魔法少女まどか☆マギカ 実績『朝焼けのエンドロール』獲得   作:くろしゅー

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(そらな☆マギカが始まったので)初投稿です。

それと、今回の話から『魔法少女まどか☆マギカ ワルプルギスの廻天』のネタバレ要素が含まれますので、映画を観ていない方はご注意ください。



DAY.135~DAY.136 名塚底根

 

 

 

 

 

 DAY.135 Side RY

 

 

 

「名塚底根(なづかそこつね)?」

 

 キュゥべえから飛び出した聞きなじみのない単語に、私は思わず聞き返してしまう。

 といっても、コイツらの隠し事なんて今に始まったことではないが。

 

 それにしたって、全ての魔女の始まりの場所とは、いささか穏当ではない。

 

「ああ、そうさ」

「それって、どんな場所なの?」

 

 すみれさんの問いに、キュゥべえはスラスラと答える。

 

「簡単に言えば、先に伝えた通り、全ての魔女が生まれ出でる場所さ。より正確に言えば、穢れを募らせた魔法少女の魂に、魔女としての新たな姿と名前を与え、その呪いを現世へと送り出す場所。それが名塚底根という空間の役割さ」

 

 しれっと明かされた魔女誕生の仕組みに、私たちは言葉を失う。

 

 そんな中、最初に言葉を発したのはまばゆだった。

 

「そんな重要な場所のこと、どうして今まで……! って、あなたたちのことですもんね。どうせ――」

 

 まばゆの言わんとしていることは分かった。それはコイツらの常套句であるからだ。

 

「知らなかったからさ」

「『聞かれなかったからさ』って言うんで、しょ……? え?」

 

 しかし、キュゥべえから帰ってきた答えに、私たちは再度言葉を失う。

 

「え? え? 知らなかった? は? だって、魔法少女のシステムはあなたが持ち込んだんでしょ?」

 

 私の問いかけに、キュゥべえはさも当然のように答える。

 

「たしかに、魔法少女のシステムはボクが地球に持ち込んだものさ。でも、魔女化のシステムまで持ち込んだとは一言も言ってないよ」

「コイツしばいたろか」

「凜さん、落ち着いて……!」

 

 ソウルジェムから武器を出そうとする私を、まばゆが必死に止める。

 その間にも、キュゥべえは気にせずに語り続ける。

 

「誤解が生じているようだから伝えるけど、魔法少女がソウルジェムを濁らせ、希望と絶望の相転移エネルギーをボクらが得て、残った魔法少女の魂が呪いへと変質する。このシステム自体はずっとあるよ。ボクらが持ち込んだときから変わったのは、この世界に現れる呪いから生まれた存在に、魔女という名前と個性がついたところさ」

「つまり、昔は魔女が存在しなかったってこと?」

 

 すみれさんの言葉に、キュゥべえは首を縦に振る。

 

「そうだよ、すみれ。元々ソウルジェムは個性も何もない、呪いの塊に変化するだけの代物だった」

「けど、それが変わったってことだよね? いつ、どうして?」

 

 私は問いかける。それに対し、キュゥべえは隠す素振りもなく答えた。

 

「ある魔法少女が願ったのさ。その魔法少女は、全ての魔法少女を救いたいと願った。けれどそれは、彼女の手に負える願いではなかったのさ」

 

 そこまで語ったところで、キュゥべえの紅い目が光りだす。

 

「せっかくだから見せてあげるよ。実際に視覚で確認したほうが分かりやすいだろうしね」

「え、ちょ……」

 

 まばゆの返事を待たず、キュゥべえは私たちにテレパシーを送ってくる。

 

 それは言葉ではなく、映像として、私たちの脳内にビジョンを映し出す。

 

 

 

 見える風景は、随分と古い時代。

 魔法少女と、魔女とは呼べないナニカが戦う様子。そして、一人、また一人と力尽き、そのナニカに魔法少女が変わっていく様子が、モンタージュ状に映し出されては消えていく。

 

 そんな中、一人の少女が祈りを捧げた。全ての魔法少女を救いたい、と。

 彼女の魔法により、ソウルジェムの穢れが消える魔法少女たち。

 

 全員が彼女に感謝した。

 彼女は魔法少女たちの希望となった。

 

 

 

 しかし、それは長くは続かなかった。

 

 助けて、助けて、助けて、と。

 呪いの量はやがて、その少女でどうにかできる量を超えてしまった。

 

「やがて呪いが彼女に集まり、追い詰められた彼女は、最期に魔法でこの世界の理を少しだけ書き換えた。魔法少女と死してなお、その魔法少女の呪いが個を保てるように。どうしてそんなことをしたのか、ボクには理解できないけどね」

 

 キュゥべえが見せる、ある少女の記録。

 それは、すみれさんやラビさんたちよりもずっと前に、魔法少女の運命に抗った少女の祈りと優しさの物語であった。

 最後の余計な一言が、改めてコイツらとは理解し合えないと思い知らされると同時に、私の知的好奇心はもう1つの疑問を生む。

 

「その子は……。魔法少女の救済を願ったその子は、どうなったの?」

 

 それに対し、キュゥべえは映像を流しながら答える。

 

「世界を書き換え、魔法少女の呪いに姿と名前を与えた彼女。でも、それは彼女の後に生まれる魔法少女にだけ適応されるものだったんだ。けれど、彼女の元にはそれ以前の魔法少女の呪いも集まっていた。当然だよね。全ての魔法少女を救済を祈ったんだから、彼女には過去の魔法少女の絶望と呪いも受け止める必要があったのさ」

 

 だから、とキュゥべえは平坦な声で語り続ける。

 

「彼女はその全ての呪いに飲み込まれた。彼女を含め、魔女という個を与えられなかった呪いは集まり、本来ボクたちが回収するはずだったエネルギーすらも使い、彼女は名塚底根という空間と、自身の姿を形作ったのさ」

 

 目に映る映像には、夥しい呪いが教会から溢れ、捻れ、混ざり合いながら1つになっていく過程がキュゥべえの視点として見える。

 

 しかし、私はこの時点で、ある予想が頭を過ぎった。

 まばゆも同じだったようで、私たちは顔を見合わせる。

 

「まばゆ……。私、この話どこかで聞いたことあると思うんだけど……」

「奇遇ですね、凜さん。私も同じこと考えてました」

 

 私たちはキュゥべえを正面から睨み付ける。

 

「もしかしてだけどさ、キュゥべえ。その魔法少女の成れの果てってさ……」

「想像を絶する呪いの集積地にして、数多の魔女の集合体。天地をひっくり返すともされる、災害級の魔女……」

 

 私とまばゆは答え合わせをするかの如く、その存在の名を同時に告げる。

 

「「ワルプルギスの夜」」

 

 私たちの言葉に、キュゥべえは感心したように呟く。

 

「さすがだね、凜、まばゆ。そうさ。名を無くした彼女たちを、魔法少女たちはその呼称で呼び馴らわすことにした。最強最悪の魔女、ワルプルギスの夜としてね」

 

 キュゥべえの言葉とほぼ同時。映像の中では、混ざり合った呪いが形を成し、私たちのよく知る姿へと変貌する。

 雷雨を招き、火山を噴火させ、大地を割る。災害の権化にして、絶望の象徴、ワルプルギスの夜へと。

 

 

 そこで、キュゥべえのテレパシーが途切れる。

 私たちは思わず、その場に座り込んでしまう。

 

「夕凪さん! まばゆさん!」

 

 すみれさんが駆け寄ってきて呼んでくれるものの、それに答えるだけの余裕はなかった。

 

 このことを完全に飲み込むことには、まだ随分と時間がかかりそうだった。

 

 でも、今は切り替えないと。

 ここで思考を停止すれば、キュゥべえの思うツボ。アイツらに有利な情報しか与えてもらえなくなる。

 

「……とりあえず、名塚底根の誕生の経緯については分かった。じゃあキュゥべえ、あなたがそれを知らなかったのはなぜ?」

 

 私の問いに、キュゥべえは涼しい顔のままだ。

 

「簡単な話さ。名塚底根は宇宙の外側にある。この宇宙に増築された概念と言ってもいい。彼女が宇宙を改竄したことで、ボクたちは名塚底根への手がかりを失った。だから、今まで認知することも観測することも出来ていなかったんだ。魔女化の仕組みを解析する中で、仮説上はあるだろうと予想はしていたけどね」

 

 「なるほど……」とすみれさんが呟く。

 

「今回の異常事態。その最初の1つは、あなたたちがそこを観測できたことにありそうだね」

「話が早くて助かるよ、すみれ。そう、本来観測し得ないはずの空間を、ボクたちは観測できた。それこそが本題に繋がる点さ」

 

 キュゥべえは、ここからが大事だと言わんばかりに尻尾を振る。

 

「まず、ボクたちは先の戦いで鏡の魔女が使っていた、この宇宙の外側のエネルギーについて解析しようと思ったんだ。またあんなエネルギーを使われたら、たまったものじゃないからね。鏡の魔女がどのような力を使い、どのようなルートで、どんな宇宙に干渉したのか。その過程で、ボクたちは鏡の魔女があのエネルギーを引き出すために、ある空間を経由していることに気づいたんだ」

「それが、名塚底根……」

 

 まばゆの呟きに頷きながら、キュゥべえは続ける。

 

「その空間は、サルベーション・ブルームを引き起こしていたエネルギーのある宇宙に繋がっている。そう仮説を立てたボクらは、そこを観測しようとした。そこで気づいたんだ。ボクらとは別の存在が、そこに干渉しているとね」

「それが、象徴の魔女……。でも、どうして? いや、そもそもどうやって?」

 

 すみれさんの問いは尤もだ。

 私の知る象徴の魔女に、そんな大それたことできるようには思えないが。

 

「鏡の魔女が力を蓄える際に、最初に干渉したのが象徴の魔女だったからさ。あれにより、象徴の魔女は一時的に鏡の魔女と同期していた。恐らく、その際に入り口を知覚したのだろう。象徴の魔女の性質は繁栄。自身を繁栄させるための力には目ざとい。そんな魔女にとって、全ての呪いが集う場所は宝の山だったろうね」

 

 彼らが観測してきたであろうデータと象徴の魔女の性質から、キュゥべえは自身の考察を淀みなく語っていく。

 

「なぜか名塚底根は、現在活動を不活性化させているようだし。象徴の魔女がひっそりと力を得るには最適な環境だったのさ。鏡の魔女が見つけた、この世界のどこかにある折り畳まれた入り口を通り、象徴の魔女はそこに干渉した。そして急速に力を付けたわけさ」

「あなたが名塚底根を観測できたのは、象徴の魔女を後を追った先でってとこ?」

「訂正するほど間違ってはないね、凜。ただ、ボクたちも名塚底根に入り込めたのは1回だけだ。それも偶然によるものが大きいし、名塚底根への干渉方法は確立できていない」

 

 「それと……」とキュゥべえは一拍置いて付け加える。

 

「ここからはボクの推測だけど、恐らく象徴の魔女を最も強化した呪いは、ワルプルギスの夜のものである可能性が高いね」

「ワルプルギスの……!?」

 

 私は目を見開く。私だけでなく、全員が信じられないといった顔だ。

 

「いや、いやいやいや! ワルプルギスの夜は私たちが倒したじゃないですか!?」

 

 まばゆが信じられないといった顔で声を荒げるも、キュゥべえは涼しい顔のまま反論する。

 

「ああ。確かにキミたちはワルプルギスの夜を倒した。けれど、あれが内包していた呪いの塊はそう易々と消えるものじゃない。なんたって、幾千の魔法少女の呪いの集合体だ。キミたちが倒したのはあくまで身体というハードウェア。その身体に内包されていた呪いは行き場を失い、名塚底根に回収され、また別の魔女に宿る。かつての鏡の魔女もそうだったんじゃないかな?」

「鏡の魔女……」

 

 そういえば、みことちゃんも似たようなことを言っていた気がする。

 自分が自分で無くなる、と。数多の絶望と呪いを収集する中で、魔女の悪意が彼女の精神を侵していると。様々な悪意と呪いで、私と話していないと自我が曖昧になりそうだと。

 

 今思えば、まるで先ほど見た映像の、ワルプルギスの夜となった少女のようではないか。

 

 それって、つまり……。

 

「ワルプルギスの夜の呪いは、名塚底根を通して輪廻している……?」

「あくまで可能性の範囲だけどね。けれど、魔女をあそこまで急速に成長させる力となると、あり得ない話ではないよね。この表現が正しいかは微妙だけど、あの呪いはまだ死んでいない。まるで現世の未練に縋り続ける怨霊のように、ワルプルギスの夜の呪いは廻り続けていると言ってもいい」

 

 そして、キュゥべえはこう結論づけた。

 

「つまり、名塚底根を見つけた象徴の魔女が多量の呪いを取り込み、自身を急成長させた、というのが今回の異変の発端さ。そして、これを放置すれば、この宇宙が崩壊する危険すらある」

「そ、そこまで!?」

 

 まばゆが声を荒げるも、キュゥべえはいつも通り平坦な声で返す。

 

「驚くようなことかい? この宇宙の外にある理に干渉した魔女が、欲望のままにその力を振る舞えば、宇宙に深刻なエラーが生じ、宇宙そのものが成り立たなくなる。決して遠くない未来でね。そうなればキミたちの存在など、一瞬で無に帰すだろうね」

「つまり、今のうちに叩けって言いたい訳ね」

「そうだね」

 

 はぁ、と私はため息をつく。

 

 まさか、再度宇宙存亡の危機に直面するとは思わなかった。

 キュゥべえの話の「いつか」がどこまで先かは分からないが、どのみち早めに叩かなければ私たちに勝ち目が無くなるのは間違いないだろう。あのキュゥべえが、名塚底根という爆弾情報を私たちに明かしたのだ。例え裏があるとしても、アイツらも追い詰められているのは間違いないだろう。

 

(まあ、あわよくばこれでまどかちゃんを契約させられれば、とか考えているんだろうな)

 

 もちろん、そんなことはさせない。

 あの魔女は私たちで倒す。

 

 その後もキュゥべえからいくつか話を聞いたが、どれも魔女討伐に役立ちそうな情報は持っていなかったので、作戦会議の邪魔になる前にすみれさんの家から叩き出した。

 「わけがわからないよ」というキュゥべえに、心の中で舌を出したのは内緒だ。

 

 

 

 

 

 それから私たちは、持ちうる情報を共有して作戦会議を行った。

 

 

 

「本体はやっぱり、あの塔みたいなやつ?」

「恐らく。私が攻め込んだとき、株分けがあれを守るように飛んでいたので」

「あれだけの大きさです。どう攻撃すればいいやら……。なんか弱点とかないんですかね?」

「まばゆさん、良い着眼点です。多分、弱点は上の陰陽玉かと」

「すみれさん、何か知ってるの?」

「知ってる、というより状況証拠からの推理ですが……。株分けが塔の上部で待機していたこと。そして、あれだけ高出力のレーザーを撃てるということは、あそこに高エネルギーを溜められる証拠です。なので、逆にそこを破壊できれば……」

「その高エネルギーが行き場を失って、自分に跳ね返るってわけですね」

「なら、狙うべきはあの陰陽玉……」

「ええ、恐らく」

 

 

 

「あのレーザーが厄介ですね。私たちの中に飛び道具を扱う人がいない以上、どうしても近接戦を仕掛けなければいけませんが……」

「すみれさんの話じゃ、足下以外じゃ撃ってくるんですよね?」

「そうです。近づければ脅威ではありませんが、そこまでが一苦労で……。そういえば、まばゆさんは先ほどレーザーを防いでいましたが、あれは使えませんか?」

「ああ……えっと。あれは、私が光を操れる魔法も使えるので、それでレーザーを曲げられないかって凜さんの提案から身につけた技なんですけど……」

「鏡の魔女のときはレーザーにすごい苦しめられたからね」

「ただ、実戦で使ったのはさっきが初めてですし、光の湾曲の調整がシビアなので。申し訳ないんですけど、事前の未来視無しだと厳しいかと……」

「未来視にそれなりの魔力を使う以上、予め決めておいたポイントでしかガードには使えない、という感じですかね」

「お役に立てず、すみません……」

「いえ、そんなことありません。予め使うポイントを決めておけば防御ができるなら、作戦の輪郭を組みやすくなります」

 

 

 

「火力担当はやっぱりすみれさん?」

「それが最適解かと。私のハサミは論外として、凜さんの双刃刀も強いですが、やっぱりあの巨大釘の一撃は突破口になると思います」

「となると、私が遊撃ですみれさんの道を切り開き……」

「私が一撃を入れる」

「基本はその一撃離脱で削るしかないと思います。防御と、いざというときの陽動はまばゆにお願いかな」

「……仕方ありませんね。陽動は出来ればやりたくありませんが」

「基本は私が遊撃で気を引くから」

「いえ……。凜さんだけに負担をかけたくないので、が、頑張ります」

 

 

 

「まばゆさんの未来視は絶対の未来なんですよね?」

「はい。私の視る未来は、未来視を使ったことも含めた未来。つまり、覆しようのない未来。上手くいくときは必ず上手くいくし、その逆も然りです」

「だから、まばゆの未来視は極力慎重に使うべきだと思います。まばゆの未来視は因果の固定と言ってもいい。未来を視るタイミングを間違えると、最悪詰みます」

「うーん……。上手く使えれば強そうですが……」

「強力な魔法な分、消費魔力も多めですし、他者の目を見ないと発動しないので。咄嗟に視るのには向いてないですね。あと試行回数を増やすのにも」

「相変わらず使いにくい魔法だと自分でも思います……。トホホ」

「うーん……。必ず正解を引ける……というより、一番まばゆさんの望む結末になる、という解釈のほうがいいかもしれませんね」

「私の、望む……?」

「はい。魔法を発動する主体がまばゆさんな以上、魔法はまばゆさんが未来視をする際に一番望む結末を選択するはずです。例えば、競馬で勝ち馬を当てようとするとき……」

「け、競馬……?」

「すみれさんのおばあさん、賭け事が好きだったらしくて……」

「単純に稼ぐなら、オッズの高い3連単を買う未来が視えるでしょう。でも、お金に困った夕凪さんがどの馬に賭けるか迷っていたら? 優しいまばゆさんは、例えオッズが下がるとしても、勝ち馬を教えるんじゃないでしょうか? もしくは夕凪さんに教えた後、自分は違う馬を買う、それか自分は買わない未来を視るかもしれません」

「な、なるほど……?」

「つまり、未来を視たまばゆさんの感情込みで、まばゆさんが最優先する未来が選ばれるはずです」

「となると未来視は、まばゆがその未来を視てどう判断するかも含めて導き出されるってわけですね」

「う~ん、頭がこんがらがってきました……」

「……これなら、もしかしたら」

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうして、作戦会議は夜遅くまで続き……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 DAY.136 Side RY

 

 

 翌日。

 私たちはある程度の仮眠を取ってから、朝食を食べたら早速魔女の結界を目指した。

 

 昨日立てた作戦を実行するためにも、決着は早期のほうがいい。

 

 

 マミちゃんと杏子ちゃんも呼ぼうかと思ったが、今の見滝原にはマミちゃん以外の魔法少女がいない。杏子ちゃんも、今回は彼女にお願いできるほどのリターンを提示できない。仲良くなれたとは思っているものの、杏子ちゃんはそこの線引きはしっかりしている子だ。

 

(そこがいいところなんだけどね)

 

 ともかく、彼女たちへの救援は諦めた。

 それに、豊鶴は見滝原から遠い以上、彼女たちの到着を待っていられる時間はない。

 

 やちよ先輩たちには、鏡の魔女の一件があった以上、さすがにどの面下げて案件だし。

 なにより、すみれさんと顔を合わせるのは憚られた。

 すみれさん視点では、かつての仲間が自分のことを忘れた振る舞いを目の前でされるのだ。顔には出さないだろうけど、辛くないわけがない。それは必ず戦闘のパフォーマンスに影響する。

 仮に思い出したところで、それはそれで話が拗れそうだ。もちろん、先輩たちなら最終的にすみれさんを受け入れるだろうけど、その間の時間が私たちには惜しいのだ。

 

 

 

 

 私はスマホで時間を確認する。

 

 

 時刻は9時40分。

 

「あと20分……。10時に結界突入でいいんだよね、まばゆ」

 

 私の問いに、まばゆは頷く。

 

「はい。あそこの時計台の鐘が鳴り終わると同時に結界の入り口が開きます。それまでにたどり着ければ十分です」

 

 

 

 あの作戦会議の後。最終的に、私たちはまばゆの未来視を1度使用した。

 

 私たちの作戦がどこまで通用するか、確認するために。

 

 

 

 そして今、まばゆが視た未来通り、私たちは行動している。

 

 

 

 

 

 

「こっちです」

 

 まばゆに案内され、時計台から少し離れた路地裏へと入る。

 

 活気溢れる時計台の足元とは違い、ここは人々に忘れ去られたように、雑多な喧噪が遠く聞こえる。

 

 

「なんか、キュゥべえの手の上で踊らされてる感じがして、気が進みませんね」

 

 道中、まばゆがポツリと零す。

 

 

 

 昨日、キュゥべえを追い出す前に、あいつは最後にこう言った。

 

「決着を急いだほうがいい。魔女は狡猾に豊鶴の魔法少女を排除し、この土地を根城にしようとしている。あれが完全体になったら、ボクたちでもどうなるか分からない」

「……あれでまだ完全じゃないっていうの?」

「ああ。観測されたエネルギーは指数関数的に増加している。あのデータと魔女の大きさ、多数の姿違いの株分けがいる点からして、あの魔女が到達しようとしている最終形の姿はあるだろうね」

「完全体になるのはいつ?」

「それはボクにも分からない。けれど、そう遠くないうちだろうね。仮にあのエネルギーを全て解き放たれたら、街1つを飲み込む結界が形成されるだろう」

「じゃあ、豊鶴は……」

「跡形も無くなるだろうね。そうなったら、もう普通の魔法少女では止められなくだろう。キミたちが止めてくれるのを期待しているよ」

 

 その言葉だけ残し、あいつは夜の闇に消えていった。

 

 

 

「まあ、十中八九、あいつは私たちを早めにぶつけて消したいんだろうね」

 

 昨日のことを思い出し、私はまばゆの言葉に答える。

 あいつのことだ。ただ魔女を倒してもらおうだなんて思っているわけがない。

 

「ど、どういうことですか?」

 

 すみれさんが困惑したように聞いてくるので、私は考えている推理を話す。

 

「実は私たち、キュゥべえの目的を邪魔し続けちゃってるんです」

「目的……? 宇宙の寿命を延ばすってやつですか?」

「それです。詳細な理由は省きますけど、実は見滝原にはすごい因果を持った子がいるんです。それこそ、キュゥべえのエネルギー回収ノルマを1発でクリアするくらいの」

 

 ほむらとまどかちゃんの事情はぼかしておいた。ほむらの許可抜きに語りたくはないし、本題はそこじゃない。

 

「私たちは彼女の友達から、彼女を魔法少女にしたくないって気持ちを聞いて、それを助けたんです。昨日、キュゥべえも言ってたでしょ。ワルプルギスの夜を倒したって」

「それも、彼女の……。彼女のお友達のために?」

 

 すみれさんの確認するような問いに、私は頷く。

 

「はい。私たちの大切な友達でもありますから」

 

 横でまばゆも頷く。

 

「キュゥべえとしては、ワルプルギスの夜を理由に契約させたかったんでしょうけど、私たちで倒せてしまった。その後も、鏡の魔女っていうワルプルギスの夜に匹敵するような脅威とも戦いましたけど、それもみんなの力を借りて倒しました。当然、通常生活も私たちがあいつを追い払っています」

 

 そう。キュゥべえからすれば、私はまどかちゃんとの契約チャンスを全て潰している元凶だ。それどころか、災厄と呼ばれる魔女を2度も退けている。

 過ぎたる力はなんとやら。絶望をうち払う強い光は、それを好まない者からすれば邪魔なことこの上ない。

 

「つまり、私はキュゥべえにとって目の上のこぶなんです。だからこそ、私たちを強大な存在になりつつある象徴の魔女にけしかけた。いつ街が滅ぶ状況になるか分からないと言われれば、どのみち私たちは動かざるを得なくなる。それを見越して」

 

 私はすみれさんに頭を下げる。

 

「ごめんなさい、すみれさん。多分、巻き込んだのは私のほうです。象徴の魔女がここに来たのは偶然としても、私のせいで危険な戦いに挑むことになって……」

 

 それに対し、すみれさんは少し怒ったような顔をする。

 

「夕凪さん、謝らないでください。お二人が来なければ私は昨日、死んでいました。むしろ、ひとりぼっちであの魔女と戦わなくて済んで、感謝しているんです。だから、その謝罪は必要ありません」

 

 頭を上げた私に対して、すみれさんは笑いかけていた。

 

「大丈夫です。私、これでも結構強いんですよか? お二人よりお姉さんですし」

「お姉さん、関係あります?」

 

 まばゆのツッコミに、すみれさんは焦ったように答える。

 

「あ、ありますよ! やっぱり年上がいると安心しません? 経験値もみなさんより豊富ですよ?」

「魔法少女歴は私と同じくらいじゃありません?」

 

 私が言うと、うっ、と固まるすみれさん。

 

 その様子がなんか可笑しくて、私とまばゆは吹き出してしまう。

 

「わ、笑わなくても~」

「あははっ。ごめんなさい。でも、すみれさんが頼もしいのは本当ですよ」

 

 笑いながらも、私はそう答える。

 

 だって、こんな状況でも笑わせてくれるんだから。この状況で、笑顔を生み出せるこの人となら。

 

 何だって乗り越えられる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「初撃は私で、いいんですね?」

「ええ。待ち構えている使い魔の出鼻をそれで挫きます。その後すぐに、株分けが奇襲を仕掛けてくるので、凜さんと私がそれを倒します」

 

 すみれさんの確認に、まばゆは頷く。

 

 私も作戦の流れを思い返しながら、ポツリと呟く。

 

「毎度のことだけど、今回も賭けみたいな作戦になっちゃったね」

「何度やっても慣れませんけどね」

 

 まばゆはうんざりとした表情で言った後、その顔を険しくさせる。

 

「でも、それしか道がありません。私の視た未来では……」

「『それ以外の手を打てば、私たちを待ち受けるのは全滅のみってまばゆが言う』未来だったんだものね」

 

 まばゆの未来視を使ってそれということは、私たちの勝算は限りなくゼロに近いのだろう。

 

 それでもやらなければいけない。ここで勝たねば、待ち受けるのは世界滅亡だ。

 

 

「みなさん。あと1分です」

 

 すみれさんの声で、私たちは改めて気を引き締める。

 

「気合い、入れていきましょう!」

「「はい!」」

 

 私たち3人はソウルジェムを取り出し、魔法少女姿へと変身する。

 

 

 直後、時計台の鐘の音が鳴り響く。

 

 

 

 ゴーン、ゴーン、ゴーン……。

 

 

 

 

 

「っ!」

「くる……!」

 

 

 強大な魔力反応が瞬く間に膨れ上がり、大きく口を開けた結界の入り口が私たちを飲み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結界の中に吐き出された私たちを待ち構えていたのは、大量の使い魔たち。

 

 

 それに対し、すみれさんの一撃が火を吹き、使い魔たちの壁に大きな穴を開ける。

 

 

 

 

 まるでそれを見越していたかのように、その穴から2体の株分けの魔女が私たちに突っ込んでくる。

 

 

 だが。

 

「それは……!」

「もう視てます!」

 

 私は双刃刀を振り、突進へのカウンターで魔女を一刀両断する。

 まばゆも、突進を避けて、魔女の背中にハサミを投げて突き刺す。さらに、怯んだ魔女の急所を狙い連続斬りを浴びせかけ、魔女を倒した。

 

「初手はこっちの勝ちっと」

 

 私は武器を使い魔たちに向け、牽制する。

 

 まばゆが私のところに戻ってきたのを横目で確認し、すみれさんに声をかける。

 

「次、いきましょう!」

「はい!」

 

 すみれさんが開けてくれた道が使い魔たちに防がれる前に、私たちはそこを駆け抜ける。

 

 

 再び株分け2体が妨害に来るも、ここまでの展開も全てまばゆの口から聞いている。

 

 四面体の胴体に天使の羽を付け、胴体の中央には木星のオブジェが嵌まっている個体だ。

 先ほど私とまばゆが片付けた個体とはまた別の姿。そして……。

 

(さっきのより強い……!)

 

 やはり、強さによって姿が違う。先ほど瞬殺した魔女は株分けの中でも最弱クラスのやつなのだろう。

 

「まばゆはそのまま走り続けて!」

「は、はい!」

 

 まばゆの返事を聞くと同時、私とすみれさんは地を蹴り、やって来る株分けたちへと突っ込む。

 

「「はあああああっ!!!」」

 

 私とすみれさんの攻撃は、同時に株分けたちを穿ち、消し飛ばす。

 

 私たちは着地すると、振り返らずにまばゆと合流する。

 

「助かりました!」

「いいって。それより……」

「分かってます。次の階層へは、ここを下ってください!」

「オッケー!」

 

 飛びかかってくる使い魔たちをあしらいながら、最低限の戦闘で先へと進む。

 

 

 こんなところで消耗していたら、本体との戦闘で体力も魔力も到底保たない。

 

 

 結界の深部へ進むほど、出てくる株分けの強さが上がっている。

 

 

「この魔女……! 気をつけて! 私とふうかが苦戦したのと同じ姿です!」

 

 魔女本体まであと少しというところで姿を現した株分けを見て、すみれさんが叫ぶ。

 

「くっ! コイツが……! まばゆ!」

「おまかせを!」

 

 私がまばゆに手を伸ばせば、彼女も私の意図を汲んで、手のひらを合わせてくれる。

 

「「コネクト!」」

 

 私とまばゆの魔力と同調させ、それを双刃刀に纏わせる。

 

「すみれさん!」

「はい! 一緒に!」

 

 再度、私たちは息を合わせて魔女へと突っ込む。魔女はそれを迎撃しようと力を溜めるが……。

 

「そうはさせません!」

 

 まばゆの投げたハサミが当たり、攻撃はあらぬ方向へと飛んでいく。

 

 できた最大の隙に、私たちは連撃を叩き込む。

 

「これで!」

「終わりです!」

 

 最後の同時攻撃で、魔女の身体は砕け、壁際へと吹っ飛んで消滅した。

 

 

 

「やった……。倒せた……!」

 

 すみれさんは信じられないといった顔で呟く。

 

「それだけ私たちが強くなってるってことですよ。もう前とは違うってこと、魔女にも教えてやりましょう」

 

 私がニヤリと笑うと、すみれさんも口の端を上げる。

 

「そうですね。キュゥべえだってびっくり仰天させてやります!」

「びっくり仰天なんて、今日日聞かないですよ……」

 

 小声でまばゆが何か言ってるが、安心してほしい。すみれさんはこれが通常運転なのだ。

 

 

 私は門番のいなくなった最深部の扉を蹴破る。

 

 

 

 

 

 

 部屋へと突入した私たちは目を見開く。

 

 

「うそ……」

「デカすぎでしょ……」

 

 すみれさんと私は思わずそう呟いてしまう。

 

 そこに鎮座していた象徴の魔女は、昨日見たときより遙かに大きくなっていた。

 相変わらず中央の本体は塔のような姿だが、その下にも肉体が構築され、ちょっとしたショッピングモールが収まるくらいのサイズになっていた。

 

「道理で結界の階層が少ないとは思ったけど……」

 

 恐らく最深部の部屋がデカくなりすぎて、結界の他の層を圧迫し始めているのだろう。

 

 たった半日ちょっとでここまで巨大化しているなら、あと1~2日程度もあれば街くらいのサイズにはなってしまう。

 

 ただ一人、このサイズを視ていたまばゆは汗を垂らしながら私たちに言う。

 

「凜さん、夜明さん。作戦通り、いきましょう」

「……うん!」

 

 魔女の大きさに呆気に取られていたが、私たちには未来視で導き出した未来がある。

 例え相手がなんであろうと、今は信じて動くしかない。

 

「いこう、すみれさん!」

「はい! まばゆさん、そちらもお願いします!」

「わ、分かりました! 絶対たどり着きます!」

 

 まばゆは光学迷彩を纏い、一足先に動き出す。

 

 続いて、私たちも魔女本体に向けて走りだす。

 

 先頭は私が。後ろにすみれさん。

 魔女もこちらに気づいたようで、レーザーのチャージを始める。

 

(まずは1発目……!)

 

 陰陽玉が一際激しく光る。

 

「いま!」

 

 私とすみれさんは左右に分かれて跳ぶ。直後、レーザーが私たちのいたところを撃ち抜き、爆炎が上がる。

 

 私たちは足を止めることなく、魔女へと突き進む。

 

 すると、魔女の足元から大量の株分けたちが姿を見せる。

 まるで使い魔のような量だ。あれが全て魔女だというのだから恐ろしい。

 

「けど、止まってられないっての!」

 

 殺到してくる株分けたちを、私が前に出て迎撃する。

 

「とりゃあ!」

 

 先頭で突っ込んできた個体を蹴り飛ばし、後ろの数体にぶつける。それを飛び越えるようにしてきたやつに双刃刀の刃を突き刺し、上に乗って切り裂く。と同時に、そいつを踏み台に後ろに攻撃を仕掛ける。

 

「炎雷……、斬舞!!」

 

 一気に5体を巻き込んで消し炭にする。ついで、飛んできた火球を避け、近場の株分けを一刀両断。さらに後ろから飛びかかってきた株分けを、腋の隙間から突き刺す。

 

 双刃刀を持ち替え、そのままその株分けを振り回す。直後、閃光が私に襲ってくるものの、その株分けでガードする。

 

(2発目……!)

 

 ほとんど原型のなくなった株分けが消える前に、次が襲ってくる。が、そちらはすみれさんの一撃で沈む。

 

 そこで、また上空が光りだす。

 

(3発目……!)

 

 私とすみれさんは敢えて真っ直ぐ突っ込む。

 

 そうすれば、巻き添えをくらいたくないのか、株分けたちが離れて、勝手に道が出来ていく。

 

 当然、そうなれば防ぐものは無くなるし、さっきより魔女との距離も近い。レーザーを避けるのは困難なのだが……。

 

(ここで、道が交わる!)

 

 私の思考の直後、魔女からレーザーが放たれる。レーザーは私たちへと真っ直ぐ突き進み……。

 

 何もないところで湾曲して、明後日の方向へと飛んでいく。

 

『ナイス、まばゆ!』

『間に合って良かったです! お気を付けて!』

 

 私のテレパシーに、姿の見えないまばゆが答える。

 

 そう。この地点で、別ルートで進んでいたまばゆと道が交差するのだ。なので、ここの防御はまばゆに任せていた。

 

 まばゆのおかげで、逸れたレーザーは私たちが後ろに置き去りにした株分けたちに当たり、その大半を消し飛ばす。

 株分けたちが離れてくれたおかげで、一気に前へ進めた。残る数体を横薙ぎで吹っ飛ばし、道をこじ開ける。

 

 すると、再度降り注ぐ光とチャージの音。

 

(4発目!)

 

『すみれさん!』

『はい! お願いします!』

 

 すみれさんは返事と同時に、釘を残っていた株分けに突き刺して捨て、私の背中に乗る。

 

 すみれさんが釘を爆破して株分けを倒した直後、私は強化モードに変身。

 

 飛んできたレーザーを、その脚力で無理やり避ける。

 レーザーの光を滑り込みで避け、そのまま魔女の足下まで爆走。

 

 魔女の下の肉体にできた階段まで到達したところで、私は強化モードを解除する。

 

「……短時間とはいえ、反動がほとんどない。さすがリヴィアさん」

 

 私は心の中でリヴィアさんにお礼をする。

 

 

 

 

 鏡の魔女の一件以降、宝崎市で私のソウルジェムをリヴィアさんに見てもらった際。

 

「アカン、アカン。みたま、自分なんちゅう調整してんねん。こんな無理やりな回路であの出力だしたら、そら凜ちゃんの身体もボロボロになるわ」

「ごめんなさい、先生……」

「ったく……。それで、凜ちゃんもこの力、手放す気ないんやろ?」

「はい。せっかくみんなを守れる力なので、使える手札は多く持っておきたいんです」

「……はあ、分かったよ。私が直々に調整して、改良してあげるさかい。みたまもよう見とき」

 

 そう言って魔力の流れを改良をしてくれたのだが、明らかに今までより負担が少ない。

 

 それでも長時間、もしくは連続使用は禁止と言われたが。

 

 

 

 

 ともかく、足下までたどり着ければ、レーザーは飛んでこない。

 

 あとは……。

 

「本体を叩くのみ!」

 

 

 

 

 

 

 DAY.136 Side MA

 

 

 

 

(急げ急げ急げ!)

 

 私は光学迷彩を纏まったまま、株分けや使い魔たちの間をすり抜けていきます。

 

(凜さんたちは無事に魔女の足下までたどり着けたでしょうか?)

 

 先ほど魔女の放ったレーザーは、しっかりと防御できたはず。ちゃんと未来視通りに進んでいます。

 

(そして、私の視た未来ではたしかこの辺に……)

 

 視た光景と同じ場所にたどり着いたことで、私は足を止める。

 

 

 

(ここで魔力探知をして、名塚底根の入り口を探す!)

 

 

 そう。今回の作戦は全てこの時のためのもの。

 

 昨夜、夜明さんが言った言葉が始まりでした。

 

 

 

「まばゆさんの未来視って、性質上外れることはあり得ないんですよね……」

「はい。正直、使いやすいのか使いにくいのか……」

「例外は? 1度もありませんでしたか?」

「そうですね、例外は……」

 

 そこで言葉を止めた。

 

 そういえば、1度だけ。たった1度だけ、未来が変わったことがありました。

 

「願い……」

「はい?」

「魔法少女の願い。唯一、それだけは私の未来を変えられたことがあります」

 

 あの日。視えた未来に絶望し、うずくまっていた私を救ってくれたのは、鹿目さんの願いでした。

 

 彼女の願いによって、未来は変わった。

 私の視た未来は書き換えられたんです。

 

「でも、正直言って使える方法じゃありません。その手段を使うことは、魔法少女を新たに生んでしまうこととイコールですから」

 

 これ以上、魔法少女が増えてほしくないのは私の心からの願いです。もう二度と、あんな罪は犯したくありません。

 

 けれど、夜明さんは真剣に何かを考えた後、こう呟いた。

 

「いえ。大事なのは願いじゃなく、魔法少女が因果を覆す存在ってことじゃないでしょうか?」

 

 夜明さんの言葉に私は首を傾げるも、凜さんは何か気づいたように「あっ」と声を上げる。

 

「そうか、考えたことなかった……。いや、そもそもそんな択が普通は存在しないから当然なんだけど……」

 

 ブツブツと呟き続ける凜さん。私は2人に問いかけます。

 

「あ、あの~。どういうことでしょう……?」

 

 すると、夜明さんは真剣な顔で言いました。

 

「キュゥべえがよく言っていませんか? 魔法少女はどんな不条理を覆してもおかしくないって。まばゆさんの魔法はたしかに未来を確定させる魔法なのでしょう。しかし、それはこの世界の法則と因果が通常通りに働いた場合のみです」

 

 そこまで言って、夜明さんは少し悔しそうな顔をする。

 

「多分、今のままであの魔女を倒す未来を視ることは叶わないでしょう。残念ですけど、私たちにそこまでの力は多分ありません」

 

 夜明さんはギュッと拳を握る。

 

「けど、名塚底根なら。キュゥべえが言っていたことが本当なら、その空間はこの宇宙の外側にある、この宇宙とは別の理を持った空間。そこでなら――」

「勝てる可能性を1%でも作れるかもってこと、ですよね?」

 

 凜さんが締めくくるように放った言葉に、夜明さんはゆっくりと頷く。

 

「まばゆさんにお願いしたいことは1つ。名塚底根の入り口を見つけてほしいんです。私たちでは無理でも、まばゆさんの未来を視る力から必ず見つけられます」

 

 

 

 

 

 

 

 

(見つけますよ、絶対!)

 

 正直、名塚底根に入って勝機が見出せるかは全くの未知数です。何があるか、何が待ち構えているかも分からない。

 けれど、私たちが勝って豊鶴を救うには、ここ以外に可能性は残されていないのですから。

 

 

 後ろで衝撃音が何度も響きます。

 目を向けてみれば、凜さんと夜明さんが魔女の、城のようになった身体の上部までたどり着いていました。そこで魔女の親衛隊であろう株分け、そして魔女本体と戦っています。

 

 親衛隊と凜さんたちはほぼ互角。一進一退の攻防が繰り広げられていました。

 

 

 夜明さんが宙を舞い、凜さんにより体勢を崩した親衛隊の株分けに釘を叩きつけ、魔力を注入。親衛隊1体を木っ端微塵に吹き飛ばします。

 その隙をカバーするように、凜さんが他の親衛隊株分けを牽制します。

 

 お二人の殺陣は、まるで豪華絢爛な舞台のようでした。

 

(夜明さん……)

 

 お互い背中合わせで戦う凜さんと夜明さん。

 

 それを少し羨ましいと思うけれど、彼女に嫉妬するほど自分の役割を理解してないわけではありません。

 それより、背中合わせのお二人は、まるで鏡合わせのような錯覚を受けて。

 

 やっぱり似ていると、この場で確信しました。

 

 

 顔も、髪色も、服も。どれも別物の二人ですが、人への寄り添い方が似ているように感じました。

 

 最初に夜明さんに会ったとき、私は夜明さんと初めて話した気がしなかったんです。

 私まで夜明さんを忘れていたわけじゃありません。そう思った理由は、多分真面目なときの凜さんに言動が似ていたから。

 

 美樹さんを説得したときも。マミさんを受け止めたときも。私の記憶を取り戻して、一晩中一緒にいてくれたときも。昨日の作戦会議だってそう。

 

 凜さんの仕草や言葉は、どことなく夜明さんの面影を感じるものでした。

 

 

 昔のことを語る凜さんの顔を見れば、その答えも自ずと導けます。

 きっと夜明さんは、凜さんの人としての最初の目標。最初に凜さんの闇を受け止めてあげた存在だから、凜さんも彼女のようになりたかったのでしょう。

 多分、それは無意識的。だからこそ、夜明さんが記憶から消えても、凜さんの中からその温もりは消えなかった。その温もりがあったからこそ、ギリギリのところで踏みとどまれ続けたのでしょう。

 

 凜さんが夜明さんに執着する理由も、きっとそれ。

 夜明さんのような振る舞いをしてきて、凜さんは気づいたのだと思います。それを続けるのがどれだけ苦しいことか。どれだけ孤独か。

 

 だから凜さんはこの戦いで証明しようとしているんです。夜明さんも、もう一人じゃないと。どれだけ罪を重ねていようとも、夜明さんの味方はここにいると。

 

(私だって、同じ気持ちですよ)

 

 清廉潔白でいられる人なんて、ほんの一握り。例え夜明さんが自身を許されないと思っていても。夜明さんの優しさが凜さんの中で生き続け、私を凜さんと出会わせてくれたんですから。 

 

 

 

 

「――っ! 見つけた……!」

 

 私のソウルジェムが、明らかに異質な魔力を捉えます。

 

 すぐさまそこに向かい、その場所にソウルジェムを掲げます。

 

 すると、まるで世界が引き裂かれるようにして、その入り口は顔を見せました。

 

 

「これが、名塚底根の――」

 

 そこまで言ったときでした。

 

 その入り口から飛び出してきた何かに、私は体当たりされ、後ろへと飛ばされます。

 

 

「あうっ!」

 

 強打した頭を押さえながら立ち上がれば、そこには株分けの魔女が私の前に立ちはだかっていました。

 

「えっ……!? な、なんで? 私の未来視では、あとはこのまま入り口に入るだけだったはずじゃ……!」

 

 視た未来と齟齬が生まれ、私は混乱します。

 こんな展開、未来視では視えなかったのに……。

 

(まさかこの株分け、名塚底根に隠れてた? 名塚底根が別宇宙とすれば、そこにいる事象は私の未来視の範囲外……。この株分けは名塚底根にいたから、未来視に組み込まれていなかった?)

 

 目の前の株分けは今までのどの株分けより、強力な魔力を放っていました。

 

 勝てない。

 

 その言葉が、私の脳をすぐさま過ぎります。

 

 

(とにかく、一度撤退して――)

 

 

「がはっ……!」

 

 私の思考は、腹部に感じた衝撃で千切れ飛びます。

 

 地面を何度も転がり、壁にぶつかります。

 

 

(痛い痛い痛い痛い痛い痛い……!!)

 

 あまりの激痛に、私は腹を押さえて赤ん坊のように蹲ることしかできません。

 

 一撃でこのダメージ。攻撃にも全く反応できませんでした。

 

 

 助けを呼びたくても、痛みで声も、テレパシーも上手く飛ばせません。

 

 その間にも株分けは近づいてきています。

 

 

(そんな、そんなそんなそんな……!)

 

 迫りくる死の気配に、私の呼吸は浅くなります。

 

「だれか、たすけ……」

 

 絞りだした声は弱弱しく。

 

 

 

「まばゆっ!?」

 

 異変に気づいたであろう凜さんの声も遠く聞こえます。

 

 そして、株分けがまた1歩、私に近づこうとしたところで。

 

 

 

 パン、パン、パン。

 

 

 

 3発の銃声が響きます。

 

 

 マミさんのマスケット銃より軽い炸裂音。これは……。

 

 

 

「まばゆ!」

 

 私の前に揺れる長い黒髪。直後、私は抱え上げられます。

 

 

「ほ、むらさん……」

 

 株分けとの間に割って入ってきたのは、ほむらさんでした。

 

「どうして……」

 

 私が絞りだした声に、ほむらさんは株分けの追撃を避けつつ答えます。

 

「言ったでしょ、まどかと出かけるって」

「え……」

 

 たしかに聞いてはいました。

 けど、その行き先までは聞いていなかったのを思い出します。

 

「まどかと美樹さやかが豊鶴に遊びに行く約束をしてたのよ。けど、美樹さやかがいけなくなったから、彼女の代理で来ていたのだけど……。あなたたちこそ、ここで何やってるのよ?」

 

 すると、私たちの上を双刃刀が矢のように飛び、株分けに突き刺さります。

 

 直後、凜さんが私たちの元へと降ってきました。

 

「ごめん、ほむら! 説明は後で!! まばゆを連れてついてきて!!」

「え、ちょ、ちょっと!」

 

 凜さんは強化モードに変身すると、双刃刀を株分けから引き抜くと同時に回し蹴りを叩き込み、株分けを結界の反対側まで蹴り飛ばします。

 

 

「すみれさん!! このまま入り口に突っ込もう!」

「ですね! もうこっちも耐えられません!!」

 

 

 いつの間にか合流していたすみれさん。彼女の後ろには夥しい数の株分けが迫ってきていました。

 

 

 

 入り口前にいる数体の使い魔を凜さんが瞬殺し……。

 

 

「いくよ……! いち、にの……、さん!!」

 

 

 

 凜さんの掛け声と同時に、私たちは全ての魔女が生まれる場所、名塚底根へと飛び込みました。

 

 

 

 

 

 




ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

ここからの後書きでは、ちょっとした裏話を。
このお話を最初に構想していたときは、名塚底根など絡める気はありませんでした。
しかしワルプルギスの廻天を観て、このお話の設定上、影響が出る設定しか開示されなかったので、辻褄を合わせるために今の形に構成し直しました。

本小説のオリジナル設定で出した『サルベーション・ブルーム』もその1つです。
名塚底根が円環の理と繋がっているという設定があったので、鏡の魔女は名塚底根を通じて円環の理の力を引き出していた、という設定にしました。
鏡の魔女との決戦で円環の理の使者たちが現世に戻れたのも、それが理由です。鏡の魔女が鏡で、あの宇宙と名塚底根を繋げてたんですね。
しかし、円環の理に導かれた魂が名塚底根を通じて現世に舞い戻るには、名塚底根にある扉を通るしかありません。そして、その扉を開けられるのは、あの名無しのおもしれー上級生さんだけ。
ってことは、鏡の魔女戦で凜たちを裏で支援していたのは……。さらに言えば、57話でアマリュリスが自己紹介で言っていた「とある方の遣い」の「とある方」ってもしかして……?

なんて妄想が膨らみますね。

次回もよろしければ読んでいってください。
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