荒野に抗う   作:ひトリび

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赫琥-She’s eye will burn so bright

 

意識が戻ると共に五感が戻ってくる。パチパチと聞こえる音、聞き慣れすぎたそれは俺に一種のリラクゼーションの効果を与える。

怪我人だというのに相応しくない固い箱に背中を預けている状況、それが此処はカズデルだという事を示す。ベッドの一つくらいは欲しいと久しぶりに思うがそんな事は叶わぬ願いだという事を俺は知っている、このカズデルでは仕方のない事だ。

目覚めたせいで自然と呻き声に似たような声が出る。

その音に気づいたのか、複数の足音が近づいてくる。

 

視界を開けるがぼやけて見えない為、もう一度目を瞑り目元を擦る。

鮮明になった視界はいつもの日常のような風景を受け取った。

全員に挨拶をしようと声を出すが、実際にはガラガラ声をアイツらに聞かせる事になってしまった。

 

「病み上がりだろう、休むと良い」

「ゲホッゲホッ……おう、ありがとうな」

「それと、お前が休みたいなら次の依頼お前抜きでやる事も構わない」

「あー……そうだな銃も無くなったし、身体の動きも悪い。正直、今の俺が行っても大した役に立たないだろしな」

「そんな事はないだろうが…お前本人が言うならば分かった。それと戦力を失った俺たちはこれから狙われるだろう。用心しておくように、俺たちはそろそろ此処を離れる」

「はいはい、了解」

 

今日のヘドリーはなんか暗い顔してたな、部下が多数やられてしまったからかもしれない。この隊を率いる者としての責任感って奴があるんだろう。

 

それよりもだ、依頼の無い日って俺どうしてたっけ…出来るならあのジジイの所にでも行くか。

もし俺達を狙ってくる奴らが居るなら、そういう奴等の見当がつくのか。アイツなら色々分かりそうだ。

毎回思うがどこでアイツはそんな情報を知ってんだろうな。そんなことは情報屋全体に言えるか。

 

てかイネスは何処に行ったんだ気配がしない、あの虫みたいな気配がいつにも増して。

それとあの俺の物を奪おうとした最低なクソガキはもう消えたのか。

 

「さっきからあんた口が汚いわね。もしやその愚痴、私に向かって言ってるの?」

「ッチ…お前もイネスみたいな事しやがる。てかお前まだここに居たのか、居場所の無い盗人は帰ったほうがいいぞ」

「知らないの?」

「何がだよ……」

「残念ね、悪いけど私、この隊に入る事になったから。これからは対等な関係よ」

「じゃあね、優しい優しいお仲間さん」

 

そう言ってあのサルカズは手榴弾を握りしめてヘドリー達の方へと着いていった。

 

ああ…やっぱそうだったか。

あの焼け地から致命傷なく潜んでたとされるアイツは相当なセンスを持っている、そんな奴をアイツが見逃す訳もないか。

俺が殺す気で蹴り飛ばした時も何とか歩けるようにくらいには状態を保ち続けていた、その点は真っ当に評価されるべきか。

んな事を本人の前で言う訳ねえけどな。

俺とアイツはそりが合う気がしねえ。

今日の俺は怪物の受精卵を受け入れる事を前向きには思わない。いや、未来永劫アイツの事を気に食わねえ奴だと思うだろうな。

 

多分イネスもアイツの事は苦手だろう、俺よりも嫌いそうだ。

ああだから、今此処に居なかったのか。アイツらが言い合っている所は容易に想像できる。

……そう考えると、その光景に茶々を入れるのは面白そうだな。

 

 

星空は今日も綺麗だ。全てをどこかに捨て去ってしまいただ単に心地良いと感じる。

時間的には多くの星の軌跡は見えないけれども、夜になればそれも多種多様な色に輝くと思われる。

ヘドリーから貰った本を数冊読んだが、結局全てを読み切ったのは星についての資料だけだったな。他にはサルカズの歴史や他国との関係、一番分厚かったのは鉱石病についての資料だった気がする。

気になっては居たが途中で諦めた、結局どれを見ても体内外にあるこれを治療する方法は今の所ないの事を理解した。まあどちらにせよ、俺がこれを積極的に治す事はないだろう、サルカズは種族柄鉱石病に罹りやすい為治療してもすぐに鉱石病に陥るかもしれない。そんなもしもの話に費やす暇と金はない。

それにこんな場所だ、治そうにもそんな環境が俺達の元に辿り着く事は限りなく少ない。

俺たちサルカズがこの原石と離れる時代は果てしない未来の話。ヘドリーも言っていた筈だ、俺達のサルカズは戦争と鉱石病と言う問題から離れる為には多くの時間を要する、とアイツはその後にサルカズの歴史の戦争以外の側面も教えてくれたがあまりよく覚えていない。

サルカズの歴史は少し気になるが何しろ文献が少ない、書いてあるのは俺が体験した歴史とその前後だけ。それよりも前の物はそもそもが古代サルカズ語で書かれていて解読し難い、その為結局その文献から俺が読み取れるのはある程度の基本単語と絵に著された情報のみ。

 

ヘドリーは最近本を書いている様だ、この前に内容を教えてもらおうとしたが書いている途中と言われ突っぱねられた。

いつかそれが完成したら暁には俺に見せてくれと頼んだ、どんな内容なのか待ち遠しいぜ。実体験でも書いているらしくWの事も書き記している様だ。

いつかの夜に読み漁ろうか。もちろん、ヘドリーにはバレない様にな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

待つのは慣れない。

今日はジジイの店に行ったが誰もいなかった、店内で待とうとしたが。足がうまく動かない俺では移動するだけでも時間がかかる。俺にはそんな時間はない。ヘドリー達が帰ってきた時に居なかったら心配されてしまうだろう、なるべく早めに戻っておきたい。

……もしちょっとでも回復していたのなら其処へと向かっていただろう、昨日無茶をした事を悔やむ。

まあ、この時間に本を読み進めれたのは良い事だろう。

 

いつもより早い時間に足音が聞こえる、今回の依頼はそんな大層な物ではなかったのか。…有名な傭兵団が壊滅してしまったから依頼もしょうもない物ばかりなのだろうか。

 

「ヘドリー、イネス、今日の収穫はどうだった。当たり前だが俺が得た物はゼロだ」

「そんな冗談が言えるくらいには回復したのね。明日も死にかける事はない様に」

「分かってるよ」

 

これもイネスなりの優しさだろう、アイツに心配かけるのはこれが初めてか。まあ明日には最低限のことは出来る様になる心配させる必要も無くなる筈だ。

 

「W…バディを組まなくてはならないかもしれないが良いか」

「どうしたヘドリー?」

「…これからは俺達も狙われる立場だその為には互いの身を守らないといけない、しかしおれやイネスなどではお前が手の届く範囲にいない。だから違う誰かを相棒として見つけてくれ。その相手のアテはあるか」

「言いたい事は分かるが……悪いがアテはない。それと俺はその提案には反対だぞ」

「お前が滅多に危機に陥らない事は俺も承知だ、けれどもこれからの事を考えるとその方が良い。これは命令だ」

「命令なら俺は構わないが…なら何で最初にあんな事を言ったんだ」

「一応の確認だ、結果が決まっていたとしても。リーダーとして聞かなくてはならない」

「ふーん……まあ別に良いけど、結局誰が俺のバディなんだ?」

「それは本人から聞け」

「…それとそいつはコードネームがない為、お前が名付けてくれ。お前も長い間ここに居る筈だ、良い加減上官らしい事に慣れろ」

「はあ…」

 

 

 

 

俺に今までできた事のない相棒という存在、それが今から俺の元に来るらしい。しかもそいつはコードネームがない。

もしかしてさっきの依頼で行ってきた時に捕まえた傭兵か?ああもしかたら、前の戦いの偶々生きてたやつが当てがなくここに来た可能性もあるか。

…まあ楽しみにしておくか

 

 

「楽しみ?そんなにバディが欲しかったのね」

 

コツコツと聞こえる荒々しい足跡と琥珀色に輝く目、そして白銀の髪。実際にそれらを見たのは多くはないが、それら全てはしっかりと俺の脳内にこびりついていた。

 

「けれど、バディが私だった率直な感想はどう?」

「…最悪だ」

「嘘のない感想をどうもありがとう。私としては身代わりとして最適な人で嬉しいわ。あの時も結局アンタだけがあの場所に残ってた様だし」

「俺が望んで殿になったんだ。隊に所属した事も無い、青二才にどうこう言われる筋合いはない」

「あっそ」

 

俺に対する反抗とも不満足な気持ちとも取れる反応を示す。

どちらにせよ俺の返答がつまらなく感じたのだろう。

女は俺に背中を向けて走り去ろうとした。が突然何かを思い出したかの様に俺の方へ振り向いた。

 

「そういえば、あんたが私にコードネームをつけるらしいわね。名前はもう決めたの?」

「うるせえ、まだ考えている途中だ」

「ふーん…それじゃあ私はここで名前を与えられるまで待っとくわね」

 

何故ここで待つ、ヘドリーにコードネームが貰えるまで依頼に参加できないとでも言われたのか。

 

「正解よ良く分かったわね、あんたこの隊で古参なの?」

「女って奴は人の考えを読み取れる物なのか。どこかの誰かさんもそんな事ができるだろ」

「イネスと違って私はアーツなんて使ってないわよ。あんたが分かりやすいんじゃないの?」

「イネスを除くと俺の考えを覗き見てくるのはお前だけだ。ヘドリーはそんな事しねえよ」

 

「そう…それで私の質問に答えて。あんたはこの隊で長い方なの?」

「まあ、ヘドリーとイネスの次で三番目だな」

「なら結構ここに居るのね」

「まあ…ヘドリーの隊以外も含めたら分からないけどな」

「ここ以外の隊があるの?」

「ある4つ程な。アイツは上から二個目の階級で、一番上はここら辺の隊の殆どを仕切っている大物。アイツはここの隊の隊長なだけだ、それだけでも凄いけどな」

「じゃああんたは?」

「悪いが隊長でも副隊長でもない、文句があるならヘドリーに言え」

 

今までなら何ともなかったけど、こいつに舐められるのは癪だ。

早いうちにそれらしい役職が欲しい。ヘドリーに言えば何かしてくれたりするのだろうか。

 

……ヘドリー…そうだヘドリーだ。目の前のやつ以外にもヘドリーは最近仲間を増やそうと奮起している、先刻の戦いで空いた席をどうにか埋めようとしている様だ。現状人手の少ないこの隊は少し浮いていて狙われている、仕事上恨みも買いやすいしこれがチャンスだと思って攻めてくる輩も増えてしまう。

俺からするとそこら辺は預かり知らない事だ、目の前の奴も同様にそうだ。

 

 

女が眠たそうに欠伸をする。

傭兵をしたのもさっきの依頼が初めてだったらしいし慣れない変な疲れが出たのだろう。

 

「ねえ、私もう疲れたからここで休憩しても良いわよね」

「勝手に決めるな。休むなら向こうに行け」

「ケチくさいわね」

「何で此処に留まるんだ?」

「向こうにはイネスが居るのよ、アイツと一緒は絶対に嫌よ」

「お前ら来て早々に喧嘩したのか」

「イネスとは根本的に馬が合わないわ、ていうか最初に喧嘩を売ってきたのはあっちよ。私としてはすぐにこのダガーで切り裂いても良かったのよ」

「…………」

「……何よ」

「…いきなりだが、お前の持ってるそれははあの死体の山から盗んだ物だよな」

「そうよ、それが?」

 

 

「お前の名前が決まった“Scar”だ」

「まあ良いけど、理由は?」

「そんな大層な理由はない。お前の持っているダガーの元々の持ち主の名前がスカーだった」

「ふーん。……Scarね…まあ別に名前なんて何でも良いけど」

「そういう事だ……それと未だ不完全なお前にピッタリだろ」

「ッチ……それは否定しないけど、私を煽ってばっかだと寝首を掻かれるわよ」

「掛かってこいよ出来るもんならだけどな」

「それは了承したって事よね、それならマジに殺してあげる」

「おい、撤回するから勘弁してくれ。俺はもう休む」

「それなら私もここで休ませて貰うわね」

「御勝手にどうぞ」

「先はああ言ったけどあんたがつけてくれた名前、結構気に入ったわ、ありがたく使わさせて貰うわね…ありがと」

 

アイツが気に入ってくれたのなら何でも良いか……アイツに感謝されても悪い気分はしない。

 

身体が回復を促そうとしているのか、俺が横たわると意識が朦朧とし瞼は開くのを諦める。

 

隣で寝息が聞こえる、少し目を開けると彼女が目を擦っているその時瞼の隙間から見えた鼈甲色の目は綺麗に輝いていた、俺はその光に見入ってしまった。こんな感覚なのか隣で誰かが寝ているというのは何だか変な気分だ慣れない。

それでもこの女なら許してやろうという気持ちが湧いてくる、これは何故だろうか分からない。

この状況と似ているのはペットを飼っている時か、こいつも弱々しいのにも関わらず俺に威嚇ばっかりしてくるまるで子犬みたいだ。だからこの気持ちはそういった類のものだろう。

…ヘドリーとイネスはいつもこんな事をしていたのか。

 

 

そういやScarの言っていた事の一つ。

イネスとアイツの喧嘩の件詳細がどんなのかは知らないが碌のことじゃないだろうな。これからも同じ隊としてやっていく為、いつかは仲良くして欲しいけど…それは叶わぬ願いみたいだ。

この女を見ているとそう感じる。

これからもアイツらが仲良くなる事はないだろう。それならアイツらの接触を減らすためには此処に居させるも一つの考えか。

そうなると毎晩こいつを俺の隣で寝かさないとダメなのか……早いうちの慣れておこう今の俺はこの状況に気が気でない。

 

一日の事を振り返っていているこの間にも微かに聞こえる静かな寝息と寝言が精神を不安定にさせる。

こいつの所為で俺の毎日が変わってしまった、これはあの二人との出会い以来の転機か。

これからの生活が良いようになるかそれともそうならないか分からないが、アイツとなら一緒に地獄に堕ちてやっても良いと思ってしまう。

何故ならこいつと居ると全ての事が面白くなりそうだと、そう俺が自然と感じたからだ。

 

 

 

 

 

 

……今思えばこうなる事が分かっていたのだろう、知っていたのだろう。だからこんな選択をしてしまったんだ。

 

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