
紅晴さんの魔法で何度か加速した盾は、ついに中央区の電波塔に迫る。
私が電波塔の天辺を確認すれば、私の推理を裏付けるように強力な魔力反応があった。
(この魔力パターン、間違いなく株分け……! やっぱりここに陣取っていたわね!)
最後の加速を受けた盾が、電波塔に突っ込んでいく。
私はタイミングを見極め、盾から飛び出す。
電波塔の展望台の屋根に着地した直後、盾は展望台のガラスを突き破る。
(ごめんなさい……!)
ガラスを割ってしまったことに内心謝罪しつつ、私は魔女の反応のする方へと向かう。
「――っ!?」
塔の反対側、魔女の元にやってきた私の目に飛び込んできたのは、鏡の魔女の株分け、そしてそれと戦う……。
「アリナ・グレイ!?」
「あ?」
私の声に、彼女はだるそうにこちらを見る。
「ああ、誰かと思ったらベテランなワケ」
「あなた、なんでここに!? というか、なんで戦ってるの?」
私は彼女に尋ねる。
彼女がここにいる理由も、株分けと戦っている理由も、全く検討がつかない。
(凜のため、って柄じゃなさそうだけど……)
すると、アリナは当然と言わんばかりの声で答える。
「なんでって、ここでデッサンしてたからに決まってるヨネ」
「デッサン?」
「そ。ここからなら、神浜の様子を見渡せるカラ。今の崩れゆく神浜を描くのに、ちょうどいいポジションなワケ」
「……悪趣味ね」
「けど、そのアリナのアートを見に来るヤツも多いヨネ」
とにかく、と、アリナは魔女の攻撃を避けながら私に言う。
「暇ならデリートするの手伝ってほしいんですケド。コイツ、このポジションを取ろうとしてきて、デッサンの邪魔なんだヨネ」
その言葉に、私は彼女が戦っていた理由が腑に落ちる。
なんてことない。彼女は、彼女の芸術活動を邪魔されたから、魔女と戦っていたのだ。
「凜が命を削って生み出すこのアート、描かないわけにはいかないヨネ!」
その言葉に、私はフッと笑ってしまう。
(理由はどうあれ、こんな子の心も動かせるのね。凜は)
彼女がここにいたのは、鶴乃の幸運のおかげか、それとも凜の人望か。
この際、どちらでもいい。1つハッキリしているのは……。
(このチャンス、逃さないわ!)
「アリナ! 私も手を貸すわ! さっさとこの魔女、片付けるわよ!」
「そうこなくちゃ。話が早いヤツは嫌いじゃないワケ」
その言葉とともに、異色の共同戦線は組まれることになった。
DAY.95 Side MT
光と轟音が鏡層全体を支配する。
圧倒的な破壊の力を秘めた光の塊が、私たちの近くを何度も掠める。
私の銃弾は彼女には効かず、オルガさんとガンヒルトさんでも真っ向勝負では彼女に力で勝てず。
時女さんの剣技と、彼女の直剣が激突する。
そして……。
「ああああっ!!」
飛ばされてくる時女さんを、私はリボンのネットで受け止める。
「時女さん……! 大丈夫?」
「助かったわ、巴さん……」
時女さんは起き上がりながら、グリーフシードをソウルジェムに当てる。
「グリーフシードの残りは?」
私の問いに、時女さんは首を横に振る。
「これが最後。巴さんは?」
「私もさっき使い切ってしまったわ」
私の答えに、時女さんの表情は険しくなる。
「いよいよ追い込まれてきたわね……」
「ええ。対して私たちが与えられたダメージは……」
今も全く陰りのない動きで、オルガさんとガンヒルトさんの2人を相手取るタルトさんのコピー。
到底、隙が生まれるようなダメージを蓄積できているとは思わなかった。
満身創痍の私たちとは真逆である。
(このままじゃ、魔力切れになるか、その前に……)
私の頭を最悪のシナリオが過ぎる。
(っ! ダメよ、弱気になったら! ここで私たちが負けたら、このコピーが凜さんたちを追ってしまう!)
負けることは許されない。打開策を考えないと。
焦る私に、不意に時女さんが呟く。
「巴さん、ちょっといいかしら?」
「なに?」
「オルガさんたちが戦っているのを見てて、気づいたんだけど……」
時女さんは顎に手を当てながら言う。
「あの複製体、攻撃を受けるときと避けるときがあるのよ」
「え……。でも、それって当然――」
当然のこと、と言おうとして、何かが引っかかる。
(待って。確か、最初に皆で戦ったとき、あのコピー……)
私の表情を見て察したのか、時女さんは頷く。
「気づいた? 最初、私の
「確かに変ね……。普通、隙が生まれやすい背中からの攻撃には注意するだろうし、せめて防御しても良さそうなのに……」
「相手が巴さんの攻撃に反応できなかった、とも考えられるけど……」
相手はあの強さだ。
背面からの攻撃を受けてもすぐに動いてきた辺り、意表を突かれた可能性は低いだろう。
「となると、背面の攻撃はわざと受けた……? いや、避ける必要がなかった?」
「私も上手く言えないんだけど、何か違和感がないかしら?」
時女さんの言う通りだ。
自分もオルガさんたちの戦う様子を見ていたが、オルガさんの正面からの突きは避けているが、側面からのガンヒルトさんの斧の攻撃は、自身の防御力に任せて受け、カウンターしている。
回避不可の暁美さんの時間停止以外、正面からの攻撃は避けるか防御をしている。
(そして、暁美さんやまばゆさんを狙った攻撃……。なんで正面を警戒するの? 攻撃が当たっても平気なら、むしろ正面からの攻撃のほうがカウンターに繋げやすいはず。何を警戒してるの?)
そういえば、さっき戦闘中にオルガさんの言っていたことを思い出す。
――このコピー、タルトのこと完全に複製してるの!? 容姿も強さも一緒すぎる!
彼女がなぜ、数百年前の魔法少女の実力を知っているかはさておき、あのコピーはオリジナルと遜色ないレベルの高精度なコピーなのだろう。
(本物と、一緒……?)
私は1つの可能性が頭に浮かぶ。
そして、彼女の姿を正面から見て、それはあった。
「そうか! 時女さん!」
「巴さん? 何か分かった?」
「ソウルジェムよ!」
首を傾げる時女さんに、私はコピーの胸元を指さす。
「彼女の鎧の胸のところ! あそこだけ、鎧が途切れてソウルジェムがはめ込まれてるの!」
「あ、そうか……!」
「コピーだからソウルジェムを砕いても倒せないでしょうけど、あそこだけ防御力が低いって可能性はあるんじゃないかしら?」
考えられる可能性はこれだ。
彼女の胸元。胸部の鎧には十字の穴が空いており、そこからソウルジェムが見えている。大分禍々しいソウルジェムではあるけれど、重要なのは鎧に穴が空いているということだ。
他の部分の防御力が高くとも、ソウルジェムだけは頑丈にすることはできない。あれが完全コピーで、長所も短所も完全再現しているとしたら……。
時女さんが覚悟を決めた顔で立ち上がる。
「やるしかないわね。これでダメなら、全員で心中よ」
時女さんの言葉に、思わず笑ってしまう。
笑える冗談ではないのだが、実際これでダメなら、本当に自爆しか手がない。
死ぬのは怖いけど、彼女たちがいれば不思議と不安はなかった。
「そうならないよう、努力しましょう」
私も立ち上がって、時女さんに答える。
時女さんはフッと微笑むと、テレパシーをオルガさんたちに飛ばす。
『オルガさん! ガンヒルトさん! 作戦があるの!』
『……という感じよ。お願いできるかしら?』
『あたしはいいけど……。大丈夫? 2人とも、かなり危ないよ?』
『問題ないわ。そうならないために、全員で挑むのよ』
時女さんが私のほうを見る。
私も頷き返し、テレパシーを飛ばす。
『はい。私が必ず隙を作ります。だから、協力してください』
『……分かったよ。ガンヒルトは?』
『私は姉さんに従うよ。姉さんが協力するなら、当然手を貸す』
『ありがとう。魔力量的にも、もう一刻の猶予もないわ。早速やるわよ!』
『任せて!』
時女さんの言葉に、オルガさんは自身の胸を叩く。
『作戦開始よ!』
時女さんの合図を皮切りに、全員が一斉に動き出す。
「ハアアアアアアアッ!!!」
まず、オルガさんが正面から槍での突撃を仕掛ける。
それをタルトさんは剣で弾き、光波を飛ばす。
「おっと!」
オルガさんは、それを横っ飛びで避け、二撃目の光波を盾で防ぐ。
その間に、タルトさんはオルガさんの目の前まで踏み込み、剣を振り下ろす。
「っ!」
オルガさんは身体をずらし、剣をギリギリで避ける。斬撃は光波を伴い、壁に10メートル近い亀裂を入れる。
一撃一撃が必殺技。一発でも食らえば、それでアウト。そんな極限の状態で、オルガさんは正面からタルトさんとぶつかり合う。
私は彼女たちの周りを走り、僅かな隙を探す。
そして……。
「そこっ!」
タルトさんの重心が不安定な一瞬を狙い、足下を狙撃する。
銃弾は相手のくるぶし辺りに命中。しかし、体勢を崩すには威力不足だったようで、タルトさんはすぐにバランスを戻す。
その一瞬で。
「くらえ!!」
仕掛けたのはガンヒルトさんだ。
あの重量のある戦斧が振り下ろされる。それを剣で受け止めるタルトさんだが、バランスが悪い状態で受けたためか、先ほどと違い、片膝をついて受け止める。
「そこ!!」
次に仕掛けるのは時女さん。
「時女一心流、経絡三打乱れ打ち!」
高速の突き技、三連撃がタルトさんを襲う。
しかし、タルトさんは剣を持っていない手で、時女さんの七支刀を掴んで受け止める。
「くっ……!」
タルトさんはそのまま手に力を込め、七支刀を砕く。
「いまだぁっ!」
そこへ私とオルガさんが突っ込む。
オルガさんの槍が彼女の腹部に叩きつけられる。
「いっけえええええ!」
オルガさんはそのままタルトさんを押していき、壁に叩きつける。
タルトさんも、同じ手は食わないと言わんばかりに、オルガさんの槍を片手で掴むと、自身へとオルガさんごと引き寄せ、彼女を思いきり蹴り飛ばす。
「あああっ!」
タルトさんはすぐさま動こうとするも、その前に私が銃を彼女の胸部に突きつける。
「これで……!」
私が引き金を引こうとした、その刹那。
タルトさんの腕が動き、指にかけた引き金を引くより速く、私の首が撥ね飛ばされる。
首は宙を舞い、
直後、タルトさんの前に残った私の胴体もリボンへと変化し、タルトさんを壁へと拘束する。
「今よ、時女さん!」
後ろで待機していた、本物の私の声を聞いて時女さんが突っ込む。
「時女一心流……! 懐隠しの四肢――」
しかし、次の瞬間、タルトさんの剣から膨大な魔力が溢れ出す。
「っ!?」
魔力は光波となり、リボンを引き裂く。
「くっ!」
時女さんは構えを解き、阻止の魔法で光波を防ぐ。
タルトさんから溢れ出した膨大な魔力は螺旋となり、彼女の剣に集中していく。
「あれは……、マズい!!」
ガンヒルトさんが目を見開く。
オルガさんも、顔を青ざめさせる。
「ラ・リュミエール……!! 皆避けて! 当たったら塵も残らないよ!!」
この鏡層……。いや、全鏡層の魔力が集中しているのか、空間が歪んで見えるほどの魔力が彼女の剣に集中する。
「ガンヒルト! 絶対止めるよ!!」
「ああ! いくよ姉さん!!」
私たちが回避しようと動く中、オルガさんたち姉妹はタルトさんへと突っ込んでいく。
「っ!? 時女さん!」
「ええ! 次が最後のチャンスね!!」
私たちも回避を止め、彼女たちに続く。
あれが大技なら、使った後に必ず隙ができる。
それがラストチャンスだ。
「「うおおおおおおっ!!」」
オルガさんとガンヒルトさんが武器を構え、突っ込む。
2人を迎え撃つように、タルトさんも武器を後ろへ振りかぶる。
両者の激突まで、あと僅か。
先に準備が整ったのは、タルトさんだ。
魔力を収束させ、突っ込んでくる彼女たちにありったけの魔力を解放しようと、剣を振るう。
「させないわっ!!」
その寸前、タルトさんの腕が何かにぶつかったように、一瞬止まる。
見れば、時女さんが腕を彼女に向けていた。阻止の魔法を使ったのだろう。時間にして、僅か1秒。
しかし、それが全ての明暗を分ける。
出来た1秒の隙に、オルガさん姉妹が彼女たちの射程距離まで滑り込む。
「おまえ如きが……!」
「あの子の光を真似できると思うな!!」
「「おらあああああああああああっ!!!!」」
2人の声が重なり、彼女たちの武器が振るわれる。
それは、タルトさんさんの一撃とぶつかり合い。
その軌道を上空へとねじ曲げた。
圧縮された魔力の塊は空へと駆け上がり、結界の天井を次々と突き破る。
圧倒的な破壊力と貫通力で、鏡層を下から次々と破壊していき、ついには第1鏡層まで続く大穴を結界に空ける。
オルガさんとガンヒルトさんは、武器が木っ端微塵に砕け、彼女たちの腕も折れ曲がっていた。
けど。
それは、タルトさんも同じ事。
「時女一心流……、奥義!!」
その隙を逃すまいと、ジリッと地面を踏み込み、時女さんが飛び込む。
「旋風鎌鼬!!!」
彼女の剣戟は、胸部を庇ったタルトさんの籠手を破壊し、鎧に亀裂を入れる。
次は私の番だ。
狙うは彼女のソウルジェム。
「ティロ・フィナーレ!!!」
狙いを澄まし、撃鉄を落とす。
放たれた砲弾は、空気を切り裂き、タルトさんへと一直線に飛ぶ。
そして、砲弾は彼女の胸部を破壊する。
「これで、終わりよ!!」
私は砲弾にかけた魔法を発動する。
彼女を命中した砲弾は赤いリボンへと変化し、着弾場所を基点に彼女を拘束する。
「時女さん、お願い!」
「ええ! 任せて!!」
タルトさんの後ろには、既に時女さんが待機してる。
これで、王手だ。
「時女一心流……! 三尺蹴詰ノ印落とし!!!」
彼女の振るった、流麗な弧を描く太刀筋はタルトさんを正確に捉え……。
その首を、綺麗に切り落とした。
血の代わりに、桃色の魔力が飛び散り、彼女の姿は崩れ落ちていった。
オルガさん、ガンヒルトさん、時女さん、そして私。
全員が同時に倒れ込む。
限界に限界を超え、ギリギリのギリギリで、ついに私たちは勝利をもぎ取った。
DAY.95 Side HA
迫る熱線を、私は身を捩って回避する。
すると、息をつく暇もなく、次は上から杭を持った多数の巨腕が振り下ろされる。
時間停止が使えないことに歯噛みしながら、それらを避ける。腕を避けきったところで、持っていた拳銃を振り下ろされた腕に撃ち込む。
しかし、効果はさして無く。その腕が暴れ回るだけに終わる。
(くっ……! やっぱり、私じゃ……)
力不足。
その言葉が重くのしかかる。
他の魔法少女のように固有の武器はなく、唯一といっていいこの盾からも、既に時間停止の魔法を発動する力は失われている。残されているのは、四次元空間と化した収納機能だけ。そこに入っている武器も、ゴルフクラブやバット、自作の爆弾など。持っている銃火器は、ほとんどがさなが調達してきてくれたものだ。それらも、目の前の魔女たちには決定打にはならない。
そして、身体能力だって特別優れてはいない。
この戦場で、私は明らかに実力が足りていない。
まどかを救うために何度も同じ時間を繰り返し、強くなったつもりだった。
魔法少女になりたての頃は使い魔にも苦戦していたのに、気づけば魔女1体を相手取ることも容易くなっていた。
けれど、それは事前知識と時間停止、そして相棒の魔法少女の未来視があってこそだった。
全てがない今の私では、魔女1体に有効打を与えることすら満足にできなかった。
「ハァ、ハァ、ハァ」
魔女の攻撃を躱し続けるのも、段々としんどくなってきた。
私とひめなが相手取る魔女2体は、相性を考えて配置されたのだろう。
後ろにいる、地獄の門にぶら下がっているような魔女。仮に獄門の魔女と呼ばなら、あの魔女は砲台のように口から熱線を連射してきている。
対して、前方に陣取っている多数の腕で構成された魔女。気難しい批評家のように、杭で破壊しようとしてくる様子から批評家の魔女と呼ばせてもらえば、その魔女の近・中距離を手広くカバーし、文字通り手数の多い魔女に、私たちは攻めに出ることが出来ないでいた。
一緒にこの鏡層へ来た千鶴という魔法少女は、1体のコピーと戦闘中である。
彼女が露と呼んだ魔法少女。そのコピーと彼女の戦いは拮抗していた。実力自体は千鶴のほうが上そうだが、私たちの相手している魔女たちが、露のコピーの援護もしているのだ。そのせいで、千鶴も攻めきれない様子だった。
自分が任された魔女すら満足に足止めできない事実に腹が立つ。
(せめてこの均衡を破らないと……。でなければ、私は……!)
私は狙いを獄門の魔女に定め、強引に突っ込む。
魔女から飛んでくる熱線を避けつつ、今持ってる銃の中で一番威力の高いリボルバーを構え、魔女を狙う。
それがいけなかった。
「ほむりん!」
ひめなの声が聞こえた直後、私の足が何者かに払われる。
「っ!?」
足下を見れば、批評家の魔女の手が私の足を指で引っかけたのだ。
直後、光と熱が私に迫る。
「くっ!」
私は咄嗟に盾を構え、獄門の魔女の熱線を防ぐ。
しかし、転んだ姿勢では踏ん張りが効かず、しかも魔女の熱線の威力は私の予想を超えていた。
「ああっ!」
思い切り後ろへ飛ばされ、地面を転がる。
「あっ、あああああああっ! ぐぅぅっ……!」
熱線を盾で受けた衝撃で、左肩が外れる。激痛が走る肩を押さえ、痛覚を遮断していると……。
「あっ……」
次の熱線が、私に向けられていた。
「させるかっつーの!」
突如、私の視界が、目の前に現れた壁に覆われる。
それが、リボンで出来た壁だと気づくのに数秒かかった。
「ほむりん! 大丈夫!?」
駆け寄ってきたのはひめなだった。
「この壁、あなたが作ったの……?」
「そだよ! 私チャンにマミりんの魔法を合成すれば、ホラ!この通り」
ひめなは手からシュルシュルとリボンを生み出す。
「そう……。さすがね」
自然と声が暗くなり、ぶっきらぼうな返事になってしまう。
彼女の魔法の有用性を見せつけられているようで、能力のない自分が余計に惨めに感じる。
ひめなには何も非はないというのに。
(こんなのだから、私は……)
「ねえ、ほむりん」
ひめなが私を呼ぶ。
「……なにかしら?」
「大丈夫? 肩、ヤバそうだけど……」
「え、ええ、大丈夫よ。痛覚は鈍らせてるし……」
私は呼吸を整え、覚悟を決めると、肩の骨を無理やり戻す。
「――っ!」
ボキリと鈍い音と共に、腕が動くようになる。
一方のひめなは、怪我もしてないのに、痛そうに顔を顰める。
「イッタ~……。明らかに痛い音したんだけど、ホントに大丈夫?」
「大丈夫だと言ったでしょ。それに、あなたは痛くないでしょう?」
「見てて痛いんだって」
ひめなはヤレヤレと言った感じで言う。
「言ってくれれば、私チャンが治したのに。ほむりんはもっと自分を大事にしなよ」
なんてことない、私を心配する言葉。なのに、私の心はざわつく。
「……あなたには関係ないことよ」
「いやいや、関係ありまくりだって。私チャンたち、友達でしょ?」
ひめなは胸に手を当てる。
「友達なんだから、もっと頼ってよ!」
その言葉に、心が揺らいだ。
「それが嫌なのよ!」
反射的に大声を出してしまう。
「なんで皆、頼んでもないのに手を貸してくれるのよ! まばゆも、凜も! 魔法の使えない私の代わりにグリーフシードを集めるなんてこと、しないでよ! 私は、守られる存在じゃないのよ!」
声と共に吹き出した感情は、余計なことも口走らせる。
私は弱い。それこそ、1人では魔女にも満足に勝てないほど。
けど、身体の維持にも魔力は使うから、グリーフシードによる浄化は必須だ。
時間停止の魔法を失ってグリーフシードの調達も満足に出来なくなった私に、それでも皆は嫌な顔もせずに、私の代わりに魔女と戦い、グリーフシードを譲ってくれる。
そんなことしなくていい、と断る度に、皆が口を揃えて言う。
気にしなくていい。私がやりたくてやっていることだから、と。
そう言って笑う凜の顔が。私にグリーフシードを渡すまばゆの手の温もりが。全てが、私には直視できないほど眩しい。
まどかを守れる存在になりたくて魔法少女になった私。けれど、その願いは私1人では叶えられなくて。まばゆと、凜と。そして皆の協力があって、ワルプルギスの夜を越えられた。
そして、あの夜を超えた私に残されたのは、守られないと生きていけない私。
「私だって戦える! 誰かを守るために戦えるのよ!」
まどかと初めて会った時間でも。巴さんが錯乱して殺されそうになった時も。魔女に拘束されて、まばゆに庇われたときも。そして、ワルプルギスの夜に挑む度。
私はたくさんの人に守られてばかりだった。
「ここで凜のことを助けられない私なら! 傷つく友達一人守れない私なら! 私は、私は……」
胸を過ぎるのは、まどかがくれた言葉。
――ほむらちゃんも格好よくなっちゃえばいいんだよ!
「胸を張って、まどかの側にいられない!」
たどり着いたこの理想の時間軸で、私はまどかと関わらないようにするつもりだった。
でも、まばゆと凜がそれを許さなかった。まどかと仲良くして、これからも友達でいるように、なんて言われてしまった。
まどかも美樹さやかも、ワルプルギスの夜を越えた後も私を拒絶しなかった。
ただ、ある日まどかに言われたのだ。
「私のことを守ってくれるのは嬉しいけど、もっとほむらちゃんのことを優先していいんだよ?」
「そんなの、まどか以外にいないわ」
「アハハ……。でも、本当に? まばゆさんと凜さんは?」
「彼女たちは……」
答えられなかった。
友達、と私が呼んでいいのだろうか。助けられてばかりで、何も返せていない私が。
思えば、まばゆも凜も、私の都合に一方的に付き合ってもらったようなものだ。2人にとって、私を手伝うメリットなんて何もなかったはずなのに。それでも、助けたいから、という好意だけを理由に、私は彼女たちに助けてもらい続けた。いや、助けてもらい続けている。
「ほむらちゃん」
「……なにかしら?」
「ほむらちゃんは優しい子だからさ。その優しさを、私以外にも向けてほしいな。そうすれば、きっとほむらちゃんが素敵な子なんだって、もっと色んな人に知ってもらえると思うんだ」
「私は、まどか以外になんて……」
「できるよ、ほむらちゃんなら。ほむらちゃんが誰かに優しくした分だけ、きっと世界は少し良くなるし。そうなったら私も嬉しいなって、そう思うんだ」
ね、とまどかは笑った。
「ほむらちゃんの1人の友達としてのお願い」
そのお願いに、私は答えられなかった。
私は怖かったのかもしれない。今さら、まどかの友達を名乗れるのか。そんな自分を、自分が許せるのか。
だから、今回の戦いはそれを吹っ切るチャンスだと思ってた。私も、誰かを守れることを証明することの。私がまだ、まどか以外にも優しさを向けられる『人』であることを証明するための。
友達1人助けられないのなら、私はまどかに友達と言ってもらう資格も、彼女を守るなんてことを口走ることすら許されない。
まどかなら、きっと困っている友達を見捨てない。絶対に救おうとするはず。
なのに、私が友達を見捨てて、救えなければ。どの面を下げて、彼女に会えるというのだ。
「私はもう、あの頃の私じゃない……! まどかを守る私になるって約束したんだもの。彼女が悲しむことは全部防いでみせる。それが、私を友達と呼んでくれたあの子への、私が唯一できることだもの……!」
ここまで言って、ハッとする。
目の前のひめなは困惑した様子だった。当然だろう。ひめなは私の事情なんて知らない。彼女からしたら、私が錯乱したように映ったかもしれない。
「……ごめんなさい。冷静じゃなかったわ」
私はバツが悪くなって、彼女から顔を背ける。
「なんで謝るの?」
彼女が放った言葉に、私は思わず彼女のほうを向く。
彼女は不思議そうな顔で私を見つめていた。
「むしろ嬉しかったよ? あー、ほむりんもこんなに感情出すんだって。新しい顔見れたって感じ?」
「でも……、あなたは私の事情を知らないでしょう?」
「それはそう。でも、その『まどか』ちゃんって子が、ほむりんの大事な人なんだってことは分かったよ」
すごいなー、とひめなが言う。
「すごい? なにが?」
「だって、大事な人を守るために魔法少女になったってことでしょ? それでゆーりんを救うために動けるんだから。ほむりんは強いよ。マジリスペクト」
「1人では魔女も倒せないわよ?」
「そーゆー意味じゃないって」
ひめなは指を2本立てる。
「私チャンだったら、ヒコ君と親友のどっちか選ばなきゃいけないって言われたら、ヒコ君しか選べない。ほむりんみたいにどっちも守れる自信ないし……。ほら、私チャンって、ヒコ君のこと守れなかったクソ雑魚だし」
自嘲するように笑うひめな。
「だからね。私チャン、ほむりんのこと、もっと好きになったかも」
そう言って、よし、とひめなが立ち上がる。
「それじゃ、ボチボチ反撃しちゃおうかなー。さすがにこれ以上、ちづりん1人に任せてはられないし」
なら私も、と立ち上がろうとすると、ひめなが手で制してくる。
「ほむりんはここにいて。まずは私チャンが魔女を引きつける」
「納得するとでも? 危険すぎる」
「心配あざお☆ でも、大丈夫。ヒコ君が作戦考えてくれたから。ほむりんはこの状況を崩せるジョーカーになるって言ってる」
「私が?」
ひめなは、私にも彼女の彼氏さんが立てたという作戦を聞かせてくれた。
「だから、まずは魔女の注意私チャンに向かせて、ほむりんが自由に動けるようにするってわけ!」
「それにはまず、魔女を2体も相手するのよ。できるの?」
私を安心させるように、ひめなはニヤッと不敵に笑う。
「バッチシ! 私チャンにも切り札あるから!」
ひめなはグリーフシードを指で挟みながら、ウインクする。
「
そう言うと、ひめなはリボンの防壁から飛び出す。
壁から出てきたひめなに、獄門の魔女が狙いを定める。
そして、チャージした熱線をひめなに放ち……。
「ヴィオラ・ファンタズマ!!」
熱線は、
「分身!?」
驚愕で目を見開く私を尻目に、ひめなは獄門の魔女に突っ込んでいく。
「「「どれが本物の私チャンか当ててみろ!」」」
3体に分身したひめなは、獄門の魔女に迫る。
獄門の魔女は薙ぎ払うように熱線を放ち、2体の分身を消し飛ばす。
しかし、最後の1体、つまり本物のひめなはそこにいなかった。
「こっちだっつーの!」
リボンで獄門の魔女の上に移動していたひめな本体が、獄門の魔女に一撃を叩き込む。
獄門の魔女は再び熱線を放つも、ひめなはリボンを使って回避。
リボンを批評家の魔女に巻きつけ、今度は批評家の魔女に向かっていく。
批評家の魔女はそれを迎撃するべく、その多腕を振り上げる。
そして、それは次々と振り下ろされ……。
「っ!? 消えた!?」
今度は、ひめなの姿が消える。
魔女も、突然消えた目の前の敵に、困惑で攻撃の手が止まる。
数秒後、批評家の魔女が何者かに攻撃される。
しかし、攻撃された方向には誰もいない。混乱する魔女に、逆から攻撃が襲いかかる。
その不可視の攻撃に、魔女は翻弄されているようだった。
(違う、消えたんじゃない! 透明になってるのね! 光学迷彩を纏ったように……)
そう。ひめなは消えたわけじゃない。透明になって、魔女を攻撃しているのだ。
というより。
(この能力って、私たちの?)
私の考えが伝わったようなタイミングで、ひめながテレパシーで話しかけてくる。
『どうよ? みんなの力、こっそり拝借してたんだ~』
『……抜け目ないわね。というか、分身はどうしたのよ?』
『きょーこりんのだよ。さっきマミりんに使い方教えてもらった』
『ああ、どうりで……』
あの感じは、巴マミっぽいとは思ったが。
『これで私チャンが魔女を引きつけるから! そっちはよろしく!』
『……ええ。分かったわ』
『早くしてね! 魔法の同時使用はメッチャ魔力使うから! あんま長期戦には向いてないの、これ』
『言われなくっても、速攻で決着させるわ』
私は、ひめなに魔女2体を任せ、千鶴のほうへと向かう。
彼女は露のコピーと戦っている。ほぼ互角の戦い。
だが、魔女の援護がなくなった今なら、付け入る隙はある。
私は盾から拳銃を取り出し、コピーに向けて撃つ。
コピーは驚いた様子だったものの、懐の小太刀を抜き、私の撃った銃弾を弾く。
「っ!? お前……」
驚く千鶴の横に立ち、私はテレパシーでひめなの作戦を伝える。
「……というわけよ。できるかしら?」
千鶴はというと、好戦的な笑みで答えてくる。
「ったりめーだろ。泰党の力、舐めてもらっちゃ困る」
ただ、と彼女の声のトーンが下がる。
「露のトドメは、アタシに譲ってくんないか?」
そう呟く彼女の目には、少しの憂いが混じっているように見えて。私はあえてこう答えることにした。
「……確約はできないわね。私も手加減ができるほど、強くも余裕もないのよ」
――ほむらちゃんにしか頼めないこと、お願いしてもいいかな……?
――私、魔女にはなりたくない……。
――ごめんね。
思い出されるのは昔の記憶。
かつて交わした、あの子との約束。
「大事な人への想いなら、自分で守りなさい。例え相手が、偽物でも」
「……そうだな。悪い、弱気になった」
「いけそう?」
「ああ。任せろ!」
彼女のその言葉を合図に、私たちは露のコピーへと攻撃を仕掛ける。
「はあっ!!」
千鶴の鎖が宙を舞い、蛇のようにコピーに襲いかかる。
コピーは、それを刀で弾く。が、千鶴は弾かれることを読んでいたのか、鎖を手元へと戻しながら、鎌で斬りかかる。
コピーと千鶴がぶつかり合い、2人の魔力の衝突が衝撃波となって周りに広がる。
その隙に、私はコピーの後ろに回り込む。
(まずは、このコピーを片付けて千鶴をフリーにする! 魔女が相手なら相性悪くても、人型なら……!)
ひめなに言われたのは、私がコピーを相手するという作戦。
『ヒコ君が言ってたんだけど、ほむりんは装備の特性上、コピー相手のほうが相性がいいんだって。魔女には効きづらい銃火器も、コピー相手なら十分有効打になり得る可能性はあるって』
私は先の作戦の仕掛けをしながら、チャンスを窺う。
そして、千鶴が飛び退いたタイミングで拳銃を構え、コピーに突っ込む。
弾は肩付近に1発命中。けど、鎧に弾かれて有効打にはならず。残りは全部刀で弾を切られる。
弾倉に入った15発全てを撃ちきり、私はその拳銃を投げ捨て、代わりに金属バットを取り出す。
魔力を付与して通常のバットより強化したそれで、私はコピーに殴りかかる。
「うあああっ!!」
私の一振りを、コピーは焦ることなく、刀の一振りで応戦。次の瞬間には、金属バットは輪切りの大根のような綺麗な断面を残し、大部分は私の後ろへと転がっていく。
「くっ……!」
次の武器を構える前に、コピーがすぐ目の前まで迫る。
そんなコピーを阻止するように、地面スレスレを鎖が進み、コピーへと迫撃を行う。
コピーは私への攻撃を中断し、空へと跳び上がり、それを避ける。しかし、千鶴は鎖を巧みに操り、鎖を跳ね上げさせる。
「逃がすかよ!」
空中で避ける術を失ったコピーに、鎖が命中。コピーは体勢を崩して地面へと落下する。
それでも、なんとか身体を捻り、着地しようとするコピーの足下に、私は盾から取り出した『ソレ』を投げつける。
「千鶴! 目と耳を塞ぎなさい!!」
「っ!」
その直後、コピーの足下でフラッシュバンが炸裂。
辺りを激しい閃光と音が支配する。しかし、それも一瞬のこと。
私は耳から手を離し、目を開けながらテレパシーを千鶴に飛ばす。
『今よ!!』
言いながら、私は取り出したもう1丁の拳銃で、コピーの足を撃ち抜く。
今度は防がれることなく、無事に弾は彼女の足を貫く。
膝をつくコピー。
その真上には、紅蓮の影。
「これで終わりだ……! 露を愚弄した罪、地獄で裁いてもらいな!!」
炎を纏った鎖鎌を振るう千鶴。その鎖鎌は、音速を超えているのでは、と思うほどの速度で幾度も地を走り、周りの地面ごと露のコピーを切り裂いた。
千鶴は着地すると、消滅するコピーに祈るように目を閉じる。
コピーが消滅したのを確認すると、千鶴は地面に走った切れ込みを確認する。
「よし、下ごしらえはこんなもんだろ。次はひめなの援護だな」
「ええ」
私たちはひめなが戦う場所へと急いで移動する。
(作戦第2段階。ここで魔女たちも、凜たちへの合流も一気に済ませる!)
「ひめな! こっちは準備できたわよ!」
私が呼ぶと、ほとんど転がるような形でひめながやって来る。
「あなた、ケガが……!」
頬から血を流す彼女は、それを拭いながら笑顔で応じる。
「ヘーキ! それより、ほむりんはいける!?」
「当然よ!」
私は持っていたグリーフシードを、彼女のソウルジェムに押し当てる。
「あっ……」
「魔力は回復させときなさい。この後、保たないわよ」
「よかったの? ほむりんだって、それが最後でしょ?」
「死なれるよりはマシだわ」
「あざお☆ ほむりんマジ神」
魔女たちがひめなを狙って向かってくる。
獄門の魔女の熱線を避けながら、私たちは先ほど、千鶴が地面に切れ込みを入れたところまで走る。
先に追いついてきた批評家の魔女を相手取っていると、千鶴によって獄門の魔女がこちらまで飛ばされてくる。
「今だ!」
千鶴の声に、私はひめなの手を握る。
「いくわよ!」
「「コネクト!!」」
私は盾を回し、時を止める。
それと同時に魔女を取り囲むように、盾から取り出した爆弾を地面へと置いていく。
(停止時間、あと5秒!)
さっきコピーとの戦闘中に設置したものを合わせると、あと2つ設置すれば……!
(3、2、1……!)
最後の1個を地面に置く。
(間に合った!)
直後、時間停止の魔法が解ける。
私とひめなは爆発に巻き込まれないよう、そこから飛び退き、地面へと伏せる。
すると、1拍遅れて爆弾が炸裂する。
予定通り、切れ込みの計算された場所に置かれた爆弾は、魔女にダメージを与えると同時に、地面の亀裂を大きくする。
そして……。
ドォン、と一際大きな音の後、床が抜けた。
私たちは直下の鏡層、つまり最下層の第36鏡層へと落下する。
(待ってなさい、まばゆ、凜! 今いくわよ!)
DAY.95 Side MA
(あれ……。私、どうして……)
鈍い痛みの後、私はうっすらと目を開けます。
ぼんやりと漂っていた意識が徐々に輪郭を取り戻していきます。
(たしか、鏡の魔女と戦っていて……)
記憶を辿り、今の状況を把握しようとして、思い出しました。
(そうだ! 凜さん! たしか魔女の攻撃で一緒に飛ばされて……)
出血が酷かった凜さんを思い出し、私は彼女を探すために立ち上がろうとしました。
『まばゆ、動かないで』
そんな私の頭に響く、凜さんの声。
凜さんがテレパシーで話しかけてきました。
『凜さん!? 無事なんですか?』
『なんとかね……。とにかく、そこを動かないで。気を失ったフリをしてて』
『ど、どうして……』
『魔女を刺激しないため。今、魔女は鏡の調整をしてる。私たちが気を失ってたおかげで命拾いしたよ』
私はそっと顔を動かして、魔女のほうを見ます。
たしかに、魔女はサルベーション・ブルーム用の鏡を慎重な手つきで調整をしており、私たちのことなど捨て置いているような様子でした。
『私たちが脅威じゃないと判断したのか、必要以上の攻撃を私たちにしないよう、みことちゃんが暗示かけてくれてたのか。それは分かんないけど、とりあえず気絶中に追撃されて殺されなくてよかったよ』
『でも、これからどうします?』
そこなんだよね、と凜さんの声が小さくなります。
『1つ、私の想定外があった。鏡の魔女が展開してるあのバリア。多分、あれがある限り、向こう側に繋がった鏡の鏡面を魔女に触れさせても、サルベーション・ブルームは引き起こせないと思う』
『そんな……!』
『まずはあのバリアを突破しないといけないんだけど……。それと、もう1つ悪いニュース。私、ちょっと強化状態を使い過ぎちゃったみたい。多分もう、使えない。使えたとしても数十秒が限界だと思う』
『使い過ぎちゃったって……。か、身体は大丈夫なんですか!?』
『ギリギリ。身体中、メッチャ痛いけど』
それを大丈夫とは言いません、と言いたかったですが、今はそんなやり取りをしてる時間すら惜しいと、グッと堪えます。
『……これ終わったら絶対安静にしててくださいね。それで、どうします? このまま何もしなかったら、魔女はあの鏡を外に出しちゃいますよ』
『……1つだけ、作戦がある』
凜さんは重たい声で言いました。
『果てなしのミラーズの鏡ってね、2枚1対なの。どんな鏡でもそう。1枚の鏡には、必ずそれに対応するもう1枚が存在してる。だから、それを使う』
『使うって、どんな風に?』
『バリアを打ち破るのに。あのバリアだって魔女の力で生み出されたもの。向こう側からやって来る炎が魔女を焼き尽くす性質のものなら、必ずバリアにも効くはず。それでバリアを壊した後、本体を鏡に触れさせ、炎で焼く。これしか勝ち目がない』
凜さんの話を聞いて納得します。
たしかにそれなら、あの固すぎるバリアも突破出来るでしょう。
ただ……。
『最初の爆発をどう起こします? あのバリアがある限り、鏡の魔女に鏡を近づけても、炎は出てこないんですよね?』
『それなんだよ。2回目は鏡の魔女に触れさせて起こすとしても、1回目をどうするか……。それと、そもそも対の鏡を探すにはまばゆの未来視使わないと無理だけど、次私たちが動いたら、今度こそ魔女がトドメを刺しにくる。だから、なんとか未来視を使える隙も作らないと……』
障害があまりにも多すぎます。
(やっぱり、私たちだけじゃ……)
そんな弱気な考えが頭を過ぎったときでした。
真上で、轟音が響きます。
(な、なんです!?)
何かが軋むような、破断するような音。
私は思わず上を見上げます。
すると……。
「きゃああああああっ! 高い高い高い! こんなの聞いてないーー!!」
「落ち着きなさい! あなたリボンも出せるし、羽衣も操れるでしょ! 落下速度落とさなきゃ、私たち3人とも潰れたトマトよ!!」
「やだああああああ!! ヒコ君助けてええええ!!」
「くそっ! お前らアタシに掴まれ!」
「えええええええっ!?」
落ちてきたのは、上層で戦っていたはずの魔女2体とほむらさんたちでした。
DAY.95 Side YN
「はあっ!!」
魔女に私の槍が突き刺さる。
魔女は藻掻きながらも、私に拳を振り下ろす。
それをもう一本の槍で逸らし、カウンターで切り上げる。
さすがの魔女も焦っているようだった。
(それもそうね。この魔女さえ倒せれば、サルベーション・ブルームを引き起こせるのは本体だけになる。逆に言えば、コイツを倒さない限り、本体を倒せても起爆される!)
なんとか奥にある鏡も破壊したいのだが、魔女もそれだけは死守するつもりのようで、中々攻め込めない。
(鶴乃たちに格好つけてきちゃったけど、こっちもそろそろ魔力が……。早めに決着しないと、こっちが保たないわね)
魔女のレーザーを避ける。続いて伸びてくる腕を弾き、魔女に飛び込む。
一撃を入れることには成功するが、やはり致命傷にはならない。
(さすがに1人じゃ火力が足りないわね……)
「アリナ! コネクトしましょう!」
火力を補うためにも、一緒に戦っているアリナに声をかける。しかし……。
「ハァ? アリナに命令しないでほしいんですケド。 そもそも、そういうのアリナ無理だカラ」
(もう! ちょっとは協力してくれてもいいじゃない!)
私は歯噛みする。
アリナは共闘こそしてくれるものの、足並みを揃える気など更々ないらしい。
すると、アリナが続けて言う。
「火力が足りないなら、アレを利用すればいいワケ」
「アレ?」
「星が持ってる、物体同士を引き合わせる力。グラビティだヨネ」
「重力って……。まさか!」
私は下を覗き込む。
たしかにこの高さを利用した攻撃なら、私だけの力でもあの魔女を貫けるかもしれない。
(でも、この高さから落ちたら……)
当たり所が悪ければ、最悪ソウルジェムが砕けて死ぬ。
(いえ、迷ってる場合じゃないわね。凜が死地に飛び込んだのなら……。彼女を信じてあげられなかった私が、何のリスクも背負わないのは可笑しな話よね)
「……分かったわ。魔女を塔の端まで追い込むわよ! 援護は頼んだわ!」
「だから命令するなって……。ハァ、まあいいケド」
アリナの援護射撃を受けながら、私は魔女に突っ込む。
攻撃をすり抜け、わざと大ぶりに槍を振るう。
すると、魔女はそれを避けるために後ろに下がる。
(そう……。そのまま……!)
あと2~3回で落とせる範囲まで追い込める。
そう思った時だった。
「なにまどろっこしいことしてるワケ? こうすれば簡単だヨネ」
アリナの声が聞こえ、そちらを見てみれば……。
「あなた!」
魔女の守っていた鏡にあっさり近づいているアリナ。そして……。
「えい」
その鏡を蹴っ飛ばして、塔から落としたのだ。
「――っ! バカ!!」
それを見た魔女と私は、同時に塔から飛び降りる。
(下には既に魔女たちが集まってきているのよ! そんなところであの鏡を使われたら……!)
魔女1体であの威力のサルベーション・ブルーム。それがこの魔女の数で起きたら、間違いなく中央区は消し飛ぶ。
しかし、このまま落ちて鏡が割れるのは、魔女としても困るわけで。
魔女は鏡に手を伸ばす。
「させないわ!」
槍を投げ、魔女の腕を吹き飛ばす。
続けて鏡にも槍を投げるも、空中で体勢が不安定なのも災いして当たらない。
「外した……! うっ!?」
直後、魔女のレーザーで左腕を撃ち抜かれる。
(こうなったら……!)
足下に槍を生成すると、それを蹴って加速。
先を落ちる魔女にまだ動く右手で槍を突き刺す。
(このまま地面に叩きつける!)
自分が助かるかは五分五分だが、それでも……!
(凜のせいで犠牲が出るなんて、絶対にさせない!)
「はああああああああああっ!!!」
槍を押し込み、更に深く刺す。これでもう、魔女に引き抜くことは不可能だ。
すると、目の前が眩しく光り始める。
どうやら魔女がレーザーを溜めているようだった。
せめて道連れにしようというのか。
「お生憎様……! 思い通りにはさせないわよ!」
私は後ろに大量の槍を召喚する。
「あなただけじゃなく、ここに集った魔女たちも連れて行く!」
下には鏡の魔女が呼び出した魔女の、残り全てが集結している。
大規模爆発を引き起こすためだったのだろうが、それは同時に、ここで一網打尽に出来るチャンスでもあるということ。
「終わりよ……!」
私は微かに動く左手の人差し指で合図し、槍たちを一斉に降らせる。
「アブソリュート・レイン!!」
技は放った。これで相打ちになっても、向こうの戦力は全て倒しきれる。
落ちるのが先か、私が撃ち抜かれるのが先か。
ギリギリの勝負を分けたのは、1発の銃声だった。
「っ!?」
私たちの横を落ちる鏡が、銃弾によって撃ち抜かれ、鏡面がダイヤモンドダストのように舞う。
『七海さん! 横にズレて!!』
誰の声か判別する前に、私は槍を手放し、横に跳んだ。
次の瞬間、巨大なブーメランが下から飛んできて、魔女に命中する。
投げられたブーメランの速度と、魔女の落下速度、そして私が押し込んだことで更に加速した速度が駆け合わさり、魔女は真っ二つになって消滅した。
「七海さん! こっち!」
声の聞こえるほうを見れば、空中で手を広げる氷室さんの姿が。
(そういえば彼女たち、中央区が担当だったわね……!)
私は彼女に向かって飛び込む。
「お願い!」
「任せて……! うらら!」
私を抱き止めた氷室さんと一緒に落下する。それを受け止めたのは、巨大な糸のネットだった。
「助かったわ、氷室さん」
「お礼はうららに。後はサーシャが足止めしてる魔女にあれが当たれば……」
氷室さんの言葉に続くように、私の放った槍の雨が塔の下にいた魔女たちに降り注ぐ。
私のほぼ全魔力を込めた一撃は、数百の槍となって降り注ぎ、魔女たちを穿つ。
「私たちの、勝ち」
氷室さんのその宣言によって、株分けの魔女攻略戦は私たちの勝利に終わった。
廻天の予告、ついに来ましたねー。
新キャラの名前とCVも公開されて、ようやく公開が近づいてきた実感が沸いてきました。
というか、新キャラの紫丁香ちゃん! 緑の髪にCV:若山詩音さんって、それヘルカちゃん……。遠い親戚かな?(ガバガバ考察)
それと、今回長くなりすぎたので1話を前後編に分けました。
後編は明日か明後日に投降します。