魔法少女まどか☆マギカ 実績『朝焼けのエンドロール』獲得 作:くろしゅー
(凪星そらなちゃんに『凪』名字繋がりで勝手にシンパシー感じたので)初投稿です。
Side MA
名塚底根の入り口から姿を現した象徴の魔女は、その姿を先ほどと変えていました。
「うえっ、な、なんですかあれ!?」
本体の塔のような部分は変わっていませんが、その下にあった巨大な身体は無くなっており、本体は株分けたちに担がれて移動しています。
その姿はまるでお祭りの神輿のよう。
「恐らく大きすぎて動けないから、身体を引きちぎってきたのでしょうね」
トカゲほむらさんの言う通り、本体の身体の端っこには、引きちぎった際に付いたと思われる肉片と皮みたいのがピラピラとなびいていました。
続けてトカゲほむらさんは言います。
「偶然でしょうけど、ここに誘い込んだのは正解よ、あなたたち」
「ど、どういうことです?」
「象徴の魔女の能力は、自身の株分けを意のままに操れること。力を蓄えれば、その力は過去や未来の株分けすら操れるようになる。いずれは株分けを使って過去を変え、あなたたちが生まれないような歴史を作ることだって可能になる」
「マジ? それじゃ、戦いそのものが成り立たないじゃん……」
「本来ならね。でも、ここは名塚底根。他の宇宙と切り離された空間。ここでなら、ヤツのその力も関係ない。これなら、勝負の土台にも立てるわ」
「そのデメリットを負ってまで私たちを追ってきたということは、やはりここは魔女の急所……!」
夜明さんの言葉に、凜さんも頷きます。
「みたいですね。幸い、あそこまでちっちゃくなってくれれば、勝機はまだある!」
「そうかしら……? それでもお城くらいのサイズはあるのだけど」
「私、あんな感じで足の生えた、自立歩行する城の出てくるアニメ映画見ましたよ」
私が昔見たアニメ映画を思い出していると、魔女の頭部が輝きます。
「っ、くるわよ!」
「任せてください!」
私はみなさんの前に出て、ハサミを突きだします。
直後、魔女がレーザーを発射。私たちに一直線に突っ込んできます。
それを、私は魔法で光をねじ曲げ、レーザーを拡散させます。
(やった! 魔女の力のおかげでしょうか? 感覚が研ぎ澄まされたみたいに、魔法の操作が簡単にできる!)
私は振り返って、みなさんに伝えます。
「今のうちに! レーザーは私が防ぎます!」
「うん! まばゆ、任せた!」
すると、魔女のもとから無数の株分けたちが飛び立ちます。
山を一斉に飛び立つカラスのように、夥しい数の黒い点がこちらに向かってきます。
それに対し、凜さんと夜明さんが地を蹴り、その群れに突っ込んでいきます。
「とりゃあああああ!」
「やあああああっ!」
凜さんは雷のようなスピードで飛び出し、一瞬で数十体の株分けたちを切り捨てます。切り裂いた株分けを足場に縦横無尽に動き、刃に宿った魔力の光が、残像で幾何学模様を描きます。
夜明さんはその圧倒的な攻撃力で、集まってくる株分けを一撃ごとに十数体ずつ屠っていきます。いくつもの株分けが一斉に吹き飛ぶ様は、夜明さんの魔力と混じり、まるで花火のよう。
先ほどまで正面衝突を避けていたあの物量に、2人とも一歩も押されていませんでした。
「すごい……」
「感心してないで、私たちもいくわよ!」
「あっ、は、はい!」
ほむらさんに言われ、私たちも魔女へと向かいます。
ほむらさんは弓を引き絞り、紫の光で作られた矢を3発同時に放ちます。
それは株分けたちに命中し、その体勢を崩します。
「あとは私が!」
攪乱のために光学迷彩を纏い、その株分けたちをハサミで切り裂いていきます。
「とりゃりゃりゃりゃ!」
最後に、入れた切れ込みにハサミをねじ込み、かろうじて繋がっていた芯を断ちます。
「チョッキン!!」
私のかけ声とともに、株分けたちが崩れ落ちます。
「や、やった! 私でもこんな簡単に魔女を……!」
「この程度で喜ばない。次、くるわよ!」
トカゲほむらさんの言葉から間髪を入れず、次の株分けたちが私たちに殺到します。
しかし、その間を白銀の閃光が走り。その一閃で全ての株分けたちは弾け飛びます。
「大丈夫?」
ニッと笑う凜さん。
もはや今いる株分けでは、凜さんの相手にはなっていました。
「こうして実物を見ると、想像以上ね」
ポツリと零したのは、トカゲほむらさん。
「当然です。私たちの大切な、頼りになる仲間ですから」
「ええ、その通りね。私たちの想像も、あなたの思惑すら上回る。それが凜よ」
私に続いたのは、意外なことにほむらさんでした。
ほむらさんがこんなことを言うのは珍しいこと。それだけ凜さんという存在が、ほむらさんにも大きな存在になってくれたこと。それがなんだか嬉しく思いました。
「よく目に焼き付けなさい、悪魔」
「……ええ。そうするわ」
一方の魔女は、このままではダメだと理解したのか、株分けたちを下げさせます。
そして、自身がレーザーを撃つと同時に、株分けたちも飛び道具で攻撃してきます。
レーザーは私が防ぎましたが、株分けの放った火球は私では逸らせません。
すると、私の横に立ったほむらさんが弓矢でその火球を射抜きました。
「魔女のやつ、遠距離攻撃に切り替えて、守りを固める気ね」
「賢い判断だね。ほむら以外、私たちには遠距離攻撃手段がほとんどない。面倒な」
凜さんは歯噛みします。
「それなら、前進あるのみです。作戦の大元は変わりません」
冷静に答える夜明さん。
「小さくなったとはいえ、足下は死角のまま。株分けだって、親の魔女に火球は撃てないでしょう」
「でも近づくたって、この弾幕の中潜り抜けていくんですか!?」
私が声を上げると、夜明さんは笑って。
「1つ、作戦があります」
と、言いました。
「で、作戦がこれですか!?」
夜明さんの作戦はなんと単純で大胆。
凜さんがドッペルを纏っている今の状態から更に強化モードを使い、その上に私とほむらさんが乗って移動するというもの。
私が魔女本体のレーザーを防ぎ、ほむらさんが弾幕と株分けを迎撃し、すみれさんは株分けに近づかれた際の露払い。そんな役割分担をまとめたのがこの陣形らしいのですが……。
「ほ、本当に上手くいくんですか!?」
「ええ。昨日の戦いで夕凪さんが人2人を抱えても十分な速度で走れるのは確認済みです。それに、的を絞らせたほうが防御もしやすいですから」
「そうだよ。まばゆとほむらぐらい、背中に乗せても余裕で走れるって。それに、未来視でも検証して大丈夫だったじゃん」
「それはそうなんですけど!」
こんな組み体操みたいな姿勢で本当に上手くいくのか、未来を視てもなおメチャクチャ不安です。主に私がついていけるのか、という点で。
さすがのほむらさんも冷や汗を垂らしています。
「そろそろいくよ。この壁にしてる水晶書庫もいつまで保つか分からないし」
「……あなたの作戦って、もしかして夜明すみれ譲りなのかしら?」
「え、そう感じる? いやー、照れるな」
「褒めてない」
ほむらさんの冷ややかなツッコミを気にすることなく、凜さんは魔女の様子を窺います。
「よし。魔女が次のレーザーを撃ったら動くよ。すみれさん、お願い」
「任せてください」
その数秒後、壁としていた水晶書庫に閃光と衝撃が襲いかかります。
「今だ!!」
凜さんは強化モードに移行と同時に私たちを背負い、水晶書庫の影から飛び出します。
夜明さんも反対側から飛び出し、私たちは一直線に魔女の足下へと突き進みます。
「うわぁ! は、速い速い速い!!」
「まばゆ喋んないで! 舌噛むよ!」
ジェットコースターの何倍ものスピード感で、いや実際に数倍は速いのですが、それに揺られ、私は思わず叫びます。
なんなら、ジェットコースターのように安全装置のバーもないので、気を抜いたら一瞬で振り落とされそうな恐怖も加算されています。もちろん、私たちの身体を凜さんががっちり掴んでくれてはいるんですけど。
そのせいで、今の凜さんは両手が塞がっています。つまり、反撃が出来ない状態なので、いち早く足下まで走り抜ける必要があり。そのために、夜明さんにも護衛してもらっています。
それは分かってますけど……。
(こ、怖いぃぃぃぃ! どんな絶叫アトラクションよりスリルありますよ、これ!)
すると、未来視で視た通りのタイミングで、魔女の天辺が再び光ります。
「まばゆ、防御!」
「は、はいぃ!」
ほむらさんに言われ、私はバリアを前方に展開。魔女のレーザーをねじ曲げます。
「ナイス、まばゆ!」
「バッチグーです!」
凜さんとすみれさんから賞賛の声を受けますが、とても返事なんてしていられません。
(というか、お二人はなんで話せる余裕あるんですか!? あれですか? 魔法少女としての力量の差ってやつですか!?)
私たちを抱えてもすごいスピードで走れる凜さんに、接近してくる株分けをいとも簡単に蹴散らす夜明さん。トカゲほむらさんのくれた力で強化されているとはいえ、やはり別格だと思い知らされます。
ほむらさんもほむらさんで、矢の火力が凄まじく。ほとんどの株分けを一撃で落としていきます。1発1発がマミさんの簡易版ティロ・フィナーレくらいあるんじゃないでしょうか。
そのおかげか、私たちはこれを繰り返して、ようやく魔女の足下近くまでたどり着きます。
「よし! このまま足の下に滑り込んで……!」
凜さんがそこまで言ったときです。
魔女の身体から、私たちに向けて何かが射出されました。
また、未来視にない展開です。
「凜さん、なんか飛んできます!」
その正体は、なんと3体の株分けでした。
私は咄嗟に叫びましたが、この速度では凜さんも止まれません。
周りの株分けを追い払っていた夜明さんも、さすがに本体から直接射出される株分けには反応できず。
「くそっ!」
凜さんは全身を使って、私とほむらさんを前方、魔女の足下へと投げ飛ばします。
当然、そんなことをすれば凜さんは回避することが出来なくなり……。
直後、株分けたちが着弾し、凜さんを後ろへと大きく吹き飛ばしました。
Side RY
「凜さんっ!!」
まばゆの悲鳴が聞こえたのも一瞬。私は襲いかかってきた衝撃で、大きく後ろへと飛ばされる。
寸前に生みだした双刃刀で1体は斬り上げた感触があったが、残り2体に反応するほどの時間はなかった。
手からは既に双刃刀は無くなっており、私は名塚底根の壁を形成している水晶書庫に叩きつけられる。
「がはっ!」
ガシャン、とけたたましい音が背中側から響き、水晶の欠片が宙を舞う。
背中を思い切り強打したせいで力が入らず、私はズルズルと壁伝いに落下する。
不幸中の幸いだったのは、すぐ下に足場があったこと。
私は何冊かの魔女図鑑と一緒に、そこに倒れ込む。
痛みに悶えながら、私は自分の油断と先ほどの魔女の行動に思考を巡らせる。
(まばゆの未来視を絶対視していたわけじゃないけど、こうもまばゆの未来視を破られるなんて……)
これで、まばゆの未来視を上回られたのは2回目だ。
トカゲほむらの言う通り、象徴の魔女は過去や未来の株分けすら操っての因果干渉が行えるのだろう。
トカゲほむらは、この空間ならその力を封じたと言っていたけど、それはあくまで元の宇宙の株分けを操れないという話。
ここで新たに生まれた株分けは、また別に操れるのだろう。
それを用いて、まばゆの視た未来を、因果の流れを書き換えたのだ。
(この能力、まばゆの未来視と相性最悪だ。まばゆの未来視をこんな形で攻略されるなんて……)
私が思考を巡らせていると、そこへ降り注ぐ光。
どうやら、魔女がレーザーの狙いを私に向けているようだった。
(やばい……!)
私は即座に回避しようとするも、中々身体が動かない。
さっきのダメージと、強化モードを使った反動も原因だろう。どちらかだけなら動けたのに、よりによって同時使用したタイミングで被弾するなんて。
まばゆはもちろん、この距離では他の子たちも間に合わない。
私は手に双刃刀を生みだし、それを杖代わりに立ち上がる。
「なら……!」
ここで防御あるのみだ。
最悪、ソウルジェムさえ守れれば、胴体に大穴が空いてもなんとかなる。
そう思い、私は双刃刀を構える。
そんな私を嘲笑うかのように、魔女はこれまでより出力を上げたレーザーを放つ。
私は襲いかかるであろう熱と痛みを覚悟し、双刃刀を前へと突きだし、ギュッと目を瞑る。
それにより、気づかなかった。
足元に転がっていた魔女図鑑のいくつかが、勝手に開いたことに。
いつまで経っても衝撃が来ず、私は目を開ける。
「え……?」
状況を確認しようと目を開けた私は、思わず気の抜けた声を漏らす。
でも、仕方ないだろう。
私の目に飛び込んできたのは、私の盾になるように壁となる3体の魔女だったのだから。
そして、どの魔女も私の知っている魔女だった。
真ん中の魔女は、羊の角のようなパーツで構成された黒い切り絵のような魔女、『鏡の魔女』。
「みことちゃん……」
向かって左の魔女は、緑色のタコのような姿に、中央から1本伸びた人の腕のようなものがタロットカードを指し示している。
私の元に落ちてきた魔女図鑑のページに書かれた名前は、『
そして、ページにはこの魔女の元となった少女の名前も記されている。けど、そんなもの読むまでもなく、私は知っているが。
「メル……!」
最後に、向かって右の魔女。たくさんの影のような腕が釘を持った魔女。
かつて私たちが取り逃がし、メルの魔女化の原因になった魔女。そして、すみれさんによって討ち取られた魔女。
落ちてきたページを掴む。記された魔女の名は『批評家の魔女』。
そして、改めてこの魔女の元となった少女の確認するのと、すみれさんが叫んだのはほぼ同時だった。
「ふうか……!」
記されていた名前は、日暮ふうか。
私の頭を撫でてくれて、誰かのために一生懸命になれる、ちょっと不器用で格好よかったふうかさん、その人だった。
(ああ、やっぱり……)
すみれさんとの話で、ほぼ確信していたとはいえ、心のどこかでは勘違いかもしれないという気持ちもあった。
でも。未練を振り切るには、こんな再会がちょうど良かったかもしれない。
そこへ、走ってきたすみれさんが合流してくる。
「夕凪さん!! ご無事ですか!?」
「なんとか。すみれさんも無事でよかった」
私に大きなケガがないことを確認したすみれさんは胸を撫で下ろし、改めて魔女たちに視線を向ける。
「この魔女たちは一体……? そもそもどこから……」
「多分、これです」
私は魔女図鑑のページをすみれさんに見せる。
そのページはどれも、魔女の姿が描かれていたであろう部分が空白になっていた。
「魔女図鑑から抜け出たって、ことですか……?」
「確証はないですが。トカゲほむら風に言うなら、厳密には魔女本体ではなく、その姿を再現したハリボテなんでしょうけど……」
象徴の魔女が放つレーザーを、鏡の魔女は生みだした鏡で反射する。
卜者の魔女が指し示した方向へ、批評家の魔女が触腕を振るい、株分けたちを散らす。
彼女たちは、明確に象徴の魔女と敵対していた。
「私たちを、守ってる?」
「ええ。きっと私たちのピンチに、手を貸してくれる気なんですよ」
魔女にそんな性質、あるわけない。
けれど、彼女たちを見ていると、そうとしか思えなかった。
すると、卜者の魔女と一瞬だけ目が合った。
――凜、ボクらだって力になるですよ!
そんな声が、聞こえた気がする。
それが、きっかけだった。
(そうか、性質……!)
私はハッとして、改めて卜者の魔女を観察する。
(やっぱり……! 占いをやって、株分けの動きを読んでる)
魔女にどれだけ魔法少女時代の魔法が適用されるのかは分からないが、明らかに卜者の魔女はタロットカードで占いをしており、批評家の魔女と鏡の魔女に指示を出している。
そして、メルの魔法は……。
「すみれさん! 彼女たちが、逆転の一手になるかもしれません!」
「ど、どういうことですか?」
困惑するすみれさんに、私はまくし立てるように伝える。
「あの左の魔女。あれはメルの魔女です。メルの魔法は占いによる『結果の誘導』。擬似的な未来視もできますが、この魔法の本質は、未来を占いの結果通りに誘導することにあるんです!」
私は頭の中に浮かんだ作戦を忘れないためにも、早口で言葉を紡ぐ。
「そして、魔女も占いをして株分けの動きを読めている。ってことは、象徴の魔女の因果干渉の力にも対抗できるかもしれません! まばゆの未来視を破られた以上、対抗するにはこれしかありません!」
幸い、象徴の魔女は自分自身では動くこともできない。攻撃だって、レーザー以外は株分け任せだ。
つまり、株分けさえ抑えられれば、魔女の手足はほぼ無くなるようなもの。
「彼女たちに株分けたちの相手をしてもらっている間に、私たちが本体を叩く! どうですか!?」
私の問いかけに、すみれさんは。
「……夕凪さんの考えは分かりました。けど、この魔女たちはちゃんと協力してくれるでしょうか……」
不安そうに魔女たちを見つめるすみれさん。
それに対し、私は自信を持って答える。
「大丈夫ですよ。本から抜け出てまで私たちに協力してくれたんです。私はメルを、みことちゃんを、ふうかさんを信じます」
私の言葉に、すみれさんは目を見開く。
すみれさんも、批評家の魔女を見つめた後。
「……そうですね。ふうかたちを、信じましょう!」
力強い声でそう言った。
その言葉に、私も強く頷く。
「まずは、まばゆさんたちと合流しましょう!」
「ですね。咄嗟だったとはいえ、敵陣のど真ん中に放り投げて来ちゃったし」
すみれさんは、批評家の魔女の手に乗ると。
「ふうかたちはこのまま暴れて、株分けたちの注意を引いて! 株分けと本体を分断できれば、勝機はある!」
そう伝えた。
すると、批評家の魔女は腕の1本を動かし、親指と人差し指で丸を作る。オーケー、ということなのだろう。
おどろおどろしい魔女の姿で、その可愛らしい動作をするのがなんだか可笑しくて、私たちは思わず吹き出してしまう。
「ぷっ、あはは……。ふうか、その動きは反則……!」
「ホントですよ……! そんなフランクなポーズ、あはははっ……!」
「もう、これから戦うってときにふうかったら。ほんと、すっとこどっこいなんだから」
すみれさんは、目の端に浮かんだ涙を拭い、武器の釘を握る。
「さて。気を取り直して、いきましょう。夕凪さん!」
「はい!」
私たちは同時に飛び出した。
メルたちが加勢してくれたことで、形勢は一気に五分五分まで持ち込めた。
動けるようになったとはいえ、象徴の魔女は巨体だ。
私たちを捉えるのには、とても苦労しているようだった。
「はあっ!」
ほむらの放つ矢が、また1つ、魔女へと突き刺さる。そこへすかさず、私が切り込む。
反対側では、まばゆとすみれさんの連携攻撃が決まったようで、魔女の体勢が少し崩れる。
魔女は株分けたちを呼び寄せようとするが、メルたちの妨害で分断され、ほとんどの株分けはたどり着けていなかった。
だが、優勢なだけではない。
親衛隊とも呼ぶべき株分けたちは、魔女のすぐ側から離れようとせず、私たちを魔女の死角から追い出そうと攻撃を仕掛けてくる。
魔女も、レーザーをショットガンのように拡散させる撃ち方に変え、足下付近で戦う私たちに攻撃してくる。
それらを避け、再び斬りつける。
ダメージは確実に蓄積させられている。
いるが……。
「これ、あと何回繰り返せばいいの……!?」
何度攻撃しても終わりが見えない。
ワルプルギスの夜のときは、ほむらから事前に情報を聞いていたが、こっちは全くの未知だ。
以前すみれさんが株分け相手に二人がかりで夜通しかかったことを考えると、これでも大したダメージを負っていないのかもしれない。
そのため、状況は膠着状態となっていた。
これでは、魔女を倒す前にこちらが魔力切れになってしまいそうだ。
「トカゲほむらさん! なんか奥の手とかないんですか!? 目からビームとか、なんでも砕くカッターとか、悪魔パワー的なやつ!」
「あなた悪魔をなんだと思ってるのよ……。まず本体じゃない私にそこまでの悪魔の力は行使できないわ。仮に使えたとしても、ここは私の属する宇宙とは別の法則の働く空間。ここでは私の悪魔としての権能もほとんど使えないのよ」
縋り付くまばゆを、ばっさりと切り捨てるトカゲほむら。
「なによ、役に立たないわね」
「砂の落ちきった盾しか持ってないあなたにだけは言われたくないわ。私がいなきゃゴルフクラブ使ってるくせに」
「黙りなさい」
「ああ、ほらほら。ほむら同士でケンカしない」
一つの口を取り合ってケンカするほむらたち。
争っている場合ではないので私が止めに入るが、この二人、本人同士なのに仲が悪すぎる。もう少し仲良くしてほしい。
(いや、私も同じようなものか)
多分私も、もう一人の自分がいれば四六時中言い争いになっていただろう。まばゆと出会う前なら、殺し合い確定だ。
とにかく、トカゲほむらにも手札は残っていないということだった。
「じゃあ、私の未来視を使いましょう! なにか突破口を見つけられれば……」
「この状況では厳しいのでは……?」
すみれさんの言う通りだ。
未来視は、既に魔女に攻略されかけている。そんな未来を前提に動けば、逆に裏をかかれるリスクのほうが大きい。
第一、こんな敵の足元で互いを見つめ合うなんて隙、そうそう晒せない。
「まばゆの未来視は魔女には通じてない。まばゆの未来視で行動を決めるのは危険だと思う」
「そんな……!」
だが、まばゆのアイデアも、実のところ悪いものではない。
正直言って、私たちではこの戦況を動かせる手札は、これ以上持ち合わせていない。一発逆転を引き起こせる可能性があるのは、まばゆの魔法しかないのだ。
(なんとか、まばゆの魔法を上手く使えれば……!)
飛んでくる株分けたちを追い返しながら、私は必死に思考を巡らせる。
(なにか、まだ見落としているものはない? 私たちにできること、使えそうなもの、魔法。……魔法?)
そこまで考え、私の頭に電流が走るような閃きが巡る。
そうだ。
まだ明らかになっていない手札が1枚ある。それがジョーカーとなるかは分からないが、これならまばゆの魔法でなんとかなる。
「まばゆ! 未来視、使おう!」
「り、凜さん!? 夜明さんがさっき、未来視は厳しいって……」
「視る未来はそんな先じゃない。因果が定められなくても、確定して視られる未来はある!」
「な、なんですか?」
「私たち自身の、未来」
そう。敵の未来は変わっても、私たちに関することなら変わることはない。
それで、彼女の手札を明らかにする。
「まばゆ。未来視で、すみれさんの魔法を教えて」
「わ、私ですか!?」
驚く声をあげるすみれさん。だが、私はこれしかないと思っている。
今まで頭から抜け落ちていたが、彼女の魔法はまだ明らかになっていない。彼女自身、自分の魔法は知らないようだったが、まばゆなら正確に言い当てられる。
「やちよ先輩のときみたいに、未来視で答えを視てほしいの。それなら、数秒の隙で済む」
「……分かりました。善は急げです! 夜明さん、すみませんが私と目線を合わせてもらえますか!?」
まばゆが手を差し出すと、すみれさんは覚悟を決めたようにその手を取る。
「はい、お願いします」
私はほむらに声をかける。
「じゃあ、私たちは2人を守るよ!」
「任せなさい」
私とほむらは二人を挟み込むように陣取り、魔女と魔女から新たに生み出された株分けの攻撃を捌く。
一方のまばゆは、すみれさんと向き合う。
「それでは……。失礼します!」
まばゆの瞳が、その瞳の色と同じ紫紺に光り、未来視が発動する。
時間にして約5~6秒。
まばゆがすみれさんから離れる。
そしてまばゆが見せた顔は、私の好きな、いいことを思いついたような、にやけ顔だった。
「どう? 視えた!?」
「ええ、ええ。視えましたよ、夜明さんの魔法。彼女の魔法、それは……」
「絶望を切り離す魔法です!」
「絶望を……」
「切り離す……?」
私とすみれさんの声に、まばゆは力強く頷く。
「そうです。夜明さんの魔法は、魔法少女から絶望を、穢れを切り離すことができるんです。私に試してみてください」
まばゆはそう言うと、両手を広げる。
「私に、そんな力が……」
「大丈夫、あなた自身を信じてあげてください。あなたの、魔法少女を救いたい気持ちを魔力に乗せて」
まばゆの言葉に、すみれさんはゆっくりと頷き、まばゆへと手をかざす。
すると、すみれさんの手とまばゆのソウルジェムが光り、まばゆのソウルジェムに溜まっていた穢れが空中へと吐き出される。
今まで、グリーフシード以外ではほとんど浄化手段のなかった穢れが、たしかに分離していた。
「すごい……」
私はそれしか呟けなかった。
魔法を使うすみれさんは光に包まれ、救済の聖女のようだった。
すると、それを見ていたほむらが疑問を浮かべる。
「分離できるのはいいけど……。分離させた穢れはどうなるの?」
その問いにまばゆは答える。
「普通なら、そのまま空気中に散っていきます。大方、近くの魔女に吸収されて魔女のパワーアップに繋がるでしょうね」
「じゃあダメじゃない! その魔法使ったら象徴の魔女が強化されて、どのみち倒せなくなるだけでしょ!」
「……いえ、そうはならないはずよ。ね、まばゆ?」
トカゲほむらは何かに気づいたのか、まばゆを見る。
すると、まばゆはトカゲほむらの問いに頷く。
「ええ。さっき言いましたよね? 普通ならって」
「どういうこと?」
「暁美ほむら。あなたは忘れたのかしら? 私がまばゆたちに何の力を渡したのか。まばゆたちが今も纏っているソレは何なのか」
「あっ……」
トカゲほむらの言葉で、全員が気づく。
「そうです。今回の場合だけですが、切り離した穢れは私たちが纏う魔女の境界……、ドッペルでしたっけ? それが吸収してくれます」
「つまり魔法少女の魔力を回復させ、そして分離させた穢れでドッペルも強化できるって感じ?」
「凜さんの言うとおりです。これなら、夜明さんの魔力が続く限りは、無限にパワーアップし続け、戦い続けられるってわけです」
それに、とまばゆは付け足す。
「絶望を切り離す力は、その身を呪いと絶望で構成している魔女そのものに特効となります。恐らく、夜明さんの攻撃力がとても高いのも、それが要因だったのではないかと」
まばゆの説明に、私はすみれさんの力が腑に落ちる。
たしかに、あれだけ強力な株分けですら一撃で倒す、すみれさんの攻撃力は異常だった。私も道中、すみれさんと同じくらいの速度で株分けを倒して来たが、あれは高速の連撃で素早く倒しているだけで、一撃で倒すのは最初の方の株分けが限界だった。
昨日聞いた思い出話の中ですみれさんは、初陣で魔女を一撃で倒したと言っていた。そこまで強い魔女じゃなかったから、と本人は謙遜していたが、それでも契約したてで魔女を一撃は、普通あり得ない。
それも、この魔法が関わっていたなら納得がいく。
「夜明さん。あなたがいれば、きっと勝てます!」
まばゆの言葉に、すみれさんは覚悟を決めた顔で頷いた。
「……お任せください! みなさんのことは、私が救ってみせます」
そう言うと、私、まばゆに魔法を付与する。
私の穢れも分離され、纏ったドッペルへと吸収される。その瞬間、身体が軽くなり、ドッペルも心なしか生き生きしているように見えた。
ちなみに、すみれさん自身にこの魔法は適用されないようだった。
だからこそ、まばゆもすみれさんの魔力が続く限りは、と言ったのだろう。
そして、すみれさんがほむらたちにも魔法をかけようとしたところで、トカゲほむらが止める。
「私たちには魔法は不要よ。私たちはドッペルを纏っていない。穢れを放出すれば、象徴の魔女に吸収される」
「ですが……」
「問題ないわ。仮にも悪魔の力の一端が宿っているんだもの。この身体に負担はかけさせないわ」
「……さっき悪魔の力は使えないって言った癖に」
「黙りなさい」
ボソッと呟いたまばゆを睨み付けるトカゲほむら。
そのやり取りに笑いつつ、私はみんなを見る。
「じゃあ早速、この力で反撃といこうか。ちょうど、いい作戦を思いついたし」
私はみんなに作戦を共有し、みんなもそれに頷く。
「ギリギリですが、やるしかないですね!」
両手で拳を握るすみれさん。
すると、株分けでは埒が明かないと思ったのか、魔女本体が大きく跳躍する。
「みんな、頼んだよ!」
私の号令に全員が頷き、各々散らばって魔女のボディプレスを回避する。
(まずは魔女の機動力を削ぐ! 魔女を支えている株分けは6体! そいつらから倒す!)
先ほどから魔女が動けているのは、その株分け頼りだ。
今跳躍したのだって、正確には魔女が指示を出して株分けたちに跳躍させたに過ぎない。本体部分は、最初に戦ったときからずっと動くことが出来ないのだ。
(すみれさんには魔力を温存してもらいたいし、ほむらにはこの後の準備がある。だから……!)
私は支えの株分けからの火炎弾を避け、その身体を株分けの1体に向ける。
(まずは私とまばゆで6体を倒しきる!)
強化モードへと変身し、地面にクレーターを作るほどの踏み込みで株分けに突っ込む。
「はああああああっ!!」
すれ違いざまの一撃で、株分けの身体に大きな傷をつける。
すぐさま振り返り、傷をつけた箇所へ再度突撃。邪魔をしようとする使い魔たちの壁ができる前に、その間をすり抜け、株分けに双刃刀を突き刺す。
そのまま魔女を乗せた神輿から弾き飛ばし、壁に叩きつける。動かれる前に地面を蹴り、株分けにひざ蹴りをお見舞いする。最後に双刃刀の乱撃でトドメ。
「まず1体!」
私はすぐさま振り返り、2体目の支えに飛び込む。
(時間がない。魔女が次の株分けを生み出す前に!)
魔女が最初に引き連れてきた株分けたちは、メルが引きつけてくれている。
だが、先ほどから一定間隔で、魔女から新たな株分けを生まれ続けていた。
そのため、支えを倒すのに時間をかけてしまうと、新たに生まれた株分けが補充されてしまうのだ。
(次が生まれる前に全部倒しきる!)
2体目に近づき、両方の刃に魔力を込める。
「炎雷斬舞!」
炎と雷の斬撃が株分けを焼き、その身体を爆散させる。
「2体!」
ここで株分けたちは、私を最優先の脅威と捉えたのか、残る支えの株分けが私に目がけ、光弾と火炎弾を次々と撃ってくる。
お互いの攻撃が当たってしまうことも厭わない弾幕に、私はバク転で後ろへ下がる。
「くっ!」
こんなことで時間を稼がれては、この先の体力も保たない。
そう考えた私は、後ろへの回避を止め、横へと走り出す。
私のすぐ後ろを追いかけるように、光弾と火炎弾の嵐によって生まれた爆炎が迫る。
一瞬でも足を止めれば蜂の巣になる。
そんな攻撃を後ろに感じながら、私は魔女を中心に円を描くように走る。
走って、走って、走り続けて。
(ここだ!)
私は狙いの地点にたどり着いたことで、急ブレーキをかける。
当然、止まった私を攻撃しようとする株分けたちだったが。
私が足を止めた場所は、支えの株分けの1体、その目の前。
私の目の前の株分け以外の射線が、他ならぬ目の前の株分けの身体によって遮られ、私の前の株分けは味方からの攻撃をその背中に一身に受けることになる。
そこへ挟み込む形で、私も前から攻撃を仕掛け、脆くなった株分けを一刀両断する。
「3!」
だが当然、盾を失った私は、後ろの株分けたちからの攻撃を受けることになる。
普通なら。
「や、やああああああ!!」
しかし、私は走っている途中で気づいていた。
そのうち1体にまばゆがこっそり近づいていることに。
私の意図を汲んでくれたのだろう。私が攻撃を仕掛けたと同時にまばゆも攻撃したようで、1体の株分けはまばゆを追い払うのに必死だった。
おかげで私に飛んできたのは、2体分の弾幕。これなら、すり抜けられる。
私は火炎弾の隙間を速度を落とさずに抜け、4体目に飛びかかる。
「くらええええ!!」
私は株分けに双刃刀を突き刺し、そのまま螺旋状に株分けの身体を走り、その身体を切り裂いていく。
魔女も私を振り払おうと暴れ、火球を自身の身体の上で炸裂させる。
それを私は、双刃刀をプロペラのように回し、降りかかる火の粉を弾く。
それでも尚、火球をチャージする株分け。私は、炎が溜まっているそのラッパ部分に、持っていた双刃刀を円盤のように投げる。
双刃刀が命中し、チャージされていた炎は形を崩し、爆発する。
私は間髪を入れず、爆発によって亀裂の入った株分けの身体に、思い切り拳を叩きつけた。
「せりゃああああっ!」
拳の衝撃で、亀裂は一瞬で株分けの全身を駆け巡り、次の瞬間には木っ端微塵に砕け散る。
「4!」
それとほぼ同時。反対側で1体の株分けが崩れ落ちる。まばゆも1体倒したのだ。
あと1体。
私は最後の1体に向かって走る。
まばゆも同じく走り出し、私たちは株分けを挟み込むように残り1体に迫る。
「まばゆ!」
「凜さん!」
私の呼びかけにまばゆが応じ、私は株分けを攻撃せずにその横をすり抜ける。
そして、まばゆとすれ違う瞬間。
私とまばゆは、お互いに手を伸ばし。
「「コネクト!!」」
すれ違いざまにハイタッチでコネクトを発動する。
魔力の共鳴を感じたと同時。私とまばゆは足で半円を描きながらUターン。
そのまま、今度こそ株分けを挟撃する。
私たちは同時に双刃刀とハサミを突きだし。
「「ティロ・デュエット!!!」」
マミちゃん直伝の一撃で、株分けを貫いた。
株分けはたまらず爆散。
私はすぐにまばゆを抱きかかえ、支えを失って横転する魔女の足下から避難する。
凄まじい衝撃音を立てながら、象徴の魔女は横倒しになる。
その余波に巻き込まれないよう、高いところにある水晶書庫の足場に飛び移り、ほむら、すみれさんと合流する。
「よくやったわ、まばゆ、凜」
「こっちも準備オッケーです!」
「ありがとう、お願い!」
私の言葉にほむらは頷くと、自身の持つ弓を大きなサイズへと変える。
そして、用意していた光の矢を、その弓につがえる。
その矢尻に取り付けられているのは、すみれさんの魔力を込めた釘だ。矢のサイズに合うよう、サイズを小さめにしたその釘は、たしかな光を携え、その切っ先を光らせる。
「はあっ!」
その矢をほむらが放ち、次々と魔女へと撃ち込んでいく。
百発百中という言葉はこの時のためにあるのだと思うほど正確な射撃で、ほむらは目的の場所に矢を当てていく。
「これで……ラスト!」
最後の一射も完璧に決めたほむら。矢は全て、魔女の身体の狙った部位に突き刺さっていた。
「あとは、私が!」
すみれさんが、彼女の持つ巨大な釘に魔力を注ぎ込む。
これを魔女へと突き刺し、先ほど魔女へと突き刺した釘を連鎖的に炸裂させる。そうすれば、すみれさんの魔法も相まって、如何に巨大な魔女であろうとも砕けけ散るのは間違いない。
工事などで石を割る際にも用いられる方法の応用だ。すみれさんが提案してくれたこの方法で、確実にトドメを刺す。
と、倒れていた魔女の陰陽玉がギョロリとこちらを向いた、ように見えた。
次の瞬間、その陰陽玉が光る。
「危ない!」
まばゆが私たちの前に出て、レーザーを防ぐ。が、咄嗟だったからか、1撃を防いだところでまばゆも吹き飛ばされてしまう。
「まばゆさん!」
「私に構わないで! いってください、夜明さん!」
「ごめんなさい、まばゆさん!」
すみれさんはそう謝罪を口にし、それと同時に魔女へと飛び出す。
「ですが、これで終わりです!!」
すみれさん自身が1本の矢のように、魔女へと向かっていく。
魔女もレーザーで迎撃しようとするも、すみれさんのほうが速い。
自由落下の速度も乗せた1撃は確実に魔女の陰陽玉を捉え、その内部へと深々と刺さる。
「っ!」
すみれさんが魔女から飛び退き、指を鳴らす。
すると、それを合図に、すみれさんの突き刺した釘が爆発する。
その爆発は、魔女に刺さっていた釘を次々に起爆し、魔女の全身で大爆発を起こした。
「やったかしら!?」
「あっ、ほむらさんそれ禁句!」
ほむらがフラグを口走るのを横目に、私は魔女目がけて飛び降りる。
当然、あれで倒しきれないことは想定済みだ。
目下には、満身創痍ながらも蠢く魔女。魔女は地面を転がるすみれさんに狙いを定めていた。
「悪いけど、させないよ!!」
私は渾身の力を込めて、双刃刀を振り下ろした。
「リベリオーネ……、デスティーノ!!」
その一撃は魔女の芯を捉え、今度こそ魔女は完全に沈黙した。
「ハァ、ハァ、ハァ……」
完全に力を使い切った私は、大きく肩で息をする。
上手く足に力が入らず、前のめりに倒れそうになる。
その寸前で、横から差し出された腕に支えられる。
「凜さん!」
「まばゆ、ありがと……」
「もう。今回も無茶ばっかりでしたね」
「ハハハ……。ごめんて」
「別にいいですよー」
不満そうなジト目で見られ、苦笑いするしかない。
「夕凪さーん!」
すると、私たちのところにすみれさんが駆け寄ってくる。
「すみれさん、ケガは?」
「これくらい、へのかっぱです。夕凪さんもご無事でよかったです」
衣装の汚れを落としながら、すみれさんは笑う。
「全員、無事なようね」
上からほむらも降りてくる。
「ほむらたちもありがとうね。おかげで倒せた」
「別に。当然のことをしたまでよ」
照れているのか、そっぽを向いて答えるほむら。
相変わらずの態度に、思わず笑ってしまう。
その時だった。
「えっ……」
突然、ほむらからそんな声が漏れた。彼女は目を見開き、固まってしまっていた。
「ほむら……?」
「どうかしました?」
私とまばゆが声をかけても、返事はない。
私とまばゆは顔を見合わせてしまう。
ほむらの身に何が起きたか、私たちには全く分からなかった。
「そう……。それが、運命なのね……」
そんな中、ほむらがボソリと呟く。
「ほむら? ねえ、ほんとにどうしたの? 大丈夫?」
私は、まばゆに支えられながらほむらに近づく。
すると、今度は私の声に反応したほむら。
彼女は私のほうを見る。
「ごめんなさい。暁美ほむらは悪くないわ。悪いのは私よ」
そう答えたのは、トカゲほむらだった。
「私が彼女との同調を乱してしまった。悪かったわ」
「そうだったんですか? でも、どうして? そんな、動揺するようなことでも……?」
まばゆの問いに、トカゲほむらは力なく頷く。
私とすみれさんも、彼女たちの側に寄る。
私たちが近づいたタイミングで、トカゲほむらは口を開いた。
「今さっき、私の本体のいる宇宙に、円環の理がやって来たわ。暁美ほむらがもぎ取った力と、人としてのまどかを取り返しにね」
つまり……。
トカゲほむらは心底悔しそうに、私たちに告げた。
「残念だけれど、タイムアップよ」
すみれちゃんの魔法は、完全に本作オリジナル設定です。
彼女の魔法はかなり深く考えましたが、魔法少女の魔法が願い事に深く関わることと、願いが『私が巻き込んでしまった人達を絶望から救って』だったこと。特に『絶望から救う』という点が、マルグリートの願いと近いものがあったので、似たような魔法じゃないのかなと思いました。魔法少女を救いたいという志を持った点も同じですし。
それと、すみれちゃんが魔法を自覚していないことから、日常使いするような魔法じゃないという点と、キュゥべえが教えたがらなそうな点から、『穢れの分離』という魔法にしました。
劇中で説明ある通り、本作のすみれちゃんの魔法はあくまで穢れをソウルジェムから分離させるだけで、穢れの回収まではできません。なので通常なら、分離した穢れは周りの魔女に吸収され、結果敵に魔女を強化してしまう、使い勝手の悪い魔法です。