荒野に抗う   作:ひトリび

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決断-Right Way progress, feet to make sure

 

 

敵は撃退し殲滅を完了した。

それは紛れもない事実である、しかしそれは過去の敵を全滅させたにすぎない。未だに蠢動する者は残っている。俺達は今、相反する二つの事実の狭間で時を過ごし、そしてこれからの道筋を定めようとしている。

…まあ改まって未来を考えるのは後に任せておくか。

自分達自身の情報を整えるのが先にすべき事だと思う。

 

 

現在、俺達の戦力は例外を除くと先刻の戦闘にて失った為、弱まってしまった。例外とはサンクタの老人、ツァドクの事だ。確かにそいつを含めれば、前よりかは戦闘面におけるこの隊の信頼は上がったと言える。けれども例外は例外、不確定な人材の滞在を信じるのは希望的観測。控えるべき考えだ。

自由に動かせる駒、それ自体は減ったと考えるのが結論だろう。

これから目指すべき道は抵抗か、存続か、それとも逃亡か。大きく分けると闘うか闘わないか。……ヘドリーは負け戦はしない主義だと俺の経験ではそう感じている。ならば戦闘は避けると考えるのが妥当。最終決定権は言うまでもなくヘドリーだが、それは俺が思考放棄する理由にはならない。彼に選択肢を提示できる可能性があるのなら、やらねばならない。

…本来の役目であればイネスだろうが……

 

ちょっと今のイネスは不機嫌だ。ヘドリーに隠し事をされたからか。………早いうちに機嫌を取り戻すのは目に見える、イネスは“サルカズ傭兵”だ自分の管理は自分で出来る。他人の手を借りる必要は無いに決まっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

カズデルにしては少し暖かい風、手から離れない血腥い香り、その日を凌ぐ為だけ作られた傭兵らしい拠点。家というには度し難く乱雑な場所。しかしそれだけが俺達傭兵に落ち着きを取り戻させる。以前の俺なら意気揚々と戦場へと赴き、余燼が燻るその状態こそが冷静にリラックスして過ごせる。

そう思っていたんだが、最近の俺はその限りではない。殺しも戦火も好きか?そう聞かれれば首を縦に振ろう。それ以外の事だ、ここ最近の戦闘はただ殺せば終わり、そして依頼の報酬を受け取る。そんな単純な問題でなく、自衛の為に戦い、裏切りに応じて血を流し、逃走の為に首を落とす。広義で捉えれば今までと何も変わらないかも知れない。けれど…

 

傭兵とは自由気儘に生きて、我儘に生きる為だけに殺して、死ぬ時には予測できない不幸に理不尽に。そして最後には誰かにその刀を受け継いでもらう。そうであると俺は信じていた、俺の行く道足跡全てその為だった。

…俺が変化している途中なのか。明確にいつからか変わったのか、Rapidと相打ち仕掛けた時か、ヘドリーイネスに出会った時か、それともScarとの邂逅からだろうか。

彼女の存在は俺に深く影響を与えている。思えば初めて涙を流したのはScarの為だったか。

 

 

 

 

 

「ねえ、W」

「どうした、Scar。悪いが食事はまだだぞ」

「いつから私は口を開けば頬に団栗を含む鼷獣になったのかしら。やっぱり、あんたの胃に穴が空くのもそう遠く——」

「——じゃなくて、それよりも大切な事よ!」

「ッテ、いきなり大声で叫ぶなよ…。まだ耳が完治してねえんだからな」

「まだ聞かされてないんだけど、あのサンクタについて」

「ん…ツァドクの事か?」

「まあ…誰にも秘密にするってなら言っても良いけど」

「…ああ…はいはい、分かった……誰にも言わないから信用して貰っても構わないわよ」

「言ったな。もし約束破ったらお前の思う最悪の数十倍のそれを喰らってもらうからな」

 

Scarはツァドクの事についてめっぽう知りたいらしい。まあいつもの単なる暇つぶしに使われるだけか。

俺が脅しの言葉を言っても、さらっと聞き流して上辺だけの返事を返してきやがった。酷いと思わないか、アイツの私欲に利用されて俺はリスクを背負い、当の本人は悠々自適に過ごしているこの生活が。

……俺はこういった面でScarを信頼、信用していないが。どうせアイツには漏らすような交友関係なんてありゃしないのだから。

だから思った、Scarに言っても構わないと。それが約束を守る気のない態度だったとしても。何かが変わる様な事は無いと。

 

 

 

俺は嘘偽りなく俺の知る真実のみを伝えた。

ツァドクは俺がよく通う店の店長であり、ヘドリーが依頼要請をした人物。彼は強いだとか、アイツの性格とかは言ってない。

それはただの俺の解釈で絶対的なそれでは無いからな。俺の意見でしかない。

 

…それを聞いたScarは“何故そこまで強いのか訊きたいから会いにいっても良いかしら”等と言った。

絶対にそれだけの理由ではない気がする。悪い予感が俺の脳を通り過ぎた。

しかし、Scarは俺が止める間もなくツァドクの居る元へと突っ走っていった。

 

 

 

有無を言わさず向かったScarに着いて行き、目的地まで到着すると。目元まで深く帽子を被った男が物資の入った箱に腰を掛け徒に銃を鳴らしている。帽子や服で姿が隠されている為一見すると誰かも分からないが、光る翼と光輪のおかげでその者がサンクタである事は誰にでも分かる。その為かそのサンクタの周りには誰も居ない。

カズデルにて何の変哲もなくただ悠々自適に過ごしているサンクタなどゼロに等しいのだから。理由はもう一つ単に殺されたくないのだろう、カズデルに来たサンクタを殺した事のあるサルカズ傭兵は少なくない。“サルカズ傭兵”それ自体がサンクタの反感を買っていて、天使からの報復を受けても不自然ではなく、もっと言えばそれこそが道理である存在である。つまり悪魔と天使は互いに相容れない存在。

 

しかしそもそもツァドクはこのカズデルまで到達し、今日まで生きて居る。アイツ自体はサルカズの事を偏見を持って否定的な気持ちは抱いていないが、逆はどうだろうか。ツァドク、サンクタの事を好ましく思わないサルカズもいる筈だ。恐らくアイツが店を大きく、目立ったところで構えないのはその理由だろう。単に目をつけられたくないから。

どうやってここまで隠し通してきたのか計り知れないが相当な努力と技術が必要だろう。

 

そこまでしてこの荒野の上で過ごす理由は何だ?ツァドク程の実力があれば教皇騎士にもなれたかもしれない、ラテラーノに強大な価値を示す事ができていたに違いない。カズデルはお世辞にも過ごしやすい環境とはいえない、原住民の俺ですら偶に思うんだ。移住者が思わない筈がない。何故カズデルに来たのか。推測できる理由は復讐ぐらいしか見当がつかないが…それなら留まる必要はない。

機会があれば聞いても良いだろうか。

カズデルに来た理由はアイツの人生の大きな転轍。それなら知った方が面白いに決まっている———

———これは俺が初めてツァドクに、サンクタに対して興味を持った最初の出来事だった。

謎は深まるばかりだが、それの最奥には天使と悪魔の確執の本質があると。俺の勘が告げていた。

 

 

 

「ふーん、あんたも傭兵だったのね」

「今はそうではないがな、もうやりたいとも思っていない」

「………残念ね。まあ、ライバルが少ないのは良いことかしら」

 

俺が少し長考している間に二人の話は終わったらしい。

 

「どうだった、お前の欲しかった“サンクタの弱点”は知れたか?」

「何のことかしら。分からないけど、収穫はなくは無かったわ」

「そうか、それは良かった。……悪いなツァドク、Scarはこういう奴なんだ」

「別に良い。戦いなど勝手にやっておけば良い、他人が介入すべきではない」

「お前はそういうスタンスなんだな」

「そうよ、あんたも余計なこと言わなくても良いわよ」

「はあ…ツァドクの温情に感謝した方が良いぞ」

 

…次はもう合わせてやんねえからな。ツァドクも何とか言ってくれねえか。

…まあ意外にも、ツァドクが管轄外の戦いに対してそんなふうに思っていたとは。ツァドクは真の意味で対等に人を見ているのか…生きやすいのか生きにくいのか…。

 

「WとScar、君達二人は少し似ているの。いや、以前のWと似ているのか」

「似てる…以前の俺とこいつが?どこがだよ」

「カズデルで最も狂人なところが、じゃな」

「?それは褒め言葉として受け取っても良いのかしら」

「……そうか確かに今最も狂っている傭兵がScarである事に異論はない。けれどもアンタも相当狂っている事を自認しな」

「何を当たり前を、狂人でなきゃ今日までこの荒野で生きておらん——」

「——そうだろ、W」

「…………そう…だな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日が丁度真上に到達している間、それはヘドリーが昨日決めた集会の間でもある。

ヘドリーは今日には手を打つと言っていた。状況は混沌を極めている。セオリー通りに従っても正解が見つからない、ここからは俺達自身で自らの航路を決める。決断の時。

…その時が来るまでは少し時間がある、準備をしておこう。どんな事が告げられても冷静にいられる心持ちを。

心を冷静にするには極限状態に追い込む、敵を殺す等の方法があるが。この場でそうする訳にはいかない、心を冷静にする為の方法それは現実逃避、具体的には日常に溶け込む事だ。

 

ああ、そんな堅苦しい事は俺の相棒は考えたくない様だ。顔を顰めてこちらを見ている、分かってる。お前向きの単純な話でもしよう。

…今聞こえて舌打ちは聞こえない様にしよう気分が下がる。

 

「そういや、Scar。料理はした事あるか?」

「した事はあるけど…ちょっとだけよ」

「それなら今度、俺がヘドリー達に料理を作るときにお前もやってみるか」

「!やるに決まってるじゃない、私の腕を見てなさい。…ああ、それなら二人とも別々で作らない?」

「どっちの方が良かったのか、ヘドリーにジャッジしてもらいましょう」

「イネスは外すのか?」

「あの女はどうせあんたの方に傾けるわ。だから無しよ」

「それはお前の失態でもあるんじゃないか」

「うっさいわね、ヘドリーなら公平にジャッジするでしょうからそれで良いじゃない」

「丸め込まれた様な気がするが…まあ良いか」

「細かい事は気にしない、それが私よ」

「承知してるよ、とっくの前に」

 

予期せぬ約束もしてしまったが、その事は前向きに考えておこう。こんな事は些細な事と地獄を経験していない赤子は思うかも知んねえが、そんなしょうもない事でも気分が良くなる。暇な時間にはそんな事でもしておかないと正気を保てない。常に危険シグナルを張り巡らすのも良いが、そんな事をしてた奴は神経が擦り切れて壊れた。それにWは一人じゃない、誰かに任せることも出来るんだ。

 

 

 

 

 

 

パチパチと焚き火の音が鳴り響く、際限なく空が黒く染まって行く。そんな予兆はこの荒野の上に立つ全ての生物が感じていた。轟轟と声を出すそれ、獰猛なそれは全てを轢殺し、後には莫大なエネルギーを秘めた源石しか残さない。今日は天災が来る。この時期をヘドリーは見越していた。この瞬間を俺達は待ち侘びていた。

 

皆が天へと向いた視線は直ぐに見るべき対象を変えた。

 

「事前に言っていたが、最終確認をする」

 

俺達の隊長が全員の方を向き、今日の予定を話す。

俺とScarはいつもと同じく、座って聞いている。手持ち無沙汰なのかScarがナイフを手の上で遊ばせているのはみていて危なっかしい。怪我という事ではなくよそ見をして食品にナイフを突き刺してしまうのが怖い。こいつはそれの前科持ちだ。

 

「俺達は数時間後にはここを離れる、向かうべき場所は決まっている。明確な場所は後で俺に聞け、地図を見せる」

 

イネスは見当たらないが…俺達の道筋の安全確認をしているのだろう。そう言った事はアイツが任されそうだ。イネスも単独行動に向いているからな、俺も任されても良いとは思うが。Scarが居るからコソコソ隠れたりする事は難しそうだ。良くも悪くもコイツは目立つ。性格的にも能力的にも。

 

「今もなお、此方へと向かっている天災。それに紛れて移動を開始する、通常行う移動と比べて安全は担保されるに違いない」

 

ツァドクは俺達とは少し離れた所で一人で居る様だ。遠慮しているのか、好んで関わるつもりがないのか…まあ後者だろう。もし故郷に自分の体に悪魔の匂いが染み付いていた。なんて事になったら、ラテラーノの居住すらままならないだろう。

 

「理由は必要か?………言うまでもないか」

 

言うまでもないな。俺達はこの地で様々な陣営に狙われている。だから逃亡を開始し別の場所で傭兵を営むただそれだけだ。別にこれからもやる事は変わらない、殺して殺して死ぬまで足掻くだけだ。

何も変わらない荒野の日常。強いて言えば、二つの刃の背中に光の翼が増えたぐらいか。

変わった事は。

 

 

 

 

 

 

 

天災がカズデルに触れた。俺達は移動を開始した。

土を踏み、血の道を進む。灰燼を踏み、先の見えない未来への道を進む。

大地を突き破った源石が溢れかえっている。

 

そんな轍も背景も、隣に居る口煩いアイツの所為で俺の瞳に映る事はなかった。

集中する暇も無い、お陰で上も下も見る事なく済んだ。酷い現状を目を背ける為に生まれた存在かの様に振る舞う彼女は、この瞬間もイネスの悪口を悪びれもなくスラスラと俺へと言ってくる。

そんなに言っても俺は否定も肯定もしないぞ。

 

暇そうなScarに俺はダガーを向けた。

こうすれば無駄口を叩く暇はないだろう?

続く様に、Scarも俺にナイフを向けた。好戦的な性格、俺もコイツも似た者同士って訳か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目的地につくまでの違和感、それはあまりにも追手が来なかった事だろう。まさかのゼロ人、人っ子一人居なかった。天災に紛れたと言っても、気づくことぐらいはできたはずだ。それなら俺達の首を狙う者もいてもおかしくはない。それどころか居なかった事の方が異常だ。作戦が上手くいった。…そう考えるのは相手を過小評価し過ぎだ。

…シュラウドか、そこまでの影響力があるのはアイツしか居ない。アイツが俺達を見逃したんだろう。アイツは俺達を殺したかったのではなく。俺達を自分達の領域から離したかったのか。

……どう転んでも、もう会うのは御免だ。

 

「ちょっと、いきなり手を止める訳?」

「着いたんだから、もう良いだろ」

「勝負は俺の負けでいい」

「釈然としないわね…これも私に恐れ慄いたって事かしら」」

「うるせえ…時間が空いたらやってやるよ。お前の指導も俺の管轄だからな」

「そう言えば、入隊して最初は教えてくれたけど…最近はしていないわよね」

「私も成長したって事、その身に証明してあげるわ」

「そこまで言うなら、特別に搦手無しでやってやるよ」

 

挑発に次ぐ挑発で乗ってしまったが、俺も楽しみだ。何気に正面から戦ったのは一度も無かったしな。

初めて出会った時の万全の状態では無かっただろう。

今の俺が今のアイツに正面から勝てるかどうかと言われると、自信を持って勝てるとは言い難いが負けるつもりはない。戦闘センスはアイツに軍配が上がるが、俺もどれ程の年月この地で生きてきたと思っているんだ。俺はこのカズデルを信頼しているからこそ当たり前に言える、俺は手強いぞ。

 

 

 

「W、手伝ってくれるか」

 

Scarと訓練の約束をしていた所にヘドリーがやってきた。

今は運搬してきた荷物の確認と整理をしている様だ。奥の方ではイネスとツァドクも同じ作業をしている。いつの間に仲良くなったんだ、あの二人。

 

「ああ、悪い。今行く」

「私も手伝う」

「ああ……それなら俺の武器の点検してくれるか?」

「了解」

 

俺は身につけていた得物をScarに渡した。

二つ返事だったが、大丈夫だろうか。アイツの使わない武器もあったはずだが…常に俺の隣に居たアイツの眼を信じよう。俺が点検している姿も見ていたはずだ。

 

…ああクソ、重いな。誰の荷物だこれ。

中身が気になり封を開けると、中には一杯に積められたジャガイモがあった。はあまたアイツか、この箱の持ち主のジャガイモ好きには一種の畏怖の感情を持っている。まあ、次はポタージュでも作ってやろうか。

後でジャガイモの料理にどんな物があるのか調べてみるか。もしかしたらツァドクとかは俺の知らない料理を知っていそうだ。

想像したらお腹が空いてきたな、味覚はないのに空腹になるのは解せない。生物の生理現象としては当たり前だが、直感に反する気がする。

 

Scarの料理を食べた時に味がわからないのは心苦しいな、なんてコメントすれば良いんだろうか。

何を思って口につければ良いんだろうか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日この日、天災に紛れて拠点を移動した。

これから再度ここで傭兵生活をする、やる事に大差はない。

記念すべき、初めての依頼はなんだろうか。何にせよ依頼は完了する。

 

俺達は新しい道を進む事となった、この決断が吉と出るか凶と出るか。

それは全てが終わってから決まる事だろう。未来の俺は此処で死ぬのかそれとも別の場所で死ぬのか。

この道の先に活路は存在するのか

 

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