荒野に抗う   作:ひトリび

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本編
幻傭-A duplicity mercenary


 

はあ最悪だ少し刃こぼれしている、さっきの戦闘で手元が狂った時か。

ッチ、昨日出会った奴ら絶対殺してやる俺の刀を刃こぼれさせた罪を償わせてやろうか。

…ああいや、よくよく考えたら奴ら既に俺が殺したんだった。まあいいや研げば直るもんだし。そこまで怒るような事でもない。死人が報酬払ってくれんなら話は別だけどよ。

 

そういや、奴らの死に様はあまりにも芸術的で面白かったな。

よしさっさと刀を研ぐか。……頭が痛え。                  

 

 

「なあお前、今回の仕事の内容って知ってるか?」

「ああ知ってるぜ、ディロって奴の首を斬れば良いんだろ。あと俺の事をお前って言うな一応隊長だぞ…でそいつの格好は何なんだよ」

「知らずに受けたのかよ、頼りにならねえ隊長だな。って言いながら俺も知らねえんだけどな。てかそんなこと他の下っ端に聞けば良いだろ」

 

殺しをして最初の頃は刀を使うのも研ぐのも下手だった…少し懐かしいな。

少し腹が減った、昨日の奴ら食料全然持ってなかったから昨日何も食べてないんだよ。でもおかげさまで多少の爆薬と弾薬を手に入れたし良いか。

よしやっと研ぐの終わったな、しかも結構上出来だ。これなら今すぐにでも実行出来るかもな。

 

てかそれにしても此処は鼻が捥げそうなくらいに血生臭いな、俺だったら絶対にこの隊には所属したくないね。

まあでもここに留まるのも次期に終わる事になるからどうでも良い事。

ああやっと、頭痛が治ってきた。

 

「それもそうか、おい!そこのお前…今回の標的ってどんな奴だったか教え——」

「ん、俺らの隊にあんな奴いたか?ケラ、あいつの事知って……あれ、あいつどこに行って———」

 

 

 

 

んじゃ。そろそろ帰るか。今日のメシはどうしようかな、そういえばあの隊は大量に食料を保存してたな。

てかあの隊の隊長のどんな名前だったっけ…ああそうか、ケラだったけ。あいつの料理本当に不味かったな、正直に言ってあの隊に所属する事の利点が分からん。

多分昨日の術師1人の方がこの隊全員よりも強かったな。あいつら敵が目の前に居るのに警戒一つしなかった、そりゃ直ぐ死んじまうよな。

わかんねぇな、何であんな奴らを雇い主は雇ったんだ本当に気が知れない。それともあれか、上も下も傭兵ごっこのお飯事集団だったか。

これなら刀一本でも壊滅できたし、色々と勿体無い事しちまったな。

で隊長の名前なんだっけ?まあ安心しろ死人共、俺がもっと面白くしてあげたからよ。…クソ、何故だか頭がズキズキしやがる。

 

今日も依頼を終わらせた俺は爆薬の音に紛れて死体の在処から去る。

先程まで信頼されていた仲間だった奴らの悲鳴と残虐な爆発音をbgmにして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

知ってるか、依頼終わりのメシは至高らしい。そんなことをどこかで聞いたような気がする。…本当に何処で覚えたんだ?

…最近記憶力が衰えてきている気がする、歳か?サルカズに老いは無いと思ってたが意外とあるらしい。それでも一部の種族よりは長寿なんだろう、リーベリは直ぐ死ぬって風の噂か何かで聞いたような気がする。

短命種は俺たちとは違った理由で生きるのに必死なんだろう。

 

何で俺たちはこんなところに生まれてしまったんだ。

 

…どれだけ俺がそんな事を考えようと、問いに答える様な者は俺の周りには一人も居なかった。

 

 

ああ、そうか今日も俺は1人か。

…それも仕方ないか、俺は1人の方が生きやすいアーツの特性的にも俺自身の生き方としても。その為俺が誰かと話したりするのは雇い主との業務連絡か戦闘の前後ぐらいしかない。

別に今すぐ話相手が欲しいと言ったら嘘になる。だけど偶にはこの地が血で血を洗う荒野である事を忘れさせるような時間が欲しい。眠りに落ちる時すら、常に全神経を張り巡らせるのは苦ではないが疲れる。

俺は一体この生活を何年何十年、更に言えば何百年続けてきたのだろうか。そして俺はこれから幾年この生活を続けるのだろうか。

その疑問に対しての解答が死ぬまで続けるという事、死ぬまで俺は1人だという事。…それを俺は心の底で理解している。

 

似合わない事を並べ過ぎだな。

とにかく今すべき事は食事だ、食事をしないと碌に戦えもしない。だからさっさとオリジムシ食べないとな。ああ勿論しっかり火は通してるから、安全に食べれる。

お飯事集団から奪った食料も食べようかと思ったが、もう一個の依頼を終わらせてからでも良いだろう。

 

少し湿った隠れ家の洞窟から抜け出し、自らの姿を変える。

これで準備は万全だ。それじゃあ、依頼終わらせるか。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お、いたいた。双眼鏡を使って標的達を見つける。恐らく格好からして、前衛が大剣を持った男とナイフ持ちの女。そして術師が女1人。雇い主の情報を照らし合わせてみる…よし合っているな、男の額に傷跡が増えているのが気掛かりだがまあ良い。1日足らずで傷が増えたなんて此処ではよくある事だ、雇い主に文句は言えない。佇まいからしてかなりの手練れと推測できる。いつもなら搦手や盤外戦術でも使って確実に仕留めるが、今回の標的はそうはいかない。

何故なら奴は少数で行動しているからだ、これではいつもの戦術が使えない。

はっきり言って逃走も選択肢の内に入る相手となる。だけど俺は依頼を完遂するつもりだ。何故なら今日の俺は機嫌が良くて、調子が良い。

 

数十分観察して分かったがあの3人にはリーダーという者が居ないらしい、俗にいう三権分立だな。

だからリーダー殺して混乱に乗じて皆殺し、みたいな事もできない。厄介だがそれも仕方ない。

だけどそんな物は要らない、奴らの大まかな情報は分かった。相手にとって不足なしだ。

よしいつも通り、速戦即決で行こう。

 

 

岩陰から飛び出して、まずは手榴弾を投げる。手榴弾が出す風切音に気づいた相手は各々の行動をとる。前衛は前へと進み、術師は手榴弾を弾こうと手の平を前へと向ける。しかし、術師の攻撃は少し遅れ手榴弾は前衛の目の前で爆裂した。

 

「〜〜〜〜〜〜」

「どうだ?」

 

1人の男だけが煙の中から突っ切ってきた。他の奴らは未だ詰めてきていない女の前衛は目が壊れたのか目を押さえている、術師は煙の中から動いていない恐らく煙の中に隠れてから正確に俺を狙うつもりなのだろう。

兜の影で男の顔が見えないが雰囲気からして怒髪天を衝いているらしい。男は自らの目の前に大剣を振り下ろしてきた、恐らく俺の頭を狙っているのだろう。しかし聞こえたのは金属音でも俺の肉が飛び散る音でもなく、男の困惑した声だった。

当たり前だろ何してんだよ、虚空に向かって大剣を振っても俺に当たるはずがないのに…全く何してるんだか、あいつには一体何が見えてたんだろうな。

そう心の中で嘲笑した俺は男の隙を見逃さず、男へと静かに近づき首を切った。男を糸を切った操り人形の様にしてやった。

 

右方向からは前衛、前方には術師がいる。勿論狙うは術師だ、前衛は後からで良い。

術師は両手をこちらへ向け真っ黒な弾丸を撃ってきた。見誤った、術師がこの中で1番強いらしい。弾丸は音速を超えている、避けられるわけがない。…仕方ない、アーツは出し惜しみせずにしよう。弾丸は俺の右腕を穿った。

 

「ッチ」

「何故立っている、今のは確実に内臓へと当たった筈だ」

 

よし、上手くいっているみたいだ。この行動に大きな意味はないがやって不利になる事ない。

俺は術師に向かって”刀”を投げた。当たり前の様に避けられる……がしかし刀が術師を横切った瞬間、爆発を起こした。

 

「戦場によそ見はダメだぜ、”手榴弾”が刀に見えたなんて阿呆らしいミスでもしたか」

 

術師の右半身からは血が滝の様に流れている。この重症では碌に戦えないだろう、それじゃあ先にめんどくさい前衛でもやるか。

 

俺がナイフ持ちの方を向き左手で挑発すると、そいつは足ガタガタ震わせて大声を出しながら走ってきた。…こんな姿手練れの傭兵とは程遠い、ただの愚図だな。

持っていた銃をぶっ放し駄獣の頭は弾け、砕けた柘榴のみたいになった。

術師は……術師は出血多量で既に死んでしまったらしい。

これにて任務完了、宣言通り一気に片付ける事ができた。

 

 

 

…いや違う!もう1人誰かいる。俺が3人を殺したと同時に目の前には双剣を持った大男が現れていた。大男は小鳥を慈しむかの様な動きで術師の頭を抱えて撫でていた。

格が違う、一目で…いや気配だけで分かるこれは圧倒的強者だ。俺の右手が残っていたとしても勝てるか分からない、まともにやり合っても良くて相打ち。

最悪の場合………

 

「お前が、殺したのか」

 

どうする、アーツを使って逃げるか。クソッ、痛え。俺は試しに使ってみたが頭の中が壊れそうになるだけだった。

…この状況でアーツは不能、右手は負傷。この大陸は余程俺を殺したいらしい。今までもそうだった、予期せぬ強襲、謎の加勢そんな不運がやってきていた。だけど俺は今日まで生き延びた。

だって俺は死にたくない。死にたくないなら目の前の相手を殺すしかない、殺し続けるしかない。

ああそうだ、俺は傭兵だ。殺して殺して生きてきた、ならば今日は此奴を殺すんだ何としても。

 

正直今だと戦っても5分、確実に勝つなら時間を稼がないと。

 

「それよりもお前は誰だよ、俺はアンタに一切用はない。引くならさっさと引いた方が。」

 

俺がそう言った瞬間、大男が神速で突っ込んで来た。男に対話と容赦は必要ないらしい。

さっきは時間を稼ぐと言ったが、そんな事は言ってられない。あとは全力で勝つだけだ。

 

大男が双剣を振るごとに俺との間に金属音が鳴り響く、次第にそのペースは段々と早まっていく。後手に回ってしまっている、このままでは削り切られる。何か手を打たなければ。

隙を作ろうと銃を撃ったが弾かれ、刀を振るっても双剣で合わせられ、隠していたナイフを投げても身を流される。俺がどんな策を打っても最終的にはカウンターをされ俺の身体に傷がつく。そして奴は小賢しいと俺の積み上げてきた術を一蹴する。

此処まで運よく致命傷は防げたが次も防げれるとはかぎらない。もうやるしかない、俺の本当の全てをぶつけるしか。

 

俺は全力で背中を向けて走った。

 

「逃げるつもりか!」

 

男は相当頭に来ている。そうだよなあ、敵討ちしてやりたいもんな。だけどそれは叶わねえよ。

逃げる?俺が?バーカ、んな訳ねえだろ俺は最初からお前を殺すつもりだ。

一定の距離が離れた後に俺は立ち止まった、勿論追いつかれる…

 

「死ね、グズが」

 

大男が頭をカチ割ろうと大剣を頭上に上げた、正に渾身の一撃。一見すると大きな隙だが、あれはその隙を狙った奴を返り討ちにする技だ。絶対に近づいてはならない——勿論、死ぬ勇気の無い凡人がな。

 

瞬間俺は大男との距離をゼロにした、それも両者の武器がまともに振れないぐらいに。そして俺は懐から大量の爆薬を取り出し周りにばら撒いた。

その行動に大男は驚きやがった。ああ分かってるぜ、普通こんな事一か八かのイカれた奇策を傭兵がする訳ないもんな。でもよお、敵の前で混乱するって事の意味分かってんのか?戦場での混乱はタブーだって事、来世はちゃんと頭の中に入れろよな。

 

…戦場には真っ白な閃光と爆音が鳴り響いた。

あーあ、これであいつは敵討できねえな。だってもし俺が死んでも、俺を殺したのは俺って事だからよ。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この大陸は狂っている、毎秒誰かが死んでいる。

この狂った大陸で生き抜くためには自らも狂ったフリをしなければならない。生きるために行っていたその狂ったフリはいつか本物の狂人になる。

俺がその典型例だ、生まれた年も生まれた場所も分からない。

ただいつの間にか握っていた刀と特殊な才であるアーツを持って人を殺してまわった。そして長い間殺しと強奪を続けていく内に名は売れ依頼が山ほどきた。

そして幸か不幸か俺は傭兵になった。そして今日も生きるために人を殺す。俺はもうこの生き方でしか生きれない身体になってしまった。

 

最初にも言ったがこの大陸では毎秒誰かが死んでいる。

だから俺は賭けた。目が覚めるのがあいつか俺か、それとも両方が死体になっているのか。

…どちらも生きている?笑わせんじゃねえよ、そんな事起きると思うのか?

 

だってこの戦場は残虐で無慈悲で何も残らない最悪の大陸の上にある。血で血を洗う荒野、カズデルなんだからよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…はははは」

「ははははははははははは!」

 

ああ、俺は賭けに勝ったらしい。これでもう死ななくて済む。どうだやってやったぞ、俺は運命に勝ったんだ。

喉が焼けた所為か少し口の中が気持ち悪いが、そんな事はどうだって良い。俺はとにかく勝ったんだこいつに、この双剣の武人に。

今日は最高の日だ。敵を殺してこんなにも嬉しいのは初めてだ。

本当によ、俺が狂ってて良かった。

今の俺は機嫌がいい、名前と顔だけでも覚えてやろうか。

 

…ああそうか思い出した、コイツはRapidだ。その事を奴の装備を外して判った。

 

こいつを初めて見たのは仲間としてだったか、入隊テストとして戦わされたが太刀打ちできなかった。そういえば、あの頃のRapidは多数の部下達に尊敬されていたな。

それが今では部下も3人だけになった孤高の老兵か。何とも虚しいもんだな…

 

「俺のちょっとしたお前への尊敬と愁いの気持ちだ、お前の遺した冷兵器とRapidの名は此処に置いておく」

 

この地カズデルに於いて、死人の武器を受け取る事。それは名前を受け継ぎ、歴史を絶やさない事を意味する。

こんな暗黙の了解を誰が何の為に始めたのかは歴史を歩んでいる傭兵達も預かり知らない事だろう、しかし俺はこの文化を結構気に入っている。

使い手のいない武器を手に取り、傭兵という生き方を選び人を殺して生き延びる。傭兵らしくてカズデルらしくて何よりサルカズらしい人生だ、こう思うのは俺が傭兵だからってのもあるかもしれないか。

まあこう言っている当の本人はこの手に握っている武器が受け継いだものか、自らの物なのか知らねえんだけどよ。

 

 

「グハッ」

 

…クソッ、今はそんな事話してる暇はねえ。口から血が大量に出てきてやがる。

なっ…身体中からも血が溢れてきて全身が痛い、ああこの量は満身創痍ってやつだ。それにいつにもまして頭痛が重い。

 

これじゃあこいつと心中することになっちまう、それだけは勘弁だ。

 

早く…とにかく……応急処置……を……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…依頼内容が被っていたか」

「ならどうするの、結局狙いは既に死体な訳だし………?」

「どうした何かあったのか」

「この傭兵…見た目と影の形が一致してないわ」

どういう事?……つまりこの影は幻影…いえ、もしくは——

 

「貴方はこの傭兵がどう見えるの」

「白緑の髪をした、ただの傭兵だ」

「……………」

「どうした、何かあるなら話せ」

 

 

 

「…私に命令しないで」

 

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