荒野に抗う   作:ひトリび

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焦土-Daily life on the wilderness

 

 

武器がパンパンに入った箱に座って空を見ている。

暇な時間は空を見るのが好きだ、今の名前を使ってなかった頃はずっと洞窟暮らしだったからな、新鮮な気持ちになりつつWになった事を再認識出来る。

闇夜の空がこんなに綺麗って事は最近知った、特に俺のお気に入りは繋げるとWの形になる集まりだ、こういうのを“星座”と言うんだっけ、遥か昔の記憶で誰かにそう教えられた気がする。あの星座は俺のコードネームと同じで親近感が湧く。いつ消えても良いように、目に焼き付けておこう。いつかはあれの上で暮らしたいな。出来っこないだろうけどそんな夢は誰だって一度は叶えてみたいものだ………今度飛べるアーツを持ってる奴がいたら頼んでみよう。より近くで見ることぐらいは出来るだろう。…それにあそこから爆弾を降らすと戦場はより一層面白くなりそうだ。

 

「W」

「急かすな、そもそもお前とヘドリーが俺を料理当番にしたんだろう。文句があるなら、お前のはオリジムシにするぞ」

 

簡易版窯の中にある生地から食欲を唆る香りが舞う、料理は音と匂いで味は二の次。味に文句あるなら自分で作れって事だ。

自分でも驚くほど今回のは出来が良い様に見える、左隣から俺を急かす声が無ければ至高の時間になる筈だった。

 

「おいW、他の者達も呼ぶつもりだが良いか」

「任せろ、元からそのつもりだヘドリー」

 

背後の方からヘドリーの声が耳に入る。最近アイツは昇進したらしく雑兵を結構な数率いている。と言ってもやる事は大して変わらず、依頼を請け標的を首を落とす日々。

並んで俺は位が上がった訳でもないのにやる事が増えた。主に雑兵の尻拭い並びに食品の管理と調理だ。

 

 

俺はこの3人の中で一番料理をするのが上手く俺が当番になった、今にもなって自分でも知らないが才能があったとは。

Wでは無かった時は滅ったに料理なんてせずに適当な物を口に入れていた為、俺の料理歴は三年だ。それでも2人より出来が良かったんだ、傭兵のついでに料理人として生きるのも良さそうだ。その時には新しい名前も考えねえとな。やっぱり名前は適当に死人の名前から盗るか。…そういえば最近、変装のためにアーツ使った覚えがないな。

 

んな事はどうでも良いか。

今回俺が作った物は、円状の小麦粉の生地にトマトソースをコーティングし細かく刻んだジャガイモを乗っけた物だ。

それとこれは俺のオリジナルだから名前はない。いつも同じような食材を使っているから、いつもの手抜き料理と似たような味になるかも知れないけどな。

因みに俺は料理を感覚でやっているそれでも味は良いからイネスには偶に妬まれたりする、ヘドリーには素直に褒められるんだが、これが隊長の器か。

 

中からパチパチ音が小さくなってきた、頃合いだな。

 

「ほら出来たぞ、俺はもう一枚窯に入れるから」

「これは誰かから教わったものかしら?」

「なんだいきなり、誰か手料理を振る舞いたい奴でも出来たのか。…ああ、ヘドリーか?」

「貴方が確証の無い憶測を立てるのが自由なら、私が不快感を理由に貴方に危害を加えるのも私の勝手という事を覚えておくようね」

「はあ教えるのは別に良いけど、そしたらお前が当番になってくれるのか。違うなら俺が教える義理はないぞ」

 

アーツでも使ったのだろう。

俺が一切教える気がない事を思い知ったのか、イネスはいつもの定位置に戻って上品な手つきで料理を口に運んだ。

 

アイツあれで隠せてるつもりか。ここ数年、ヘドリーとか言うサルカズでも浮いた存在と共にいたからかサルカズの普通を忘れそうになってたが、やっぱり不自然だ。所作という物は身体に染み付いているもんなのか、頭のツノとは違って誤魔化している様子を見たことがない。

……改善した方が良いな。

 

 

「…何なの、W」

「お前は自然な所作を習え、俺からの指導だ」

「私は指図される事が大嫌いなの貴方も知ってるでしょうね、そう言う事だから貴方から学ぶ事は無いわ」

「俺がどうやって生き延びてきたのか知ってるだろ、俺からの方が早い。それともサルカズ擬きになるのが気に入ってたのか」

「………」

「………」

「…はあ、もう勝手にしてちょうだい。けれど一方的にあれこれ言われるのは癪だから」

「分かった分かった。それで良いからまともな技術を身につけてくれ、勝手に死なれるのは困る」

 

 

話が進んでよかった。イネスは分からないとして、ヘドリーは何か口出しした事はあったりするのか。流石に無いな、アイツが変装とかするのは想像できないし。

 

あーてかどうしようか、俺一度も誰かに指導した事ないな。

今回のとは少し違うけど。ヘドリーが管理している奴らの剣は、アイツが適当に教えているらしい。

反して、俺の後ろについてくる奴は誰もいねえから、俺がそうする様な相手はゼロだ。

それに俺のは誰かから教えてもらったものでないし、強い奴らの真似事を何年も何十年も続けてきて出来上がったものだから…強いて言えばこの荒野に教えてもらった。ってとこか。その為実体験をそのままやらせたとして、身についた時に生き残っているのが数える程度になるのは目に見えて分かる。

 

…まあ、なるようになるか。

イネスもそんなに俺を呼んで教えて貰おうとは大して思って無いだろうしな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

此処が閉まっていない事を確認し、蜘蛛の巣を張っている扉を開ける。木が軋む音が耳に入るがそれよりも、前来た時より綺麗になった店内に俺は驚き隠せない。店の中には小さな帽子が壁の至る所に掛けられていた。

さっき閉まっていないと思っていたが店の主人の気配はない、此処は不定期に休む事がある。店主には分かりにくいから閉める時は何か印をつけろと言った筈だが…いま思えばその話を頭の固いアイツが素直に聞くとは思えない。

 

店主を待つ時間潰しに店の中を色々と漁ってみようか。

 

棚には食材や酒などの食料品が並べられ、それぞれに値札が貼られている。

店全体としては白を基調としたまるで聖堂の様な雰囲気を醸し出している、それはカズデルでは珍しい為に好みが分かれる。

俺個人は結構気に入っていて、此処に来ている理由の一つにもなっている。

それと店の外見はよくある汎用的なものだから、初めて来た殆どの客が扉を開けた途端に霊でも見たかのような顔をする。

その顔を見てみろ、最高に面白いぞ。

 

 

…こいつまだこんなもの使ってたのか。

俺が見たのはクリップと呼ばれる挿弾子の事だ、そいつが店主の作業スペースに置かれていた。簡単に言うと弾薬を素早く再装填する為に使われていた器具の事。

そう“使われていた”。最近は使っている人は少なく、代わりにマガジンを使っている者が殆どだ。

つまりソイツはラテラーノの銃を愛用している老兵という事。

 

そしてその本人は店へと戻ってきたらしい。

 

「…誰か居るのか?店を開けたつもりは……」

「俺だ、Wだ」

「Wか、まあ君以外が来るわけないか。…それで要は何だ」

 

黒の帽子をかぶった男が髭を撫でながら店の中に入ってきた、俺に向かって喋っている様だが目線はいつも違うところを向いている。まあ、俺に対して警戒していないのなら良い関係を作れているという事なのでは無いだろうか。

 

「情報をくれ、今回のは大物だ」

「東の野郎か、それとも…」

「前者だ。後者が誰の事か薄々分かるが冠に手は出さねえよ。まあ馬鹿どもは狙っているらしいが、俺はそいつらとは違う」

「そうか…なら構成員とその団と手を繋いでる奴らぐらいは教えておこうか」

「詳しいのか?」

「そこまでだ、旧友…といっても一度共に殺しをしただけの仲だがな。その者が元々そこに居ていただけの事よ」

 

———旧友ね…欲しいとは思わねえけど。

俺には老兵が白昼夢を見ている様に映った。それが良い夢かは分からないけど悪い夢ではなさそうに見える。

 

「聞いてなかったけど、アンタいつから此処に来たんだ?」

「カズデルに来たのは、20いや25年ぐらい前だ。…まあ、正確な数字なんて不要、取り敢えず随分前からって事だけは事実。この店はカズデルに来てすぐ建ててしまった、傭兵も悪く無いが自分にはこっちで色々としている方が面白いと思ってな」

「てことはやっぱり、俺達の隊には来ないってか」

「悪いな、W。いつも誘ってくれて居るのに」

「いや別に、俺がアンタとなら組んでも良さそうだと思ってるだけだ。今の所席は空いてるからよ」

「ふん、そう言って明日にはその席は誰かが座ってるんじゃないか」

「まあ流石に無いだろ、今までいた奴に一人も俺を気に入った奴は居なかったからな」

「いや逆だろうな。W、君が気に入った奴が一人も居ないんだ」

 

それから少しのやり取りを経て、依頼についての話は終了した。

 

俺は此処で情報を貰う代わりにここの商品を買う様に言われている。商品を買うことの対価が情報とは何とも親切な契約だ。

…そうだ明日はパスタでも作ろう。その為にはトマトソースが必要だな。えーとソース系はここら辺にあったよな。

最初の内は嫌々やっていた料理も、今では自分で新しいものを試したり自ら食材を探している様になってしまった。

それをヘドリーに指摘された時にはイネスに笑われた気がする。…ッチ、最悪な記憶を蘇らせてしまった。

 

 

 

「なあ、そろそろアンタの名前教えてくれるか」

「…言ってなかったか?」

「ああ、出会った時は別に良いと思ってたが今となっては結構面倒なんだよ。名前はあったほうが良いからな」

「…いずれ知る事になる。そして、その時は今日じゃなくて良い」

「…?」

「まあ、自分が今この名前に相応しい活躍をして居ると言われれば素直に頷けない。……今はまだその気分ではない、どうせ知る事になるんだ。それなら最適なタイミングで言わせてもらおうではないか」

 

いずれ知る、なら今じゃなくても良い。俺には彼が何を言っているのか分からない。

しかし…まあ店長が言いたくないなら別に強要はしなくとも良いか。

いずれは教えてくれるだろう、彼がそう言っているんだ。それにもし黙ったままでも俺が干渉するような事ではないしな。

 

それから俺は店主の故郷の話や料理とお菓子の話をした。それは楽しい時間だったと言いたいところだが、俺にはつまらなく感じた特に料理の方は。俺にとって楽しいのは料理の方だ、食べるのは好きじゃない。

 

気に入った商品を漁り終わった俺は店主に挨拶をした。

俺の目には真っ白な視界とは打って変わって、外は灰の大地と空が一面に広がっていた。

今日は朝方頃に入店したはずだけど、いつの間にかこんな時刻になってしまっていた。

少しアイツと色々と喋りすぎたかもしれねえな。

 

…あ…マズイ、ヘドリーかイネスかに今日はいつもより早く戻ってくるようにと言われていたような気がする。

寛大な奴らだ、恐らく俺の失態を揺いてくれるだろう。…がもし愚痴を言われるならヘドリーの方がいい、イネスはアーツとか諸々のおかげで色々と面倒くさい。

遅れたらなんて言おうか。

はあ、俺は楽観主義なんだよ、やっぱり後先考えずに寄り道しよう。毒食らわば皿までって奴だ。

一応、さっきの店の近くに通信端末を埋めていたと思うから、それを回収してから散歩でもしようかな。最悪、次の標的を殺せばアイツらも何も言わんだろ。

 

 

 

 

 

暫くウロウロしていると周りに傭兵が多くなってきた、ここら辺は何処かの隊の縄張りだったりするのか?どいつもこいつも情けねえ顔しやがって、仲間でも死んだのか。だとしても俺には関係ないからさっさと失せろ、あの顔を見ているとイライラしてくる。

 

「テメェらサルカズの傭兵だろ、ならもっと面白そうな顔をしろよ。違うなら何処かで飯事でもしてな」

「ああ悪かった、私としても情けない限りだ。でも仕方ないだろ…私の所為で…。Wなら熟達した傭兵ならあるだろう、長い年月を共にした隊長を失った経験は」

「ないな、生憎うちの隊長が死ぬ姿は想像できない」

「そうか…君は良い仲間を持ったな。もし隊を抜けることになったならウチに来てくれ、元気づけてくれた礼だよ」

 

そう言って6人のサルカズ傭兵は身体よりも一回り大きい黒いローブを被って、俺とは違う方向へと進み出した。

てかアイツ、俺の事をWと呼んでたな。俺も正式な傭兵として一年以上は経っている、その分この名前も知られるようになったかも知れないな。

それに…隊長か、ヘドリーの隊長はスカーモールという傭兵が集う場所で初めて出会った以来だな。俺の記憶ではそこから会っていない気がする。ヘドリー達に比べたらそこまでだが感謝はしているから、偶には会って酒でも飲もうかな。そう言えば隊長は酒豪という噂を聞いたことがあったな、あの髭店主とどっちが強いんだろうか案外いい勝負をするかもな。

 

「ん、此処ってもしかして…ああやっぱりそうだ」

 

ふと見覚えのある建造物が見えた為今まで歩いてきた地形と道のりを思い出し記憶に当てはめてみると、この地が俺たちの狙っている首が置いてある場所だった。

て事は、ヘドリー達も近くに居ると考えれる。これなら遅刻にならずに済むかもな。

…あの黒いローブ、スカーモールで見かけた様な気もするが、気のせいだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヘドリー達の元へ走る事数分、遂に拠点に戻ってきた

 

「別に遅れては無いだろ」

「W、いつも言っているが時間通りに来いは時間丁度に来ていい理由にはならない」

「ああ、今回こそは分かった今日はちょっと例外があっただけだ」

「……俺も他の仲間達とやる事があるから、此処を離れる。聞きたい事があるならイネスに言え、彼奴なら作戦概要を教えてくれる筈だ。機嫌が良ければの話だがな」

 

——イネスの機嫌が良いのは、ヘドリーといた時ぐらいしかないんじゃないか。俺はそう思うけどな、思うだけで口にはしないけど。

…もしそんな事をアイツに言ったら、そんな事はないと一蹴されるだろう。

 

全く…俺としてはアイツらと3人で居るのは勘弁だ、面倒くさいったらありゃしない。

まあ正直に言うなら、その雰囲気はアイツらの依頼を初めて協力した時から薄々感じてたけどな。

やっぱり俺はターゲットの首と自由な殺し合いをする方が性に合ってる。目の前の頭部は弾けて腕は粉微塵に、爆発したそれは俺のお陰で数秒前よりも面白い状態に早変わり。

 

そういや、店長からの情報をヘドリーに伝えた気がしない。最低でもイネスに伝えれば後は良いか。

 

それにしても、情報を伝えられてない事を忘れるなんてアイツも働き者だな、副隊長になってから前よりイキイキしているそんなに嬉しいか隊長に認められたのが。分かんねえな、俺は認められても嬉しくねえなそれにもし副隊長になってしまうなら自ら辞退するだろうな。…自分の部隊を率いることの出来る才があるならやってやっても良いけど。

イネスは部隊を率いる事は向いてないだろうな、アイツの下につく奴なんて相当な物好きしか居ねえよ多分。

 

「W、遅れて戻ってきたと思えば。貴方は直ぐに失礼な事を言えるのね、先ずは謝罪でしょ」

「なあ、そのアーツ狡くねえか」

「貴方の考えてる事にも同意は出来るはけれど、作戦に支障は来さない様にするのね。ほら、もらった情報を教えて」

「分かってるよ、先ずは——」

 

そうして俺はイネスに今回の依頼に使えそうな情報を伝えた。

 

 

「そういや、ここに来る前にサルカズ達を見たんだが全員戦意喪失している様だった、隊長が死んだらしいぞ。なあ何度も聞くけど、そこまでしてサルカズになりたいのは何でだ、サルカズなんて他の種族からは忌み嫌われているし昨日味方だった奴らの首を平気で落とす様な種族だぞ。教えてくれよ」

「……私は感謝しているのよ」

「誰にだ?」

「……これでこの話は終わりよ。さあ早く準備なさい、そろそろ合図が送られてくる頃よ」

「おい言えよ、この依頼終わったら絶対に言えよ。何でサルカズになりたいのか、誰に感謝してるのか」

 

はあもう何で、俺の周りにいる奴らはこうやって隠し事をするんだ。店長もイネスも、それにヘドリーもよく分かんねえ。

無知が武器だと知っていても気分が良くなる試しはない、無知を強制されるのは最悪だ。

 

2時の方向にあるアンテナの様なものがチカチカ光る。これが合図だ。

俺とイネス部隊は敵のアジトへ向かった、恐らくヘドリー達も今頃向かっている筈だ。

 

なあ、俺は何に成りてえんだ。

 

刀を持った腕を見る……何も書かれていない真っ白な腕に傷が重なっている。

 

俺は…Wだ…もう絶対に迷わない。

 

 

 

 

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