問題児が駒王学園に来るそうですよ?―ただし、一人とは言ってない―   作:金谷沙原

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お待たせしました(待ってくれていたら嬉しいなぁ…遠い目)!

やっとの更新です!ちょっとだけ挑戦がありますので、その部分の感想なんかいただけると嬉しいです!

あとから自分で読んで死にたくなりましたけどねw

では、どうぞ!


友達、出来ました!―友人の友人も人間やめてました!―

「あの問題…い、十六夜は元気にされているでしょうか?ま、まあ、か、彼が元気でないはずがありませんが、やはり心配ですね…」

 

人間が暮らす世界とは位相のずれた世界。

 

ある仏が暮らす世界の建築物の一室で、ウサギ耳の少女が呟きながら、頬くを赤くしたり、心配気に表情を曇らせたりと百面相している。

 

その両腕には幾つかの書類のようなものが抱えられている。

 

彼女は1人でいるわけではなく、彼女が控えているデスクには若い男性が座っている。

 

彼は強面の顔を迷惑そうにしかめ、しかし、デスクに乗せられた書類を片付けている。

 

「…う、浮気なんてしていませんよね…?でも遠距離恋愛は失敗しやすい、とオーディン様付きのロスヴァイセさんも仰っていましたし…どうしましょう急に心配になってきました…」

「そんなに心配ならば俺が見せてやろう」

 

「本当ですか!?」

 

顔を青ざめさせ心配する彼女に、デスクで仕事をする男性は、見せてやれば安心して黙るだろうと考え、軽い気持ちで見せてやった事を後になって後悔する。

 

「たしかこの辺りに…」

 

彼はデスクの一部をガサゴソと探し、目的の物を探し当てた。

 

「あったあった。ほら覗き込め」

 

「これって八咫鏡ではないですか!どうして帝釈天様が…」

 

「天照に借りたまま返し忘れた。あと俺はもう帝釈天じゃないぞ」

 

「神器返し忘れるとかわけがわかりません!また忘れない内にちゃんと返しておいて下さい!」

 

へいへい、と聞いているんだかいないんだかわからない返事をし、デスクに戻る主から丸い銅鏡を借り、少女は覗き込む。

 

彼女の思い人、尊大で自信家で傍若無人に見えても、誰よりも自分を犠牲にして戦える、そんな彼を思い浮かべた。

 

彼を思い浮かべるだけで表情を綻ばせ、優しい雰囲気を漂わせる。

 

彼女の主もその表情を見て、貸して良かったな、と考えたところで何かの破砕音を耳にした。

 

何事かと帝釈天が振り返ると銅鏡を真っ二つに折り割り、武神である彼を震え上がらせるほどの怒気を纏う少女がいた。

 

「…帝釈天さま」

 

「は、はい!」

 

「少しお暇をいただきたいのですが…?」

 

「ど、どうぞ」

 

では、と少女は腰を折り、深く頭を下げるとすぐさま振り返り、部屋の床板を踏み抜き窓から飛び出していった。

 

その際、彼女の艶めく黒髪は桜色に変色していた。

 

「許しませんよ十六夜っ!」

 

 

―◇―

 

 

深夜、契約を取るため一誠と士郎は一軒の家屋の前に並んで立っていた。

 

悪魔ではない士郎が何故一緒にいるのかというと、護衛の為である。

 

最近、堕天使や教会関係者との接触など、悪魔の天敵である光の力を扱う者との遭遇が増えているので、オカルト研究部で手の空いている士郎、十六夜、古城にお鉢が回ってきた。

 

騎士である裕斗はその速さを使って逃げることも可能なため除外されたが、女子である小猫と朱乃、実戦経験のない一誠に3人が交代で護衛についているのだ。

 

そして、今に至るわけなのだが、少し問題が発生していた。

 

今まで一誠の契約相手はマンションやアパート等で一人暮らしをしている人しかいなかったが、今回は一軒家、もしかしたら家族がいる場合もあるため、入りあぐねている。

 

「家族いても俺って認識されないのかな?」

 

「さてな。入ってみないことには何とも…」

 

そこまで言って、士郎は玄関に異常を覚えた。

 

扉が少し空いているのだ。

 

その様子に疑問を覚えた一誠は士郎の視線をおい、同じことに気付き、首を捻る。

 

「ずいぶん無用心だな?」

 

士郎はそうだな、と頷いたが、漠然とした危機感を覚えていた。

 

―悪魔を呼んだ家の扉が空いている…穏やかじゃないな…

 

そうは思ったが、単に閉め忘れただけかもしれない、と割り切り、一誠に入るよう促した。

 

一誠も契約の為、とドアを開け中にはいる。

 

護衛の士郎は外で待機、一誠はどんどん奥に進んでいく。

 

奥に進むにつれ、一誠は不安を感じていた。

 

―嫌な予感がするぜ…

 

漠然とした不安を抱えながら、一誠は進み、明かりの点いた部屋を見つけた。

 

部屋を見つけた時点で一誠の不安は最高潮に達し、何故だか冷や汗までかき始めていた。

 

そして、部屋の内部を見て、一誠は胃から込み上げる物を吐いてしまった。

 

壁に依頼主であろう男が逆十字に磔にされていたのだ。

 

胸、両手、足に杭が打たれ、腹は切り裂かれそこから臓物がはみ出していた。

 

死に顔は苦悶の表情が刻まれ、その横には一誠には読めない文字で何かが書いてあった。

 

「何だよこれ…」

 

「『悪い人にはおしおきよ』て偉い人の言葉をお借りしたのさ」

 

突然の声に驚き、一誠が声の方に振り返ると、神父の服に身を包んだ長髪の男、少年と言ってもいい、が眼に入った。

 

「んーんー?これはこれはあーくま君ではないですか。もしかしてそこの死体に呼ばれていたやつですかねー?」

 

「あんたがやったのか。何で…」

 

「何で?なーに言っちゃってんですかねー?悪魔と契約する人間なんて屑なんですから、サーチアンドデストロイですよ」

 

何とも腹のたつ話し方だ。

 

「勿論悪魔も例外じゃないですよ!サーチアンドデストロイ!悪魔祓いが見付けたからには死んでねぇ!」

 

突然懐から筒の様なものを取りだし、そこから光の剣を形成し、一誠に斬りかかる神父もとい悪魔祓い。

 

その光の剣からは堕天使が扱っていたものと同一のものを感じたため、くらうものかと一誠は大きく一歩下がり、自身の神器である赤い籠手を呼び出し構える。

 

『Boost!』

 

左手の籠手から音声が鳴り身体に力がみなぎるを倍にしたのを確認し、一誠は神父に殴りかかった。

 

「…ッ!!」

 

しかし、突然の左足の痛みに一誠は立ち止まる。

 

更に右足にも痛みが走り、たまらず膝をついてしまう。

 

何が起きたのかわからないまま痛みを訴える自身の両足を見ると、多くは無いが出血していた。

 

しかも、身体を侵すように痛みを広げているそれは、先日堕天使ドーナシークから受けた光の槍と同じものだった。

 

一誠が視線を神父に戻すと、その手には銃が握られていた。

 

―あれに撃たれたのか?!でも銃声なんて…

 

「不思議そうな顔をしていますねー?こいつは光を弾丸にして撃ち出す悪魔祓い御用達の銃なんでございやす!ゆえに発砲音なんてナッシング!ご近所に優しい仕様になっておりますのよ奥さん!」

 

腹でも抱えて笑いだしそうな表情をしているが、その眼は狩人のように一誠の動きを観察していた。

 

「ではでは、悪魔君には俺の名前を覚えてから死んでもらいましょうかね。俺の名前は『フリード・セルゼン』。ある悪魔祓い組織に所属する末端でございやす。それではこの光の剣で切り刻まれる快感でイッちゃって下さいよぉっ!」

 

剣を降り下ろされ、一誠はなすすべもなく切り刻まれる―ことはなく、間に『干将・莫邪』の雌雄剣をクロスさせ士郎が割って入っていた。

 

「悪い。遅くなった」

 

「いや、ナイスタイミングだよ。生き延びれた」

 

「んんー?あなたは人間ですねー?何故悪魔の味方をしやがるんですか?」

 

至近距離でつばぜり合い、鎬を削る。

 

ニヤニヤした笑いを浮かべながら聞くフリードに、士郎はフッ、と口角をあげ、答える。

 

「友達だからな。助ける、さっ!」

 

クロスさせていた両手の剣を両側に払うように振るい、フリードを壁際に飛ばす。

 

フリードは少しよろめいたが完全にバランスを崩すことはなく、右手に光の剣、左手に銃を握り構える。

 

「おやおや、悪魔と人間の友情ですかー泣かせますねぇ。でもでも関係ないでござーますよ!一緒に切り刻みますねぇ!」

 

「やめて下さい!」

 

響く女性の声。

 

再び士郎に斬りかかろうとする格好のまま、フリードは視線を声に向けた。

 

一誠と士郎も同様に声の方に視線だけを送る。

 

士郎はただ見つめただけだったが、一誠の表情は驚きに満ちていた。

 

「あれあれ?助手のアーシアちゃん、結界を張るお仕事は終わったんですか?」

 

「!キャアァァア?!」

 

最初は戸惑うような表情を浮かべていたアーシアは、逆十字に磔にされた遺体を見て悲鳴をあげる。

 

「可愛いらしい悲鳴ありがとうございます。そういえばアーシアちゃんはこの手の死体は初めてでしたか?なら、よっくと見てくださいねぇ。クソ悪魔に魅入られるようなクソみたいな人間はこうやって死んでもらうんですよー」

 

「そんな…」

 

フリードの言い様にアーシアは言葉を失う。

 

フリードと視線を合わせるのが耐えられなかったのか、視線を一誠達に向けると、ひどく驚いたような表情になった。

 

それは、いるはずのない親切な高校生がこの場にいるからだった。

 

「イッセーさん…?」

 

「アーシア…」

 

一誠は苦い表情を浮かべる。

 

悪魔と教会関係者は相容れない。

 

主であるリアスに今後関わってはならないと念押され、一誠としてもシスターであるアーシアと会うことはもうない、彼女にとって自分は気の良い少し親切な高校生で良い、と考えていた矢先の邂逅だったのだ。

 

苦い表情もしたくなるだろう。

 

「あららん?そこの悪魔くんとアーシアちゃんはお知り合いなのかな?かな?」

 

「イッセーさんが悪魔…」

 

アーシアは信じられないという表情を浮かべ、一誠は苦い表情を深くする。

 

「彼女がイッセーが教会まで案内したシスターか」

 

「ああ…」

 

「ほほう。2人知り合いですかー?あれですか、立場の違う2人、許されざる恋ってヤツですか?まあ、関係ありませんけどねぇ!」

 

フリードが士郎に斬りかかる。

 

士郎も迎えうつため構えたが

 

「どういうつもりですかねぇ?アーシアちゃん。何故悪魔を庇ってんです?」

 

アーシアが二人の間に立ちはだかり、両者とも動きを止める他なかった。

 

「もう悪魔や悪魔に魅入られたからといって殺すのはやめて下さい」

 

「はあ!?なに言っちゃってんですかぁ!?悪魔は例外なく悪、絶対悪なんですよ!ゆえに悪魔の関係者は残らず殲滅、滅殺、撃滅が当然なんですよ!自分がなに言ってるかわかってます?」

 

「でも、悪魔にもいい人はいます!」

 

「いねぇよ、クソアマァっ!」

 

「きゃっ…!?」

 

アーシアは必死に言い返すが、フリードは聞く耳を持たず、むしろ逆上しアーシアを握った拳で殴った。

 

一誠はフリードに怒りを覚え、制止する士郎を押し退け前に出る。

 

撃たれた足の痛みをこらえ、右足を踏み込み左拳を繰り出す。

 

あっさりと回避されたが、構うことなく連続して右拳を振るうも再び避けられる。

 

「待て一誠!」

 

「庇ってもらってばかりじゃカッコつかないだろ!」

 

「ひゃはは!カッコいいねぇ!姫を殴られて怒り心頭てか?でも騎士さまは実力が足りないようですねぇっ!」

 

再び繰り出した籠手でのアッパーも回避された一誠は、完全に身体が伸びきり無防備な胴を晒してしまう。

 

まずい、と理解はしても身体が追い付かず、フリードの光の剣が振るわれる。

 

―情けねぇっ!死んじまうのか、俺?

 

一誠が諦めかけた瞬間、

 

「ダイナミックお邪魔しまぁぁあすっ!!」

 

「ぐげりゃっ!?」

 

屋根を突き破り何かが飛来し、フリードを壁まで蹴り飛ばす。

 

もうもうと上がる埃の中から、非常識なことをした張本人の声が上がる。

 

「ヤハハ。かなり良いタイミングじゃないか、俺?」

 

「おう。最高のタイミングだったぜ。入りかたは非常識極まりねーけど」

 

「通知表にはいつも『発想力豊かな子です』て書かれてたからな」

 

一誠の軽い嫌味にも動じることなく、超問題児、逆廻十六夜はあっけらかんと返した。

 

何となく和んでいた十六夜に、先の一撃でも気絶しなかったフリードが埃を吹き散らし、背後から斬りかかるが、右手の人差し指と中指で光の剣を片手真剣白羽取りをする。

 

「なっ?!」

 

「甘えな。その程度じゃ俺は斬れねぇよ、三流神父っ!」

 

光の剣をへし折り、左拳を振るう。

 

光の剣をへし折られ、動揺したフリードだったが、剣が無くなったことで自由になり、バックステップで回避しながら銃を三連射。

 

至近距離で避けようもない距離だったため、フリードは直撃を確信したが、十六夜は避けることはせず、むしろ前に踏み出し、左右の拳を三度振るう。

 

十六夜の振った拳の先で光が弾ける。

 

「光の弾丸を殴って無効化か…」

 

「…その前に光の剣指2本で白羽取りして、へし折ってるけどな」

 

十六夜のハチャメチャさには慣れたと思っていた一誠と士郎をして、感心とも飽きれとも言えない言葉が吐かれる。

 

この2人でさえこの状態なのだ、初見のフリードからすればそんな場合ではない。

 

必殺の武器だと思っていた光の剣と銃が全く通用せず、そればかりか反撃までしてくるのだ、フリードからすれば悪魔よりも遥かに恐ろしい敵だ。

 

「何なんだ貴様はぁ!本当に人間かっ?!」

 

「ひでぇ言い草だ。勿論、正真正銘人間だよ。神滅具なんて穏やかじゃねぇもん持ってるけどな」

 

「なにぃ!?レイナーレの姐さんめ、神滅具保持者は勘違いとか抜かしてたじゃねぇか。普通に俺っちの目の前に出てくるとか訳わかんねーよ…」

 

フリードは自らの圧倒的形勢不利を覚り後退る。

 

逃げるつもりなのだろうが無理だろう。

 

既にフリードの身体はボロボロ、十六夜は無傷であるし、士郎も無傷。

 

たとえ士郎か十六夜が一誠の補助に入ったとしても、両者とも現在のフリードに遅れをとるほど弱くない。

 

さらにだめ押しとばかりに一誠の目の前に魔方陣が展開し、青白い光を放つ。

 

一瞬でグレモリー眷属が全員現れ、一誠の状態を見て表情を怒りに染める。

 

「部長様遅かったな。ほとんどやること無いぜ?」

 

「転移の座標指定に手間取ったのよ。それにあなたが速すぎるだけで、私たちは普通よ。朱乃」

 

「はい」

 

十六夜と軽口をたたきあってから、リアスは朱乃の名を呼ぶ。

 

名を呼ばれただけだが最初から心得たように朱乃は一誠に近付き、指示されることなく応急手当を開始した。

 

「さて、悪魔祓い。あなたが私の可愛い下僕を痛め付けたのかしら?」

 

「ハイハイ、ソーデスヨ。私めの仕業です。ホントは細切れに刻みたかったんですけどねぇ。邪魔が…」

 

「そう。それだけ聞ければ十分よ。消し飛びなさい!」

 

「部長!」

 

リアスが右手に形成した魔力球をフリードに投げる寸前、外を警戒していた祐斗と小猫が焦った様子で飛び込んできた。

 

「なに?」

 

「多数の堕天使が近付いてます…っ!」

 

小猫の報告にリアスは息を飲む。

 

堕天使に遅れをとるつもりはないが、多勢に無勢、まして、戦えない一誠を抱えてだ。

 

護りながらの戦闘ほど気をつかうことはない。

 

リアスは渋々ながらも魔方陣での撤退の指示を出す。

 

その際一誠がアーシアも連れていきたいと願い出たが、リアスは却下した。

 

一誠が理由を問うと

 

「この魔方陣はグレモリー眷属にしか反応しないの。だから、古城を連れてこれなかったのよ」

 

一誠は理由は頭で理解したが、心は納得出来なかった。

 

「でも…!」

 

「イッセーさん、行ってください」

 

「アーシア?!」

 

「また、お会いしましょう」

 

一誠は必死の形相で手を伸ばしたが、

 

「十六夜、士郎!逃げられるわね?」

 

士郎は無言で頷き、十六夜はいつもの不敵な笑顔を浮かべ答える。

 

「朱乃!」

 

「行きますわ!」

 

「アーシアァァ!」

 

アーシアに向けて伸ばした手は虚しくも宙を切り、届くことなく一瞬で消えた。

 

悲しそうな笑顔を浮かべながら、アーシアは消えた一誠がいた場所に手を伸ばした。

 

「イッセーが悪魔だったのがショックか?」

 

士郎が問うと、アーシアは驚いた表情を見せたが、すぐに優しげな笑みに変わった。

 

「そう、ですね。ショックがなかったと言えば嘘になりますけど、でもイッセーさんはイッセーさんです。困った人を放って置けない良い悪魔さんです」

 

「たく、良い娘じゃねえか。イッセーめ、やるな。さて嬢ちゃん。またイッセーに会いたいか?」

 

「!会えるんですか?!」

 

「ああ。ちと手荒い逃亡になるけどな」

 

不敵な笑みを深くする十六夜。

 

アーシアはその笑みに若干の不安を覚えたが、背に腹は変えられない。

 

助けてくれると言うのだ。信じる他ない、と決心を固めた。

 

十六夜はアーシアの内心を表情から読み取り、士郎の顔を見る。

 

視線だけで気持ちが伝わったらしい士郎は肩を竦め、わかったよ、とだけ答えた。

 

「よっしゃ行くぜ!」

 

「え?きゃっ」

 

十六夜は戸惑うアーシアを無視し、彼女を横抱きにした。

 

いわゆるお姫様だっこだ。

 

アーシアは顔を赤くするが、十六夜は黙殺した。

 

一緒に玄関まで向かう。

 

フリードは先程の騒ぎの時点で逃げ出していたらしく、玄関に向かう3人が出くわすことはなかった。

 

十六夜と士郎は視線をあわせ、小さく頷きあう。

 

十六夜が十分離れたのを確認し、士郎は魔術を行使する。

 

「投影開始」

 

腕を上に伸ばした士郎の背後に大小、種々様々な剣や槍が空中に浮かんだ状態で現れた。

 

上げていた手を無言で降り下ろすと、降り下ろされた動きにあわせ、武器が射出され、玄関ドアを粉砕した。

 

「何だ!?」

 

「ぐあっ!」

 

「避けたのに迫ってくる…!」

 

混乱する堕天使たちの声を聞き、士郎は飛び出す。

 

射出した武器で数人の堕天使を無力化していたが、無力化した数とほぼ同数の堕天使が残っていた。

 

―少しキツいけど、やるしかない…。っ!

 

堕天使達に斬りかかろうと一度は武器の投影を行おうとした士郎だったが、視界の端に映った何かに危機を感じ、武器ではなく自身が唯一まともに投影することができる防具を投影する。

 

「『熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)』!」

 

士郎の手に七つの花弁で周囲を覆う盾が投影され、金色の獅子が放つ雷撃を防ぐ。

 

尋常ではない衝撃が士郎を襲い、瞬く間に花弁を散らせ、残り二枚になった時雷撃が止んだ。

 

士郎の周囲には雷撃をまともに受けた堕天使達が時折体を痙攣させながら気絶している。

 

「…古城」

 

「あー…わりぃ」

 

金色の獅子、眷獣『獅子の黄金』の後ろから主である第四真祖、暁古城がばつの悪そうな顔をしながら姿を見せる。

 

「ヤハハ!味方まで巻き込むとわよ!さすが世界最強の吸血鬼、第四真祖さまだぜ」

 

「悪いと思ってるから傷口に塩を塗り込むな…」

 

「第四真祖…?!」

アーシアは驚きの表情を浮かべる。

 

神側や悪魔、堕天使、いわゆるそちら側の関係者にも噂程度にしか存在が確認されていない第四真祖が目の前にいるのだ、驚かない方がおかしい。

 

そんなアーシアの心情は無視して、十六夜たちは話を進める。

 

「これからどうする?」

 

士郎の言葉には主語が抜けていたが、十六夜たちは理解できた。

 

「いったん俺が預かる。イッセーには有り難がってもらうさ」

 

「ま、十六夜んとこなら安心だな」

 

「ああ。ある意味うちの最大戦力だからな」

 

「「任せた」」

 

「おう」

 

トントン拍子に話は進み、当事者であるアーシアを取り残したまま決着がついた。

 

古城と士郎は軽く手をあげ、それをあいさつとして帰り、十六夜もそれに応えてヒラヒラと手を振る。

 

「行くぞアーシア」

 

「…このままですか?」

 

ほとんど人通りがないとはいえ、人の目に触れる可能性のある屋外で、お姫様だっこのまま移動するのは恥ずかしい。

 

そう思い、アーシアは十六夜にそれとなく伝えたのだが、元来問題児の彼がそんなものを理解しようとするはずもなく。

 

「しっかり捕まってろよー(棒」

 

「…っ!!」

 

十六夜のいつもの移動方法(ものすごい跳躍)にアーシアは声なき叫びを上げた。

 

 

―◇―

 

 

「ヤハハ、どうだったよ空の旅は?」

 

「…二度と体験したくありません…」

 

愉快そうな十六夜とは対照にアーシアは瞳に光がなく、どんよりした雰囲気を纏っていた。

 

100mほどまで急上昇し、一面の星空に感動したのも束の間、そこからの急降下はアーシアの人生の中で最大級の恐怖だった。

 

今十六夜たちは、十六夜の母『金糸雀(カナリア)』が院長を務める、孤児院の敷地内にある十六夜と金糸雀が住む家のリビングにいた。

 

母である金糸雀は里親の一人と会ってくる、という書き置きをして家を出ている。

 

「ま、これでも飲んで落ち着け」

 

「あ、ありがとうございます」

 

十六夜の差し出したカップを受け取り口をつける。

 

コーヒーの苦味に顔をしかめるアーシアに、彼は黙ってスティックシュガーとミルクを渡した。

 

彼女は恥ずかしそうにはにかみながら、スティックシュガーとミルクを受け取り、コーヒーに混ぜた。

 

「風呂は廊下に出て右、突き当たった右側の引き戸だからな。沸いてるから勝手に入ってくれ」

 

「え、でも…」

 

「気にすんな」

 

「じゃあ、お言葉に甘えてお先に失礼しますね」

 

アーシアの言葉に応えるように十六夜はヒラヒラと手を振る。

 

完全に彼女がリビングから出たのを見計らって、彼は『彼女』に話し掛けた。

 

「で、何のようだ黒ウサギ?」

 

「十六夜…」

 

十六夜の名を呼びながら黒髪にウサギ耳を生やした少女、『黒ウサギ』が空間を裂いて現れた。

 

「わざわざ『門』使ってまで来たのか?」

 

「そうです。浮気者を成敗するために!」

 

「浮気?何の…て、ああ、アーシアか」

 

十六夜が思い付いたようにアーシアの名を口にすると、黒ウサギは耳をピンと、天を突かんばかりに立たせる。

 

彼女の顔は怒りで真っ赤に染まり、瞳からは涙が零れ始めていた。

 

これはいつものようにふざけ倒すのは良くないと判断し、彼は黒ウサギの説得を試みることにした。

 

「黒ウサギ、何か勘違いしてるようだから言うが、アーシアは浮気とかそんなんじゃないぜ?」

 

「浮気じゃない?!なら黒ウサギとのことは遊びで、あのシスター様とは本気ということですか!?」

 

「どう聞いたらそうなんだよ…」

 

十六夜は思わず天を仰ぐ。

 

そんな態度が黒ウサギは気にくわなかったのか、そこに噛みつく。

 

「十六夜、黒ウサギのことメンドクサイと思われましたね…?」

 

「は?んなわけ…」

 

「では何故天を仰いだんです?メンドクサイからでしょう?!私は、黒ウサギはこんなにもあなたを、十六夜のことを思っているのに…」

 

怒っていたと思えば座り込んで泣き始めてしまった。

 

勘違いでここまで取り乱し、情緒不安定になるのだから、黒ウサギの十六夜への気持ちは相当なものだろう。

 

さすがに問題児逆廻十六夜といえど、泣かれてしまっては弱い。

 

しかも自らも大切に想っている相手ならば尚更だろう。

 

「黒ウサギ…悪かった。でもなアーシアは別にそんなんじゃねぇんだ。ただちっと訳有りでな、今日だけ預かってんだ」

 

十六夜は真剣な表情で頭を下げる。

 

そう簡単に、というかまず頭を下げることのない十六夜が頭を下げたため、黒ウサギは驚くと同時に表情を喜びに変える。

 

いつも飄々として掴み所がなく、本当の彼を知っている彼女としても不安になることが度々あった。

 

しかし、十六夜は自分の主義を折ってまで黒ウサギのことを想ってくれている。

 

そこまで考えてから黒ウサギはとても申し訳無くなった。

 

―十六夜もこんなにも黒ウサギのことを想って下さっているのに私としたことが…申し訳なくて十六夜とご先祖様に会わせる顔がありません…

 

「あの、十六夜。黒ウサギこそすみませんでした。十六夜がシスター様をお姫様だっこして自宅に連れ込んだ姿を見ただけで、嫉妬して浮気だと決め付けてしまって。何かお詫びを」

 

「そうか?ならそろそろお前の貞操を…」

 

「お馬鹿さま!」

 

スパン!と小気味よい音をたてて、黒ウサギが何処からか取り出したハリセンが十六夜の頭を叩く。

 

十六夜はいつものように笑いだし、黒ウサギもつられるように笑みを浮かべる。

 

「ククク、やっぱ俺らはこうじゃなきゃな」

 

「ふふふ、そうですね」

 

「あの~…」

 

和んでいた二人に第三者の声がかけられ、声の元であるリビングのドアを同時に見る。

 

ドアの隙間から気まずそうに不可抗力で彼等の痴話喧嘩の原因になった、アーシアが顔を覗かせていた。

 

「風呂出たのか?」

 

「あ、はい。ありがとうございました。でも…」

 

「何か問題あったか?」

 

歯切れの悪いアーシアの回答に十六夜は頭をかく。

 

彼は追求したが彼女は更にドアの向こうに隠れてしまい、もはや顔の半分しか見えていない。

 

彼女は手招きで黒ウサギを呼ぶ。

 

面識もないアーシアに呼ばれたことに、黒ウサギは戸惑い十六夜を見るが、彼は小さく頷くだけだった。

 

黒ウサギが近付くとアーシアはそのウサギ耳に向かって声を発した。

 

「十六夜、着替えがないそうですよ」

 

「ああ、わりぃ抜けてたわ。黒ウサギ任せて良いか?金糸雀の部屋だ」

 

「はいな」

 

黒ウサギはリビングから出て、アーシアの手を引いていった。

 

十六夜はアーシアのことを黒ウサギに任せ、自分は新たにコーヒーを淹れることにした。

 

 

 

新たなコーヒーを淹れて、飲み終わったころに二人は戻ってきた。

 

「お待たせしました」

 

「ま、そんなに待ってないぜ。サイズは…少しデカイけど我慢してくれ」

 

彼の母、金糸雀は女性の平均より少し背が高いため、アーシアにとって彼女の寝間着は少し大きかった。

 

「匿っていただくだけでも有り難いことなのに、お風呂を用意していただき、着替えまで貸していただいたのに文句なんてありません。本当にありがとうございます、十六夜さん、黒ウサギさん」

 

「気にすんな。これは俺の自己満足だからな」

 

「いえいえ。黒ウサギは着替えを用意しただけですから」

 

深く頭を下げるアーシアに十六夜は不敵な笑みを浮かべ、黒ウサギはとんでもないと、照れくさそうに首を横に振った。

 

その後十六夜が、アーシアに彼の部屋で休むよう言い、十六夜はどうするのかと聞いたアーシアに、彼が

 

「ソファで寝る」

 

と言ったら、

 

「私がソファで寝ます」

 

と言い合いになった。

 

しかし、十六夜の

 

「女をソファで寝かせなんてしたら金糸雀にどやされる」

 

という言葉に渋々納得し、黒ウサギに案内され、十六夜の部屋で休み始めた。

 

「ほら」

 

「ありがとうございます…覚えてくれてたんですね」

 

アーシアを部屋に案内し、リビングに戻ってきた黒ウサギに十六夜はカップを渡した。

 

中身はたっぷりの砂糖を溶かして温めたホットミルク。

 

「…当然だろ。大切な女の好み位覚えてて当然だ」

 

「十六夜…」

 

「黒ウサギ…」

 

黒ウサギは手に持ったカップをテーブルに置き、十六夜に一歩近付く。

 

十六夜も自分のカップを置き、応えるように近付く。

 

二人の距離が手を伸ばせば相手に触れられる程になると、スッ、と十六夜の右手が黒ウサギの頬に触れ、黒ウサギはビクッ、と身体を強張らせたが、自身に触れる彼の手に自らの左手を重ねる。

 

二人の影の距離が更に詰められ、重なる直前で一瞬止まり、すぐに重なる。

 

「…っふぁ」

 

「…『門』使って疲れてんだろ?部屋で休もうぜ?」

 

黒ウサギの惚けた声と表情に十六夜は一瞬、理性が飛びかけたが、どうにか抑え込み彼女を気遣う。

 

「はい、あ…」

 

「ヤハハ、大丈夫だ。無理矢理何てカッコ悪ぃ真似しねぇよ。…期待してたか?」

 

「そんなわけ無いでしょう!このお馬鹿!て、何してるんです?!」

 

頭をハリセンで叩かれた十六夜は愉快そうにわらいながら、彼女を横にして抱き上げる。

 

いわゆるお姫様だっこで抱き上げられた黒ウサギは、借りてきた猫よろしく大人しくなり、十六夜にされるがまま金糸雀の部屋に連れていかれた。

 

かなり疲れが溜まっていたのか、ベッドに下ろされると黒ウサギはすぐに眼を閉じ、微睡み始めた。

 

「よく寝ろよ、黒ウサギ」

 

「おやすみなさい、十六…夜…スゥ」

 

「ククク、もう寝ちまったか。俺も寝るかな、今度、金糸雀に家の増築頼むか」

 

十六夜の呟きは誰に聞かれることもなく、夜の闇に吸い込まれていった。

 

 

―◇―

 

 

はぐれ悪魔祓いフリードとの戦闘の翌日、すこし昼を回った現在、気持ちのよい春の陽気で包まれたある公園に設置されたベンチで一誠は昨日、リアスから受けた注意を思い返していた。

 

「悪魔祓いは二種類いるわ。神から力を借りた教会に属する正規の悪魔祓い。そして、今日イッセーが襲われたフリードのようなはぐれ悪魔祓い。どちらとも私達悪魔にとっては危険な相手だけれど、より後者の方が危険よ。彼ら、悪魔を殺すこと自体を愉しむようになった悪魔祓いは、教会から異端とされて大概が始末される。でも、教会から逃げ切ったものたちがはぐれ悪魔祓いとして、悪魔や悪魔に関係するものを殺しているのよ」

 

「そんな奴等のいるところにアーシアは…部長」

 

「ダメよ」

 

「何でですか?!」

 

一誠の言わんとすることを予測したかのようにリアスはすぐさま拒否を示す。

 

その裁決に納得のいかない彼は撃たれた足の治療のために座らされていたソファーから、痛みに構わず立ち上がりリアスに詰め寄る。

 

リアスはそれに臆することなく問いに応える。

 

「危険だからよ。光は悪魔にとって死に至る毒。人間としての死は悪魔になることで免れても、悪魔としての死は逃れられない。もし、彼らに滅ぼされてしまったら何も残らないの。それにもし堕天使との戦いになれば、朱乃達にも飛び火する。私の眷属が傷付くのは見たくないの、イッセーも含めてね。だから、わかってちょうだい」

 

そこまでを思い浮かべ、一誠は深くため息をついた。

 

一誠もリアスの指摘がもっともだと頭ではわかっていた。

 

自分の感情ひとつでリアスや朱乃達に迷惑を掛けるわけにはいかない。

 

だが、こうも考えてしまった。

 

―俺が問答無用で強かったら、部長に止められることもなかったんじゃないか?

 

だから、ため息が出てしまう。

 

「弱えぇな、俺…」

 

「自覚があんならまだマシだろ。力がない自覚がないやつは強くなんねーからな」

 

「十六夜…っ!」

 

一誠が顔をあげると、いつもの不敵な笑みを浮かべる十六夜と、ウサギ耳を生やした黒髪の見たことのない少女がいた。

 

さらに、

 

「イッセーさん」

 

「アーシア?!なんで…」

 

昨日と同じシスター姿のアーシアがいた。

 

「感謝しろよイッセー。昨日逃げるときに一緒に連れてったんだからよ」

 

「十六夜、すまねぇ、ありがとうな」

 

「いいさ。じゃ、後は任せたぜ」

 

「は?任せたって…」

 

一誠の問いに応えることなく、十六夜はヒラヒラと手を振って行ってしまう。

 

十六夜と一緒にいた一誠の知らない少女は深くお辞儀をして、十六夜の後を追った。

 

いつものこととはいえ、十六夜のマイペースさにはついていけず、一誠は事態を飲み込むことができないでいる。

 

「イッセーさん」

 

「ん、ああ、どうしたアーシア?」

 

「その、私と遊びに行きませんか?」

 

「え?」

 

「あの、普通の遊びとかよく分からないんですけど、十六夜さんにイッセーさんを遊びに誘えば喜んで頂けると教えていただいたので、その、ご迷惑でなければ…」

 

アーシアの申し出に最初驚いていた一誠だったが、すぐに表情を喜色に変えるとアーシアの手を引いて繁華街に歩いていった。

 

 

まず昼にすることにした二人は、ファーストフードチェーン店に入った。

 

レジで会計を済まし、商品を受け取り席に着いた二人だったが、アーシアは戸惑うような表情を浮かべ、包装紙に包まれたハンバーガーとにらめっこしていた。

 

食べ方が分からないのだろうと察しがついた一誠は

 

「御嬢様、これはこうやって…モグモグ、ング、食べるんですよ」

 

アーシアも一誠の食べ方を真似て、ハンバーガーに口をつける。

 

「イッセーさんおいしいです!世の中にはこんな食べ方をする食べ物があるんですね!」

 

終始和やかな雰囲気を醸しつつ、二人は食事を終え、次の目的地に向かった。

 

若者が多く、様々な音を奏でる筐体がひしめく場、『ゲームセンター』に二人の姿はあった。

 

「峠最速伝説イッセー!」

 

「すごいです!速いです、イッセーさん!」

 

一誠が周囲を驚かす程のタイムを叩きだし、アーシアが物珍しさも相まって無邪気にはしゃぐ。

 

ある程度遊んだ二人はプライズコーナーを回っていた。

 

右に左にと視線を巡らしていたアーシアは、ある一点で目が止まる。

 

一誠も彼女が何を見ているのか、と視線を追うとあるテレビ番組の人気キャラクター『らっちゅーくん』の人形があった。

 

「らっちゅーくん好きなんだな?」

 

「え?!あ、はい。以前テレビで見掛けて…」

 

「よし、取ってやるよ。元浜達と回って鍛えたのが、役にたつとはな」

 

100円を投下し、レバーを操る。

 

一誠の操作でアームは1体のらっちゅーくん人形の真上で止まり、下がる。

 

人形をしっかりと挟み込み、アーシアが緊張の眼差しで見つめるなか、アームは最後まで役目を果たし、らっちゅーくんを穴に落とした。

 

「やった…!」

 

アーシアが歓声をあげ、一誠は穴に落ちたらっちゅーくんを取りだし、アーシアに手渡す。

 

「ご所望の物ですよ、お嬢様?」

 

「ありがとうございます、イッセーさん!大事にしますね」

 

 

時間も遅くなってきたため、二人は家路につくことにしたが、休むために近くにあった公園に寄っていた。

 

「どうですか、イッセーさん?」

 

「おお!全然平気だ!サンキューなアーシア」

 

治療のためベンチに座っていた一誠は地面を踏みつけたり、跳ねたりして、足の状態を確かめる。

 

アーシアの神器『聖母の微笑み(トワイライト・ヒーリング)』で、昨夜に受け、朱乃でも治しきれなかった傷が治ってしまっていた。

 

「アーシアのその力神器何だよな?」

 

「はい。神様にいただいた、とても素敵なものです」

 

アーシアの言葉は自らが持つ力に肯定的だったが、表情は笑みを象っているが、憂いを感じさせるものだった。

 

一誠はそれに何かを感じ、神器について何かあったのか訊ねた。

 

「…」

 

すると、アーシアは静かに泣き出してしまった。

 

一誠は慌ててアーシアの手を引き、あまり人の気配がない公園の隅に設置されたベンチに連れていった。

 

数分静かに涙を流していたアーシアは、落ち着いたのか、涙の訳を話始めた。

 

それは人々に聖女と崇められ、ふとしたきっかけで魔女と貶められた唯の少女の話。

 

欧州のとある地方で生を受けた少女は、生まれてすぐ両親に教会の前に捨てられ、その教会で信心深く育てられた。

 

そして、八歳のころ力に目覚めた。

 

教会に傷付いた子犬が迷いこみ、偶然不思議な力で傷を治療することが出来た。

 

それから少女の人生は変わった。

 

カトリック教会の本部に少女は連れていかれ、治癒の力を宿した『聖女』として担ぎ出された。

 

それから、訪れる信者に加護と称し治療を施す。

 

噂はどんどんと広まり、多くの信者は少女を『聖女』と崇めた。

 

少女の意志とは無関係に。

 

もとより信心深い少女は教会関係者からの扱いに不満はなく、信者の傷を癒すのも自らの力が役に立つと思うと喜びさえ覚えた。

 

しかし、少し寂しさがあった。

 

『聖女』と崇められる彼女には、心許せる友人が居なかった。

 

表面上、少女に接する人々は優しく、大事にしてくれていた。

 

たが、裏では少女の力を異質なものを見るような目をしていた。

 

まるで、人ではなく『人を治療出来る生物』を見るような目を。

 

ある日再び彼女の人生は変わった。悪い意味で。

 

偶然、少女の近くに現れた悪魔を治療してしまった。

 

悪魔は教会の敵だ。しかし、少女の生来の優しさが傷付いた悪魔を見捨てることを拒んだ。

 

その光景を見ていた教会関係者は、直ぐ様それを内部に伝えた。

 

司祭達はその事実に驚愕した。

 

何故なら、治癒の力は神の加護を受けた者にしか効果を及ぼさない。

 

各地にいる治癒の力を宿した者達はそうだったからだ。

 

しかし、悪魔や堕天使を治癒できる力を持つ前例はあった。

 

だがそれは『魔女』の力として恐れられていた。

 

そして、教会の司祭達に異端視され、『魔女』と恐れられた少女はあっさりと捨てられた。

 

行き場のなくなった少女は極東の『はぐれ悪魔祓い』の組織に拾われた。

 

神に捨てられた彼女は堕天使の加護を受けざるおえなかった。

 

間違っても少女は神への感謝を忘れたことはない。祈りを忘れたこともない。

 

だが、少女は捨てられた。

 

神は助けてはくれなかった。

 

しかし、一番ショックだったのは教会で彼女を庇う者が誰も居なかったことだ。

 

少女の味方は一人もいなかった。

 

「きっと祈りが足りなかったんです。ほら、私どこか抜けているところがありますから。ハンバーガーも一人で買えないくらいバカな子ですから」

 

少女―アーシアはそう言いながら涙を拭った。

 

一誠は言葉を失っていた。

 

彼女の今までの人生に、何一つ言葉が浮かんでこなかった。

 

「これも主の試練なんです。私がダメなシスターだからこうやって試練を与えてくれてるんです。今は耐え忍ぶときなんです」

 

アーシアは自分に言い聞かせるように言った。

 

「お友達も試練を耐えればたくさん出来ます。私、夢があるんです。お友達と買い物に行ったり、ごはんを食べたり…おしゃべり、したり…」

 

アーシアの瞳からまた、涙が落ちる。

 

以前から、それこそ神器の力に目覚めたころからずっと我慢していたのだろう。

 

自らの意志をしまいこみ、神の加護を待ち祈りを捧げ続けてきた。

 

一誠は怒りを覚えた。義憤といってもいいだろう。

 

彼女ほど敬虔な信者がどれ程いるだろうか。

 

それなのにも関わらず、神は彼女を助けようとはしない。

 

―ふざけんなよ…!?なんで、助けないんだよ…?!悪魔の俺だってアーシアを遊びに連れていくくらいは出来るのに、何で…!いいさ!アンタが助けないなら、俺が!

 

涙に濡れるアーシアの瞳を見つめ、その手を取り一誠は己の想いをぶつける。

 

「アーシア、俺が友達になってやる。違うな、俺達もう友達だ!」

 

突然の言葉にアーシアはキョトンとして、ただ一誠を見ていたが、少しして言葉の意味が理解できたのか、また、涙が溢れてきていた。

 

「…何で、です?悪魔の契約としてですか…?」

 

「違う。そういうワケわかんないことはなし、本当の友達だ。携帯の番号も教える。好きなときに電話して、話したり、約束して飯食いにいったり、買い物にだって付き合うぜ?」

 

一誠は必死にアーシアの心を開く。

 

「…私、世間知らずですよ?」

 

「カンケー無いな。これから色んな所行って、見て回ればいい!」

 

アーシアが紡ぐ否定の言葉を更に否定する。

 

「…日本語だって不自由です。文化だってよく知りません」

 

「俺が教える!諺だって話せるようにしてやる!俺に任せてくれ!なんなら、文化遺産を回ろうぜ?サムライ、スシ、ゲイシャだぞ!」

 

少女を助けるために、傷付いた少女を励ますために。

 

「…友達と何をしゃべっていいかわかりません」

 

「大丈夫さ。今日一日ちゃんと話せてただろ?それでいいのさ。俺達はもう友達として話してたんだよ」

 

一誠は強くアーシアの手を握った。

 

「…私と友達になってくれるんですか?」

 

「ああ、よろしくな、アーシア?」

 

アーシアは泣きながらも、その顔に笑みを浮かべながら頷いた。

 

一誠は安心感を覚えた。

 

―よかった、俺とアーシアはこれからも友達だ。にしても、恥ずかしい!どんだけ臭いこと言ってんだ俺?!…でも…

 

しかし、一誠は構わないと思っていた。

 

自分が後で恥ずかしさのあまりベッドでのたうち回ろうが、彼女が、アーシアが笑って暮らせるのなら一誠は良かった。

 

今までの辛い過去の出来事、一誠には彼女の辛さは分からない。

 

しかし、これから彼女の笑顔を守っていくことは出来る。

 

―俺はこれから友達として彼女と会う。これから彼女の笑顔を守る!守ってみせる!

 

「無理よ」

 

一誠の心情を否定するかのように、第三者の言葉が耳に飛び込む。

 

声の主を確認し、一誠は、アーシアは言葉を失った。

 

二人の見知った顔だった。

 

艶めく黒髪に、スレンダーな肢体。

 

一誠にとってもアーシアにとっても会いたくなかった相手。

 

「何、生きていたの?しかも、悪魔になってるなんて最悪じゃない」

 

「ゆ、夕麻ちゃん…?」

 

「…レイナーレさま…」

 

二人が呼んだ名前は違かったが、一人の人物を指すものだった。

 

堕天使レイナーレ。

 

天野夕麻と名を偽り一誠に近付き、彼を殺し、現在アーシアが所属するはぐれ悪魔祓い組織の堕天使。

 

「…堕天使さんが何か用かい?」

 

一誠がアーシアを庇うように背中に隠し、レイナーレに話し掛けたが、彼女は嘲りを含んだ笑みを浮かべた。

 

「汚ならしい下級悪魔が私へ話し掛けないでくれる?その子、アーシアは私達の所有物なの。かえしてもらえるかしら?アーシア、逃げても無駄よ」

 

「…嫌です。あそこには戻りたくありません。人を殺す教会には…。それにあなた達は私を…」

 

一誠の陰に庇われたアーシアの身体が、一誠に分かるほど震えている。

 

「わがままを言わないでちょうだい。私達の計画には貴女の神器が必要なのよ。これでもかなり捜したのよ?これ以上迷惑をかけないで」

 

アーシアに掛けられる声は優しげだったが、その顔は冷酷な、獲物を見付けたような表情を浮かべていた。

 

「待てよ。嫌がってるだろう?ゆう、いや、レイナーレさんよ、あんた、この子を連れてどうするつもりだ?」

 

「下級悪魔ごときが私の名を口にするな。私の名が穢れる。あなたに私達の間のことは無関係。さっさと主の元へ帰らないと…死ぬわよ?」

 

レイナーレがその手に光を集めだす。

 

恐らく光の槍を形成するつもりなのだろう。

 

その危険性を身をもって味わっている一誠は、どうにか先手を取るために神器を呼び出す。

 

「セ、セイクリッド・ギア!」

 

何とか神器の呼び出しに成功した一誠。以前はポーズをとらないと呼び出すことが出来なかったが、練習のかいあってどうにか掛け声のみで呼び出しが可能になっていた。

 

しかし、それを見たレイナーレは嘲笑を浮かべる。

 

「あなたの神器、上の方々が心配されているから何かと思えば、『龍の手(トゥワイス・クリティカル)』じゃない。使用者の力を倍にするだけのありふれた神器ね」

 

ありふれた神器、一誠は自分の身に宿る神器がありふれた物と言われ、少しショックを受けた。

 

しかし、アーシアを守ることには関係無いため、別のことに思考を回す。

 

正直、一誠には堕天使の相手は荷が勝ちすぎる。

 

逃がすしかないが、その場所が思い浮かばない。

 

―クソッ!アーシア一人逃がすことも出来ないのかよ?!どうにか、あいつに勝たないと…!

 

「応えろよ!神器!俺の力を倍に出来るんだろ?!動けよっ!」

 

一誠が強く左腕を意識すると、甲の宝玉が光出し、音声が響く。

 

『Boost !!』

 

瞬間、一誠の全身に力が流れ込んだ。

 

しかし、無情にも堕天使と戦うため身構えた一誠の腹部には、レイナーレが投擲した光の槍が突き刺さっていた。

 

一誠は苦悶の表情を浮かべ、片膝をつく。

 

光は悪魔にとって毒。

 

一誠は死を覚悟したが、それを阻むように彼を緑色の光が包み込み、腹部に刺さった光の槍を消し、傷を癒す。

 

アーシアの神器の力だ。

 

何とか回復した一誠は立ち上がり、再びアーシアの前に立つ。

 

「アーシア、その悪魔を助けたければ私達の元に来なさい。何度も言うけれど私達の計画にはその神器が必要なの。応じなければ彼を殺すわ」

 

冷酷な提示。

 

一誠の命を人質にした要求。

 

「うるせぇ!お、お前なんか…」

 

「わかりました」

 

「アーシア?!」

 

一誠の言葉を遮り、彼の陰から身を晒し、アーシアはレイナーレに自ら歩み寄る。

 

「今日一日ありがとうございました。とても楽しかったです」

 

振り返ったアーシアの表情は笑顔を浮かべていた。悲しいほどに綺麗な笑顔を。

 

「いい子ね、アーシア。何も問題ないわ。今日の儀式で我々の目的は果たされる」

 

レイナーレの何かに酔いしれるような笑みと、その口から放たれた『儀式』という言葉に、言い知れぬ不安を覚え、一誠は叫ぶ。

 

「待てよ、アーシア!俺達友達だろう!」

 

「…こんな私と友達になってくれて本当にありがとうございます」

 

「…!」

 

「さようなら」

 

満面の笑顔を浮かべるアーシアに言葉を失い、立ち尽くす一誠の視界から彼女を隠すように黒い翼が開かれた。

 

「命拾いしたわね、下級悪魔。次にまた邪魔をするようなら、今度は殺すわ。じゃあね、イッセーくん」

 

レイナーレは嘲笑を残し、空高くとびあがり、あっという間に一誠の視界から消えた。

 

それを見送るしか出来なかった一誠はガクッ、と地面に膝と両手をついた。

 

血が滲むほど唇を強く噛み、籠手に覆われていない右手で何度も何度も、拳の皮が捲れるほど地面を殴り付けた。

 

一誠はただただ悔しかった。

 

守ると誓ったのに、むしろ自分が守られたことに。

 

「アーシア…」

 

力なく彼女の名を呼ぶが、返事はない。

 

「アーシアァァァァ!」

 

一誠はこの世に生を受けて初めて自分の力の無さを呪った。

 

 




次回予告

黒ウサギ「堕天使の猛攻!反撃するも段々と追い詰められるグレモリー!しかしその時、神話に語り継がれる伝説の機械悪魔が甦る!次回、破滅のグレモリオン第四話『魔王の記憶』!あなたと、合体したい…」

十六夜「黒ウサギ、それは誘ってるってことでいいんだな?」ジリッ

黒ウサギ「ちがっ…!台本に書いてあるんです!」ザザッ

―次回予告と本編に関係はありません―
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