俺はRapidはどうなったんだ?
気絶する前は…そうだ俺は勝ったんだ。俺はあいつを殺せたんだ。
いや、なら何で俺は倒れてるんだ。思い出せ、俺は倒れるまで何をしてた。
3人の傭兵を殺して、1人の大男と戦って、俺の決死の策であいつを殺して俺も爆発に巻き込まれて…失血多量。
はあ、全部思い出した。結局は2人仲良く死体かよ。
…これからは俺の刀を受け継ぐ奴は現れんのか、もしそうならそいつには最強の傭兵にでもなって欲しいな。
それなら俺も清々して死ねるか……
…怖い。
…怖い、怖い、怖い。
…いやだ、絶対に死にたくない。
何が清々して死ねるだ、俺は本当に死ぬのか?本当に?
ああだせえな、俺ってば。
人の命は軽々と扱う癖に自分の命が消えるとなると全身が震えて堪らなくなる。
でも仕方ないだろう。俺が此処まで生きてきた理由は死にたくないからなんだ。
ああそうだ、俺は生きたいんだよ結局。
…クソが、俺の全部を使ってでも生きてやる。
——その時の俺は、無意識下で自身のアーツを異常な効果の為に使った。
———……その事に気づくまで……一体何年かかったのだろう。どれほどの仲間を失い、どれほどの人を殺したのだろうか。
——ッはあ……はあ。
呼吸が出来ている。
もしかして本当に俺は生き延びたのか。あの状況から生き延びたか。
さっきまでこの大陸は俺の事が大嫌いだと思ってたが、あんな絶体絶命の瞬間から這い上がって来れたんだ。俺は相当な悪運の保持者らしい。
最高の気分だ。頭ん中がハイになってきた。…けれども頭痛が止まる気配はない。
「ああそうだ、確認しないといけない事があるな」
…やっぱり、Rapidの遺した物は綺麗さっぱりなくなっていた。俺の武器にしたかった気持ちが少しあるが良いだろう。そこまで欲しくはない、だって俺は双剣苦手だし。俺がアイツの名前を貰うわけにはいかないし。
それにしても俺の刀や銃を奪う輩は居なかったのか、まあ普通に考えて銃は扱いにくいし刀はガタガタになってるからか。
左腕に握っていた刀を見てそう思う。
右腕を失ったの大きいが死ななければ問題ないだろう。
実際の所俺、見たくないんだけどな、自分の利き腕がグチャグチャになってるの。まあ受け入れて次に繋げるために、自分の容態を把握しとかないとな……
「…は?いや何で…」
———何で…俺の右腕が戻ってるんだ。
少し落ち着け、俺のそれはさっきの戦闘で無くなった筈だ
術師と戦っていた途中で黒い弾丸に射抜かれて肘から先が千切れて…
もしかして俺は幻術を見てるのか?
いやそんな事はない。だって実際に刀を持ったり振ったり出来るのだから。
俺のアーツで見せた物は現実に物には干渉出来ない。だからもしこれが幻なら刀は右手をすり抜け、地面に砂の音を立てて落ちるだけだ。
俺には何がどんな原理なのか理解できないし、事実も確認のしようがない。
結局は勝手な推測で勝手な推論を導かなければならない。
…結論はこの二つだな。
一つ、医療器具などを用いた高度な治療。
二つ、アーツを介した効果的な治療。
そして俺はどちらも自ら行った記憶がなく他人に行われている、つまり俺のすべき考えは。
…どれもこれもただの僥倖。と言う事だ、我ながら馬鹿みたいだがこればっかりは仕方がないと思う。
今の俺は息をするのも困難だ、そんな状況でまともに考えが纏まるわけがない。この事はいつか暇な時にでも考えてやろう。
…それと考えなければならない事がもう一つ。
俺の左腕に謎の文が書かれていた———
紆余曲折ありながらも俺はいつもの洞窟に帰ろうとしていた、昨日から今まで水すら一切口にしていない。そこらのオリジムシでも食べようかと思ったが何日も食べてたら体に悪い事は俺でも分かる、何より源石病の悪化何て起こったら目も当てられない。
隠れ家の洞窟まで2km程度、もうそろそろだな。
焼けた足を微かに引き摺りながら歩いていると、周りの傭兵達がこっちを注目してくる。運がいいのか、今は俺の首は狙われてない。
ッチ、こっち見んなよ。俺は標的じゃなくともその日の機嫌で殺すタイプだぞ分かってんのか。はあ、左腕を治してくれた誰かは俺の足は治してくれなかったらしい。何とも融通の利かない不便な救世主だ。
だからこっちを見るな、次は男女二人組かよ何だよ気色悪りぃ。その目で俺を見るな、死にたいのか。
あいつら、特に男の目は嫌いだ。理由は分からない、ともかく初めて見る目だ。
…正確な年数は分からない、しかし自慢じゃないが俺は結構な年数を生きてきたと思う。そんな俺でも見た事ない眼光をしている。
女の方は目よりも存在が分からない、普通のサルカズ傭兵にも見えるがその辺の奴よりオーラがある。そして目は俺ではない何かを見ている。
少なくとも、弱くはない。
………ああもしかしてあいつらか、これが示していたのは。
…そうじゃなくても良い、俺はあいつらの事が気に掛かった。
洞窟に戻るのは後回しだ。
「なあ、そこの二人。俺に何か用があるのか」
「大した用ではない。俺達とお前の依頼内容が被っていただけの些細な事だ。」
俺は早速男の方に話しかけた、口調は荒っぽいが喧嘩を打ってるわけじゃない。戦闘した後だから、血が昇ってんだ悪いか。
そして、先程の評価は少し間違いだったようだ。数秒前の俺は弱くはないと言っていたが違う、この男は強い。それは身体的な強さだけじゃない、荒野で生き延びる為の生存への貪欲さがある。その事はこいつが常に柄に手を置いていることから簡単に判る。これはいつでもお前の首に向かって刀を抜けるぞ。と言う警告か。それともこの事に気づけない阿保を殺すための動きなのか。
どちらにしても、敵に回すと厄介な相手だ。
それと男が言うには、俺達は依頼内容が被っていたらしい。少し申し訳ないとは思うが、俺達は雇われの身だそんな事もあるだろう。
…いやこれを口実に近づく事が出来るかも知れない。
「それは何と言うか、少し申し訳ないな」
「大丈夫だ、非があるとするなら雇い主の方だ」
「随分と割り切ってるな」
「お前も傭兵なら数十回に一回はあるだろう」
「…まあな」
口では割り切っているような雰囲気、だが少しの怒りも感じ取れる。
こいつは無意味な血を流すような質には見えないが……実際、俺もそんな状況に陥ったら依頼主を殺しに行こうとしているだろうから気持ちは分かる。
まあこいつの雇い主がどうなろうが俺には関係ない、無能な雇い主は死んだ方が世の為だ。
「ちょっと、私を無視しないでくれるかしら」
俺と男が話していると、さっきまで自らの武器を点検しながらチラチラと此方を見ていた女が話しかけてきた。
こいつはあからさまに敵対心が漏れている、強くて喧嘩っ早い奴は災害にも等しいと誰かから聞いたような気がする。
「悪い。相棒との会話はここらで切り上げるから安心しろ」
「あらそう……本当に悪いと思っているなら、やるべき事があるんじゃない」
「何を言っている——」
「貴方は少し黙って。そうね…貴方には私達の依頼を手伝う義務があるわ、だって私達の獲物を奪ったもの」
詭弁だ。
今回の件は雇い主共に非がある、俺はただ単に依頼をこなしただけだ。それに標的が早い者勝ちなのは傭兵なら分かっている筈。
普段なら速攻断るが、しかし今回の俺は迷っている。
どうしようか、面倒くさいから断っても良いが。でもこいつらに積極的に接触したいなら手伝ってやる事も一つの選択として…
「それともう一つ。貴方のその姿は何——」
「よし分かった。お前らの依頼を手伝おう。一回限りだ」
二人組の依頼を手伝う事になってから、俺は自分の荷物を取るために洞窟に一先ず戻っていた。
ああクソ、俺がアイツらの事を気に掛かっていたのはこう言う事だったのか。そして腕に書かれていた文が示していたのもこの事だろう。
どうしたものか。恐らくあの女には俺のアーツがバレている、勿論アーツの全容がバレてるとは俺も思ってない。が少なくとも俺の変装はあの女にはバレると言う事が分かった、て事は隣にいるあの男にも時期にバレると言う事だ。否それどころか、俺が席を外している今のうちに知らされているかもしれない。
これからどうしようか。今までは狙われにくくする為に変装をしていた、そしてその行動が有効なのは誰にもそれが偽物だと見抜かれてないから。
だけどあの女が偽物と言う単語を口にしてしまったらこの荒野に、偽物の仲間がいるかもしれない、何て考えが広まってしまう。
仲間を疑い合うようになっていくのも良いがそれも最初の内だけだろう、日が経つにつれ仲間同士での秘密の暗号などが生まれていくのは想像につき易い。俺としてその状況は好ましくない。
口止めの為に殺すか?
いややめておこう…相手の後ろには大きな組織がいるかもしれない。
そもそも俺はあいつらの事を何も知らない。知ってる事は強くて危険因子だと言う事。
中身の分からない箱に好んで手を突っ込むような奴らは軒並み死んでいった、悪いがそいつらの仲間入りになるつもりは俺には毛頭ない。
取り敢えずは友好的に接しよう、うんそれが良い。
だからまずは殺しは無しだ。
案の定2人は何かを話し合っている、その内容をこれからの依頼についてだと考えるのは希望的観測になる。
俺が姿を変えている事は彼らに露呈したと思って良い。
取り敢えず友好的にだ、なるべく敵対をせずにだ。分かったな。
「どうだ、こっちの準備はもう終わったぞ」
「俺達も既に用意は終わっている」
「そもそも、私達は貴方の準備を待ってたのよ」
「悪かったよ」
…少し居心地が良い。久しぶりに誰かとこんな掛け合いをしたな。
でもこの空気は何だろう、今までのどんな状況よりも気分が良いと感じる。
やはり、この二人についてきて正解だった。
俺達は一応正式な仲間ではないが互いに信用は出来ている、未だ男は柄から手を離さないがそもそも離す方がおかしい。
俺は二人を殺すつもりは前述した通りない、二人もそれが分かっているのだろう。二人は俺を手練れだと知ってるからこそ殺意がないのを理解している。彼らからすると俺は依頼を手伝ってくれる生かして損はない存在。もしこいつらが敵意を持つときは俺が敵意を持った時だけだろう。
「聞き忘れてたが、俺達はお前は何と呼べば良い。俺の事はヘドリーと呼んでくれ」
不意にそんな事を聞かれた。…呼び名か。
別に何でも良いだろう、どうせ事務的な呼び名だ。なら直近で使ってた名前にでもしよう。
「分かったヘドリー…なら俺はヲルカにしといてくれ。一回限りの同盟だろうが、一応全力手伝おう」
「……ヘドリー、そんな目で見なくとも分かってるわ。…私はイネスよ」
ヘドリーとイネスか。
あまり聞き馴染みのない名前、貫禄があるにしては無名なのは意外だ。
しかしこいつらが未来で名を広めるのは簡単に想像がついた。
若い目を摘まれない様に頑張れよ。この辺のジジイ共は強者の証明だからな。
「あ〜そろそろ聞きたいんだけどヘドリー、今回の依頼の内容って何なんだ」
「依頼内容は二つだ。一つある傭兵団の偵察部隊の排除。二つ目は数年後に伝えられるらしい。まあお前に関係あるのは一つ目の方だけだ」
偵察部隊に排除か、結構早めに依頼は終わりそうだ。
…しかし二つ目に依頼は何なんだ、数年後に伝えるだと?
雇い主の思惑が不明瞭。まあ俺は雇い主の考えなんて知りようがないか。
「二つ目の方の依頼の意図は俺にも分からない。しかし二つ目に方の依頼は最悪受けなくても良いと、代わりに依頼金の八割は出さないとも雇い主は言っていた」
俺が疑問をヘドリーにぶつけようとした所で、ヘドリー自身が口を開いた。
そして彼が言うには依頼に絶対性はないとの事。だけどそんな情報が得られた所で大して推理は進まなく、思惑は未だ不明瞭。
…それどころか謎が深まるばかり。
…イネスはどう思っているのか聞いてみようとしたが、一人で考えていた。
恐らく彼女も俺と同じく依頼の詳細は知らなかった、その為今初めてヘドリーから聞いたと考えられる。
あ、軽く舌打ちをした。…今のそれは自分に何も教えなかったヘドリーに対してか。
数秒経ってイネスはため息をついて武器の点検をし、その後ヘドリーと言い合いをしていた。
ここに来るまで二人は言い合いを何回したんだ、もう数え切れないくらいに聞いている気がする。
仲が良いのか悪いのか分かんないが。相性は良さそうだ。
「見つけたぞ、標的はあいつらだ。俺の合図で強襲するぞ」
「何度も言ってるけど私に命令しないで。そんな事分かってるわ」
「…一応俺も居るんだけどな」
……夫婦喧嘩なら他でやってくれ。