鬼には笑顔がよく似合う   作:努舞我獲留

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主人公のちょっとした過去編です。そんな長くもないので気楽にお読みください。


プロローグ

 

 

 幼い日の憧憬。オレにとってそれは、正義のヒーローでも悪の魔王でもなかった。

 ただ気まぐれに行動し、その存在だけで周囲へ被害を与えてしまうような存在──

 

 

 

 

──怪物

 

 

 

 それは酷く強大で、理不尽で、非現実に塗れていた。

 だから──

 

 

 

 ソレになってしまった時、あんなにもオレの心は揺れたんだ。

 

 

 

 

 

 

 始まりは何てことない普通のこと。

 まだ幼かったオレたち兄弟は、両親のもとで一緒になってテレビの番組を見ていた。それはいつもの日常だったし、オレたち兄弟も両親と居られるのを無邪気に喜んでいた。

 優しくも厳しい母と、おちゃらながらも温かい父…けどオレたちにつける名前が中2病くさいのだけは何とかならなかったのか…?

 …それはともかく、二人の両親と双子の弟に囲まれたいつも通りの優しい日常。

 でも、その日、オレたちの価値観は一変した。…憧れができたのだ。

 

 光の戦士と、怪獣たちが戦う作品。たまたまテレビを見る時間が被り、家族団欒の場に映し出されたソレ。

 目についたのはトゲトゲの鱗、鋭い爪、並び立てぬ巨体、オレは、怪物に憧れた。

 

 

 …別に、光の戦士が嫌いというわけではない、むしろ大好きな部類だ。もちろん、その戦い方だって真似して習得した。

 ただそれ以上に──怪物が大大大好きだっただけ。…ただ、弟は光の戦士の方が好きだったみたいだけど。

 

 まぁそんなことだから弟との闘いごっこは基本、オレが怪獣側で、弟が戦士側だった。

 おかげで当時のオレは怪獣擬態のプロだった。…流石に人前ではしてないけどね。弟との、二人だけの秘密だった。

 

 

 実はオレたち兄弟は揃いも揃って内気な性格で、一緒に保育所に入ったものの、はしゃぎ盛りの子供達がいる保育所では少し浮いていた。

 でも、ただ俯くばかりで何もできないオレとは違って、弟は近くの奴らに話しかけて、ちゃんと輪に入っていった。

 オレは勝手に置いて行かれたような気になって、ひとりぼっちで不貞腐れてた。

 だから

 

「にいちゃん、いっしょにあそぼ?」

 

 その言葉を聞いた時、オレは嬉しさと安心感で泣いてしまった。困惑して一緒に泣き出してしまった弟の顔を、オレは今でも覚えてる。

 

 

 その後、成長に伴ってオレたちは外で次第に絡まなくなっていた。

 オレは俗に言うヤンキーグループに入り、弟は大人しい奴らとつるんむことになっていった。

 その頃になると、オレの好きなものの幅も広がり、怪獣はもちろん、怪獣、恐竜、爬虫類、魚、昆虫、妖怪、悪魔、怪人、エトセトラetc…。人外の化け物、それらがオレの好きなものに入っていった。それには時節、悪の側面を持つキャラクターもいたが、それもオレのなかで好きなものに変わって行った。

 そして、こんなくだらない話を、家の中で弟としていた。あいつは、正義のヒーローや優しい人間が好きらしい。素直にお似合いだと思った。弟に、悪は似合わないから。

 

 オレたちが関わるのはオレの部屋の中だけ、理由はオレがヤンキーのせいで、優等生の弟に迷惑がかかると思ったからだ。あいつは「気にしないでいいよ、兄さん」なんて言っていたが、流石に申し訳なくてできなかった。

 でも、それがいけなかった。オレはあの時、弟の優しさに甘えるべきだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ、失ってから気づくうんぬんって言葉、本当なんだな」

 

 大人たちが使う言葉は、案外真理をついていたのかもしれない。それを今更理解し、実感した。

 

「オレが悪ぃんだ。オレが、バカだったから、こんな事になっちまった。…許してくれとは言わねぇ、なんて……伝えられねぇのに何を言ってんだろうな」

 

 尻型に凹んだ絨毯から、その下のフローリングの硬さを感じながら一人ごちる。

 

「未熟なオレが選んだ、未熟な思考と未熟な行動。その行動の果ては、全てが取り返しのつかない事実という結果と、オレが知る限り最悪の結末だ」

 

 誰にも聞かせられない話を、オレたちがこっそり話し合う場所。オレたちが唯一気兼ねなく話せる場所…そう、思っていたのはオレだけだったのか?

 

「…今は正直、なんの気力も湧かねぇ…。でもよ、わかったんだ。オレが、これからどうしていきたいか」

 

 自分の本心に気づくのにひどく時間がかかってしまった。この気持ちの原動力なんて、ずっと知っていたのに。

 

 

 

「オレは、怪物になるよ」

 

 ───

 

「酷く強大で、理不尽で、非現実に塗れた存在。…そんで、気がついたら世界の真理をひっくり返してるような、そんな怪物に」

 

 バカな話だ。自分でもそう思う。誰が聞いても狂人の妄言としか捉えないだろう。

 

「お前が知ったらどんな反応するんだろうな。…案外、普通に「ほどほどにね、兄さん」なんて言うのかもな」

 

 ゆっくりと立ち上がる。数時間ぶりに動かした体は、ガチガチに凝り固まっていてところどころに痛みを感じる。…だけど、それすらも今は丁度いい罰に感じる。

 

「今すぐにはなれないことは承知だ。だから何か『きっかけ』が一つあれば、オレは怪物になる」

 

 暗闇を睨み、胸に誓った確かな決意を口に出す。

 

「…だから、もしオレが怪物になって、世界の真理がひっくり返った後…また、出会えたら」

 

 拳を握る。爪が食い込んで血が出そうなほどに

 

 

 

「オレの『謝らせてほしい』ってワガママを、聞いてくれねぇかな…?」

 

 

 

 静かな部屋の中、ただ独りそう願った。

 

 

 

 

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