晴嵐   作:おいかぜ

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晴嵐

 

 ──今夜は、台風が来るからね。絶対にお外に出ちゃダメよ。お家にいれば大丈夫だからね。

 

 保育園から帰ってきて、夕方のニュース番組をぼうっと眺めていたと思う。ニュース番組が終われば、アニメの時間になる。それが待ち遠しくて、リモコンを握り締めたままソファに座っていた。

 うん、と気もそぞろに頷いたのを見届けて、「お父さんになるべく早く帰るように言っておくから」とお母さんは仕事に出かけて行った。

 

 我に返ったのは、アニメが終わったあとだった。びゅうびゅうと唸るような音が家の外から響いて、窓をガタガタと揺らした。恐る恐るカーテンを開けると、電線がたわむように揺れていた。

 家ごと吹き飛ばされてしまうんじゃないか、と怖くなって、昼寝の時にいつも使っているスヌーピーのブランケットにしがみついた。

 

 家全体が、ゆっくりと揺れているような気がした。恐ろしくて、固く目を瞑った。叩きつけるような雨音に幾分かき消されたテレビの音が、雑音となって時間の経過を伝えていた。

 

 

 


 

 

 

 冬と春の境目はどこにあるんだろう。

 目覚まし時計のような雷が鳴って、嵐が来たら春なのか。それとも、梅や桜が咲いたら春なのか。もしくは、3月からが春だって決まっているのか。

 

 暖かくなったら春、というような曖昧な基準なら、今日はまだ春じゃないことになる。

 二つ年上の先輩を見送った、中学一年生の卒業式の帰路。部活で関わりのあった先輩も卒業してしまったけれど、やっぱり私は泣けなかった。クラスメイトの子達が先輩達の涙につられて貰い泣きをしているのに交じって、いつも通り戸惑っている私が立ち尽くしていた。

 

 どうして私はこうなんだろう。変わっているね、とか、不思議な子だね、と言われることにも慣れてしまった。けれどもその度に、灰色の埃みたいな感情が心にひとつ積もる。

 嘘泣きでもしてみれば、感情はあとからついてくるのか。「学ぶ」ことの語源は「真似ぶ」、つまり真似することにあるらしい。学ぶ必要がある、という事実からは目を背ける。

 

 そんなことを考えていたのが良くなかったのか。駅の舗装の模様をぼんやりと眺めながら歩いていたのが良くなかったのか。

 前から歩いてきたサラリーマンとぶつかってしまった。

 

「あっ……ご、ごめんなさいっ」

「……気を付けてくれ」

 

 弾き飛ばされるように尻もちをつく。開きっぱなしだったカバンから教科書やノートが散らばった。石貼りのタイル、ぶつかる直前に見つけた、配置ミスらしい一面に目を奪われる。赤茶色と乳白色の石が規則的に並べられているところに、赤茶色のタイルがひとつ多くはみ出ている。

 サラリーマンの後ろ姿は見えなくなっていて、カバンを避けて革靴やブーツがタイルを渡っていく。

 

 拾わなければ、と思うのに時差があった。スカートをはたいて立ち上がるのと同時に、白く細い指先が私よりも早くノートを拾い上げた。ゆるゆると視線を上げた先には、翡翠色の髪の少女が立っていた。よくすれ違う制服だから、近くの高校の生徒なのだろう。蜂蜜みたいに透き通った瞳が印象的だった。

 

「……これ、歌詞? それとも日記?」

 

 開いてしまったノートの中身に目を落として、恐らく年上だろう少女が呟く。

 

「歌詞じゃない、です」

「じゃあ日記? 『人間になりたい』って、キミ、人間じゃないの?」

 

 勝手に読んじゃってごめんね、と付け加えられる。特に悪くも思っていなさそうだと思った。

 書いてあるのは、ページにもよるけど、私の心の叫びだ。思いついたことを書いたり、日記みたいになっていたり、苦しさに耐えきれずに吐き出したものだったり。

 

「あたし、人間以外の知的生命体には初めて会ったよ」

 

 ノートを差し出しながら、オオカバマダラだ、と呟いた。ノートの表紙は、黒とオレンジの翅を開いた蝶の写真になっている。

 

「ヒトじゃないなら、何? ゾンビ? スワンプマン? 火星人? それとも地底人? 地底人は電車とか使いそうだよね。地下鉄もあるし。向こうからしたら普通の電車が地上鉄なのかも」

「あ、あの、人間になりたいって……そういうことじゃ、なくって……」

「ま、そうだよね。人にしか見えないし」

 

 教科書の汚れを払ってカバンにしまう。人間にしか見えない、と言いながら彼女は私の手を取った。冷たい指先が、親指の付け根を軽く押し込んだ。

 

「触った感触も人体って感じ。……そういえば、名前は? あたしは氷川日菜」

「高松燈、です」

「トモリちゃんね。どんな漢字書くの?」

「火へんに登る……で、わかりますか」

「うん。ちなみにあたしは氷の川に日曜日の菜の花だよ。日菜ちゃんって呼んでね」

 

 勢いに押されていた。いつの間にか名前を交換して、至近距離で目を合わせている。人と目を合わせるのが苦手な私が思わず目を逸らしてしまいそうになるのを、きらきらと輝く瞳が阻止する。

 

「じゃあ、燈ちゃん。この後ヒマ?」

「予定はないですけど……」

「それなら、あたしとお茶しようよ。キミに興味が湧いちゃった」

 

 るんるん、とでも擬音が付きそうなほどのハイテンションに、有無を言わせず手を取られる。断ることもできずに、改札を通り抜ける。

 突然舞い込んできた非日常に、期待しているところがないとは言えなかった。突飛で急展開なイベントは苦手だけれど、日常の積み重ねに鬱屈とした感情を募らせていたことも事実。今日が卒業式という行事の帰りだったこともあって、お茶くらいなら無理に逃げることもないか、という感覚になっていた。

 

 今まですすんで誰かに見せたこともなければ、好意的な反応を得られたこともないノートの中身をこの人に見られたことが、土塊のように乾いた私に初雷を落としてくれないかと期待している。

 

 私よりも少し歩幅の大きい背中に連れられて、駅を出てすぐの喫茶店のドアを開けた。ガラス張りのドアに取り付けられた小さなベルが来店を報せる。いらっしゃいませ、と柔らかな声が飛んできて、氷川さん──日菜ちゃんと私を窓際の席へ案内した。

 

「で、『人間になりたい』って、なんだったの? まずはそこから知りたいな」

 

 カフェモカを2人分、お腹が減ったと言ってフレンチトーストを注文した『日菜ちゃん』が、おもむろに切り出した。年上だろう彼女をちゃん付けするのは少し抵抗があるけれど、彼女自身はそういうことに頓着がなさそうだ。

 

「卒業式で、泣けなかったんです。……悲しいような気がしたのに、涙は出てこなくて……周りの子はみんな泣いてたのに──」

「『泣くべきだ』と思ったのに、泣けなかった?」

 

 はい、と答えた。気が付けば、口が軽くなっていた。幼稚園の頃、友達を喜ばせようと思ってダンゴムシをあげたこと。それで友達に嫌われてしまって、自分が変だということに初めて気がついたこと。人と関わるのが少し怖くなったこと。不思議な子扱いされていること。

 

 高松燈という人間は、正しくないのではないかと怯えていること。

 

「ふむふむ。……あ、言っとくけど、あたしは燈ちゃんの家族みたいに温かく見守ったりはしないし、エラい心理学者みたいに凄いことが言えるわけじゃないよ」

 

 ノートをもう1回見せて欲しい、と言われるままに差し出した。

 変わりたいと思っているのかさえ、自分ではよく分からない。

 正しくない自分を正したいのか、そのままでも構わないと開き直っているのか。いずれにせよ、正体不明の『正解』に追い詰められて焦燥感を覚えていることは確かだった。その一端でも掴めるのなら、いっときの躊躇はねじ伏せられる。

 

 パラパラと捲られるB5。どのページにどんなことを書いたのか、なんとなくは覚えている。きゅうと胃が痛くなるような恐ろしさに駆られるのは、目の前の彼女にさえ否定されるのではないかと危惧しているから。

 

「燈ちゃんは、居場所が欲しいの? それとも、ただ『人間』になりたいの?」

 

 投げかけられた言葉は、曖昧な問いだった。私の言葉も大概支離滅裂だった自覚があるものの、この場合は抽象的過ぎて言葉を捉えにくい。

 

「あたしは、卒業式で悲しいと思ったこともないし、泣いたこともないよ。学校だと不思議ちゃん扱いされてるし、空気を読むのもヘタクソ。──だからさ、()()()()()()()()

「……日菜──ちゃん、も?」

「あたしも地底人! 小学校で飼ってたうさぎが死んじゃった日に悲しめなかったとか、そんなのはしょっちゅうだったもん。今はだいぶ上手くなったけどね」

 

 それは、私が欲しかったものなのかもしれない。私と同じような感性の人。もしくは、私と同じように正しくない人。

 

「燈ちゃんは、理解者と友人ができたとしても変わりたいの? それとも、今のままで友達ができるなら変わらなくていいの?」

 

 ちなみに、と血色の良い唇が弧を描く。

 

「あたしは、自分が変わる可能性を感じてないよ。たとえあたしが理解されなくても、ね」

 

 私、は……どうだろう。

 変わりたい、と思っているわけではないと思う。変わらなければならないとは思っていて、けれどもその手がかりが掴めないまま漂っている。変わるのに痛みが必要なら躊躇してしまうだろうし、今の自分が消えてしまうことにも恐怖を抱いている。

 

「そもそも、他人同士で心が通じあってるとかそういうのは幻想だよ」

 

 カフェモカに口をつける。チョコレートの風味が温かいままに喉を通っていく。日菜ちゃんはフレンチトーストにフォークを差し込んで、早速口に運んでいた。

 

「みんな人間のフリしてるだけ。あたしたちに足りないのは……勉強かな? 卒業式は泣くものだって分かってるんでしょ? じゃあ嘘泣きでもすればいい。テストの前は勉強してないって不安がればいいし、数学の授業の前はだるそうにしてればいいし、放課後遊びに誘われたら楽しそうにしてればいい。フリをしてればちょっとくらいは感情が追いついてくるかもしれないし、そもそも社会性や人間性なんて突き詰めればそんなもんでしょ」

 

 でも、と続く。

 

「燈ちゃんはそうしなかった。それはどうして?」

「……たぶん、わからなかった、から」

「それもあるかもね」

「周りの人と同じようにしてるつもりで、でも、私のやりたいことは、周りの人と全然違って……結局、わからなくなって……」

 

 ダンゴムシを渡しても喜ばれないことはわかったから、そういうことはしていない。綺麗な石も同じ。ノートの表紙の写真の生き物のことも、星座の名前も、喜ばれないらしいことはわかった。じゃあ、何を話せばいいのかわからない。

 

 テレビに出ている芸能人? どんなドラマが面白いとかもよく分からないし、誰が人気なのかも、何がかっこよくてかわいいのかもわからない。流行りのカフェとか、服とか、動画とかも同じ。分かる部分で話をしてはみるけれど、私と話していることそのものがあまり面白くないんだろうということもなんとなく察している。

 

「……燈ちゃん不器用そうだし、余計大変かもね。まあでも、人間のフリがしたいなら、自分の好きなものとかも全部誤魔化さなきゃいけないし、それって全然面白くないよ」

「日菜ちゃんは、そうしなかったんです、よね」

「うん。だってあたしはあたしだもん。たとえ孤独になったとして、好きも嫌いも捻じ曲げてまで『普通のフリ』はしたくないよ」

 

 整理しよっか、とフレンチトーストを崩す。溶けかけのバニラアイスにミントの葉が浮かんでいる。

 日菜ちゃんが開腹手術のごとく私の心の問題にメスをさし込むのが、実感を伴って理解できた。

 今までになかった感覚だ。両親は見守ってくれるし、周囲の大人たちは気にする必要はないと言ってくれる。けれども、共感と理解を備えて目を合わせてくる存在には出会ったことがなかった。

 

「『人間じゃない』のが辛いんじゃないでしょ。『孤独』なのが辛いんだよ。孤独から抜け出すために、他の人達と馴染む方法を探してるだけ」

 

 その通りだ、と思った。

 

「お母さんはすき?」

 

 頷く。母も父も優しく穏やかな人で、生まれた時からずっと好きだ。

 

「じゃあ想像してみて。お母さんと別居することになったとして、一緒に暮らせる最後の日に、燈ちゃんは泣きたくなる?」

「なります。……きっと」

 

 小さい頃、真っ暗になった部屋の中、ベッドの上で、家族が死んでしまうことに怯えて涙を流したことがあった。いつか人は死んでしまうのだと知って、来たる別れを想像して。

 

「卒業式って、そういうことだよ。学校に仲がいい友達がいなかったなら、泣けるわけない。だから、燈ちゃんが特別薄情だとか、そういう話じゃないよ」

 

 吐き出された暖房の温風が頭を撫でた。勢いよく飲み干しても火傷しない程度に冷めたカフェモカにまた口をつける。燈ちゃんも食べなよ、と差し出されたフレンチトーストに口をつけると、ストレートな甘味が舌先に触れた。

 

 私は、一人でいるのが寂しかった。

 胸にすっと言葉が沈み込む。

 純粋な善意を拒絶されたことがトラウマになっていた。自分が人と違うのだと徐々に気が付いて、拒絶されないように、踏み込めなくなった。

 

「変わっちゃうのは勿体ないんじゃない? あたし、このノートに書いてある言葉好きだよ。燈ちゃんの細やかな感性と優しさが出てるもん」

 

 友達とは、心と心で繋がり合う関係だと信じていた。お互いを対等に信頼し合っていて、友人のためにはときに自分の利益さえも犠牲にできるような、そんな、夢を見すぎだと一蹴されそうな理想を見ていた。

 そして、踏み込むことを恐れてしまう私には、友人を作るすべをついぞ見いだせなかった。

 

 カフェモカを飲み干して、日菜ちゃんが席を立った。折り畳まれた紙ナプキンと、溶けたアイスクリームを綺麗に拭ったあとの皿。寂寥を感じたのは、日菜ちゃんとの別れを惜しんでいるからだろうか。

 

「……思ったよりも長居しちゃった。付き合わせてごめんね?」

「いえ、……えっと」

「あ、お代は払っとくから気にしないで」

「そ、そうじゃなくて──その、また会えますか?」

 

 孤独を自覚した途端、目の前の少女との別れが恐ろしくなった。13年生きてきて初めて出会った、同族の匂いがする人。なのに私よりもずっとうまく生きている人。

 

 日菜ちゃんは、少し驚いたような表情だった。それから困ったように悩んで、今度は朗らかに笑う。今日いちばん、優しい笑みだった。

 

「また来週、ここに来れる?」

 

 うん、と頷いた。その日は、それだけ。

 

 

 

 

 翌週、水曜日。私は一人で駅へ歩いていた。学校からの帰路、ぽつりぽつりとアスファルトを雨粒が打つ。不規則な大きさの円が、地面に黒い染みを作っていく。匂い立つ雨の香り。折り畳み傘の抵抗も虚しく、スクールバッグの側面が少しずつ湿っていく。一年かけて削り取られた撥水性能は、もはや雨粒への抵抗力を残してはいなかった。

 

 ノートを入れた方を傘の内側に寄せた。この一週間で文章の量を増したノートには、少しだけ上向きで、そして外行きの内容が書かれている。

 

 空き地に生えたつくしが雨に打たれていた。看板の端から滴る雨粒に打たれて、ペコペコとお辞儀をするように揺れる。

 まだら模様が一色に戻って、降り始めのぺトリコールも排気ガスに押し流される。雨の勢いも風も、さほど強くはなかった。空は灰色ながら明るく、この調子なら早々に止んでくれそうだ。こういう天気の日に雨宿りは有効なのだろう、と思った。

 

 早足で駅の構内に滑り込んだ。丹念に折り畳み傘の水気を払って、スクールバッグの外側のポケットに差し込む。

 定期券で改札をぬけてホームに立つと、ベーカリーの匂いを振り切った。代わりに電車が通過した瞬間の独特な香りの風が吹く。パンタグラフと鉄の擦れる匂い。

 

 電車に乗る頃には、既に雨は止んでいた。車窓ガラスに残った雨粒が斜めに流れていく。私と同じ学校帰りの学生と、買い物帰りらしき主婦やご婦人が大半を占める車内。ギターケースを背負った高校生4人組が目に付いた。

 

 十数分で最寄り駅に着く。左側の出口から降りて、最短距離で改札を抜けた。日菜ちゃんと話した喫茶店の店内を外からこっそり覗いても、翡翠色の髪は見当たらない。切符売り場の上に時計があったことを思い出して少し戻る。待ち合わせの目安にしていた時間までは30分以上あった。

 店内で待つ気にもなれずに、普段は使わない東口の方に移動する。小さな広場があって、喫煙所の名残りに不自然なスペースが空いている。刈られたばかりらしいクチナシが鋭角を主張していた。

 

 音楽が聴こえた。少し奥まった方向、最短距離を歩く通行人が立ち寄らない方へ、音楽に釣られたのか数人、歩いていく。その後ろから、私も音の正体を確かめに向かった。手持ち無沙汰だったとしても、イベントに惹かれている自分が意外だった。日菜ちゃんに会えることへの期待で舞い上がっているのかもしれない。

 

 サイズがしっくりくるようになったローファーがレンガタイルを叩く。すぐに人だかりが目について、私はその側面に回り込んだ。

 路上ライブらしいということには途中で察しがついていた。ギターケースを地面において、木目の美しいベージュのギターを爪弾いている誰か。

 

 果たして、私の視界に飛び込んで来たのはそんな「予測」に違わない光景だった。ただ一つ誤算だったのは、その正体が日菜ちゃんだったこと。

 

 花曇りを突き抜けた春の日差しに照らされて、彼女の瞳がエメラルドのごとく煌めいた。先週は蜂蜜のようだと感じた柔らかさはなりを潜め、カッティングを施された鋭さに目を奪われる。

 

 曲の名前は分からなかった。日菜ちゃんの指先が弦を引っ掻く度に、そよ風みたいな音がする。最初ははっきりとした音程で、音が伸びる過程で弦が震えてぼやける。

 

 綺麗な言葉だ、と思った。世界の汚さを誰よりも知っていて、絶望している人の言葉。それでいて、世界の穢らわしさに染まっていない人のうた。

 世界の美しさを誰よりも信じている人の言葉。綺麗なだけではない人のうた。

 

 周りの人が歌詞を口ずさんでいることから、日菜ちゃんのオリジナルではないらしい。それとも、日菜ちゃんが有名な歌手なのだろうか。周囲の反応から、そういうわけではなさそうだ。有名な曲なのは間違いないのだろうけど。

 

 ゆらゆらと体ごとギターを揺らしながら、日菜ちゃんがさらにボルテージをあげていく。ギターの音が激しくなって、歌声が大きくなる。ぐるりと周囲を見渡して──

 

 ──目が合った。ぱちくりと瞬き。日菜ちゃんが悪戯っぽく笑った。

 

 

 

 ライブが終わったのは、それから3曲を歌った後だった。そのどれもが好評で、観客は次々日菜ちゃんのギターケースにお金を入れた。通りがかっただけの人達が、日菜ちゃんの演奏に値段をつけていく。不思議な光景だった。ライブのチケットや、近くのキッチンカーで売っているコッペパンとも違う。決まった値段で売られているものを買うのではなくて、受け取った人が値段を決める。演奏を聴いても何も払わない人もいて、その人は日菜ちゃんの歌に値段を付けなかったか、歌そのものを受け取らなかったのだ、と思った。

 

「おまたせ。集合時間ぴったりだ」

「もう、いいんですか? ライブ……」

「暇潰しだったし、あんまり長く続けてもね。燈ちゃんに見せたい部分は見せたし」

 

 前と同じ喫茶店に入った。ギターケースを背負っている分少し大きく見える背中を追いかけて歩く。今日は、入口からほど近い席へと案内された。

 

「さてさて。良ければまたノート見せて欲しいな」

 

 カフェモカを頼むのかと思いきや、日菜ちゃんはバナナオレを頼んだ。私は迷って、結局カフェモカを注文する。

 湿り気をいくぶん拭い去ったカバンからノートを取り出して手渡すと、日菜ちゃんは早速それに目を落とした。

 

「あたしと話したの、楽しかったんだ?」

 

 頷く。ノートに書き込むことは、呼吸と同じことだ。苦しい現実から逃げたくなるとき、無抵抗で逃げるのも気が済まなくて、自分を守るための抵抗として書き込む。そこに嘘はない。

 日菜ちゃんとの出会いに期待を抱いたのも事実。そして──

 

「あたしと燈ちゃんは違う、と思ったんだね」

「うん」

「セーカイだと思うよ。燈ちゃんは地底人、あたしは火星人」

 

 人間としての正しさに共感できないのは、同じ。分からないなりに学習したのが日菜ちゃんで、よく分からないままもがいているのが私。

 決定的に違うのは、日菜ちゃんは孤独に苦しんでいないこと。人と違うことを厭わないこと。

 

「私は、日菜ちゃんのことも、知りたい」

 

 そんな言葉が口をついて出た。

 ノートには書いた。日菜ちゃんの言葉が私の心に響くのは、そこに哀れみも嫌悪も滲んでいないから。クラスメイトの子が友達に話しかけている時のように、好意や気安さだけを含んだフラットな言葉だから。

 だから、日菜ちゃんのことも知りたい。私が私の全てをノートに記して、それを日菜ちゃんに見せているように。日菜ちゃんのことも知りたい。

 

 注文した飲み物が届いた。

 日菜ちゃんは意外そうに目を瞬かせて、少しずつね、と言った。ストローで乳白色のバナナオレをかき混ぜる。

 

「あたしの事を知ったって、友達作りには役立たないよ。ヒトデナシと仲を深めても、人間に近づくわけじゃないんだから」

「でも、知りたいと思ったから。迷惑、ですか?」

「別に。インプリンティング、なんて言葉もあるわけだしね。普通の反応でしょ」

 

 カフェモカに口をつける。外気に固くなった指先がマグカップの熱でほどけた。

 インプリンティング。日菜ちゃんの言葉を咀嚼する。つまり、卵の殻を破ったばかりのヒナが最初に見たものを親だと思い込んで懐くように、たまたま出会った日菜ちゃんに好感を覚えているだけだと言いたいのだろう、と解釈する。

 

 否定することはできない。日菜ちゃんみたいに私と話してくれる人に出会ったことがないから、この感情が日菜ちゃんだけに抱く特別かは分からない。悔しさをひとさじすくって、舌にのせた。

 

「……だとしても、他には誰もいなかった」

「そだね。もしもに意味はない。……うーん、何から話そうかな」

 

 日菜ちゃんが纏う空気に、新しい色が混じり込む。躊躇するような、気まずさを飲み下したような。よく分からない。……そういうものがよく分からないから、私は一人なのだった。

 

「あたしがギターを始めたきっかけの話にしよっか。……燈ちゃんは一人っ子なんだよね?」

 

 頷く。

 

「あたしには双子のおねーちゃんがいるんだ。顔は似てるんだけど、性格は全然似てないの。あたしみたいに変なことを言って他人を困らせたりしないし、飽きっぽくなくて真面目だし、頭が良くてかっこいいんだよ」

 

 日菜ちゃんの姉。想像してみたけれど、上手く像を結ばなかった。

 双子で見た目が似ているというのなら、目の前の日菜ちゃんを鏡写しにしたような容姿なのだろうか。それで真面目でかっこいい、というのはどういう感じなのだろう。日菜ちゃんは溌剌で可愛いから、その逆ということになる。無表情で冷たい、とか。少し恐ろしいような気がした。

 

「でも、ちょっと仲が悪いの。あたしが避けられてるって言うか……ほら、あたしってこんなんだからさ。……燈ちゃんもわかるでしょ? どういう態度が正解なのかわかった気になってても、ふとした拍子にやらかすんだよね。同じ部活に入ったり、同じゲームをしたり、おねーちゃんの友達とも遊んだりして……全部、壊しちゃうの。あたしはヘーキだけど、おねーちゃんはそうじゃない」

 

 バナナオレを苦そうに飲み干した日菜ちゃんが、またストローでグラスの中身をかき混ぜた。暖かい店内で汗をかき始めたグラスが、日菜ちゃんの指先を濡らす。

 

「そんなおねーちゃんがギターを始めたんだ。ギター……というか楽器なら、ライブとかもやるけど、基本的には一人の趣味かなと思って。おねーちゃんとの繋がりを残したくて、あたしも始めてみたってカンジ。同じバンドでやりたいとか言ったら拒否されるだろうけど、おねーちゃんの領分を侵さない個人の趣味ならおねーちゃんは黙ってるだろうから」

 

 それだけ、と日菜ちゃんは締め括った。

 再びバナナオレに口をつけて、今度は柔らかな表情。

 

 日菜ちゃんも痛みを感じていることに、私は驚いていた。鬱屈した私の感情にさらりとメスを入れた日菜ちゃんは、私のずっと先を知り得ていて、本質的にはそうでなくとも、対外的には痛みなく生きているものだと思っていた。孤独が日菜ちゃんを傷付けることはないのだという。それなら孤高と表現するのが正しいと思ったのに、やっぱり違った。

 

 普通と違うことは、日菜ちゃんを傷つけずとも日菜ちゃんの周りの人を傷付けるらしい。

 

「もう、なんであたしより燈ちゃんが深刻そうな顔してるのさ」

「……ごめんなさい。私、掘り返すつもりじゃ──」

「気にしてないよ。確かにいい思い出じゃないけど、燈ちゃんだってノートを見せてくれてるし。これくらいは話しても良いかな、ってあたしが選んだの」

 

 とはいえ、と日菜ちゃんが紙ナプキンで指先を拭う。ノートを開き直して、一言一句焼き付けるように、ページを捲っていく。

 店内のBGMがリズムを刻んだ。ジャンルはよく分からないが、おしゃれで落ち着いた雰囲気のピアノだった。

 

「これからの話をしよっか。燈ちゃんは孤独でいたくないんでしょ?」

「……はい」

「根底から変わる必要はない、と思うんだよね。燈ちゃんの大事な芯をねじ曲げてしまうのは良くない。だけど、このままじゃ難しいのも確か。……燈ちゃんのありのままを受け止めてくれる人がいつか現れるかもしれないけど、起こるかもしれない『もしも』を期待して立ち止まっておく?」

 

 紙ナプキンをくるくると棒のように巻いて、グラスの水滴で端を留めた日菜ちゃんは、それを中空でぐるぐるとかき混ぜるように動かした。

 

「アバダケタブラ。──じゃなくて、アブラカタブラ。世間に虐められながら、理想の王子様がガラスの靴の主を探しに来てくれるのを待つ?」

「それは、嫌です」

「そうだよね。そうじゃなきゃ、あたしとまた会えるかなんて聞かないもんね」

 

 それは違う、と言いかけて、口を噤んだ。日菜ちゃんに魔法使いを期待していたのか、王子様を期待していたのか、自分では分からなかったからだ。

 

「燈ちゃんも、1歩か2歩は歩かなきゃいけない。……大丈夫、あたしは声を奪ったりはしないし、歩く度に焼けるように痛むことはないよ。命短し歩けよ少女、波間の泡と散る前に、なんてね」

「私は──私は、怖い、です。でも、このままでいる方が怖い。中学でも、高校でも、その先でも。人と話すことにも怯えて、リノリウムを見つめて歩くばかりで、人目が途切れる度に深呼吸するのは、苦しい」

 

 飲み干しちゃった、と空っぽのグラスを揺らして、それから私のカフェモカのカップも空になっていることを確かめた。日菜ちゃんは2杯目を頼むかしばらく迷ってから、結局呼び鈴を押した。

 

「無理に奢ってもらわなくても……」

「中学生に払わせるのも嫌だし、別にお金には困ってないから気にしないで」

 

 日菜ちゃんは私の飲み物が切れていないかを気にしていたような気がする。これも「おねーちゃん」の影響なんだろうか、思いを馳せてみる。

 日菜ちゃんはベリーソーダを頼んで、私はホットココアを注文した。

 随所に見せてくれる日菜ちゃんの優しさや気配りが「おねーちゃん」に由来するものなのだとしたら、納得できるような気がした。飲み物を切らさないようにするのも、日菜ちゃんから受ける印象とは少し乖離している。他者を顧みないというか、奔放な色が、私と接している時には薄れるような。

 

「クラスに馴染むとか友達を作るとか、人と仲良くするために必要なのって、『共通の話題』『共通の常識』だと思うんだよね。これだけ言って、なんとなく分かる?」

「テレビの話、とか。ゲームのこととか、部活のこととか、友達のこととか……恋の話、とか」

「そうそう。共通の常識は、どうにもならない部分もあるからある程度頑張って空気を読むとして。共通の話題を通してお互いの価値観を伝えあって、『敵じゃないですよ〜』って伝え合う儀式は踏まなきゃならない」

 

 敵意がないことを示す儀式。言われてしっくり来た。

 分からないものは怖い。歴史で習った踏み絵を思い出した。仲良くなる意思があります、と示すために置かれていた絵を、私は気付かずに飛び越えてしまったということなのだろう。もしくは、共通の話題はパスワードや合言葉のようなもので、それが分からない私は判断を保留されたまま集団の外に置かれている。私は合言葉を求められていることにさえ気が付いていないから、右往左往することしかできない。

 

「日菜ちゃんは、どうしてるの?」

「あたしは……燈ちゃんの参考にはならないと思うんだよねぇ。友達を作るって言うより、集団の中で一人の地位を保つためにやってるから」

「私のためにならなくても、日菜ちゃんの考えを知りたいから……日菜ちゃんは学校でどうしてるの?」

「あたしは……ズレたことを言っても『そういうものだ』って思われてるからね。学校のテストで満点を取り続けたり、スポーツで良い成績を残し続けたりすると、多少変でも個性になるみたい。『天才ちゃん』って便利だよねぇ」

 

 つまり、私が「不思議ちゃん」と呼ばれて腫れ物扱いされているのと似ている。それを日菜ちゃんは上手く使って、クラスの中での立ち位置を自分の都合のいいようにしている、という認識で間違いないはず。

 

「燈ちゃんにはできないし、燈ちゃんが求めてるのもこういうことじゃないでしょ?」

「……うん」

「だから、共通の話題を作りましょ〜、ってことで、これ!」

 

 日菜ちゃんはギターを入れたカバンの外ポケットから、水色の巾着袋を取りだした。その中には見慣れない機械が入っている。

 

 私が首を傾げていることに気がついたのか、日菜ちゃんが口を開く。

 

「音楽プレーヤーだよ。この中に燈ちゃんの感性に合いそうな曲をいっぱい入れといたから、聴いてみて欲しいな。それで気に入ったのがあったら、歌詞を覚えてみて」

 

 水色のコーティングが少しだけ剥げた小さな機械と、充電器らしきコード、それからイヤホン。電源を付けて見れば、プレイリストには私の知らない曲の名前がずらりと並んでいた。

 

「次会うときはカラオケに行こうよ。友達と遊ぶ練習、ね?」

 

 手のひらの小さな機械を見つめる。金属特有の冷たさに、温まった手のひらの温度が溶けていく。

 

「カラオケ……」

「行ったことある?」

 

 首を横に振った。友達と歌って遊ぶ場所がある、というのはもちろん知っていたものの、行ったことは無かった。そういえば、中学に上がったばかりの頃に一度誘われたような気がする。

 音楽の授業みたいにみんなの前で歌うことには苦手意識があったし、知っている曲も少なかったから、その時は遠慮してしまったのだった。

 

「すこし、恥ずかしい、かも」

「大丈夫だって。あたしと2人きりだし、心の中まで覗いた仲でしょ? なんなら、歌い方だって教えてあげる」

 

 巾着袋を受け取った。使い方は直感的に理解できるものだったけれど、一応大まかな触り方だけ教わる。

 

「日菜ちゃんが歌ってた曲は、どれですか?」

「えっとね、『TRAIN-TRAIN』『swim』『どんなときも』『糸』だよ。それに入ってるし、すごく有名な曲だから燈ちゃんの親も全部知ってるんじゃないかな」

 

 返してもらったノートにメモする。

 有名な曲だというのは私にもわかった。どことなく聞き覚えがあるような気がしたし、日菜ちゃんが演奏しているときにも老若男女様々な人が歌詞を口ずさんでいたから。

 

「次はどうしよっか。1週間後だとあたしが来れないんだよね。10日後でもいい? 木曜日」

「終業式のあとだから、大丈夫です」

「あたしはその日が終業式なんだよね。……2時集合とかにする?」

「うん。早い方が、嬉しい」

「じゃあ、そういうことで。……無理して覚えなくてもいいからね。好きなものを見つけてほしいだけなんだから」

 

 甘ったるいココアを飲み干した。少しだけ喉が渇いた。巾着袋をスクールバッグにしまう。

 日菜ちゃんがさっさとお会計を済ませてしまって、財布を出すタイミングを失う。やっぱりお金を出そうと思ったのに止められてしまった。代わりにお礼は言うのだけれど、私が施されてばかりで申し訳なくなる。

 

「じゃあ、またね」

「うん、また」

 

 ガラス戸をくぐって別れた。日菜ちゃんは改札の方へ、私は西口の方へ。

 既に10日後が楽しみになっていた。

 

 

 

 

 次の約束の日。夜勤明けのお母さんはまだ寝ていて、お父さんは仕事だった。外出を誰かに見咎められることもなく、トートバッグにノートと筆箱、財布、日菜ちゃんに預かった音楽プレーヤーを詰め込んで家を出た。カバンからイヤホンを伸ばして、音楽を流しながら歩く。

 

 好きな曲はいくつも見つかった。

 私がノートに書き込んだ心の叫びよりもずっと的確に私の心を表しているような歌詞があった。

 私が知らない心の動きを描いた歌詞があった。私と似たような環境にいる子の歌詞があった。私には縁のない恋愛を描いたラブソングなのに、どういうわけか胸に訴えかけてくる歌があった。不出来な私を励ましてくれる歌があった。

 

 私の心を撃ち抜いた言葉は、忘れられないまま私のノートに書き込まれる語彙のひとつになった。

 

 耳に残ったメロディを口ずさむようになった。お父さんが「ご機嫌だな」と笑ってくれた。

 

 日菜ちゃんに与えられた「音楽」は、瞬く間に私の世界に存在感を発揮し始めた。チクタクと時計が刻むばかりだった私の部屋に、色彩豊かな音が溢れた。ベッドに入って目を閉じたあと、私の意識を刻む秒針に気に入った曲のメロディが乗ることさえあった。

 

 家を出て歩道橋を渡る。駅までの道はそう遠くない。

 途中、ようやっと桜が咲いているのを見かけた。いつ咲くのかとうずうずしている蕾を見てきたから、ようやく花開けたのかと安堵する感覚の方が大きい。まだ満開とはいかないけれど、数日中には全ての蕾が開くのだろう。

 赤褐色の幹に、横筋模様がたくさん走っている。樹皮模様の横断歩道の上を、小さなアリが列をなして渡っていく。

 

 足取りが軽くなる。いつもは点字ブロックを追いかけて歩いていた道を、天気を気にしながら歩いている。

 春の風が、私の背中を押してくれていた。

 正体不明の木管楽器のリズムに歩様が釣られる。四拍子でスニーカーがアスファルトを踏みつけた。

 

「こんにちは、燈ちゃん。5分前ぴったりだね」

 

 駅の構内に足を踏み入れた瞬間、日菜ちゃんの翡翠の髪を見つけた。

 

「こんにちは」

「気に入った曲はあった?」

「うん、沢山」

 

 私の答えがわかっていたように、日菜ちゃんは頷いた。

 お母さんとの買い物の時にスーパーで流れている曲や、学校で給食の時間に流れている曲は、どこか遠い世界のことを歌っているように感じられるものばかりだった。誰かの輝かしい明日のことばかりで、一人ぼっちの私に触れてくれる曲は無かった。

 翼じゃなくて友達が欲しいと思っていた。かけがえのないものだと歌われるそれが、私が手を伸ばした先には存在していなかった。

 

 日菜ちゃんが選んでくれた曲は、私の近くにいてくれる曲ばかりだった。交差点で立ち止まっている私の手を引いてくれるような、そんな歌。私が今までに遠ざけてきた曲にも、きっとそういうものがあったんだろう。食わず嫌いだったと思うし、勿体なかったとも思う。けれども、日菜ちゃんの手によって齎されたものでなければ、私の中の音楽がこんなにも大きなものになることはなかったんじゃないかと思う。

 

「良かった。あたしのセンスは間違ってなかったんだね」

「私、知らなかった。音楽って、すごい」

「本と同じだよ。国語の教科書にもあったでしょ? 何言ってんだろうこれってお話も、すごく綺麗で楽しいお話も。色んな人が作ってるんだから、どれかひとつくらいは心に刺さるものがあるはず。火星人だって地底人だって、地球人の歌に感動するかもしれない」

 

 本はあまり読まないけれど、言いたいことは分かる。優しいお話は好きだ。人が亡くなったり、主人公が辛い目に遭う話は苦手だった。途中で本を閉じたくなってしまう。ハッピーエンドで終わるとわかっているのなら読めることもあるものの、たとえ絵本でも悲しい話は苦手だ。

 でも、辛いお話こそ最後に救われる主人公に感情移入できるのだと言っている人はいたし、ハッピーエンドがつまらないという人もいる。

 

 改札とは反対側へ歩き出す。駅前のビル群に仕切られた道路を一直線に歩いた。隣を歩く日菜ちゃんは、今日はギターを担いでいない。屋上に大きな看板が立てられた建物に入ると、聞きなれないタイプの店内放送が大音量で流れていた。

 

「んー、ドリンクバー付きフリータイムで。機種は──」

 

 何が何だか分からないうちに日菜ちゃんが受付を済ませてしまった。私は学生証を見せたくらいで、本当に何もしていない。アクリルのコップを手渡されて、2人でドリンクサーバーの方へ向かう。日菜ちゃんはオレンジジュースを注いでいたので、私も真似してオレンジジュースにした。

 

 通路を歩くと、閉じたドアの向こうからほんの僅かに歌声が聞こえてくる。歌手の人の上手い下手はよく分からなかったけれど、普通の人の上手い下手はなんとなくわかった。音楽の授業の時の私も、クラスメイトからは下手に聴こえていたんだろうか。すこし、怖くなった。

 2階に上がって、212と番号が打たれた部屋に入る。真っ暗な部屋に日菜ちゃんが電気をつけると、乾いた匂いがした。

 

「はい、これがマイク。スイッチはこれね。こっちがデンモク。これで歌う曲を選ぶの。音量とかは……まあ大体でいいでしょ。今日はあたしが弄るね」

 

 日菜ちゃんが機械の画面をささっと弄って、テレビ画面が切り替わる。まずはあたしが歌うね、とマイクを持って立ち上がった。

 きらきらと可愛らしい曲だった。それでいて、離別と孤独の歌だった。孤独に惑星を周る歌。日菜ちゃんみたいで、日菜ちゃんらしくない。アイドルが歌っても似合いそうな曲は日菜ちゃんらしいのに、誰かに焦がれる歌詞は日菜ちゃんらしくないように見えた。もしくは、それが以前少し話してくれた「おねーちゃん」に向けられるものなのかもしれない。

 分からない。分からないけれど、とにかく心が騒がしかった。

 

 日菜ちゃんの小鳥のような声が、芯を伴って小部屋を覆い尽くす。あのライブの時とはまるで違う表情。蜂蜜のように柔らかな雰囲気のままの瞳が、音程を示すバーが流れるテレビ画面と私を行き来する。

 ライブの時には、日菜ちゃんから解き放たれた音楽が、私を貫いて世界中に広がっていくようだった。今は、全身を日菜ちゃんに包まれているような感覚。けれどもあの日のようなエネルギーは日菜ちゃんの歌声から感じ取れず、ただ温かな振動が私の心を撫でる。

 

「次、燈ちゃんも歌ってみようよ。どんな曲が好きになったのか知りたいな」

 

 日菜ちゃんの歌が終わって、テレビからは店内放送と同じようなテンションの番組が流れ始める。

 何を歌うのか迷ってしまって五十音が表示されたデンモクの前で固まる。

 ゆっくりでいいからね、と言いながら、日菜ちゃんがオレンジジュースに口をつけた。

 あとで見せようと思ってテーブルの上に出したノートを指さして「読んでいい?」と訊ねられたので、頷いてノートを渡す。

 

 初めて出会った日にノートを読んで、私が普段何を考えているのかを日菜ちゃんはだいたい理解したはずだ。こうも毎回ノートを読む必要はないはず。ノートを見せる行為そのものを、未だに恥ずかしく思っているわけではない。むしろ、日菜ちゃんに私のことを知ってもらえるのが嬉しいとさえ思うようになっていて、ノートに書き込む一日あたりの文字数は、日菜ちゃんと出会ってから間違いなく増えた。

 けれども、日菜ちゃんがどういうつもりでノートを読んでいるのかは、気になる。惰性なのか、それとも──私の言葉に何かを感じてくれているのか。

 

「はるか」と打ち込んだ。こうなりたい歌。こうなれたらいいと思う歌。こうなりたかった歌。

 日菜ちゃんの顔を見ていたら、なんとなくお母さんのことが思い浮かんだ。他に好きな曲は沢山あるけれど、最初に思い浮かべたのはこの曲。

 

 息を吸う。歌い始めのタイミングが分からなくって、ぐだぐだになった。日菜ちゃんがくすりと笑った。1文字目が欠けた歌を歌う。自分でも驚くほど大きな声が出た。お腹がきゅうとしまって、私の心がぶるぶると震える。頭のてっぺんから声を出すように歌いなさい、という音楽の先生の説明が思い出された。

 

 音程を示すバーにきちんと乗っていたのはどれほどだろう。7割か、8割か。日菜ちゃんよりもずっと下手くそだけど、私が思っていたよりも歌えていた。

 

 紡がれたのは私の言葉ではないけれど、歌に乗っているのは私の心だった。思いっきり叫ぶのは思い出せるだけでも数年ぶりで、喉がちぎれてしまわないかと心配になるほどに震えた。

 

「あはは、上手いじゃん燈ちゃん! 凄くるんってカンジ!」

 

 歌い終わったあと、日菜ちゃんとハイタッチした。それから、じゃああたしはこれ、と日菜ちゃんが新しい曲を入れる。日菜ちゃんの歌を聴きながら、次は何を歌おう、と自然と考えていた。

 

 誰かと遊ぶのが楽しい、と思ったのは、もしかすると初めてかもしれなかった。

 

 二曲目は、もう少し音程が合ったような気がした。三曲目は、心を込めて丁寧に歌ってみた。四曲目は、もう高音が出にくくなっていて、初めての経験に驚いた。五曲目は、デュエット曲を日菜ちゃんと一緒に歌った。日菜ちゃんのパートに釣られてしまって、音程を示すバーが赤色に染まった。失敗してしまったのに、それさえも面白くって、二人で笑いあった。

 

 結局、カラオケを出たのは三時間以上経ってからだった。まだ歌詞を覚えきれていない曲も日菜ちゃんと一緒に歌ったり、上手く音を合わせるコツを教えて貰ったり、採点を入れてみたり。結局、採点は性にあわないと日菜ちゃんが言ってやめてしまったのだけど。

 

 五時を過ぎても夕方のままだった。つい一ヶ月半前だったら、既に真っ暗になっていたような気がする。

 

 隣を歩く日菜ちゃんは、街の景色を丸暗記しようとでもするようにきょろきょろと色々なところを見ていた。桜が綺麗だとか、飛行機雲がふたつ並んでいるとか、そういう取り留めのない話をして、行きよりもずっとゆっくり私たちは歩く。

 

「日菜ちゃんは」

「うん?」

「どうして、私のノートを読むの? 私がどんな人間か分かったなら、日菜ちゃんはもう、あのノートを読む意味がないと思う。……その、面白いものでは、ないと思うし……」

 

 そんな問いを投げかけたのは、少し勇気が湧いてきたからだ。たった一歩、もしかするとすり足で半歩進んだくらいの距離だったとしても、今日、私は前に進めた。そんな達成感が、私の気を大きくしていた。

 

「面白いよ。……あ、バカにしてるとかじゃなくてね」

「それは、わかるけど」

「あたしはね、燈ちゃんみたいに自分のことを深く考えてないの。あれが好き、これが嫌い、あれが得意、これはつまんない。理解できる、理解できない、楽しい、楽しくない。飛行機雲が消えるまでの時間を意識したことはないし、誰かの瞳が宝石みたいだなんて思ったこともない。椛が赤く染るのは、プログラム細胞死によって緑色のクロロフィルが分解されて、赤色のカルチノイドやアントシアニンが合成されるから。ただの自然現象であって、それがあたしの心を揺らすことはない」

 

 だから、面白い。日菜ちゃんは立ち止まって、私の瞳を覗き込んだ。

 

「あたしには他人の心なんてよく分からないけど、それを知ろうとすることは面白いと思ってる。だって、みんなの心が繋がってたらなんにも面白くないでしょ? 隣の席の子が何を考えているのか、先生があたしをどう思っているのか、想い人はどんな人がタイプなのか。予め知ってたら、つまんないよ。あたしが持ってる感情、持ってない感性。燈ちゃんが持ってる感情、持ってない感性。並べて、重ねてみれば、氷川日菜の輪郭だって見えてくる」

 

 ほぼゼロ距離で目が合う。日菜ちゃんの瞳に跳ね返って、私の目が映りこんだ。少し驚いた表情。つらつらと耳から入り込んだ言葉を、心に落としこもうと慌ててペンを動かしているような顔だ。

 

「氷川日菜は、『ふつう』の人から外れてる。高松燈も、『ふつう』の人とは離れてる。だけど、氷川日菜と高松燈も全然違う。同じところはあるし、シンパシーもある。だけど、やっぱりあたし達は別物だ。それが面白いんだよ。燈ちゃんの言葉が、あたしの心に浮かぶ名前のない感情を定義することもある。あたしには刺さらずにすっぽ抜けていくこともある。それが、楽しい」

 

 分かられたいとは思わない、と以前日菜ちゃんは言った。一人でも構わないのだと、自然体のまま呟いた。私にはできない事だ。独りぼっちの今までも、ずっと独りぼっちに脅えて生きてきた。

 

「今までそんなに美しく心の動きを文字にした人を見たことがなかったから、余計にね」

 

 日菜ちゃんの指先が、胸の中心、鎖骨の少し下を軽く押した。心臓がある位置だ。

 それから、また歩き出す。

 

「あたしの目はエメラルドなんでしょ?」

「うん。でも、話してる時は蜂蜜みたい」

「ん〜、表情に連動してるとか? まあいいや、それじゃあ、燈ちゃんの瞳はどうなの? アンバーとか、暗めのオパールとか。それから、あたしが『知りたがり』だとしたら、燈ちゃんは『知られたがり』なのかも、とか。考えたりしない?」

 

 首を横に振った。でも、面白い考えだとは思う。

 日菜ちゃんの根幹にある考え方のひとつとして、私の心の引き出しにしまう。

 

「理解されたい、けど、私も日菜ちゃんのことは知りたい。……それと、正しい友達の作り方も」

 

 そっか、と思案げな表情。

 行きに横断歩道みたいだと思った桜の幹の隣で立ち止まる。植え込みの根元には、ポピーみたいなオレンジ色の花が咲いていた。

 

「燈ちゃんの影響だと思うんだけどね、これは。あたし、この花にシンパシーを感じてるんだ」

 

 日菜ちゃんがおもむろに、その花を茎ごとちぎりとった。さっきまでの穏やかな雰囲気とはちぐはぐで暴力的な動作に驚いて、背筋が伸びた。長い茎の先端で、オレンジの花弁がゆらゆらと揺れる。

 

「なんて名前の花が知ってる?」

「しらない。よく見かけるけど……」

「じゃあ、次の宿題。この花のことを調べておいて」

 

 ──今度は五日後に。そう言って別れた。

 私の手には、オレンジの花弁が一枚。

 スクールバッグを肩にかけた日菜ちゃんの背中は、すぐに小さくなってしまった。

 

 

 

 家に帰ると、植物図鑑を開いた。

 花の名前はすぐにわかった。ナガミヒナゲシという名前らしい。ただ、わかったのは名前と、ケシ科だということくらい。それ以上は分からなくて、家に帰ってきたお父さんにパソコンを借りた。

 

 ナガミヒナゲシ、と検索すると、外来種、危険、という言葉が出てくる。詳しく書き込んであるサイトを開くと、色々な情報が飛び込んでくる。春先に花が咲くこと。オレンジの4枚の花弁を持っていること。何千何万個の種を作ること。弱い毒があること。そして、外来種であること。周りの植物を枯らしてしまう物質を放出すること。

 

 綺麗な花だから、有害な外来種なのにあまり駆除されていないとも書いてある。

 

 人と違っていても、価値がある何かを持っていれば生き残れる。たとえ、毒を撒いたとしても。

 救いなようで、残酷な現実だと思った。

 

 パソコンをお父さんに返して、リビングのソファに腰掛けた。夕方のニュースが、詐欺事件について報道している。私の頭はナガミヒナゲシと日菜ちゃんのことでいっぱいで、右から左へとニュースが通り抜けていった。深刻そうに話すコメンテーターの顔が、のっぺりとしたものに見えた。

 

「ただいまー」

「あ、おかえり、お母さん」

 

 お母さんが帰ってきたことにも、リビングのドアが開いてやっと気づいた。買い物袋を下げたお母さんは何故かとても楽しそうで、今日は特別な日だったかと思考を巡らせるものの思いつかない。

 

「私、見ちゃった。燈がお友達と歩いてるところ」

 

 そこまで言われて、やっとお母さんの意図がわかった。

 

「羽丘の制服よね? お友達、で合ってる?」

「……うん。氷川日菜ちゃん」

「そう。遊びに行ってきたの?」

「カラオケに行って……たくさん歌ってきた」

 

 友達と言ってしまった。それが正しいのかは分からない。でも、日菜ちゃんは私が友達と呼んでも怒らないと思う。

 

「どうやって知り合ったの? 燈が嫌じゃなければ、いろいろ知りたいな」

「うん。まだ知り合ったばかりだけど──」

 

 夕食の支度を始めたお母さんに、尋ねられるままに日菜ちゃんとのことを話した。駅で教科書を拾ってもらったこと。喫茶店でお茶をしたこと。人生相談をしたこと。音楽プレーヤーを借りたこと。好きな曲がたくさん見つかったこと。カラオケで歌ったこと。日菜ちゃんのことは一部ぼかしたけど、だいたい全てを話した。

 

「……そう。燈のことをわかった上で仲良くしてくれてるのね。燈なら大丈夫だと思うけど、不義理なことはしちゃダメよ」

「うん」

「それと、良かったらだけど、今度日菜ちゃんに会わせて欲しいわ。燈のこと、お礼を言っておきたいし」

 

 それは、どうだろう。日菜ちゃんは面倒がりそうな気がする。でも、それくらいなら別に、と言ってくれそうな気もした。言い出す機会があれば、とお母さんには消極的な返事をする。お母さんは私の心情を察してか、「燈がお母さんに会わせてもいいと思ったらね」と言った。

 

 

 

 五日後に、またカラオケに行った。

 今度は日菜ちゃんがギターを持ってきて、カラオケの伴奏と日菜ちゃんのギターに合わせて、また声が枯れるまで歌い通した。

 ナガミヒナゲシの答え合わせ。日菜ちゃんの採点は100点だった。よく出来ました、とナガミヒナゲシで作った押し花の栞を貰った。

 

 新学期が始まるから、と次の約束は十日後になって、今度はカラオケじゃなくて私が普段よく行く場所を回ることになった。

 

 

 

 水族館が好きだ。一人でいても安らげるし、水槽は綺麗で見ていて飽きない。年間パスを買うくらいには入り浸っていた。とりわけ、ペンギンの水槽が気に入っていた。通路の上まで水が張られていて、私の上をケープペンギンが飛ぶように泳いでいく。

 

「ペンギン、好きなの?」

 

 はらはらとペンギンの影が差す。眩しそうに目を細めながら、日菜ちゃんはペンギンの水槽を見上げていた。スピーカーから波の音が流れて、海水の香りに意識がふわふわと流れていく。

 

「うん。かわいいから」

「ふうん。飛べないペンギンを飛んでるように見せるってコンセプト、キレイだけどあんまり好きじゃないかも」

 

 海を羽ばたくペンギンの軌跡を、飛行機雲のような水泡が白くたなびく。

 日菜ちゃんはペンギンを見上げたまま、小さく唸った。

 

「飛べないんじゃなくて、泳げるんだよ。彼らはそこに種の存亡を賭けたんだから、飛べないことを欠陥みたいに見せる論調はなんか違う気がする」

「……飛びたいペンギンも、いるかも。それと、見上げる私たちのことを気にしてない、と思う」

「まあ、そうなんだけどね。あたしの意見も、水槽のコンセプトも、ペンギンにとっては外野が好き勝手言ってるだけ」

 

 飛べないペンギンに、感情移入していたところが無いとは言えない。水槽の周りをカラスやスズメ、ハトやトンビなんかが飛んでいるのを、ペンギン達はどんな感情で見上げているんだろう。

 でも、ペンギン達には一緒に泳ぐ仲間がいる。

 

「あたしはペンギンでいいと思ってるけど、燈ちゃんは飛びたいペンギンだもんね。この水槽への感想が変わるのは当たり前か」

 

 四月になって、つまり、私が中学二年生になって、最初に日菜ちゃんを連れてきたのは、よく通っていた水族館だった。「燈ちゃんが好きなものが見たい」という要望を出されて、思い付いたのがここともう一箇所しか無かったのだ。もう一箇所、時々足を運んでいたプラネタリウムは、改修工事で営業休止中だった。別のプラネタリウムを探して日菜ちゃんを連れていくのも違う気がして、今日はとりあえず水族館を選んだ。

 

「そういえば、最近はノートに鳥のこと書いてるよね。鳥、好きなの?」

「うん。特に、ルリビタキが好き」

「どうして? 確かにかわいいけどさ」

「……日菜ちゃんみたいだから」

「そうかなぁ。青色っぽいのは同じだけども」

 

 ルリビタキを見ようと思って野鳥観察が盛んな公園に行ってみたけれど、シーズンの終わり際だからか結局見つけることができなかった。それでもふとした拍子に見つけられないかと思って、小鳥を見つける度に視線が釣られる。

 

 日菜ちゃんは小鳥みたいな綺麗な声で歌うから、生き物に例えるならルリビタキかオオルリだろうと思った。

 

「燈ちゃんはウォンバットみたいだよね」

「ウォンバット?」

「うん。オーストラリアにいるやつ。わかる?」

「なんとなく……」

 

 ウォンバットと言われても、鮮明なイメージは浮かんでこなかった。朧気に、コアラとクマの中間みたいな印象があるくらいだ。

 

 これだよこれ、と日菜ちゃんがスマホの画面を示す。検索窓にウォンバット、と打ち込まれていて、私の大まかな印象の通り、なんとも言えないずんぐりむっくりした容姿の獣の写真が載っていた。四角いうんちをする、と書いてある。

 

「あははっ、冗談だよ。ウォンバットもかわいいけどね。……哲学をしそうな動物がいいんじゃない? ラクダとか、ゾウとか」

 

 哲学をしそうな動物ってなんだろう。哲学というのは、つまりは私のノートのことを言っているんだろう。日菜ちゃんが以前に、自分の感情や心を分析するのは哲学や心理学に近いと言っていた覚えがある。有名な哲学書を読めば私が望む答えも見つかるかもしれないけれど、先人の思想に歪められてしまう恐れもあるから、自分の考えが固まるまでは読まない方が良いとも。

 

「どうして、ラクダやゾウが哲学をしそうだと思うの?」

「ゾウは頭良いし、ラクダは暇そうだから。砂漠を渡ってる間は考える時間もいっぱいあるでしょ」

 

 哲学は散歩に宿るらしいよ、と日菜ちゃんが笑う。

 脳のリソースをほとんど使わない作業をしている時に思考が回るのには、私も覚えがある。授業に集中しきれていないときとか、下校路とか、水族館に一人でいるときとか。

 

「……あ、今日のぶんのノート見せてよ」

「うん」

「新しくなってるー! ……カラージェリーフィッシュだっけ?」

「オオカバマダラのノートは埋まっちゃったから」

「燈ちゃんって、このシリーズ集めてるの? あたしも昔使ってたけど」

 

 学習帳、とタイトルがつけられたシリーズのノートを集めている。動物や植物の写真が表紙を飾っていて、日菜ちゃんに今まで見せてきたのはオオカバマダラが表紙のものだった。

 

「オオカバマダラ、似合うなって思ってたんだよね。旅する蝶。日本にも来るけど、迷蝶なんだっけ」

 

 初めて出会った日に、日菜ちゃんが表紙を言い当てていたのを思い出す。

 意味を込めてノートを選んでいるわけではなかった。限定版を除いてほとんどをコレクションしている引き出しから、無作為に選んできただけ。

 ……でも今回は、この水族館にいるクラゲを選んできた。真ん丸な傘と、カリフラワーみたいな触手のかわいらしいクラゲ。

 

 ……今気がついたけど、日菜ちゃんはどうしてこんなにも色々詳しいんだろう。私が今まで話してきた人は、魚や鳥や虫や植物の名前を気にしたりはしなかった。

 生き物の名前だけじゃなくて、日菜ちゃんは私よりもずっと詳しく世界を知っているのかもしれなかった。星の名前、石の名前、歴史、そして、人の心も。

 

 階を跨ぐ間に日菜ちゃんはノートをパラパラと捲った。カワウソや爬虫類や両生類のコーナーのある階に下る。

 

「燈ちゃんさ、歌うの、楽しかった? 今までよりもずっと、言葉を口にすることを意識してるように見える」

 

 ノートを胸元で抱きしめて、日菜ちゃんが悪戯っぽく笑う。

 自覚はあった。眠る前、ベッドの上で思い出す楽しい記憶は日菜ちゃんとのこと。

 上手く話せなかった記憶も、授業で当てられて声が出なかった時の恐怖も、日菜ちゃんが拭い去ってくれる。

 

「日菜ちゃんと歌うのは、楽しい。音楽を聴くのも、好きになった」

「……おお、新しいクラスメイトとカラオケ行ってみたんだ」

「知らない曲ばっかりだったけど、知ってる曲もちょっとあってね、それと、知らない曲の名前を教えてもらって──それで、それで……楽しかった」

「友達できた?」

「友達、なのかな。……音楽のことは、ちょっと話せるようになった」

 

 私に話し相手ができたと聞いて、クラスメイトとカラオケに行ったと聞いて、日菜ちゃんは嬉しそうだった。私は、ノートにそれを書くことも迷ったのに。

 

 意外だった。

 

 嘘だ。

 

 日菜ちゃんはこんな反応をするとわかっていた。

 

 予想が外れて欲しいと思っていただけ。

 

「私以外とでも大丈夫だった?」

「……うん」

 

 そっか、とカーテン越しの朝日のような声が耳朶を打つ。

 

 ──私は、最低だ。

 

 

「もう春真っ盛りってカンジだよね」

 

 水族館を出て、桜が散り始めているのを見つけた日菜ちゃんが呟いた。

 水族館の1階、青色に染まったフロアで、日菜ちゃんと何を話したのか、もう朧気だった。2階でカワウソが可愛いねという話をして──そして、1階に降りた私を、クラゲが無表情で見下ろしていた。

 

 交差点を渡る色とりどりの傘花みたいに、ふらふらと揺れる。傘の端が擦れて、ぶつかって、苛立たしげな空気が水滴と共に飛び散る。

 

 幻想的なはずの水槽が、どうしようもなく現実を反射していた。

 恐ろしくて、近づいたアクリルに跳ね返る私の表情は歪んでいる。

 

 何を話したんだろう。上の空で、私は、何がしたかったんだろう。

 

「……日菜ちゃんは、冬と春の境目は何処にあると思う?」

「んー、あたしが春だなぁと思ったら春! 燈ちゃんは?」

「私は、分からない。桜が咲いたらって言う人も、3月からだって言う人もいて……」

「テキトーでいいんだよ、そんなの。桜が咲いたら春、3月から春、ダウンジャケットを脱いだら春、マフラーを忘れても気にしなかったら春、日差しが気持ちよかったら春、春雷が来たら春! 雪が降ってても春! いつから春にしたいか、燈ちゃんが決めればいいんじゃない?」

「私が、決める……」

 

 苦し紛れに投げかけたのは、多分、日菜ちゃんに出会った日にノートに書き込んだ悩みだった。

 やっぱり、私が一人で抱えている悩みなんて、日菜ちゃんは一言で吹き飛ばしてしまう。その強さが羨ましくて、優しさが嬉しくて、私は……日菜ちゃんに手を握っていて欲しくなる。

 

「日菜ちゃんに会った日が、私の春の日……だと、おもう」

「じゃあ、3月9日を春分の日ってことにしよう!」

「え、でも、3月20日は──」

「その日はあたしの誕生日があるから大丈夫。祝日のままだよ」

 

 目の前でぴょんと跳ねた背中、振り返ったエメラルドの瞳が瞼の裏に隠れる。翡翠の髪が揺れて、思わず伸ばした手のひらを、しなやかな指先が絡めとった。

 

「うーん、今日はやめとこうかなと思ったけど、先延ばしにするのも良くないか。早い方がいいもんね」

 

 固く握った手のひら。私よりも体温の低い日菜ちゃんの腕がぐいと引かれて、彼我の距離が縮まる。社交ダンスのように、私の腰に余った左手を添えて、星藍(せいらん)(そら)を溶かした瞳が、たちまちに私の心を染める。

 

「燈ちゃん、あたしとバンドやりませんか」

 

 そして、心臓を揺らすドラムみたいな衝撃が、私の体を貫いた。

 

 バンド。バンドって、あの、バンド。ギターとベースとドラムとボーカルでライブをする、あの、バンド? 

 

「ど、どうして、私に──?」

「あは、ビックリしてる。なんでって、あたしが燈ちゃんとやりたいから」

 

 パッと距離が離れる。日菜ちゃんの体温の名残を春の風が拭い去っていく。

 

「燈ちゃんが紡いだ言葉を、あたしがメロディーにする。出来上がった曲をあたしがギターで弾いて、燈ちゃんが歌う。それって、すっごくるん──ワクワクしない!?」

 

 一呼吸。

 

「そりゃあ、それだけが理由じゃないよ? ガールズバンドが流行ってるし、バンドをやってるってことは燈ちゃんの話題作りにもステータスになると思ったし、学校っていう閉じた環境以外でも人と交流が持てるかなと思ったのもあるし、燈ちゃんが一歩踏み出す大きな挑戦になるとも思う。燈ちゃんにもメリットがあるから提案してるけど……でも、1番はあたしが燈ちゃんとやりたいから! どうかな?」

 

 吟味する。日菜ちゃんが後出しで述べた理由は、十分に理解できる。カラオケに連れて行ってもらった日のように、もう少し進んでみようということだ。

 

 でも、それよりも、──()()()()()()()()()。その言葉がリフレインする。ぐわぐわと頭が揺れて、心臓がバクバクと騒がしい。あの嵐の夜にブランケットを握りしめて耐えたときのような、私の根底を揺るがしかねない衝撃に襲われていた。

 

「燈ちゃんの言葉を、歌にしてみない? 借り物の言葉だってそう悪いもんじゃないとは思うけどさ。燈ちゃんが普段話してこなかった分の感情を、歌に乗せてみようよ」

 

 ほどけた手のひらが、今度は私の目の前に。

 察しの悪い私でも、委ねられているのだとわかった。

 

 カラオケに連れられた日とは違う。私が一歩踏み出さなければ、日菜ちゃんの手に触れることはできない。私の葛藤に反して、勝手に柔らかい手のひらが私の心を包んでくれることはない。

 

 嵐が来ている。春の陽だまりを吹き散らす青嵐(せいらん)

 私はまだ、選ぶことができる。ドアを閉め、雨戸を閉め、窓を閉めてカーテンを閉ざすのか。それとも、藍色の傘を手に取って、何もかもを吹き飛ばしてしまいそうな外に飛び出してみるのか。

 

「日菜ちゃんは、私が他の人と歌うの、嫌じゃないの?」

「……え、ヤダよ? 何の話かわかんないけど。燈ちゃんはあたしの隣で歌って欲しいな」

 

 地底から火星へ、惑星通信。ノイズ混じりの感情が伝わって弾ける。星雲の嵐を抜けて、醜さにぐちゃぐちゃとかき混ぜられた私の心。

 

 日菜ちゃんに、嫉妬して欲しいなんて考えてしまった。私の中の日菜ちゃんはこんなにも大きいのに、日菜ちゃんにとっての私はぽんと手放してしまえるようなものなのかと怯えた。

 私たちの感情の大きさが等号で結ばれることはないのだろう。それはわかっている。だけど、「上手くやりなさい」「無理はしないようにね」と私を玄関から見送ってくれるお母さんみたいな表情をして欲しくなかった。

 

 わがままで、醜くて、気持ち悪い。首を擡げた負の感情を、日菜ちゃんにほのめかしてしまった。

 心を浮かべてくれるはずの歌が、泡沫のように霞んでしまった。日菜ちゃんが綺麗だと言ってくれた私の気持ちを、私の身勝手さが濁らせる。

 

 それなのに。それなのに、そんな私に日菜ちゃんは笑顔を向けてくれる。私の心を、私の言葉を尊んでくれる。私が欲しいと思う言葉を、私に差し伸べてくれる。

 

「……やりたい」

 

 躊躇はした。けれど迷いは無かった。

 

「日菜ちゃんの隣で、日菜ちゃんと歌いたい。楽しくても、辛くても、叫んでいたい」

 

 だって、もう独りには耐えられない。孤独に戻るのが恐ろしい。林檎の味を知ってしまったから、知る前にはもう戻れない。木に登る方法を覚え始めたばかりの私では、飢えて枝を揺することくらいしかできないだろうから。

 

 友達なんかいらない、とまでは思わない。やっぱり私は誰かに認めて欲しいし、息をすることを許して欲しい。私が歩き続けているこの一歩で、友達付き合いができるようにもなりたい。

 だけど、日菜ちゃんが消えてしまうことにはきっと、耐えられない。一度巣を離れてしまったヒナがもう戻れないように、一歩踏み出したら後戻りはできないのだ。

 

「私の心を、日菜ちゃんに翻訳して欲しい」

 

 手を取った。両手で、容易には振りほどかれてしまわないように強く握る。

 

 私の耳を、目を、心を通り抜けた世界が、私のノートには刻まれている。日菜ちゃんが弦を弾けば、きっとそれが音符の翼をまとって誰かの心へと飛んでいく。

 

 きっと私の幸せは、音符の形をしているのだと思った。

 

 エメラルドに跳ね返った私の瞳は、琥珀の色をしていた。

 

 

 

 ・

 

 

 歌詞を書き始めた。

 今までノートに書き留めた星の数ほどの言葉と、今の私の、世界の外に飛び出してしまいそうな感情とを繋ぎ合わせて、地底から火星へ飛び出すためのロケットを作る。

 

 日菜ちゃんは本当に門外漢らしく、作詞は手伝えないかもしれないと眉尻を下げていた。日菜ちゃんが好きな言葉を挙げてくれるくらいで、あとは私が書いたものを見ながら感想を言ってくれる程度。それだって十分に助けにはなっているし、日菜ちゃんにもできないことがあるのだという事実が私を奮起させた。

 

 代わりに、『燈ちゃんの言葉ならどんな内容だって理解してみせるよ』と言ってくれる。

 

 書くのは当然、私のはじまりのうた。春分(出会い)の日から今日までの、不格好な私の軌跡。

 詰まったら家の周りをノロノロと歩いて、桜の花びらが散る速度をカウントしてみたりする。道端ですれ違うカラフルな傘に、少し怯んだこともノートに書き留めた。

 

 書き上がったものに、日菜ちゃんが翼をつけた。駅のライブで見た木目のアコースティックギターではなく、青藍(せいらん)のエレキギターを手にした日菜ちゃんが、私の言葉を噛み砕きながらメロディーに翻訳して、私たちの最初の曲ができた。

 

 スタジオやカラオケで何度も練習して、そのうちにだんだんと曲が形になって、私の想いは大きく羽ばたいた。

 

 ライブをしよう、ということになって、日菜ちゃんが『CiRCLE』というライブハウスの予約を取った。私が知っているライブのイメージとは違って、一日の公演で様々なバンドが順番に演奏するブッキングライブという方式らしい。他のバンドと比較される、ということに思い至ったけれど、日菜ちゃんのギターを聴いていたら気にならなくなった。

 

 私たちの曲がひとつ。

 私たちが好きな曲がふたつ。

 

 最初のライブは、たったそれだけ。

 

 カレンダーに二重丸をつけたライブの日が近付くにつれて、私の心は浮ついていた。

 お母さんは、私がバンドを組んだと言うと大層驚いたけれど、ライブには絶対に行くからと言ってくれた。

 

 普段だったら絶対に失敗に怯えて眠れなくなるはずなのに、寝不足になることはなかった。大丈夫。今の私は、前に進める。自分を騙すための呪文を繰り返した。臆病な私もありのままの私だけど、今回だけは勇気が欲しい。

 

 そして、朝が来た。

 

 前日から、強風注意報が出ていた。桜の名残りを散らしてしまう、花曇りの東風。

 

「おはよ、燈ちゃん」

「おはよう、日菜ちゃん」

「楽しみだね」

「うん」

 

 風で前髪が持ち上がるのを鬱陶しそうにした日菜ちゃんが、ギターケースを担いで私の隣を歩く。ライブハウスまでの道程、電車一本と駅から徒歩7分。

 電車の中で手ぐしで髪を直した日菜ちゃんが、また徒歩の間に面倒くさそうに唸る。

 私はといえば髪を耳にかけて前髪を流していたから、髪型が崩れるほどじゃない。

 

「私とお揃いみたいに、しない?」

「あたしはちょっとくせっ毛だから、流すにしてもちゃんとしないとボサボサになるんだよね。……諦めて楽屋でちゃんと直そうかなぁ」

 

 まあいいや、と諦め顔。それにしても、とギターケースの位置を調整しながら投げかけられた話題は、同じく天気のことだった。

 

「雨にならなくてよかった。予報だと降りそうだったんだけど」

「うん。風は強いけど……」

「強風注意報が出てたね」

 

 CiRCLEに到着すると、スタッフの月島まりなさんが段取りについて説明してくれた。リハーサル、本番の手順、照明さんやPAさんと話し合うことまでいろいろと教えてくれる。大体は日菜ちゃんに任せっきりになってしまうのが申しわけなくて、少しでも理解できるようにそれもノートに書き留めた。

 

 リハーサルまでを終わらせて、ロッカーに荷物を預けた後。受付に戻ったはずのまりなさんが困ったように帰ってきた。

 

「そういえば、仮決めだったバンド名だけど、『ランニング・ライト』でアナウンスしても大丈夫?」

「えーっと、燈ちゃん、どうする?」

「……うん、それでいいと思う」

 

 ランニング・ライト。夜間航行灯。ライブの申し込みをするときにバンド名が必要になって、日菜ちゃんがパッと思い付いたバンド名で仮登録した。それからしばらく経ってもこれ以上の名前が思いつかないまま、今日まで来てしまった。

 

 風が強い今日のフライトが上手くいくことを願って、この名前で行くことにする。

 

 

 いざステージに立つ前は、当たり前のように緊張した。ストローを差した水のペットボトルと、私の言葉を詰め込んだノートを持つ。白と水色のスニーカーを見下ろして、前に進むように祈った。願いを込めて靴紐を結び直す。

 昔、緊張のあまり靴紐の結び方を忘れてしまったことがあった。その時は結局何も出来ないまま終わってしまったけれど、今日は大丈夫。

 

「大丈夫だよ、大丈夫。あたしたちなら大丈夫」

 

 日菜ちゃんの右手が私の背中を撫でた。

 二人で息をして、二人で歩く。いつも通りに歌って、いつも以上に感情を込める。このステージの主役は私たちで、私たちはこの心を叫ぶことが許されている。だから、大丈夫。

 

「日菜ちゃん。私、今日なら飛べるよ」

 

 ランニングライト、とバンドの名前が呼ばれる。薄暗いステージの上で、マイクの前に立った。日菜ちゃんがギターを弄るのを見守りながら、台に水とノートを置いて、唾液を飲み込む。

 観客の中に、お母さんの影が見えた。不安そうにこちらを見ているのがわかる。いつもごめんなさい。でも、今日は。

 

 青藍(せいらん)のギター。私の心を空っぽにするアオ。左に主張する日菜ちゃんの存在感。客席の奥に見える非常口のライトが、発進の合図を送った。

 

「ランニングライト、です。私の心の歌と、私たちの好きな歌を歌います。……よろしくお願いします」

 

 オッケー、と日菜ちゃんがサムズアップ。

 

「聴いてください、【晴嵐(せいらん)】」

 

 深く息を吸った。この世界に産声を上げるための、最初の呼吸。

 肺が縮こまるときに空気が震える。

 

『日菜ちゃんって、嵐みたい』

『えー、どこが?』

『私を、吹き飛ばしてくれそうなところ』

『あは、それなら嵐でもいいよ。でも、あたしは()()だからね。晴れにしてもらわなきゃ』

 

 私が日菜ちゃんの手を取った日の、帰路の会話を思い出す。

 

 罫線の上に綴ったのは、晴るの嵐。私の悩みも躊躇も苦しみも吹き飛ばしてくれる強風、背中を押してくれる追い風。

 

 エメラルドの光が私を包み込んだ。

 私の心を乗せた歌に、日菜ちゃんが翼を授ける。瑠璃色の翼が力強く伸びて、私の頭のてっぺんからアーチを描くように羽ばたいた。

 

 

 

 ──どうか、届いて。

 

 

 

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