荒野に抗う   作:ひトリび

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起源-We decided to go ahead for our causes

 

P.M.5:42

 

「なあもう諦めてくんねえか、殺さねえからよ。俺まだやりたい事あるんだけど」

「私は傭兵だ、受けた依頼は必ず完了させる」

「その依頼は今からただの口約束になるんだけどな。因みに誰からの依頼だ」

「私達の仲間からだ」

「ふーん、あっそ。じゃあな」

 

瞬間、男の腹から流れる様に赤が溢れ出た。闘志で燃えていた目も数秒経てば、何も反射しない球体になってしまった。

俺は悲しいよ、温情を反故にされてよ。

歩けば足元から血が跳ね返るその度死骸は益々赤くなる。そして奴らの被っていた黒いコートが紅色にペイントされる。宛ら俺はそれを彩るカーディーラーだ。

作戦の実行前に言った様な気がする、俺達サルカズは共に机を囲んだもの同士で殺し合いが起きても、大して動揺しないと。言ったまんまだな、俺が元気付けた傭兵を俺の手で潰した。この荒野がどれ程狂っていたのか再確認できる……

 

「ヘドリー、イネスはどこに行ったんだ?」

「既に撤退の為の用意をしている、ここにはもう誰もいないだろう。今回の作戦の殆どがお前の活躍だ、その先へと進む性格を制御出来るのなら昇進も厭わない」

「そうかよ」

「どうした不満そうだな、目当ての物でも見つからなかったのか」

「まあな、弾丸の補給がしたかったが仕方ねえ。撤退するか」

「ああ、今すぐ俺の部隊も戻らせる。追手がいた時の為なるべくWも早く来い」

 

どいつもこいつも、何にも持ってねえ。壊滅寸前の隊に期待はしていなかったがこんな有様とは。人数も多かったとは言え元は有名な傭兵部隊だ、にしては人数も少なかった、アイツらの言い方的に隊長が殿として死んだだけだと勘違いしてたな。

スカー傭兵団の歴史はこれで終わりか……スカー?そういや、俺らが殺した奴らの中にスカーって名前はいなかった筈だ、そいつは今何処にいる。隊長様の名だ誰かは受け継ぐのが普通だろう、それもあの歴史の深い傭兵団なら。

何かがおかしい、人員の異様な量、あの名を誰も持っていないこと———

 

俺が違和感の理由に気付いたと同時に前方に居るヘドリー達の方から爆撃音が聞こえた。

 

「ヘドリー!」

 

俺の声に応答する者は居ない。

ヘドリー達の様子は確認出来ない。どうする…クソが敵は隠れる事をやめたらしい。俺の背後に4人程、撃たれた弾道からして敵の一人は近くない場所に居る。

ああもう、全員死ね。こいつらを殺してアイツらの元へ向かう。やっぱり、雑兵の尻拭い何てクソッタレだ。

 

 

俺は振り返り3人の傭兵と向き合った、今すぐにでもこいつらの息を止めてヘドリー達の元に向かいたい。しかし足を踏み出そうと瞬間遠方から数え切れないほどの術の弾丸が飛ばされる。反応を思考を止めずに避け続け、逃れられないものは刀で弾く。ああ、これをしていると頭が痛くなってくる。

一見すると対等の様に見えるがこれでは奴らに近づけない、逃走も一手だがそれを簡単に成功できる様な相手ではない。

それに、奴らの目的が分かった時間稼ぎだ。三つの影は未だ此方に近づく事がない、あくまでも接近戦は拒否していく意向か。

 

そのまま膠着状態が続くように思えたが刹那、この荒野はまたしても俺に味方してしまった。

狙撃兵が飛ばして地面に転がっていた弾丸が突如として爆発した、それによりこの場には爆煙が生まれた。それは決して素早くないがしかし着実に俺と敵、お互いの視界を奪った。けれどもこれでフェアだ、もし搗ち合う事になろうがタイマン。先刻の状況に比べればだいぶ楽になった。そして隙は生まれたようだ。

完全にそれを見逃さず一人の首を獲物で落とす。右手に持った銃で狙撃手を狙おうとするがそんな距離も隙もない。それに他の二人が近づいてきてるからな。

二人が煙幕を突っ切りながら俺に向かって剣を振った、一人は俺の首に、一人は足先から胴体へ振り上げる様に。

首に襲いかかった刀で止め、もう一つは俺に傷をつける前にそれを握っている本人の腕と頭に風穴を開けて無力化した。

 

最後の奴は死体の近くにある大剣を持ち二刀流になった、正に死ぬ事を上等とした決死の攻撃。

 

「死んで償え!」

「うるせえな、死んで黙れ」

 

俺の真上に来る様に手榴弾を投げ2つの剣が俺を襲いかかる。けれども残念、片方は腕ごと切り落としもう片方は軽い金属音を立てて終わり手榴弾は銃に撃たれ空中で爆破した。

俺の目の前には腕を失い戦意も喪失した傭兵が一匹、いつもなら面白くしてあげたところだが今は余裕がないんだ頭に赤い花でも咲かせとけ。

退け死体ども、間に合わねえだろう。

 

 

歩けば歩くほど人数が多くなるのを感じる、共に血と死体が増して行く一方だ。それは敵味方関係なく。

敵が居たそれも大勢。それにやっと見つけたヘドリー達が居る。仲間も減っている何度ここで争ったのだろう、けれどもう犠牲者は出さない。ああ、だから何度も言ってんだ雑兵供の尻拭いは大嫌いだって。

 

「ヘドリー!早く逃げろ!てめえらもだ、さっさと退け!」

「すまない、W」

 

俺がそう呼びかけると、ヘドリーの部隊は撤退した。それに続いて敵も追いかけようとしたが、俺がその道を爆発させて塞ぐ。そしてその先に俺が移動する、アイツらは反応も出来ない。

敵は200人は超える軍勢てか多すぎて数えきれねえ、こんな事は初めてだなこの数を真正面からは…

 

俺は夢中で敵へと走った、首を落として、落として、落としまくる。戦場は次第は赤とあえぎ声で包まれた。殺しても殺しても虫みたいに湧いてくる。

殺していくうちに聞こえなくなっていく死ねという言葉。銃声と爆発で耳がやられたかそれとも言われ慣れ過ぎたか。けれど殺す事には支障はない。

弾丸の尽きた銃で相手の目を潰し、血を撒き散らす。目の前の奴が死体に一つ二つとなる。

打開の策として、敵の姿を変え仲間での殺し合いを誘発させる。しかしそれも20回程度、やればやる程頭痛が重くなる。

このままでは刀も碌に握れなくなる為、諦める。

最後に残ったのは刀だけ、それをただ相手の急所に向かって走らせる。死ね、死ね、死ね!死ね、死ね——————

3桁目を超えたあたりから数えるのも忘れてしまった、もう何人殺した?俺は後何人殺せば良い?

時間が永遠の様に感じて少しした後に、疲労なのかどうか俺の動きが鈍くなっていった。

 

「グハッ」

 

何処かで喉が焼き切れた、動かせはするが全身が傷だらけだ。

ああ、俺はこの戦場で死ぬのか。…ヘドリー達は逃げきれたのか?

俺の右手にはいつの間にか銃ではなく起爆のスイッチが握られていた。ここに来るまで何度も何度も置いてきた時限爆弾、その時は最悪の場合と考えていたがその最悪が来てしまった。そんな予想は当たってほしくなかったぜ。

これで三度目だ死を覚悟するのは。

 

俺は迷う事なく起爆スイッチを押した、瞬間ここ一体は火の海になった。

俺の想像以上の威力だ、こんなにもあったとは思えないがある分に越したことはない。

爆発音が鳴り響く、敵は悲鳴を上げ、地面の死体は打ち上がる。ここ一帯に水平線が生まれる。

それがこの場全ての人間に牙を剥いた事を再確認する、そしてそれは俺すらも標的の中にある。

俺自身の体に傷が生まれ、視界は消え、全身の感覚組織が助けを呼ぶのを感じる。

そして、連鎖爆発からほんの短い時間が経過したと、次第に俺の意識は深い闇へと落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

傭兵Wの歴史はこれで終わりか、いつかはもっと大物の首を落としたいと思ってたのによ残念だぜ。

この前は死にたくない気持ちがあったが、今はもうないな。もう満足だ、ヘドリーとイネスの為に死ねたのなら悔いはねえ。感謝している事を伝えたいが無理そうだ、だからここの中だけでも感謝はしないとな。ありがとうな二人とも…

 

…それと店長。結局名前は分かんなかったけどよ毎日一緒に飲んでくれたりあんたの誕生日を祝ったのも楽しかったぜ。…実はアンタが酒を飲んでる時に誤魔化している事知ってたんだぜ、それにしてもあの量は吹っかけすぎだったけどよ。

いつかはアンタの故郷のラテラーノに行きたかったな。あそこは上等な甘味があったと言ってたな、それはどんだけ幸せな事なんだろうな。

 

 

ああ、俺の刀、俺の銃、全部消えちまったのか。いや、俺の刀はまだ右手にあるんだな感覚で分かるぜお前がいるって事。今思えば、数えきれないほどの年数をお前と過ごししたな。共に苦難も幸せも過ごした、人も殺したしお前のおかげで生きてこれた。

いつかの日、こいつの事を売ろうとした事があったな。その時は依頼が全然なかったから食料も一切なかった、だから売って食費に当てようとしたが……本当にやらなくてよかったぜ。お前だけは俺以外のの誰にも渡すわけにはいかねえよ。

俺の、Wの歴史と意思そのものだからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッチ、こいつ死んでるんじゃないの!早く離しなさいよ」

 

うるせえな、もしかして何処かの盗人か?

今いいとこなんだよ、しかも俺の刀を奪い取ろうとするなんて。よし決めたこいつだけには死ぬまで絶対渡さねえ。

 

「〜〜〜〜〜〜」

 

俺は視界が真っ暗になっても、腕に力を込める事をやめなかった。

 

「〜〜〜〜〜〜」

 

ああもう、うるせえな!

俺は子供でも容赦しねえぞ、クソが呪い殺してやる。こいつの顔をみっともない姿にしてやる。

 

そうしようと、俺がどうにか目を開けて盗人の姿を見た時。

此奴への敵愾心は何処かへ消えていった。

 

 

俺の目には銀鼠の髪をし真紅の角を持ったサルカズの女が映った。

 

 

 

 

 

 

「お前、俺の刀奪い取ろうとしただろ」

「あんた、自分の立場を弁えたほうが身の為よ。腕はボロボロで目はもう片目しか開けれてない、どこのサルカズが弱った小鹿に負けると思ってるの?」

「おいガキ、誰がこの死体の山を作ったと思ってんだ」

「そんなのどうでもいいわ……………ッ!」

 

俺は女の脇腹を今の身体で出せる力で思いっきり蹴った、こんな奴に構う暇はない。俺の武器を奪おうとした罪は重いが今は仕方ない、いつかこいつの首を狙うときに斬ればいい。

一瞬此奴の顔が記憶の片隅にある知り合いの顔に似ていた気がするが、今はそんなのは意識していない。此奴はクソガキだ。

俺はヘドリーとイネスの元に戻って治療を受けないと、運良く生き残れたんだ。

生き続けられるのなら生きたいのが人間の性って物だろ。

 

「悪いなクソガキ、俺は仲間の元に帰らなくちゃならない。くれぐれもこれからは俺以外の奴らから盗みをしておけ」

「ッチ…あんた…黙って聞いてれば…好き勝手に…」

 

喚くサルカズに一瞥もくれず、俺は歩き続けた。

ああクソ、足が重い。

とても遠い様に感じる、2時間前には軽い足取りをしていたこの道も帰りは重く苦しい。

ヘドリー、イネス、何処にいる。…多分もう戻ってるか、あの状況で死なないのがおかしいしな誰も俺があの軍勢に勝てたと思ってないだろう。

あいつらも俺が殿となってくれて感謝はしているだろう。

それにあれ程大きな爆発だ、それなりな距離だとどれ程の威力か想像がつく筈だ。逆にWは生きてると言ってる奴は死んだ方が良いな。

 

…未だにあの女着いて来てやがる、何がしたい。

俺を殺す気配もない、さっきの一撃で諦めたか。それとも俺が倒れたらもう一度盗もうとしてるのか。

 

「クソガキ!何がしたい!」

「……」

 

ッチ、無視かよ。

 

 

それから少し歩いても、アイツの気配は消えなかった。隙を見せると殺気を感じるが実行には至らない。

俺の隙を感じれるあたりなかなかの才能を持っている様だ。性格がまた違ったら、会う場所が違ったら、仲間になっても悪くないと感じていただろう。

 

……あの女の手に持っているダガー、スカー傭兵団のリーダーが持っていたやつか。

アイツは本当に油断も隙もない、俺の獲物が奪われなくて本当に良かった。

 

 

あの場所から70分ほど歩いたか、それでも景色が変わった気がしない。

いつもなら少し経てば店に、もう少しで傭兵の集会場、そして瞬きでもしているうちにいつもの場所に戻っているのに。

今では……ああ、足を前に出す事すら難しいらしい。

コツコツと俺達の拠点へ歩むがしかし、俺が足を踏み外して倒れそうになる。

 

その瞬間俺の体が何か柔らかい物に当たり、そのまま崩れていく身体を支えた。それは程度の良い温度をしていて、俺の情緒を安らかにさせた。

ぼやけた目を戻して、ピントを合わせる。

そして、この現状を理解する。

俺の事を支えたのは俺が潰したくて仕方ないあの銀鼠のサルカズ本人。

 

何故だ。そう聞きたいが喉に空気が通らない為、音が出せない。

 

「あんた。…何で、そんな顔してるわね。まあそれはあんたのお仲間さんの元へ着いてから教えるわ、だから死なずに私を導きなさい」

 

何言ってるのか全然分からない、聴覚的にも意味的にも。けれども悪い誘いではなさそうだ。

 

まあ俺も、あれを生き延びたのは偶然が重なりあったおかげだ。

もし此奴が武器を奪い取ろうとしなかったら、そのまま死んでたかもしんねえしよ。

だからこれは互いを助ける為の物だ、俺はアイツらの元に帰りたい、此奴もそう思っているらしい。利害は一致した。

 

「……わか…った……」

「物分かりの良い子ね、そのままあんたの仲間の所に向かうわよ」

 

彼女のおかげで体に力が入りやすくなった、とは言え全身に入る力は満足でない。

結構な頻度でバランスを崩すが彼女が支えてくれる。その度に愚痴を言われ、あの琥珀色に目で睨まれる、毎回その次には決して優しくない言葉を俺に被せる。それでも、今にも気が枯れそうな俺には元気付けてくれる大切な言葉の様に感じる。

頭が逝ってしまったんだろうか、きっとそうだいつもならそんな言葉受け取る気はサラサラない。元気付けられるなど言語道断。

そして、彼女の言葉を安らぎとし求めようとしている貧弱な俺に腹が立つ。

 

一歩踏み出す、未だにアイツらの姿は見えない。

 

一歩、未だ辿りつかない。

 

一歩、視界を覆うのは銀髪の女のみ。

 

一歩、ふと見ると女の足に傷が増えている様に感じる。

 

一歩、日常が近づいてくる。

 

一歩、遂に見知った二つの影が見えてくる。

 

 

 

「おいお前」

「何よ、喋る暇があるならスピード上げてくれる?」

「やっと辿り着いた、あの二人が俺の仲間だ」

「……」

「不安か、少なくとも俺はお前がここに入る素質を持っていると確信している」

 

ヘドリーは既に俺の存在を感知している様だ、が俺である事は知らないらしい。

あいつらの方から、追手という単語が微かに聞こえる。追手は隣にいる奴だけだぞ。仲間の気配ぐらい察しろ。

 

「ヘドリー!イネス!」

「ッまさか!」

「W!?」

 

正解だ二人とも。俺の身体はもう持たないらしいだから治療は任せた。

脳に酸素が抜けていくのを感じる。全身が限界だと呼応している。

俺がこんな状況なのに安心して倒れ込むことが出来るのはお前らに対してだけだよ。

ああ後、このクソ女は殺さない様にしてくれよな。まあヘドリーが簡単に此奴を殺す訳はないだろうけど。

いつかと同じように俺の意識は深い眠りに落ちた。

 

 

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