魔法少女まどか☆マギカ 実績『朝焼けのエンドロール』獲得   作:くろしゅー

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(廻天2回目をキメてきたので)初投稿です。



DAY.135-2 夢の痣はまだ紅い

 

 

 

 

 DAY.?? Side RY

 

 

「じゃ、戻ろっか」

 

 ハンカチを仕舞ったふうかさんがそう言い、私も頷く。

 

 

 

 その時だった。

 

 

「「――っ!?」」

 

 私とふうかさん。弾かれたように同じ方向を見る。

 

 理由はきっと、同じものを感じ取ったから。

 

「これ、魔女の気配……!」

 

 私の呟きに、ふうかさんも頷く。

 

「うん。……って、待って。あっちの方角って――」

「ふうか!」

 

 すみれさんが走ってくる。

 

 どうやらやちよ先輩たちも気づいたようだったが、すみれさんとふうかさんは妙に慌てていた。

 

「ねえ、ふうか。あっちって……!」

「うん、多分そう……」

「あ、あの、あっちに何があるんですか?」

 

 私の問いに、ふうかさんは冷や汗を流しながら答えた。

 

「あたしが無気力化した魔法少女を匿っている拠点があるの」

「それって……!」

「うん。多分、その拠点に結界を張られた。ただでさえ、穢れが限界の彼女たちが魔女の瘴気に当てられたら……」

 

 

「一斉に魔女化する」

 

 

 そう聞いた瞬間、私は何かを考える前に走り出していた。

 

「あ、ちょっと!」

 

 手を伸ばすふうかさんを置き去りに、私は魔女の気配を探る。

 

 魔力で大体の場所を把握しながら走っていると、鞭を使ってふうかさんが追いついてくる。

 

「こっち! 屋根、走ったほうが速い」

 

 ふうかさんに促されるまま、民家の屋根に登り、ふうかさんの後を追いかける。

 

「他のみかづき荘の人たちは、すみれに道案内を任せてきたから」

 

 ふうかさんは少し呆れの混じった笑顔を私に向ける。

 

「キミ、意外と口より行動のほうが速いタイプだね。あたしと同じだ」

「そ、そうですかね?」

 

 自分ではそんな風に思っていたけど、たしかにそうかもしれない。

 今だって言葉より先に身体が動いた。やちよ先輩たちを置いてきてしまったのが、その証拠だ。

 

 そんなことを思っていると、ふうかさんが下の道を指す。

 

「ここを降りて。あとは真っ直ぐ」

 

 ふうかさんを追って屋根を降り、1本道を走る。

 

 すると、目の前に1軒の家が見えてきた。そして、そこから感じる魔女の気配。

 

「遅かった……! もう結界を張られている」

「いきましょう! 誰も犠牲になんかさせない!」

 

 私は一切減速することなく、結界の入り口に飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 結界内に入った私は、すぐさま魔力探知で魔法少女の魔力を探す。

 

(1、2、3……。とりあえず3人反応がある。あとは……)

 

「10人」

「え……?」

「ここにいた人たちの数。聞かずに突っ込んじゃったでしょ?」

 

 いつの間にか後ろに立っていたふうかさんに告げられる。

 どうやら、私が思い立ったことはお見通しだったようだ。

 

「ありがとうございます……」

「いいよ。こっちこそ、ごめん。みんなの写真とかあれば分かりやすかっただろうけど……」

「いえ。人数だけでも分かれば……!」

 

 すると、結界内にやちよ先輩たちも入ってくる。

 

「凜!!」

「やちよ先輩!」

 

 後ろには他の皆もいた。

 

 みふゆ先輩、鶴乃先輩、ももこ先輩、メル。そして、すみれさん。

 

「え、すみれ……!?」

 

 ふうかさんは驚いたように駆け寄る。

 

「なんで結界の中に? っ、どうして連れてきたの!?」

 

 ふうかさんは、すみれさんの横にいるももこ先輩に掴みかかる勢いで近寄る。

 

 それに対し、ももこ先輩は怖じ気づくことなく答える。

 

「当然だろ? すみれはアタシたちのブレーンで、最終兵器なんだから」

「でも……!」

「すみれはキミが思うほど弱くない。だろ? すみれ」

 

 ももこ先輩の呼びかけに、すみれさんは頷く。

 

「はい……! ふうか、私は大丈夫だから」

「……もう!」

 

 ひとまずふうかさんも引き下がったようなので、私は今の状況をやちよ先輩たちに共有する。

 

 

 

 

「……なるほど。ここにいたのは10人。どの子も無気力状態で、穢れが溜まりやすくなっている、と」

「うん。特に魔女の結界の中は穢れが溜まりやすいだろうから」

「とりあえず3人の魔力反応は見つけました」

 

 ふうかさんと私の言葉を聞いて、やちよ先輩は「……よし」と何かを決めたように頷く。

 

 

「ここからは手分けして動くわよ」

「具体的にはどうするんです?」

 

 みふゆ先輩の質問にやちよ先輩が答える。

 

「日暮さんは魔法少女を見つけて、魔法をかけ直して。ももこは日暮さんを魔法で支援。鶴乃とみふゆは散ってる魔法少女たちをここに集めて、すぐに日暮さんが魔法をかけられるように。私とメルは魔女を倒す」

「私はどうしたら?」

 

 私の問いにやちよ先輩は答える。

 

「凜はすみれと眠っている魔法少女の護衛よ」

「……分かりました」

 

 本当は自分も戦いたいと言いたかった。みんなだけを危ない目には遭わせたくなかった。

 けど、すみれさんたちが危険なのも事実で、私は言葉を飲み込む。

 

 私が頷いたのを確認すると、やちよ先輩が号令を飛ばした。

 

「それじゃあ、各自解散!」

 

 

 

 

 

 

 そこから、私はすみれさんたちを守りながら待機していると、鶴乃先輩とみふゆ先輩が数人の魔法少女を抱えて戻ってきた。

 

 鶴乃先輩たちが向かった方向にいた魔法少女は、これで全員だったらしい。

 

 

 しかし、既に魔法が切れかかっていたのか、魔法少女たちは次々と目を覚まそうとしてしまっていた。

 

 みふゆ先輩が幻惑魔法で眠らせているものの、とても追いついていない。このままではみふゆ先輩の魔力が尽きてしまうのが先だ。

 

「頑張って、みふゆ!」

「任せてください!」

 

 そう答えるみふゆ先輩の顔は、すでに苦しそうだった。

 

(ど、どうしよう……! なにか、なにか私にもできることはない? このままじゃ……!)

 

 

 そこへ、こちらに走ってくる足音が2つ。

 

「おーい! 戻ったぞ!」

 

 その声とともに、ももこ先輩がやって来る。その後ろにはふうかさん。2人とも魔法少女を抱えていた。

 

 ふうかさんは横になっている魔法少女を見る。

 

「うん……。これで全員。私たちが見つけた魔法少女は魔女の境界を出したから、しばらくは大丈夫だと思う」

「それで、こっちはどんな状況だ?」

 

 ももこ先輩の問いに、鶴乃先輩が答える。

 

「それが、みんな一斉に目を覚ましそうになっちゃって。みふゆが魔法で抑えてるんだけど、全然追いつかなくて……!」

「マジか……」

「もしかしたら、前にかけた魔法が弱かったのかも……。すぐにかけ直す……!」

 

 ふうかさんは、手前にいる魔法少女に手をかざす。

 

「おい、さすがにこの人数は……!」

 

 ももこ先輩が難色を示すが、ふうかさんは振り返らず答える。

 

「これ以上、死なせるわけにはいかない……! 私を信じてくれた人たちのためにも……!」

 

 ふうかさんは私たちをチラッと見ると、魔法をかける作業に戻る。

 

「また『激励』をお願い……!」

「ああもう! 任せろ! 魔女の境界を引っ込めさせるんだろ!」

「うん」

 

(引っ込める……)

 

 ももこ先輩の言葉が引っかかり、必死に頭を回す。

 

(あっ……)

 

 私の中で、アイデアが弾ける。

 

「ももこ先輩!」

「凜?」

「魔女の境界が出たら、私にも『激励』の魔法をお願いします!」

「はぁ!? ちょっと待て! どういうことだよ!?」

 

 すると、魔法少女のソウルジェムから魔女の境界が飛び出す。

 

「説明は後で! とにかく魔法を!」

「ふうかといい、説明が足りないっての! ほら!」

 

 ももこ先輩の魔法を受けた私は、ふうかさんが魔法をかけているソウルジェムに手をかざす。

 

「ふうかさん。ここからは私に任せてくれませんか?」

「キミ、なにを……?」

「見ててください」

 

 私は魔女の境界を出現させたソウルジェムに、巻き戻しの魔法をかける。

 

 私ができる最大出力で魔力を注ぐと、魔女の境界は消えていき、ソウルジェムは元の輝きを取り戻した。

 

 ふうかさんが目を見開く。

 

「えっ……!? な、なにしたの!?」

 

 信じられないという顔のふうかさんに、私は説明する。

 

「私の魔法は『巻き戻し』。物質限定ですが、魔法をかけた対象の時間を巻き戻せるんです。だから、魂が固形化したソウルジェムになら干渉できるかも、と思って」

 

 ふうかさんは彼女のソウルジェムを確認する。

 

「すごい……。私の魔法で無理やり抑えこんだときと違って、ちゃんと浄化されてる。これなら、目を覚ましてもすぐ魔女化にはならないかも……!」

「けど、あくまで戻せるのはソウルジェムだけです。その人の記憶を弄ることはできないので、彼女たちを本当に絶望から救うには……」

 

 私の言葉に、ふうかさんは首を横に振る。

 

「ううん。これでも十分すぎるほど。私の魔法じゃ、魔女化を先延ばしにはできても、戻すことはできなかったから。すごい、本当にすごいよ……!」

 

 ありがとう、とふうかさんは私の手を握る。

 

「これなら、本当にすみれの理想が……!」

 

 目の端に涙を浮かべ、嬉しそうに笑うふうかさん。

 

「はなまる、あげるね」

 

 その言葉とともに、私は頭を撫でられる。

 

 

 はなまる、なんて言葉、最後に貰えたのはいつだっただろうか。

 もうずっと昔のように感じる記憶と、頭に感じる温もりが重なって、私はまた泣きそうになる。

 

 ふうかさんの声も温もりも、今の私には強すぎるくらいの優しさで。

 

 

 私は、なんだか恥ずかしくなって目と話題を逸らす。

 

「よ、喜ぶのはまだ早いです。他の魔法少女も……」

「そうだね。お願い、手を貸して」

「……もちろんです!」

 

 そうして私たちは、魔法少女たちへと魔法をかけ続けた。

 

 これ以上、誰も死なせないために。これ以上、誰も罪を背負わなくていいように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 けれど、現実は私たちの努力を嘲笑うかのように、次々と壁を用意する。

 

 

「くそっ! 魔女のほうはどうなっているんだ!」

「みんな、ごめんなさい!」

「やちよさん!? 一体なにがあったんだ!?」

 

 悔しそうに戻ってきたやちよ先輩とメル。

 

 

 

 私たちの作戦には、2つ誤算があった。

 

 1つ。結界内にいる魔法少女たちの穢れに反応し、魔女が強化されていたこと。やちよ先輩ですら攻撃を通せないほど強固になった魔女相手に、やちよ先輩たちは一時撤退。そのせいで、魔女を倒してすぐに結界から出るという作戦は出来なくなった。

 

 

 そして、もう1つは……。

 

 

「ちょっと、キミ。顔、すごく真っ青だよ? 大丈夫?」

 

 3、4人の魔法少女の穢れを取り除いたときだった。ふうかさんにそう言われ、私は初めて気づいた。

 

 ソウルジェムの異様な濁りに。

 

「グリーフシードで浄化を……!」

 

 ふうかさんが穢れを浄化してくれる。それでも、少し経てば、また急速にソウルジェムが濁る。

 

「な、なんで!?」

 

 メルは頭を抱えて叫ぶ。

 

 だが、私には心当たりがあった。

 

(この魔法の使い方、すごく魔力を使う……!)

 

 魔法少女のソウルジェムを巻き戻すというのは、とてつもない魔力を使う技だった。

 当然だ。この魔法は、本来不可逆の魔女化という現象を巻き戻すものだのだから。見方によっては、世の理に叛逆する魔法とも言える。

 

 ふうかさんが何人もの魔法少女に魔法をかけても平気そうだったので、同じ要領でいけると思っていた私が甘かった。

 

 

 けれど、魔法をかけるのを止めるわけにはいかない。ここで私が止めれば、全員がいずれ魔女になる。

 それじゃ、ふうかさんたちを救えない。

 

「ダメ、魔法をかけるのを止めて!」

 

 鶴乃先輩が叫ぶも、私は構わず魔力をソウルジェムに注ぎ続ける。見えない何かに急き立てられるように。

 

「ねえ、キミ! それ以上は危険すぎる……! キミが魔女になっちゃう!」

 

 ふうかさんに肩を揺すられる。そこまで強い力じゃないのに、ひどい眩暈のときのように視界が大きく揺らぐ。

 

 それでも、私は歯を食いしばって魔法をかける。

 

「……なら」

 

 ふうかさんが私に手を向けようとしたのに気づき、遮るように叫ぶ。

 

「ここで!!」

「っ!?」

「ここで私を眠らせたら、この人たちの魔女の境界が安定しなくなりますよ!? そしたら、一斉に魔女化して取り返しのつかないことになる!」

「でも、このまま続けたらいずれキミが犠牲に……!」

「私とすみれさんの理想、どっちが大事なんですか!!」

 

 その言葉に、ふうかさんは怯んだように動きを止める。

 

「すみれさんもそうです」

 

 私は何か言おうとしたすみれさんにも、言葉を投げる。

 

「言ってましたよね? 少数の犠牲は仕方ないって。その犠牲が私になるなら、私は喜んで受け入れます! もう一度考えてください! あなたたちの目的は!? 何を救いたくてここまで進んできたんですか!? 私のちっぽけな命を死なせないため? 違うでしょう!?」

 

 肺の酸素がなくなり、身体がバランスを崩す。

 

 倒れそうになる身体を腕で支え、魔法を使い続ける。

 

「ここで全滅か! 私1人の犠牲か! 考えるまでもないでしょう! ここにいる全員が助かるなら……。すみれさんが魔法少女にならなくても助かるなら、私は喜んで死――!」

 

 

 そこで、私の口は止まった。

 

 その先の言葉が、喉から出てこなかった。

 

 

 

 

 そう、死ぬ。

 

 このまま続ければ、私は間違いなく死ぬ。魔女になる。

 

 そんな当然で、当たり前で、私の受け入れるべき末路。

 

 

 その実感が、今になって胸にじわりと広がる。

 

 死ぬ。

 

 死ぬ。

 

 死ぬ。

 

 死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。

 

 

 

 気づけば、手が震えていた。

 

 

(死ぬの、私? せっかく自由になれたのに?)

 

 ダメだ、考えるな。

 

(やっとお父さんとお母さんから、解放されたのに?)

 

 そこに意識を向けるな。

 

(やっと、怯えなくて済むようになったのに?)

 

 それを認識しては、私の心は……。

 

(私、まだなにも――)

 

 

 

 

 

 

「夕凪さん」

 

 その声とともに、震える手を誰かに握られる。

 

 温かいその手は、すみれさんのものだった。

 

「怖いですよね」

 

 私の手を包むすみれさんの顔は、慈しみに溢れたもので。

 

「大丈夫です。あなたが犠牲になる必要はありません。私、言ったじゃないですか。死んだほうがいいって言って、投げ出さないでくださいって」

「じゃあ、どうするんですか……! もう、できることなんて――」

「あります」

 

 そう言い切るすみれさん。

 

「まさか、契約とか言わないですよね……!」

 

 私の問いに、すみれさんは「まさか」と笑う。

 

「そしたら、あなたが悲しむでしょう? それに、ふうかも」

 

 「大丈夫です」とすみれさんは私の手を強く握り、それから立ち上がる。

 

「私はみかづき荘のブレーンで、最終兵器ですから。ですよね、ももこさん?」

 

 すみれさんがそう問いかけると、ももこ先輩は一瞬呆けたあと、吹き出すように笑う。

 

「ハハハッ。ああ、そうだな。すみれの凄さはアタシが良く知ってる。魔女の攻撃をバットで打ち返したんだから」

「え、なにそれ。私、それ知らないんだけど……」

 

 ももこ先輩の発言に、ふうかさんは思わずといった風に突っ込む。

 

 私としても、ちょっと耳を疑ったけど。

 

「それで、すみれ。その顔、何か策が思いついたんだろ?」

「というより、これから分析します。なのでみなさんには……」

「すみれが魔女を分析するまで時間を稼げってことだな。任せろ!」

「はい、お願いします」

 

 ももこ先輩とすみれさんの言葉に、他の皆も頷く。

 

 それなら、と私も立ち上がろうとして、膝から崩れる。

 地面に触れる直前でふうかさんに支えられるものの、それ以上身体は動きそうになかった。

 

「凜はそこで待機だ」

 

 ももこ先輩が言う。

 

「そこで見てろ。1人じゃ出来ないことも、みんなとならできるってこと」

 

 それでさ、とももこ先輩は振り返って、ニカッと笑う。

 

「アタシらももっと頑張るからさ。もっと頼ってくれよ。みんな、凜に頼られることを待ってるんだからさ。もちろん、凜のペースが一番だけど……」

 

 ももこさんは武器を構え、背中越しに語る。

 

「これだけは忘れないでくれ。アタシたちはいつでも、凜の味方だ。凜はもう、何かを1人で抱える必要はないんだ」

 

 それだけ言うと、ももこ先輩は魔女へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 そして、彼女たちは魔女との戦いに勝利した。

 

 すみれさんの策と、みんなの信頼の絆がたぐり寄せた勝利だった。

 

 

 

 この光景を忘れなかったら、私がこの先歩む道も少し違ったかもしれない。

 

 

 けど、この世界は結局、すみれさんを許さなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう、ほとんど魔力が……」

 

 やちよ先輩の弱々しい呟きが漏れる。

 

 

 

 確かに魔女は倒せた。

 

 だが、倒すのがあと1歩、遅かった。

 魔女はグリーフシードを落とさず、眠っている魔法少女たちの穢れは限界。そして、私たちの魔力の余裕もほとんど無く、グリーフシードの予備は使い切った。

 

 完全に詰み、だった。

 

「わ、たしが、なんとか……!」

 

 私は鉛のように重い身体を引きずりながら、眠っている魔法少女たちに魔法を使おうとするも、ふうかさんに止められる。

 

「キミはもう無理……! キミだってもう……」

 

 ふうかさんの悲痛な顔を見て、私がソウルジェムに目を向ければ、その色は酷く濁っており、ほとんど元の色が分からなかった。

 

(あれれ……。思った以上に、私、限界だったのかな……)

 

「凜!!」

 

 メルが駆け寄ってくる。でも、そのメルに応えるほどの力もなくて、私はその場に倒れ込む。

 

「マズい……! キミ、しっかりして!」

 

 ふうかさんは私が限界なのを察知したのだろう。彼女は自分の魔力も気にせず、私に魔法を使おうとする。だから、私はふうかさんの手首を掴み、それを制す。

 

「ダメ、ですよ……。そんなことしたら、ふうかさんのほうが持ちません……」

「でも……!」

「……凜の言う通りだよ。ここで魔法を使ったら、あなたのほうが助からない」

 

 苦しそうにそう言ったのは、鶴乃先輩だった。

 こういうとき、鶴乃先輩は頼りになる。感情だけじゃなく、周りの状況を冷静に読み取って判断できるから。

 

「そうです、私のことは……」

「でも! 凜のことだって見捨てない!! 私、今から魔女を倒してグリーフシード取ってくるから! 凜、もう少しの辛抱だからね!」

 

 私の言葉を、鶴乃先輩はそう遮る。

 けど、それがもはや不可能な案だということは、誰もが理解できた。

 

 それでも、私は嬉しかった。

 

「なら、私も……!」

 

 鶴乃先輩に続くように、ふうかさんが腰を上げたところで。

 

 

 

「ふうか。もう、いいんだよ……」

 

 すみれさんの静かな声が、はっきりと届いた。

 

 

 

「すみれ……」

「最後にみんなで戦えた。私たちは、精一杯抗った。だから、もういいの」

 

 すみれさんは寂しそうに笑う。

 

「これが、私の罪。報いなんだよ」

 

 すみれさんから告げられた宣告に、みんな動揺した。ふうかさんは大きく目を見開いていた。

 でも、きっと一番動揺していたのは、私だったと思う。

 

「今がここぞで、そのときなんだと思う」

 

 すみれさんのその言葉で、みんな理解した。切り札にして、終わりの一手をすみれさんが切ろうとしていることに。

 

「私、数え切れないほどの嘘をつきました。だけど、みなさんのことが大好きだって気持ちは本当です」

 

 そう語るすみれさんに、やちよ先輩は悲しそうな顔を向ける。

 

「ダメよ、すみれ……。罪滅ぼしに願うなんて」

 

 しかし、そんなやちよ先輩の言葉を、すみれさんは笑顔で否定する。

 

「違いますよ、やちよさん。これが罪の報いだとしても、私は最後まで諦めません。私たちの幸せのために、ちゃんと願います」

 

 

 きっとすみれさんの言っていることは本心なのだろう。

 幸せを追い求めるための、願いなのだろう。

 

 

 

 

 

 それでも。

 

「ダメぇ!」

 

 私は力の限り叫んだ。

 

 驚いたように、すみれさんが私のほうを見る。

 

「罪なんて、おかしいです……。なんで、なんですみれさんが報いを受けるんですか!? みんなを救おうとして、その代わりに自分が報いを受けたって、誰かに認められるわけじゃない……! 褒められるわけじゃない……!」

 

 私はすみれさんへと這いずりながら、言葉を紡ぎ続ける。

 

「私は絶対認めません……! そんなの、希望なんかじゃない!」

 

 すみれさんは困ったように眉を下げる。

 

「……お気持ちは嬉しいです。でも、誰かを犠牲にし続けたのも事実。私の罪と、向き合うときが来たんですよ」

 

 そう言えてしまうすみれさんが悔しくて、私は拳を地面に叩きつける。

 

「私は! 見ず知らずの誰かより、あなたたちを救いに来たんです!! 裏で何人犠牲になってようが関係ありません! 誰かを救おうとした人の気持ちが踏みにじられるなら、私はその人の味方をします! だって、犠牲になった過去より、今、目の前のあなたのほうが大切だから!!」

 

 我ながら倫理から外れたことを言っているのは理解しているつもりだ。

 

 それでも、これが私の中で育った正義感。きっとどこかで歪んでしまった、私の中の譲れない気持ち。

 

 

 

 けれど、それを為すための力は私にはなくて。

 

 すみれさんを止めることなど、不可能だった。

 

「ありがとうございます、夕凪さん」

 

 そう言って、すみれさんはあの時のように私を抱きしめる。

 

「私とあなたは真逆ですね。多くを救うために、少数を犠牲にする私と。大勢の犠牲を肯定しても、目の前の人を救おうとするあなた」

 

 でも、とすみれさんが続ける。

 

「そう言ってくれるあなたがいるから、私は大丈夫です。そう思ってくれるあなたも、私は救いたい。あなたがくれた言葉、忘れませんから」

 

 そう微笑むと、すみれさんは私から離れていく。

 

 彼女の残した体温は、海風にさらわれ、空へと溶けていく。

 

 

 

「キュゥべえ」

 

 すみれさんの呼びかけに、キュゥべえが顔を出す。

 

「ようやく願いが決まったようだね、すみれ」

「うん」

 

 すみれさんが頷いたのを確認すると、キュゥべえは近くの柵の上に乗り、すみれさんと目線を合わせる。

 

「それじゃあ、夜明すみれ。キミはどんな祈りで魂を輝かせる?」

 

 

 すみれさんは、ふぅ、と深呼吸をすると、真一文字に結んだ口を開いた。

 

 

「キュゥべえ、お願い」

 

 

 

 

 

『私が巻き込んでしまった人たちを、絶望から救って』

 

 

 

 

 

 

 

 

 DAY.135 Side RY

 

 

 

「そ、それで!? その後、どうなったんですか!?」

 

 前のめりになって聞いてくるまばゆに苦笑いしながら、私は答える。

 

「私はその後、気を失っちゃったからね。詳しいことは覚えてないんだけど……。簡単に言えば、その出来事が『無かったことになった』」

「無かったことに……?」

「そう。あの日、豊鶴市にいたことも、すみれさんとふうかさんに関する記憶も全て。まるで、そんな出来事は初めからなかったみたいに。私が目を覚ました頃には、私を含めた全員が魔法少女の真実を忘れて、普通にみかづき荘で生活してた」

「そうだったんですか……。ん? あれ? じゃ、なんで凜さん、夜明さんと日暮さんのこと覚えているんです?」

 

 まばゆから至極当然の質問がくる。

 

 とはいえ、これに関しては私も確証があるわけじゃなく。「あくまで私の推測だけど」と前置きをして語る。

 

「彼女たちと出会ったことの全てが、私の絶望に繋がっていたわけじゃないからかな。それと、私の『巻き戻し』の魔法がすみれさんの願いに干渉したのかも。目が覚めた後、私には豊鶴市に行った記憶と、誰かと会話した記憶だけが残ってた」

 

 あの日の混乱は、今も鮮明に覚えている。

 

 豊鶴に行った記憶があっても、いつ行ったのか覚えていない。他のみんなは行ってないと言うし、私だけで出かけた記憶もなかった。誰かと会って話した記憶はあるのに、それが誰だか思い出せない。もらった言葉は覚えているのに、顔と名前が霞みがかかったように思い出せない。

 

「結局、その違和感の正体を調べる前にメルが魔女化して、それどころじゃなくなって。その違和感も、記憶の片隅に仕舞われて思い出すこともなくなってたんだけど」

 

 その時の記憶を、みことちゃんと見た夕日が、久しぶりに呼び起こした。

 

「みことちゃんと話すうちに、豊鶴のことを思い出して。それで、調べようと思ったんだ。まばゆの記憶を取り戻した方法を使ってね」

 

 まばゆの記憶の件は、ほむらから聞いていた。前の時間軸で、私が魔法の応用で記憶を取り戻したと。

 

「リヴィアさんたちに手伝ってもらって、それであの日の記憶を取り戻したってわけ」

「あ、なるほど」

 

 まばゆは納得したように、手のひらを拳で叩く。

 

 が、すぐに次の疑問が浮上したようで、再び首を傾げる。

 

「あれ? じゃあ、なんで私が呼ばれたんです? 私、部外者ですよ? 魔法少女としてはマミさんやほむらさんのほうが頼りになるんじゃ……?」

「まばゆがよかったの。ほむらは明日、まどかちゃんとお出かけだって言ってたし。マミちゃんには見滝原の縄張りをお願いしたかったし。それに……」

 

 もちろん、ただの消去法でまばゆを選んだわけじゃない。彼女にしかお願いできない理由があった。

 私は一拍置いてから伝える。

 

「まばゆの、記憶を切り取る魔法が必要になるかもしれないから」

「……あの魔法を、ですか」

「うん。まばゆがあの魔法を良く思ってないのは知ってる。けど、私の推測通りなら、多分彼女は……」

 

 これ以上、言葉を紡げば本当になってしまう気がして。私は先を言えなかった。

 

 どうか、私の推測が外れていてほしい。

 

 だって。それが本当なら、そんなのあまりに可哀想すぎるから。

 

 

 

 

 

 

 

 DAY.135 Side SY

 

 

 

(ああ、懐かしいこと思い出しちゃったなぁ……)

 

 気づけば、太陽は半分以上が水平線へと隠れていた。

 

 懐かしい思い出は、私の胸を温かくする。

 例え、この胸に残されたものが、夢の痣跡だけだとしても。

 

 

 私の願いで、ももこさんたちは私たちと出会ったことそのものを忘れた。

 

 私がみかづき荘で暮したという事実は消え、あの事件で魔女化の真実を知った魔法少女は全員、魔女化のことを忘れることになった。

 

 

 

 

 私といえば、魔法少女として、ふうかと一緒に魔女を倒す日々を送った。犠牲にしてしまった人たちのためにも、私は魔女退治に精を出した。

 

 ふうかは、一連のことを忘れたように振る舞っていた。私の魔法はふうかにも適用されたようだった。

 ふうかが罪の意識に苛まれなくて良かったと思う反面、あの日々を覚えているのは私だけだと思うと、少し寂しかった。

 

 けれど、そんな日常は長くは続かず。

 

 ある日、私たちが戦った魔女は今までの比ではないほど強く。私たちは文字通り、夜通し戦った。

 そして、魔女に勝った頃には朝日が昇り始めていた。

 

 当然、そんなに戦えば魔力が消耗は著しい。特に、私のフォローもしていたふうかのソウルジェムは、極限まで濁ってしまっていた。

 

 

 そして、朝焼けが包む街の外れで、あの子は魔女になった。

 最期に、あの日々をふうかは忘れておらず、私が忘れてほしそうだったからそう振る舞っていたという真実を打ち明けて。

 

 

 

 私は魔女になったふうかを倒そうと、何度も挑んだ。

 

 けど、ふうかの魔女は強く、私は何度も魔女を取り逃がした。

 

 

 それだけ挑んで私が殺されなかったのは、魔女の気まぐれか、ふうかが私を魔女になっても傷つけないようにしていたのか、今でも分からない。

 

 

 

 そんなことを繰り返している内に、ふうかの魔女は神浜市へと逃げてしまった。

 

 その数日後、私は人づてに最悪のニュースを聞く。

 

 

 ふうかの魔女はやちよさんたちと交戦。その末、彼女たちの仲間、メルさんが魔女化したというものだった。

 

 

 

 

 私はふうかを止められなかった。

 

 せめてこれ以上、ふうかが罪を犯さないよう、私は戻ってきたふうかに毎日挑み、遂に彼女の魔女を打倒した。

 あの日のことは、最近のことのように思うし、随分昔のようにも思う。

 

 

 

 少なくとも、私は失敗した。

 

 特にメルさんと夕凪さんには、謝っても謝りきれない。

 メルさんは夕凪さんの親友だったそうだし、私たちにあそこまで寄り添って味方しようとしてくれた夕凪さんを、あまつさえふうかの手で傷つける結果になってしまった。

 

 私は、夕凪さんに一生消えない傷をつけてしまった。それは決して赦されることのない罪。

 

 

 それでも、私は生きて、戦い続ける。

 魔法少女になると決めたとき、そう誓った。罪を清算するために魔法少女になるのではなく、その罪とともにみんなの幸せを守り続けると。

 

 

 

 その時、ソウルジェムがキラリと光る。魔女の反応だ。

 

 

(大丈夫だよ、ふうか。私はまだ戦える)

 

 

 私は亡き親友に声をかけ、ベンチから立ち上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は魔力の反応を追い、公園の周辺を捜索する。

 

(この魔力のパターン……。間違いなくあの魔女だ) 

 

 魔力パターンからして、私がずっと探していた魔女の反応だった。

 

 最近になって豊鶴市に現れたこの魔女は、今までのどんな魔女より強く、豊鶴市のベテラン魔法少女はほとんどこの魔女にやられてしまった。

 残る魔法少女は新人の子ばかり。もはやこの街に、あの魔女へ対抗できる魔法少女は私1人と言っても過言ではなかった。

 

 私も積極的に探していたのだが、向こうから避けられているのか、全く遭遇しなかった。

 前回出会えたのは、1週間ほど前のこと。その日も魔法少女が1人犠牲になり、私がたどり着いた直後には、魔女は結界ごと逃げられてしまった。

 

(ようやく見つけた……! 今度こそ、逃がさない!)

 

 私は公園近くの空き地に陣取る結界を見つける。

 どうやら逃げる気配はなく、まるで私を待ち構えるかのように、入り口が浮いてる。

 

(罠かもしれないけど、ここで引き下がれば被害は拡大する。選択肢はない……!)

 

 私は意を決して、結界に飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

 結界の中は、予想通りたくさんの使い魔がひしめいていた。

 

 そして、結界に入ってきた私を、待ち伏せしていたのように一斉に飛びかかってくる。

 

 

 でも……。

 

 

「それくらい、想定内だよ!」

 

 

 私は武器である、すみれの花に彩られた自分の背丈より巨大な釘を生みだし、地面に突き刺す。

 

 釘が地面に刺さると、それをトリガーに魔力の衝撃波が同心円状に広がり、使い魔たちを消し飛ばす。

 

 

 魔力の衝撃波群を耐えた使い魔たちがヨロヨロと立ち上がるが、その後ろに素早く回り込み、行動される前に釘で潰す。

 

 

 すると、結界の奥から更に、お腹に穴の空いた首無しマネキンのような使い魔たちが走ってくる。

 

 私は使い魔たちの突進を跳んで避け、その中心に釘を投げつける。

 釘は魔力の籠った爆発を起こし、使い魔たちを一網打尽にする。

 

 

 

 それでも、次から次へと沸いてくる使い魔たち。並の魔女なら今ので使い魔が全滅していてもおかしくない。

 

(やっぱりこの魔女……、尋常じゃない力を蓄えてる)

 

 私は使い魔たちを足場に、一気に結界の奥を目指す。

 

 このまま戦っていては、物量で押しつぶされて、魔女を一目見ることすら叶わないだろう。

 

 

 進むのに最低限の使い魔だけ倒しつつ、足を止めることなく進み、ついに結界最奥の扉が見える。

 

 

「やあっ!」

 

 

 私は速度そのままに、その扉を蹴破る。

 

 

 

 

 

「っ!!」

 

 

 

 その部屋にいたのは、ここまで追い続けてきた魔女。そして……。

 

 

「この、魔女……」

 

 

 ふうかを失った日に戦った魔女だった。

 

 

 

(あの魔女……。ふうかと倒したのでさえ、株分け個体だったんだ)

 

 

 当然、株分けより本体のほうが強い。

 

 つまり、眼前の魔女はあれより更に強いということだ。

 

 

 勝てるのか?と怖じ気づきそうになる心に叱咤を入れる。

 

(弱気になるな! ここで勝たなきゃ、この街を守れる人はいなくなる!)

 

 私は釘を握る手に力を込め直し、相手を見据える。

 

 塔のようにそびえ立つ巨体に、先端には陰陽玉を据えたその魔女。

 周りには魔女を護衛するように、大理石のような質感の八面体の胴体から大きな翼を生やし、頭に土星のオブジェクトを載せた魔女が3体飛んでいた。

 

 株分け個体は、あの日戦った魔女に姿が似ていることから、あれすら本体からすれば使い魔と変わらないということだ。

 

(となれば、勝つには本体を短時間で倒すしかない!)

 

 私は地面を蹴り、魔女に向かっていく。

 

 すると、魔女も私が動いたことに気づいたのか、天辺の陰陽玉が回転を始める。

 

 陰陽玉の回転は速度を上げていき、そこに光が宿る。

 

「っ!? やばっ……!」

 

 私はすぐさま横へと跳ぶ。

 

 次の瞬間、陰陽玉が四芒星状に輝き、そこからレーザーが放たれる。

 

 破滅的な光を携えたそれは、さっきまで私がいたところを爆破し、地面に大穴を開けた。

 

(一発でも当たればアウト……。気をつけないと)

 

 私は陰陽玉を注視しつつ、足を再び動かす。

 

 魔女は私を狙撃すべく、光をチャージし、次々とレーザーを放ってくる。

 

 私はその奔流を避けつつ、魔女の足下へと駆け込む。

 

 

 足下へと近づけば近づくほどレーザーの精度は上がるものの、ある地点から大きく回避しなくても避けられるようになる。

 

(やっぱり! あの身体の大きさからして、足下は死角になって攻撃しづらいんだ!)

 

 こうなれば、あとは足下を崩すだけ。

 

 私は力を込めて釘を振り上げ……。

 

 

 

 横から突っ込んできた株分けにそれを突き刺す。

 

「それくらい分かってるよ! だからあなたたちが近くで護衛してたんでしょ!」

 

 ここまで生き残ってきた魔女が、自分の弱点を知らないとは思えない。となれば、魔女の近くを飛び回っていた株分けの役割は、接近されたときの迎撃要員だとは容易に想像がつく。

 

「ふっ!」

 

 私は釘を抜き、バットの要領で釘を振り、魔女を打ち抜く。

 

 吹き飛ばされた株分けに代わるように、残り2体の株分けが私に突っ込んでくる。

 

 私は釘を構え、2体の内、左の1体にこっちから突っ込む。

 

「やああああっ!」

 

 株分けの攻撃を紙一重で避け、その身体に釘を突き刺す。

 

 残り1体が私に攻撃を仕掛けてくるが、私は釘を刺した株分けの身体を盾にして、その攻撃を防ぐ。

 そして攻撃が終わった隙に生みだした、もう1本の釘を攻撃してきた株分けに叩きつける。同時に、魔力の衝撃波を発生させ、その株分けは昏倒する。

 

(よし、1体は無力化……!)

 

 すると、盾にした株分けが後ろから襲いかかってくる。

 

 私は先ほど株分けに刺した釘に、持っている釘を当てる。

 その瞬間、私の持った釘を通じて魔力が伝達。その魔力は、突き刺した釘の内部に込めた私の魔力へと伝わり……。

 

 

「――っ!!」

 

 

 私の魔力を着火剤として釘が爆発。株分けを中から爆発させる。

 

(1体撃破! 残り1体は戻ってくるのに時間がかかる! 今しかない!!)

 

 私は今度こそ、魔女を攻撃するために釘に魔力を込める。

 

 

「これで――!!」

 

 

 私は力の限り釘を振り下ろそうとして。

 

 

 直後襲ってきた横からの衝撃に、受け身も取れず吹き飛ばされる。

 

 

 

 

 

 

 

 視界が何回も回り、自分がどっちを向いているか分からなくなった辺りで壁に激突する。

 

(な、なにが……)

 

 歪む視界で魔女のほうを見れば、そこにはもう1体の株分けの姿が。

 

(……ああ。株分けが3体とは限らないもんね……。うっかりしてたなぁ)

 

 決着を焦るあまり、目の前の光景が全てだと決めつけてしまった。

 伏兵の存在に注意を回せなかったのは、完全に自分の落ち度だ。

 

 

 立ち上がろうとするも、全身に激痛が走り、思わず咳き込む。

 

「ゲホッ、ゲホッ! ハァ、ハァ……」

 

 ポタポタと口から血が零れる。

 株分けといえど、私より巨大な体躯だ。あれほどの物体にタックルされたのだから、きっと肋骨が折れたのだろう。

 

 そして、魔女から引き剥がされたということは……。

 

 私の考えに答え合わせをするように、上空からの光が私を照らす。

 

(ああ、ここまでかな……)

 

 私に照準を合わせた魔女が、レーザーを放とうと陰陽玉を回転させていた。

 

 

 

 もう回避は不可能。防御だって無理。

 打つ手はなかった。

 

 

(ごめん、ふうか。私、ここまでみたい)

 

 

 悔しかった。

 この魔女をこの街に残したまま、斃れてしまうのが。

 

 

 でも、これでようやくふうかに会えるなら、それは少しは良いかもしれない。

 

 

 

 そう思って、私は目を閉じた。

 

 

 次の瞬間には、レーザーの発射音がして……。

 

 

 

 

「させるかあああああああああっ!!!」

 

 

 

 

 その声とともに、誰かが私とレーザーの間に割って入り。

 

 

 レーザーを防いだのだ。

 

 

 

「えっ……」

 

 

 

 私の視界に入った、淡く輝く銀髪と桜色の瞳。

 

 

 記憶の中にある衣装とは少し違ったけど、見間違えるはずはない。

 

 

 

「夕凪、さん……?」

 

 

 

 あの日、私たちに手を伸ばしてくれた少女、夕凪凜さんが私の前に立っていた。

 

 

 

 




ワルプルギスの廻天、2回目を見てきましたが、余計色んな解釈が生まれてしまいました。
名塚底根って一体? ラストはどうなった? ほむらちゃんは? などなど……。
考えても考えても答えが出ません。うごご……。

ひとまず言えることは、鑑賞後こんなに考えさせられる映画は久しぶりです。
つまり神作。映画を観てるときも楽しいですが、観終わったあとにあーでもない、こーでもないって考える時間もまた楽しいんです、と心の中のまばゆちゃんが言っています。

今回のお話は本編で凜が使っていた、ソウルジェムの巻き戻し、なんて魔法の使い方はどこで覚えたの?というところから思いつきました。
凜にもう少し力があれば、ふうかちゃんの魔法と合わせて救済システムに成り得ましたが、凜の力では不可能でした。

それと、今回も友人に頼んでイラスト描いてもらいました。
まどドラのポートレイト風にしてもらいました。タイトルは『夕暮れ共同戦線』で。

【挿絵表示】

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