旅を終え、新たな目標へ向かった2人の若者。数年の時を越え、1つ先のステージを進む時、彼らは何を交わすのか

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夢路の先で

ー拝啓 リーグのみんな

きっと今、俺がいなくて慌ててると思います。だから先に言っておきます。武者修行の旅に行ってきます!きっと何年かして世界最強になって帰ってくるから!世界の色んな地方に行って、色んなトレーナーと戦って、色んなポケモンに出会う。それが当面の目的…のつもり。だから俺の捜索はしなくて大丈夫です。あ、でももし会いたくなったら頑張って探してね。流石にウルトラホール入るつもりはないから探せるはず。

追記 リーグの仕事はしばらくハウに任せるよ。引継ぎ書類は作っといたから大丈夫だよね?マラサダ奢るから…許して…。みんなも気遣ってあげてください。

 

 

 この書置きを残し、若きリーグチャンピオンは忽然と姿を消した。現在アローラリーグは必死の捜索を行っている…か。探さなくていいって言ってるのに…」

 

 ペリッパーから受け取った新聞を読みながらボヤく。

 ベンチに寝転がっているせいか垂れてきた帽子をかぶり直し、腰を上げる。

 

「ありがとね、ペリッパー」

「ペー」

 

 代金と一緒に気持ちばかりのポケモンフーズを渡す。受け取ったペリッパーは代金を確認するとフーズを美味しそうに飲みこみ飛び立っていった。大きな羽が船から飛び上がるさまはいつ見ても壮大だ。

 あっという間に小さくなるペリッパーを見て、その飛行速度にも、船の進む速度にも感心する。船の上での情報入手手段はペリッパー新聞くらいしかない為、やっぱり彼らの存在は大きい。

 

「ボクも忘れないで欲しいロト~。ボクだってニュース位…」

「まだインターネット接続できないじゃん」

 

 ポケデックスロトム、通称ロトム図鑑が出てきて呼びかけてくる。数年前博士に貰った機体をまだ愛用しているせいか、所々ボロくなった機体を優しく撫でる。

 すると冒険の記憶が蘇ってきた。島々を巡り幾多のポケモンやトレーナーと戦った記憶。その思い出のすべてがこの機体に詰まっていた。

 

「大丈夫。向こうに着いたら、機種変してやるから」

 

 最近増えてきたロトム対応スマートフォン、スマホロトム。それに機種変を行う予定だ。新たな門出に新たな機体は相応しいだろう。

 さて、カントー(生まれ故郷)まで残り丸一日。次にニュースを目にするのは陸に上がってからだろう。

 

「ジュナッ」

 

 横にいるジュナイパーが新聞をねだる。しまめぐりしていた頃からこの子はパーティーの長としてしっかりしていた。その一環なのか、新聞を読む習慣まで手にしてしまっていたのだ。ポケモンは人の言葉を理解する、という通説はこれまで何度も経験してきたが文字まで理解できるとは、と目を丸くしたことを覚えている。

 ジュナイパーに新聞を渡し手ぶらになった右手を遊ばせているとふと、横で柔らかな感触がした。目をやればそれはチルタリスだった。ジュナイパーとセットで俺を挟むように陣取り丸まって寝ている綿玉をそっと撫でる。

 この世に存在する何よりも柔らかく暖かい翼に手が吸い込まれてしまう。ガキの頃はこうやって一緒に寝たっけ。カントー時代から共に過ごしてきた兄弟との思い出を想起する。

 

「お、ペリッパー新聞っスカ」

 

 甲板に人が上がって来た。黒タンクトップとバンダナマスク、骸骨を模した白いバンダナを頭に巻いた変なカッコウ。数年前、俺がしまめぐり中にボコボコにしたならず者集団の一人だ。

 今回、実力で黙らせて半ば無理矢理船を出してもらっている。こうして強引な手段を選んだのは訳がある。飛行機チケットを取って正規の手段で旅立っても、向こうの空港でエーテル財団に捕えられて終わりのオチが見えたので不正出国という方法を選んだのだ。

 

「今ジュナイパーが読んでるんで少し待っててくださいね」

「新聞…読むんスね」

「珍しい奴です」

 

 ケタケタと笑いながら返答する。確かに珍しい。だがそのお陰で何度も命を救われたのだ。あの子を守れたのだ。俺はそんな個性を喜ばしく思っているさ。

 

「そろそろ朝飯お願いしてもいいっスカ」

「旅する男の雑な飯ならいくらでも」

「それが一番いいっス」

 

 チェアから降りて台所に向かう。朝だしサンドイッチなんかが良さそうだ。そう思い冷蔵庫を漁ると、シチューのルーを見つけた。

 

「こんな事で…君を思い出すなんてね」

 

 しまめぐりの最中、あの子に作ってもらったシチューを思い出す。…十数年の中のほんの数ヶ月。短い時間だったけど、その時間を思い出させる物はこの世にありふれている。それこそ1日に何回も思い出してしまう程。

 その中で一際強く思い出すのが彼女…リーリエとの思い出だった。彼女との思い出一つ一つがダイヤモンドみたいにギラギラ輝いて心を締め付ける。一瞬一瞬を写真に収めたみたいに鮮明に思い出せる。永遠に心を掴んで離さない。それは…

 

「恋…」

 

 そのものだった。…もう数年経つんだ。いい加減忘れよう。そう思ってチャンピオンの仕事に没頭すればする程リーリエへの想いは溢れてくる。欲望ってやつはいつもそうだ。抑えれば抑えるほど際限なく増えてくる。

 

「ガウ」

「ルガルガン…」

 

 少し感傷に浸りすぎた。思い出に浸かった心をルガルガンが引き戻してくれた。

 そうだよな。それはこの旅の最終目標だもんな。

 …ヨシ、せっかくだし朝からシチューにしよっか。最終目標を思い出した物を最初に食べる…。それもまたロマンティックじゃないだろうか。

 

「っし!待ってろよ〜すぐ美味しい奴作ってやるからな〜」

 

 コンロを点火する。青く灯る炎は僕の恋の様に熱く燃えていた。

 

 

______

 

 

 

『頼んだぞリーリエ。あのバカ…間違いなくお前の所に行くだろうからな…』

「そんな…お兄さま…えへへ…」

『クソッ…アイツ…リーリエをこれだけ誑かしやがって…』

 

 画面越しにやれやれと前髪を抑える兄さまを見て少しはにかむ。そんな笑い事ではないと自覚していても尚、頬の熱はお構い無しに高まっていく。

 

「あら?あの子…そんなに情熱的だったの?」

「か、母さま!?」

 

 騒がしくしすぎただろうか。母さまが起きてきてしまった。

 ウルトラビーストの毒に悩まされ、その治療のために来たこのハナダシティ。マサキさんという方の協力でこの数年間、治療に当たっていた。努力の甲斐あってか、今ではある程度自由に買い物に行けるくらいに回復している。

 それでも…わたしとしては安静でいて欲しい気持ちが大きい。心配なものは心配なのだ。

 

『母さん…起こしてしまったか…すまない』

「いいのよ。たまたま耳に入っただけで元から起きてたわ」

 

 あの人が居なくなったのが発覚してすぐ、兄さまはこうして電話を掛けてくれた。朝、仕事部屋に行ったら書き置きが残されていたらしい。彼が逃げる先がわたしの所、という変な信頼が不思議と嬉しい。

 会話内容はいつの間にかお母さまが兄さまを褒めちぎる方向になっていて、兄さまがタジタジしている。ふふっ、兄さま、照れてる。なんだか懐かしくて…嬉しいです。

 

 

______

 

 

 

 あっという間に夕方になった。今日1日、あの人がいつ来るのかななんて思いながら過ごしていたが…結局杞憂に終わりそうだ。

 

「…片思い、だったのでしょうか」

 

 兄さまはああ言ってくださったけど…彼の周りには素敵な人が多い。スイレンさんやマオさん、ハプウさんだって同性のわたしから見ても可愛いと思う。わたしがいない間にも何度か逢瀬は重ねているだろう。数年間も会っていないわたしに勝てる理由は無かった。

 きっと今頃どこかの地方を旅しているのだろう。バトルする事を何よりも楽しんでいた人だ。アローラになかったジム巡りする姿はとてもサマになるだろう。

 スーパーマーケットからの帰り道、ふと大きな音がした。音の方を見るとハナダジムからだった。…そう、きっとあの人はこんな風にジムバトルをしているのだろう。

 

「手紙…?」

 

 家に着くと郵便受けに一通の手紙が入っていた。便箋はトロピカルメール、アローラをイメージしたのでしょうか。普通ならば消印が着いているはずが着いていないのが気になった。直接投函した…?

 

「あ、そのお手紙ね。なんか…リーリエちゃんのお友達さんからなのよ」

 

 マンションの管理人さんから声がかかった。なんでも…買い物に行っている最中、わたしと同じくらいの歳の男性が尋ねてきたらしい。

 一つ、思い当たる人がいた。この人であって欲しいとさえ思った。もし…この願いが叶うなら…。もし…この望みが届くなら…。ただただ切望した。

 

「帽子?あぁ…確かに被ってたね。黒くて…青いツバのキャップの…って、リーリエちゃん!?」

 

 どれだけ会いたいと望んだだろうか。今最も優先すべき事は見えているし、それに向けてゼンリョクで日々を送ってきた。それでも貴方に会いたいという気持ちは尽きるどころか増す一方。この気持ちに何度も振り回されて…悩まされて…それでも抱き続けた。恋…という何者にも変え難い愛おしい感情を。

 わたしが恋する貴方がこの街に来てくれた。わたしを求めて来てくれた。その事実だけで心に羽が生えて飛び立つ様な感覚で満たされる。

 貴方の所に行きたい。刹那の思案も要らない。ただ今は足を動かすだけだ。

 

 

______

 

 

 

 まずはハナダジムに向かった。でももうジムバトルは終わっていて、そこには激しい戦いの跡だけが残されていた。

 また走り出した。

 走って走って、ようやく彼を見つけられたのは日が暮れかけた頃だった。

 

「ーーーさん!」

 

 昔と変わらない、少し大股で楽しげな歩き方。わたしより大きくなっても纏っている雰囲気は同じ、優しさと頼もしさがたくさん乗っかった背中。あの頃から変わらない、シンプルな黒いキャップ。服やリュックは新調されていたが、それでも一目で分かった。

 

「あっ、リーリエ!手紙読んでないでしょ〜」

 

 わたしの声に気が付き振り向いて言われた第一声。確かに読んでいない。それに気が付き、少し歪んでしまった便箋から中身を取り出し読み始めた。

 

ー拝啓 リーリエ

グラジオ辺りから話は通ってるかな?僕は今武者修行の旅としてカントーに来てます。最初に来たのはもちろんハナダシティ。君のいる街に来たかったんだ。

この手紙を読んでる頃は…きっとハナダジムかな。カントーのジムは初めてだから少し緊張するよ。

本当は君に会いたい。会って、沢山お話したい。でもまだそれはしません。君にも、僕にも、やらなきゃいけない事があるから。それが全部終わった時、ちゃんと会って、話して、…リーリエが嫌じゃないなら一緒に旅をしよう。今度は君を守る旅じゃない。同じポケモントレーナーとして、並んで歩く旅を。

一先ずは………カントー。生まれ故郷のリーグを制覇する。それが終わった時もしルザミーネさんの体が良くなってたら…連絡が欲しい。連絡先はその時もう1回手紙を送るから、そこにある番号に送ってね。

まだまだ書き足りないけど終わりが見えなくなりそうだからここまでにします。続きは会って話そうね。

 

 手紙を読み終えたわたしはパッと顔を上げた。…彼の想いを、無下にしてしまった。申し訳なさでいっぱいだった。謝りたくなった。

 声を出そうとした瞬間、彼の指が唇に当てられた。

 

「今回はノーカン。それと次会う時はちゃんとした笑顔で…ね?」

 

 そして振り返り、そのまま道を進んで行った。それに釣られてわたしも振り返り、ハナダシティに帰っていく。

 言葉は要らない。掛けちゃいけない。離れていても、話さなくても、わたしたちの心は一緒なのが分かったから。

 おちゃらけて、強いつもりで振舞っていてもバレバレだった。彼の目に涙が浮かんでいた。それでも笑っていた。気付けばわたしも同じ様に笑いながら涙を流していた。

 全く別の道へ進む為の別れはこれで二度目。それなのに別れるなんて気持ちが一切湧いてこない。それはきっと、貴方と同じ気持ちだって…2人とも変わらない想いを抱いていたんだって気が付いたから。




定期的リーリエ熱が燃え上がる男!アテル!
今後ともよろしくお願いします

もしかしたらシリーズする…かも?それする時ってサンムーンリメイク来る時ですか?

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